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民 事 訴 訟 法 判 例 研 究

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(1)民事訴訟法判例研究. 民事訴訟法判例研究会. 謝鼻腔炎治療のための鼻内篤骨洞開放手術の過程において失明の結果を生じ た場合における医師の過失の推定. 昭和四四年五月三〇日東京高等裁判所第五民事部判決︵襯舗細衡詩畑羅専び○配購艦靴泥朝兜七一一盃号︶高裁民集二二巻三号三九. 副鼻腔炎治療のための鼻内鯖骨洞開放手術の過程において︑失明の結果を生じた以上︑それが不可抗力によるもの. 二頁ー棄却︑附帯控訴原判決取消・確定 ︹判決要旨︺. であるか︑少くとも現在の医学知識をもっては予測し得ない特異体質その他これに類する原因に起因することの立証がない限り︑ 当該手術にあたった医師に過失があったものと推定すべきである︒. ︹事実︺原告X︵被控訴人・附帯控訴人︶は︑事件当時二〇才の未婚女性で某商事会社のタイピストであったが︑昭和三五年二. 月八目︵高校一年の時︶東大医学部附属病院分院耳鼻科においてH医師の診察を受けたところ︑慢性副鼻腔炎いわゆる蓄膿症と診. 九七︵四五五︶. 断され︑それ以来︑同医師を受持医として昭和三七年九月未項に至るまで︑治療を受けた︒この間︑はじめは保存的療法として薬 民事訴訟法判例研究.

(2) 資料. 九八︵四五六︶. 物による治療が続けられたが︑自覚症状は快方に向わなかったので︑鼻内手術︵顔面を切開せずに︑口腔内または鼻腔内から病変. 部に至る手術︶を行なうこととなり︑次の通り受持医の執刀によりなされた︒昭和三六年三月二九目︑上顎洞鯖骨洞開放術による. 両側副鼻腔炎根治手術︑昭和三六年四月一七日および同年二一月二一日の二度におよぶ両側下甲介切除手術︑しかし鼻閉寒︑鼻漏. 等の主訴がとれないため︑さらに昭和三七年三月二目右側︑同月一四日左側と︑再度の上顎洞節骨洞開放術による副鼻腔炎根治手. 術を行ない︑前回手術後に成長した癩痕組織︵手術の影響による硬質化︶をかき取り︑病的粘膜を除去した︒これは︑歯齪部を切. 開して上顎洞を開き︑さらに上部にある筋骨洞内の蜂案の病変部分を掻爬して除去する手術である︒併てせ病巣感染を防ぐための. 扁桃線摘出手術も行なわれた︒以上数回におよぶ手術・治療にもかかわらず︑原告の症状は良くならず︑かえって中鼻甲介に浮腫. いるものと推測され︑これを除去するため︑鼻内手術としては唯一の方法である本件﹁鼻内舗骨洞開放手術﹂が右側について︑昭. 性腫張が認められた︒結局︑上顎洞を経由する前の手術では死角になって除去困難であった鯖骨洞前部に病的粘膜組織が残存して. 和三七年九月一九日施行されたのである︒本件手術は︑鼻腔を経由し︑下甲介と中甲介の間にある中鼻道の粘膜を切りとり︑眼窩. に接しこれと極めて薄い紙状板︵実質は骨である︶を隔てて存在する飾骨洞の前壁を露出させて︑鋭匙鉗子および鋭匙を用いて破. り︑飾骨洞内が見えるようにし︑洞内にある蜂案の病変部分︵粘膜・膿︶を掻きとって除去するものである︒. 手術は︑本人の希望にょり全身麻酔をかけて行なわれ︑約一時間趣らずで終了したが︑切開部からの出血多量で︑手術視野の確. 保が困難であったという︒本件手術前︑原告の視力は左右両眼とも丁二で正常であったのに︑手術終了後麻酔から覚めたときには. すでに右眼の視力が零となっていた︒流涙はげしく︑翌日には顔面が紫色に腫れ︑右眼瞼上皮下出血等が認められ︑手術後の翌々. 日である同月二一日同分院眼科医による診察所見では︑原告の視力障害は︑本件手術時の損傷による﹁右眼視束︵視神経︶球後部. 障害﹂と診断された︒それ以来︑昭和三八年一月一四日に至るまで同分院眼科医によって薬物投与による保存的療法が続けられた. が︑視力は回復せず︑その後昭和三八年三月二日慈恵医大阻属病院において視神経管開放手術を受けたが︑これによっても原告.

