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ヘルニア日帰り手術の現況と展望 第78巻05号0893頁

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日臨外会誌 78( 5 ),893―904,2017   綜  説

ヘルニア日帰り手術の現況と展望

東京ヘルニア・日帰り手術センター執行クリニック・神楽坂D.S.マイクリニック 執 行 友 成  鼠径ヘルニアは良性疾患外科治療では最も多く行われる手術である.日帰り手術によ り医療費削減へ大きな効果が立証されている.日帰り手術では合併症や再発を起こさな い術式選択と麻酔法が重要であり,準備とスタッフ教育が必要である.  外科医離れの原因は過酷・低賃金・やり甲斐と言われるが,日帰り手術にはこれらを 払拭できる可能性があり,若き医師,特に女性医師の外科医への道導となり得る.鼠径 ヘルニア手術は日帰り手術に限らず,誰でも,何処でも,何時でも可能で,合併症や再 発率の少ない鼠径部切開法を第一選択とすべきである. 索引用語:鼠径ヘルニア,日帰り手術,医療経済,外科医減少,女性外科医 Ⅰ はじめに  日帰り手術には数多くの適応疾患がある.日本では, 白内障手術が最も数多く行われている.欧米諸国では, 耳鼻咽喉科領域の扁桃腺摘出術はほぼ100%日帰りで 行われているのが現状である.泌尿器科では前立腺生 検や前立腺肥大症,整形外科では半月板損傷や種々の 内視鏡下手術,心臓カテーテル手術なども同様に日帰 り手術が当たり前に行われている.外科領域では鼠径ヘ ルニア,下肢静脈瘤,痔核手術,腹腔鏡下胆嚢摘出術 などが主に日帰り手術の適応となっている(Fig. 1).  本章では鼠径ヘルニア日帰り手術の歴史,医療経済, 医療環境・麻酔法と手術適応・術式選択,当院集計, 今後の展望について述べる. II 鼠径ヘルニア日帰り手術の歴史   1 )諸外国の日帰り手術  鼠径ヘルニアは,アメリカやイギリスでは1985年頃 より日帰り手術で行われるようになっている1).日帰 り手術は,イギリスではday surgeryあるいはday care surgery,アメリカではambulatory surgeryと 称されている2)

 日帰り手術の定義は世界中で様々である.「世界日 帰り手術学会」(以後IAAS:International Associa-tion for Ambulatory Surgery)では「患者が手術治 療した同日中に帰宅する手術」とある.また, 1 泊で 手術治療のできる患者も,「独立した,または病院に 所属した日帰り手術センターで治療を受けた患者で, 退院までに 1 泊を含む,短期滞在入院を要する患者」 と定義している3).1909年にJames Nicollがグラスゴ ーの王立小児病院にて口唇裂,鼠径ヘルニアなどの日 帰り手術を初めて行ったと報告されている4)   2 )本邦の日帰り手術  外科の日帰り手術は1995年 5 月に湘南鎌倉総合病院 に於いて篠崎伸明5)が日帰り手術センターを開設した のが始まりとされている.開業医の日帰り手術は1998 年 7 月に筆者が局所麻酔下でmesh & plug法での鼠 径ヘルニア外来手術を開始したのが始まりであるとさ れている6)7).2005年に日帰り手術に携わる外科医・

麻酔科医・看護師・その他のコメディカルにより,「日 本短期滞在外科手術研究会」(以後JSSSA:Japan Short Stay Surgery Association)が発足した.  2000年には日帰り手術は,「短期滞在手術 1 ,2 」と して診療報酬に明記されたが,鼠径ヘルニア手術は適 応とされていなかった.2014年の診療報酬改定で「短 期滞在手術等基本料 3 」として診療所を除いた(同一 診療で診療報酬が大きく違う事は大きな問題)病院で は 4 泊 5 日までの診断群別分類化(DRG:diagnosis related group)され8),鼠径ヘルニア手術(成人) 24,805点,腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(成人)56,183 点となった8).なお,本稿では手術を受けた当日,も しくはover nightの短期間に帰宅できる外科治療を日 帰り手術と定義する.  〈所属施設住所〉   〒162-0803 東京都新宿区赤城下町62 アネックス62 1F

