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中国憲法におけるプライバシー権の保護

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中国憲法におけるプライバシー権の保護

著者 徐 瑞静

著者別名 Jo Zuisei

雑誌名 東洋法学 

巻 58

号 2

ページ 125‑144

発行年 2014‑12

URL http://id.nii.ac.jp/1060/00006920/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止

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《第二十七回  東洋大学公法研究会報告》

中国憲法におけるプライバシー権の保護

徐     瑞  静

報告者  徐  瑞静(東洋大学)報告題

  「中国憲法におけるプライバシー権の保護」

日  時  平成二六年二月二四日  一八時~一九時三〇分場  所  東洋大学第二号館一四階学習指導室参加者  名雪健二・宮原均(以上東洋大学)、鈴木陽子(武蔵野学院大学)、荒邦啓介・始澤真純・鈴木崇之(以上東洋大学大学院)

一  はじめに

  アダムとイブは、旧約聖書『創世記』に最初の人間と記されている人物である。エデンの園で、二人は目を開けて自分たちが裸であることに気付き、イチジクの葉で腰を覆った。これが人類のプライバシーに対する啓蒙的な意識であったと言えるであろうか。第二次世界大戦後、人々が人権の享有や個人の尊重を求める要望は高まりつつある。しかし、電子技術の発展につれ、人間は出生から死亡まで、国家、行政機関に面倒を見てもらわなければならない。国家権力の拡大の過程において、人々のプライバシーを侵したことは珍しくない ことであり、また、プライバシーを護ろうとする人々は、国家、行政機関の権力行使における不正な問題点を指摘するようになり、また、政府もかような不信を免れるため、プライバシー権という一つの新しい人権を憲法に織り込んだり、プライバシー権を保護するための特別法を設けたりしている。さらに、「人権条約」などの国際条約に加盟し、積極的に個人の尊重やプライバシー権を保護する施政政策を唱えている。  春秋時代の孔子は、『论语

颜渊』においては、「非礼勿视

非礼勿听、非礼勿言、非礼勿动」という内容を記している。これは、中国固有法の中の最も特徴たる「礼儀作法」、「道徳」が法的効果を有することを書き表している。「礼儀作法」、「道徳」は伝統中国固有法の代表であり、「礼儀作法」は、秦以前の戦国時代の荀子の時期に始まり、その後、支配者たちが「道徳」によって強化したうえ、刑罰と融合する統治術を施し、国家の統治と社会の秩序を治めてきたが、一九一〇年の清朝「大清新刑律」の公布により、伝統の「礼儀作法」、「道徳」、「律令」制度は近代法典の整備によって廃止されるようになった。『论语

颜渊』の内容を現代語に言い換えてみれば、孔子が「礼儀作法に相応しくないことを見てはいけない、聞いてはいけない、言ってはいけない、してはいけない」という内容を述べている。つまり、風俗礼儀を重んじる古代社会においても、他人のプライバシーに関わることを尊重すべき

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

との意味を含んでいる。

  そこで、本報告では、プライバシー権について、従来の論議を再検討するとともに、そこから得られる示唆をもとに、その構造を明らかにし、今後の論議の方向性について若干の考察を加えることとしたい。

二  プライバシーをめぐる事件

  近時では、プライバシーを侵す事件が頻繁に惹起されていることを受け、学説上、論議が再燃しているほか、公権力行使に対する制約や諸法の根本法である憲法によるプライバシーの保護の是非を巡って、プライバシー権に関する論議が再び俎上に上がるなど、活発化の様相を呈している。ここにおいては、その中の典型的な二つの事例を取り上げて紹介することとしたい。(1)  新婚夫婦猥褻プレー鑑賞事件

  ①  事件の概容

  二〇〇二年八月一八日深夜二三時頃、陕西省延安市B交番は、管轄区内のある者が猥褻ビデオを観ているという通報電話を受け、四人の警察官がZの自宅へ駆けつけた。ドアが閉まっており、屋内の者がAVビテオを観ているか否かを確認できず、確かな状況を確認するため、警察は、窓の隙間から屋内で猥褻ビデオが放送されている事実を捉えた。警察は、看病を口実にして、家屋捜査書類を提示せず夫婦の寝室に突 入した。警察官は猥褻証拠を確保するため、猥褻プレー、テレビ、放送プレーヤーを差し押さえようとした際、主人Zと揉めた。そこで、猥褻伝播物品罪と公務妨害罪の嫌疑でZを交番まで連行し、また、同時に、猥褻伝播物品の証拠品として、寝室内で見付かった三枚の猥褻プレー、テレビ、放送プレーヤーを差し押さえた。翌日、Zが親族により保釈されると同時に、猥褻伝播物品罪の要件理由として、Zに「現場差押物品リスト」を渡した。八月二二日、妨害公務罪の嫌疑で本件を立件し、一〇月二一日、Zを公務妨害罪の嫌疑で刑事拘留し、一〇月二八日、警察側は、検察院によるZの逮捕手続を進めた。しかし、一一月四日、検察院は警察の逮捕許可申請について、事実の不明瞭、証拠の不十分と判断して、逮捕許可申請を認めなかった。一一月五日、一六日間の刑事拘留を経てZは保釈され、事件審査待ちの形で釈放された。一二月五日、検察はZに対する保釈、事件審査待ちの決定を取り消し、さらに、事件を取り消すことを決定した。釈放されたZは精神不安定や自害行為などの症状が現れ、延安大学医学部附属病院で精神障害と診断された。一二月二五日、Zは警察を相手にして国家損害賠償を請求し、また、名誉回復、謝罪陳述、並びに、事件関係者を処分することを求めた。  二〇〇二年一二月三一日、Zは延安警察と和解協議を達成し、警察側が当事者に謝罪し、二万九千一三七元の補償金を一括して支払った。二〇〇三年一月一四日、陕西省延安市公

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安局は事件の主な責任者たる交番所長の職務を免職し、警視巡査長を職務待機処分、また、関係警察官一名を免職処分とするという内容を発表した。これをもって、漸く四カ月に亘っていた新婚夫婦の寝室猥褻プレー鑑賞事件が終了した。

  ②  公権力行使に対する制約の問題

  個人は国家機関に対して弱勢的な存在である。憲法は公民に与える権利を侵してはならないと規定しているが、しかし、一旦、個人の権利が侵された場合、如何に救済するかという問題について、本件は正にその代表的な答えの例であるといえよう。本件のZ夫婦は寝室内で猥褻ビデオを確かに観ていたが、しかし、夫婦以外の第三者に鑑賞や伝播や配布するという行為はなかった。最も重要であるのは、刑事法においては、この夫婦の行為を裁く法的根拠を設けておらず、すなわち、刑法の罪刑法定主義に従い、警察はZ夫婦の行為に関与する職権を有しないと考えざるを得ない。それにも拘わらず、手続を踏まず、寝室というプライバシーの空間を侵したことは、警察による公権力を不当行使した違法な行為であったと言えよう。

