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Microsoft Word - ⑱薬って何(メダカの学校).doc

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薬って何-くすりと体のしくみ-  

1. はじめに 体にとって異物である薬は、病気や症状を改善したり、あるいは不快な作用を及ぼしたりします。薬 の効果は、体の中での薬の動きで決まります。薬は、皆さんが日常摂取する栄養物(グルコースやアミ ノ酸など)と同じように小腸から吸収されて、作用を発揮し、最終的に腎臓から排泄されます。なかで も、肝臓では薬の代謝(解毒)と再生、腎臓では薬の排泄を基本とする複雑なしくみによって驚くべき 速さと精密さで薬を処理してくれます。したがって、薬は体の中でどのように動くかを理解するために は、とくに肝腎要の“肝臓”と“腎臓“のしくみを理解する必要があります。 皆さんご存じのように、薬には、1 日に 6 回も飲まなければならないものから、1 日 3 回、1 日 1 回 でよいもの、さらに1 ヶ月に 1 回投与すればよいものまでいろいろあります。また、体の中に入った薬 が体の外へ出るのに数時間から、1 週間以上かかるものがあります。ヒトそれぞれに性格が異なるよう に薬もそれぞれ性質が異なり、体の外へ速く出ていくものと、ゆっくり出ていくものとがあります。こ の違いは薬の固有の構造と分子量の違いによります。肝臓や腎臓の働く能力は血液検査(肝・腎機能検 査)によって知ることができると同じように、薬が体の外に速く出ていくか、あるいはゆっくり出てい くかは、血液中あるいは尿中の薬の濃度を測定すればわかります。本稿では、なぜこのように薬の効き 方に違いが、また体から出ていく時間に差があるかということを「薬と体のしくみ」によって説明しま す。 2. 薬はどこから、どのように吸収されるか 錠剤やカプセルを飲んだ場合を考えてみましょう。錠剤やカプセルは胃で壊れ、放出された薬は胃~十 二指腸~小腸へと移動しながら消化液に溶けます。薬は消化液に溶けないと小腸などから吸収されません。 薬は主に小腸から吸収され、門脈を経て最初の処理臓器である肝臓に到達します。肝臓に到達した薬は 様々な酵素の攻撃を受けます。この攻撃を免れた薬が血液によって全身に運ばれます(下記の図を参照)。 薬は水に溶けやすい性質(水溶性)のものと油に溶けやすい性質(脂溶性)のものがありますが、一般 に、油に溶けやすい薬は小腸からよく吸収され、水にしか溶けない薬はほとんど吸収されません。例外と して、生命維持のために必要な栄養物質(ブドウ糖とアミノ酸)は水に溶けやすいにもかかわらず小腸か ら効率的に吸収されます。これは、小腸の粘膜上にアミノ酸やブドウ糖などの栄養物質を効率よく吸収す るための運び屋さん(トランスポーターと呼ばれている)が存在しているからです。多くの薬は油に溶け 舌下(舌下錠) 糞便 消化管 胃 肝臓 腎臓 直腸吸収(坐薬) 全 身 循 環 門脈 尿 注射 代謝酵素 代謝 代謝 経口 胆 管 代謝酵素 薬物の生体内での動き 貼付剤 経 皮 吸 収 舌下(舌下錠) 糞便 消化管 胃 肝臓 腎臓 直腸吸収(坐薬) 全 身 循 環 門脈 尿 注射 代謝酵素 代謝 代謝 経口 胆 管 代謝酵素 薬物の生体内での動き 貼付剤 経 皮 吸 収

