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ドイツ税効果会計の国際化 -商法、

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(1)

ドイツ税効果会計の国際化

‑商法、 I AS 、 DRS の比較を中心 として‑

真 鍋 明 裕

1 .

は じめに

EUは、2002年 、「IAS命 令」 (EU[2002])を公 表 し、2005年 よ り、域 内の上場企業 の連結決算 書 には 国際会 計 基 準 (InternationalAccounting Standards: IAS) お よ び 国 際 財 務 報 告 基 準 (IntemationalFinancialReportingStandards:IFRS) (以 下、 本稿 で は、便 宜 上IAS,IFRSの 両者 をま とめて 「IAS」と記 す ) を適 用す るこ とを義 務 づ けた。 かか る方針 を受 け、 ドイツでは、 2004 年 に 会 計 法 改 革 法 (Bilanzrechtsrefbrmgesetz:

BilReG)が施行 され 、 ドイ ツ国内の上場企業は、

連結 決算 書 を作成 す る際 にIASを適 用す る こ と が義務づ け られ た。

かか る ドイ ツ会 計の国際化 は、商法会計 と税 務会計 との関係 に大 きな影響 を及 ぼ してい る。

ドイ ツでは従来 、基準性 お よび逆基準性 の原則 が存在す るた め1、 商 法会計 上 の数値 と税 務 会 計上 の数値 とは大部分 で一致 してお り、両者 の 差異 は少 ない。 しか し、IASで は、税務 会計 とI AS準拠 の会計 では別個 の計算 がな され るた め、

税 務会 計 に よって計算 され る数値 と、IAS会計 に よって計算 され る数値 との間 に差異 が生ず る 程 度 は ドイ ツ にお け る よ りも大 きい と言 え る (KGting und Zwirner[2005]S.155311554)。 そ し て、 この よ うに両会計 間の差異 が大 きい場合 、 税 効果 会 計 (steuerabgrenzung)の もつ 意義 も 増す ことにな る。

ドイツでは、税 効果会計 について、個別決 算書 に関するもの、連結決算 書に関す るもの共に、商 法上の規 定は存在す る。しか し、2002年 に成 立 し た、 ドイツ会計基準 (DeutscheRechnungslegungs Standards、以下、DRSと記す) 第10号 (以 下、

DRSIOと記 す ) の規 定 はIASの計算 方式 に接 近 す る もので あ り、従来 の ドイ ツにお ける税 効果 会計 のあ り方 に変化 を もた らす もの となってい る。本稿 では、税効果会計 に関 して、 ドイ ツ商 法、 IASお よびDRSが それ ぞれ い か な る方式 を とってい るのか、 そ して、IASの導入 に伴 い 、 ドイ ツ会計 にいかな る変化 が生 じよ うとしてい るのかについて検討す る。

2.

税効果会計の概要

2‑

1.税効果会計 の 目的

税効果会計 の 目的 は、課税所得 か ら導 かれ る 当年度 の 「実際 の税費用」(tatsachlicherErtragsI steuerau丸and)と、 商法 上 の成 果 (Erfolg)に 対 して課 され る仮 想 的 な (nktiv)税 費用 とを 合 致 させ る とい うこ とに あ る (Ktiting und Zwimer[2003]S.30卜302)。 つ ま り、税 法 上 の課 税所得 か ら算 出 され る実際の税負担額 と、商法 上 の利 益計算 か ら導かれ る会計上 の税 費用 との 間には差異 が存在 し、その差異 を調整 す る こ と が税効果会計 の 目的 であ る とい える。

1商事貸借対照表 の認識 ・測定規則 は、所得税法 において も守 られ なけれ ばな らない と所得税法第5条第1項第1 号は定めてお り、 これが税法 に対す る商法の基準性 の規定である。他方、利益算出にお ける税法上の選択権 は、商事 貸借対照表 に合致 した形 でな されなければな らない と所得税法第5条第1項第2号は定めてお り、 これが逆基準性原 則 と呼ばれ るものである。

ドイツ税効果会計の国際化 45

(2)

