第七章 相続時精算課税
相続税とこれを補完する機能を有する贈与税の関係については第一章で触れましたが、平成15年度 改正で、生前贈与に対して贈与税を簡易かつ軽課し、贈与者の死亡時の相続税において受贈者に対し 生前贈与に係る贈与税をも含めて精算するという、両税を一体のものとして課税する相続時精算課税 制度が創設されました。 (相続時精算課税については、第五編 贈与税の第六章でも解説していますので、参照してください。)第一節 適用対象者・選択の届出
1 適用対象者
相続時精算課税の適用を受けることができる者は、次に掲げる者とされています。 (1) 贈与者 贈与をした年の1月1日において、60歳以上(平成26年12月31日以前に贈与により取得する財産に ついては、「65歳以上」とされます。)の者とされています(相法21の9①)。 (2) 受贈者 贈与により財産を取得した者が贈与者の推定相続人である直系卑属のうち、贈与を受けた年の1月 1日において20歳以上である者とされています(相法21の9①)。(贈与者の配偶者は、直系卑属では ないので受贈者となることはできません。) 〈贈与者・受贈者の範囲〉 父A 母B 配偶者F C D 養子E G 父A、母Bは60歳以上であれば贈与者の要件を満たします。 D、養子E、孫Gは20歳以上であれば受贈者の要件を満たします。(配偶者Fは、直系卑属ではない ので推定相続人となりません。) (3) 年の中途で推定相続人となった者 贈与のあった年の中途においてその贈与者の養子となったことその他の事由により、その贈与者の 推定相続人(配偶者を除きます。)となったときは、(2)の受贈者の年齢要件を満たせば適用対象とな る受贈者となることができます。ただし、同じ年の贈与であっても推定相続人となった前の贈与につ いては、相続時精算課税の適用は受けられません(相法21の9④)。この贈与については贈与税の暦年 課税(注)が適用されます。 (相続時精算課税の適用を受けている受贈者が推定相続人でなくなった場合の取扱いは2の(5)を参 照してください。) (注) 贈与税の暦年課税とは、相続時精算課税による贈与税の課税ではなく、110万円の基礎控除が適用され る贈与税の課税をいいます。-756- 【叔父から財産の贈与(①~③)を受けた場合】 1/1 12/31 2/1 3/15 暦年課税 相続時精算課税 ※ 養子縁組前の贈与①については、暦年課税により贈与税額を計算し、養子縁組以後の贈与②及び ③は、相続時精算課税により贈与税額を計算します。 (4) 相続時精算課税適用者の特例 ① 平成27年1月1日以後に贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の孫(その年1月1日 において20歳以上である者に限ります。)であり、かつ、その贈与をした者がその年1月1日におい て60歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者については、相続時精算課税の 適用をすることができます(措法70の2の6①)。 ② その年1月1日において20歳以上の者が同日において60歳以上の者からの贈与により財産を取得 した場合において、その贈与により財産を取得した者がその年の中途においてその贈与をした者の 孫となったときは、孫となった時前にその贈与をした者からの贈与により取得した財産については、 ①による相続時精算課税の適用はできません(措法70の2の6②)。 ③ 相続時精算課税選択届出書を提出した者が、その届出書に係る贈与をした者の孫でなくなった場 合においてもその贈与をした者からの贈与により取得した財産については、相続時精算課税を適用 することができます(措法70の2の6③)。
2 選択の届出
この相続時精算課税の適用を受けるかどうかは選択できますので、適用を受けようとする受贈者は、 次の(1)の「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。 (1) 相続時精算課税選択届出書の提出 相続時精算課税選択届出書は、贈与を受けた財産に係る贈与税の申告期間内(贈与を受けた年の翌 年2月1日から3月15日まで)に、贈与をした者ごとに作成して贈与税の申告書に添付し、受贈者の 納税地(=住所地)の所轄税務署長に提出することとされています(相法21の9②、相令5①)。 届出書には、受贈者と贈与者の氏名、生年月日、住所又は居所及び続柄その他の事項を記載し、下 記の(注1)に掲げる書類を添付することとされています(相令5②、相規10①)。 (注1) 届出書に添付する書類は次のものです(相規11①)。 ・受贈者の戸籍謄(抄)本及び戸籍の附票の写しなど、受贈者の氏名、生年月日、受贈者の20歳以降の住 所等及び贈与者の推定相続人(孫を含む。)