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III 日帰り手術の医療経済:なぜ日帰り手術が必要なのか  日帰り手術は,高額な入院費用・医療費の抑制のた めに行われた結果であり,アメリカでは大きな成果を 得ている9)  本邦では,医療者側にとって日帰り手術の導入は経 営上の不利益(入院費が減少)が生じると考えられ積 極的には行われてこなかった.また外科医,麻酔科医 の保守的意識,患者も国民皆保険制度により入院をし ても自己負担は少なく,治療効果も入院した方が良い という誤認があり,日帰り手術のメリットは少ないと 考えられ発展しなかった.しかし,1990年代頃からは 本邦でも医療費抑制は少子高齢化の観点から急務とな り,高額な入院費用等を軽減するために「日帰り手術」 が注目され,低侵襲とされる内視鏡下手術の進歩,ま た麻酔法の改善が日帰り手術の適応拡大に繋がった.  鼠径ヘルニア手術は現在おおよそ年間成人16万件, 小児14万件行われている.入院費を節約することは医 療費削減に大きく寄与することは明らかである.2014 年の診療報酬改定により,鼠径ヘルニアは日帰り手術へ 誘導する大きな舵取りが制定された.多くの医療機関で も 4 泊 5 日までのヘルニア外科治療が開始された8) IV 鼠径ヘルニア日帰り手術の医療環境・麻酔法・ 手術適応・術式選択   1 )日帰り手術センターの施設と人材  IAAS,JSSSAでは「独立した施設」または「病院 に所属した日帰り手術センター」を揚げている. IAAS,JSSSA共に日帰り手術専属の看護師の重要性 を 説 い て い る.JSSSAで は2010年 か らday surgery coordinator (DSC)を制度化し術前,周術期,帰宅後 までをフォローする看護師を中心とした人材の育成を 行っている6)  DSCは外科医に代り診療,検査,説明,手術,術 後を一貫して担当する人材として,患者に対してマン ツーマンで退院後までケアをする.術後の緊急連絡が 取れる体制を取り,患者の不安を解消するような対応 をしており,その結果,患者満足度は高くなる6)10)   2 )日帰り手術と麻酔  日帰り手術のkey pointは麻酔と言われる.米国で は「アメリカ日帰り麻酔学会」(SAMBA:Society for Ambulatory Anesthesia)が1984年に設立されて いる11).本邦では「日帰り麻酔研究会」が1998年に設 立されている.2001年には「日帰り麻酔の安全のため の基準」が日本麻酔学会,日本臨床麻酔学会,日帰り 麻酔研究会の 3 者から公表されている(Fig. 2)12)  鼠径ヘルニア日帰り手術における麻酔法は術前評価 が重要である.基本的には局所麻酔で十分対応可能で あるが,巨大ヘルニア・再発ヘルニア等では麻酔医を 確保し,全身麻酔を選択すべきである.鎮静剤を十分 不明 不明 Fig. 1 世界の日帰り手術状況

