パネルディスカッション
冠動脈疾患の治療
経皮経管冠動脈形成術
〔書略薪97第論3肇1骨〕
東京女子医科大学 タ ナカ田 中
循環器内科学教室 ナオ ヒデ直 秀
(受付昭和62年12月23日) 緒 言 経皮的冠状動脈形成術(PTCA)は1977年に, Gruentzigが初めて臨床応用に成功した画期的な 治療法である.当初は,その適応範囲もごく限ら れたものであったが1),臨床例での経験の蓄積と 器具の改良により,次第に適応も拡大され,現在 ではあらゆる狭窄性冠動脈病変に試みられている といっても過言ではない.しかしながらPTCAは 両刃の剣とも言うべき治療法であり,一歩間違え ば重大な合併症を引き起こし,死に至ることもあ るので,適応例の選択と実施には慎重な配慮が必 要であることは言うまでもない.また,遠隔期に おける再狭窄の出現が30∼40%に上り2),その予 防は今後の大きな課題である.今回,われわれは PTCAの臨床成績,合併症,適応の問題(特に冠 動脈バイパス術との関係),再狭窄について検討し たので報告する. 適応および合併症 Gruentzigらが始めに適応とした対象は,1枝 病変で主幹動脈の近位部に狭窄があること,限局 性病変で石灰化がなく,1年以内に発症した内科 的治療困難な狭心症で冠動脈バイパス術の適応が ある例であった.左主幹動脈や分岐部狭窄は禁忌 とされた(表1).現在われわれが適応としている のも大体これに準ずるものであり3枝病変や左主 幹動脈病変はバイパス術を選択している.冠攣縮 の関与している狭心症は,PTCAの禁忌例とされ 表1 PTCAの適応(Gruentzig) 1)狭心発作から1年以内,薬物治療抵抗性 2)1枝病変 3)限局性の狭窄 4)病変部に石灰化がない 5)冠動脈バイパス手術の適応のあること たが,Ca拮抗薬や亜硝酸薬の十分な投与下で施行 することによって,比較的安全に行なうことがで きることが自験例(図1,写真1)や他の報告例 で示されている.また冠動脈バイパス患者のバイ パス狭窄や閉塞に対しては,再手術が困難な場合 にPTCAを第一選択として行ない良好な結果が 得られている(写真2).担癌患者や高齢者などの 理由で,冠動脈バイパス術の困難な場合にも PTCAが優先して行な:われている(写真3−a, b)3).図2,写真4に各々PTCAの原理4)およびバ ルンカテーテルシステムを示す.バルソカテーテ ルやガイドワイヤーは近年著しい改良がなされ て,高度複雑病変や分枝狭窄にも対応できるようになった.特にhigh−torque Hoppy guide wireの
登場により,冠動脈穿孔の危険性がほとんどなく なり高度狭窄病変でも容易におこなえるように なったのは大きな進歩である.拡張用バルンは直 径2,0mm∼4.Ommまで0.5mm間隔でサイズが あるので病変にあわせて選択する.最近,直径1.5 mmのバルンも開発され,更に高度な狭窄も通過 が可能となった.
Naohide TANAKA〔Department of Cardiology(Director:Prof. Koshichiro HIROSAWA)Tokyo
Women’s Medical College〕:αinical aspects on percutaneous transluminal coronary angioplasty (PTCA)
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att8ck{re5慮D a髄or TNG l T 8ftor「n闇G 2T19=50 19354 19256 図1 52歳男性.不安定狭心症のため入院 発作時,Vl−V5でST上昇が見られ,耳茸縮の関与が 考えられた.