  現代法治社会において、政府と公民との関係は、憲法という根本法によってもたらされた権力と権利との関係である。警察は政府を代表して社会全体の安全を守る役目を果たす際、憲法が公民に賦与する権利内容を充分に配慮しつつ、その公権力を行使しなければならない。そうでない限り、やは り、職務の権限を超越するとか、または職権濫用を生じる恐れが出て来る。かような不適切な職務の実行は、警察が公民の基本的権利である身分及び財産権を侵すという事件の発生をもたらすこととなる。(2)「人肉検索」事件

  ①  事件の概容

  二〇〇六年頃から、中国では「人肉検索」が俄に始まっていた。「人肉検索」とは、中国のインターネットにおいて匿名者の間でやり取りを行い、検索エンジンによる検索と人手による公開情報の検索との両者を駆使し、ある特定人物の名前や住所などを特定したり、事件の真相を解明する行為である。ここに言う「人肉」という用語は、コンピュータを用いた一般的な検索とは異なり、人の手が介在することを表している。「人肉検索」が中国社会で白熱化しつつある昨今、二〇〇八年に起きたある事件が契機となって、初めて、司法手続という方法で「人肉検索」によるプライバシーの侵害に歯止めがかかるようになった。

  二〇〇七年一二月二九日夜、エリート女性Jは二四階のマンションから飛び降り自殺した。その理由は主人Wとの婚姻関係の破綻と見られる。Jは、生前、インターネットで「北方へ飛び立つ渡り鳥」という名前をブログに登録し、自殺の二ヶ月前から、日記の形で自分の気持ちを綴り、主人Wと事件外女性との写真を掲載し、二人の不倫関係で家庭が崩壊し

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

たという内容を書いている。Jは、ブログに主人の名前、勤め先、住所などの情報を書き込み、自殺を図る前にプログ登録の暗証番号を友人に伝えて自殺するに至った。そのJのプログの日記内容が公開され、二〇〇八年一月から、Dユーザーはこの事件を掲載したうえ、Wの名前、写真、住所、勤め先などの身分情報をすべて暴き出した。また、Jの大学時代の友人Zも個人のホームページにJの日記内容を掲載し、Tユーザーも事件の真相を暴く内容を掲載し始めた。いずれのホームページにもWを責めるコメントが大量に書き込まれた。大勢の者はWの不倫行為がJの自殺の原因であるとみて、一部の者はWに対して「人肉検索」を行ない、WおよびWの父母の情報まで暴き出し、その中には、Wの家を訪ねてドアの扉や壁に恐喝内容を書くまでに暴走した者もいた。

  二〇〇八年三月一八日、Wは、D、Z、Tそれぞれに対し、給与の損失、精神損害賠償金などの被害を請求して民事訴訟を提起した。

  一審、二審の審理を経て、二〇〇九年一二月二三日に、人民法院は、「公民は法に基づき名誉権を享有し、公民の人格尊厳は法によって保護される。WはJとの婚姻関係の間に他人と不正な関係をもち、その行為は、中国の法律規定、社会公序良俗と道徳の限度に違反し、これによってJに重大な精神的苦痛に遭遇させ、その結果、Jが自殺に追い込まれる一つの要素であり、Wの行為は批判、非難を受けなければなら ないが……Wの名前、勤務先、住所、写真及び不倫などの情報を社会へ暴き出し、ネットとネットとの繋がりを通じ、Wの個人情報が不確定の社会公衆へ伝播する範囲が広がった。またWに対する「人肉検索」、非難行為がW及びその父母の正常な生活を脅かした……」という内容の判決を言い渡した。Tは期限内に掲載内容を削除したため、その責任を免れたが、D、ZはWの名誉を侵したと判断され、Wに八千元の精神的損害賠償金を支払うことを命じられた。  本件の終審につれ、法院は工業と情報管理部門それぞれに司法建議書を出して、「人肉検索」のような新しい類型の不法行為を適切に指導するように助言した。  ③  プライバシー権に対する民事救済の限度

  従前、二〇〇九年の侵権責任法に初めてプライバシー権が明文化されるまで、民法通則はプライバシー権を人格権の保護範囲に取り入れていなかった。長い間、司法実践においては、最高人民法院の司法解釈に基づいて、名誉権又は公共利益を保護する形で、プライバシー権が守られてきた。かような、間接的な保護方法は、明らかに社会の現実的な需要に応えておらず、そのため、プライバシー権については、早急に、憲法を中心とする法的保護体系の内容に組み入れることが、長い間に亘り研究者の課題であった。また、プライバシー権保護の問題に対する司法救済は、長い間に亘り、その他の権利侵害訴訟に付帯する形で提起されたが、二〇〇九年侵権責

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任法の実施に伴い、プライバシー権を侵害する行為については、それを独立して提訴することができるようになった。

三  中国実定法におけるプライバシーを規律する条項内容

  八〇年代から、中国は立法の現代化を進めたが、それまでは、中国法はプライバシー権に関する明文の規定を設けておらず、裁判実務の中では、主に名誉権の保護を通じて、プライバシー権の保護を図っていた。例えば、最高人民法院「『民法通則』の貫徹執行に関する若干問題の意見(試行)」、及び、最高人民法院「名誉権事件の審理に関する若干問題の解答」という二つの司法解釈に則って事件を審理していた。憲法のレベルにおいて、プライバシー権は、第二章「公民の基本的権利及び義務」に規定されていない権利であると看做されていた。翻って、以下において、現在の中国の憲法を初めとして、民事法、刑法、手続法、その他の法規に規定されているプライバシー権に関わる内容を概観してみよう。(1)  憲法の規定

  まず、憲法の段階においては、条文中に明確にプライバシー権という語句は用いられていないが、しかし、第三七条「人身自由」、第三八条「人格尊厳の不可侵」、第三九条「住宅自由」、第四〇条「通信秘密、通信自由」などは、正に自然人の基本的権利、すなわち、プライバシー権に対する保護の根拠条文と理解することができる。以下は、それらの条文 である。  第三三条第二項