(3) の右眼視力は遂に回復しなかった︒そこで原告は︑右眼視力喪失は︑手術を行なった受持医が軽率にも手術器具の操作を誤まり︑. 鯖骨洞と眼窩との境界にあたる紙状板を損傷し︑眼嵩後部にも若干の損傷を与え︑さらには視神経を切断したか︑切断しないとし. てもこれになんらかの強い衝撃を加えたかによるとして︑手術器具操作上の過失と視力回復措置解怠の過失とを理由として︑公務. 員としての職務執行上の過失により右眼を失明し︑そのため会社も退職し︑通常の家事労働にもことかき︑将来の結婚の成否にも. 影響するとして︑国を被告として︑不法行為に基づく損害賠償・三〇〇万円の慰籍料を請求したのが本件訴訟である︒. これに対して︑被告・国Y︵控訴人・附帯被控訴人︶は︑原告の主張をすべて否認し︑積極的に︑原告の飾骨洞内の蜂案が過去. の手術による癒痕組織︵硬質化︶が強くその掻きとりは通常の場合に比べて困難な状態にあったという特殊事情︑加えて原告の視. 神経が通常人の場合より虚弱であったことが原因で︑右眼視力喪失は本件手術によりやむなく生じた事態で過失なL︑視力回復措 置の解怠なし︑と主張した︒. 第一審︵東京地方裁判所︶は︑昭和四一年二月二二日︑証拠および口頭弁論の全趣旨を総合して︑具体的に過失を推認し︑原. 告の請求を一部認容した︒﹁結局術者であるH医師の使用した手術器具が︑直接視束に物理的な外力を加えたものであるか否かはと. もかくとして︑同入の用いた手術器具が鯖骨洞から紙状板を越えて眼窩内に侵入し︑手術器具操作による物理的な外力が原告の右. 眼視束のうち︑眼球後部から視束管入口迄の視束に加えられて︑これに衝撃を与え︑これによって原告の右眼視力の喪失の結果を 招いたものと推認することができる︒﹂. ﹁本件手術と同一の術式による鼻内手術の施行によって︑眼窩内の損傷を起し︑失明の結果を来たす場合があることは︑すでに. 本件以前から︑医学界及び臨床医家の間に知られていた事実を認めることができ︑従って過去二回にわたる手術を施行して本件手. 術に臨んだH医師としては︑本件手術において失明等の合併症の発来する危険性が増加することが予想されたはずであるから︑失. 九九︵四五七︶. 明の結果を招かないため︑細心の注意を払って本件手術を施行する義務のあることは勿論︑多量の出血により手術視野の確保が困 民事訴訟法判例研究.

(4) 資料. 一〇〇︵四五八︶. 難な場合は安全のうちに手術を中止すべきものといわなければならない︒しかして︑すでに認定したとおり︑本件手術においては︑. 出血が多量であることから︑術者であるH医師において手術の施行に危険を感じ︑困難を覚える状態に立ち至っていたにもかかわ. らず︑手術の施行を直ちに中止せず続行し︑その結果手術器具が紙状板を越えて眼窩内に侵入し︑暴具操作による物理的な外力が. 原告の右眼視束に対して衝撃を加える事態を惹起し︑これによって︑原告の右眼視力の喪失の結果を招いた以上︑H医師の本件手 術の施行には︑原告の右眼失明の結果を招いたことにつき過失があるものといわざるを得ない︒﹂. なお︑視力回復措置解怠の過失については︑手術直後に原告の視力障害の事実を発見したとしても︑救済することが期待できな. かった事実が認められるとして︑これを否定したが︑本件失明による退職︑進行中の縁談の破棄︑将来の結婚の成否︑日常生活に. 一︑手術と視力喪失の因果関係の推認について︑Xの. おける苦痛に思いをめぐらせれば︑若き女性である原告にとっては多大の精神的苦痛が課せられたものである︑と認定して︑慰籍 料として二〇〇万円の支払をYに命じた︒. Yは原判決を不服として控訴したが︑控訴理由は次の三点に要約される︒. 紙状板が破損したということは現実に確認されていないのみならず︑E医師が手術器具を紙状板を越えて眼窩内に侵入させたとは. 考え難いし︑ましてその器具が深く侵入して視束に直接衝撃を加え︑または眼窩内の組織を介してこれに衝撃を加えたということ. は到底考え得ないことである︒⁝⁝物理的にも︑⁝⁝手術の常識上全くあり得ない︒二︑過失の認定について︑H医師は決して判. 示のごとき無暴︑危険な手術を続行したものではない︒異常出血でもなく︑手術適応性があった︒三︑特殊事情について︑失明の. 原因は︑既知未知の種々のものがあることを考えなければならないが︑Xの場合はその一因として球後の浮腫ということが考えら. れる︒⁝⁝たまたま蜂案を掻きとる際挾み出した骨以外のものが欠けてまたはひび割れて内在し︑器具挿入の際それが押入れられ. てその一端が視束管に近接した等なんらかの異常な因子が加わったためであって︑H医師の過失によるものではない︒なお︑慰謝. 料の認定について︑困難な手術をせざるを得ない医師の立場︑力の限りを尽してもなお避け得られなかった事故であることを十分.

