早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学)概要書
着地動作における足部・足関節運動解析 Foot and Ankle Kinematics During Landing .
2010年1月
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科
深野 真子 Fukano, Mako
研究指導教員: 福林 徹 教授
【緒言】
足部は多くの骨・靭帯・筋組織により優れた生体力学的構造をなしており,スポーツ動 作遂行時にはその変形により衝撃吸収の役割を担う.足部障害は運動実践者の増加に伴っ て増加する傾向にあり,また若年アスリートが運動を中止する理由の上位に位置する.そ のため足部の構造や機能に関する運動学的観点からの評価は,外傷・障害発生とその予防 に重要だと考えられるが,生体を対象とした動的状態での足部骨の変位挙動に関する研究 は少ない.本研究は着地動作時における足部・足関節の運動について,運動学的視点から の基礎的なデータを示すことを目的として行った.
【研究1: 足部内外側縦アーチの変形様式】
Fuluoroscopy を用いて足部の骨の動きを可視化して詳細に解析し,片脚着地時における
内側・外側縦アーチそれぞれの変形様式を明らかにした.
<方法>
若年健常者男子10名を対象とした.試技は高さ10 cmからの片脚着地とし,膝関節伸展 位を保持した状態で着地動作を行わせた.その際の足部の骨の変位挙動を,fluoroscopyを
用いて60Hz,シャッタースピード2/1000secで矢状面からX線透視連続撮影した.同時に
着地時の床反力をフォースプレートを用いて1000Hzで記録した.得られたX線画像から,
内側アーチと外側アーチの変形様式の違いを明らかにするため,内側・外側アーチの角度 変化および踵骨に対する第一中足骨及び第五中足骨の並進運動を求めた.
<結果>
片脚着地時のアーチの角度変位は,内側アーチ(3.5±3.3°)よりも外側アーチ(7.9±3.2°) が有意に大きく,並進運動は,内側アーチ(前方7.2±2.3, 下方6.2±2.8 cm)が外側アーチ(前 方−0.4±0.9, 下方−1.2±1.3 cm)よりも有意に大きい値を示した.
<考察>
着地時の内外側アーチの運動様式の相違は解剖学的特長に起因し,特に内側アーチの並 進運動に関しては,内側アーチが距骨下関節を介する構造であることに関連すると推察し た.
【研究2: アーチ変形の性差に関する検討】
片脚着地時における足部縦アーチの変位挙動についての性差を明らかにした.
<方法>
若年健常者 19 名(男性 11 名,女性8 名)を対象とした.実験・解析プロトコルは研究 1 に準じる.内外側アーチそれぞれの角度変位および並進運動を算出し,男女の値を比較し た.
<結果>
片脚着地時アーチの角度変位は,男性(内側3.17 ± 3.3°; 外側7.78 ± 2.7°)よりも女性(内
側7.12 ± 2.1°; 外側10.1 ± 2.4°)の方が有意に大きい値を示した.並進運動は男女で同等
であった.
<考察>
着地動作中,女性の足は男性よりも大きく変形することが明らかとなった.これは女性 特有の高いligamentous laxityによるものと考えられた.アーチの可動性の大きい足は軟 部組織障害を起こしやすい傾向にある(Franco et al. 1987)と指摘されていることより,女性 の足は男性に比べて軟部組織障害リスクが高いことが推察された.
【研究3: 2D-3D Registration Methodを用いた足関節の三次元解析】
片脚着地時における足関節の運動動態を明らかにした.
<方法>
研究1および2に参加した被験者の中から同意の得られた男性3名,女性3名を対象と して足部のCT撮影を行った.得られたCTデータより脛骨・距骨および踵骨の三次元骨モ デルを構築し,座標軸を設定した.これらのモデルを研究1および2で得たfluoroscopy画
像上でshape matching (Banks et al. 2006)を行い,それぞれの骨の相対的位置関係を求め,
距腿関節および距骨下関節の三次元的な運動学的データを取得した.
<結果>
片脚着地時の距腿関節の主な動きは,脛骨に対する距骨の背屈であり,内・外返しおよ び内外旋の動きは極めて小さいものであった.一方,距骨下関節においては,距骨に対し て踵骨が背屈・外返しおよび外旋していた.
<考察>
着地時の足関節の動きは,距腿関節および距骨下関節の両関節で起こり,両関節がそれ ぞれの役割を担うことにより,共同して着地時の衝撃を緩衝しているものと予測された.
【総括】
本研究では片脚着地動作における足部骨の変位挙動について,運動学的視点からの基礎 的なデータを示した.本研究の結果より,内側縦アーチと外側縦アーチはそれぞれ異なる 変形様式を有すること,アーチ変形の程度は男性よりも女性の方が大きいことが明らかと なった.また足関節については,距腿関節で脛骨に対する踵骨の背屈が主に起こり,距骨 下関節において距骨に対する踵骨の三次元的な動きが起こることが確認された.