Form J (F→O) 提出日Submission Date: 2012 / 5/ 21
博士学位論文審査報告書
Summary of Doctoral Thesis and Report of Examination
研究科長 殿
下記のとおり、審査結果を報告します。
To the Dean:
We report the result of Examination for the Doctoral Thesis below.
学籍番号 Student I.D. No.: 4008 S 015 -0
学生氏名 Name: 劉 曙麗
和文題名Title in Japanese: 中 国 に お け る 日 系 企 業 の 収 益 性 及 び そ の 決 定 要 因 — 大 規 模 企業個票データベースからの検証—
英文題名Title in English: Profitability of Japanese Affiliates in China and Its Determinants:
Empirical Evidence from Firm-Level Data 記
1. 口述試験参加教員 Faculty Members Involved in Oral Examination
①審査委員会主査 Chief Referee of the Screening Committee
氏名 Name: 浦田 秀次郎 印
所属 Affiliated Institution: アジア太平洋研究科 資格 Status: 教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
Ph.D. Stanford University
②副査(審査委員1)Deputy Advisor (Member of Screening Committee 1)
氏名 Name: 杜 進 印
所属 Affiliated Institution: 拓殖大学 資格 Status: 教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
③審査委員2 Member of Screening Committee 2
氏名 Name: 小林 英夫 印
所属 Affiliated Institution: アジア太平洋研究科 資格 Status: 教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution
文学博士 東京都立大学
④審査委員3 Member of Screening Committee 3
氏名 Name: 松岡 俊二 印
所属 Affiliated Institution: アジア太平洋研究科 資格 Status: 教授
博士学位名・取得大学名: Ph.D. Title Earned・Name of Institution 博士(学術) 広島大学
2. 開催日時 Date / Time: (Y)2012 /(M) 4 /(D) 23 (Time) 16:00時限P e r i o d
~17:40時限P e r i o d
[時限 / Period] 1st: 9:00-10:30, 2nd: 10:40-12:10, 3rd: 13:00-14:30, 4th: 14:45-16:15, 5th: 16:30-18:00, 6th: 18:15-19:45, 7th: 20:00-21:30
3. 会場 Venue: 19-313
4. 合否判定 Result: ○合/Passed・否/Failed(該当する方に○ Circle as appropriate)
5. 添付資料 Attached document(s)
枚pages(和文4,000字程度、もしくは英文1,500語程度。ただし、論文題目のみは、和文・英文を併記すること)
(Approximately 4,000 characters in Japanese, or 1,500 words in English. The Doctoral Thesis title, however, must be written in both Japanese and English.)
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博士論文審査報告書
氏名:劉 曙麗
論文題名:「中国における日系企業の収益性及びその決定要因―大規模企業個票データベースか らの検証―」
英文タイトル:The Profitability of Japanese Affiliates in China and Its Determinants: Empirical Evidence from Firm-Level Data
I.論文の概要
日本企業による海外直接投資は急激な円高に反応する形で 1980 年代後半から大きく拡大した。
その後、増加速度には振幅があるが、日本企業による海外直接投資は着実に拡大している。経済 産業省の調査によると日本の製造業企業の海外生産比率(総販売額に占める海外子会社による販 売額の比率)は 2010 年で 30 パーセントを超えている。このような状況の中で、日本企業の経営 状況は海外子会社の経営状況によって大きく影響を受けるようになっている。本論文の目的は、
日本企業により設立された海外子会社の中で、極めて大きな位置を占める中国に設立された日本 企業の子会社に焦点を当て、それらの経営状況(具体的には収益率)の実態を把握し、それらの 決定因を明らかにすることである。本研究は(日本)企業の国際化に関する分析の発展に貢献す るだけではなく、日本企業の活動における海外子会社の重要性を認識するならば、日本企業の経 営戦略および日本政府による対外直接投資政策の構築に有益な示唆を与える。
日本企業の海外直接投資において中国は極めて重要な位置を占めるようになっている。例えば、