かか る差異 は、商法会計2と税法会計 の 目的 の違 か ら生 じている。 た とえば、 ドイツの場 合、商法会計では、債権者保護 が重視 され る。

商人は、 自己の経済的状態 を批判的に とらえ、

どち らか といえば良い状態 よ りも悪い状態の方 で計算 しなければな らない とされてお り、保守 主義の原 (商法第252条第 1項第4号)が商法 会計の特徴 となっている。 これ に対 して、税法 の 目的は、課税の基礎 となるべ き企業の経済状 態を客観的に把握す ることに置かれているため、

とくに保守的な会計が行われ るとい うことはな い (Thieme[2004]S.19)。 この両者 の相違 か ら、

税法上の税負担額 と商法上の税費用 に差異が生 じるのである。

ここで、例 によって税効果会計の機能 をみ る ことに したい。た とえば、商法会計上は100ユー ロの減価償却 を行 ったが、税法上は60ユー ロし か減価償却が認 め られなかった とい う場合、そ の差額40ユー ロだけ商法上の税 引前利益 よ りも 税法上の課税所得 の金額が大 き くなる。税率 を 40%とす る と、 16ユー ロ (40×0.4)だけ商法会 計上の税費用があるべき値 よ りも大き く計上 さ れて しま うことになる。かかる差異 を調整す る ため、税効果会計 によ り次の よ うな調整がな さ れ る。

(借)繰延税金資産 (aktivelatente Steuem)16 (貸)税金収益 (Steuerertrag)16

税効果会計のかか る処理 によ り、会計上の税引 前利益 と税費用が合致す ることになる。3

反対に、税法上の課税所得が商法上の税 引前 利益を下回った場合は、以下のような処理によっ

て調整がな され る。 4

(借)税金費用 (Steueraufh'and)

(貸)繰延税金負債 (passive latente Steuern)

2‑ 2.

税効果会計の計算に影響する諸要素

2‑ 2‑ 1 .

差異の種類

税法会計 と商法会計 との間に生ず る差異 とし ては、一般 に次の3つの種類が区別 され る

(Kiitingund Zwirnerl2003]S.302).

・期間差異 (temporare Differenzen)

・半永久差異 (quasi‑permanente Differenzen)

・永久差異 (permanenteDifferenzen)

ここで、期間差異 とは、ある期において差異 として発生す るが、後の期 に解消 され る差異の ことである。 た とえば、貸倒 引当金の容認額の 相違は、その引当金の設定対象た る債権が消滅 した時点で解消 され ることになる。半永久差異 とは、資産の売却時または企業の解散時に相殺 され る差異 の こ とで あ る (KGting und Zwirner [2005]S.1554) た とえば、有価証券の評価益の 容認 、非容認 に起因す る差異は、当該有価証券 が売却 された時点で解消 され ることになる。永 久差異 とは、後の期において も解消 されない差 異の ことである5。

2‑ 2‑ 2.

成果作用的な差異と成果非作用的な差異 成果作用的 (erfblgswirksam)な差異 とは、商 法会計上の税 引前利益 と税務会計上の課税所得 に金額の違いを生 じさせ る差異である。多 くの 繰延税金 は、成果作用的に形成ない し解消 され

2 ここでは、 ドイ ツの会計規制に引き寄せ て述べているので商法会計 とい う呼称 を用いてい るが、IASについて考 え るときには、 この 「商法会計」 を 「IAS準拠の会計」 と読み替 えて も差 し支 えない。

:うaktivelatenteSteuernは、本来 「借方繰延税金」 と呼ぶべ き ところであるが、理解 の容易化のため 日本での呼称 に 合わせ た。 また、貸方の 「税金収益」 とい う呼称 はlAS12.77の規定に従 った ものである (Pellensetal.[2006]S.217) ドイ ツ商法では繰延税金資産の相手科 目の呼称 について規定はないが、税費用 を調整す る働 きを もつ項 目であること に変わ りはない。

4商法上の利益 と税法上の課税所得 の差異に よ り、繰延税金資産または繰延税金負債 が発生す るが、す でに述べた よ うに、 ドイツの商法会計では、保守主義 の原則 によって、商法上の利益 を税法上の課税所得が上回 ることが多いた め、繰延税金資産が発生す ることの方が多い よ うである (Thieme[2004]S.20)

