《論文》
新幼稚園教育要領領域「表現」における 造形表現の教育的意義の考察
関山均
Z鹿児島国際大学福祉社会学部論染第39巻第3号
/論文
新幼稚園教育要領領域「表現」における 造形表現の教育的意義の考察
関山均
和文抄録:新幼稚園教育要領が平成29年に告示され、平成30年に施行された。領域「表現」の造形表 現においても保育の質的改善が求められている。本稿では、幼稚園教員の免許を修得する学生への指 導を目的として、今回の改訂の趣旨やこれまでの実践例を踏まえ、幼稚園と連携してきた小学校教員 としての経験を生かし、また本学での授業を振り返りながら、新幼稚園教育要領に則した領域「表現」
における造形表現はどうあればよいか考察することとした。最終的に本学の授業科目「保育指導法(表 現Ⅱ)」の授業構想を提示したいと考える。考察に当たっては、領域「表現」の変更点、幼稚園教育要 領及び幼児造形の変遷、小学校における「造形遊び」との関連などの視点からアプローチを行った。
キーワード:領域「表現」、幼小連携、造形表現、感性、表現力
1.はじめに
本年度、学生の幼稚園実習終了の報告に「子どもたち一人ひとりに寄り添う指導や遊びが学びにどのように してつながっていくのか、実際に目で見て確かめることができた10日間でした。」とあった。その言葉に、各幼 稚園が幼稚園教育要領の改訂の趣旨に則り、学生に適切な指導をしていただいていることを感じることができ た。一方、ある設定保育において、 「紫陽花の色はいつも青で着彩させます。」と指導を受けた実習生が、教師 主体の固定化した考え方に納得できず、子供の思いに沿った色で着彩させたいとの願いからそのように指導し たと実習後の感想を話してくれた。
改訂における教育内容に対する指導者の正しい理解は必要不可欠である。なぜならその正しい理解が得られ なければ、その教育内容に込められた教育的意義本来の効力が発揮されないからである。指導者は、常に教育 の本質に立ち返り、 目の前の子供たちにとって何が大切であるか、将来を見据えた「子供自らの力で生き抜く 力」を育めるよう関わってほしいのである。
本稿では、領域「表現」の変更点、幼稚園教育要領及び幼児造形の変遷、小学校における「造形遊び」との 関連などの視点から、新幼稚園教育要領に則した領域「表現」における造形表現の教育的意義を考察すること
とした。
2.領域「表現」における変更点から
平成29年に告示された幼稚園教育要領の領域「表現」と関わりのある主な変更点をあげる。
○第1章「総則」第1 「幼稚園教育の基本」
関山均:新幼稚園教育要領領域「表現」における造形表現の教育的意義の考察3
前文に「幼児が身近な環境に主体的に関わり、環境との関わり方や意味に気付き、これらを取り込もうとし て、試行錯誤したり、考えたりするようになる幼児期の教育における見方・考え方を生かし」、 また後文に「教 材を工夫」の文言が加えられた。
○第2幼稚園教育において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」 (新設)
1 幼稚園においては、生きる力の基礎を育むため、この章の第1に示す幼稚園教育の基本を踏まえ、次に 掲げる資質・能力を一体的に育むよう努めるものとする。
(1) 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりする「知識及び 技能の基礎」
(2) 気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり表現した りする「思考力、判断力、表現力等の基礎」
(3)心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」
3次に示す「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、第2章に示すねらい及び内容に基づく活動全体 を通して資質・能力が育まれている幼児の幼稚園修了時の具体的な姿であり、教師が指導を行う際に考慮す るものである。
(10)豊かな感性と表現
心情を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感 じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味 わい、意欲をもつようになる。
○「表現」領域の「内容の取り扱い」
(1)に新たに「豊かな感性を養う際に、風の音や雨の音、身近にある草や花の形や色など自然の中にある 音、形、色などに気付くようにすること」の文言が加えられた。
(3)に「様々な素材や表現の仕方に親しんだり」の文言が加えられた。