当院で昭和55年11月∼62年6月までにPTCA
を施行した例は220例であり(表2,3),全体で の成功率は83.7%であった.冠動脈枝別に見ると 廻旋枝が68.3%と最も成功率が悪く,左前下行枝, 右冠動脈,バイパスグラフトは大体同じような成 績であった(表2).病変枝士別に見ると,1枝病 変が全体の70%を占め,3枝病変は約1割であっ た.合併症は23例(10.5%)に見られ,死亡2例 (1%),急性心筋梗塞症2例(1%),冠動脈穿孔 2例(1%)が重篤な合併症として見られた.こ のうち冠動脈穿孔例はいずれも先端の固いガイドワイヤーによるもので,high・torque noppy guide wireを専ら使用するようになってからは起って ない.また死亡例のうち1例は,緊急PTCAによ るものであった.この成績は諸家の報告に匹敵す Pre−PTCA Post・PTCA 壌 写真1 図1の患者のPTCA 左前下行枝近位部(seg.6)に99%狭窄が認められ(上 段),PTCA後は25%狭窄にまで開大し,良好な結果が 得られた. 表2 PTCA施行病変と成功率 左前下行枝 右冠動脈 左廻旋枝 グラフト 146(84.2%) 55(85.9%) 13(68.4%) 6(83.3%) 表3 PTCA施行症例 1枝病変 2枝病変 3枝病変 成功例 合併症 死亡 145(70.7%) 37(18.0%) 23(11.2%) 178(86.8%) 23(11.2%) 2(1.0%) るものと考えられる.他の合併症としては冠動脈 解離が最も多く見られたが,通常の自動解離とは 異なり,アテロームの・ミルンによる不均等が拡大 ならびに亀裂の形成によりアテローム内への造影 剤の浸透があたかも動脈解離として見えるものが 殆どであると考えられる.したがって重篤な事態 に陥ることは稀であり,自験例では全例良好な経 過をたどった.しかし,冠動脈中膜の広範な断裂 による解離から冠動脈閉塞に至った症例も報告さ
Before Balloon innation After
輪舞
鞭匙
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隔ゆ●一,
写真2 67歳男性のパイパスグラフトに対する PTCA例. 前下行枝のグラフトの起始部に高度狭窄が見られる (上段).中段はパルン拡張中を示す.下段はPTCA 後で,狭窄部は非常によく開大した. れている5). 効果判定 PTCAの効果判定には,冠動脈造影上の狭窄度 の改善のほかに自覚症状,運動負荷試験,核医学 検査等によって行なわれている.特に,201TIC1に よる負荷心筋シソチグラフィーはPTCA施行血 管の潅流域の心筋の血流分布を視覚的に判定でき るので有用である.近年,SPECT(single photonemission computerized tomography)と呼ばれる
断層シソチグラフィーの導入により冠動脈支配領 域をより詳細に同定出来るようになった(写真 5). 再狭窄
PTCA後の再狭窄が約3分の1に認められる
ことはこの治療法の最大の問題点であるが再狭窄 の確実な予防法は未だ存在しない.われわれは昭和55年11月∼60年9月までにPTCAを行なった
例で遠隔期に再造影を施行した39例について臨床 的な検討を行なった6).その結果再狭窄群は17例, 43.6%に見られ,不変群は22例,56.4%であった. 他の報告にくらべて再狭窄率が高いのは,再造影 例が未だ少なく,自覚症状のある例が多く再造影 されているため,バイアスがかかっているものと 思われる.再造影までの期間は,ともに10.7±3.6 ヵ月で差はなかった.狭心症の症歴の長さを比較 すると,再狭窄群が13.0±16.3ヵ月と,不変群 7.2±5.7ヵ月に比し長い傾向にあった(図3).狭 心症の病型についてみると,不安定狭心症の占め る割合が,再狭窄群59%に比し,不変群17%と再 。7 〆before durir唱hf國㎝ after
写真3−a 59歳女性で直腸癌の患者
他に陳旧性心筋梗塞と狭心症を合併.冠動脈には高度三枝病変が認められた.左図は
PTCA前でLAD近位部に90%狭窄を認め,右図ではPTCA後,50%まで同部が開大
before during inflation after 写真3−b aと同一患者 右冠動脈近位部に約75%の狭窄があり,PTCAによ り,狭窄はほぼ消失した. 図2 PTCAの原理 上段:バルン拡張前.下段:バルン拡張中 狭窄群に有意に多く見られた(図4).労作型,安 静型,労作+安静型狭心症の両群における割合は ほぼ同じであった.冠墓縮の関与した狭心症の割 合も両群で同じであった.陳旧性心筋梗塞の合併 が,再狭窄群42%と不変群5%に比し有意に多く 認められた.PTCA後の狭心症は,再狭窄群の 77%に見られ,発作出現までの期間は平均5.0ヵ月 と短かった.不変群では,』狭心症は出現しなから た.冠危険因子の関与の有無について調べたが, 高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙のいずれの因子 についても有意差はなかった.PTCA施行血管 (LAD, LCX, RCA), PTCA前後の狭窄症,冠動
写真4 PTCAに使用するガイドカテーテル,バル ン,ガイドワイヤー(上部),およびバルンのin・ deHatorを示す. 亀 Short a其is
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写真5 LAD近位部に高度狭窄を有する患者のPTCA前後における201TICI SPECTを示す. Ex: 運動負荷時,R:安静時. PTCA後,運動負荷によっ て誘発された虚血(前壁および中隔)が消失した.