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ヘルニア日帰り手術の現況と展望 ― 895 ― 5 号 に使用し,除痛は局所麻酔にて行い,ラリンギアルマ スクによる気道確保することにより巨大・再発・腹腔 鏡下手術まで可能である(Fig. 3).  当院における鼠径ヘルニア日帰り手術の麻酔法は, 患者にとって身体的・精神的に負担の少ない方法へ変 遷している.  1998年 7 月日帰り手術開始当時は全例局所麻酔のみ で行っていた.2003年 2 月には有床診療所となり,ほ ぼ全ての鼠径ヘルニア手術を受け入れるようになっ た.覚醒良好な静脈麻酔薬・吸入麻酔薬を用いて,麻 酔医がラリンギアルマスクによる気道確保を行うこと によって,手術中は意識も無く,疼痛も苦痛も感じな い患者にとって負担の少ない麻酔法を導入した.2006 年頃からは腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術に対して,筋 弛緩薬を使用し,静脈麻酔薬と局所麻酔薬を併用する ことにより,吸入麻酔薬を極力減量した気管内挿管を しないラリンギアルマスクによる全身麻酔が可能とな った.以上より,重度あるいは再発手術も日帰りある いはover night手術が行えるようになった.   3 )術前診断  日本ヘルニア学会「鼠径部ヘルニア診療ガイドライ ン2015」CQ3 では典型的な膨隆を伴うものには身体 所見のみで良い(推奨グレイドC1 )13),となっている が,日帰り手術では合併症・病態の確認のため超音波 検査は行うべきである.超音波検査のみで癒着あるい はヘルニア内容物の確認ができなければ,CT検査は 大きな情報があり推奨する.日帰り手術の術式・麻酔 法を決定するためには,術前画像診断として超音波検 査は絶対不可欠であると考える.   4 )鼠径ヘルニア日帰り手術の適応  受診された患者の病態は,外科医が予想する以上に 複雑な場合が多くある.筆者の1998年からの8,500例 以上に及ぶ日帰り手術の経験から適応と術式選択,麻 酔法の選択を考える.  医師の診察,検査にて鼠径ヘルニアが有っても症状 の無い(隠れヘルニア)場合は手術適応外として watchful waiting14)とすべきである.  日帰り手術適応・非適応は無床・有床・基幹病院の 3 者で違いがある.  無床診療所では,全ての初発ヘルニアは適応である が,腸管損傷の可能性があると診断される症例は非適 応とする.気道確保が確実にできない場合も同様に非 適応とする.有床診療所においても,腸管損傷の可能 性が考慮される場合,長期入院( 1 週間以上)ができ Fig. 2 日帰り麻酔安全基準(日帰り麻酔研究会)(日本麻酔学会 ガイドライン より)

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なければ非適応とする.腹腔鏡下手術,特に腹腔内到達 法(TAPP:total abdominal pre-peritoneal repair) は大きな合併症の可能性があり避けるべきである.  腹膜外到達法(TEP:totally extra-peritoneal pre-peritoneal repair)は腹腔内を操作しないため,腸管 損傷等のリスクは低く,麻酔医の確保さえあれば無床 診療所で日帰り手術は可能と考えるが安静を確保する ことが重要である.基幹病院はすべての病態に対応可 能であり非適応は無い.   5 )鼠径ヘルニア術式  a)鼠径部切開法(前方・後方到達法)  Lichtensteinがtension-free法 を1989年に報告15), 現 在では多くのdeviceが開発され,tension free法が鼠 径部ヘルニア手術の主流となった. Fig. 4 当院の鼠径ヘルニア手術総数(1998年 7 月~2016年12月) Fig. 3 日帰り手術実施の施設要件(IAAS,JSSSA推奨)

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ヘルニア日帰り手術の現況と展望 ― 897 ― 5 号

 *前方到達法

 Lichtenstein 法,mesh & plug 法16),double layer

法が代表的である.鼠径管解放後にヘルニア門閉鎖, 後壁補強を行う術式である.世界的な標準術式として 鼠径ヘルニアの80%以上は本術式である.  *後方到達法  Kugel法に代表され,理論的に優秀な手技である. 世界のシェアーは数%にすぎない.その理由の一つは 術中の視野が狭いこと,learning curveが長いことが ある.習熟すると一気にヘルニア門閉鎖・後壁補強が 可能という大きなメリットがある術式であるとされて いる.  ただし,下腹部手術既往のある場合は適応外とされ る.  b)腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術  1990年Ger,Schltz,Arreguiらが報告以来現在に 至っている.腹壁の 3 箇所にポートを挿入し(単孔式 も含める),腹腔鏡と鉗子を挿入してヘルニアを修復 する.鼠径部への到達法により 2 つの方法がある.  TAPP,TEP両者とも鼠径部を直視下に腹腔鏡で観 Fig. 5 当院の日帰り手術受診者 年齢分布(n=6,414,2006年 4 月~2016年12) , . , . Fig. 6 鼠径ヘルニア手術 年代別分布(n=6,326,2006年 4 月~2016年12月) , . , . , . , .