  「国家は人権を尊重し保障する。

  第三七条

い。   「中華人民共和国公民の人身の自由は、侵されな

  いかなる公民も、人民検察院または人民法院のいずれかの承認若しくは決定を経て、公安機関が執行するのでなければ、逮捕されない。

  不法拘禁その他の方法による公民の人身の自由に対する不法な剥奪又は制限は、これを禁止する。公民の身体に対する不法な捜索は、これを禁止する。」

  第三八条

害することは、これを禁止する。」 ない。いかなる方法によっても公民を侮辱、誹謗又は誣告陥   「中華人民共和国公民の人格の尊厳は、侵され

  第三九条

る。」 公民の住居に対する不法な捜索又は侵入は、これを禁止す   「中華人民共和国公民の住居は、侵されない。

  第四〇条

密を侵すことはできない。」 であれ、その理由を問わず、公民の通信の自由及び通信の秘 従って通信の検査を行う場合を除き、いかなる組織又は個人 査の必要上、公安機関又は検察機関が法律の定める手続きに の秘密は、法律の保護を受ける。国家の安全又は刑事犯罪捜   「中華人民共和国公民の通信の自由および通信

  上記のように、憲法上においては、プライバシー権を間接

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

的に表現する内容を有する条項が規定されている。(2)民事法の規定

  つぎに、民法通則 におけるプライバシー権の規定内容は以下の通りである。

  民法通則第五条

はできない。」 法律の保護を受け、いかなる組織及び個人もこれを侵すこと   「公民、法人の合法的民事権利、利益は

  民法通則第七五条

法的財産を含む。 並びに、法律が公民の所有を認める生産資料及びその他の合 入、家屋、貯蓄、生活用品、文物、図書資料、林木、家畜、   「公民の個人財産は、公民の合法的収

  公民の合法的財産は法律によって保護され、いかなる組織又は個人による財産の横領、剥奪、破壊又は不法な差押、凍結、没収も禁ずる。」

  身分権については、民法通則第九九条第一項

る権利を有する。」 基づいて変更し、他人が干渉、盗用、詐称することを禁止す 名権を享有し、自己の姓名を決定し、使用し、又は、規定に   「公民は姓

  また、「最高人民法院『民法通則』の貫徹執行に関する若干問題の意見(試行)」 (以下民法通則意見と省略)第一四〇条

侮辱、誹謗などの形で他人の名誉を侵し、一定の影響をもた か、又は、事実を捏造して他人の人格を醜く描写するか、又、   「書面、口頭などの形で他人のプライバシーを宣揚する ない。」 たらした場合、法人の名誉を侵す行為と看做さなければなら   書面、口頭などの形で法人の名誉を誹り、法人に損害をも ない。 らした場合、公民名誉権を侵す行為と看做されなければなら

  以上の状況の下においては、民法通則意見第一四〇条が、名誉権を保護する形で、間接的にプライバシー権に対する保護を図っていたと言えよう。その後、二〇〇一年に施行された最高人民法院「民事不法行為による精神損害賠償責任事件の確定に関する若干問題の解釈」第一条第二項においては、「社会公共利益、社会公徳に違反して他人のプライバシー又はその他の人格利益を侵した場合、被害者が権利侵害を理由として人民法院に精神損害賠償を求めたとき、人民法院は法律に則ってそれを受理しなければならない。」と規定されている。当該条文はプライバシー権を含む人格利益の内容を直接的に司法解釈に織り込んでいる。現段階において、中国が民法典の制定作業を進める中、その立法草案においては、さらに、その内容を明確にしようとされている。そうすると、今後、民法上の条文を適用して直接的に公民のプライバシー権を保護するようになると考えられる。

  ところが、二〇〇九年侵権責任法の公布、施行につれ、これまでのプライバシーに対する侵害行為が初めてプライバシー権への侵害と見倣されるようになってきた。

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  第二条第二項

発見権、株権、相続権などの身分権及び財産権を包括する。」 監護権、所有権、用益物権、担保物権、著作権、商標専用権、 権、名誉権、栄誉権、肖像権、プライバシー権、婚姻自主権、   「本法に称する民事権益は、生命権、健康

  第三六条

い。 事権益を侵害した場合、権利侵害責任を負わなければならな トサービスの提供者は、インターネットを利用して他人の民   「インターネットユーザー及び、インターネッ

  インターネットユーザーがインターネットサービスを利用して権利侵害行為を行った場合、被権利侵害者は、インターネットサービス提供者に対して、リンクの削除、遮断、断絶等の必要措置を行うよう通知する権利を有する。インターネットサービスの提供者は、通知を受け取った後、速やかに必要措置を行わなかった場合、損害の拡大部分について、インターネットユーザーと連帯責任を負う。

  インターネットサービスの提供者は、ネットユーザーが当該インターネットサービスを利用して他人の民事権益を侵害していることを知りながら必要措置を行わなかった場合、当該インターネットユーザーと連帯責任を負う。」

  侵害責任法の当該二箇条に基づいて、これまでのプライバシーに関わる問題が初めてプライバシー権に対する侵害と認められ、また、前記第三六条においてインターネットによる不法行為の責任主体をインターネットネークユーザーとイン ターネットワークサービス提供者(プロバイダー)に限定され、かつ、同条には権利侵害責任の負担方式及び免責事由が定められている。  情報通信技術の発達と普及化に伴い、インターネットを経由してプライバシー権を侵す行為に関する事件に対し、今後、中国においては、侵害責任法を適用して事件の解決が図られる。一方、立法者は、インターネットという情報末端を利用してプライバシー権への侵害問題について、主に法的制裁措置を積極的に整備する姿勢が看取される。(3)刑法の規定  次に、刑法上におけるプライバシー権の内容について整理してみよう。  刑法典はプライバシーやプライバシー権に関する用語を使用せず、また、プライバシー権を侵害する犯罪類型を設けていない。しかし、憲法と同じように、幾つかの条項の趣旨からプライバシー権の保護の推定を描くことができる。例えば、以下のような条項である。  刑法第二四五条(違法捜査罪、違法住宅侵入罪)「違法に他人の身体、住宅を捜査するか、又は、違法に他人の住宅を侵入した場合、三年以下の有期懲役又は拘留に処する。」

  これは、司法従事者が職権を濫用し、前項の罪を犯した場合、重く処罰する。

  刑法第二五二条(通信自由侵害罪)「隠匿、破壊したか、

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

又は、違法に他人の手紙や書類を開披して、公民の通信自由権を侵し、その情状の程度が厳重である場合、一年以下の有期懲役又は拘留に処する。」

  刑法第二五三条(手紙、電報の無断開封・隠匿・破棄罪、窃盗罪、販売・公民の個人情報の違法提供罪、公民の個人情報の違法取得罪)「郵政従事者が無断で郵便物、電報を開け、又は、隠匿、破壊した場合、二年以下の有期懲役又は拘留に処する。

