北海道の雪氷 No. 27(2008)
Copyright © 2008 (社)日本雪氷学会
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新雪剪断強度の時間変化について
松下拓樹,松澤 勝,伊東靖彦,加治屋安彦((独)土木研究所寒地土木研究所)
1.はじめに
雪崩発生の危険度評価において,勾配θの斜面における積雪層の剪断応力 Q sinθと剪断強 度σの比である積雪の安定度指標SI(Stability Index)が用いられる場合が多い.
SI=σ/Q sinθ (1) 上載積雪による垂直応力Qは積雪深や降水量の観測値から計算される.一方,剪断強度σは積 雪密度との関係式から求められ,新雪やしまり雪について弱層を伴う場合(Jamieson and Johnston, 2001)と伴わない場合(山野井・遠藤, 2002)の以下の関係式がある.
(弱層を伴う場合) σ=14.5(ρ/917)1.73 (2)
(弱層を伴わない場合) σ=9.40×10-4 ρ2.91 (3) 式(2)はカナダにおける測定結果,式(3)は主に本州の積雪に基づいて得られたものである.
さて近年,北海道では斜面積雪が雪崩予防柵の柵面をすり抜けて道路に達する現象が問題と なっており,この現象は気温が低くかつ降雪強度が大きい時に発生する傾向にあることが指摘 されている(松下ら, 2008).そのため低温下多量降雪時の積雪に対して式(2)と式(3)が適用 可能かを検証するために札幌近郊の中山峠にて積雪断面観測を行ったところ,積雪層内に弱層 は存在しないが測定した剪断強度は式(2)の弱層を伴う場合に近い値となった(松下ら, 2007).
この理由を明らかにするため,本論文では剪断強度の時間変化と積雪形成時の降雪強度に着目 して,中山峠における測定データの解析を実施し,さらに札幌において降雪強度の大きい気象 条件下で形成された新雪の剪断強度測定を行った.
2.測定および解析方法
2.1 中山峠における測定と解析の方法
中山峠における測定内容は松下ら(2007)に詳しいが,以下にその概略を記す.観測は 2007 年 1 月 7 日から 9 日にかけて堆積した約 100cm の積雪を対象に,2007 年 1 月 9 日 18 時から 11
50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
0 1 2 3 4
剪断強度 (kPa) 積雪深 (cm)
50 60 70 80 90 100 110 120 130 140
0 100 200 300 密度 (kg m-3)
積雪深 (cm)
第 VI 面
(403Pa)*( )内の数値は
垂直荷重 第 I 面
( 38Pa)第 II 面
( 63Pa)第 IV 面
(189Pa)第 V 面
(284Pa)第 III 面
(120Pa)(a) (b)
0 1 2 3 4 5 6 7
降雪強度 (cm h- 1)
(c)
第Ⅰ面 第Ⅱ面 第Ⅲ面 第Ⅳ面 第Ⅴ面 第Ⅵ面
図1 第1回観測で測定した密度(a)と剪断強度(b)の鉛直分布と,1 月 7 日以降に形成された 積雪層に対応する降雪強度(c).降雪強度は隣接する気象観測所の積雪深データより計算.
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日 12 時までの期間 3~9 時間毎に合計9回実施した.鉛直方向に 5cm または 10cm 間隔で雪温,
剪断強度,密度の測定及び雪質,積雪の粒度,層構造の観察を行った.剪断強度はシアーフレ ーム(断面積 0.025m2)を用いて測定し,一つの積雪層に対して2~4回の測定した平均値を解 析に用いた.また,各観測毎に新たに積もった新雪層を把握するため,積雪表面にチョークの 粉をマーカーとして散布した.図1に第1回観測の密度(図1a)と剪断強度(図1b)の鉛直分 布,7 日以降に形成された積雪に対応する降雪強度(図 1c)を示す.図1c の降雪強度は現地に 隣接する寒地土木研究所の気象観測施設の積雪深から求めた.
次に第1回から第9回観測における積雪面Ⅰ~Ⅵ(図1)の剪断強度から,その時間変化を調 査した.ただし,積雪面Ⅰ~Ⅵの高さは圧密によって時間とともに変化するため,第2~9回 で剪断強度を測定した高さは第1回の積雪面Ⅰ~
Ⅵの高さに一致していない.そこで図2に示すよ うに,第1回観測の積雪面を基準とした積雪重量 は変化しないと仮定して,第2回以降はこの積雪 重量が同じである第1回積雪面からの深さを見出 し,その深さに最も近い上下の測定値を内挿して 剪断強度を求めた.この方法で第2~9回観測に おける積雪面Ⅰ~Ⅵの剪断強度を推定した.
