【査読論文】
仕事や余暇の観点からみるプロボノの個人的意義
─曖昧化するワークとライフの境界線─
Significance of Pro Bono Activities from a Personal Perspective:
The Ambiguity between Work and Life
高瀬 桃子
TAKASE Momoko
[要旨]
社会的課題の解決に対する市民参加のひとつとして「プロボノ」がある。
社会的課題に取り組む団体の人材不足や、副業解禁など社会全体の働き方の 変化を背景として、急速に広まっている。筆者は、プロボノにはボランティ ア活動としての社会的意義とは別に個人にとっての意義があると考え、プロ ボノ経験者を対象に半構造化インタビューを行い、個人的意義を検証した。
プロボノはワークとライフ双方の境界を曖昧にする行為だと考え、仕事と余 暇の観点からそれを明らかにすることを試みた。その結果、プロボノとは、3 つの関係「フラットな関係」、「小規模な関係」、「多様性のある関係」が土台 となり、それに加えて
2
つの要素「トライアル」、「クリエイティビティ」が 作用する場であることが明らかになった。また、プロボノの個人的意義は、他者や未知とのつながりや関わりを得て越境的学習をすることにあることが 分かった。さらに、プロボノ経験者が余暇の時間を用いて本業における課題 意識を解消する傾向が見られたことから、個人がワークとライフの境界線を 曖昧にするようになっていて、その一端がプロボノへの参加という事象に表 れていることが示された。
キーワード:プロボノ、ソーシャル、市民参加、働き方、越境的学習
1.はじめに
社会的課題の解決は、従来のように
NPO
法人などのボランタリーな活動によるもの だけでなく、現在では担い手も社会起業家やソーシャルビジネスなど多岐に渡る。そ の多くにおいて人材不足が課題である。一方、社会全体の流れとして副業が解禁され つつあり、個人が勤務時間外で副業等の活動をすることも珍しくない。これらの状況 が合致したことがプロボノ普及の背景にあると考えられる。*立教大学大学院
21
世紀社会デザイン研究科博士課程前期課程修了生本稿では、個人にとってのプロボノの意義を明らかにするとともに、その背景にあ る個人の仕事や余暇に関する状況や価値観を探る。嵯峨(2011)は、プロボノ実践者 の参加動機として、自身の成長よりも自身のスキルを有効活用したい、社会に生かし たいという声が最上位に上がっていることに、プロボノ実践者のモラルの高さを感じ るとする一方、「余暇利用」、「将来的に起業をしたい」、「仕事への不満」といった参加 動機は少数派としている。しかし実際の活動において、プロボノを行う動機や意義は 単に社会貢献に留まらない。また近年ワーク・ライフ・バランスが重視されるが、プ ロボノは線引きされたワークとライフのバランスを取るものではなく、むしろ双方の 境界を曖昧にしてこそ行えるものと考え、プロボノ実践者のワークとライフに対する 認識についても検討する。
2.用語の定義と先行研究の検討
(1)用語の定義
プロボノは、ラテン語で「公共善のために」を意味する「pro bono publico」の略で、
「社会的・公共的な目的のために、自らの職業を通じて培ったスキルや知識を提供する ボランティア活動」とされる。その端緒は、1983年に米国法曹会が職務規範として全 米の弁護士にプロボノ活動を行うことを奨励したことによる。その後、2001年に米国 で創設された「Taproot Foundation」が対象を幅広くビジネスパーソンに拡張し、効果 的で確実にビジネスパーソンをマッチングして、成果を生み出す可能性の高い仕組み として「システム化されたプロボノ」が生まれた。これによってプロボノの概念は再 定義された。