このように今回の改訂で、幼稚園教育において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育ってほし い姿」が明確にされ、「表現」領域の内容の取り扱いの一部が改善された。基本的には、前回の幼稚園教育要領 を踏襲したものとなっている。今回の改訂により、幼・保・小・中・高等学校まで、校種及び各教科の違いに 関係なく育てたい資質・能力が三つの観点で整理統一されたこと、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿が示 されたことで、小学校との接続がより明確になるとともに子供をどのような観点から指導すればよいか、また 指導と評価の観点が今まで以上に明確化され指導者の子供への関わりが充実できるものと考える。幼稚園教育 においても、未来に向け大きく成長するであろうこれからの子供たちの資質・能力の基礎を培う意味で一屑重 要となってくる。ただ、これまでも幼児教育において「知識・能力」、 「思考力・判断力・表現力」、 「心情・意 欲・態度」の三つを併せもったものを「資質・能力」と捉えて実践してきており、 10の姿は幼小接続にあった 12の力を整理したもので特別目新しいものではないのかもしれない。しかし、急激に変化する社会を生き抜く 子供にとってこれからの人生の基礎がこの時期に創られると言っても過言ではない。
また、 「幼児が身近な環境に主体的に関わり、環境との関わり方や意味に気付き、これらを取り込もうとし て、試行錯誤したり、考えたりするようになる幼児期の教育における見方・考え方を生かし」には、幼児教育 における「主体的・対話的で深い学び」の捉え方が示されているものと考える。幼児は遊びを通して、モノや 環境に主体的にかかわり活動や対話を繰り返し、振り返る中で、それらの価値や意味に気付き、 自分の見方・
考え方を形成し生かしていく。そして「身近にある草や花の形や色など自然の中にある形や色などに気付くよ うにすること」とは、造形的な見方・考え方を高めるための基礎となる造形的要素である形や色に気付かせる ものであり、図工・美術教育の本質をとらえる「深い学び」へとつながるものであると考える。一方「様々な 素材や表現の仕方に親しんだり」は、先に述べた「身近な環境」であり 「環境との関わり方」であると捉える。
様々な素材とは、子供にとって魅力ある身近な自然材や人工材などであり、子供たちがそれらと関わる中で生
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まれる親しむべき様々な表現の仕方である。子供たちは、表現を楽しみ工夫する中で素材の形や色などの特性 を捉え、自分なりの使い方や生かし方へと自らの力で表現を広げ深め、表現力や意欲などを高めていくもので あると考える。
指導者はこれらの変更点を踏まえ、子供たちのやることをあらかじめ決めて、そこに上手く乗せていく保育 ではなく、子供たちが遊びを通して自ら身近な環境に働きかけ、気付き、感じ、表現しようとする思いや願い、
イメージする世界、友達などに伝えようとする姿や心の動きを温かく見守り、共感し、心ゆくまで楽しめるよ うに寄り添い、丁寧に支えることで、表現する喜びを十分に味わい満足し豊かな感性を養うことができる保育 であるべきだと考える。そのために、幼児の興味や関心を引き出すような魅力ある豊かな環境を創り続け、子 供たちの主体的な活動を引き出していくことが大切である。
今回の改訂の変更点を考察することで小学校教育との接続がより明確になるとともに、教科の枠組みにとら われることのない子供の遊びの中から生まれる自由で自発的ですなおで魅力ある造形表現やその過程において 育まれる資質・能力を捉え続けることの教育的意義の重要性を改めて考えさせられる。
3.幼稚園教育要領及び幼児造形の変遷から
日本の保育制度は、 1872(明治5)年学制に規定されたことに始まるが、 1876(明治9)年の東京女子師範 学校附属幼稚園(現在のお茶の水女子大学附属幼稚園)での保育が実際の始まりである。当時の保育内容は、
今では考えられないことだが子供を未完成なものと捉え、訓練的な方法で体得させることに重きが置かれ、い ずれも保育者の指示通りに模倣させるものであった。特にドイツの教育者で、幼稚園の創始者として知られる フレーベルが考案した恩物を使って行う内容が大きな柱となっていた。大正に入ると、恩物中心主義からの脱 却や欧米で起こった児童中心主義や自由教育の思想を取り入れた保育が唱えられるようになった。今日の保育 に多大な影響を与えた倉橋惣三は、フレーベルの幼児教育の精神に深く傾倒しながらも、形骸化した恩物を中 心とした保育を否定した。しかし、一般的には、旧来の保育が行われていたことも事実である。造形の分野で は、クレパスを普及させた山本鼎の唱えた「自由画」や、「自由切紙」も登場した。しかし、一般的には塗り絵 的な活動の方が盛んだったようである。昭和になり、戦争により幼児中心主義の保育は影を潜めた。この時期、