(5) 酌量すべきで︑原判決はこの医師と患者との間にある人間関係を無視し︑片面的に患者たるXの不利益のみを重く評価したもので︑. 不当であると主張した︒この点︑Xは附帯控訴して︑慰謝料額は三〇〇万円とするのが相当であると主張︒そこで控訴審たる本件. 耳鼻咽喉科の医師が副鼻腔炎治療のため鼻内飾骨洞開放手術をなすにあたっては︑手術の過程において失明の結果. 判決は︑Xにつぎ慰謝料三〇〇万円を認め︑次の理由で控訴を棄却した︒. ︹判決理由︺. を生ぜしめるがごとき行為をしないよう万全の注意を払うべき業務上の注意義務があることはもちろんであって︑いやしくも手術. の過程において失明の結果が生じた以上︑それが不可抗力によるものであるか︑少くとも現在の医学知識をもっては予測し得ない. である︒. 特異体質等その他これに類する原因に起因することの立証がない限り︑当該手術にあたった医師に過失があったものと推定すべき. いま本件についてこれをみるに︑⁝⁝右失明の結果が不可抗力その他前掲のような原因によるものであることを認めるに足る証. 拠はないのみならず︑かえって︑︿証拠略Vを総合すれぽ︑﹁鼻内飾骨洞開放手術とは︑一般に慢性筋骨蜂巣炎に対し鼻腔を経由し. て飾骨蜂巣を削開し︑その内部の病巣を捌除する手術をいうのであり︑この手術による失明は非常にしぽしぼ遭遇するものではな. いが決して絶無ではなく︑その原因としては手術器具による視神経の損傷︑網膜中心動脈の栓塞︑眼窩内出血あるいは出血に起因. する視器全般の浮腫または炎症等があげられており︑H医師は︑相当経験ある耳鼻咽喉科専門の医師として︑鼻内鯖骨洞開放手術. に際し措置を誤れば︑右のような原因から失明の合併症を生ぜしめる危険があることを知っていたが︑本件手術時Xの出血が多量. であって手術部位の視野の確保に困難を来し︑かつ︑Xが前に同一患部を手術をしたことがあるため廠痕組織が生じ患部が硬質化. していたので掻ぎとりにくくなっていたこと等の悪条件が重なったため︑鯖骨洞内の病巣を掻爬するに際し︑手術器具の操作を誤. り︑篇骨洞と眼窩との隔壁をなしている紙状板︵紙様板ともいい︑薄い骨の壁︶を破り︑これを越えて器具を眼窩内に挿入し︑直. 一〇一︵四五九︶. 接に︑ないしは骨片その他なんらかの介在物を通じて間接に︑右眼球後部の視神経もしくは血管に衝撃を加えてこれを損傷し︑も. 民事訴訟法判例研究.

(6) 資料. 一〇二︵四六〇︶. ってXの右眼失明の結果を来さしめた︒﹂ものと推認するのを相当とし︑⁝⁝H医師は過失の責を免れないものといわなければなら. Yは︑H医師が手術器具を紙状板を越えて眼窩内に侵入させたということは考え難い旨主張するが︑︿証拠略Vおよび当審証人. ない︒. 丁の証言によれぽ︑﹁Xは失明した右眼の治療のため昭和三八年三月二日東京慈恵会医科大学附属病院において同大学教授高橋良. より視神経管開放手術を受けたのであるが︑その際Xの眼窩紙状板に真中から前後にかけて略々栂指頭大の欠損が存し︑その部分. は骨膜を含む骨壁そのものがなくなっていたことが確認されたことおよび紙状板には先天的に欠損の存することがあるが︑その大. きさは米粒大からせいぜい大豆大までであって栂指頭大のものはないこと﹂が認められるので︑右Xの紙状板の欠損は後天的に手. 術によって生じたものであると考えられ︑ただ︑それが本件手術の際に生じたものであるか以前の手術の際に生じたものであるか. については︑疑問の余地なしとしないが︑前記乙第一号証︵診療録︶中には︑本件手術の所見として︑﹁鼻内から中鼻道を開くべ. く︑浮腫性の粘膜を切除し︑主として前鯖骨洞を清掃する︑中甲介の付着部から出血つよく大ガーゼ三本ガーゼタソポソし︑手術. を終る﹂旨記載されていること︑前記紙状板の欠損部位およびXについて以前の手術の際には視力障害が発生せず本件手術の際に. はじめて発生するに至った点等よりすれぽ︑右欠損は︑前記の如く本件手術の際にH医師が器具の操作を誤り︑紙状板を越えてこ. れを眼窩内に挿入したため惹起されたものと推認するのを相当とし︑したがってYの右主張は採用し得ない︒. また︑⁝−Xの紙状板の欠損は︑紙状板の真中から前後にかけて略々栂指頭大の大きさであることは前に認定したとおりであり︑. この事実と︑⁝⁝本件手術部位を示す水平断面図ならびに垂直図合計六葉︑その他く証拠略Vを総合すれば︑鼻孔より挿入した器. 具が前記紙状板の欠損部位を貫いて進入し︑右眼球後部の視神経または血管に到達することが物理的に可能であると認められる︒. なお︑H医師による視神経ないし眼窩内血管の損傷が手術器具の直接の衝撃によるものではなく︑骨片その他なんらかの介在物. を通じてなされたものであったとしても︑右損傷は結局同医師の器具の操作上の誤りによって生じたものというを妨げないから︑.

