日本小児循環器学会雑誌 13巻6号 811〜817頁(1997年)
先天性冠動脈痩に対する経皮的コイル塞栓術の経験
( 1 i成9年7月8口受付)
(平成9年11月17日受理)
札1幌医科大学医学部小児科
黒岩 由紀 富田 英 布施 茂登 辰巳 正純 千葉峻三
key words:detachable coil,先大性冠動脈痩,コイル塞栓術
要 旨
先天性冠動脈痩(CAF)の2例に対し, interlocking detachable coil(IDC)とマイクロコイルを用
いてコイル塞栓術を行った.症例1は10歳9カ月の女児で左冠動脈右室痩.症例2は4歳5カ月の女児
で左冠動脈右房痩.2症例とも痩血管は著明に拡大していたが,短絡量が少なく,形態的に塞栓術が可 能と考えられたため経過観察していた.2症例とも左冠動脈造影用カテーテルをガイドとしてファスト ラッカー18MXを痩の遠位端まで挿入, IDCにてフレームを作製しそれに絡める形で, Cook社製のマイクロコイルを間隙に充填するように留置した.症例1には径12mmのIDCを1個,9mmを1個,トル ネード型のマイクロコイルを1個留置した.症例2では,14mmのIDCを1個,12mmを2個, PDA
detachable coilを1個,マイクロコイルを7個留置した.この症例では痩の流量が多かったため,右房 側より痩孔に挿入したウェッジバルーンカテーテルにて,右房への開口部を閉鎖しながらコイルを留置した.2症例とも約半年後に残存短絡を認めたため再塞栓術を施行した.症例1では4mmのIDCを1 個,症例2では141nm,6mmのIDCを各1個,マイクロコイルを8個留置し完全閉鎖を確認した.拡大 が著明なCAFに対しても,IDCのフレームにマイクロコイルを絡める形で留置することにより,塞栓術
が可能と考えられた.はじめに
先天性冠動脈痩(以下CAF)は比較的稀な心疾患と 考えられていたが,小児における選択的冠動脈造影の 普及とともにその報告は増加しつつある.しかしその 自然歴については十分明らかになったとはいえず,ま た治療方針についても,特に症状の乏しい症例では,
確立されてはいない.最近,CAFに対するコイル塞栓 術の有効性が報告されているが,今回我々はCAFの 2例に対し,H的の位置での離脱可能なinterlocking detachable coil(以下IDC)を用いてフレームを作り,
その間にマイクロコイルを充填するという方法による コイル塞栓術に成功した.このシステムにより拡大が 別刷請求先:(〒004−8618)札幌市厚別区厚別中央2条
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札幌社会保険総合病院小児科
黒岩 由紀
著明なCAFに対しても塞栓術が可能と考えられた.
症 例
症例1は10歳9カ月,女児,体重33.3kg.1カ月健 診にて心雑音を指摘され当科を受診した.第2肋間胸 骨左縁にて3度のブランコ雑音を聴取した.胸部レ線 でCTRは56.5%と心拡大は認めなかったが,肺血管 陰影は軽度増強していた.心電図では軽度の左室肥大 パタンを認めた.1歳3カ月時の心臓カテーテルにて,
痩血管は左主幹部から起始し右室に開口するCham−
ber型の左冠動脈右室痩と診断した.左右短絡率は 38%であった.また,ジピリダモール負荷による2°1Tl 心筋SPECTと,トレッドミルを行ったが,いずれも 有意の心筋虚血所見を認めなかった.更に,本症例は 経過観察中,胸部レ線や心電図所見が軽快したため,
3歳時に2回目の心臓カテーテルを行ったところ右室 内で有意の酸素飽和度上昇を認めず,冠動脈造影では
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右室への流入部は著明に縮小していた.文献的には本 症の自然閉鎖も報告されている1)2}ため経過観察して いたが,その後冠動脈痩に縮小傾向が認められなく なったため,10歳9カ月時に,IDC(Target社製)を 使用しコイル塞栓術を施行した.
同症例の冠動脈造影では,左主幹部は著明に拡大し,
痩血管は拡大した類洞(最大径11.9mm)と思われる部 分を経て右室に開口していた.開[部の最小径は1.9 mmで,拡大した主幹部から正常の前ド行枝が起始し ていた(図la).右冠動脈には異常所見を認めなかった
(図1b).4mmのPTCA用バルーンを用いて10分間痩 血管を閉鎖し,心電図に虚血性変化が認められないこ とを確認した後,6Frの左冠動脈造影用カテーテルを ガイドとしてファストラッカー18MXを痩の遠位端
凸小循誌 13(6),1997 まで挿入し,径12mmのIDCを1f固留置しフレームを 作成した.更に径9mmのIDCを1個留置したが,造影 にて残存短絡を認めたためIDCのフレームに絡める 形で,Cook社製のトルネード型のマイクロコイルを 1個留置した(図2).3個のコイル留置にて完全閉鎖 を確認した.しかし,翌日のカラードプラでわずかな 短絡血流を認め,その後短絡血流の増大を認めたため,
初回塞栓術から約6カ月後に再塞栓術を施行した(図 3).径]Omm,61nmのIDCはloopを作らずに右室に 抜けてしまったため,4mmのIDCを使用した.1個の IDC留置にて完全閉鎖した.
