マルコフモデルを用いたバスケットボール日本代表の試合分析 13D8103013K 小林 巧
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2017 年 3 月
あらまし:本研究では,バスケットボールの試合からデータ を集計し,バスケットボールのマルコフモデルを作成する.
そして,作成したモデルを用いてシミュレーションをおこな い,チームの特徴や,勝敗の要因を分析する.
キーワード:マルコフモデル,平均訪問回数 1 はじめに
バスケットボール男子日本代表は長い間世界規模の大会に 出場できていない.そこで,本研究ではバスケットボールの 試合のモデルを作成し,作成したモデルを用いて試合の分析 を行い,日本代表が勝利するための要因を考察した.
2 マルコフモデル
2.1 マルコフ連鎖と推移確率行列
マルコフ連鎖は,マルコフ性をもつ状態空間が離散的な確 率過程である.マルコフ性は, 「時点 𝑛で状態 𝑖にいたとき,
つぎの時点 𝑛 + 1において状態 𝑗に推移する確率は,時点 𝑛 − 1以前にどの状態にいたかには無関係である」という仮 定のことである.状態空間は,すべての集合であり,状態は,
時点 𝑛における確率過程 𝑋
𝑛がとりうる値である.
マルコフ連鎖は,状態 𝑖から状態 𝑗へ推移する確率 𝑝
𝑖𝑗を行 列の形に並べた推移確率行列 𝑃によって推移の構造を表現す ることができる.
2.2 高次の推移確率と状態確率
時点 𝑛(𝑛 = 0,1,2, ⋯ )で状態 𝑖 にいたとき,𝑚 ステップ (𝑚 = 1,2, ⋯ )の推移の後,時点 𝑛 + 𝑚で状態 𝑗にいる確率 𝑝は
𝑝
𝑖𝑗(𝑚)= ∑
𝑁𝑘=1𝑝
𝑖𝑘(𝑚−1)𝑝
𝑘𝑗(𝑁は状態数 ) (1) で与えられる.式(1)を行列の形で表すと
𝑃
(𝑚)= 𝑃
(𝑚−1)𝑃 (2) となり,式(2)より,
𝑃
(𝑚)= 𝑃
𝑚(3) が与えられる.
2.3 吸収的マルコフ連鎖
吸収的マルコフ連鎖は,一度その状態に推移したらいつま でもその状態に留まる吸収状態と,それ以外の一時的状態の 2 種類の状態をもつマルコフ連鎖のことである.
平均訪問回数:状態 𝑖から出発したマルコフ連鎖がいずれか の吸収状態に吸収されるまでに状態 𝑗を訪問する平均回数 吸収確率:一時状態 𝑖から出発したマルコフ連鎖がいつかは
吸収状態 𝑗に推移する確率.
平均吸収時間:いずれかの吸収状態に推移するまでの平均ス テップ数.
3 バスケットボールマルコフモデル 3.1 バスケットボールの概要
バスケットボールとは, 5人ずつのプレーヤーからなる2つ のチームがボールを使って得点を競う球技スポーツのことで ある.各チームともオフェンス,ディフェンスを繰り返し,制 限時間内に得点が失点を上回った方のチームが勝利となる.
3.2 データの集計方法及び状態空間の定義
データは男子日本代表チームが戦った 3 試合を使用する.
一つのチームのオフェンスだけに着目する.コートを 4 つの エリアに分割し,エリアごとにパス,各シュート,アシスト,
リバウンド,ファウル,得点, Play off を状態とし,状態間の 行き来する回数を数える.以上に基づいて状態数が 33 個の状 態空間を定義する.
3.3 集計結果に基づいた推移確率行列の決定
3.2 節に基づいてデータの集計をおこなう.そして,集計結 果を行列 𝐷,要素を 𝑑
𝑖𝑗とし,𝑖行の行和 𝑠𝑢𝑚
𝑖求める.𝐷と 𝑠𝑢𝑚
𝑖から推移確率行列 𝑃を求める. 𝑃の各要素 𝑝
𝑖𝑗は
𝑝
𝑖𝑗= { 𝑑
𝑖𝑗𝑠𝑢𝑚
𝑖1 0
(0 ≤ 𝑖 ≤ 27,0 ≤ 𝑗 ≤ 31)
(28 ≤ 𝑖 ≤ 31,0 ≤ 𝑗 ≤ 31, 𝑖 = 𝑗) (28 ≤ 𝑖 ≤ 31,0 ≤ 𝑗 ≤ 31, 𝑖 ≠ 𝑗) として推定する.
4 マルコフモデルを用いたチーム力の分析
4.1 マルコフモデルを用いた試合のシミュレーション バスケットボールマルコフモデルを用いてシミュレーショ ンをおこない,シミュレーションは4 つのルールに従う.
・各チームのオフェンスのみをシミュレーションをおこなう.
・実際の試合を見て集計した総推移回数に,シミュレーショ ン時の推移回数が達したら試合を終了する.
・ファウルを受け,フリースローが行われる場合のみのファ ウルを考え,他の場面のファウルは考えない.
・ボールが相手に渡った時すべてをPlay off として考える.