脈の形態(concentric or eccentric type, Iong or
short segment, regular or ilτegular type) につ いても特に差は認められなかった.PTCA後の再 狭窄の予防として,aspirin 250mg/day, per−
00% 15
M
10 5 0 再狭窄群不変群 山3 狭心症歴の長さ(p<0.10) 再狭窄群 50 13.0±16.3 7.2±5.7 o o 不 変 群 50 玉00% 不安定狭心症 (P<0.Ol> (N.S.) 〔N、S.) 労1乍十安静狭心症 (N.S.) 冠スバズムの 関与した狭心症 (N.S.) OM正の合併 (P〈D.GD PTCA後の 狭心症出現 (Pく0、OD 図4 狭心症の病型 びwarfarinをPTCA前より投与し, PTCA当日 にはheparinの投与を行なっているが,その効果 は上述のごとく十分ではない.PTCA後の再狭窄 のメカニズムは未だ明らかではなく今後の検討が 待たれる. おわりにPTCAについて,その適応,自験例の成績効
果判定,再狭窄の問題について概略を述べた. PTCAは冠動脈バイパス手術と変わらぬ効果を 挙げ,狭心発作の消失,運動耐容能の改善をもた らす.また,患者の受ける肉体的,精神的,経済 的負担はバイパス手術に比し軽く済む.内科的治 療が非常に困難で,難渋している狭心症がPTCA により劇的な寛解が得られることがあり,内科医 にとって抗し難い魅力的な治療法であるのは事実 である.しかし,PTCAによる重篤な合併症も稀 ではな:いので,症例の選択には慎重を期すべきで ある.再狭窄とその予防についての問題は,この 治療法の最大の課題であり,早期の解決が望まれ る. 文 献1)Gr髄ntzig AR, Senning A, Siegenthaler WE et
a1: Non−operative dilatation of coronary−
artery stenosis−percutaneous transluminal cor−
onary angioplasty. N Engl J Med 30ユ:6ユー68, 1979
2)Holmes DR, Vlietstra RE, Smith HC:Res− tenosis following Percutaneous transluminal coronary angioplasty(PTCA):Areport from
the NHLBI PTCA registry, Circulation 68:
(SuppユIII):III−95, ユ983
3)北原公一,田中直秀,本田 喬:出血性直腸癌を
伴った難治性狭心症に対するPTCAの成功例.
Coronary 2:388−392, 1985
4)Vlietstra RE, Holmes DR:PTCA;Per−
Cutaneous transluminal coronary angioplaSty,
pp12−13, FA Davis, Philadelphia(1987)
5)Vlietstm RE, Holmes DR:PTCA;Per・
cutaneous transluminal coronary angioplaSty.
pp157−158, FA Davis, Philadelphia(1987)
6)田中直秀,本田 喬,堀川良史ほか:経皮的冠動 脈形成術(PTCA)一再狭窄と臨床像について一. 臨と研63:3581−3584,1986