塞栓術後は当科における心臓カテーテル検査後の処 置と同様に抗生剤の静注,内服を行い,更に抗血栓療 法としてアスピリン5mg/kg/日の内服を開始した.閉
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… 図1 症例1の選択的冠動脈造影所見:a)左冠動脈,b)右冠動脈
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鎖後の胸部レ線,心電図に虚血性変化は認められな かった.以後,カラードプラでも短絡は認めていない.
症例2は4歳5カ月,女児,体重14.Okg.生後1週 目に心雑音を指摘され,当科を紹介された.第2肋間 胸骨左縁に2度の収縮期雑音を聴取した.胸部レ線で CTRは57.5%で,軽度の肺血管陰影の増強を認めた.
心電図に異常所見を認めなかった.1歳5カ月時の心 臓カテーテルにて,痩血管は左主幹部より起始し右房
に流入するChamber型の左冠動脈右房痩と診断し
た.左右短絡率は23%であった.ジピリダモール負荷 による2°iTl心筋SPECTを行ったが,有意の心筋虚血 所見を認めなかった.本症例も形態的には塞栓術の適 応と考えられたため体重増加を待つ方針となり,4歳5カ月時にコイル塞栓術を施行した.
同症例の冠動脈造影では,左主幹部から著明に拡大 した痩血管(最大径14.Omm)が右房に開口していた.
開口部の径は2.8mmで,左前下行枝と回旋枝は拡大し た主幹部から起始していた(図4a).右冠動脈には異常 所見を認めなかった(図4b).症例1と同様に,痩血管 中央の狭窄部をバルーンカテーテルにて閉鎖し,心電 図に虚血性変化が認められないことを確認した後,14
mmのIDCを1個留置した.しかし,解放直後にIDC
の先端が右房に突出したため,スネアカテーテルにて 回収した.痩の流量が多いためIDCを安定して留置す ることは困難と考え,025ラジフォーカスを動脈側から 挿入し,これを下大静脈側から挿入したスネアーカ テーテルでキャッチし,大腿静脈との間にループを作 成した.続いて,下大静脈側よりウェッジバルーンカ テーテルをon wireで挿入し,右房への開口部を閉鎖した.右房への開口部を閉鎖しながら,8mmの
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図2 症例ユのコイル塞栓術中所見
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detachable PDA coilを1個留置した.更に,14mmの
IDCを1個,12mlnを2個,マイクロコイルを7個留
置した.塞栓術終了後の造影写真でわずかな短絡血流を認めたが自然閉鎖が期待できる程度と考え手技を終 了した(図5).その後残存短絡血流の増大を認めたた め,初回塞栓術から約5カ月後に再塞栓術を施行した
(図6).14mln,61nmのIDCを各1個,マイクロコイ ルを8個留置し完全閉鎖を確認した.
症例1と同様に塞栓術後は抗生剤を使用し,更にア スピリンの内服を開始した.閉鎖後の胸部レ線と心電 図に虚血性変化は認められなかった.以後,カラード プラでも短絡は認めていない.
考 案
従来,CAFに対しては外科治療が選択されてきた.
本疾患に対する手術成績は良好で,その死亡率は0
〜 6%程度にすぎない3> ).しかし,通常は人工心肺を 使用した開心術で痩の開口部を閉鎖することが多いた
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図3 症例1の再塞栓術前後の選択的冠動脈造影所見:a)再塞栓術前,b)再塞栓術後
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図4 症例2の選択的冠動脈造影所見:a)左冠動脈,b)右冠動脈
め,手術に伴う合併症,すなわち術中の心筋虚血,痩 破裂,重篤な心室性不整脈を起こす可能性を含んでい る4).このため,有意の左右短絡や心筋虚血所見のある 症例に対する手術適応については意見が一致している ものの,今回の症例のごとく無症状で,有意の左右短 絡や心筋虚血所見のない症例に対する手術適応には一 致した見解はない.
これに対し最近では,カテーテルを使用した塞栓術 の有用性が報告されている.Detachable Balloonを使 用した塞栓術も報告されているが,小児の場合のよう に血管径が細かったり,また長く蛇行しているような 場合は,より太いguiding catheterを必要とする Detachable Balloonを用いた塞栓術は困難であると 考えられる「 ).更に,留置後にBalloonが縮小したり,
移動したりしてしまう結果として再疎通を引き起こす 可能性も考えられる6)7).我々が使用したIDCはより細
く柔軟性のあるguiding catheterを使用することがで き,更にコイルをカテーテル外に完全に押し出すまで はコイルとコイルプッシャーとの間の接続は解除され ず,引き戻すことが可能であるため,目的の位置に容 易に到達することができる.また,外科治療に比べ入 院期間も短期間にすることが可能であった.