創造性を主体とする美術教育の先覚者であるフランツ・チゼック (Cizek・F1865〜1946)は、 「子供たち自身に よって成長させ、発展させ、成熟させよ」と主張し日本に影響を与えている。
戦後、 1947年教育基本法、学校教育法が施行され、幼稚園が学校教育機関に位置付けられ、また、児童福祉 法も制定され、託児所も保育所として発足した。1948(昭和23)年、文部省から「保育要領一幼児教育の手引 き−」が刊行された。「まえがき」には、幼稚園教育の目標の達成に努めることが記され、留意点として「出発 点となるのは子供の興味や要求であり、その通路となるのは子供の現実生活である」こと、「教師はそうした幼 児の活動を誘い促し助け、その成長発達に適した環境をつくることに努めなければならない」ことが記されて いる。そこに幼児教育の重要性と幼児主体の保育が提唱されている。保育内容は、12事項(絵画、製作を含む)
が記されている。幼児の生活や主体性を重視した内容の手引きではあったが、実際にその本質を理解し実践す るにはまだ時間が必要であった。
この時期、 1952(昭和27)年に結成された創造美育協会(創美)は、アメリカの美術教育者ローウェンフェ ルド(Viktor.Lowenfeldl903〜1960)を始め海外教育者の紹介や研究会を行っていた。また本協会内部では、
イギリスの美術批評家ハーバート・リード(Herbertl893〜1968)の思想も浸透していった。リードの著書は 昭和20年代終わりから30年代前半にかけ積極的に翻訳刊行された。「芸術的表現活動が人間の精神活動一切を包 括する創造的活動の基礎である」ことを説いており、この壮大な思想は日本の教育及び芸術領域の教師や芸術 家に受け入れられた。また、小学校の教育内容は、できるだけ教科の枠に捕らわれず統合して学習されるべき であり、 「遊び」の形態をとるべきであると提言している。
1956(昭和31)年に「保育要領」は、名称を「幼稚園教育要領」と変え、保育内容が新たに6領域(健康、
関山均;新幼稚剛教育要領領域「表現」における造形表現の教育的意義の考察5
社会, 自然、言語、絵画製作、音楽リズム)に区分された。造形分野における名称は、当初「絵画」、 「製作」
とつけられていたが、「絵画製作」となった。この領域区分は保育内容を組織的に捉え、指導計画を立案しやす く分類されたもので「幼児の具体的な生活経験は、ほとんど常に、これらいくつかの領域にまたがり、交錯し て現れる」こと、「小学校以上の学校における教科とは、その性格を大いに異にする」ことが注意点として記さ れ、指導計画作成の配慮事項にも「もともと幼児の生活には、このような分化はない」ことが強調されていた。
にもかかわらず幼稚園教育要領は、「自由遊び」主軸のものから、教師主導の小学校的なものと言われるように なったため、幼児教育の特質と独自性を明確にし、教育内容の刷新充実を図ることが必要となった。
1964 (昭和39)年に、幼稚園の教育は、小学校の準備教育ではないこと、知識・技能の習得に偏った教育を 改めること、家庭との連携を密接に図ることなど検討され幼稚園教育要領が改訂された。これ以降の幼稚園教 育要領は、小・中・高等学校と同様に、文部省告示として公示することとされ、教育課程の基準としての性格 が明確化された。「目標」の項目は無くなり、「基本方針」が11項目示され、幼児に培われてほしい態度等と「幼 児の生活経験に即し、その興味や欲求を生かして、総合的な指導を行うようにすること」などの幼児の特質に 関する留意事項が示された。6領域はそのまま踏襲され各項目に「幼稚園修了までに幼児に指導することが望 ましいねらい」と「指導上の留意点」が示された。その後暫く改訂は行われなかった。
1989年(平成元年)に、幼児を取り巻く環境の変化、都市化、核家族化、少子化により家族や地域社会の「養 育力の低下」に対応するために幼稚園教育要領2回目の改訂が行われた。幼児の自発的な遊びの重要性が改め て訴えられ、「幼稚園教育は環境を通して行うものである」ことが幼稚園教育の基本として明示された。目標は 心情、意欲、態度が基本となり、保育内容は5領域(健康、人間関係、環境、言葉、表現) と改められた。教 師の援助の方向性が示されなかったこともあり、一部に自由放任の保育が現れたともある。1998(平成10)年 に教師の役割が明確に示され、指導計画作成の留意事項に「幼児の主体的な活動を促すためには、教師が多様 なかかわりをもつことが重要であることを踏まえ、教師は理解者、共同作業者など様々な役割を果たし、幼児 の発達に必要な豊かな体験が得られるよう、活動の場面に応じて、適切な指導を行うようにすること」と新た に明記された。