プロボノと一般的なボランティア活動との違いは、「提供される支援の内容が、その 人がもし企業等を対象に役務を提供すれば当然にプロフェッショナルとしての対価や 報酬が得られる仕事かどうか」とされるが、現場では必ずしもそうとは限らない。支 援内容や範囲を確定した上で必要な役割やポジションを明確化し、それぞれに適した プロフェッショナルスキルを提供できる人を配置するためには、人材が多様かつ潤沢 である必要がある。しかしそれは容易でなく偏りも生じうるし、そもそも契約や金銭 を介在しないプロボノにおいて、個人が関心の薄い団体への関与や希望しない役割を 担うメリットはほとんどなく、他者がそれを担わせる強制力もない。支援に重きをお けばスキルの有無以上に、個人の団体への関心や役割への希望を重視してチーム編成 を行う方が現実的である。また個人にとっても、純粋に自らの関心や希望を優先でき るからこそ、ボランティア活動として取り組む意義がある。以上を踏まえ、本稿では
「プロボノとは、個人が培ったスキルや知識を活かして、団体運営に大きく関わる業務 を担うボランティア活動」と定義する(図 1)。
プロボノ支援対象は、主に
NPO
法人や一般社団法人、町内会・自治会、任意団体 などの非営利活動団体や、ソーシャルビジネスを行う株式会社である。また日本では 中間支援組織が、支援を受けようとする団体とプロボノを行いたいと考える個人との つなぎ役を担い、「システム化されたプロボノ」を運営するケースが多い。プロボノを 行う個人は、本業として一般企業や自治体などに勤務、もしくは経営者やフリーランスである。業務時間外や休日を利用してプロボノを一定期間行う場合が主であり、原 則として無報酬で活動する。「システム化されたプロボノ」の特徴として、期間限定も しくはプロジェクト形式で行われることが挙げられる。期間限定では完了時期が優先 され、プロジェクト形式では達成すべき範囲が明確化され、完了するまでが活動期間 となる。一般的にボランティア活動は終了の見極めを外的要因に求めることができず、
活動自体が自己目的化、自己暴走するという状況に陥りやすいが、期間限定やプロジェ クト形式であればこの問題点を解消できる。また、ボランティア活動継続おいてモチ ベーションの維持は容易でないという点においても有効である。ドラッカー(2007)
は、「人は、自らの仕事ぶりは自ら評価できなければならない。このことは特にボラン ティアについていえる。給料がないのであれば、仕事の成果だけが報酬である。目標 と基準さえ明らかならば評価は可能である。」と述べていて、「システム化されたプロ ボノ」はこの点においても明確な目標と基準として機能しうる。
(2)先行研究の検討
嵯峨(2011)は、ソーシャルや社会貢献としてのプロボノを重視する。プロボノへ の関心や参加は、本業である会社を辞めないという現実的な判断に社会貢献意識が結 びついているとする。石山(2015)は、パラレルキャリア関係の受け皿となるコミュ ニティの一つとしてプロボノを挙げる。プロボノが社会貢献活動であるかどうかを問 わず、本業のシングルキャリアのリスクを回避する手段としてパラレルキャリアを有 効としている。藤澤・香川(2015)は、プロボノを越境的学習のひとつと捉え、所属 組織における組織そのものや自己の当たり前となっている振る舞いを相対的にとらえ、
新しいものの見方をもたらすものとしている。石山同様、プロボノが社会貢献活動で あるかどうかは問わず、本業を軸としてプロボノでの学びを本業に還元するという考 え方である。
以上のように、プロボノを個人から捉えた先行研究は、個人が組織に属することを 前提としている。また、所属組織が営利企業か地方自治体かによって業務の目的や内 容が異なるがその点は区別されていない。そのため、本業における報酬形態、働き方 やワーク・ライフ・バランスの観点から、会社員、公務員、自営業に分類して、個人 の特性や価値観などにも踏み込んでプロボノの個人的意義を明らかにする必要がある。
また個人的関心で始めるプロボノが、社会貢献活動やパラレルキャリア、越境的学習 図1 プロボノの位置づけおよび定義
出所:筆者作成
に結びつく理由は解明されていない。本稿ではその点を明らかにし、実態に合わせた プロボノの個人的意義を示す。
3.個人における仕事、金銭的報酬、余暇とプロボノとの関係
プロボノは、本業の勤務時間外に行うボランティア活動でありながら、本業の知識 や経験を用いて働くことでもある。働くことは一般的に金銭的報酬と関連付けられる が、時に金銭を介することでむしろやる気が失われてしまうこともある。私たちの日々 の労働は、金銭的報酬を得られるものとそれ以外のもので構成されているといえる。