5 したがって、一時的な ものか永久的な ものか とい う観 点でいえば、本稿 にい う期 間差異お よび半永久差異が一時 的な差異、永久差異が永久的な差異 とい うことになる。

46 国際経営論集 No.34 2007

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る もので あ る (Pellensetal.[2006]S.217)。 他 方 、成果 非作用 的 (erfblgsneutral)な差異6と は、繰延税金が、当期 または他 の期 に 自己資本 において直接 に把握 され るよ うな科 目ない し事 象 に関係 してい るよ うな差異で ある (Pellens etal.[2006]S.219)。例 としては、有価証券の評 価差額で、当該差額が 自己資本 に直接計上 され

るものがあげ られ よ う。

2‑ 2‑ 3.

タイ ミング概念 とテンポ ラ リー概念 繰 延税金の算 定に際 しては、 タイ ミング概念 (Timing‑Konzept)とテンポラリー概念(Temporary‑

Konzept)とい う2つの視点が存在する。

タイ ミング概念は、繰延税金の算定に際 して、

成果作用的に (erfolgswirksam)発生 し、また成果 作用的に解消される差異のみを調整する。 したがっ て、期 間差異 (temporaren Differenzen)が考慮 の対 象 となる。半 永 久 差 異 (quasi‑permanente Differenzen)は認められない (KtitingundZwirner [2003]S.302)。

他方、テ ンポラ リー概念では、商法 に従 って 作成 された貸借対照表 と、税務貸借対照表 との 比較が行 われ る。 ここでは、時間の経過 によっ て相殺 され る差異すべてが、繰延税金算定の基 礎 となる (KGtingund Zwirner[2003]S.302)

たがって、テ ンポラ リー概念の もとでは、期間 差異 も半永久差異 も繰延税金の考慮対象 に含 ま れ ることになる (Pellensetal.[2006]S.208)0

タイ ミング概念は、成果作用的な差異のみ を 対象 とす ることか ら、損益計算書指向の視点 と 言 え、収益状況の的確 な描写に重点が置かれ る。

他方のテンポラ リー概念 は、成果作用的か否か に関係 な く、貸借対照表上の数値の差異 に注 目 す る こ とか ら、 貸 借 対 照 表 指 向 の視 点 と言

え、財産状況 の的確 な描 写 に重点 が置 かれ る (Ktiting und Zwimer[2003]S.302,Rabeneck und

Reichert[2002a]S.1366)

2‑ 2‑ 4.

繰延法 と資産負債法

繰延法は、その期の税費用 を正 しく表示す る とい う目的を追求す るものであ り、そのため、

繰延税金の計算 には、当該計算 に含 め られ る認 識 ・測定上の差異が発生 した時点で通用 してい

る税率が用い られ る。

他方、資産負債法では、損益計算 における期 間的に正 しい税費用の計算 とい うよ りは、む し ろ資産の価値や負債 についての決算 日時点での 正 しい表示が指向 され、繰延税金 は、差異が解 消 され る時点で通用 してい ると予測 され る税率 を用いて評価 され る (KiitingundZwirner[2003] S.302)。 7

3.

ドイツ商法

、I AS

、 ドイツ会計基準に おける繰延税金の処理

3‑1. ドイツ商法 による繰延税金の処理

個別決算における繰延税金の処理については、

ドイツ商法第274条において規定 されている。

ドイツ商法第274条 第1項

税法上の規則 に基づいた課税所得が商法上の 利益 よ りも低いために、当年度お よび過年度 に 課せ られ る税支払額が過小になっている場合で、

その当年度お よび過年度の過小部分が将来期間 において決済 され ることが予測 され るとき、後 の年度に税支払の増加 となる金額だけの引当金 が商法第249条第 1項第 1文に基づ き形成 され、

貸借対照表 または附属説 明書において区別 して 表示 され なけれ ばな らない。 当該引当金は、税 負担増が実際に生 じるか、または税負担増が も

6 この用語 は、直訳すれ ば 「成果 中立的」であるが、利益数値 に影響 をもた らすか否かを明確 にす るため、 「成果非 作用的」 とした。

7繰延法では、借方税効果 は前払費用または前払金、貸方税効果は課税所得が会計上の利益 よ りも少 なかったため に税支払いが減少 した金額 を表す。資産負債法では、借方税効果は税支払額の将来の減額で、いわば未回収額 を表 し、