教育基本法(2006年)と学校教育法(2007年)の改正で幼児期の教育が規定され幼稚園が学校教育の最初の 段階として明確に位置づけられた。2008(平成20)年に、先の改正や社会状況の変化に伴い幼稚園教育要領の 改訂がなされた。「幼稚園教育の基本」の冒頭には「幼児期における教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培 う重要なもの」と記され、幼児教育の重要性が強調された。その他、幼小連携や預かり保育、子育て支援の推 進、園と家庭の連続性を踏まえた幼稚園教育の充実が示された。
2017(平成29)年に幼稚園教育要領と同時に、保育所指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂 され、 3歳以上の教育の共通化が図られた。「幼稚園教育において育みたい資質・能力」、方向目標として「幼 児期の終わりまでに育ってほしい姿」10項目が新たに示され、小学校との接続が明確化された。
以上、幼稚園教育要領及び幼児造形の変遷を振り返ると、軒余曲折を通して、改訂を重ねるごとに課題の解 決が図られ、現在の保育がどのような流れの中で確立されてきたかが分かる。今後、急激な社会変化に伴い、
より一層の質の高い幼児教育が求められていくであろう。幼児教育に関わる指導者は、時代の流れや時代の要 請、教育の現状などを踏まえ、改訂された幼稚園教育要領の趣旨や内容をしっかりと捉え、常に幼児期の子供 たちにとっての教育はどうあればよいか、時代や周囲の声に翻弄されることなく、 目の前の子供たちの姿に学 ぶ保育実践を積み重ねながら、問い続けることが指導者としての責務であると考える。時代の変化を真っ先に 捉えて造形表現としてあらわにしているのは、今まさにそこにいる子供たちなのかもしれない。そのため指導 者は、子供の表現に学び続ける姿勢を忘れてはならない。
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4.小学校の図画工作の内容「造形遊び」との関連から
1977(昭和52)年の小学校学習指導要領の図画工作の改訂において、これまでの内容である絵画、彫塑、デ ザイン、工作及び鑑賞の5領域が「表現」、 「鑑賞」に統合され、低学年の表現領域の中に「造形的な遊び」が 加わった。その後、平成元年の改訂で「造形遊び」と改称されて中学年にも位置付けられ、平成10年の改訂で は高学年にまで位置付けられた。
30年程前、中学年に造形遊びが取り入れられた際に、小学校教諭であった私は、「木切れで遊ぼう」の授業を 4年生での造形遊びは初めてという子供たちを対象に行ったことがある。
実践後の子供たちの感想として、
「作っているとき、どきどきした」、「自由にできて好きなように動ける方が楽しい。決められると間違ったと き間違いが目立つみたいだから」、 「木切れでもたくさん遊べることを知った」、 「アイデアによって木が変身し た」、 「木って堅い。模様がある」、 「木が好きになった」、 「木に対する見方が変わった」、 「のこぎりの使い方が 上手くなったみたい」、「粘り強さが大切なことを学んだ」、「もっと大きな木で大きなものをみんなで作りたい」
などがあった。
私は実践後の考察に「4年生の子供たちは、造形遊びの学習を他の内容の学習以上に楽しいと感じ取ったよ うである。様々な理由が考えられるが、やはり 『いろいろな形の木切れで、自分の作りたいものを、友達と一 緒に自由に作れた』ことに魅力があり、そこに大きな喜びを感じたようである。また、一見遊んでいるように しか見えない子供たちの活動も、子供たちの内面に、それぞれ造形遊びの学習としての意義を見出すことがで きる。 (略)」と記している。
今、実践を振り返って感じることは、中学年で初めての実践であったにもかかわらず、子供たちは、遊びな がら身近な木切れに働きかけ、新たなイメージや形をつくり出し、木切れという素材を改めて知り、その過程 において自分にとっての意味を見出し、喜びや達成感を感じており、造形遊びは子供本来の表現の姿を生み出 し、欲求を満たす大切な活動となっていた。しかし、造形遊びが小学校の図画工作に位置付けられ約40年が経 とうとしているが、果たして教育現場に定着しているか甚だ疑問である。実際に現場の先生方からは、「造形遊 びのねらいがよく分からない」「どう指導してよいか分からない」「子供の表現をどう見取っていけばよいのか 分からない」などの声が未だに聞こえてくる。それは造形遊びの教育的な意義が十分に理解されていないから であろう。果たして幼稚園においては大丈夫であろうか。