また、プロボノは余暇の時間を用いて行われる活動だが、余暇そのものの捉え方も時 代の変化とともに変わってきた。バブル崩壊以降、社会性を帯びた余暇への関心が現 れ始めたが、その流れが現在のプロボノの普及につながっていると考えられる。もっ ともプロボノは労働と余暇それぞれの要素を多分に持つため、双方の境界線上にある グレーゾーンの概念であるといえるだろう。
また、「ワーク・ライフ・バランス」とプロボノの関係についても示したい。厚生 労働省によれば、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が実現した社会と は、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすと ともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階 に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義される。一方、鷲田(1996)
は、ワークとライフが対置され、ワークがライフの一部とならずにライフと切り離さ れて成立していることに疑問を呈し、ワークもライフも私的な性格しか持ちえなく なっていることが問題であると指摘する。さらに、昨今「ワーク・アズ・ライフ」と いった考えもあるように、ワークとライフは明確に線引きできるものではなくなりつ つある(1)。今後社会全体が新たなワークとライフの関係性に転換すると考えられるが、
ワークとライフの境界が曖昧化する過渡期にプロボノは相性がいいといえる。このよ うに金銭的報酬を得るだけではない労働のあり方、単に自身の娯楽のためだけではな い余暇のあり方、労働と余暇の境界が変化していることが分かる。
4.プロボノ経験者を対象とする調査および分析
(1)プロボノ経験者へのインタビュー調査の方法
プロボノ経験者に対して半構造化インタビューを行った。対象は、中間支援組織や プロボノプロジェクトに自ら応募してプロボノを経験したことがある
9
名で、内訳は、会社員
5
名、公務員2
名、自営業2
名である。なお、企業におけるCSR
の一環として プロボノを経験した人は対象から除く。インタビュー項目は以下の通りである。(1)対象者自身について(仕事状況・プライベート状況・経歴・性格・価値観)
(2)ボランティア経験の有無(有の場合はその活動内容)
(3)プロボノへの参加動機やきっかけ
(4)プロボノでの気づきや学び
(5)プロボノに対する考えや思い(意義)
分析にあたり、表 1のとおりプロボノの動機づけと意味づけを分類した。
「Ⅰ型.他人志向」とは、プロボノを他者の利得ために行う活動と捉える傾向を指す。
役立てる、貢献、支援という表現で示されるように、支援する相手の存在を前提とし、
原則プロボノに対して、自分に関する利得を求めない傾向を指す。
「Ⅱ型.自分志向」とは、プロボノを自分の利得のために行う活動と捉える傾向を指 す。プロボノがボランティア活動であるという本来の意味を理解した上で、プロボノ に対して、自分に対して何かしらの作用を期待する傾向を指す。
「Ⅲ型.ネットワーク・関与」とは、プロボノを誰かとつながったり、関わったりす るための活動と捉える傾向を指す。プロボノに対して、支援先団体やともにプロボノ を行う仲間など、本業で関わることのない対象と接点を持つことを期待する傾向を指 す。
「Ⅳ型.越境的学習」とは、プロボノを自らの学びのために行う活動と捉える傾向を 指す。活動を通して、自己の内面を掘り下げる場合と外部から刺激を受ける場合に分 けられる。どちらにおいても本業とは異なる学びが得られることを期待する傾向を指 す。
これら
4
型13
要素の相互関係について、横軸を「自分─他人」、縦軸を「external─
internal」として、図 2
に示す。「Ⅰ型.他人志向」は「他人×external」傾向、「Ⅱ
型.自分志向」は「自分×internal」傾向、「Ⅲ型.ネットワーク・関与」は「自分×
external」傾向、「Ⅳ型.越境型学習」はどれに偏ることもない neutral
である。なお、プロボノにおいて、「他人×
internal
傾向」は見出されなかった。表1 プロボノの動機づけと意味づけの分類
Ⅰ型
.