貸方税効果は、未払費用 または未払金 を表す (賓藤[2004]22123ペー ジ)0

ドイツ税 効果 会計 の国際化 47

(4)

はや 見込 めない こ とが予測 され た ときは、ただ ちに解 消 され な けれ ばな らない。

第2項

税法上 の規則 に基づ いた課税所得 が商法上 の 利 益 よ りも高いた めに、 当年度お よび過年度 に 課せ られ る税支払額が過大になっている場合で、

その 当年度お よび過年度 の過 大部分 が将来期 間 において決済 され るこ とが予測 され る とき、後 の年度 に税 支払 の減少 とな る金額 だ け、繰延擬 制 資 産 項 目 (Bilanzierungshilfe)と して の経 過 勘定 を貸借 対照表 の借方 に計上す るこ とが許 さ れ る。 当該勘定 はふ さわ しい名 称 で区別 して表 示 され 、また附属説 明書 において説 明 され なけ れ ばな らない。 かか る経過勘 定が表示 され た場 合 、利益 の配 当は、配 当後 に残 るいつで も解 消 可能 な利 益準備金 に繰越利 益 を加 え、繰越欠損 金 を差 し引いた ものが、その経過勘 定 と少 な く

とも同額 ある ときにのみ可能 であ る。 当該経過 勘 定は、税負担減 が実際 に生 じるか、 または税 負担減 が もはや 見込 めない こ とが予測 され た と きは、ただ ちに解 消 され なけれ ばな らない。

第1項は貸方繰延税金 (passivelatenteSteuern) につ いて規定 してい る。 ここでは、課税所得 が 会計上 の利益 を下回 った こ とに よ り、税支払額 が過小 であった場合 に、商法第249条 に基づ き、

将来の税負担増 とい う経 済的義務 のた めの手 当 て とい う形 で、引 当金 を計上す る ことが義務 づ け られ てい る。 したが って、 商法 第274条 に基 づ く貸方繰延税金 は、引 当金 とい うかた ちで現 れ ることにな る。

これ に対 し、第 2項 は借 方繰延税金 (aktive latente Steuern)につ いて の規 定 で あ る。 ここ では、課税所得 が会計上 の利益 を上 回 った こ と に よ り、税支払額 が過 大 であった場合 に、将来 の 税 負 担 減 とな る部 分 を繰 延 擬 制 資 産 項 目 (Bilanzierungshilfe)Bと して貸借 対 照表 の借 方 に 計 上す る 「選 択権」 (Kiiting und Zwirner[2003]

S.303)が あ る こ とが規 定 され てい る また 、 第3文 では、借 方繰延税金 が計上 され た場合、

それ と同額 の配 当制 限がな され るこ とが規 定 さ れ てい る。

上記 の事項 か らわか る こ とは、以 下の点であ る。 第 一 に、 商法第274条 は、 タイ ミング概 念 に基づ いてい る とい うこ とであ る。 これ は、第 274条 が発 生期 間 と解 消期 間 にお け る税 支払額 と会計 上 の利益 との差異 の調整 を規定 してい る こ とか らわか る (RabeneckundReichert[2002a] S.1368)。 そ の意 味 で 、 当該 条 項 は損 益 計算 書 指 向の考 え方 に従 って い る とい え る (Kiiting undZwirner[2003]S.303)。 当該概念 の もとでは、

既述 の よ うに、繰延税金 の計算 には期 間差異 の みが考慮 され る ことにな る。 なお 、繰延税金 の 測 定 を繰延 法 に よるか資産負債 法 に よるかは商 法上 に明示 され ていないた め、両方法 とも可能 である と考 え られ る (KGtingetal.[2003]S.446)0 第 二 に、第274条 の規 定 は 、保 守 主義 の思考 が 基礎 となってい る とい うこ とであ る。 この こと は、負債 であ る貸方繰延税金 の計上は義務 とし、