日本企業によって設立された海外子会社数を国別でみれば、中国に設立された子会社数は世界最 大である。また、直接投資による収益率についても中国に設立された子会社が最も高い値を記録 している。これらの統計は日本企業にとって中国における事業活動の重要性を示している。
日本企業により設立された海外子会社の中で中国に設立された子会社の収益率は、他地域に設 立された子会社と比べると高いが、中国に進出している他国の子会社と比べると、日本企業の子 会社の収益率は低い。中国に進出している海外子会社を本社の国籍で、日本国籍の日系企業、香 港・台湾・マカオを本籍とする中華系企業、その他の外資系企業(大部分が欧米諸国を本籍とす る欧米系企業だと推察される)に分けると、収益率は高い順に外資系企業、中華系企業、日系企 業となる。この観察結果は他の国々の企業と比べて日系企業の競争力が低水準にあることを示唆 している。本分析の重要な目的の一つは、日本企業の収益率の低い理由を明らかにすることであ る。
海外で活動する日系企業の収益性及び決定要因を分析した先行研究は数少ない。その中でもア ジアで操業する日系企業についての分析の多くはシンガポールやタイなどの東南アジア諸国で 操業する日系企業のものであり、中国で操業する日系企業に関する分析は極めて少ない。また、
中国で操業する日系企業に関する先行研究では、他の国籍の企業との比較は行っていない。した がって、日系企業の低収益率の原因は明らかにされていない。
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中国において操業している日系企業、中華系企業、外資系企業の比較研究を進めるにあたって の障害は必要な統計データの欠如である。中国政府により集計された企業レベルの統計からは、
中華系と非中華系企業の区別は可能であるが、非中華系の中で日系企業を特定化することはでき ない。そこで本分析では日本の東洋経済新報社が集計しているデータを用いて、非中華系の中か ら日系企業を特定化し、そのようにして構築された統計を用いて分析を行った。主な分析結果に ついては、次節の各章の内容紹介で説明する。
II.論文の構成と内容
論文は以下のように序章を含めて 9 章により構成されている。
序章:学位論文研究の課題
第 1 章 日本企業の対中進出:歴史と現状分析 第 2 章 企業収益性に関する先行研究のサーベイ 第 3 章 分析データの作成
第 4 章 日系企業の収益性と企業活動:企業個票データを用いた分析 第 5 章 企業の収益性と企業活動
第 6 章 日系企業の収益性の決定要因-全体推定
第 7 章 日系企業の収益性の決定要因-産業別・生産工程別推定 第 8 章 結論
序章では、本論文を執筆するにあたっての問題意識を提示すると共に、目的および意義などに ついて議論している。
第1章では、日本企業の対中進出の歴史的推移と現状分析を通じ、本論文の研究課題の重要性 を明確にする。日本企業の海外直接投資の収益源は欧米からアジアへ、アジアでは特に中国へと いう順で、シフトしてきた。中国での現地法人の収益拡大は、日本企業にとって課題であるだけ ではなく、日本経済の活性化にも繋がる重要な課題である。
第 2 章では、企業の収益性に関する先行研究をサーベイする。企業の収益性に関する先行研究 の理論的説明、実証分析の分析手法、および分析結果などを考察し、先行研究の問題点及び課題 を抽出し、本分析の課題を明確にする。
第 3 章では、中国に進出する日系企業の実態を解明し、収益性の決定要因の実証分析に用いる 企業レベルの統計を整備・準備する。データとしては中国政府により集計された『中国鉱工業企 業データベース』と東洋経済新報社により集計された海外進出している日本企業に関する情報を 掲載している『海外進出企業総覧』を用いた。『中国鉱工業企業データベース』では、中華系企 業と非中華系企業に関する情報を入手することができるが、非中華系企業の中から日系企業を抽 出することはできない。そこで、中国に進出した日系企業に関する情報を『海外進出企業総覧』
から抽出し、それらを統合することでデータベースを構築した。
第 4 章では、日系企業の実態を把握する。中華系企業および外資系企業と比べると、日系企業
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の規模は大きく、販売先としては現地販売より海外へ輸出する比率が高い。研究開発・新製品生 産・広告活動に関しては、日系企業はその他の外資企業とあまり違いはない。人件費と労働生産 性については、中華系企業と比較して、日系企業の平均給料は高いが、労働生産性も高いことか ら、売上高に占める労働コストの比率は中華系企業ほど高くない。収益率については、外資系企 業が最も高く、次に中華系企業、そして最も低いのが日系企業であった。この観察結果は、先行 研究による結果と整合的であり、日本企業の収益率の低い理由を詳細に検討する必要があること を示している。
第 5 章では、外国企業の中国現地での諸活動と企業の収益率との関係について平均値を計測し 比較することで記述的(descriptive)な分析を行い、いくつかの興味深い事実を発見した。た とえば、日系企業については、総販売額に占める現地販売の比率と比べて輸出の比率が高い企業 が多いが、現地販売比率が高い企業が高い収益率を記録している傾向が強い。また、日系企業に ついては、研究開発や新製品開発活動を行っている企業よりも、それらの活動を行っていない企 業の方が高い収益率を記録している。この観察結果は期待とは矛盾することから、詳細な分析が 必要である。さらに、海外子会社への親会社による出資比率が低い日系企業の方が、同比率が高 い企業よりも、収益率が高い傾向にあることも確認された。