他人志向1
–1 自分のスキルや経験を役立てる
1
–2 社会貢献・地域貢献 1
–3 他者を支援
Ⅱ型
.
自分志向2
–1 自分のスキルや経験を活用する
2
–2 自分のスキルや経験を試す 2
–3 能力開発
2
–4 本業に対する不満解消
2
–5 余暇利用・趣味・プライベートの充実
Ⅲ型
.
ネットワーク・関与3
–1 会社以外・異業種の人とのつながり
3
–2 社会起業家・ソーシャルビジネスへの関わり
3
–3 直接他者に関わる
Ⅳ型
.
越境的学習4
–1 自己について知る
4
–2 他者から学ぶ・未知を知る・気づきを得る
出所:筆者作成
(2)インタビュー調査の結果およびプロボノ経験者の動機づけと意味づけに関する 分析
9
名の回答をプロボノの動機づけとプロボノの意味づけそれぞれに関して、表 2お よび表 3に分類した。要素が当てはまるものを+で表記する。まず、動機づけに関しては、「1–
1 自分のスキルや経験を役立てる」および「2
–1
自分のスキルや経験を活用する」の要素に注目する。嵯峨(2011)が参加動機の最上 位として挙げている「自身のスキルを有効活用したい、社会に生かしたい」の意は、本稿における他人志向型「1–
1 自分のスキルや経験を役立てる」と自分志向型「2
–1
自分のスキルや経験を活用する」の双方を含むものと推測される。しかし、今回のイ ンタビュー結果では、「1–1 自分のスキルや経験を役立てる」は抽出されず、「2
–1
自 分のスキルや経験を活用する」も1
つしか抽出されなかった。この点において嵯峨と 異なる結果となった。なお、同じく「2–5 余暇利用・趣味・プライベートの充実」、
「4–
1 自己について知る」も抽出されなかった。また、嵯峨(2011)は、「仕事への不
満」という参加動機は少数派としているが、今回の調査では「2–
4 本業に対する不満
解消」の回答が得られた。これを回答した2
名とも「3–3 直接他者に関わる」も回答
している。このことから、本業においてサービスを提供する相手と直接的に関わるこ とができないことに不満を抱いていて、それをプロボノで解消しようとしていると考 えられる。以上のように、プロボノ参加の動機として、スキルや経験を役立てる、活 用することは最上位とは限らなかった。一方、本業への不満という動機があり得るこ 図2 プロボノに関する動機づけ・意味づけ要素の関係分布出所:筆者作成
表2 プロボノの動機づけの要素
①S.O ②N.J ③H.I ④K.M ⑤D.A ⑥R.I ⑦Y.I ⑧S.H⑨M.H 職種 会社員 公務員 アーティスト 会社員 会社員 弁護士 公務員 会社員 会社員
ボランティア経験の有無 有 有 有 無 無 有 有 無 有
要 素
Ⅰ型. 他人志向
1–1 自分のスキルや経 験 を役立てる
1–2 社会貢献・地域貢献 + 1–3 他者を支援 + +
Ⅱ型. 自分志向
2–1 自分のスキルや経 験
を活用する +
2–2 自分のスキルや経 験
を試す +
2–3 能力開発 + +
2–4 本業に対する不満解
消 + +
2–5 余暇利用・趣味・プラ イベートの充実
Ⅲ型. ワーク・ネット
関与
3–1 会社以外・異分野の
人とのつながり + +
3–2 社会起業家・ソーシャ
ルビジネスへの関わり +
3–3 直接他者に関わる + +
Ⅳ型. 越境的学習
4–1 自己について知る 4–2 他 者から学ぶ・未 知
を知る・気づきを得る + 出所:筆者作成
表3 プロボノの意味づけの要素
①S.O ②N.J ③H.I ④K.M ⑤D.A ⑥R.I ⑦Y.I ⑧S.H⑨M.H 職種 会社員 公務員 アーティスト 会社員 会社員 弁護士 公務員 会社員 会社員
ボランティア経験の有無 有 有 有 無 無 有 有 無 有
要 素
Ⅰ型. 他人志向
1–1 自分のスキルや経 験 を役立てる 1–2 社会貢献・地域貢献
1–3 他者を支援 +
Ⅱ型. 自分志向
2–1 自分のスキルや経 験 を活用する 2–2 自分のスキルや経 験
を試す + +