(7) 不可抗力等と目される特段の事情のない限り︑同医師は過失の責を免れ得ない︒. さらに︑Yは︑やむを得ない事態として過去の手術による搬痕組織のための手術困難と︑Xの視神経は通常人に比して虚弱であ. ったためと主張するが︑廠痕組織のため初めての手術の場合に比し掻きとりが困難であったことは認められるとしても︑そのため. に紙状板を通過して視神経に一過性にせよ衝撃を与えることは︑やはり︑専門医として当然払うべき注意義務を怠ったものという. 民法七〇九条. 本件判決は︑最近特に激増しつつある診療過誤訴訟においても難解な手術過誤事件−蓄膿症手術の過程において右眼. ︹参考条文︺. に妨げないから︑過失たるを免れない︒. ︹批評︺. を失明したという限られた分野ではあるがーにっいて︑事実上の推定︑いわゆる過失の一応の推定を活用したものとして︑高く. 評価することができる︒ところで︑その適用範囲・限界等について比較法的にも問題の存するところであり︑医師・病院側にきびし い感じもするが︑判旨 は 正 当 と い わ ざ る を 得 な い ︒. ジエ・ーム・フランクは︑﹁事実とは推測である﹂﹁裁判官は過去の出来事を再生する歴史家と甚しく類似している︒有能な歴史. 家たちの間では︑歴史学は科学ではなく推測の技術であると告白する者が次第に数を増して来ている﹂という︵古賀訳・裁かれる裁. 判所上二二頁ー五九・六〇頁︶︒証拠の価値判断・証明力を裁判官の自由な心証形成に委ねる自由心証主義︵民訴法一八五条︶のもと︑. 果して客観的な事実の認定が可能であろうかという疑念が生ずる︒そこで過去の真実を知ることは困難である︑との前提から︑事. 実の存否不明の場合自己に優利な訴訟資料︵事実・証拠︶を提出しなかったことによる訴訟上の不利益の帰属.負担の原則が確立. されている︒いわゆる立証責任の問題である︒しかし︑これについては︑争のない命題は殆んど一つもないといわれる程︑その概. 念が多義的である上に︑特に医事訴訟・診療過誤訴訟においては︑医療行為の特殊性i高度の専門的・技術的な業務を内容とする. 一〇三︵四六一︶. 危険な行為であるーから︑患者側で医師の過失を立証することは極めて困難であり︑それが不可能に近い場合が多い︒診療過誤に 民事訴訟法判例研究.

(8) 資料. 一〇四︵四六二︶. よる損害賠償責任を債務不履行として構成︵これが最近の判例の傾向である︒しかし不完全履行の場合の立証責任の所在について. は争いがあることから︑厚告は︑すべて二次的に予備的請求として︑不法行為に基づく損害賠償請求をも申立てている︶しても︑そ. れはうらはらの関係に立つのみで︑問題は残る︒医師側も︑無過失を立証するのが困難な場合が多くあるからである︵松倉・医療. 過誤と法律二〇六頁︑二七四頁︶︒﹁むしろ︑過失事実の認定にあたる裁判官の経験則にしたがう自由な心証形成の経過において︑必. 要な範囲では一応の推定の利用をとおしていわば挙証責任転換の半歩手前で︑解決されるべきであろう﹂︵中野﹃過失の﹁一応係. の推定﹂について﹄法曹時報一九巻二号三一頁︶とか﹁不法行為の場合のみでなく︑債務不履行の場合にも被告の無過失や因果. 関の不存在の﹁一応の推定﹂を活用することによって︑医師の責任が訴訟上の取扱如何によって極端に動揺するのをさけるべぎで. ある﹂︵野田﹁医療訴訟﹂実務民訴講座10二八七頁︑同﹁医療過誤と不法行為﹂ジュリスト四一三号二一二頁︑同﹁医療過誤﹂法学. セミナー一九六九年七月号三三頁等︶と主張されている︒問題は︑まさに︑証明度にあるといいうる︒. これが︑いわゆる﹁事実上の推定﹂すなわち︑原告が間接事実を証明すれば︑相手方がそれをくつがえすべき特段の事情を主張. しない限り︑裁判官が自由心証の範囲内で︑経験則にもとづいて︑一応︑要証事実が存在するものと推認する︑旨の判例が続出し. ている所以であろう︒本件判決は︑かかる推定理論の一進展と評すべぎである︒そこで診療過誤訴訟における証明度︑これに関す. る従来の判例の流れ︑さらに英米法における﹁事実推定則﹂およびドイッにおける﹁表見証明﹂の理論を順次検討することによっ て本件判決の問題点を考察しよう︒. 一 訴訟上の証明が︑反証を容れる余地のない論理的証明ではなくして︑歴史的証明ー真実の高度の蓋然性をもって満足し︑反. 証の余地が残されるーであることは︑すでに︑最高裁の判示するところである︵昭和二三年八月五日最高一小判決︑刑集二巻九号一. 一二三頁︶︒これは︑窃盗事件について︑未知の者から財布を抜き取り︑隠し持っていたという事実から︑反証のない限り︑領得の. 意思があったものと推定する︒事実上の推定を認めた一例である︒ジフテリア予防注射による死亡事件について︑﹁ジフテリア予防.