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やすく、運び屋さんの力を借りずに小腸から吸収されます。 皆さんご存じのペニシリンという抗生物質は、その構造にラクタム環をもっていますので、β-ラクタム 系抗生物質と呼ばれています。このβ-ラクタム系抗生物質はアミノ基(-NH2)をもつアミノ-β-ラクタム系 抗生物質とアミノ基をもたないβ-ラクタム系抗生物質に大きく分けることができます。いずれのβ-ラクタ ム系抗生物質も水によく溶ける性質をもつため、小腸からは吸収されないと考えられていました。ところ が、あるアミノ-β-ラクタム系抗生物質を動物に経口投与したところ、効率よく吸収されることが判明した のです。なぜ、水に溶けるアミノ-β-ラクタム系抗生物質が小腸から吸収されるのか研究したところ、小腸 の粘膜上にアミノ-β-ラクタム系抗生物質を認識する運び屋さん(ジペプチドトランスポーターと呼ばれて います)が存在することがわかりました。2 個のアミノ酸が結合したものをジペプチドといいますが、ア ミノ基をもつアミノ-β-ラクタム系抗生物質は、あたかもジペプチド様の構造をもっていますので、この運 び屋さんが誤って認識するためです。図からお分かりになると思いますが、アミノ-β-ラクタム系抗生物質 であるセファレキシンは、この運び屋さんによって認識され効率よく吸収されますが、アミノ基を持たな いβ-ラクタム系抗生物質であるセファゾリンは、この運び屋さんに認識されず、そのほとんどが小腸から 吸収されません(下記の図を参照)。 先ほど小腸から吸収され門脈系を介して肝臓に到達した薬は、肝臓に存在する様々な酵素によって代謝 (解毒)され、肝臓での代謝を免れた薬が全身をめぐる循環血流に入ると説明しました。この循環血液に 入った薬が薬効を発揮します。飲んだ薬の量を100 としたとき、循環血流に入った薬の割合を専門用語で バイオアベイラビリティといいます。したがって、バイオアベイラビリティの低い薬は、経口投与後に小 腸や肝臓を初めて通過するときに代謝あるいは分解され、循環血流に入る割合が低いことを意味します。 一般に、バイオアベイラビリティの高い薬ほど、体にとって優しい薬、優れた薬といえます。循環血流に 入った薬は肝臓、腎臓、心臓、脳などの臓器に速やかに運ばれます(分布と呼ばれています)。 3. 肝臓は薬をどのように処理するか 肝臓の主な仕事は、薬などの異物を代謝(解毒)することと胆汁中へ排泄することです。肝臓にはいろ んな酵素がありますが、なかでも最も重要な酵素はシトクロームP450(CYP)と呼ばれているものです。 この酵素には約30 種類以上のアイソザイム(同じような活性をもつ仲間)があります。例えば、A とい う薬を選択的に代謝する、あるいはA と B という薬を選択的に代謝するといった、ある特定の薬を代謝 するCYP のアイソザイムが約 30 種類以上存在するということです。このアイソザイムの中で、最も多く の薬の代謝に関与しているものがCYP3A4 です。ですから、CYP3A4 はメジャー酵素あるいは高性能酵素 と呼ばれています(下記の図を参照)。 セファゾリン(注射剤) セファレキシン(経口剤) 小 腸 粘 膜

