• 検索結果がありません。

地域在住高齢者における社会参加とフレイルの関連:糸島フレイル研究 [ PDF

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "地域在住高齢者における社会参加とフレイルの関連:糸島フレイル研究 [ PDF"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.背景 本邦においては、2016 年時点で男性の平均寿命は 80.98 歳、女性は 87.14 歳となっているが、平均寿命と健康寿 命の差は縮まることなく、男性で約 9 年、女性で約 13 年 の差が生じたままであり 1)、この差を短縮することが地 域包括ケアシステム構築上、重要課題となっている。健 康寿命を抑制する要因、つまり要支援状態となる原因の 1 位は関節疾患、2 位が高齢による衰弱、3 位は骨折・転 倒となっており、要介護状態となる原因としても認知症 (1 位)、脳血管疾患(2 位)に次いで、高齢による衰弱 が 3 位となっている2)。このことからも要支援・介護の 抑制、つまり健康寿命を延ばし平均寿命との差を少なく するためにも、生活機能障害の予防が不可欠であると考 えられる。加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下に よって生活機能障害に対する脆弱性が増加した状態とし てフレイルという概念が老年医学の分野で提唱されてい る。フレイル高齢者では施設入所、転倒、および入院を 契機に日常生活機能障害をはじめとする生活機能障害を 引き起こしやすく、死亡率も高いことが報告されている 3)。また、高齢者がフレイルを呈する事により生活の質 (QOL)が低下することから4)、フレイル高齢者の生命 予後の推定ならびに包括的高齢者医療を行う上でも重要 な概念であると考えられている。高齢者がフレイルを予 防しかつ安定した日常生活を送るためには、運動・栄養 そして社会参加による包括的な取り組みが必要であると 考えられている。 社会参加による社会的・心理的機能面への影響として は、主観的幸福感の増大、うつ病および認知症の発症リ スクの低下、死亡率の低下に関する前向き研究が報告さ れている 5)。また、生内ら 6)の地域在住高齢者を対象と した研究では、社会的活動への参加は社会経済的要因、 既往歴、および運動習慣とは独立して、総合的な体力お よび下肢の動作実行能力と関連することが報告されてい る。これらの成績から、社会参加の頻度を増やすことは、 体力の維持・向上にとって重要な因子であると考えられ、 社会参加の頻度はフレイル予防の有用な手段の一つとな る可能性が期待できる。すなわち、社会参加とフレイル との関連を検討することは、健康寿命の延長や介護予防 の観点から極めて重要である。社会参加の推進は、健康 日本 21 において主要な目標の一つに掲げられているこ とから、その検討の必要性はあると考えられる。 そこで本研究では、地域在住高齢者における社会参加 とフレイル構成因子およびフレイルとの関連、および社 会参加における様々な活動とフレイルとの関連に関して 検討した。 2.方法 1)研究デザイン

糸島フレイル疫学研究(Itoshima Frail Study:以下 IFS) のベースライン調査のデータをもとに行われた横断研究 である。 2)対象者 福岡県糸島市在住で要支援・要介護認定を受けていな い 65 歳から 74 歳の高齢者のうち、2017 年 9 月から 12 月の間に実施された測定会に参加された方 966 名のうち、 データ不備のなかった 903 名。 3)曝露因子 曝露因子としては社会参加の有無および社会参加の 各活動の有無とした。社会参加の内容としては日常生活 圏域高齢者ニーズ調査の質問項目から、地域の祭り・行 事、自治会・町内会、サークル等、老人クラブ、ボラン ティア活動、宗教活動、商工会の 7 項目を用い、それぞ れの活動に対する参加の有無を調査した。上記 7 項目に 該当しない活動は、その他とし、活動内容を調査した。 このうち 1 つ以上に該当する者を参加群とし、1 つも該 当しない者を非参加群と区分した。 4)アウトカム フレイル頻度、フレイル構成因子とし、フレイルの判 定は Fried の分類をもとに陳ら7)が報告した操作的定義 を用い、①体重減少、②握力低下、③倦怠感、④歩行速 度の低下、および⑤活動量低下の 5 項目のうち、5 項目 全てに該当しない者をノンフレイル、1~2 項目該当者を プレフレイル、3 項目以上の該当者をフレイルと定義し た。 5)その他の調査項目 認知機能は MoCA-J を用いて評価した。年齢、性別、

地域在住高齢者における社会参加とフレイルの関連:糸島フレイル研究

キーワード:社会参加,社会的活動,活動量低下,フレイル,ボランティア 行動システム専攻 吉田 純一

(2)