昭和52年、平成元年の学習指導要領の改訂に関わり、 「新しい学力観」の構築と普及、 「造形遊び」の制定に 関わった西野範夫(1986〜1994文部省教科調査官及び視学官)は、子供を主体とする「造形的な遊び」を取り 入れることで、当時の絵画指導への偏りや技術的な指導への偏りなど教師中心主義的な傾向の教育改善を図っ たとされる。西野氏は、造形遊びをあえて定義するならば「子供たちが、自分の可能性としての有能さ、例え ぱものなどを感じ、関わり、そして何事かをてがけ、そこにとりあえずの、あるイメージをつくり出すものを 存在させ、それをテクストとして関わり、さらに新たな意味を生産ないし生成するテクスト的な意味空間にお ける限りない意味生成の活動」であると述べている。造形遊びは、あくまでも子供の「生」に委ねられた行為 の事実からの論理で、 「遊び」の論理や現代美術の流れによるものではないとし、造形遊びは、 「遊び」がもつ 教育的可能性、つまり「遊び」に内在する自由さ、柔軟さ、意外性・冒険性などの「遊び性」に着目したもの であるとしている。
造形遊びの教育的意義とは、 「遊び」がもつ教育効果を生かし、子供の可能性の伸張、諸感覚の発達を促し、
「私」を確立させ、それぞれの子供の個性ある表現を生み出すことであるとしている。指導者は、作品主義や子 供の存在・表現を正しく理解しないような価値観や、大人の価値観に留まり表面的な指導をしてしまうと、子 供たちの可能性を発見し伸ばすことはできない。子供たちの遊びの中に溶け込み共に遊びを楽しみ、子供たち によって生み出された造形的な行為を認め励まし、子供の目線に立って素直に学ぶことこそ子供主体の子供の
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理念に立った指導となる。子供になりきって子供たちと同じ造形遊びの体験をする教師自身の学び直しが大事 である。そのためにも本学の学生にもこの造形遊びの学び直しを体験させることは必要不可欠であると考える。
5.本学の授業科目「保育指導法(表現Ⅱ)」の授業構想
ここまで、領域「表現」の変更点、幼稚園教育要領及び幼児造形の変遷、小学校における「造形遊び」との 関連などの視点から、新幼稚園教育要領に則した領域「表現」における造形表現の教育的意義を考察してきた。
これまでのことを踏まえ、養成校としての本学学生の授業にどのように反映してきたかをこれまでの授業を振 り返って述べてみたい。
これまで3年間、 「図画工作」、 「絵画」、 「立体造形」、 「保育指導法(表現Ⅱ)」の授業に学生とともに取り組 んできたが、描いたり製作したりすることへの苦手意識をもっている学生が多いことに驚いた。理由の多くは 自分の思うように描けない、作れないなど、自分の表現に自信がもてないでいるためであるが、注目すべきは、
指導者が作品に手を加えたり、 もっとこのように描きなさいと自分の思いとは違う指導をされたりして嫌いに なった学生が多くいることである。指導者として子供の前に立つ以上、少しでも表現することを好きになり表 現することの楽しさを子供たちに伝えられる指導者であってほしい。子供の表現にはそれぞれよさがある。そ れを認め、褒め、方向性を示すことで子供たちは意欲的に取り組むようになる。そのため、学生自身のもつ子 供の表現のよさを見取る力を高め、どのように子供たちに関わっていったらよいかを伝えている。また、学生 がじっくりと表現に取り組めるように授業内容を精選し、学生それぞれの表現を見守り、よさを賞賛して粘り 強くかかわれるようにしてきた。その結果、多くの学生は自ら授業に真剣に取り組み、表現することの楽しさ を味わい、下記の授業感想にもあるように苦手意識を少しずつ解消してきている。
「私は、図画工作の授業を振り返って学んだことや新しい発見がたくさんあった。一つ目に教師という立場に 立って授業を見ることで、先生が学生に向かって決してマイナスな言葉はかけずに、次に繋げていけるような 言葉を必ずかけていたこと。二つ目に絵を描く際に失敗を恐れ大胆に描くことをしてこなかった私が、今回大 胆に描くことに挑戦し、少し苦手意識をなくすことができたこと。私の中ではとても大きな変化であり、この
コロナによる自粛期間中も落書きのようなイラストを描くまでになった。 (学生2年A・K)」
ここで、 2年生を対象とした保育士資格及び幼稚園教諭一種免許を取得するための必修科目である「保育指 導法(表現Ⅱ)」の授業の構想を、これまでの授業を振り返りながら述べる。
【授業の概要】
乳幼児期における造形表現の意義や発達段階、ねらい.内容、題材や支援の在り方などを講義や題材演習(製 作活動、保育案作成、模擬保育など)を通して体験的に学習する。 (保育士資格、幼稚園教諭一種免許を取得す るための必修科目)
【授業計画。授業内容】
