第5回世界認知行動療法学会 (5th World Congress of Behavioral and Cognitive Therapies) 発表記
著者 福井 至
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 8
ページ 93‑96
発行年 2008
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010051/
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要第8集
第5回世界認知行動療法学会
(5th World Congress of Behavioral and Cognitive Therapies)
発表記
福井 至
東京家政大学心理教育学科 准教授
東京家政大学海外研修補助費を受け、2007年7 月11日〜14日にスペインのバルセロナで開催さ れた、第5回世界認知行動療法学会(5th World
Congress of Behavioral and Cognitive Therapies)で
研究発表を行った。発表題目の1つは、写真1の もので The construction of a cognitive−
behavioral model of obsessive−compulsive disorder
であった。この発表は、筆者が筆頭発表者であり、
連名発表者が矢野啓明(本学大学院卒業生旭神 経内科リハビリテーション病院臨床心理士)と、
高林夏樹(本学大学院卒業生 原田メンタルクリ ニック)、野口恭子(本学大学院修士2年)であ った。この研究は、強迫性障害のスキーマと症状 を測定する質問紙を開発し、それを用いて強迫性 障害のスキーマと症状との関連を説明できる認
写真1筆者の発表
知行動モデルを開発するという、筆者が連名発表 者とともに行ってきた研究をまとめたものであ
った。また、もう1題は写真2のもの
で、 Verification of the effe ct iveness of exposure therapy fbr spider phobia using near−infrared
spectroscopy であり、筆頭発表者が本学大学院修 士2年の長谷川誠であり、筆者と、梅景正(東京 大学講師)と、Douglas Eames(赤坂クリニック)、
吉田栄治(赤坂クリニック)、宇佐美英理(赤坂 クリニック)、貝谷久宣(赤坂クリニック)が連 名発表者であった。この研究は、単一恐怖に対す
るエクスポージャー治療中の前頭前野の脳血流 量がどのように変化するかをNear−lnfrared Spectroscopy(NIRS)を用いて解明した研究であ
った。
写真2 東京家政大学大学院修士2年長谷川誠君 の発表
東京家政大学文学部心理教育学科 臨床心理第 一研究室
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第5回世界認知行動療法学会(5 h World Congress of Behavioral and Cognitive Therapies)発表記
写真3 質疑応答の様子
筆者が発表した研究は、現在世界的に研究が進 んでおり、治療効率のよい治療プロトコルの開発 が進んでいる分野の研究であった。そのため、強 迫性障害の治療で世界的に有名なロンドン大学 のポール・サルコフスキス教授など多くの研究者 が訪れてくれ、有益な質疑およびディスカッショ ンをすることができた。特に、最近研究の進んで いる強迫性障害に関連する侵入思考については、
いろいろな研究者から現在研究中の内容も含め、
いろいろなサジェスチョンをいただいた。また、
長谷川君が発表した、エクスポージャー実施前後 と実施中の脳血流量の変化についても、こちらも 脳機能に関する世界の最先端の研究の1つであ り、写真3のように多くの研究者と有益なディス カッションを行うことができた。
写真5Adrian Wells教授と筆者
写真4長谷川誠君とJudith S. Beck博士 ところで、筆者らの発表は14日の午前であっ たが、筆者は11日のPre−Congress Workshopか
ら参加した。筆者の参加したワークショップは、
ニューヨーク認知療法センター所長のJeffe ry Young博士による、「スキーマ・セラピー:治療困 難なパーソナリティ障害のための認知行動療法」
というワークショップであった。この治療法は本 年度、筆者らが監訳者として出版した「境界性パ ーソナリティ障害臨床ガイドブック」(日本評論 社)に、パーソナリティ障害の有望な治療法とし て紹介されていたものであった。ワークショップ に参加してみると、やはり世界中の学者・臨床家 が注目している治療法であることがわかった。こ の治療法は東洋圏ではまだ広まっていないため、
ワークショップに参加していた旧知のInge大学
写真6Thomas Borkovec教授と筆者
福井 至
医学部の臨床教授であるYounng Hee Choi博士と 赤坂クリニックの貝谷久宣理事長の発案で、来年 度韓国と日本で招聰講演を行う計画が進んでい
る。また、筆者と貝谷理事長の監訳でJeffery Young博士の著書の翻訳出版の計画が進んでい
る。
また、この学会には世界中の著名な研究者が多 く参加しており、我々も写真4,5,6のように、多 くの著名な学者と直接ディスカッションするこ とができた。写真4は、認知行動療法の開発者の 一人である前ペンシルバニア大学医学部のAron T.Beck教授の娘さんで、現在ベック認知療法研 究所所長のJudith S. Beck博士と長谷川君である。