に該当することを証明する書類(受贈者の20歳以降の住所 等を証明する書類は、受贈者の平成15年1月1日以後の住所等を証する書類に代えることができます。 《平15改相規附2②》) ・贈与者の住民票の写し又は戸籍の附票の写しなど贈与者の氏名、生年月日及び贈与者の60歳以降の住所 等を証明する書類(贈与者の60歳以降の住所等を証明する書類は、贈与者の平成15年1月1日以後の住 所等を証する書類に代えることができます。《平15改相規附2③》) 〔※平成27年1月1日において20歳未満である者が平成28年1月1日以後に贈与により取得する財産に 係る贈与税については、上記中「及び戸籍の附票の写し」とあるのは削除され、「、生年月日、受贈者 贈 与 ① 贈 与 ② 贈 与 ③ ▲ 養子縁組 選択 届出 書提 出 相 続 時精 算 課 税の20歳以降の住所等」とあるのは「及び生年月日」とされます(平27改相規附2②)。〕 (注2) 届出書を提出した受贈者を「相続時精算課税適用者」、その届出書に係る贈与者を「特定贈与者」とい います(相法21の9⑤)。 (注3) 届出書を提出期限までに提出されなかった場合には、相続時精算課税の適用を受けることはできません (ゆうじょ規定なし)(相基通21の9-3)。 (2) 選択の例示 (事例1) 長男、二男が父から財産の贈与を受けた場合、長男、二男のそれぞれが父からの贈与について相 続時精算課税の適用を受けるか否か検討することになります。 受贈者ごとに、相続時精算課税の適用を 受けるか否か選択できます。 (事例2) 子が父母から財産の贈与を受けた場合、子は父母のそれぞれについて相続時精算課税の適用を受 けるか否か検討することになります。 受贈者は贈与者ごとに、相続時精算課税 の適用を受けるか否か選択できます。 (3) 贈与の年の中途で贈与者が死亡した場合の選択の届出 贈与のあった年の中途において贈与者が死亡した場合に、相続時精算課税の適用を受けようとする 受贈者は、相続時精算課税選択届出書を次の①又は②のいずれか早い日までに贈与者の死亡に係る相 続税の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(相令5③④、相基通21の9-2)。 ① 贈与を受けた年の翌年の3月15日 ② 贈与者についての相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内の日 ②が相続時精算課税選択届出書の提出期限となる場合に、その贈与者の死亡に係る相続税の申告書 を提出しなければならないときは、その届出書をその相続税の申告書に添付しなければならないこと とされています(相令5④)。(相続税の申告書を提出する必要がないときには、その届出書をその贈 与者の死亡に係る相続税の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。) (注1) 贈与の年の中途で贈与者が死亡した場合の相続時精算課税適用者(相続時精算課税の適用を受けようと する者を含みます。)の相続税と贈与税の取扱いは、次のようになります。 イ 贈与税は申告不要(相法28④) ロ 相続税は第三節の1の(1)又は(2)の規定の適用 (注2) 相続時精算課税選択届出書を提出する前に受贈者が死亡した場合の選択の届出は、第四節の2を参照し てください。 (4) 相続時精算課税選択届出書の提出の効果と届出書の撤回 相続時精算課税選択届出書に係る特定贈与者から贈与により取得する財産については、届出書によ り相続時精算課税を適用した年分以後、すべて相続時精算課税の適用を受けることとなります(相法 21の9③)。 いったん提出された相続時精算課税選択届出書は、撤回することができません(相法21の9⑥)。
父
長
男
二
男
贈 与 贈 与父
贈 与 贈 与母
子
-758- (5) 相続時精算課税適用者が推定相続人でなくなった場合の取扱い 相続時精算課税適用者が、特定贈与者の推定相続人でなくなった場合(例えば養子縁組の解消)に おいても、その特定贈与者からの贈与により取得した財産については相続時精算課税が適用されます (相法21の9⑤)。
第二節 贈与税の課税
相続時精算課税を選択した場合の贈与税の課税は次によります。(第五編 贈与税の第六章ではよ り詳しく解説していますので、参照してください。)1 課税価格・特別控除
相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、特定贈与者ごとに、 その年中において贈与により取得した財産の価額の合計額を課税価格とすることとされています(相 法21の10)。 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年 分の贈与税については、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいず れか低い金額(特別控除額)を控除します(相法21の12①)。 イ 2,500万円(既にこの特別控除を適用し控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除 した残額) ロ 特定贈与者ごとの贈与税の課税価格2 税 率