資産 で あ る借 方繰延税金 の計上 は選択権 として い るこ と、また、借 方繰延税金 の計上 にあた っ ては配 当制 限がな され る こ とか ら うかが える。

連結決算 にお ける繰延税金 の処理 については、

商法第306条 において規 定 され てい る。 第306条 は、借方 と貸 方 で条項 を分 けるこ とはせず 、課 税所得 が会計上 の利益 を上 回 ったな らば借方繰 延税金 を計上 し、下回 った な らば貸方繰延税金 を計上す る旨が規 定 され てい る。本条項 は、借 方繰延税金 の計上 が選択権 ではな く義務 である とい う点 で第274条 と異なってい る (Kiitingund Zwirner[2003]S.303)0

3‑2. JASによる繰延税金 の処理

前節 では、 ドイ ツ商法 にお ける繰延税金 の取 り扱 い につ いてみたが、本節 ではそれ との対比

8 当該項 目は、直訳すれ ば 「貸借対照表補助項 目」 とで もすべ き ところであるが、その内容 と理解 の容易化 を考慮 し、 「繰延擬制資産項 目」 とい う表記 を用いている。 当該表記は本多[2006]を参考 に してい る。

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(5)

において、IASにお ける繰延税金 の取 り扱 いに ついて概観す る。

繰延税金 については、IAS12において規定 さ れている。前節 に見た よ うに、 ドイツ商法では 適切な損益計算が指向 されてお り、タイ ミング 概念が とられていた。 これ に対 して、IAS12は、

繰延税金の貸借対照表計上の基礎 に、テ ンポラ リー概念 をお いてい る (Pellensetal.[2006]S.

208)。既述の よ うに、 当該概念 は貸借対照表指 向であ り、繰延税金 の把握 には、貸借対照表上 の数値 の差異 に注 目す る。 IAS12.5に よれ ば、

テ ンポラ リー概念の も とで把握 され る差異は、

資産や負債の貸借対照表上の帳簿価格 と、それ らの税務上の価格 との間の差異である (Pellens etal.[2006]S.208)。

IAS12.15によれ ば、永久差異 に分類 され ない 差異はすべて認識 され なけれ ばな らない もの と され てい る。 したがって、IASの もとでは、期 間差異だけでな く半永久差異 も繰延税金の計算 に入れ られ る ことにな る (KGting und Zwirner [2005]S.1554)。既述のよ うに、 ドイツ商法では、

繰延税金の計算 には期間差異のみが考慮 され る ので、 この点でIASは ドイ ツ商法 とは異 な る規 定 となってい る。 なお、繰延税金 の測定には、

資産負債法が用い られ る。

また、IASの もとでは、繰延税金 の計算 は、

会計上 と税務上の差異が、成果作用的か成果非 作用的か、つま り、解消時にその差異が損益計 算書に成果作用的な もの として計上 され るか ど うかに関係 な くな され る。その差異が将来に相 殺 され る限 り、繰延税金の借方ない し貸方計上 義務があるのである (Pellensetal.[2006]S.209)。

ドイツ商法では、タイ ミング概念 に従い、成果 作用的な差異のみを繰延税金計算の対象 とす る ので、 この点で もIASと ドイ ツ商法 は異 なって いる。

3‑3. DRS10による繰延税金の処理

2002年3月、 ドイツ基準設定審議会 (Deutscher standardisierungsrat:DSR)に よ って ドイ ツ会 計基準 (DRS)第10号 「連結決算書 にお ける繰 延税金」 (DRSIO)が可決 された。 商法第342条 第2項 の規定 に よ り、DRSIOの適 用 で もって、

連結会計 に関す るGoB(正規の簿記の諸原則) が遵 守 され て い る もの と推 定 され る(Thieme [2004]S.28‑29)09したがって、連結決算書に関

しては、DRSIOが一般 に認 め られた規則 として 通用す ることになる。

DRSIOの規定では、繰延税金は、すべての成果 作用的に発生 した(erfblgswirksam entstandenen) 期間差異 (temporaren Differenzen)について計 上 されなければな らない とされている。 さらに、