第1回オリエンテーション授業のねらい。内容・方針、自己紹介・各自の本授業の目標設定(大福帳に記 入)、教材研究の意義.進め方及び保育指導案の書き方(コロナによるオンライン授業時の前もっての 対応)
第2回乳幼児における造形表現の意義や発達段階(0歳から18歳までの絵の発達段階)
第3回「保育所保育指針」、 「幼稚園教育要領」、 「幼保連携認定こども園教育・保育要領」のねらい.内容及び 領域「表現」の変更点、幼稚園教育要領及び幼児造形の変遷
第4回「しんぶんしであそぼう」
第5回「えがいてあそぼう」フィンガーペインテイング、スタンピングなど 第6回第4.5回の活動後の考察、グループ・全体協議
第7回 「ねんど(水粘土)であそぼう」
第8回多様な材料による表現「紙コップ、空き容器であそぼう」
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第9回「しぜんざいであそぼう」落ち葉、花、草、木の実などによる表現
第10〜12回題材の選定・決定、試作、保育指導案作成・検討・修正、模擬保育・保育研究の進め方、保育者・
支援者・司会者・記録者などの決定、模擬保育の準備(発問・板書、材料・用具など)
第13〜14回模擬保育・保育研究
第15回後期まとめ(大福帳に後期全体の授業を振り返りまとめる)
第1回では、本授業の概要を説明し、各自目標を設定する。毎時間の学びを振り返る「大福帳」に記入する よう伝える。オンライン授業を考えての準備は今や必要不可欠である。
第2.3回では、乳幼児期における遊びや生活を通しての造形表現の教育的意義を幼稚園教育要領や保育所 保育指針、本学で作成した「幼児・初等教育入門」の第4章幼児の造形表現の基礎などを使っておさえる。特 に先に述べた今回の改訂の「表現」領域の変更点の考察を踏まえ造形表現の教育的意義を捉えさせることで、
実習や将来の実践における考え方の基礎づくりができるものと考える。また、乳幼児の表現への理解を深める ために絵の発達段階を実際に乳幼児が表現した絵を使用し、子供との関わり方も含めて具体的に説明を行う。
絵を通しての子供の発達段階を初めて知る学生は多く、子供の絵を尊重することの大切さや子供への関わり方 の重要性を学んでいる。
「造形表現を通した子供の発達や心の育ちに強く魅了された。実際に子供の描いた絵を見ると幼少期に戻った ような温かい気持ちになった。母親にお洋服を着せてもらうあの何とも言えない絵に強く惹かれた。発達を学 べば、子供の気持ちが分かる。子供の気持ちが分かれば、自分自身が変わる。このようなサイクルで少しずつ 考え方の│幅が広がったように思う。 (学生2年A・M)」
さらに子供一人一人の表現のよさを絵からどう見取るかは、少しでも学生の見方.感じ方の視点を広げ高め る上で、今後さらに、協議の機会や時間確保が必要と考えている。
第4回から第9回までは、先の小学校の「造形遊び」との関連でも述べたことを踏まえ乳幼児が体験するで あろう造形遊びを乳幼児に立ち返って学び直しを行うこととした。学生は最初、新聞紙や絵の具などでどう遊 んでよいのか戸惑うが、徐々に友達の様子を見たり相互に関わる中で活動を楽しみ始める。さらに、子供が何 を感じ、表現し、楽しんでいるのか、そしてどんな力が身に付いていくのかを協議・分析することで、より子 供の側に立った視点での学びへの理解が深められるのではないかと考え、活動後の学生同士による協議・分析 の場を取り入れることとした。特に広幅用紙へのフィンガーペインテイングは好評であった。
「本授業で一番心に残った活動は、フィンガーペインテイングです。普段大きな紙に絵の具で直接描くことは ないので、凄く新鮮でした。色を重ねると濁り汚い色になるのではないかと思っていたが、回数を重ねて模様 を描くと下の色が出てきて新しい美しい色ができてくることに感動しました。自分自身小さい時にそんな経験 はあまりしてこなかったので、将来、保育で子供たちとやりたいです。 (学生2年M・ I)」
第10回から第12回までは、グループ毎に、題材を選定し、保育指導案を作成し模擬保育保育研究を行って いる。学生はそれぞれの活動のよさを新鮮に感じ受け止め、指導者として緊張感を味わい真剣に学びを広げ深
めている。
「今日まで、自分のグループを含めて6グループの模擬保育を見てきて、授業の進め方や題材における準備や 指導案書き方など多くのことを学んだ。実際に授業を指導者の立場から見てみると、これまで気付くことのな かったことや、私だったらどのように授業を進めるかなど様々な視点が培われたように感じる。保育研究では、