相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年 分の贈与税の額は、特定贈与者ごとに、1により計算した課税価格から、1により計算した特別控除 額を控除した後の金額にそれぞれ20%の税率を乗じて計算した金額とされます(相法21の13)。第三節 相続税の課税価格及び税額の計算
相続時精算課税を適用した相続税の計算は、特定贈与者からの贈与により取得した財産と相続又は 遺贈により取得した財産の合計した額を相続税の課税価格として計算しますが、相続時精算課税適用 者の納付すべき相続税額については、既に支払った贈与税額を控除して算出することとされています。1 課税価格
(1) 相続財産を取得した場合 特定贈与者について相続が開始した場合に、その特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得し た相続時精算課税適用者については、通常の例により計算した相続税の課税価格に、その特定贈与者 からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものの価額(贈与時の価額によりま す。)を加算した価額を相続税の課税価格とされます(相法21の15①)。 (注) 加算される贈与財産 特定贈与者からの贈与により取得した財産のうち、第五編第四章《贈与税の非課税財産》の非課税財産 以外の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるすべてのものであり、贈与税が課されているかどうかを 問いません。従って、第二節1の特別控除額に相当する金額も加算されることとなります(相基通21の15 -1)。 (2) 相続財産を取得しなかった場合 特定贈与者について相続が開始した場合に、その特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得し なかった相続時精算課税適用者については、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時 精算課税の適用を受けるものをその特定贈与者から相続(相続時精算課税適用者がその特定贈与者の 相続人以外の者である場合は、遺贈)により取得したものとみなして相続税の計算をします(相法21 の16①)。 (1)及び(2)の場合に、相続税の課税価格に算入される贈与財産の価額は、その特定贈与者からの 贈与時の価額によります(相法21の16③、相基通21の15-2)。 (2)の場合は、相続又は遺贈により財産を取得していなくても、特定納税義務者として納税義務が あることになります。-760- (3) 課税価格の計算上の留意点 相続財産を取得した場合 相続財産を取得しなかった場合 債務控除 (相法13) 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産についても控除の適用があります(相法21 の15②、21の16①、相令5の4①、相基通13-9)。 相続時精算課税適用者が、無制限納税義 務者又は制限納税義務者の区分に応じ、 控除が適用されます。(ただし、相続時精 算課税適用者が相続人に該当せず、かつ 特定遺贈のみで財産を取得した場合は、 控除の適用はありません。)(相基通13- 9(1)) 相続時精算課税適用者が、相続開始時に 国内に住所を有する場合は無制限納税義 務者と同様に、住所を有しない場合は制 限納税義務者と同様に、控除の適用があ ります。(ただし、相続時精算課税適用者 が相続人又は包括受遺者に該当しない場 合は、控除の適用はありません。)(相基 通13-9(2)) 相続開始前3 年以内の贈与 (相法19) 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、相法19の適用はありません(相 法21の15②、21の16②)。 (注1) 相続時精算課税の適用を受ける年分前の贈与財産については、相法19の適用がありま す(相基通19-11)。 (注2) 相法19の規定は、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった場合は適用 されませんが、相続時精算課税適用者については、被相続人から相続又は遺贈により財 産を取得しなかった者でも相続開始前3年以内の贈与財産(相続時精算課税の適用を受 ける財産を除きます。)には適用されます(相基通19-11)。 平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 ※ただし、相法21の15、 相法21の16により加算 相続開始前3年以内 暦年課税 相続時精算課税 贈 与 贈与 相 続 時精算 課税 選択届 出書 提出 贈 与 相 続 開 始 相法19の 適用あり 相法19の 適用なし