2–3 能力開発 + +
2–4 本業に対する不満解 消
2–5 余暇利用・趣味・プラ
イベートの充実 + + +
Ⅲ型. ワーク・ネット
関与
3–1 会社以外・異分野の
人とのつながり + + + + +
3–2 社会起業家・ソーシャ ルビジネスへの関わり 3–3 直接他者に関わる
Ⅳ型. 越境的学習
4–1 自己について知る + + +
4–2 他 者から学ぶ・未 知
を知る・気づきを得る + + + + + +
出所:筆者作成
とが分かった。
次に、意味づけに関しては、動機づけと同様、「1–
1 自分のスキルや経験を役立て
る」および「2–1 自分のスキルや経験を活用する」の要素が抽出されなかった。また、
動機づけに比べて、「Ⅰ型.他人志向」のポイントは減少した。プロボノでは本業があ ることが前提のため、個人に対して多大な負荷を掛けることは少なく、業務量が過多 になりづらい。一方で、プロジェクトを通して新たなネットワークができたり、想定 外の学びを得られたりするので、自ずと役立てたか否かの意識は低下すると考えられ る。これとは反対に、動機づけで抽出されなかった「2–
5 余暇利用・趣味・プライ
ベートの充実」、「4–1 自己について知る」が、意味づけにおいては抽出された。また、
突出してポイントが高かったものとして、「3–
1 会社以外・異分野の人とのつながり」、
「4–
2 他者から学ぶ・未知を知る・気づきを得る」の 2
つが挙げられる。双方ともに、多くの人が参加した後にプロボノで得られたものの一つとして挙げている。特に、「普 段出会うことのない人に出会えた」という表現が
2
名から挙がっており、プロボノの 仕組みによって個人が想定していなかった異分野や異業種の人との出会いが生まれ、そこから学びを得ているといえる。「Ⅲ型.ネットワーク・関与」の要素が「Ⅳ型.越 境的学習」を促しているものと考えられる。また、嵯峨(2011)は、「余暇利用」と いう参加動機は少数派としているが、意味づけとしては「2–
5 余暇利用・趣味・プラ
イベートの充実」の回答が得られている。この回答をした2
名はともに公務員である ことから、本業においても社会的課題の解決に関わる立場にいることが、プロボノの 捉え方に影響を与えていると考えられる。以上のように、プロボノ参加の意義として、スキルや経験を役立てる、活用することは支持されなかった一方、会社外や異分野の ネットワーク、他者から学ぶという意義が支持された。
(3)プロボノ経験者の意味づけに作用する「関係」に関する分析
プロボノの動機づけおよび意味づけに関する分析を示したが、特に双方の観点にお いて差分が大きい「3–
1 会社以外・異分野の人とのつながり」、「4
–2 他者から学ぶ・
未知を知る・気づきを得る」の
2
要素についてさらに検討する。プロボノへの参加に よって、結果的に「会社以外・異分野の人とのつながり」および「他者から学ぶ・未 知を知る・気づきを得ること」が個人にもたらされているが、これは「他者」、「異質」、「つながり」というキーワードから、「関係」が作用しているものと考えられる。ここ での「関係」とは、会社や組織などにおける、非バーチャルな個人を結節点としてつ ながり合う関係のことを指す。プロボノでは本業とは異なる関係が生じるため、別の 新たな気づきや学びがもたらされるのではないかと考える。その異なる関係として、
「フラットな関係」、「小規模な関係」、「多様性のある関係」の
3
つを挙げる。一つ目の「フラットな関係」とは、プロボノが無報酬の活動ゆえに、メンバー間に 上下関係を生まず、指示系統もない関係を指す。これは支援先団体との関係において も同様である。この関係は、年齢や性別、国籍、学歴、社会人経験年数などを超え、
互いに平等な関係を作り出す。またプロボノは多分にサードプレイスの機能を備える が、オルデンバーグ(2013)はサードプレイスの特徴の一つに「社会的平等な状態」
を挙げていて、社会的に平等でいるためには本業における地位をひけらかすことはよ