β-ラクタム系抗生物質の消化管吸収

認識 非認識 N N N N N H N O CH2 COOH S N N S NH2 O H C H C S

PEPT1

N S O CH 3 COOH N H O NH2 C H C セファゾリン(注射剤) セファレキシン(経口剤) 小 腸 粘 膜

β-ラクタム系抗生物質の消化管吸収

認識 非認識 N N N N N H N O CH2 COOH S N N S NH2 O H C H C S N N N N N H N O CH2 COOH S N N S NH2 O H C H C S

PEPT1

N S O CH 3 COOH N H O NH2 C H C N S O CH 3 COOH N H O NH2 C H C

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ここで、酵素の役割についてアルコールを例に考えてみましょう。アルコールに強いヒトと弱いヒトが いますが、これには肝臓のアルコールを代謝する酵素の量が関係しています。アルコールは肝臓に運ばれ ると、まずアルコール脱水素酵素(ADH)によって、毒性が強く、悪酔い・二日酔いの原因にもなるアセ トアルデヒドに代謝されます。このアセトアルデヒドは最終的にアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH) によって酢酸に代謝されます。たとえば、アセトアルデヒド脱水素酵素の量が少ないヒトは、飲んだアル コールが最終的に酢酸になる割合が少なくなりますので、少しのアルコールを飲んだだけでも悪酔いして しまう、あるいは気分が悪くなります。日本人よりも白人のほうがアルコールに強いことをご存じだと思 いますが、これはALDH の量が日本人よりも白人のほうが多いことによります。ところで、アルコールは 水より油に溶けやすく、酢酸は水に溶けやすい性質をもっています。代謝とは、油に溶けやすい薬を水に 溶けやすい薬に変える作業といえます(脂溶性→親水性)。なぜならば、水に溶けやすくなると尿に溶け やすくなるので、最終的に腎臓からスムーズに排泄されるためです。 では、肝臓の機能が低下している患者さんでは「すべての薬」の代謝(解毒)が遅れ、その結果として、 作用時間が強く、あるいは長くなるのでしょうか。薬には肝臓で代謝されやすいもの(肝代謝型あるいは 肝排泄型)と、肝臓で代謝されずにそのままの形で腎臓から排泄されるもの(腎排泄型)があります。し たがって、肝臓の機能が低下した患者さんが肝代謝型の薬を服用した場合には代謝(解毒)されにくく、 薬が体の中にいつまでも残り、薬の作用が増強し、作用時間が長くなります。しかし、腎排泄型の薬を服 用した場合には代謝される必要がありませんので、薬の動きや働きには変化が認められず、薬の効果と作 用時間もあまり変化しません。 ここで、知っておいていただきたい薬の話をします。じつは、薬には肝臓にある CYP の活性を高める ものと、活性を低下させるものがあります。ここで問題になるのが「薬の飲み合せ」です。例えば、肝臓 で代謝(解毒)されやすいA という薬を飲んでいる患者さんが肝臓の CYP の活性を低下させる B という 薬を一緒に服用した場合、A という薬は、肝臓での代謝がスムーズに行われないので、いつまでも体の中 にとどまり、その作用が強く現れ、望ましくない作用(副作用)が発現する可能性があります。逆に、肝 臓のCYP の活性を高める C という薬を一緒に服用したときには、A という薬が通常よりも速く代謝(解 毒)されてしまうので、期待する効果が得られない場合があります。したがって、B あるいは C という薬 はA という薬にとって悪玉で、患者さんにとっても望ましくない薬といえます。 「薬の飲み合せ」で注意すべきものに、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)があります。 セントジョーンズワートは抗うつ作用を有することから健康食品として販売され広く普及しております。 じつは、セントジョーンズワートは肝薬物代謝酵素の分子種のなかでも特に重要な CYP3A4 と CYP1A2 薬物代謝酵素P450の分子種 ジアゼパム、イミプラミン オメプラゾール オメプラゾール 多種多様な薬物に関与する酵素 Ca拮抗薬、シクロスポリン、エリスロマイシン、 ジアゼパム、カルバマゼピン、シメチジン、 キニジン、トリアゾラム、タクロリムス エリスロマイシン、クラリスロマイシン シメチジン、アゾール系抗真菌薬 酸性薬物で蛋白結合率が高い トルブタミド、ワルファリン ジクロフェナック、フェニトイン 喫煙により誘導を受ける酵素 テオフィリン、プロプラノロール、カフェイン イミプラミン、プロプラノロール、 ハロペリドール、コデイン 遺伝子多型を示す酵素 日本人では約20%が欠損 CYP2C19

CYP3A4

CYP2C9 サルファ剤 5-FU CYP1A2 キノロン系抗菌薬 シメチジン 遺伝子多型を示す酵素 CYP2D6 キニジン 薬物代謝酵素P450の分子種 ジアゼパム、イミプラミン オメプラゾール オメプラゾール 多種多様な薬物に関与する酵素 Ca拮抗薬、シクロスポリン、エリスロマイシン、 ジアゼパム、カルバマゼピン、シメチジン、 キニジン、トリアゾラム、タクロリムス エリスロマイシン、クラリスロマイシン シメチジン、アゾール系抗真菌薬 酸性薬物で蛋白結合率が高い トルブタミド、ワルファリン ジクロフェナック、フェニトイン 喫煙により誘導を受ける酵素 テオフィリン、プロプラノロール、カフェイン イミプラミン、プロプラノロール、 ハロペリドール、コデイン 遺伝子多型を示す酵素 日本人では約20%が欠損 CYP2C19