  前項の罪を侵し、かつ、並びに財物を窃取した場合、本法第二六四条規定に基づいて罪を決定し、重く処罰する。

  国家機関又は金融、電信、交通、教育、医療などの部門に勤める従事者が、国家の規定に違反して、勤務先の職責を履行するとき、又は、業務を提供するにあたって得られた公民の個人情報を販売若しくは違法に他人に提供し、情状が厳重である場合、三年以下の有期懲役又は拘留に処し、合併又は単独で罰金に処する。

  窃盗又はその他の方法によって上記の状況に至り、その状況が重大である場合、前項の規定に基づき処罰する。

  部門が前二項の定めを犯した場合、部門に罰金を処罰し、かつ直接の主管者とその他の直接の責任者に対し、各条項の規定に基づき処罰する。」

  これらの条文は、公民の生活の安定権と個人情報保護権を侵害する行為を処罰することにより、公民のプライバシー権 の保護を実現している。(4)行政法の規定  国務院が二〇〇〇年に公布した「インターネット情報サービス管理方法」第十五

す内容に違反してはならない。 者は、制作、複製、頒布、伝播を含む以下のような情報に関   「インターネット情報サービス提供

すること。」   (八)他人を侮辱または誹謗し、他人の合法的権益を侵害

  公安部が一九九七年に公布した「コンピュータ情報ネットワーク国際ネットワーク接続安全保護管理方法」第七条 「ユーザーの通信自由と通信秘密は法律によって保護され、如何なる単位及び個人も法律の定めに違反し、国際ネットワークを利用してユーザーの通信自由及び通信秘密を侵してはならない。」

  中国人民銀行が二〇〇五年に公布した「個人信用情報基礎データベース管理暫時執行方法」第五条

(5)手続法の規定 情報を秘密にしなければならない。」 商業銀行及びその職員は、仕事の進行中に得られた個人信用   「中国人民銀行、

  民事訴訟法第六八条

らない。法廷において提示する必要がある場合、公開法廷に と個人プライバシーに関わる証拠は、秘密にされなければな 者によって詰問されなければならない。国家秘密、商業秘密   「証拠は法廷で提示し、かつ、当事

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おいて提示することを認めない。」

  民事訴訟法第一三四条

の規定の場合を除いて、公開審理しなければならない。 る時、国家秘密、個人プライバシー、又は、法律上のその他   「人民法院は、民事事件を審理す

  離婚事件、商業秘密に関わる事件の場合、当事者が非公開審理を申し立てた場合、非公開審理することができる。

  刑事訴訟法第一五〇条第二項

料については、それを直ちに廃棄しなければならない。」 捜査を施すことによって得られた事件と関連性を有しない資 バシーについては、それを秘密にしなければならない。技術 すことによって得られた国家秘密、商業秘密及び個人プライ   「捜査員は、技術審査を施

  同条第四項

ければならない。」 場合、関係部門と個人とは協力し、かつ関連情報を保護しな   「公安機関が法律に則って技術捜査を施した

  刑事訴訟法第一八三条第一項

た場合、非公開審理することができる。」 業秘密に関わる事件の場合、当事者が非公開審理を申し立て 人プライバシーに関わる事件の場合、非公開で審理する。商 公開して審理しなければならない。しかし、国家秘密又は個   「人民法院は第一審事件を

  行政訴訟法第四五条

の他の規定に関わる場合を除く。」 理する。しかし、国家秘密、個人プライバシー及び法律のそ   「人民法院は公開して行政事件を審

  以上の条文を通じ、プライバシー権が司法手続の過程にお いて被害を被ることを避けている。(6)その他の規定  未成年者保護法第五五条

を指定して事件を図ることができる。」 かつ、必要により、専門機構を設けるか、又は、専門担当者 の者の人格尊厳を尊重し、それらの者の合法権益を保護し、 を取り扱う時、未成年者の心身の特徴に配慮しつつ、それら 法院は、未成年者犯罪事件と未成年者権益保護に関わる事件   「公安機関、人民検察院、人民

  婦女権益保障法第四二条第一項

  「婦女の名誉権、栄誉権、

プライバシー権、肖像権などの人格権は法律によって保護される。」

  治安管理処罰法第八〇条

シーに関わる場合、それを保護しなければならない。」 安事件を取り扱う時、国家秘密、商業秘密又は個人プライバ   「公安機関及び人民警察は、治

  弁護士法第三八条

プライバシーを漏らしてはならない。 れた国家秘密、商業秘密を守らなければならない。当事者の   「弁護士は職業活動を行なう際に得ら

  弁護士は、職業活動を行なう際、依頼人及びその他の者が状況及び情報を漏らさないことを望む場合、それを秘密にしなければならない。但し、依頼人又はその他の者が国家安全、公共安全を脅かす行動を準備又は実行する時、並びに、その他の重大な他人の人身、財産の安全を脅かす犯罪事実及び情報を実行する場合を除く。」

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

  職業医師法第三七条

その刑事責任を追及する。 る場合、その職業証書を取り上げ、犯罪行為に該当した場合、 年以下の職業活動の暫定懲戒免職に処する。情状が重大であ 県以上の人民政府衛生行政部門による警告又は六ヶ月以上一 本法の規定に違反し、以下のいずれかの行為を行なった場合、   「医師は職業活動を行なうに際し、

たらした場合」   (九)患者のプライバシーを漏らし、重大な被害結果をも

  統計法第三九条

により法律に則って処分を与える。 とその他の直接の責任者に対し、その任免機関又は監察機関 部門が以下のいずれかの行為を行なった場合、直接の主管者   「県以上の人民政府の統計機構又は関係

  (二)統計調査対象の商業秘密、

個人情報を漏らすか、又は、統計調査を施した時に得られた個別の統計調査対象の身分を識別し、推測することができる資料を提供し、漏洩すること。」

  以上の諸規定は、中国法がプライバシー権を保護する姿勢を整えており、プライバシーを保護する立法上の根拠を明らかにしている。

四  プライバシー権の侵害の構成要件

  電子情報の発達、普及により、インターネットの利用が社会生活において非常に重要な位置を占めるようになっている。その一方、インターネットを経由して他人を侵害する行為が 増加している。被害者の名誉、威信を損ない、また、侵害する形態の多様化により、被害者の生命を脅かすケースが相次いで報道されている。そこで、中国におけるインターネットによるプライバシー権の侵害の構成要件を列記しておきたい。(一)違法行為  違法行為をなす主体には、インターネットワークユーザーとインターネットワークサービス提供者(プロバイダー)が含まれる。前者は「人肉検索」の発起人、情報の検索人と論壇の参加者を指し、「人肉検索」事件においては、ユーザーたる当事者の同意を得ず、当事者の情報、または、虚偽事実を捏造して、当事者を誹謗した内容を勝手にネットワークに掲載している。後者がインターネットワークサービス提供者(プロバイダー)を利用して権利侵害を行ったときは、インターネットワークサービス提供者(プロバイダー)はインターネット空間の実際の管理者として、職業倫理義務に従い、技術と知識を駆使し、不法内容や被害の拡大を間接的に防げるべきこととなるが、しかし、これらの状況を把握しながら情報の伝播を阻止しなかった場合には、法に触れることとなり、ユーザーと連帯して責任を負うこととなる。(二)損害事実  損害は主にインターネットワークユーザーとインターネットワークサービス提供者(プロバイダー)との行為が、被害者に客観的な損害をもたらした事実である。ユーザーが濫り