シミュレーション実行時における状態の推移は,確率 的に 決まると仮定し,各状態間の推移は乱数を用いてラ ンダムに 決める.吸収状態へ推移したときは,モデルの推移を打ち切 り,初期状態戻る.総推移回数に推移回数が達したら終了と する.
シミュレーションの流れを図 1 に示す.そして,集計した
3試合のシミュレーションを 100 試合ずつおこない, スコア
の平均,各シュートの成功率を出力する.実際の試合と比較 した結果を表 1 に示す.
図1 シミュレーションの流れ
表1 実際の試合とシミュレーションの比較
表 1より,シミュレーションの結果は実際の試合結果に近
いので,モデルの整合性が高いことを示している.
4.2 シミュレーションによる試合分析
集計した3試合のシミュレーションを 100 回ずつおこな う.そして,両チームの平均訪問回数 𝑚
𝑖𝑗,吸収確率 𝑏
𝑖𝑗, 平均吸収時間(吸収状態までに要するステップ数) 𝑡
𝑖を求め て,試合の分析をおこなう.
分析した3試合に共通することは,平均吸収時間が大きい 方,つまり攻撃に時間をかけている方が勝利しているという ことである.攻撃に時間をかけるということは相手の攻撃時 間を削ることができ,相手の得点を抑える効果があり,試合 を優位に運ぶことができると考えられる.また,日本は 2P
シュート (B)を行うという攻撃方法を多く使っていたことが
わかった.しかし,日本の各シュートの吸収確率は 2Pシュ ート(B)の成功率は試合ごとに大きく変わるので,安定して 得点を重ねられない可能性がある.現にチェコに対して 2P
シュート (B)を中心的に使って,2015 年は勝ち,2016 年に
は敗北している.そこで,日本の 2Pシュート (Y)に着目して みると, 3 つの試合すべて成功率4割を超えている.このこ とから,日本は2P シュート (Y) を多く使うと安定して得点を 重ねることができるということが推測できる.
表2 相手チームの各シュートの吸収確率
また,分析した3試合とも共通して日本と戦ったチームは
2P シュート (Y)を中心的に使って攻撃している.表2は各試
合の相手の各シュートの吸収確率である.3試合とも2P シ ュート(Y) の成功率はどの試合も4 割を超えている.日本が 相手チームの得点を抑えるには相手チームに 2Pシュート (Y) を使って攻撃させないようにディフェンスするのが効果的で あると推測できる.
4.3 推移確率を変化させた場合のシミュレーション 4.2 項より日本代表が勝利するための要素が判明したた め,以下の設定で日本が得点を上げられるか,相手の得点を 抑えられるかシミュレーションを行う.
設定 1 :日本チームにおいての 2P シュート (Y) へ推移するよ うなパスを行う確率を上げる.
設定 2 :相手チームにおいての 2P シュート (Y) へ推移するよ
うなパスを行う確率を下げる.
設定1のシミュレーション結果について述べる.図 2よ り,2Pシュート (Y)を行う確率を増やすとシミュレーション において3試合すべての得点が上がった.得点を多く重ねる ために2P シュート (Y) を多く使うことは効果的であることが わかった.
図2 設定1においての得点の変化
設定2のシミュレーション結果について述べる.図 3を見 るとどの試合も少し点数は下がったが,大きく点数は変わっ ていない.これは 2Pシュート (Y)を行う回数を減らした分,
他のシュートに推移するからであると考えられる.表2を見 ると全体的にシュートの成功確率が高い.このため,得点の 大きな変化は見られなかったと考えられる.よって相手チー ムに2P シュート (Y) を行わせないように守ることは,相手の 得点を抑えることに必ずしも有効ではないと言える.得点を 抑えるためにはどれかひとつのシュートをおこなわせないよ うにディフェンスするのではなく,相手のチームのシュート 成功率を下げるようなディフェンスをする必要がある.
図3 設定2においての得点の変化 5.2 おわりに
マルコフモデルを用いることでバスケットボールの試合を ほぼ再現できた.そして,再現した試合から日本代表の特 徴,勝敗の要因を分析し,日本代表が勝利するための要因を 考察した.
参考文献
[1] 小池光太郎,田口東,マルコフモデルを用いたフット サルの試合分析,オペレーショ
ンズリサーチ, vol.51, no.6, pp.334-339,2006.
[2] 2015 年国際強化試合日本vs チェコ戦 https://youtu.be/VfkAZPxpBu0
[3] 2016 年リオオリンピック最終予選日本対チェコ戦
https://youtu.be/-szNl_8ExwE [4] 2016 年Atlas Challenge 日本対中国戦
https://youtu.be/qSqlC7k5ovY
試合 チーム 実際シミュレー
ション 実際 シミュレー
ション 実際 シミュレー
ション 実際 シミュレー ション 日本 65 67.90 0.294 0.293 0.536 0.571 0.308 0.317 チェコ 54 50.89 0.222 0.221 0.464 0.456 0.416 0.360 日本 71 71.66 0.391 0.401 0.364 0.364 0.294 0.317 チェコ 86 86.34 0.346 0.374 0.613 0.587 0.642 0.542 日本 71 70.06 0.417 0.390 0.290 0.319 0.435 0.395 中国 70 69.30 0.333 0.303 0.355 0.403 0.333 0.302 2016
スコア 3P 2P ドリブル
2015 2016