第 6 章は本論文の核心であるが、先行研究及び第 4 章、第 5 章での descriptive な分析の結果 を踏まえて、日系企業の収益率およびその決定要因について、統計的な分析を行った。主な分析 結果は以下の 5 点である。①日系企業は外資系企業および中華系企業と比較して、統計的に有意 な形で、収益率が低い。②日系企業の収益率を決定する要因としては、売上高、現地販売率(総 売上高に占める現地販売の割合)、費用(特に中間投入財の費用)が重要である。売上高および 現地販売率の増加は収益率を上げる効果を持つ一方、中間財費用の増加は収益率を低下させる効 果を持つ。③現地販売率と収益率の関係については、企業規模によって異なる。中華系および外 資系企業については、企業規模が大きいほど現地販売率の上昇は収益率を引き上げる効果を持つ が、日系企業については、企業規模が小さいほど現地販売率の上昇は収益率の上昇に貢献する。
④日系企業に関して、操業年数が長いほど、また、研究開発活動など現地での本格的な活動が活 発なほど、現地販売率の上昇が収益率の上昇へ貢献している。⑤出資比率と収益率については、
統計的に有意な関係はない。
第 7 章では、機械産業に属する日系企業が東アジアで生産ネットワークを構築していることに 着目し、中国で操業する機械企業(情報通信、輸送機械)について生産工程別に分類し、収益率 および収益率の決定因を分析した。収益率では、情報通信よりも輸送機械が高く、部品企業より も完成品企業が高い。現地販売率が収益率にプラスの影響を持つことが、全製造業を対象とした 分析から明らかになったが、このような関係は部品企業については確認できたが、完成品企業で は確認できなかった。完成品の多くが国内販売ではなく海外に輸出されていることが、これらの 観察結果の違いをもたらしていると考えられる。
第 8 章では、分析結果をまとめ、日系企業の収益率改善に向けての戦略・対策を提示した。収 益率の向上については、販売額および現地販売率の増加、中間財コストの低減が大きく貢献する
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という関係が確認された。中国市場は高成長による購買力上昇によって将来において大きく拡大 することが予想されることから、現地販売の増加は収益率の向上に大きく貢献することが予想さ れる。販売額および現地販売比率の引き上げにあたっては、中国国内での販売ネットワークの構 築を進めることが重要である。その際、自社による販売ネットワークを拡大するだけではなく、
現地企業との取引関係を構築・拡大することが有効である。中間財コストの削減にあたっては、
円高が進行する日本からの輸入中間財を現地調達で代替させることが重要である。そのためには、
現地企業との調達ネットワークを構築・拡大することが有効である。
III.評価
本論文は中国に進出している日系企業の収益率に焦点を当て、その実態と決定因を詳細に分析 したものである。日本企業にとって中国での活動は重要な位置を占めており、したがって、中国 市場での収益率は日本企業のパフォーマンスに大きな影響を与える。そのような重要な問題であ るにも拘わらず、この問題はこれまであまり分析されてこなかった。特に、中国に進出する他国 の企業との比較については、詳細な分析は全く行われてこなかった。本論文の大きな貢献は、こ れらの問題について、統計的な手法を用いて詳細な分析をしたことである。これまで、このよう な分析が行われてこなかった一つの理由は、統計データの入手が難しかったからである。本論文 では、中国政府により収集された企業レベルの統計と日本の東洋経済新報社により収集された企 業レベルの統計を連結することによってデータベースを構築し、それを用いて分析が行われた。
具体的には、企業代表者の氏名に関する情報を用いて、日系企業を特定化するという作業を丹念 に行うことで、データベースが構築された。
今、一つの貢献は、構築されたデータベースを用いて、日系企業の収益率に関して統計的分析 を行ったことである。統計的分析においては、往々にして発生する内生性の問題などに対しても 適切に対応することで、信頼度の高い分析結果を得ることができた。分析結果としては、製品の 販売や原材料の調達などにおいて、現地化を進めることが日系企業の収益率の向上に貢献するこ とが確認された。この観察結果については、一般的な印象論としては指摘されてはいた点ではあ るが、それが統計的分析により確認されたことは、学術的にも実践的にも重要な貢献である。
本論文では十分に分析されなかった点を、将来の課題として指摘しておかなければならない。
統計的分析に関しては、本論文では 2006 年の一時点の分析が行われているが、分析結果の一般 化可能性を高めるためには、数時点についての分析が必要である。また、統計的分析だけではな く、インタビューやアンケート調査、あるいはケーススタディーなどの分析手法を用いて企業に ついての、より詳細な分析を行うことが、統計的分析の結果を補完し、より厚みのある分析を可 能にする。この点とも関連するが、収益率の決定にあたっては、分析で行われたような数量化で きる情報だけではなく、日本的経営などの質的な情報も考慮することで、より深い分析が可能と なる。さらに、構築したデータベースを用いて、生産性や成長性など本論文で分析された収益率 以外のテーマについての分析することで、企業に関する研究において新たな貢献が期待できる。
5 IV. 結論
我々審査委員会一同は、論文査読ならびに面接試験(2012 年 4 月 23 日実施)の結果を踏まえ、
提出論文について、博士論文としての評価に耐え得るものと判断し、審査委員は全員一致で本研 究の学術上の貢献は博士学位論文に値すると判定した。
2012 年 5 月 24 日
論文審査委員会委員氏名
主査 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 Ph.D(経済学) スタンフォード大学 浦田秀次郎
副査 拓殖大学国際学部教授 杜 進 審査委員 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 博士(文学) 都立大学
小林英夫 審査委員 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 博士(学術) 広島大学
松岡俊二