2 税額の計算
原則として通常の例により計算しますが、次の調整規定に注意してください。 遺産に係る基 礎控除 (相法15) 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額も基礎控除の対象となります(相法 21の14)。 相続税額の2 割加算 (相法18) 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の取得時に被相続人の一親等の血族(注1) であった場合に、その贈与財産に対応する相続税額として政令で定める部分は、加 算の対象とされません(相法21の15②、21の16②、相令5の2)。 (注1) その被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため、代襲し て相続人となったその被相続人の直系卑属を含み、被相続人の直系卑属がその被相続人 の養子となっている場合を含みません(相法18)。 (注2) 加算の対象とされない部分の金額は次の算式によります(相基通18-5)。 相続時精算課税の適用を受ける財産で一親等の血 族であった期間内にその特定贈与者から取得した ものの取得時の価額 相続時精算課 税適用者に係 る相続税額 × 相続時精算課税の規定により課税価格に算入され た財産の価額 贈与税額控除 (相法19) 1の(3)の「相続開始前3年以内の贈与」で相法19の適用なしとされた贈与財産に 係る贈与税額については、控除の適用はありません。 未成年者控除 (相法19の3) 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産も控除の対象とされ、その未成年者の扶養 義務者として相続時精算課税適用者に控除の適用があります(相法21の15②、21の 16②、相令5の4②)。 障害者控除 (相法19の4) 特定納税義務者については、その相続開始の時に国内に住所を有しない者には控除 の適用はありません(相法19の4①③、21の16②)。 相次相続控除 (相法20) 第二次相続に係る被相続人から相続により取得した財産には、その被相続人からの 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産を含みます(相法20、21の15②、21の16①、 相基通20-3、20-4)。-762-
3 贈与税額の控除及び還付
(1) 贈与税額の控除 相続時精算課税を適用して相続税を計算する場合に、第二節で説明した特定贈与者からの贈与によ り取得した財産につき課せられた贈与税があるときは、2で計算した相続税額(相法20の2までの規 定により算出した金額)からその贈与税の税額相当額を控除した金額が、その相続時精算課税適用者 の納付すべき相続税額となります(相法21の15③、21の16④、相令5の3)。 控除する贈与税額は、相法21の8《在外財産に対する贈与税額の控除》の規定による控除前の税額 とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除きます(相 法21の15③、21の16④)。 (2) 贈与税額の還付 (1)の贈与税額を控除するに当たって、相続税額から控除してもなお控除しきれなかった金額があ る場合において、その控除しきれなかった金額(注1)に相当する税額は還付されます。還付を受けるた めには相続税の申告書(第五節2の(2)参照)を提出することが要件とされています(相法33の2① ④)。 (注1) 相法21の8の規定の適用を受けた贈与財産に係る贈与税の場合は、外国税額の控除額を控除した残額と されます(相法33の2①)。 (注2) (2)の還付金について還付加算金の計算規定(相法33の2②③⑦)が設けられています。 (注3) 更正・決定があった場合は、更正・決定後の金額が還付されます(相法33の2⑤⑥)。《贈与税額・相続税額の計算図》 贈 与 税 額 の 計 算 贈与者Aから子Cへ贈与 ×20%=贈与税額 贈 与 財 産 特別控除額(2,500万円) 贈与者Aの相続開始 相続時精算課税制度に係る 贈与財産 子C(相続時精算課税適用者) 子D 配偶者B 課 税 遺 産 総 額 遺産に係る基礎控除額 子C(1/4) 子D(1/4) 配偶者B(1/2) 法定相続分で取得したと仮定してあん分する。 (税 率) (税 率) (税 率) 相続(遺贈)により取得した財産 (税額の算出) 相 続 税 の 総 額 贈与税額 各人の実際の相続割合 によってあん分する。 各人の算出税額 各人の算出税額から、税額控除 (配偶者の税額軽減、贈与税額の 控除等)を行う。 配偶者 の税額 軽減 (子C) (子D) なし (配偶者B) 相 続 税 額 相続時精算課税に 係る贈与税額の控 除(又は還付) 相 続 税 額 の 計 算