みんなの意見や先生の意見を聞いて、気付く点や共感できる点などすごく充実した時間だった。子供の立場に なって授業を受けてみると、この時子供はこんなことを感じているのではないかと思うことや、先生の発言や 説明はこんな風に聞こえているのだというように、子供からの視点になることの大切さを学んだ。私は、人の 前に立つことや文章表現が苦手だと感じていたので、今回の講義ではどちらも少しだけ克服できたように思う。
実際に実習や指導者となった時に、今回気付いたことや新しい視点などを忘れずに活かしていきたい。初めて 指導案から保育までの流れを経験できて本当によかった。 (学生2年M・M)」
「子供は素直であるから、子供にしか分からない感覚や視点をもっている。子供の感性を大切にし、尊重する
関山均:新幼稚隙I教育要領領域「表現」における造形表現の教育的意義の考察9
ことを忘れず指導を行うことができる教師を目指したい。 (学生2年M・N)」
6. まとめ
新幼稚園教育要領に則した領域「表現」における造形表現はどうあればよいかを教育的意義について考察し てきた。急速に変化する社会において、子供たちは遊び場や時間を失いつつある。幼稚園や保育園の場におい て、 しっかりと造形表現の場を保証していく必要がある。同時に、小学校における不登校や登校しぶりなどの 問題の多くは、幼少期までに「心の基地」が確立されなかったことによることが多い。子供たちが、幼稚園・
小学校と新しい世界に好奇心をもって踏み出すためには、乳幼児期に「愛着形成」が保証される必要があり、
造形表現においても個々の子供たち一人一人が新しい視点によって自由に表現できることを保証されていく必 要があると考える。
将来教師として子供たちの前に立つ学生が、造形表現に関わる改訂の教育内容に込められた教育的意義を しっかりと理解することは、指導者としての私に課せられた義務である。今後も実践を通す中で、よりよい指 導の在り方を探っていきたい。
【引用文献】
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【参考文献】
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Astudyoftheeducationalsignificanceofmodelingexpression inthenewkindergartenteachingproceduresarea"Expression''
HitoshiSEmYAMA
Thenewkindergartenteachingprocedureswasamlouncedin2017andcameintoeffectin2018.Thereisalsoaneedto mprovethequalityofchildcareinthemodel加gexpressionoftheareaGGexpression''Inthispapel;first, fbrthepurposeof instructingstudentswhohaveacquiredalicensefbrkindergartenteachers,basedonthepurposeofthisrevisionandprac‑
ticalexamplessofar,wewillmakeuseofourexperienceasanelementaryschoolteacherwhohascollaboratedwithkin‑
dergarten,andalsoteachatouruniversity.Whilelookingbackon, ldecidedtoconsiderwhatthemodelingexpression shouldbeintheareaG6expression'' inaccordancewiththenewkindergartenteachingprocedures.FinallyJwouldliketo presentthelessonconceptofthelessonsuWect"ChildcareTbachingMethod(Expressionn)ofourumversity. Inconsid‑
eringthis,IapproachedfifomtheviewpointsofchangesintheareaGcexpression'',changesinkindergartenteachingproce‑
duresandinfantmodeling,andlalsoapproachedfifomtherelationshipwith66modelingplay'' inelementaryschools.
KeyWo1.ds:area"expression",coIjunctionbetweenpreschoolandelementaryschool,modelingexpression, sensibilitM
express1veness