BMI、身体活動量、教育歴、喫煙、飲酒、運動習慣お よび服薬状況を調査した。 6)統計解析 対象者の特性として、社会参加の有無別に年齢、教育 歴、BMI、認知機能は t 検定を用い、性別、運動習慣、 喫煙、飲酒、服薬状況、フレイル構成因子(体重減少、 握力低下、倦怠感、歩行速度低下、活動量低下)、プレフ レイルおよびフレイルの割合は χ2検定を用いた。次に、 社会参加を説明変数とし、フレイル構成因子である体重 減少、握力低下、倦怠感、歩行速度低下、活動量低下お よびプレフレイル・フレイルの有無を目的変数として多 変量ロジスティック回帰分析を行った。 また、社会参加における各活動と、フレイル構成因子 である体重減少、握力低下、倦怠感、歩行速度低下、活 動量低下およびプレフレイル・フレイルの有無の差を検 定するためにχ2検定を用いた。最後に、社会参加におけ る各活動を説明変数、フレイルの有無を目的変数として 多変量ロジスティック回帰分析を行った。プレフレイ ル・フレイルの有無の判定方法としては、フレイル構成 因子 5 項目のうち、5 項目全てに該当しない場合を 0、1 項目以上該当する場合を 1 として判定を実施した。すべ ての解析は SAS ver. 9.4(SAS Institute Inc, Cary NC, USA) を用い、統計学的有意水準は 5%とした。 7)倫理委的配慮 本研究は九州大学基幹教育院倫理委員会の承認を得 ており、ヘルシンキ宣言の精神に基づいて、調査参加者 に調査の目的と内容の説明を実施し、同意の署名を得た。 3.結果 1) 対象者の特性 7 種類の社会的活動のうち少なくとも 1 つ以上参加し ている者(以下参加群)は 783 名(86.7%)であり、1 つ も該当しない者(以下非参加群)は 120 名(13.3%)で あった(表 1)。このうち参加群の男女比は男性 47.9%、 女性 52.1%であり、非参加群は男性 59.2%、女性 40.8% と女性の参加率が有意に高値を示した。参加群の平均年 齢は 71.0±3.1 歳であり、教育歴は 12.9±2.4 年であった。 BMI は参加群で 22.9±3.1、非参加群で 23.5±3.7 と非参加 群で有意な高値を示した。運動習慣は、参加群 437 名 (55.8%)、非参加群 40 名(33.3%)と参加群で有意な 高値を認めた。プレフレイル者数は参加群で 309 名 (39.5%)、非参加群 58 名(48.3%)であり、フレイル 者数は参加群 17 名(2.2%)、非参加群 2 名(1.7%)で あった。 2)社会参加とフレイル構成因子およびフレイルの有無と の関連 社会参加を説明変数としたロジスティック回帰分析 の結果、「社会参加」については、「フレイルの有無」に 関して関連が認められなかった(表 2)。フレイル構成因 子の一つである「活動量低下」のモデル 1 (調整変数:年 齢、性別)でオッズ比 0.55、およびモデル 2 (調整変数: 年齢、性別、教育歴、認知機能、服薬状況、喫煙、飲酒) においてオッズ比 0.55 と有意な関連が認められた。しか し、モデル 2 に運動習慣を調整変数として追加したモデ ル 3 では有意な関連は認められなかった。また、その他 のフレイル構成因子である「体重減少」、「握力低下」、「倦 怠感」、および「歩行速度低下」に関しては関連が認めら れなかった。 3)社会参加の活動内容とフレイル構成因子との関連 「祭り・行事」活動においてはフレイル構成因子であ る「体重減少」と「歩行速度低下」との間に有意差を示 したが、フレイルの有無との有意差は認められなかった。 「自治会・町内会」活動に関しては、「倦怠感」との間に 表 1 社会参加有無別の対象者の特徴 全般 参加群 不参加群 p 値 (n=903) (n=783) (n=120) 平均年齢 (歳, 平均±SD) 70.9±3.1 71.0±3.1 70.7±3.2 0.59 男性, n (%) 446(49.4) 375(47.9) 71(59.2) 0.02* 教育歴 (年, 平均±SD) 12.9±2.4 12.9±2.4 12.7±2.6 0.26 BMI (m2/kg, 平均±SD) 22.9±3.2 22.9±3.1 23.5±3.7 0.01* 運動習慣, n (%) 477(52.8) 437(55.8) 40(33.3) <.001* ノンフレイル, n (%) 517(57.3) 457(58.4) 60(50.0) 0.18 プレフレイル, n (%) 367(40.6) 309(39.5) 58(48.3) フレイル, n (%) 19(2.1) 17(2.2) 2(1.7) 表 2 社会参加とフレイル構成因子・フレイルの有無との関連に関する ロジスティック回帰分析 目的変数 オッズ比 95%信頼区間 p 値 プレフレイル ・フレイル モデル 1 0.77 0.51 -1.15 0.20 モデル 2 0.89 0.58 -1.34 0.60 モデル 3 1.06 0.68 -1.62 0.80 活動量低下 モデル 1 0.55 0.32 -0.92 0.02* モデル 2 0.55 0.32 -0.93 0.03* モデル 3 0.73 0.41 -1.29 0.27 モデル 1:年齢、性別 *p<0.05 モデル 2:年齢、性別、教育歴、認知機能、服薬状況、飲酒、喫煙 モデル 3:年齢、性別、教育歴、認知機能、服薬状況、飲酒、喫煙、運動習慣