くないとしている。たしかに互いのスキルさえ把握できればプロジェクトは進行でき るし、社名や肩書きを知ることで余計な配慮や期待が生じることもある。プロボノは 無報酬であるだけでなく、本業における地位を取り除くことで、さらなるフラットか つ平等な関係が生み出されるといえる。
平等な関係は、結果として個々の意見が尊重されることを意味する。同時に、個人 それぞれが意見を持たねばならず、場合によっては事柄を決定し、それに関して責任 を持つことでもある。この責任とは契約や報酬に基づくものではない。当事者ではな いゆえ明確な責任はないが、無責任であることとは異なり、成果に対する責任は持つ という意である。プロジェクトにおいて役割を与えることは、まさしく責任を付与す ることともいえる。ちなみに、「フラットな関係」は一般的なボランティア活動にも該 当するが、プロボノでは、異なる社会人経験を積んだ者同士が一緒にプロジェクトに 取り組むため、より互いの経験やスキル、そこから導かれる意見を尊重し合うと考え られる。
二つ目の「小規模な関係」と同様のことを、内山(2015)は「スケールの小さい世 界」と表し、自分の労働に充足感を感じられるのは、労働を成立させている関係がつ かみとれる、小さなスケールであると述べている。また、スケールの小さい世界にお いて主役は人、規模の大きな企業や組織において主役は組織やシステムであるとして いる。インタビューで、本業では「歯車感がある」、「閉塞感」、「やりがいや手応えを ダイレクトに感じにくい」、「市民の役に立っていないと感じる」という発言があった が、これらは本業で個人がシステムに組み込まれているからこそ抱く思いだろう。翻っ て「システム化されたプロボノ」は本業と比較して「小規模な関係」の中で行われ、
主体的にもなれることから、結果的に個人に充足感をもたらすと考えられる。インタ ビューでも、プロボノに期待したこととして「少人数の場に関わる」、「直接貢献」と いう発言があり、「小規模な関係」の中では、やりがいや手応え、充足感が得やすいと いうことを示している。
三つ目の「多様性のある関係」とは、メンバー同士の職種、業界や分野が異なり、
年代も幅広い関係を指す。異質性が複数化、複雑化することで、多様性が生まれる。
本業における組織では円滑な経営のために同質性が保たれるものだが、同質性の中に いることに対して危機感を抱くという声もあった。だからこそ異質性や多様性が、本 業との比較で浮き彫りになると考えられる。ただし、一般的に異質な者同士による摩 擦は免れないもので、実際のビジネスの現場では、多様性を受け入れるほどに効率性 は下がるものである。インタビューでも、多様なメンバーの行動力、強み、生き方か らインパクトを受けたというポジティブな声があった一方で、学びを得たものの多様 なメンバーと関わる大変さを感じたという声もあった。支援先団体のスタッフも含め 多様なメンバーは、それぞれに優先すべき事柄も様々であり、その中で時に企業にお いて当たり前とされる合理的な判断さえも覆されることがある。多様なメンバーと関 わることは、普段疑うこともなく、すっかり身に付けてしまった極端な合理性から逸 脱するきっかけにもなっているかもしれない。
ちなみに、「多様性のある関係」も一般的なボランティア活動に該当するが、プロボ ノは自分とは価値観の異なる相手と深く関わる必要があるため、より多様性を感じら
れると考えられる。特に「システム化されたプロボノ」では、プロジェクトの進行お よび完了のために互いの異質性や多様性に向き合わなくてはならず、結果的に一般的 なボランティア活動に比べ、より一層多様性を感じるといえるだろう。支援先の非営 利団体そのものが多様性を持つのだから、その中に入り込むプロボノも自ずと多様性 を帯びる。さらには、プロボノとして集った仲間も多様性に富むので、参加者はプロ ボノを通して何重もの多様性に触れることになる。そして、これらが個人の越境的学 習を促進するものと考えられる。