DRSIOは、 半永 久差 異 につ い て も繰 延税 金 を 認 識 す べ き こ とを明記 してい る (KGting und Zwirner[2003]S.305)。

ここにおいて、DRSIOにお ける繰延税金 の認 識概念 は、タイ ミング概念 とテ ンポラ リー概念 の混合体 となってい る といえる (Thieme[2004]

S.29)。 2‑2‑3.に もみ た よ うに、 タイ ミング概 念では、成果作用的な期間差異のみが繰延税金 計算の対象 となる。他方、テ ンポラ リー概念で は、成果作用的か否かに関係 な く、すべての一 時的な差異、つま り期間差異お よび半永久差異 が繰延税金計算において考慮 され ることになる。

DRSIOでは、成果作用的な差異 を認識対象 とし ている点では、 ドイツ商法において従来取 られ てきたタイ ミング概念 を維持 してい るといえる が、その一方で半永久差異 も繰延税金の計算 に 取 り入れてお り、その意味ではテ ンポラ リー概 念に接近 しているといえる (Thieme[2004]S.29)。

また、DRSIOでは、借方の繰延税金、貸方の 繰延税金 ともに認識 が義務づ け られてお り、 こ の点 は商法第306条 と同様 であ る。繰延税金 の 測定には、資産負債法が採用 されてい る。

9商法第342条第2項 は、 ドイツ連邦法務省 の公表 したDSRの勧告が遵守 され ることによって、GoBが遵守 された と推 定す る、 とい うことを定めている。

ドイツ税 効果 会 計 の国際化 49

(6)

以上から、DRSIOの規定は、貸借対照表指 向 の考え方に従 っているとい うことができ (Kiiting und Zwirner[2003]S.305)、 IASに も とづ く国際 基準に接近す る内容 となっていると考 えること ができる (Thieme[2004]S.29)。

4.

繰越欠損金 に係 る繰延税金の処理

企業の財政や収益の状況 を、税金 との関連 で 把握 しよ うとす る とき、繰越欠損金 に係 る繰延 税金の処理 について も考慮す る必要がある。

ドイ ツ基準において もIASにおいて も、 ある 会計期間において損失が出た場合 に、それ を将 来の利益 と相殺す ることが認 め られている。そ の結果、将来の事業年度 において税負担の軽減 が発生す ることになる。かかる税負担の軽減は、

その効果において借方繰延税金 (繰延税金資産) と同様のものであ り、ある種の 「経済的有利性」

(6konomischer Vorteil) (Berger[2006]S.2473) を表す と考 えることができる。 したがって、繰 越欠損金の有す る当該有利性 に対 して繰延税金 資産を計上す るか否かが問題 となる。以下では、

これ に関 して ドイ ツ商法、 IAS、DRSIOにおい ていかなる規定がな されているのかについて見 てい くことにす る。

4‑1.ドイツ商法 における規定

3‑1.に もみた よ うに、繰延税金 については、

商法第274条お よび第306条 において規定がな さ れてい るが、いずれの条項 において も、繰越欠 損金 に係 る繰延税金の借方計上に関す る規定は ない。商法上の決算書にお ける当該繰延税金の

計上については、議論が分かれてお り (Pellens etal.[2006]S.221)、その可否の判断は難 しい。 10

ただ、確 かな ことは、繰越欠損金か ら、税 の 還付が直接 に実現 され るわけではな く、あ くま で も将来、納税の対象 となる利益が得 られた と きに、当該利益 を繰越欠損金 と相殺す ることで 税負担 を軽減 できる 「可能性」があるとい うこ とで あ る (Kdting und Zwirner[2005]S.1555)。 つま り、繰越欠損金の存在 が必ず将来において 企業に便益 をもた らす とい うものではないので あ り、繰越欠損金 に係 る繰延税金の実現には不 確実性 が存在 してい るといえる。 したがって、

「実現原則 (Realisationsprinzip)と非対称原則 (Imparitatsprinzip)11に特徴 づ け られ た ドイ ツ商 法に とって、繰越欠損金 に係 る繰延税金の借方 計上はな じみのない ものである。」 (Berger[2006]

S.2473)