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に事実または捏造した情報をインターネットに掲載した行為であり、当事者に対し、心身状態の被害を脅かし、場合によっては、生命を脅かすこともある。しかし、道徳の観点からは許し難いことであっても、刑法によって規定されていない限り、法律上の犯罪とはいえない。また、被害者がユーザーの加害行為による損害を生じて、ネットワークサービス提供者(プロバイダー)に内容の削除を申し込んだにもかかわらず、具体的な措置を取らなかったときは、やはり被害者に更なる被害を与えることとなり、その際には、ネットワークサービス提供者(プロバイダー)は非難を免れない。(三)因果関係

  侵権責任法に求められる因果関係とは、損害事実という結果から遡って、その原因たる加害行為を探り、最終的に責任を負う者を見付けるという目的を実現することである。ユーザーが当事者の個人情報を公開し、また、捏造した行為が、当事者の心理及び精神上の不安を与え、周囲の人々に晒される不安定な立場に追いつめた加害行為が損害事実の発生以前に生じ、かつ、損害事実が加害行為によってもたらされた結果であれば、因果関係の判断基準を満たすと考えられる。また、ネットワークサービス提供者(プロバイダー)が法定の職業義務を履行しない不作為も被害者の損害との間に直接な因果関係がある。ネットワークサービス提供者(プロバイダー)はネット空間の管理、運営者として、全てのユーザー の利益を守る義務を有し、被害通知を受け取った後、速やかに必要な措置を取るべきである。それにもかかわらず、職務行為を怠った結果、被害者の損害が拡大した場合は、ネットワークサービス提供者(プロバイダー)と被害者の被害との因果関係が存在することとなる。(四)行為者の錯誤  ここにいう錯誤は主観的錯誤を意味する。ユーザーがネットワーク上において当事者の個人情報を検索し、公開し、場合によっては、収集した内容の信憑性が希薄な可能性があるにも拘わらず、真実を追及する安易な心構えをもって、当事者の個人情報を濫用し、被害者と家族に多大の困惑を与えた場合には、ユーザーは自己の錯誤に責任を負うべきである。一方、ネットワークサービス提供者(プロバイダー)が被害者からの削除の要請を受け取った後、対応措置を打ち出すべきでありながら、被害の範囲や限度を逸脱した場合、空間管理、運営者として、職務上の注意義務違反となり、合法的、合理的な責務を果たさなかったものとして、不法行為責任を負わなければならない。五  社会主義体制下の中国憲法及びその構成

  以上、中国憲法、民事法、刑法、行政法、手続法及びその他の法規におけるプライバシーの内容を整理した。目下、司法実務レベルにおいては、プライバシー権を侵す問題に対して、

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主に、侵害の停止、損害賠償、謝罪、影響の除去、名誉の回復などの方法をもって被害者の権利救済を賄っているが、公民の基本的権利からプライバシー権を守る理論的根拠が後押ししてくれる憲法のような根本法の理念を設けていない。(1)中国憲法における「人民」と「公民」との相違

  中国憲法には、日本国憲法における「国民」に相当する概念として「人民」と「公民」との二つがある。「人民」は、法学・政治学の用語で、一定地域において特別な政治的権限をもたない通常人のことを言う。或いは、君主国の国民たる「臣民」に対して共和国の国民を「人民」と呼ぶ用語法もある。一般的傾向として、厳密な区別を要するような場合には、「人民」と「国民」とは区別されて用いられるのに対して、それ以外の場合においては、通常は、「人民」という言い方は避けられ、「国民」という言葉のみが用いられる。

  共産主義の国においては、国際主義の立場から、「国民」(

nation

)より人民(

people

)を好んで用い、そのため、本来の語彙を離れて「人民」という言葉に、共産主義のイメージが感じ取られる場合が非常に多い。例えば、「人民共和国」やそれに類似する表現は、具体的にいうと、「人民共和国」の前後に「民主」をつけることが一般的である。これは、共産主義体系の国々にとって、独特の用語法である。例えば、中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国、ラオス人民民主共和国がそれの例として挙げることができる。

  「公民」の概念は、用語の中で、

「人民」、「国民」などの用語と類似するような意味を有するが、とりわけ法律上の区別に注意する必要がある。中国の憲法条文からみれば、「人民」の概念が主権の主体を指しているのに対して、「公民」の概念の方は、基本的権利と義務の主体として用いられている。すなわち、憲法前文に使用している「人民」の概念は、政治的概念であり、「敵」の概念との対比において用いられる。「公民の基本権利と義務」の章に使用されている「公民」の概念は、優れて法律的概念であって、国籍の保持者を指して、「外国人」の概念とは対置するものである。(2)日本語の「公民」と中国語の「公民」

  厳密には、中国の「人民」や「公民」と日本の「国民」とは異なっている。日本にも「公民」という言葉がある。例えば、日本の高校には、「公民科」という授業があり、「公民科」では、現代社会、倫理、政治、経済といった科目が設置されている。また、古代日本法においては、公民という用語は特別な意味を有し、古代の律令制の下に、天皇、すなわち、国家の直接支配する人民が公民と呼ばれていた。現代では、一般的に日本の公民は、政治に参加することができる人々のことを指している。例えば、公民には選挙権や被選挙権があることがその例として挙げられる。

  それに対して、中国の公民とは、「中華人民共和国政府に対して権利を有し義務を負う者であって、中国の国籍をもつ

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者」という意味を有する。憲法第三三条第一項は、「中華人民共和国の国籍を有する者は、すべて中華人民共和国の国民である」とし、国籍法第二条は、「中華人民共和国は多民族による国家であり、各民族に属する者は、すべて、中国の国籍を有する」と規定している。ここから分かるように、中国法における「公民」は、実は日本の「国民」という法概念に相当する。(3)中国憲法における公民の基本的権利と義務