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察するために術中診断が容易と言われている.  c)鼠径ヘルニア日帰り手術の術式選択について  術式選択の基本は 3 点と考える.  「剥離しすぎない」「ヘルニア門の閉鎖」「後壁補強」 であり,この 3 点を満たすためには,出産前の女性を 除きメッシュを使用した鼠径部切開法を選択すべきで ある.腹腔鏡下手術は術後管理が十分可能な場合にの みTEP法は日帰り手術の適応であるが,TAPP法は 少なくともover nightできる施設で適応とすべきであ る. V 当院における鼠径ヘルニア日帰り手術の検討  当院では2006年 4 月,日本ヘルニア学会病型分類制 定後は分類に従い年齢・性別・病変部位・病型につい て集計している.その結果による傾向を述べる(Fig. 4 JHS分類制定前からの鼠径ヘルニア日帰り手術総 数).   1 ) 日帰り手術受診者 年齢分布・男女比(鼠径・ 臍・腹壁瘢痕・その他のヘルニアを含む)  日帰り手術受診者 男性:平均58歳(中央値60歳), 女性:48歳(中央値46歳)(Fig. 5).   2 )鼠径ヘルニア手術受診者 年代別分布  男性は50~60代,女性は30~40代にピークがある (Fig. 6).   3 )鼠径ヘルニア手術受診者 性別  男性:86.3% 女性:13.7%(Fig. 7).中高年男性 の手術症例が多い結果となった.   4 )鼠径ヘルニア手術 病変部位  鼠径ヘルニアの左右差は無かった(Fig. 8).   5 )鼠径ヘルニア手術 病型分類  JHS分類ではI型が多く,これまでの認識の通りIII Fig. 7  鼠 径 ヘ ル ニ ア 手 術  性 別 分 布(n=6,326, 2006年 4 月~2016年12月)

Fig. 8 鼠径ヘルニア手術 病変部位(n=6,326, 2006年 4 月~2016年12月) Fig. 9  鼠 径 ヘ ル ニ ア 手 術  病 型 分 類(n=6,326, 2006年 4 月~2016年12月)

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ヘルニア日帰り手術の現況と展望 ― 899 ― 5 号 型は 2 %にすぎなかった.従来の術式に関係なく,鼠 径ヘルニアの再発手術は 8 %程度あった.I型:63%, II型:23%,III型: 2 %,VI型: 3 %,V型: 1 %, Rec.: 8 %(Fig. 9).   6 )2015~2016年 術式別集計  日帰り手術・over nightを目的に受診される方々の 術式としては鼠径部切開法のplug法が80%,direct Kugel(DK) 4 %,2016年ではTAPP法が 7 %との ニーズの増加が認められた.女性ではnon meshが多 く施行され,その他種々のメッシュについても,少量 ずつ術式開発の目的に使用してきた(Fig. 10).   7 )2015~2016年 device別集計  鼠径部切開plug法にて不可能なケースは少なく, 後壁脆弱が際立つ症例にはheavy weightのflat mesh を使用する.それ以外は全てlight weight meshを使 用している(Fig. 11).

Fig. 10 2015~2016年 術式別集計

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  8 )Learning curve  2013年以降当院へ日帰り手術を志す外科医が加わっ た.卒後 8 年,14年の二人の術者の鼠径部切開法手術 におけるlearning curveからは,短期間に数多くの症 例数を経験することにより正確な手術をマスターでき ることが解る.当初50分以上要した外科医が100例辺 りで30分に安定するようになった.その後はほぼ平均 して30分以内に病態に関わらず手術がスムーズに行え るようになり,手術予定も明確にできるようになった (Fig. 12).  また,確実な手術記録を画像で撮ることが重要であ る.ビデオ撮影も教育のため,トラブル発生の際に証

Fig. 12 鼠径部切開法 learning curve(対数近似)

超 . . . . . Fig. 13 外科志望者減少の理由(日本外科学会 アンケ ート調査より)