(3)

有意差が認められたが、フレイルの有無との有意差は認 められなかった。「サークル活動等」においては、「歩行 速度低下」とフレイルの有無において有意差が示された。 「ボランティア」活動では、フレイル構成因子である「活 動量低下」およびフレイルの有無において有意差は認め られた。「商工会」においては、「歩行速度低下」でのみ 有意差が示された。「老人クラブ」および「宗教活動」で はすべての項目において有意差は認められなかった。 表 3 社会参加における各活動の有無とフレイル構成因子との関連 全対象者 参加群 非参加群 p 値 全対象者 参加群 非参加群 p 値 祭り・行事 (n=903) (n=388) (n=515) ボランティア (n=903) (n=245) (n=658) 体重減少 87(9.6) 27(6.9) 60(11.6) 0.02* 体重減少 87(9.6) 21(8.5) 66(10.0) 0.51 握力低下 157(17.3) 65(16.7) 92(17.8) 0.66 握力低下 157(17.3) 37(15.1) 120(18.2) 0.27 倦怠感 111(12.2) 43(11.0) 68(13.2) 0.34 倦怠感 111(12.2) 29(11.8) 82(12.4) 0.80 歩行速度低下 47(5.2) 7(1.8) 40(7.7) <.001* 歩行速度低下 47(5.2) 9(3.6) 38(5.7) 0.21 活動量低下 110(12.1) 43(11.0) 67(13.0) 0.38 活動量低下 110(12.1) 21(8.5) 89(13.5) 0.04* 全対象者 参加群 非参加群 p 値 全対象者 参加群 非参加群 p 値 自治会・町内会 (n=903) (n=432) (n=471) 宗教活動 (n=903) (n=96) (n=807) 体重減少 87(9.6) 45(10.4) 42(8.9) 0.45 体重減少 87(9.6) 7(7.2) 80(9.9) 0.41 握力低下 157(17.3) 81(18.7) 76(16.1) 0.30 握力低下 157(17.3) 23(23.9) 134(16.6) 0.07 倦怠感 111(12.2) 42(9.7) 69(14.6) 0.02* 倦怠感 111(12.2) 15(15.6) 96(11.9) 0.29 歩行速度低下 47(5.2) 19(4.4) 28(5.9) 0.30 歩行速度低下 47(5.2) 4(4.1) 43(5.3) 0.63 活動量低下 110(12.1) 46(10.6) 64(13.5) 0.18 活動量低下 110(12.1) 14(14.5) 96(11.9) 0.45 全対象者 参加群 非参加群 p 値 全対象者 参加群 非参加群 p 値 サークル等 (n=903) (n=442) (n=461) 商工会 (n=903) (n=24) (n=879) 体重減少 87(9.6) 35(7.9) 52(11.2) 0.09 体重減少 87(9.6) 1(4.1) 86(9.7) 0.36 握力低下 157(17.3) 71(16.0) 86(18.6) 0.30 握力低下 157(17.3) 7(29.1) 150(17.0) 0.12 倦怠感 111(12.2) 53(11.9) 58(12.5) 0.79 倦怠感 111(12.2) 3(12.5) 108(12.2) 0.98 歩行速度低下 47(5.2) 16(3.6) 31(6.7) 0.04* 歩行速度低下 47(5.2) 5(20.8) 42(4.7) 0.01* 活動量低下 110(12.1) 43(9.7) 67(14.5) 0.03* 活動量低下 110(12.1) 5(20.8) 105(11.9) 0.19 全対象者 