Judith S. Beck博士の著書の一つは、「認知療法実 践ガイド」(星和書店)として日本語に訳されて おり、筆者のゼミではこの本をテキストとして用 いている。この本の中にある逐語記録を用いて、
授業でロールプレイを実施していることを話す と、とても効果的なカウンセリング訓練であると して大変に喜んでおられた。また、写真5は、社 会不安障害の認知行動モデルで有名なマンチェ スター大学のAdrian Wells教授である。筆者は、
臨床活動においてロンドン大学のDavid M. Clark 教授とWells教授の開発した社会不安障害の治療 プロトコルを用いており、その治療効果の高いこ
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写真7筆者らの開発したCCBTプログラム
とに驚いていた。Wells教授とのディスカッショ ンでは、メタ認知療法の治療効果が高く治療期間 も短くてすむことを教えられ、9月17日に東京 で行われたCBTセミナーでも再会でき、メタ認 知療法について詳しく説明してもらうことがで きた。さらに、写真6は、不安障害の治療法で有 名なペンシルバニア大学のThomas Borkovec教授 と筆者である。筆者は、Borkovec教授の単一恐怖 などの不安障害に関する理論を、「全般性不安障
害の認知行動療法」(心療内科 第9巻4号
P255〜P260)で紹介していた。このことを話し、全般性不安障害の認知行動療法についてお話す ることができた。
また、本学会は世界中から約3500名の研究者 が参加しており、うつ病、不安障害、統合失調症 などの19のテーマに分類された、多くの発表が 行われた。東洋圏からも約250名の参加があり、
日本からの参加者は100名を超えていたのでは ないかと思われる。それらの発表の中でも、筆者 は自らの研究と臨床実践に関わる発表を主に聞 いてきた。まず、最近注目されてきたポジティブ
表1各セッションの内容
セッション1プリテスト、症状理解 セッション2パニック障害の理解 セッション3 呼吸法練習
セッション4 筋弛緩法訓練
セッション5来院
セッション6認知再構成 セッション7認知再構城 セッション8 不安階層表作成 セッション9 来院
セッション10エクスポージャー セッション11回避行動の確認 セッション12 総復習
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な記憶に関して Positive memory specificity improves CBT responses fbr PTSD などの発表を 聞いた。こういった発表からは、認知行動療法に おいてもポジティブなリソース記憶の活性化が 重要な治療要素となることが感じられた。また、
イギリスでは保険適用ができるようになった、イ ンターネットを用いたカウンセリング・プログラ ムであるComputerized Cognitive BehaVior Therapy の一連の発表も聞いてきた。その結果、イギリス だけではなく、ドイツ、スペイン、中国などでも CCBTプログラムの開発と治験が進んでいるこ とがわかった。筆者と東京サイバークリニックの Douglas Eamse博士も、赤坂クリニックの貝谷理 事長らのスーパーバイズのもとで、写真7のよう な広場恐怖を伴うパニック障害用のインターネ ット・カウンセリング・プログラムを完成させて おり。本学大学院を卒業し、本年度から赤坂クリ ニックでカウンセラV・一一・をしている小松智賀さん に主に担当してもらって、そのプログラムの治験 を実施している。そのプログラムは、薬物療法と 併用して医師の指示のもとで使用するプログラ ムであり、その内容は表1のようになっている。
筋弛緩法ができているかどうかバイオフィード バックを用いてカウンセラーが確認するためと、
不安階層表が無理なくできあがっているかをカ ウンセラーが確認するため。そしてインターネッ トを介したコンピューター・プログラムで十分に
広場恐怖の症状が治っているかを確認し、必要で あればカウンセラーによるカウンセリングを実 施するためという、3回のカウンセラ・一一・との面接 が必要ではあるものの、16セッションのうちの 13セッションをクライエントは自宅で都合のよ い時間に実施することができるようになってい る。このプログラムの治療効果を確認する現在進 行中の実験では、途中経過ではあるものの、脱落 率はカウンセラーによるカウンセリングの方が 少ないものの、治療効果そのものはカウンセラー
によるカウンセリングと差がないという結果が 出ている。この結果は、イギリスで保険適用が可 能になっている強迫性障害用のマークス教授ら のプログラムとほぼ同様な結果であり、我が国で もCCBTの実用化を目指して頑張ろうと考えて いる。その他、ドイツの保健所の研究者による Ecological Memory Asseemntの研究発表もあり。
これに関する研究も筆者は東京大学医学部の熊 野宏昭准教授と共同で進めているが、世界的に進 展している様子がわかり、非常に参考になった。
以上のように、自らの研究と実践に本当に参考 になる学会に参加できた。また、同行した本学大 学院2年生の長谷川誠くんと野口恭子さんにと っても、国際学会での発表と世界の学者との交流 は大変良い経験であったようで、彼らの今後の活 躍を期待している。