CYP3A4

CYP2C9 サルファ剤 5-FU CYP1A2 キノロン系抗菌薬 シメチジン 遺伝子多型を示す酵素 CYP2D6 キニジン

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を誘導します(活性化)。なぜ、セントジョーンズワートがCYP3A4 を誘導することが判明したのでしょ うか。臓器移植の患者さんが移植片拒絶反応(GVH 反応)防止のために必ず服用する薬にシクロスポリ ンという免疫抑制薬がありますが、この薬はCYP3A4 によって代謝されます。ところが、シクロスポリン を服用している多くの患者さんのシクロスポリンの血中濃度が異常に低下し、その結果として、GVH 反 応が起きたので、その原因を調査したところ、GVH 反応が起きた多くの患者さんがセントジョーンズワ ートを服用していたことが判明しました。したがって、セントジョーンズワートを長期間(一週間以上) 服用しておりますと知らないうちにCYP3A4 が誘導されていますので、シクロスポリンや経口避妊薬など のようなCYP3A4 によって代謝される薬と一緒に併用しますと、これらの薬が予想以上に代謝(解毒)さ れ、その結果、期待する効果が得られなくなります。シクロスポリンや経口避妊薬との併用は禁忌となっ ております。 4. ヒトと動物における薬の代謝の違い さて、皆さんご存じのように、薬は、研究の段階でネズミやウサギなどの動物を使った実験により安全 かどうか、効果があるのかどうかを調べるのですが、ヒトが薬を飲んだ場合と動物に投与した場合の薬の 動きは同じでしょうか。たとえば、ヒトにおいて十分な睡眠効果が得られる肝代謝型の薬である睡眠薬を マウス、ラット、ウサギおよびイヌに体重に応じて投与したところ、それぞれの睡眠時間は10 分、49 分、 90 分および 315 分と、ヒトにおける睡眠時間よりも短い結果が得られております。このように動物間ある いは動物とヒトの間で差が認められるのはなぜでしょうか。マウスとヒトで考えてみましょう。これはそ れぞれの寿命の違いによるものではないかといわれています。マウスの寿命は約2 年ですが、2 年という 短い時間で摂取したあらゆる毒物や異物を代謝(解毒)しなければならないため、肝臓での酵素は代謝す る能力が高くなったと思われます。一方、ヒトは 80 年という長い時間をかけて代謝(解毒)するので代 謝する能力がマウスよりも低いと考えられます。すなわち、寿命に比例して、小さな動物(一般的に寿命 が短い)は大きな動物(寿命が長い)よりも速く代謝し、かつ腎臓から速く排泄するということです。ま た、ヒトの場合は純粋培養で、薬を除いて、解毒(代謝)を必要とするような食物を摂取しませんが、動 物はあらゆる汚染中毒物質を摂取するため、ヒトよりも高い解毒(代謝)能力を必要としているかもしれ ません。いずれにしても、興味深いことは動物での薬の動きがわかれば、ヒトにおける薬の動きがある程 度予測することができるということです。 5. 腎臓は薬をどのように処理するか 腎臓は、外から摂取した栄養物質や異物が代謝されてできた老廃物や代謝物を尿の成分として体外へ排 出する臓器です。腎臓の最小単位はネフロンと呼ばれ、ヒトの左右の腎臓にそれぞれ約100 万個存在して 薬物の腎排泄機構 腎血漿流量 尿中排泄 尿細管分泌 :アルブミン :薬物 糸球体濾過 尿細管再吸収 薬物の腎排泄機構 腎血漿流量 尿中排泄 尿細管分泌 :アルブミン :薬物 糸球体濾過 尿細管再吸収