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ヘルニア日帰り手術の現況と展望 ― 901 ― 5 号 拠となり得るので行うべきである.   9 )手術実績・成績の表示  日帰り手術施行施設では,正確な手術実績・成績の 表示をしなければならない.患者はinternet情報を元 に受診動機を喚起されている.日帰り手術を行う多く の施設では90%以上がinternet経由の受診であり,正 確な手術成績を表示することが,今後は自院が選ばれ るための絶対条件と言える.患者の求める要素は①実 績,②治療期間,③保険適応,④治療費,⑤再発率, ⑥生命保険等,高額医療費制度の適応などである.こ れらの説明要件がinformed consentにとって不可欠 である.  10)再発  当施設は1998年より鼠径ヘルニア日帰り手術を開 始,前述した6,326例は日本ヘルニア学会分類制定後 であり,当院当初からの1998年 7 月~2016年12月まで の8,500例に及ぶ治療経験から多くの反省点が浮かび 上がっている.74/8,483=0.8%の再発があった. 2 型 に前方到達法により腹膜前腔処理を行うケースでは pseudo sacの処理不十分や 1 型の見落とし再発が散 見され注意を要する.両側手術では後から行った手術 側の再発が散見されており,術者の注意力が必要であ る.前方到達法による腹膜前腔処理は広範囲の後壁補 強が必要であり,腹膜前腔処置は後方到達法に比較す ると熟練が必要であるため,当院では,後方到達法あ るいはTAPP・TEPがより効果的であると判断して いる.当院のTAPP適応は鼠径床の脆弱性により発 症する 2 型・ 3 型・ 4 型のみとしている. 1 型はher-Fig. 14 2014年診療科別医師数(厚生労働省統計情報・白書より)

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nia sacの処理不十分による術後漿液の貯留があり適 応としていない. VI 今後の展望   1 )鼠径ヘルニア日帰り手術の現状  鼠径ヘルニアはcommon diseaseである.現状では 日帰り手術(同日退院・over night退院)は診療所・ 有床診療所・一部の基幹病院のみで行われているのが 現状である.   2 )鼠径ヘルニア日帰り手術の近未来と医療者側の 経済効果  日本外科学会・外科系学会社会保険委員会連合の報 告(2009年12月11日 山口俊晴,岩中 督)では新卒 者が外科医を目指そうとしない理由は“過酷(長時間 労働)・低賃金・事故,訴訟のリスク”等が上位を占 めている(Fig. 13).  以前は他業種に比較して医師は高給取りであり,労 働対価として妥当であった.バブル期を境に他業種の 賃金が上昇したが,少子高齢化により医療費削減を考 えなければならない時代へ突入した.その結果,医師, 特に外科系医師は訴訟や過酷というイメージから脱却 できず,新卒者の外科系への希望が労働対価のミスマ ッチとして減少したとも考えられる(Fig. 14).  “やり甲斐”として良性疾患外科治療は大きなテー マとなり得る.労働対価もシステム構築によって大き なメリットが有ることを敢えて指摘したい.日帰り手 術に携わる大きなメリットは①拘束時間が少ない,② 満足な収入が得られる,③外科医として常に手術に携 わる,手術の大小を意識しなければ満足度を得られる. 新卒者が外科を避ける理由を大凡クリアできることが 可能であり,やり甲斐のある仕事が日帰り手術である. 特に女性外科医にとっては結婚・出産を挟んで子育て の時間的余裕も得られる大きなメリットがある.外科 医としてのテーマも多数あり,学会活動,論文作成等 の学術的活動もやり甲斐のある仕事と言える. VII まとめ  若い世代に外科医を目指して頂ける根拠として,や り甲斐・労働対価・満足度も得られる鼠径ヘルニア日 帰り手術を紹介した.  鼠径ヘルニア日帰り手術のニーズはtension free法 の確立により増加している.少子高齢化により医療費 削減は日本にとって大きな問題である.良性疾患の日 帰り手術は医療費削減にも大きく寄与できると考え る.しかし,DRG化による医療費削減は本当に良い 方向へ向かうのであろうか.アメリカでは逆に“医療 の質低下”が問題となっている,削減のために簡素化, 準備の無い施設で煩雑な外科治療を行うことによる再 発や合併症が増加していることも事実であり,われわ れは謙虚に受け止め,より良い「日帰り手術」を構築 Fig. 15 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術の推移(矢野経済研究所・株式会社メディコ ン社 2015年集計)