以上のように、プロボノでは「フラットな関係」、「小規模な関係」、「多様性のある 関係」が生まれ、それが土台となって、結果的にプロボノを行う個人に「会社以外・
異分野の人とのつながり」や「他者から学ぶ・未知を知る・気づきを得ること」をも たらすことが分かった。なお、この
3
つの関係のすべて重なりあった部分において実 際のプロボノは行われているものと考えられる(図 3)。この
3
つの「関係」に加えて、「トライアル」、「クリエイティビティ」も重要な要素 として挙げたい。これらの要素は、「関係」の中から生まれることもあれば、活動自体 の性質から生まれることもある。まず「トライアル」とは、インタビュー中の「失敗できる」、「他人事だったから楽 しかった」といった言葉が示すように、「責任を取らないからこそできる思い切った取 り組み」という意である。もしこれが本業ならば、失敗を恐れたり、様々な考えや思 いが交錯したりして、最終的に行動や決断に制限がかけられる可能性がある。責任を 問われなければ取り組みたいが、実行は難しいという局面に出会うことも珍しくない。
しかし、プロボノにおいては、実行における責任は支援先団体にあり、プロボノ参加 者自身に責任は生じないため、そのような状況には陥りにくい。留意すべきは、責任 がないから好き放題に振る舞うわけではないという点である。支援先団体やその活動 への共感があるからこそ、取り組む範囲やその加減は自ずと調整される。共感の度合 いに個人差はあるものの、支援先団体を尊重する姿勢は参加者の誰もが持っていると
図3 プロボノが生み出す3つの「関係」
出所:筆者作成
いえる。また、普段からボランティア活動を行っている人が「ボランティア活動は気 負いなく取り組めるが、プロボノは役に立たねばならないというプレッシャーがあっ た」と発言していることからも、むしろ強い責任を感じていることが分かる。支援先 への共感ゆえに生じる責任感と、金銭を介さないからこその責任の無さがうまくバラ ンスする点が、プロボノが単なる副業と大きく異なる点といえる。昨今の失敗が許容 されにくくなっている社会において、プロボノの「トライアル」の機会は個人にとっ て貴重であるとともに、活動への満足度にもつながっていると考えられる。
次に「クリエイティビティ」は、越境的学習の観点で非常に重要な要素だと考えら れる。「正解がないことが楽しかった、クリエイティブだった」という発言とともに、
「本業には正解がある」という発言があった。その発言の裏には、一般的にビジネスで は利益の最大化という正解がある一方、プロボノで関わるソーシャル分野では、何を 追い求めるかによっていくつもの正解が存在し、どの正解を選ぶのかという試行錯誤 がクリエイティブであることを表していると考えられる。また「トライアル」と関連 して、責任を負わずに思い切った取り組みができることとは、決まりきった方法や正 解に囚われずに独自の方法で取り組めることであり、そのことがクリエイティブだと もいえる。「会社は理路整然と
PDCA
を回していく」との発言があったが、これも「本 業には正解がある」の一端を示していると考えられる。「異質な人との協働もクリエイ ティブ」という発言からも、多様なものの考え方ややり方に出会い、そこから試行錯 誤して方向性を決めるプロセスをクリエイティブだと感じるのだろう。畑村(2000)は、失敗こそが創造を生む、その際に論理的思考は不向きであると述べ、創造行為を するプロセスは決して論理的な道筋を辿らないとする。これは、PDCAという正解を こなしている限り「クリエイティビティ」は生まれないことを指しているといえる。
また、創造を行う中で何度も失敗を繰り返すのは当たり前だとも述べていて、「トライ アル」と「クリエイティビティ」が不可分な関係にあることも分かる。なお、思い切っ た取り組みや正解のない中での試行錯誤は、必ずしもプロボノを経験した人すべてに 認識されているものではないが、プロボノに対して越境的学習の意義をより感じる人 ほど、この
2