参加群 非参加群 p 値 n(%) n(%) n(%) *p<0.05 老人クラブ (n=903) (n=185) (n=718) 体重減少 87(9.6) 13(7.0) 74(10.3) 0.18 握力低下 157(17.3) 39(21.0) 118(16.4) 0.14 倦怠感 111(12.2) 21(11.3) 90(12.5) 0.66 歩行速度低下 47(5.2) 10(5.4) 37(5.1) 0.89 活動量低下 110(12.1) 19(10.2) 91(12.6) 0.37 n(%) n(%) n(%) *p<0.05 4)社会参加における各活動の有無とフレイルの有無との 関連 社会参加の各活動を説明変数としたロジスティック回 帰分析の結果(表 4)、「サークル等」では、フレイルの モデル 1 (調整変数:年齢、性別)において有意な関連が 認められた(オッズ比 0.75)。また、「ボランティア」に 関しては、フレイルのモデル 1 (調整変数:年齢、性別) においてオッズ比 0.63、モデル 2 (調整変数:年齢、性別、 教育歴、認知機能、服薬状況、飲酒、喫煙)でオッズ比 0.63、モデル 3 (調整変数:年齢、性別、教育歴、認知機 能、服薬状況、飲酒、喫煙、運動習慣)ではオッズ比 0.71、 全てのモデルにおいて有意な関連が認められた。その他 の社会的活動に関してはフレイルとの関連は認められな かった。 表 4 社会参加における各活動の有無とフレイルの有無との関連に 関するロジスティック回帰分析 説明変数 オッズ比 95%信頼区間 p 値 サークル等 モデル 1 0.75 0.56 - 0.98 0.04* モデル 2 0.81 0.61 - 1.07 0.14 モデル 3 1.07 0.78 - 1.45 0.67 ボランティア モデル 1 0.63 0.46 - 0.85 0.01* モデル 2 0.63 0.46 - 0.87 0.01* モデル 3 0.71 0.50 - 0.98 0.04* モデル 1:年齢、性別 *p<0.05 モデル 2:年齢、性別、教育歴、認知機能, 服薬状況、飲酒、喫煙 モデル 3:年齢、性別、教育歴、認知機能、服薬状況、飲酒、喫煙、運動習慣 4.考察 本研究の結果より、社会参加群 41.6%、非参加群 50.0% とプレフレイル・フレイル頻度において 8.4%の差が生じ ていたものの、社会参加とフレイルにおいても関連性は 認められなかった。この背景としては、社会的活動の内 容により、その活動で生じる身体活動の強度や負荷量な どが違うことや、その活動目的によって精神的影響度も 異なってくるため効果量が一定でない点などがその要因 として考えられた。また、食・栄養因子等の他の因子を 考慮していない点も要因として考えられた。 地域在住高齢者における社会参加により、フレイル構 成因子の一つである「活動量低下」と関連することが示 唆されたが、運動習慣との独立が認めらなかったことか ら、運動習慣による影響も関与していると考えられた。 竹原らの研究8)では、女性高齢者では中年者と比較して、 家事活動量のほかに、外出での活動量と総身体活動量と の間に正相関がみられ、外出活動量の多いものは総身体 活動量も多いことを報告している。このことからも、社 会参加により外出頻度が増加することによって、1 日に おける軽強度以上の活動時間が増加し、活動量低下の抑 制に繋がったと考えられる。しかしながら、その他の構 成因子「体重減少」、「握力低下」、「倦怠感」、「歩行速度 低下」との間に関連は認められなかった。 社会参加における各活動の有無とフレイル構成因子 との関連において、「自治会・町内会」活動は「倦怠感」 と有意な関連がみられた。「自治会・町内会」活動には他 の社会的活動に比べ、コミュニティ形成の役割が強く人