  公民の基本的権利としては、主に、平等権、選挙権、被選挙権、言論・出版・集会・結社・デモ進行・威示の自由、信教の自由、人身の自由、人格の尊厳の不可侵、住宅の不可侵、通信の自由と秘密、批判権、建議権、不服申立権、告発権、摘発権、国家賠償請求権、労働の権利、休息の権利、教育を受ける権利などが列挙されている。第二章が「公民の基本的権利と義務」となっているが、中国の憲法には長い間、「人権」という用語は存在しなかった。「人権」という用語が社会主義国家には適さないという考えに基づいて、その代わりに「公民の基本的権利と義務」として公民の権利内容が規定されていたのである。

  一九九八年一〇月五日、中国が国際人権規約のB規約たる「公民及び政治的権利の国際条約」に調印したことに伴い、二〇〇四年、中国は憲法の第四回目の修正を行ない、「国家は人権を尊重し保障する」と謳う第三三条第二項の明文規 定をもって、初めて「人権」の用語を憲法に織り込むようになった。六  若干の考察(1)アメリカ、日本、中国におけるプライバシー権の保護  第二次世界大戦後、プライバシー権は新たな人権として諸国の憲法や実定法によって保護されるようになった。ここでは、アメリカと日本におけるプライバシー権に対する保護形態を比較的に紹介してみよう。  まず、アメリカにおいては、プライバシーの権利は、一九世紀末に、私人相互間レベルの不法行為法上の法的利益の一つとして提唱され、「一人にしておいてもらう権利(

a right to be let alone

)」として捉えられた 。グリズウォルド対コネティカット州事件において、ウィリアム・ダグラス連邦最高裁判所判事は、「憲法上で保障されているプライヴァシィの権利は、権利章典の数箇条の周辺領域に由来している」と述べ、それらがプライヴァシィに係わる権利の根拠になる条項であることを示唆した。すなわち、連邦最高裁判所は、同事件において、「コンドームの使用を禁止しているコネティカット州法は、婚姻関係のプライヴァシィの権利を侵害している」と判決したが、ダグラス判事は、「憲法上で保障されているプライヴァシィの権利は、本条は勿論のこと、修正法案第一条、第二条、第三条、第四条、第五条で保障されている諸権

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利の周辺領域で形成されている権利である」と述べている。換言すれば、憲法が明文をもってプライヴァシィの権利について規定していないが、プライヴァシィの権利は修正憲法第一条、第二条、第三条、第四条、第五条、第九条で保護されている諸権利の領域で形成されているとの判断をしたのである。しかし、最近、連邦最高裁判所は、プライヴァシィの権利を修正憲法第五条の「法の適正な手続条項」と第一四条の「法の平等保護条項」を根拠として判断をしてきているので、自然権を国民に保障する砦としての修正憲法第九条の存在意義は薄れてきている

  他方、日本国憲法第一三条の幸福追求権を主要な根拠として判例・通説によって認められているプライバシーの権利については、一九六四年の「宴のあと」事件一審判決が、「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」と定義し、この私法上の権利(人格権)は個人の尊厳を保ち、幸福の追及を保障するうえにおいて必要不可欠なものであるとし、それが憲法によって基礎づけられた権利であることを認めた。これと同じ趣旨の立場は、その後の名誉・プライバシーに関する裁判でも打ち出されている 。憲法は必ずしも完全かつ網羅的に人権を規定しているわけではなく、また、社会の変化によっては、新たな人権の必要性が求められることから、新しい人権を憲法上の権利として補充する意味において幸福追及権の存在意義は大きいと言えよう 。   以上、アメリカ、日本においては、プライバシー権の憲法における保護については、間接保護という方法が採られていることが分かる。それに対して、中国憲法第二章「公民の基本的権利と義務」に規定されていないプライバシー権の保護を如何に憲法上の権利内容として解決するかについて、以下、違憲立法審査権または憲法訴訟を紹介したうえで、プライバシー権の公民の基本的権利と看做すことの可能性を検討してみよう。  中国においては、個別事件に対して違憲立法審査権を導入したうえ、憲法の公民の権利の直接効力、または、憲法の公民的基本権利の私法的効力が認められている。後者については、人民法院が憲法の公民的権利に関する内容を民事権利中において保護しなければならないという立場が採られている 。自然人の権利主張は司法手続を通じてその意思主張を実現することができるが、憲法に規定されている公民の権利内容は、下位法、すなわち、各々、実体法と手続法の条項の適用をもって実現することとなる。そこで、憲法上の公民の基本的権利内容は各々下位法で具体化しない限り、公民の基本的権利の実現は不可能であるといえよう。このように、憲法公民の基本的権利の内容を民事法を通じその保護が図られたが、しかし、公民の基本的権利が公権力の不法行為に脅かされた場合、その保護の保障はなくなることとならざるをえない。

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(2)中国の憲法解釈問題

  まず、憲法第六七条には、全国人民代表大会常務委員会が憲法及び法律の解釈権限を有することが定められている。すなわち、同条第一項には、憲法を解釈すること、及び、憲法の実施を監督することと規定されている。中国の憲法解釈については、従来の憲法解釈と憲法裁判所解釈制度とは異なり、憲法解釈権が中国国家の最高権力機関の常設機関である全国人民代表大会常務委員会に属することが分かる。同常務委員会は国家の立法機関でもあり、それ故、中国の憲法解釈制度は立法機関による解釈制度である。中国においては、立法機関による憲法及び法律の解釈制度が行なわれるため、解釈された内容は立法の性質を帯びている。

  また、立法法第九〇条は、国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院、及び、各省、自治区、直轄市の人民代表大会常務委員会が、行政法規、地方性法規、自治条例及び単行条例について、憲法又は法律に抵触すると認めた場合、全国人民代表大会常務委員会に対し、書面により審査請求を提出することができ、常務委員会工作機構が関連の各専門委員会に分担で審査させ、意見を提出させる。

  前項に定める以外のほかの国家機関と社会団体、企業事業組織及び公民は、行政法規、地方性法規、自治条例と特別条例について、憲法又は法律に抵触すると認めた場合、全国人民代表大会常務委員会に対し、審査を行うよう書面の建議を 申し立てることができ、常務委員会工作機構が検討し、必要な場合、関連の各専門委員会に分担で審査させ、意見を提出させる、という内容が定められている。本条の内容を通じて、全国人民代表大会常務委員会が行政法規、条例などの法規範に対する違憲審査権を有することが分かる。勿論、その中には、憲法解釈の意義を含み、行政法規、条例に対する違憲審査はアメリカの付随的な違憲審査制度である。すなわち、憲法の実施過程における具体的な問題をめぐり、憲法やその他の行政規則、条例に対して抽象的な解釈を行ない、この抽象的解釈が将来に向けて、類似する全ての問題を拘束することとなる。しかしながら、全国人民代表大会の開催期間が短く、また、全国人民代表大会の閉会期間にその全ての職務を賄う常務委員会にとって、煩雑な事務対応と処理作業のため、やはり、憲法の精緻な解釈権を行使することは難いようである。さらに、憲法解釈の構造やその内容を具体的に実現する手続の面においても、未だに法的な判断基準という拠り所を見い出せないようである。しかし、中国においては、多くの類似問題について、全国人民代表大会の法律解釈によって解決が図られてきた。例えば、一九八三年九月二日第六回全国人民代表大会 によって可決され「国家安全機関が公安機関の捜査、拘留、予備訊問と執行逮捕の職権を行使する決定について」は、刑法第三七条及び第四〇条に関する解釈として認められている。従って、全国人民代表大会常務委員会が憲