つの要素が作用していると考えられる。最後に、プロボノの個人的意義の背景に、個人の仕事や余暇の状況、価値観が影響 しているのではないかと仮説を立てたが、明確に支持されなかった。「仕事とプライ ベートの境目がない」、「あらゆることをやりたい。ボランティアもアルバイトもする」
というように境界はないという回答もあった一方で、「会社イコール仕事であるから、
プロボノはプライベート」という回答もあり、関係は明示されなかった。しかし、実 際プロボノを行うにあたっては、自ずと本業との比較がなされ、本業における課題意 識を余暇の時間を用いて解消する傾向が見られた。総じて意志の有無は不明確でも、
プロボノを行う個人は仕事と余暇の線引きを曖昧にし始めていて、その上で本業では 実現しにくい
3
つの関係と、2つの要素「トライアル」、「クリエイティビティ」のあ る場に参画していると考えられる。5.まとめと今後の課題
以上プロボノの個人的意義を示したが、これらを束ねるキーワードは「自律性」で あり、プロボノの価値は「自ら選び、決める」ことだと考える。デシ(1999)が「人 は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選んだと感じる 必要があるし、行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思う必 要がある」と述べるように、人は自ら選び、そして自ら選んだと思えることが重要で ある。また、内山(2015)は「フェアトレードなどにたずさわっている人たちにとっ ては、この活動は途上国の人々を支援することではない。途上国の人たちとの関係を 築き直すことによって、自分たちの生きる世界を再創造しようとしている」と述べて いるが、これをプロボノに準えると、プロボノを行う人は、非営利団体や活動、分野 との関係を築くことによって、自らの生きる世界を再創造しているといえる。本人の 意図に関わらず、個人が本業では得られない関係の中で、試行錯誤や創造性を発揮し、
結果的に自律性のある世界の再創造を行っていると考えられる。
さらに、プロボノの個人的意義の背景として、仕事や余暇の状況や価値観の影響は 明示されなかったが、本業における課題意識を余暇の時間を用いて解消する傾向が見 られたことから、仕事と余暇を切り離して、仕事で得た金銭を余暇で消費するという 既存図式からの変化が分かった。また、「副業」というキーワードからも、副業解禁の 流れの影響や仕事のパラレル化の兆しをみることができる。このように、社会全体と して、徐々にワークとライフの境界線を自ずと曖昧にしながら、個人がよりよい生き 方を模索するようになってきているのではないかと考える。それはまさに自律性に基 づくものである。
プロボノは、必ずしも活動する個人の社会貢献意識に起因しないことが明らかになっ たが、結果的に社会参加が広まれば社会全体としては望ましい。また、仕事と余暇、
営利と非営利の境界の曖昧化によって、今後一人一人の働き方や生き方が多様になる ことも期待したい。一方プロボノはソーシャルビジネスの人手不足解消手段として普 及した面があるが、今後は単なる人材としてではないあり方や役割が求められる。そ のためにも、支援を受ける団体にとってのプロボノの意義や価値を明らかにすること が今後の課題である。
■註
(1)
「ワーク」と「ライフ」の境界線についてはまだ検討が十分ではない。ハンディ(1995)が
示した
4
つのワーク(有給ワーク、家庭ワーク、ギフトワーク、学習ワーク)の枠組みを 用い、今後さらなる分析を行いたい。プロボノは「ギフトワーク(社会貢献活動等)」に該 当するが、有給ではないものの副業・複業の意味合いを持ち、学習としての側面もある。プロボノ実践者にとってのプロボノの位置付けおよび他のワークとの関連を分析すること で、ワークとライフの境界の曖昧化についてより検討をすすめたい。
■参考文献
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