微分積分学 II
浪川 幸彦
November 13, 2007
2 微分とその応用
2.5
複素数関数の微分ここで少し脇道にそれて,1変数複素関数の微分について考える。(複素数の意味で)微分 可能な複素関数は,実関数と全く違う美しい世界を形作っている。例えば一度微分可能であ れば,実は何回でも微分可能である。また複素数関数の世界では指数関数と三角関数が本質 的に同じものになってしまう,等々。
2.5.1 複素数平面
複素数を実部と虚部に分けることにより,複素数を平面上の点と一対一に対応付けること ができる。するとそこで複素数の概念や性質を以下に見るように幾何学的に捉えることがで きる。
本パラグラフの内容については前期の教科書第2章7節(p.76以降)に掲載されているの で参照されたい。
Definition 2.5.1. 平面の点P(x, y)に対し,複素数x+iyを対応させる平面座標を複素数平 面とよぶ。x軸を実軸,y軸を虚軸とよぶ。
Proposition 2.5.2. 複素数平面で,2複素数の和は,対応する位置ベクトルの(幾何学的)和
に対応する。
Exercise 6. 2複素数z =x+iy, z0 =x0+iy0の積zz0 = (xx0−yy0) +i(xy0+yx0)は複素平面 上幾何学的にどのような点に対応するか?
Proposition 2.5.3 (複素数の極座標表示). i)平面の点の極座標表示(r, θ)を用いるとき,複素 数z =x+iyに対応する極座標r =p
x2+y2 をzの絶対値といい,|z|で,θ を偏角とい 1
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い,argz で表す。したがってz=r(cosθ+isinθ)である。
ii)極座標表示した2複素数z = r(cosθ+isinθ), z0 = r0(cosθ0 +isinθ0)に対し,それらの 積は
zz0 =rr0(cos(θ+θ0) +isin(θ+θ0)).
Corollary 2.5.4 (de Moivreの公式).
(cosθ+isinθ)n = cosnθ+isinnθ
Corollary 2.5.5. 複素平面内で,単位円上に頂点を持ち,その一つが1であるような正n角形
の頂点は
zn−1 = 0 のn個の解(1のn乗根)である。
2.5.2 複素数関数の微分
ある領域D⊂Cで定義された複素数関数w=f(z)を考える。微分可能性の定義は形式的 には実数の場合と全く同じである。
Definition 2.5.6. 点zo ∈Dにおいて,極限
zlim→zo
f(z)−f(zo) z−zo
が存在するとき,f(z)はzoにおいて微分可能であるといい,この値をz =zoでの微分係数 という。領域Dのすべての点で微分可能であるとき,微分係数をzの関数と見なして導関 数といい,f0(z)あるいは dw
dz で表す。
Remark. 複素数の場合には「微分可能」関数とは言わず,正則(regular, holomorphic)関数と よぶことが多い。
なおここで収束z →zoとは |z−zo| →0の意味である。したがってz =x+iyと実部・
虚部に分けて書くときz →0はx→0かつy→0と同値である。
定義から容易に実関数と同様の性質の成り立つことが分かる。例えば二つの関数が微分可 能であれば,その和・差・積・商も微分可能であり,また合成関数の微分可能性も同様であ る。すると定数関数およびw=zという関数が微分可能であることはすぐ分かるから,多項 式関数および有理関数が(分母が0にならない限り)正則であり,その導関数は実関数の場 合と同様である(例えば(zn)0 =nzn−1)ことが従う。
一方で,複素数関数を実関数の立場から考えると,全く異なる様相が見えてくる。すなわ ちw=u+iv, z =x+iyと置き,関数w=f(z)を二つの関数f(z) =ξ(x, y) +iη(x, y)で 表すと次の定理が成り立つ:
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Theorem 2.5.7 (Cauchy-Riemannの関係式). 1)関数f(z)が正則であれば,u=ξ(x, y), v = η(x, y)は偏微分可能で,関係式
∂u
∂x = ∂v
∂y, ∂u
∂y =−∂v
∂x が成り立つ。
2)逆にu =ξ(x, y), v=η(x, y)が連続な偏導関数を持てば,f(z)は正則である。
Remark. 実は複素関数は正則であれば何回でも微分可能(Goursatの定理)なので,偏導関
数の連続性も従う。
Proof. 1)x→0とiy →0との変化量の比の極限が一致しなければならない。
2)仮定からξ, η はいずれもx, y の関数として全微分可能である。z = zo = xo+iyo で,
a=ξx=ηy, b =−ξy =ηx と置けば,したがって
u−uo = a(x−xo)−b(y−yo) +ε v−vo = b(x−xo) +a(y−yo) +η
ただしz →zo のときε/|z−zo| →0, η/|z−zo| →0.
これから
w−wo = (a+ib)(z−zo) +ε+iη.
Corollary 2.5.8. 正則関数の実部あるいは虚部は調和関数である。すなわち
∆ξ = ∂2ξ
∂x2 + ∂2ξ
∂y2 = 0, ∆η= ∂2η
∂x2 +∂2η
∂y2 = 0.
Exercise 7. w=f(z)が正則で,しかも|f(z)|が定数ならば,f(z)は定数関数であることを 示せ。
Exercise 8. 領域Dが実軸に関して対称であると仮定する。w=f(z)が正則ならば,w=f(¯z) も正則であることを示せ。
2.5.3 複素指数関数
Theorem 2.5.9 (複素指数関数). 複素数z =x+yiに対し ez =ex(cosy+isiny)
と定義すると,この関数は全複素平面上正則で,かつ任意の2複素数z, z0 に対し,次の指数 公式が成立する:
ez+z0 =ezez0.
これを複素指数関数とよぶ。ez は周期2πiの周期関数である。
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Exercise 9 (Eulerの等式).
eπi+ 1 = 0
Proposition 2.5.10.
(ez)0 =ez Exercise 10. cosz = eiz +e−iz
2 , sinz = eiz−e−iz
2 とすれば,これらは全複素平面上の正則 関数で,2π を周期として持ち,実三角関数と同じ加法定理をみたすこと,同じ形の導関数 を持つことを示せ。
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