塞栓術を成功させるためには,コイルのサイズの選 択が重要であると考えられ,コイルの直径が狭窄部の 2倍以上必要であるとの報告もある8)が,著者らはこ れに対し,目的としたコイル留置部の棲の最大径とほ ぼ同じか,やや大きめのコイルを選択した.IDCは目 的部位への到達が容易で離脱機構をもつという大きな
平成9年12月1H 8ユ5−(85)
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図5 症例2のコイル塞栓術中所見:a)狭窄部をバルーンカテーテルにて閉鎖,b)初回塞栓術直 後の微少残存短絡
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再塞栓術直前の残存短絡,b)再塞栓術
利点を有している反面,コイル自体が柔軟で血流量の 多い部位では固定が困難との欠点も有している.事実 症例2で,IDCは血流に乗って容易に右房に突出し固 定が困難であったため,下大静脈側より挿入した ウェッジバルーンカテーテルで右房への開口部を閉鎖 しながらコイルを留置するという方法をとり,良好な 結果を得た.流量が多く拡大が著明なCAFに対して も,この方法を用いることにより安全にIDCを留置す ることが可能で,IDCのフレームにマイクロコイルを 絡める形で留置していけば,種々の形態の冠動脈痩に 対しても対応できると考えられた.
瘤状に拡大した冠動脈痩内の血栓形成が少なからず 報告されており9),この対策を考慮しておく必要もあ るi°). 9者らは,術後6カ月で遠隔期の造影を予定して
おり,この間従来の外科治療後の抗凝固療法に準じて アスピリンを投与し,現在のところ,血栓,塞栓など の合併は認められていない.一方,痩内の血栓化を促 すためには,抗凝固療法をしない方が良い可能性もあ る.抗凝固療法を行ったことが再開通や残存短絡の増 加を促した可能性もあり,この点についても,今後多 数例での検討を要すると考えられる.
無症状で,短絡量の少ない先天性冠動脈痩に対して,
棲閉鎖術をいつ,どのような方法で行うのがよいかと いうことに関しては,その自然歴が明らかにされてい ないこともあって,一致した見解は見られていない.
里方ら1)は,無症状で短絡量が少なくても,痩を形成す る血管が相当に拡大している症例については,加齢と 共に症状を呈してくる可能性がかなり考えられるの
816 (86) ll本小児循環器学会雑誌第13巻第6号
で,小児期のうちに痩閉鎖術を行うのが良いと主張し ている.しかし,冠動脈痩の自然閉鎖が1〜2%の確 率で起こり得るとの報告もあるので2),外科的治療に せよ経皮的塞栓術にせよ,痩閉鎖術の適応は患児の体 重,年齢,症状を十分考慮して適応を決定する必要が ある.いずれにせよ,CAFに対する経皮的塞栓術は,
手術に比べて侵襲が少なく,安全且つ合併症も少ない ため,今後選択されるべき治療法の一つとして位置づ けられていくものと考えられる.
文 献
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平成9年12月1日 8]7 (87)
Coil Enibolization for Coronary Artery Fistula Two Cases Report Yuki Kuroiwa, Hideshi Tomita, Shigeto Huse, Masazumi Tatsumi
and Shunzo Chiba
Departlnent of Pediatrics, Sapporo University Schoc)l of Medicine
We report on the feasibility of coil occlusion using interlocking detachable coils and microcoils for the treatment of a coronary artery fistula.
The first patient was a 10−year−old girl who had a fistula originated from the left coronary artery to the right ventricle. The second patient was a 4−year−old girl who had a fistula origillated from the left coronary artery to the right atrium.
First, we confirmed that there were no ischernic changes on a l2−lead electrocardiogram by test occlusion using a balloon catheter. A FasTracker−18MX microcatheter was introduced to the nrlost distal part of the fistulous commullication through a Judkins left coronary catheter.
Interlocking detachable coils(IDC)were implanted through the microcatheter. Subsequently, we placed several microcoils to pack open spaces. In case l, one 12×101DC, one 9×101DC and one microcoil were used;and in case 2,0ne l4×101DC, two 12 x lO IDCs, one PDA detachable coil, and seven microcoils were used. In this patient, during implantation of the initial coils, the outlet of the fistula was occluded with an inflated balloon catheter to make it safer. As follow−up angiograms at 6 months froln the initial procedures demonstrated residual shunts in both patients, secondly occulusion was performed;an additional 4×101DC was placed in case 1, and one 14×101DC, one 6×1〔〕IDC and 8 microcoils were placed in case 2. Complete elimination of the residual shunts were confirmed after the second procedure in both patients.
Transcatheter occlusion with IDCs and microcoils is a safe and effective technique for treating a coronary artery fistula, and this technique should be considered among the treatment strategies for such patients. Further study on the indications and long−term prognosis after this procedure is necessary.