図2 積雪重量を用いた第 i 面の高さの推定方法
2.2 札幌における測定方法
寒地土木研究所敷地内(以下,札幌)にて,2008 年 2 月 26 日 14 時から 27 日 7 時にかけて積 もった新雪を対象に剪断強度と密度の測定を行った(図3a).対象とした積雪は地上からの高さ 80cm(第1面)と 70cm(第2面)に位置する新雪で,測定は雪が止んでから1日後(2 月 28 日), 2日後(2 月 29 日),5日後(3 月 3 日)の3回実施した.測定に際し 2 月 28 日の積雪面からの上 載積雪荷重を指標に対象積雪層を見出して測定を行った.剪断強度はシアーフレーム(断面積 0.025m2)を用いて測定し,一つの積雪層に対して5回以上の測定結果の平均値とした.また上 記2つに加えて高さ 55cm のこしまり雪(第3面)についても測定を行った.これは 2 月 23 日に 道央地方で吹雪が発生したときに形成された積雪である.
第1層
(80cm)第2層
(70cm)第3層
(55cm)65 70 75 80 85 90
0 1 2 3 4 5 6
降雪強度 (cm h
- 1)
積 雪深 (c m )
(a) (b)
密度 120 kg m
- 3第1層
第2層 密度 112 kg m
- 3密度 180 kg m
- 3135 Pa
254 Pa
458 Pa
新 雪 層
垂直荷重
図3 札幌において剪断強度の時間変化を測定した積雪面(a)と積雪形成時の降雪強度(b) (a)は積雪層を厚さ2cm にして太陽光を背景に撮影.(b)は札幌管区気象台の観測資料より.
第1回観測 第2回観測 第3回観測
積雪重量 W1 第 i 面
積雪重量 W1 = W2 = W3 積雪重量
W2 積雪重量 W3 積雪面
第 i 面 第1回観測
の積雪面
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図3b に示す降雪強度は,札幌管区気象台における積雪深の観測データから求めたもので,
26 日以降に積もった新雪層(高さ 65~90cm)に対応させて示した.第3面に対応する降雪強度の 把握は難しいが,この積雪層が積もった 23 日の降雪強度は 1~4cm h-1であった.
3.結果
3.1 中山峠における測定データの解析結果
図4は,中山峠で測定した積雪面Ⅰ~Ⅵの剪断強度と密度の時間変化の推定結果である.積 雪面Ⅰ~ⅣとⅤ~Ⅵで時間変化に違いがある.積雪面Ⅰ~Ⅳは弱層を伴わない式(3)に一致し た時間変化を示し,積雪面ⅤとⅥは最初は弱層を伴う式(2)に近い値だが時間の経過とともに 式(3)に近づく変化を示す.図1c によると,積雪面ⅤとⅥは 5~6cm h-1の大きな降雪強度の 下で形成され,積雪面Ⅰ~Ⅳが形成されたときの降雪強度は 1~3cm h-1であった.なお積雪面
Ⅴの雪温は-6.8~-7.9℃,積雪面Ⅵは-5.9~-7.1℃であった.
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度 (kg m-3) 剪断強度 (kPa)
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度 (kg m-3) 剪断強度 (kPa)
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度 (kg m-3)
剪断強度 (kPa)
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度 (kg m-3)
剪断強度 (kPa)
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度 (kg m-3)
剪断強度 (kPa)
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度 (kg m-3)
剪断強度 (kPa)
第 I 面 第 II 面 第 III 面
第 IV 面 第 V 面 第 VI 面
式(3)
式(2)
(雪温 -6.8~-7.9℃) (雪温 -5.9~-7.1℃)
(雪温 -7.9~-8.7℃)
(雪温 -9.4~-11.5℃) (雪温 -9.1~-11.1℃) (雪温 -8.5~-9.8℃)
図4 中山峠における積雪面Ⅰ~Ⅵの剪断強度と密度の時間変化 2.1節で示した方法による推定結果.破線矢印は時間の流れを示す.