(9) 液明ばんトキソイドの注射と患者の死亡との問の因果関係は︑自然科学的究明によって寸分の疑いがないまでに解明されなくても︑. 関係証拠により条理上その因果関係が真実存在するとの高度の蓋然性によって︑心証が形成できる場合には︑証明十分である﹂︵昭. 和三二年三月三〇日大阪高裁判決︑高刑集一〇巻四号三三三頁︶との判例も出ている︒しかしこれらはいずれも︑刑事に関する︒. 民事訴訟︑特に診療過誤訴訟においては︑事実上蓋然性を立証すれば足り︑相手方が反証をあげない限り︑因果関係を推認する立. 場をとって︑証明度を軽くしている︒例えば︑輸血梅毒感染事件︵昭和三六年二月一六日最高一小判決︑民集一五巻二号二四四頁︶. の第一審判決は︑原告の梅毒罹患が輸血に因ることは医学的には必ずしも断定できないとの被告の主張は︑裁判の対象となる事実. の証明は科学の対象としての事実の証明と本質的に差異のあるものであることを考えない科学者の陥り易い誤解であるとして︑輸. 血と梅毒罹患の因果関係を肯定する︒﹁裁判上における証明は科学的証明とは異なり︑科学上の可能性がある限り︑他の事情と相侯. って因果関係を認めて支障はなく︑その程度の立証でよい︒科学︵医学︶上の証明は論理的必然的証明でなければならず︑反証を. 挙げ得る限り未だ立証があったとは云えまいけれど︑裁判上は歴史的事実の証明として可能性の程度で満足する外なく︑従って反. 証が予想される程度のものでも立証があったと云ひ得るのである︒﹂︵昭和三〇年四月二二目東京地裁判決︑下民集六巻四号七八四. −七九八頁︶︒まさに︑この点に関するリーディング・ケースといわれる所以である︒さらに︑水虫レントゲン線照射事件︵昭和四. 四年二月六日最高一小判決︑民集三二巻二号一九五頁︶の第一審判決は︑﹁法律上因果関係ありというには原因結果の関係が存し. て︑その結果の発生が予見可能なものであれば足りる︒因果の過程について︑いまだ十分科学的解明のないことや︑結果の発生に. 他の因子の存在があわせ考えられることは︑因果関係を認める妨げとなるものではない﹂︵昭和三九年五月二九日東京地裁判決︑下. 民集一五巻五号一二二三頁︶という︒事実上の因果関係は︑蓋然性で足りるとする根拠は︑まさしく﹁事実上の推定﹂である︒. 二 診療過誤訴訟において︑﹁事実上の推定﹂をなした従来の判例は︑主として注射に関するもので︑本件判例の示す手術につい. 一〇五︵四六三︶. ては︑現在知りえたかぎりでは︑本件を含めて三例がある︒判例の動きを検討する前提として︑診療過誤訴訟における因果関係お 民事訴訟法判例研究.

(10) 資料. 一〇六︵四六四︶. よび過失の認定方法についての考え方を類型化しておくことが必要である︒この点︑従来の判例によると三つの型があるといわれ. る︒第一は︑医師の行為を具体的に分析して︑原因行為を探り当て︑注意義務違反を認定する方法ー分析的方法︵従来の多くの判. 例︶︑第二は︑一定の事実・結果から原因行為および過失を一応推定する方法−逆推理的方法︵いわゆる事実上の推定をなした判. 例︶︑第三は︑治療中の不手ぎわと直後の症状の悪化とから︑原因行為・過失の推定をなす方法︵事実上の推定明示︶︑である︒︵山. 田・野村外・判例民法講座6一六〇頁︑野村・宮原・医療過誤判例大系五頁︑淡路﹁医療過誤と因果関係﹂法律のひろぽ二三巻五. 号二頁︒なお︑分析的方法・逆推理的方法については︑唄・医事法学への歩み一四四頁参照︶︒問題は︑事実上の推定・過失の一 応の推定方法であり︑それ自体を再類型化しなければならない︒. 診療過誤の類型として︑注財の場合︑不適合輸血の場合︑X線放射過度の場合︑施術上の不手際の場合︑手術の場合︑誤診の場合. ︵但し債務不履行⑩︶の六つに分けることができる︒さらに︑推定方法自体としては︑1︑一定の事実︵間接事実︶・結果から過失を. 一応推定するもの︑しかも︑それを選択的・択一的に認定するもの︵A︶︑単純に結果から推認するもの︵B︶︑さらに︑重複的に. 直接関接・に推認するもの︵C︶︵手術に関する本件判決︶︑H︑治療行為自体︵過度の照射︶から過失を一応推定するもの︑皿︑. 施術中の不手際と直後の症状の悪化とから︑過失を一応推定するもの︑とに分類することが可能であろう︒ 注尉の場合で︑前掲1・Bに属する典型例は次の二つの最高裁判決である︒. 心臓性脚気注射事件ω︵昭和三二年五月一〇日最高二小判決︑民集二巻五号七一五頁︶は︑心臓性脚気の治療のため内科・小. 例である︒原審が︑注尉した際にその注射液が不良であったか︵甲︶︑又は注射器の消毒が不完全︵乙︶であったかのいずれかの過. 児科の女医からビタミンの注射を受けたところ右腕上臆部が化膿して皮下膿瘍を起し︑重労働に堪えない筋萎縮に陥ったという事. 誤があったと認定したのに対して︑﹁甲事実および乙事実がともに診療行為上の過失となすに足るものである以上︑裁判所が甲また. は乙のいづれかについて過誤があったものと推断しても︑過失の事実認定として不明または未確定というべきではない﹂として認.