-764- 《計算例》 (設例) (単位:千円) 相続人 法 定 相 続 分 相続又は遺贈により取 得した財産の価額 相続時精算課税の適用 を受けた贈与財産の価 額 相続時精算課税におけ る贈与税額の合計額 甲(子) 1/4 100,000 50,000 5,000 乙(子) 1/4 1,000 50,000 5,000 丙(子) 1/4 ― 20,000 0 丁(子) 1/4 19,000 ― ― イ 課税価格の合計額 甲 100,000千円+50,000千円=150,000千円 乙 1,000千円+50,000千円= 51,000千円 丙 20,000千円 丁 19,000千円 課税価格の合計額 240,000千円 ロ 課税遺産総額 240,000千円-(3,000万円+600万円×4人)=186,000千円 ハ 各人の相続税額 甲 18,250千円 乙 6,205千円 丙 2,433千円 丁 2,312千円 ニ 納付すべき相続税額等 甲 18,250千円-5,000千円=13,250千円 乙 6,205千円-5,000千円= 1,205千円 丙 2,433千円 丁 2,312千円 例に より計算 相続税の 通常 の
第四節 納税の権利・義務の承継
1 特定贈与者よりも先に相続時精算課税適用者が死亡した場合
相続時精算課税適用者が特定贈与者の死亡以前に死亡した場合は、その相続時精算課税適用者の相 続人(包括受遺者を含みます。以下第四節において同じ。)がその相続時精算課税適用者が有していた 相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継します。ただし、その 相続人に特定贈与者がいる場合は、その特定贈与者はその納税に係る権利又は義務を承継しません(相 法21の17①)。 上記の承継の場合に、次の場合の取扱いは次によります。 ① 相続時精算課税適用者の相続人が2人以上いる場合 各相続人(特定贈与者を除きます。)が承継により納税する額(又は還付を受ける額)については、 法定相続分・代襲相続分・指定相続分(民法900~902)の規定による相続分(相続人に特定贈与者 がいても、いないものとして相続分を計算します。)によりあん分して計算した額とされます。この 場合に相続財産の価額が承継する相続税額を超える相続人は、その超える額を限度として他の相続 人が承継する相続税額を納付する責任があります(相法21の17③、相令5の5)。 ② 相続時精算課税適用者の相続人が限定承認をした場合 限定承認をした相続人は相続により取得した財産(相続時精算課税適用者からの遺贈又は贈与に より取得した財産を含みます。)の限度においてのみ納税の権利・義務を承継します(相法21の17②)。 ③ 特定贈与者よりも先に承継者が死亡した場合 承継者の相続人(特定贈与者を除きます。)がその相続時精算課税適用者の納税に係る権利又は義 務を承継します。この場合、上記の各取扱いが準用されます(相法21の17④)。 ④ 相続時精算課税適用者の相続人が特定贈与者のみである場合 権利義務は誰にも承継されないで消滅します。特定贈与者の死亡に係る相続時精算課税適用者の 相続税の申告は不要です(相基通21の17-3)。 (注1) 相続時精算課税適用者の相続人が2人以上あるときに各相続人が承継する相続時精算課税の適用に 伴う権利義務の割合について、基本的な設例を示せば、次のとおりです(相基通21の17-2)。 《設例1》 この場合において、特定贈与者の死亡前に相続時精算課税 適用者が死亡したときには、配偶者及び子が相続時精算課税 の適用に伴う権利義務を承継することになり、その割合は、 配偶者と子がそれぞれ2分の1ずつとなります。 ※ 子は20歳以上であれば代襲相続人として特定贈与者から の贈与を受け、その贈与により取得した財産についての相 続時精算課税の適用について、この納税に係る権利又は義 務の承継とは別に選択するか否かを判断することとなりま す。(編者注) 《設例2》 この場合において、特定贈与者の死亡前に相続時精算課税 適用者が死亡したときには、母及び配偶者が相続時精算課税 の適用に伴う権利義務を承継することになり(特定贈与者に は承継されません。)、その割合は、母が3分の1、配偶者が 3分の2となります。 子 相続時精算 課税適用者 (死亡) 特定贈与者 配偶者 相続時精算 課税適用者 (死亡) 特定贈与者 母 配偶者-766- (注2) 相続時精算課税適用者が被相続人である特定贈与者の死亡の日前に死亡している場合は、相続税の申 告書の付表(=第1表の付表1〈納税義務等の承継に係る明細書《兼相続人の代表者指定届出書》〉) を提出します。