繰越欠損金 に係 る借方繰延税金の計上につい ては、 さま ざまな解釈があるにせ よ、商法上に 規定が存在 しない以上、少 な くとも、 ドイツ商 法上は、繰越欠損金 に係 る繰延税金資産の計上 が積極的に認 めて られてい るわけではない とい えるであろ う。

4‑2. 1ASにおける規定

IASでは、 IAS12.34に も とづ き、将来 に十分 な確実性 をもって、相殺す るに足 る金額の利益 を獲得できるとい う範囲内において、繰越欠損 金 について も繰延税金資産 を計上す るよ う求 め ている。つま り、繰越欠損金 に ともな う税務上 の便益、す なわち将来利益 との相殺が、相応の 蓋然性でもって実現す ることが見込まれ る限 り、

10この点に関 し、Martenetal.[2003]では、 当該繰延税金の計上に反対す る意見、賛成す る意見が紹介 されてい る。

反対意見 としては、商法 との整合性 を問題 とす るものが 目立っ。 た とえば、繰延税金 の計上には、商法第274条 に も あるよ うに、会計上の利益 と税務上の課税所得 との時点的差異の存在 とその決済が前提 とされてい るが、繰越欠損金 に係 る繰延税金は これ に当てはま らない とい う意見がある。賛成意見 としては、企業の財政状態 の適切 な開示 に重点 を置いた ものが 目を引 く。た とえば、繰越欠損金か らくる税務上の有利性 を借方計上す ることによって、将来期間に おいて、税 の支払いが よ り少な くてすむ ことがシグナ リングされ 、企業の各期の財政状態 について、真実かつ公正な る外観 が示 され る、 とい うものがある (Martenetal.[2003]S.2337‑2338)0

11保守主義の原則 の1つで、未実現の損失 (含み損) については認識 を義務づ け、未実現の利益 (含み益)について は認識 を禁止す るとい うものである。

50 国際経営論集 No.34 2007

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繰越欠損金 についての繰延税金資産 を計上 しな ければな らない とされ ているのである。

3‑2.に もみた よ うに、IASは、テ ンポ ラ リー 概念 を採用 してお り、期間差異だけでな く半永 久差異 も、また、成果作用的差異だけでな く成 果非作用的差異 も繰延税金計算の対象 とされ る ことか ら、貸借対照表指 向の考 え方が とられて いる。それ に加 えて、上記のよ うに繰越欠損金 に係 る繰延税金資産の計上が規定 され ることに よ り、繰延税金の計上範囲は さらに拡張 されて い る(Thieme[2004]S.31)。 ここか ら、IASの もと では、繰越欠損金による将来の税負担の軽減は、

不確実性 を有す るとはいえ、その実現が十分な 確実性 をもって見込まれ る限 りにおいては税務 上の請求権 を表す と言 えるので、かかる請求権 が存在す るのであれ ば、それ を貸借対照表上に 反映 させ 、もって企業の財産状況 を適切 に描写 す ることが 目指 されていると考 えて よいであろ

う。

4‑3. DRSIOにおける規定

DRSIOでは、DRS10.11によ り、繰越欠損金は、

基本的に、それ によって将来の税負担減 が実現 す ることが十分な蓋然性 をもって見込まれ る場 合 に、繰延税金 として借方計上 され なけれ ばな らない とされている。つま り、繰越欠損金 に係 る繰延税金 の処理 につ いては、IASと同様 の取

り扱 い となっている。

3‑3.において、DRSIOは、繰延税金計算‑の 半永久差異の取 り込み によって、貸借対照表指 向のテ ンポ ラ リー概念 を一部導入 し、IASに接 近す る内容 となってい ることを確認 したが、繰 越欠損金 に係 る繰延税金の取 り扱い も、 この傾 向 と軌 を一にす るもの と解釈 できる。反対 に、

3‑1.にみた よ うに、当該繰延税金 の貸借対照表 計上を積極的には認 めていない ドイツ商法 とは、

方向性の異なる規定 となってい るといえよ う。

5. おわ りに

‑ ドイ ツ会 計 に起 こ って い る変 化 ‑

ここまで、繰延税金に関す る ドイツ商法、IAS、 ドイツ会計基準 (DRS)での規定お よび処理方 法 を概観す ることによ り、それぞれの基礎 にい かなる考 え方が存在 してい るかが把握 された。