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法の解釈権を施し、新しい人権であるプライバシー権の存在を解釈することができると考えられるのである。

七  おわりに

  プライバシー権の保護に関する憲法上の保護について、中国の研究者は、主に人格権保護と人格尊重という立場から論じ、憲法第三八条、第三九条、第四〇条をもって、プライバシー権を保護する根拠条項とするという共通認識を有する ((

  先述した通り、目下、中国において違憲立法審査制度または憲法訴訟は存在しないが、しかし、中国は、立法を整備し、現法体系の内容を維持しつつ、憲法解釈を通じて、プライバシー権の具体化を図ることができる。中国においては、プライバシー権を保護する条項が広範に広がっていることを察知することができたが、しかし、憲法上の法律規定が欠缺状態にとどまっているため、公権力の行使の個人自由への干渉を直接的に精緻にコントロールすることができない恐れがある。また、民事法上の規定は、平等主体の間の権利侵害を救済する段階にとどまり、プライバシー権を名誉権によって保護する限り、その射程範囲が狭くなり、場合によっては、適法的に保護することができなくなると言えよう。とりわけ、公権力によって生じた被害を救済することができなくなる。すなわち、公権力行使に対する制約に歯止めを設けない限り、単純に民事法上の救済に頼るのは安易な期待であり、プライ バシー権を第二章「公民の基本的権利及び義務」に織り込むことができれば、直接的に問題を解決できる。確かに、「公民の基本的権利及び義務」の章からプライバシー権の概念や明確な条項を見い出すことはできないが、しかし、国家の根本を指す憲法はやはり安易に修正することができない。  濫りに他人の個人情報を公開したり掲載したりした行為が被害者及びその家族のプライバシー権、名誉権、財産権などの権利を侵害するとみなされるようになっている。諸国の憲法に鑑み、プライバシー権は一つの新しい人権として、直接的または間接的に保護されていることが分かる。中国が、二〇〇四年に人権を尊重し保障する内容をすでに憲法に採り入れ、新しい人権たるプライバシー権が人権の保障や個人の尊重の内容となるものであるならば、憲法第三三条「人権の尊重保障」を人権保障の基本理念としつつ、第三七条「人身自由の保障」、第三八条「人格権尊厳の保障」、第三九条「住宅の保護」、第四〇条「通信自由と通信秘密の保護」の具体的な条項を通じ、プライバシー権はすでに公民の権利の保障範囲に包括されているとも考えられる。しかし、その一方、法規範の相手として、道徳の理想化や正義の実現を図るため、恣意的に他人やその家族の権利を侵してはならないことを意識すべきであろう。法律は最小限の道徳しか定めないという法諺のように、インターネットは確かに社会を監督する良い手段であるが、過度に監督権を行使し、世論をもって他人の

(18)

権利を無視して窮地まで責め続けることは、やはり、ネットワークの弊害であるといわざるを得ない。

【質疑応答】

  以下に主な質問及び回答をまとめる。

ということで宜しいか。 鑑賞目的で所持することができるのか。処罰する法律がない にぴったりな法律があるのか。猥褻表現物を自宅の中で自己 は「罪刑法定主義」がまだ希薄と思われがちであるが、これ 所持を規制することができるのかという問題となる。中国で   (質問1)事例1について、アメリカだと、猥褻表現物の

行為は、治安管理処罰される可能性があり得る。 あり、公民の安全と財産を脅かしたが、刑事責任に及ばない 社会秩序と公共安全を図る『治安管理処罰条例』という法が 罰というより、道徳の調整範疇と言えるであろう。中国では、 はならない。自宅の中での自己鑑賞行為については、刑事処 本的に犯罪の構成要件などを満たさなければ、刑罰の対象に 法の第六章には「猥褻物品制作、売買、伝播罪」があり、基 ると同時に、司法機関に明確な裁量権限を授与している。刑 けているため、公民に対し、猥褻物を判断する基準を設定す   (回答)刑法が、猥褻物の概念について、具体的概念を設

  (質問2)猥褻表現物に関する刑事法の規定はどのような   ( の場合はどうか。 と、刑法の外に処罰されることがある。それに対して、中国 売ったり、それから、パブリックなところで展示したりする ものか。日本の場合には、販売頒布であって、猥褻表現物を

回答)刑法の「罪刑法定主義」に従い、刑法第六章第九節が「猥褻物品制作、複製、出版、売買罪」であり、第三六三条「猥褻物品制作、複製、出版、売買、伝播営利罪」、第三六四条「猥褻物品伝播罪、猥褻録音画像製品組織放送罪」、第三六五条「猥褻演出組織罪」、第三六六条「犯罪主体が組織単位である場合の処罰」、第三六七条「猥褻物品の範囲」の計五ヶ条からなる。第三六四条の猥褻物品伝播のような行為について、営利の目的を有するか否か、また、配布したり、展示したりした行為であれば、国家が猥褻物品を管理する秩序を損なうため、刑事処罰が問われる。営利という目的をもち、しかも情状重大である場合、第三六三条「猥褻物品売買営利罪」に問われる。例えば、数多く、多次的に猥褻物品を伝播するとか、猥褻物品伝播の数と回数がそれほど多くないが、伝播の相手が多くて、重大な結果をもたらした場合とか、又は、未成年者を相手にして伝播することは情状重大と判断される。