2 受贈者が相続時精算課税選択届出書の提出前に死亡した場合
(1) 受贈者の相続人による相続時精算課税選択届出書の提出 受贈者が相続時精算課税の適用を受けることができる第一節1の要件を満たしている場合に、その 受贈者が相続時精算課税選択届出書の提出期限前にその届出書を提出しないで死亡したときは、その 受贈者の相続人(その贈与者を除きます。以下2において同じ。)は、その相続の開始があったことを 知った日の翌日から10か月以内(注1)に相続時精算課税選択届出書をその受贈者の納税地の所轄税務 署長に共同して提出(注2)することができます(相法21の18①)。 (注1) 相続人が納税管理人の届出をしないでその期間内に国内に住所・居所を有しないこととなるときは、そ の有しないこととなる日までとされています。 (注2) 提出手続 イ 贈与税の申告書を提出すべき場合は、相続時精算課税選択届出書は申告書に添付すること(相令5の 6①) ロ 届出書にはその受贈者の相続人であることを証する書類その他の財務省令で定める書類を添付する こと(相令5の6②、相規11②) ハ 受贈者の相続人が2人以上の場合は、届出書に相続人が連署して提出すること(相令5の6③) (2) 納税の権利・義務の承継 (1)により相続時精算課税選択届出書を提出した受贈者の相続人は、受贈者が有することとなる相 続時精算課税の適用を受けることに伴う納税に係る権利又は義務を承継します(相法21の18②)。 (注1) (2)の場合は、1の①、②を準用します。 (注2) 受贈者の相続人が届出書を提出しないで死亡した場合は、(1)(2)を準用します(相法21の18③)。第五節 申告及び還付等
1 申 告
特定贈与者である被相続人からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものの 申告は、相続又は遺贈の場合と同様です(相法27①)。ただし、申告書の記載事項については、相続時 精算課税選択届出書や贈与税の申告書を提出した税務署名その他の事項が追加(第四節の納税の権 利・義務の承継の場合の相続税の申告書には、更に記載事項が追加)されています(相規13①②)。 特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者についても、その 特定贈与者からの贈与により取得した財産は、その特定贈与者から相続による取得とみなして申告す ることとなります。 (注) 相続時精算課税適用者に係る「相続の開始があったことを知った日」 通常の相続の場合の規定(相基通27-4)にかかわらず、特定贈与者が死亡したこと又は特定贈与者に ついて民法の失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日とされます(相基通27-4なお書)。2 還 付
(1) 相続税額から控除しきれなかった贈与税額の還付 第三節3の(1)の贈与税額を控除するに当たって、相続税額から控除してもなお控除しきれなかっ た金額に相当する税額は還付されます。還付を受けるためには相続税の申告書を提出することが要件 とされています(相法33の2①④)。 (注) 相続税の申告書の付表(=第1表の付表2〈環付される税額の受取場所〉)を提出します。 (2) 還付申告 相続時精算課税適用者は、相続税の申告書を提出すべき場合のほかに、相続時精算課税に係る贈与 税額の還付を受けるための申告書を住所地の所轄税務署長に提出することができます(相法27③、62 ①)。しかし、提出先は、被相続人の死亡時の住所が国内にあればその死亡時の住所地の所轄税務署長 とされます(相法附則③)。その申告書には、相続時精算課税の適用を受ける財産の相続税の課税価格、 還付を受ける税額その他の事項(相規15)を記載することとされています。 この還付のための申告書は、相続開始の日後5年間、提出することができます(相基通27-8)。3 延納及び物納の取扱い
延納の延納期間及び利子税については、課税相続財産の価額(相続又は遺贈により取得した財産で 相続税額の計算の基礎となったものの価額の合計額をいいます。)のうちに不動産等の価額が占める割 合に応じて規定されていますが、この課税相続財産の価額には相続時精算課税の適用を受けた贈与に より取得した財産の価額は含まれないこととされています(相法38①)。 また、この課税相続財産の価額については、相続開始の年において、特定贈与者である被相続人か らの贈与により取得した相続時精算課税の適用を受けるもののうちに不動産等がある場合について は、「相続又は遺贈により取得した財産」に含めても差し支えないものとされています(相基通38- 3)。 なお、物納に充てることができる財産から相続時精算課税の適用を受ける財産が除外されています (相法41②)。-768-