(11) 容した︒背髄硬膜外麻酔注尉事件②︵昭和三九年七月二八日最高三小判決︑民集一八巻六号一二四一頁︶は︑無痛分娩のための麻. 酔注射の際に︑消毒不完全によりブドウ状球菌が侵入して︑患者が背髄硬膜外膿瘍・圧迫性背髄炎を起し︑下半身が麻痺した事例. で︑最高裁は次の通り判示した︒﹁注射の際の医師による消毒不完全を理由とする損害賠償の請求を認容する判決において︑右消毒. の不完全が注射器具︑施術者の手指もしくは患者の注射部位のいずれに存するかを確定しないで過失を認定しても︑違法とはいえ. ない︒﹂すなわち﹁これらの消毒の不完全は︑いづれも︑診療行為である麻酔注射にさいしての過失とするに足るものであり︑医師. して不完全とはいえない︒﹂とする︒両判決とも間接事実を選択的に認定し︑そこから過失を推認したものである︒. の診療行為としての特殊性にかんがみれば︑具体的にそのいずれの消毒が不完全であったかを確定しなくても︑過失の認定事実と. 同旨の下級審判例として︑キニーネ注射による座骨神経麻痺事件③︵昭和二七年七月二五目京都地裁判決︑下民集四巻一二号一八. 一五頁︒これは﹁特異体質であるとの反証がない限り︑安全部位のグ撰ス三角部以外に注射したか︑または注射についての注意を. 怠ったためであると推認する﹂︒また︑動脈注尉による乾性壊疸事件ω︵昭和二八年一二月四日東京地裁判決︑下民集四巻一二号一. 八一五頁︶がある︒なお︑債務不履行による請求︵予備的に不法行為︶であるが︑眼瞼下垂症手術・注射失明事件⑤︵昭和四六年. から︑これが注射液の選定の誤りか注射の部位︑深度等方法の誤りに起因するかはにわかに断定するに足りる証拠はないけれども︑. 四月一九日大阪地裁判決︑判例時報六四六号七二頁︶は︑﹁原告は一時的にしろ注射の結果右眼の視力を殆ど失ったというのである. しかもなおこれをもって眼部に対する施療行為上適切を欠く処置であったことは推認するに難くない﹂として︑択一的認定をなし ている︒訴の併合等問題のある判例である・. 1・Bの類型に属するものとして︑古くは︑静脈注射漏洩障害事件㈲︵大正一四年一月一五日東京地裁判決︑前掲・医療過誤判. 例大系一一九頁︶がある︒﹁ク・ールカルチウム﹂液の静脈注射が完全に行なわるるに於ては何等身体に有害なる結果を残すべぎ筈. 一〇七︵四六五︶. なく又この液に対し特異質あることを聞かさること前説示の如くなるに拘らず︑原告が本件注射後引続き前記の如き悪症状を呈す. 民事訴訟法判例研究.

(12) 資料 るに至りたるは他に原因を認むべぎものなぎ限り︑. 一〇八︵四六六︶. 一応右注射に何等かの過失ありたるものと推定せしむるに足る﹂という︒さら. に︑肋膜注射針殿折残留事件ω︵昭和一五年二一月九日東京地裁判決︑法律新聞四六六七号七頁︑医療過誤判例大系=一五頁︶. は︑注射針が折れその一部が原告の体内に残留するに至りたる事実自体より推考すれば︑他に特別の事情のない限り︑医師の注意. 義務解怠であると認定せざるを得ないとする︒その他︑腰椎麻酔注射麻痺事件⑧︵昭和三九年一〇月二目大阪地裁判決︑判例時報四. 〇七号五七頁︶︑不適合輸血事件⑨︵昭和四〇年四月六目福島地裁郡山支部判決︑医療過誤民事裁判例集一八〇六頁︑供血者の血液. 型︵A︶をO型と誤判定︑輸血・死亡させた医師の過失を推認したもの︶等がある︒なお︑債務不履行︵第三者のためにする準委任契. 約︶として認めた虫垂炎誤診事件⑩︵昭和四五年二月二五日旭川地裁判決︑判例時報六二三号五二頁︶は︑﹁急性虫垂炎を単に腸. 炎としての診療措置しかしなかったという事実関係のもとにおいては︑結果からみて客観的に不完全な治療がなされたと認められ. る以上︑医師のなした前認定の診療内容は債務の本旨に従わない不完全な履行と推認すべきである﹂として︑医師が診断の不可能︑ 著しく困難な事情を立証しなけれぽならない︑という︒. 本件判決は手術の場合であるが︑医師が手術器具の操作を誤って︑鼻と眼の境を越えて器具を眼窩内に挿入し︑直接に︑ないし. は骨その他のなんらかの介在物を通じて間接に︑右眼球後部の視神経もしくは血管に衝撃を加えて損傷し︑Xの右眼失明の結果を. 来さしめたものと推認している︒1・Cの類型に属せしめられるわけである︒手術の場合の過失の推定としては︑気管支成形手術. にょる肺動脈本幹損傷事件⑪︵昭和三七年二一月二六日静岡地裁浜松支部判決︑下民集二二巻一二号二五九一頁︶があり︑それは﹁慎. 重な判断.謙虚な態度で手術を行なっていたならば︑左肺全捌という重大な結果はこれを未然に防ぎ得た筈であり︑右結果の招来. は︑漫然と無理押しをしたためで︑不可避的事故とは認められず︑医師の過失に基因する﹂︵本件の最高裁判決として︑昭和四三年. 七月一六日最高三小判決︑判例時報五二七号五一頁︒これは︑手術の際の誓約書の効力︵否定︶が争われた事例でもある︶とし︑ま. た︑犬の帝王切開手術死亡に獣医師の過失を推定したもの働として︑獣医学関係における過失の一応の推定の理論を認めたもので︑.