そ して、 ドイ ツでは、 もともと商法第274条、

第306条が繰延税金について定めていたが、2002 年 に発行 されたDRSIOは、かか る従来の商法の 規定 とは異なる特徴 を有 してい ることが明 らか となった。 ここにはIASの影響 を見て取 ること ができる。

DRSIOの制定によって ドイ ツの伝統的な商法 会計が直面す る変化 は、以下の よ うにま とめる ことができよ う。

第一に、繰延税金計算の 目的が、適切 な期間 損益計算 とい う損益計算書指 向の ものか ら、財 産状況の的確 な描写 とい う貸借対照表指向の も の‑ と変化 しているとい うことである。 これは、

すでにみたよ うに、繰延税金の計算対象 として、

ドイツ商法では、期間差異のみが考慮 され るの に対 し、DRSでは、期間差異 に加 えて半永久差 異 も含 め られていること、また、実現の十分な 蓋然性 があれ ば繰越欠損金 に係 る繰延税金資産 の計上 を義務づ けてい ることか らわかる。ただ し、DRSIOは、繰延税金の考慮対象 を成果作用 的に発生 した差異 としてお り、その意味では損 益計算書指向 との混合形態である といえる。 し か し、DRSIOの規定 は明 らかにIASに接近す る ものであ り、方向性 としては財産状況の的確 な 描写‑ と移 っているよ うに思われ る。

第二に、 ドイ ツ商法会計 を特徴づ けてきた基 準性原則お よび保守主義の原則 が変容 をせ ま ら れている とい うことである。基準性原則 は、会 計の国際化 に伴い、その意義が低下 してい く可 能性がある。本稿 の冒頭で も述べた よ うに、 ド イツ上場企業はすでに、2004年 の会計法改革法

(BilReG)によ り、連結決算書の作成 にIASを適 用す ることが義務づ け られてお り、連結会計 に おいては基準性原則 は意味をな さな くなってい ドイツ税効果会計の国際化 51

(8)

る。そ して、かか る国際化が個別決算書に も及 ぶ ことは十分 に考 え られ る。 IAS‑ の接近 を見 せ るDRSIOも、現在 は連結会計 を対象 とした も のであるが、当該基準の存在が、個別決算書に

「波及効果」 (Ausstrahlungswirkung) (Marten et al.[2003]S.2340)を もち、個別決算書の会計規 則 がIASの影響 を受 ける可能性 は否定で きない であろ う。 したがって、個別決算書においても、

今後、基準性原則 の存在意義が問われ ることに なると思われ る。

また、DRSIOでは、繰越欠損金 に係 る繰延税 金資産の計上 を規定 してい るが、すでにみた よ

うに、当該繰延税金の実現は不確実性 を伴 うも のであ り、かかる規定が個別決算書にも 「波及」

す ることになれば、実現原則や非対称原則 を基 礎 とす る保守主義の原則は、事実上、効力を失っ て しま うであろ う。12

本稿 におけるここまでの検討 か ら、繰延税金 の領域では、少な くとも連結会計 については、

DRSIOに よ り国際化 が進 み、IASの思考 ない し 計算方法が流入 してきていることが明 らか となっ た。かかる流れが、 ドイツ個別会計に どの よ う に影響す るのか、それ とともに ドイツ商法会計 の基礎 をなす諸原則がいかに変化 してい くのか、

今後 も注視 してい く必要があろ う。

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12KGtingundZirwner[2003]では、繰越欠損金 に係 る繰延税金資産がある年度 において計上 された ものの、その実現 可能性 の見通 しの変更によ り、その大部分が後の年度 において修正 され る、 とい う企業の実例が取 り上げ られている。

繰延税金 の実現が どの程度 の蓋然性 をもつかは、解釈 によって変化す るものであ り、かかる側面が利用 されれば、会 計上の数値 が操作 され る可能性 もある (KiitingundZwirner[2003]S.312‑314)

52 国際経営論集 No.34 2007

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ドイツ税効果会計の国際化 53

参照

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