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ヘルニア日帰り手術の現況と展望 ― 903 ― 5 号 する義務があると考えている.  腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は2014年診療報酬改定後 に急激に増加した(Fig. 15).鼠径ヘルニア手術,特 に日帰り手術に関しては腹腔鏡下手術の適応をもう一 度考えなければならないと考える.建物の補修に例え ると,横壁の補修は立位で容易に可能であるが,天井 壁は立位で上を向きながらの補修は容易ではない.天 井裏から補修すれば容易にできる.TAPPは腹腔内か らあたかも天井壁を操作するのと同様と考えている. 鼠径ヘルニアの治療は誰でもが安全に行える術式が望 ましく,筆者は合併症や再発率も少ない鼠径部切開法 を第一選択すべきであると考える.鼠径ヘルニア手術 においては医療者側の診療報酬あるいは高度医療の導 入を追求するための道筋を作ってはならないと考え る.  良性疾患である鼠径ヘルニアの「日帰り手術」は simpleな術式を選択することが重要と考えている. 利益相反:なし 文  献

 1) Campanelli G, Canziani M, Frattini F, et al : In-guinal hernia : state of the art. Int J Surg 2008 ; 6(Suppl 1) : S26-28

 2) 白神豪太郎:日帰り手術―費用対効果の優れた外科 医療システムの構築.医のあゆみ 2003;205:639 -644

 3) Lemos P, Jarrett P, Phillip B : Day Surgery-De-velopment and Practice. International Associa-tion for Ambulatory Surgery (IAAS), Portugal, 2006, p7-8

 4) Jackson I, Mohamed G, Eshuis J, et al : Day Sur-gery Handbook. International Association for Ambulatory Surgery (IAAS), Portugal, 2011, p8 -9  5) 篠崎伸明:日帰り手術の勧め.治療 1998;80: 1198-1199  6) 横江幸子:有床診療所におけるDSコーディネー ターの現状と未来.多根病医誌 2016; 5 :69- 73  7) 執行友成:日本短期滞在外科手術研究会 研究会 の歴史と世界の現状.未来医療研究センター/編, DOCTOR’S NETWORK 2011;46:28-31  8) 社会保険研究所/編 社会保険・老人保健診療報 酬.医科点数表の解釈(平成26年 4 月版),社会 保険研究所,東京,2014,p206-211  9) 石橋未来:米国の医療保険制度について.経済社 会研究レポート 2013;17: 1 -19 10) 丹羽英記:臨床最前線 第54回 外科における日 帰り手術成功のポイント.Fronti Gastroenterol  2011;16:72-77

11) White PF : Ambulatory Anesthesia and Sur-gery. Ed. by White PF, Practice Guidelines, Saunders, London, 1997, p3-34 12) 日本麻酔科学会,日本臨床麻酔学会,日帰り麻酔 研究会/編:「日帰り麻酔の安全のための基準」ガ イドブック2001.2009年 2 月改定,克誠堂出版, 東京,1999 13) 日本ヘルニア学会 ガイドライン委員会/編:鼠 径部ヘルニア診療ガイドライン.第 1 版,金原出 版,東京,2015,p23 14) 柵瀨信太郎:成人男性鼠径ヘルニアの手術適応: 特に無症状またはわずかしか症状がない男性鼠径 ヘ ル ニ ア に 対 す るWatchful Waitingに 関 し て  日本外科系連会誌 2014;39:814-824

15) Lichtenstein IL, Shulman AG, Amid PK, et al : The tension-free hernioplasty. Am J Surg 1989 ; 153 : 188-193

16) Robbins AW, Rutkow IM : The mesh-plug her-niasty. Surg Clin North Am 1993 ; 73 : 501-512

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  In day surgery, the choice of procedures and anesthesia methods is important for avoiding complica-tions and recurrence. Good presurgery preparacomplica-tions and staff training are necessary. The reasons for the current departure from surgical practice are hard work, low wages, and lack of a sense of reward. Day surgery can overcome these difficulties and attract young physicians, particularly female physicians.   Inguinal hernia surgery can be conducted by any surgeon, anywhere, at any time, whether on a day-surgery basis or not. The first-choice procedure should be the anterior approach, which has the least complication and recurrence rates.

Key words:inguinal hernia,day surgery,medical economics,surgeon reduction,woman surgeon

Fig. 10 2015~2016年 術式別集計
Fig. 12 鼠径部切開法 learning curve(対数近似)

参照

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