(13) アルコール消毒しただけの軽便カミソリで手術をしたこと︑ガーゼを体内に遺留したこと等の事実から死亡についての獣医師の過 失を推定した事例がある︵昭和四三年五月一八日東京地裁判決︑判例時報五二八号五八頁︶︒. Hの類型に属すると考えられるのは︑水虫レントゲン照射事件⑬︵昭和四一年七月一四日東京高裁判決︑判例時報四六三号三三. 頁︒本件の最高裁判決として︑昭和四四年二月六目最高一小判決︑最高民集二三巻二号一九五頁︶である︒これは︑いわゆる水虫. 訴訟として著名なケースで︑過大なレントゲソ線照射により両下肢を切断したことによる損害賠償を認めたものである︒東京高裁. は︑﹁東一病院におけるレントゲソ線照射は︑⁝⁝その総線量において︑一般に皮膚癌発生の危険を伴わないとされていた線量を遙. かに超える過大のものであったと認めざるを得ない︒⁝⁝しかもその照射と被控訴人の左右各足臆に生じた皮膚癌との間に因果関. 係を認めうる以上この皮膚癌の発生は右両医師が診療上の注意義務に違反して漫然レントゲソ線照射を続けた結果であって︑この. 点において両医師は過失の責を免れないというべきである﹂として過失を認定し︑最高裁も原判決の判断を正当とするQ本判決は︑. ﹁X線の照射が過大であった﹂という事実から過失を推定した︑あるいは︑そのような事実が存在した以上過失があったものとみ. なしたケースだ︑ということができよう︵野村﹁患者のX線障害と病院の賠償責任﹂ジュリスト三五四号七八頁︑同旨・奈良・法曹 時報二二巻八号二一三頁︑最高裁判例解説︶︒. 皿の類型に属するものとして︑脳血管撮影のための造影剤注射事件αφ︵昭和四二年六月七目東京地裁判決︑下民集一八巻五・六号. 一年三ヶ月後に死亡したケ. 六一六頁︑判例時報四八五号二一頁︶がある︒交通事故により後頭部打撲傷・脳震邊症状のため入院し︑脳血管を撮影するため︑. 造影剤を頸動脈に注射した際︑不手際によって撮影に失敗︑再度やりなおしたことから︑患者が失神︑. ースで︑施術上の不手際と直後の症状の悪化とから︑過失と因果関係にっいて︑原告の一応の立証による﹁事実上の推定﹂を明示. している︒﹁当裁判所は︑医学の如き高度の専門的分野における施術上の過失の有無が︑その施術者を雇傭する者を被告として使用. 一〇九︵四六七︶. 者責任の問われているような場面において︑判断の対象となる場合には︑施術上の不手際とその直後における症状の悪化とが原告 民事訴訟法判例研究.

(14) により立証されれば︑. 資料. 一一〇︵四六八︶. 一応施術上の過失とそれに基づく傷害とを推認して差支えなく︑当該施術に関する医学上の専門的知識と資. 料とを保有する被告側において︑その不手際はむしろ医術の限界を示すものであることを明らかにするなどして過失の証明につき. 反証をあげるか︑もしくはその不手際と症状の悪化との間には因果関係のないことを証明するかしない限り︑被告の責任を肯定す. べきであると考えるものであって︑本件において︑施術後の症状の悪化が︑右の認定および後段判示のように肯定しうる以上︑そ の余の立証の負担は被告国に移ったと見るべきである︒﹂と判示する︒. 三 次に︑わが国の﹁事実上の推定﹂・過失の一応の推定に対応する英米法︑独法の理論を検討して︑本件判例研究の足がかりと しようo. 英米法における勾oの甘鋸一3三9ぺ﹁事実推定則﹂は︑﹁事態それ自身が語る︵証明する︶︵↓ぎ夢一轟器亀︒︒需餌誘︶﹂というこ. とで︑ある事実︵基礎的事実︶が他の事実︵被推定事実︶の存在を推定せしめることを意味する法原則である︒例えば︑碇泊中の船. 舶に航行中の船舶が衝突した場合︑特別の事情が証明されない限り︑その事実から航行中の船舶に過失ありと推定する︒﹁事態が︑. 生しないものである場合において︑被告の説明がないときは︑事故は︑注意の欠敏によって生じたということが︑合理的な証拠を. 被告︑またはその使用人の管理下にあったことが証明され︑また事故は︑管理人が相当なる注意を払うならば︑事物の性質上︑発. ︵楠本﹁英米法における推定理論﹂早法三四巻三・四冊四六七頁︑なお切巴一〇馨ぎ9罫毛9&o轟昌︵一〇〇︒Oyや目N箇高柳・未. ︒象事件における田置の定義である もたらす﹂というのは︑リーディング・ケースとされるω8辞ダ↓冨ピo且SUo良Oo一〇. 廷・英米法辞典四一五頁︶︒その性質は︑単なる証明の一方法で︑状況証拠の特別の種類といわれるが︑一般の過失訴訟にはない︑. 被告の特定の過失を証明することの困難性︑専門家証人を得ることの困難性を除去する︒手続的効果とL︶て︑大多数の州判決では︑. この法理は過失の推認を与えるだけで︑一応の証拠をつくり出す︑とするのに対し︑この原理の適用が過失の推定を生み出す︑被. 告はその推定をくつがえすに足る十分の証拠を提出しなければならない︵証拠提出の負担が移る︶との立場もある︒問題は︑その.