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います。ネフロンは糸球体での[ろ過]、血流から見ると糸球体の後ろに位置している尿細管での[再吸収]、 尿細管での[分泌]の三つの機能を持っています(上記の図を参照)。 腎臓は薬をどのように排泄するのでしょう。血液中の水分は腎臓にある糸球体ろ過膜を通って尿細管に 落ちてきます。糸球体ろ過膜はコーヒーを入れるときに使うフィルタと考えてください。抽出されたコー ヒーエキスは下に落ちますが、粒のコーヒーはフィルタに残ります。すなわち、血液中に存在するアルブ ミンなど分子量の大きい物質(約3 万以上)やアルブミンと結合している薬は、フィルタに残るコーヒー 豆のようにろ過されません。この現象を糸球体ろ過といいますが、単位時間当たりに濾過される量が、腎 機能を評価するための血液検査項目の一つでもあるクレアチニンクリアランス値と呼ばれているもので す。このクレアチニンクリアランス値を測定すれば、患者さんの腎機能がわかります。健康なヒトの場合、 水分や溶け込んだアミノ酸やブドウ糖は1 分間に約 100 ml の速度で落ちてきます。ですから、血液中の 水分に溶け込み、かつアルブミンなどの高分子と結合していない低分子の薬はこの速度で落ちてきます。 しかし、腎機能が低下すると糸球体ろ過速度が低下しますので、薬の落ちる速度も遅くなり、薬が体の中 にいつまでも残ることになります。したがって、薬がスムーズに尿中に排泄されるためには腎臓の機能の 維持と、腎臓の機能にあった薬の投与量の調節がきわめて大切になります。ただし、糸球体ろ過膜を通っ て尿細管に落ちてきた水分、ブドウ糖、アミノ酸などは生命維持に不可欠であるため、再び血液中に戻っ ていきます(これを再吸収という)が、多くの薬は血液中に戻ることなく尿として排泄されます。 6. 薬は脳へ入りにくい ここで、薬という異物があまり入ってほしくない「脳」について考えてみましょう。「脳死」という言 葉からも推測できると思いますが、脳は生命の営みにおいて最も重要な臓器です。ですから、脳細胞に毒 性を示すような薬(異物)はできるだけ脳に入らないほうがよいわけです。脳には血液脳関門(BBB)と いう関所が存在し、いろいろな物質が血液側から脳内に入らないように防御しています。では、どのよう な薬が脳内に入るでしょうか。睡眠薬、抗ヒスタミン薬、抗てんかん薬などのように油に溶けやすい薬(脂 溶性の高い薬)は血液脳関門を容易に通過し、脳内にスムーズに入っていきます。一方、ブドウ糖やアミ ノ酸などの栄養物質は脳細胞が生きていくために必要なため、水にしか溶けない性質を有するにもかかわ らず、小腸での吸収と同じように運び屋さんによって脳内に入っていきます。一方、がんの治療に用いら れる抗がん薬は、がん細胞を殺滅してくれるものの正常細胞をもダメージを与えますので、脳神経細胞に とって超悪玉です。じつは、抗がん薬はきわめて油に溶けやすい性質を有するにもかかわらず、期待する ほど脳内に入りません。なぜ、油に溶けやすい抗がん薬が脳内に入りにくいのでしょうか。BBB には抗が ん薬を脳内から血液側に汲み出してしまう運び屋さんが存在します。これが脳腫瘍の治療に抗がん薬を用 いても効果が期待できない原因の一つであるともいわれています(下記の図を参照)。 血液側 血液脳関門 脳内 P糖タンパク質 P糖タンパク質 血液脳関門の役割 栄養素 栄養素 単純拡散で脳内に移行 :アルブミン :薬物 血液側 血液脳関門 脳内 P糖タンパク質 P糖タンパク質 血液脳関門の役割 栄養素 栄養素 単純拡散で脳内に移行 :アルブミン :薬物