3.2 札幌における観測結果
図5は,札幌における剪断強度と密度の時間変化の 測定結果である.第1面は降雪から2日後にざらめ雪 に変化したため5日後の測定は行わなかった.図5よ り,第2面と第3面は,最初は式(2)に近い値である が時間の経過とともに式(3)に近づく傾向を示した.
この傾向は中山峠の第Ⅴ面と第Ⅵ面と同じである.
図5 札幌における剪断強度と密度の測定結果 破線矢印は時間の流れを示す.第1面は2日後 の測定以降ざらめ雪に変化した.
0.0 1.0 2.0 3.0
0 50 100 150 200
密度(kg m
-3)
剪断強度( kP a)
山野井・遠藤(2002)
Jamieson・Johnston(2001) 第1面
第2面 第3面
式(2) ざらめ雪 に変化 雪 温
(-1.3~-2.0℃)
(-2.3~-4.1℃)
(-1.5~-1.7℃)
式(3)
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図3b より第2面が形成されたときの降雪強度は 5cm h-1と大きく,第3面が形成された 23 日の降雪強度は 1~4cm h-1であった.また第2面と第3面の雪温は,同じ時間変化傾向を示し た中山峠の第Ⅴ及びⅥ面より雪温が高かった.
4.考察
今回測定した新雪やこしまり雪の剪断強度は,最初は弱層を伴う場合の式(2)に近い値とな り,時間の経過とともに弱層を伴わない場合の式(3)に近づく傾向を示した.中山峠と札幌の 積雪は,雪温が異なるもののいずれも大きな降雪強度を伴って形成された.
図6は積雪の剪断強度と圧密過程の関係の概念である.圧密によって積雪密度が増加すると き,雪の内部では様々な物理過程が複雑に関連しながら進行するが,その主なものは粒子の破 砕や再配列による充填と,焼結による粒子間の結合力の強まりである(前野・福田, 1986).こ の物理過程の進行によって剪断強度が大きくなっていくと考えられる.
今回測定した積雪の上載積雪による垂直荷重と圧縮破壊強度を比較すると(図7),垂直荷重 が小さい積雪面付近では,垂直荷重と圧縮破壊強度が同程度であるため圧縮破壊が起きている と考えられる.このため降雪強度が大きい場合,急速に増加した上載積雪荷重によって粒子の 破壊や充填が起こって密度が
増加する.しかし,粒子の破 壊による充填に比べて焼結に よる粒子間の結合力の増加は ゆっくり進行するため,密度 増加に比べて剪断強度の増加 量は小さく(図6),密度との 関係において弱層の剪断強度 に近い値になると考えられる.
図6 剪断強度と圧密過程の 図7垂直荷重と圧縮破壊強度 主要物理過程の関係の概念 (Watanabe(1977)による)の比較 5.おわりに
本論文は2事例の調査結果である.今後,より多くの多量降雪時の積雪について測定を行い,
剪断強度の時間変化に関する具体的なメカニズムの解明を行っていきたい.
参考文献
Jamieson, B., and C. D. Johnston, 2001: Evaluation of the shear frame test for weak snowpack layers. Annals of Glaciology, 32, 59-69.
前野紀一, 福田正己, 1986: 雪氷の構造と物性, 東京, 古今書院, 209pp.
松下拓樹, 松澤 勝, 伊東靖彦, 加治屋安彦, 2007: 低温下の新雪の剪断強度と圧密に関する 観測. 寒地技術論文・報告集, 23, 431-436.
松下拓樹, 松澤 勝, 加治屋安彦, 2008: すり抜け現象を伴う雪崩の発生条件と対策について.
第 51 回北海道開発局技術研究発表会 発表論文集(CD-ROM), ふゆ-10(道).
Watanabe, Z., 1977: The influence of snow quality on the breaking strength. Sci. Rep.
Fukushima Univ., 27, 27-35.
山野井克己, 遠藤八十一, 2002: 積雪におけるせん断強度の密度および含水率依存性. 雪氷, 64, 443-451.
0 1 2 3
0 1 2 3 4
圧縮破壊強度 (kPa)
垂直荷重 (kPa)
中山峠 札幌 等値線 粒子の破壊や再配列による重鎮
焼結による粒子間の結合力の強まり
剪断強度 降雪強度が 大きい場合 降雪強度が 小さい場合