れるのかは、結構、大きな問題であり、社会の保護法益を侵   (質問3)日米の観点は同様で、猥褻表現物はなぜ禁止さ

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

す理由で処罰され、自宅での鑑賞は世の中を侵したか否か、日本では論点として盛り上がらなかったが、憲法論というと個人の領域というものが最高法規である憲法によって保障され、従って、いくら、議会で自己鑑賞を処罰しようとする法律を作ったとしても、憲法でいうと個人の領域なので、無効であるという議論がある。そこは、正にプライバシーだと思う。米国では空間的なプライバシーで、自分の家に他人は入ってはいけない。その中で行われたことについては、国家が干渉してはいけない。それが憲法の保障であり、それは空間的にも説明できる。それから、猥褻表現物は精神的な自由が非常に重要視されている。つまり、私たちは本を読む、ビデオを見るとかは、自分自身の精神を養っていることであり、自分の精神を養っているのは、国家権力によって命令されるべきではない。自分の精神というのは自己選択するものであるから、この場合には、猥褻表現物の鑑賞についても、国家がセレクションしたら、国家によって洗脳されてしまう。それは憲法が絶対許さない。従って、日本の場合には、憲法一九条思想・良心の自由がある。思想・良心の自由と自宅の中で猥褻表現物を見る自由が合体していく。中国の場合には、精神の自由とか、精神の領域に国家が関与してはいけないというような議論はあるか。

確定するには、公共空間と私人空間を区別するうえで、それ   (回答)確かに、空間上からみれば、プライバシーの境を   ( いと考えられている。 生活が個人の生活空間と看做されて、濫りに侵してはならな の生活風習を考慮した結果、船舶上の生活や遊牧民のテント いう概念が非常に盛んに論じられている。例えば、少数民族 見られる。寝室での猥褻プレー鑑賞事件を契機にし、空間と るプライバシー権を支持する態度に傾くようになっていると では、権利重視が高まっており、学界では、公共空間におけ 権を内容とする規定が設けられている。そのため、近年中国 ている「中国民法典」草案には、専ら公共場所のプライバシー い権利とはいえ、二〇〇五年、王利明教授によって起草され 思想・良心の自由を定めているが、中国の憲法には存在しな り、その自由の限度を制限せざるを得ない。日本の憲法では 定着している。一歩引いて、公共空間の範囲に入ると、やは て、個人が自由にその私生活を享有するという認識がすでに シーの問題を浮彫りにするようになる。私人空間の下におい くの場合は、住宅と通信を脅かしたことによってプライバ ぞれプライバシー権を判断し保護する必要があると思う。多

質問4)日本で、国内規制と輸入規制とが異なり、国内の場合、一七五条、一七六条では、販売頒布の問題を規制し、自己鑑賞なら問題にならない。ところが、輸入する場合については、輸入するときに販売頒布と自己鑑賞に拘わらず、税関で引っかかって、ともに規制される。これが憲法訴訟になっ

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て、最高裁は、輸入する行為については、販売頒布であろうが自己鑑賞であろうが、規制行為は憲法に違反してないと判断しており、  税関で見つかったら、没収される。憲法問題の扱いというより、「治安管理条例」によって対応する。日本は税関で申告せず、隠すと密輸になり、刑事処罰の対象になるという二段階構造を採る。猥褻表現物と判断することは、行政単位の評価であるが、それ以上に、廃棄しなくて、隠すとなると、密輸となり、刑事問題になる。中国も同じか。

判断されたら、刑事手続に従って処理する。 する。すなわち、刑法に基づいて刑罰を科する必要があると さらに、情状重大な場合、刑事司法機関の手続によって処罰 物品を没収し、かつ、当事者に罰金を命じることができる。 続を経ず中国国内に持ち込んで見つかった場合、税関が猥褻 と、猥褻物品を携帯するとか、郵送するとか、又は、申請手 罰との二つの対応措置を採っている。中国の税関規定による 処罰するかという処罰手段について、中国では行政罰と刑事   (回答)猥褻物品に対し、行政処罰するか、それとも刑事

(1) 二〇一〇年、最高人民法院は、「裁判文書のインターネット上における公布暫時的取扱い方法」を公布するにあたって、今後、中国では審判公開原則の実現を貫くため、また、審判業務の透明性を強化し、人民大衆の知る権利を実現するよう、裁判文書を電子文書の形で公開するようになった。しかし、未成年者犯罪事件、国家秘密、商業秘密、個人プライバシーに関わる事件の場合は公開しないこと、また、調停文書、当事者のいずれ かがその裁判文書の非公開を申し立て、正当な理由を有すると認定された場合は公開しないこととされている。従って、本文に取り上げた二つの事件については、裁判文書公開制度の実施以前に起きた事例であり、また、非公開類型に属するため、裁定内容を記す調停文書と判決文書の番号を表示することができない。(2) 二〇〇二年から、中国では民法典の制定に関して、立法草案作業が具体的に進んでおり、現在では、民法通則、契約法、婚姻法、養子縁組法、相続法などから民法の基本的な体系が形成されている。当初、二〇一〇年を目途に民法典の完成を目指していたと言われているが、とくに、総則、人格権法部分の幾つかの問題点については、立法者の意見が未だに揃っていないため、民法典完成までには時間がかかると思われる。その意味で、中国の現行法「民法通則」は、民法典と呼ばずに「民法通則」と名づけられている。(3)

  「最高人民法院

『民法通則』の貫徹執行に関する若干問題の意見(試行)」は、一九八七年一月一日民法通則の施行に伴って起きた問題などの内容を規定している。(4) 竹中薫「プライヴァシーの権利」、高橋和之=大石眞編『憲法の争点(第三版)』(有斐閣、一九九九年)所収七二頁参照。(5) 安倍竹松『アメリカ憲法(補訂版)』(成文堂、二〇〇九年)五三二頁以下参照。(6) 芦部信喜(高橋和幸補訂)『憲法(第五版)』(岩波書店、二〇一一年)一二一頁参照。(7) 名雪健二編著『公法基礎入門(改訂増補版)』(八千代出版、二〇一三年)一七一頁参照。(8) 周永坤『論憲法的基本権利的直接効力』「中国法学一九九七年一期」所収。(9) 中華人民共和国の一切の権力は人民に属する。人民の国家権力を施す機関は全国人民代表大会と地方各級人民代表大会である。全国人民代表大会は、憲法、法律の修正や国家主席の選出などの権限を行使する。全国人民代表大会と地方各級人民代表大会のいずれも民主選挙によって選ばれ、

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東洋法学 第58巻第2号(2014年12月) 中国憲法におけるプライバシー権の保護〔徐 瑞静〕

人民に責任をもち、人民の監督を受ける。国家行政機関、審判機関、検察機関のいずれも人民代表大会によって選ばれ、人民代表大会に対して責任をもち、その監督を受ける。全国人民代表大会は国家の最高権力機関であり、地方各級人民代表大会は地方国家権力機関である。(

 (じょずいせい・東洋大学法学部非常勤講師) 六四頁以下参照。 10) 張新宝『隠私権的法律保護(第二版)』(群衆出版社、二〇〇四年)

参照

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