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この運び屋さんはP 糖タンパク質といい、肝臓、腎臓、小腸にも存在し、異物を体外に排出する働きを しています。じつは、P 糖タンパク質はがん細胞にも存在しています。いろいろな抗がん薬を投与しても なかなか死滅しない強いがん細胞ががん化学療法を難しくしていますが、このようながん細胞にはP 糖タ ンパク質が過剰に発現しております。P 糖タンパク質はがん細胞の中に入った抗がん薬をがん細胞の外に 汲み出してしまうので、がん細胞が生き延びます。BBB には P 糖タンパク質以外にも、栄養物質を積極 的に、かつ効率的に取り込む運び屋さん、細胞毒性物質を汲み出す運び屋さんが多く存在しています。 7. 嗜好品は薬の効果を変える 油に溶けやすい薬は肝臓にある薬物代謝酵素によって代謝されるという話をしましたが、じつは CYP という酵素は小腸にも存在していることが明らかにされました。なぜ、CYP が小腸にも存在しているのが 判明したのでしょうか。患者さんが、降圧薬のカルシウム拮抗薬をグレープフルーツジュースと一緒に飲 んだところ、その薬の血中濃度が上昇し、血圧が急激に低下したのです。この原因を究明したところ、グ レープフルーツジュースに微量含まれている成分(フラノクマリン系化合物)が小腸に存在している CYP3A4 の活性を強力に低下させるため、その結果として、小腸で代謝(解毒)されるはずの薬が代謝で きなくなったことがわかりました(下記の図を参照)。 このフラノクマリンは小腸に存在する CYP3A4 を阻害しますが、肝臓に存在する CYP3A4 を阻害しま せん。ですから、グレープフルーツジュースを摂取しても、CYP3A4 により代謝される薬を注射など非経 口的に投与した場合にはこのような相互作用(薬の飲み合わせ)は起こりません。 仮に、よく使われる「ハルシオン」という睡眠薬をグレープフルーツジュースと一緒に飲みますと、ハ ルシオンは小腸において代謝されにくくなりますので、ハルシオンの血中濃度が上昇し、睡眠効果が強く 現れる、あるいは持続する可能性があります。フラノクマリンは小腸のCYP3A4 といったん結合しますと なかなか離れません(相思相愛の仲)。グレープフルーツジュースはおおよそ2~3 日間、小腸の CYP3A4 の働きを止めます。今のところ、オレンジジュースやリンゴジュースにはこのような作用はありません。 いずれにしても、グレープフルーツジュースと一緒に飲んではいけない薬がたくさんありますので、薬は できる限り水やお茶と一緒に飲むことが望ましいでしょう。 皆さんご存じだと思いますが、多くの胃腸薬(制酸剤)にはアルミニウムやマグネシウムなどの多価金 属が含まれています。一般に、薬は制酸剤と一緒に服用することが多くありますが、じつは、制酸剤中の 多価金属と接触すると水に極めて難溶性のキレートを形成し、小腸から吸収されにくくなる薬があります。 その代表的な薬には、感染症の治療などに用いられますキノロン系抗菌剤とテトラサイクリン系抗生物質 があります。したがって、これらの薬と制酸剤を一緒に飲みますと、吸収されないため、菌が死滅せず感 グレープフルーツジュースは小腸のCYP3A4を阻害する 小腸 CYP3A4 フラノクマリン系化合物 吸収 Ca拮抗薬 阻害 O O O O O グレープフルーツジュース 代謝 グレープフルーツジュースは小腸のCYP3A4を阻害する 小腸 CYP3A4 フラノクマリン系化合物 吸収 Ca拮抗薬 阻害 O O O O O グレープフルーツジュース 代謝 バイオアベイラビリティ (%) 0 25 50 75 100 100 200 300 400 ニソルジピン フェロジピン ニカルジピン ジルチアゼム アムロジピン ニトレンジピン ニフェジピン ベラパミル バイオアベイラビリティ(%) カルシウム拮抗薬の血中濃度に及ぼす グレープフルーツジュースの影響 血 中 濃 度 上 昇 率 バイオアベイラビリティ (%) 0 25 50 75 100 100 200 300 400 ニソルジピン フェロジピン ニカルジピン ジルチアゼム アムロジピン ニトレンジピン ニフェジピン ベラパミル バイオアベイラビリティ(%) カルシウム拮抗薬の血中濃度に及ぼす グレープフルーツジュースの影響 血 中 濃 度 上 昇 率

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染症が悪化することがあります。 一般に、薬は多量の水(コップ一杯の水)と一緒に空腹時に服用したほうが小腸から速やかに吸収され るといわれています。しかし、摂取する食事の内容によって吸収が、あるいは薬効が大きく変化する薬も あります。薬は牛乳と一緒に服用しないほうがよいといわれていますが、じつは、牛乳と一緒に服用した ほうがよく吸収される薬もあります。その代表的な薬がインドメタシンファルネシル(インフリー)とい う鎮痛消炎薬やビタミンK2という骨粗鬆症治療薬、イトラコナゾール(イトリゾール)という抗真菌薬など は空腹時に服用しますとまったく吸収されません。したがって、食直後あるいはミルクや高脂肪食と一緒 に服用しますと効率よく吸収されます。これらの薬は油にきわめて溶けやすい性質があり、消化管から吸 収するために[胆汁酸]の助けが必要です。ですから、空腹時では薬の吸収を助ける働きをもつ[胆汁酸]の 分泌量が少なく、せっかく飲んでも吸収されず、糞便中に排泄されてしまいます。このように脂肪を多く 含む食事などと一緒に服用しないと小腸からほとんど吸収されない薬や、食直後に服用しないとほとんど 吸収されない薬があります。 以上、薬の性質と体が薬をどのように処理するのかを理解していただき、薬と上手く付き合っていただ ければ薬はあなたの強い味方になってくれます。 愛知医科大学名誉教授 長谷川 髙明 脂溶性の高い薬物の吸収に及ぼす食事の影響 インドメタシンファルネシル グリセオフルビン イトラコナゾ-ル イコサペント酸エチル マレイン酸プログルメタシン メナテトレノン(VK2) 胆汁酸が必要 薬 物 血 中 濃 度 投与後の時間 空腹時 食後 高脂肪食 脂溶性の高い薬物の吸収に及ぼす食事の影響 インドメタシンファルネシル グリセオフルビン イトラコナゾ-ル イコサペント酸エチル マレイン酸プログルメタシン メナテトレノン(VK2) 胆汁酸が必要 薬 物 血 中 濃 度 投与後の時間 空腹時 食後 高脂肪食

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