(4)

との関わりに重点が置かれているため、「倦怠感」の抑制 つまり社会的フレイルの予防に繋がっていると考えられ た9)「祭り・行事」および「サークル等」は「歩行速度 低下」と有意な関連がみられた。中嶋ら10)の研究により、 歩行速度と身体機能には正相関があることが示されてい る。「祭り・行事」および「サークル等」は他の活動と比 較し高い身体機能を要することが多いため、フレイル構 成因子である「歩行速度低下」と関連がみられたと考え られる。「サークル等」および「ボランティア」において は「活動量低下」と有意に高い関連を示し、フレイルの 有無に関しては、年齢、性別を調整した上でも、両活動 において関連が認められた。「ボランティア」の社会的活 動においては、年齢、性別だけでなく教育歴、認知機能、 服薬状況、運動習慣、飲酒、喫煙を調整した上でもフレ イルの有無と高い関連があり、このことからもボランテ ィア活動は運動習慣と独立してフレイル抑制と関連があ ることが示唆される。ボランティア活動が健康に及ぼす 直接的な影響を分析した研究の大半は、生活満足度 11) 抑うつ度11)、自己統制感11,12)、自尊心11.12)、健康度自己 評価12)といった心理尺度を目的変数としたものであり、 心理的な健康度とが関連すると報告している。これらの 心理尺度のうち、特に自尊心はボランティア活動に特徴 的な感情であると考えられている13)。自尊心は人間の最 も 基 本 的 な 欲 求 の 次 に 出 現 す る 欲 求 で あ り 、 幸 福 (well-being)の重要な指標である13)。また、ボランティア 活動を通じて人に感謝され、周囲から尊敬されることに より自尊心が高まることはすでに知られており、強い精 神的効果を得やすいとの指摘がある 12)。他にも、Luoh ら 14)は適度なボランティア活動は死亡の抑制と関連す ることも報告している。 ボランティア活動への参加が高齢者の心身の健康に 影響する社会生理・心理的メカニズムとしては、①ボラ ンティア活動に参加することにより自らの能力や自分自 身に対する自信あるいは再認識あるいは再認識が促進さ れることにより心理的健康度が高まる心理的なメカニズ ム、②定期的にボランティアに参加することにより外出 が促され、身体活動が維持される身体的メカニズム、③ ボランティア活動を通して、人間関係が広がり新たな社 会的サポート・ネットワークを授受できる社会的メカニ ズムがあげられる13)。以上の効果から、「ボランティア」 の社会的活動は、フレイル構成因子の抑制、フレイルの 予防に大きく影響するものと考えられる。 4.結論 社会参加とフレイル構成因子・フレイルとの関連およ び社会参加の各活動とフレイルとの関連を検討した。社 会参加にはフレイル構成因子である「活動量低下」の抑 制と関連があることが示唆され、社会参加の活動内容に よっては他の構成因子との関連も認められた。特に「ボ ランティア」の社会的活動においては、運動習慣と独立 してフレイルとの関連が認められており、フレイル予防 の観点からも重要な知見と考えられた。 しかしながら、研究限界としては、横断研究であるた め因果関係を明らかにすること出来なかった。また、無 作為で対象者を抽出しているが、測定会に参加した者を 最終的な解析対象者としているため、より健康な方に偏 っていた可能性も否定できない。最後に、社会参加の各 活動の有無を質問紙で確認しているため、回答バイアス が生じている可能性も考えられた。 社会参加は、個人の意識・意欲、達成感、姿勢、考え 方などが重要な規定要因の1つとして作用していること も明らかである。そのため、今後は活動の内容でだけで なく活動の頻度等を考慮し、社会参加を定量的かつ質的 に評価した上で研究を行い、国が進める社会参加の増進 の価値を見出していく必要があると考えられる。 主要引用文献 1)厚生労働省. 平成 28 年簡易生命表の概況, 2016; 1-2. 2)厚生労働省. 平成 28 年国民生活基礎調査の概況, 2016 ;29. 3)荒井秀典. 日本老年医学会誌, 2014; 51: 497-501. 4)Robbens J.J, Assen VM. Archives of Gerontology and

Geriatrics, 2017; 73: 69-76.

5)Han B. Journal of the American Geriatrics Society, 50; 2002: 1549-1556

6)生内由佳, 本田貴紀, 熊谷秋三, 他. 日本公衆衛生雑誌, 2016; 63: 727-737.

7)Chen S, Honda T, Kumagai S, et al. BMC Geriatrics, 2015; 15: 36.

8)竹原広実, 梁瀬度子. 日本家政学誌, 2009; 60: 937-944. 9)倉田和四生. 社会学部紀要, 2000; 86: 63-76.

10)中嶋大喜, 村田伸, 飯田康平, 他. ヘルスプロモーシ ョン理学療法研究, 2016; 6: 111-116.

11 ) Hunter KI, Linn MW. Int J Aging Hum Develop, 1980-81;12: 205-213.

12)Thoits PA, Hewitt LN. J Health Soc Behav, 2001; 42: 115-131.

13)Fischer LR, Rapkin BD, Rappaport J. Sage Pulblications, 1993; 15: 261-279.

参照

関連したドキュメント

糸速度が急激に変化するフィリング巻にお いて,制御張力がどのような影響を受けるかを

 介護問題研究は、介護者の負担軽減を目的とし、負担 に影響する要因やストレスを追究するが、普遍的結論を

プログラムに参加したどの生徒も週末になると大

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

種別 自治体コード 自治体 部署名 実施中① 実施中② 実施中③ 検討中. 選択※ 理由 対象者 具体的内容 対象者 具体的内容 対象者

社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課

① 農林水産業:各種の農林水産統計から、新潟県と本市(2000 年は合併前のため 10 市町 村)の 168