(15) 適用範囲・要件であるが︑この法理が﹁ラテン語の荷札﹂といわれる通り︵牢o器R︶︑混乱・修正されつつある︒要約すれぽ︑1︑. その事故は誰かの過失がなければ通常起らない性質のものであること︒2︑その過失が被告によってなされたということを︑諸状. 況が示していること︒3︑その事故は原告の行為あるいは寄与にもとづくものでないこと︑である︒特にアメリカでは︑異物体内. 遺留事件︑輸血中に血液が血管外にもれた曽Rヨ睾<●寓巽けヨ§る顕事件等︑比較的単純な医療過誤事件について適用されて. いるようである︵唄・前掲書二七六︑二九三頁︑同・アメリカ法一九六七年一号一〇三頁︑野田﹁歯科領域における診療過誤i英. 米法﹂民商法雑誌五四巻五号六一五頁︑同・法学論叢七七巻三号二五頁︑同・前掲実務民訴講座10二八七頁︑楠本・前掲⇔早法 三六巻三・四冊三二頁︶︒. 独法における二応の証明﹂︵牢冒帥貯90望毛①芭または﹁表見証明﹂︵霧譲o一ωα①ω震曾窪≧あ9色霧匂︾旨の魯蝕霧冨類o芭. は︑甲事実︵間接事実︶さえ証明されれば︑反証のない限り︑経験上の蓋然性から乙事実︵主要事実︶︑の存在が一応証明されたと. するものである︒﹁表見証明は︑経験則を基礎とする︒定型的事象経過の場合︵船舶衝突︶︑取引上必要な注意を怠ったからこそ損害. が起きたのだという事実的推論を正当と考えさせる規則違反なり義務違反が立証されたならば︑故意過失の証明としてそれで充分. であるとし︑被告が責を負わないことがそれによって明らかとなる事情を完全に証明することは︑被告に委ねられる︒また︑同じ. ように因果関係の証明の点でも︑挙証責任を負う当事者が﹃経験によって認識された物事の通常の成りゆきに従って⁝⁝因果関係. の推論を正当と考えさせるような複数の事実の併存を立証する﹄ならば︑それで充分であり︑相手方当事者としては︑発生した結果. o 持 にたいする原因を右の事実に帰しえないことを反証によって立証しなければならない﹂︵勾oω窪びR堕浮名Φむ器け﹂︾蛋戸9一〇︒︒. 中野・前掲・法曹時報一九巻一〇号一七1一八頁︶︒その性質は︑異説あるも︑ぎ昌甘琴件をさけるためのもので︑自由な証拠評. 価すなわち︑自由な心証形成の問題である︒従って︑間接証明の一種であり︑方法的には︑誤解に導く︵幻○ω窪訂茜︾冨日ビo戸. 一一扁︵四六九︶. O︾一5お臼︶としても︑事実上の推定と同一であって︑ただ観点を異にするだけである︒︵ギ9聲ωo薯蝕ωR蚕oげ8霊轟窪冒. 民事訴訟法判例研究.

(16) 資. 料. ω9豊窪器お簿巷8困器. 一8ρ9曽い. 一一二︵四七〇︶. 柏木﹁西ドイッ民事訴訟法学の現況3﹂ジュリスト四八四号一二三頁︶︒問題となる適用範. 因果関係に限る幻oω窪び①お−ω魯名きω鴇8B峯︾亀一ω﹄O刈︶︑さらに︑定型的事象経過︵物事の通常の成りゆぎ︶がある場合に. 囲・限界については︑不法行為の要件としての故意・過失および因果関係の認定についてのみ認められ︑︵但しω9類筈は過失と. ︒.. 切O自N員旨S等︵中野・前掲法曹時報一九巻一〇号一七︑二九︑三八頁︶︑定型的. 限るとのことである︒英米法と同じ様に︑動脈鉗子遺留事件︑手術用タンポソ遺留事件ωO鍔O拝<﹂392一ゑ一〇㎝ρ幹一80. 輸血梅毒事件o ごO餌d罫<●眞員お認 なものに︑きびしいわくが措定されているようである・. 四 証拠法の分野で格別外国法の影響の強いわが国において︑事実上の推定とは︑乙事実︵間接事実︶が証明された場合に︑相. 手方が反証︵特段の事情︶を提出しない限り︑裁判官がその自由心証の範囲内で︑蓋然的な経験法則に準拠して一応甲事実︵直接. 事実・主要事実︶が存在するものと推断することである︒まさに︑裁判官が経験則を活用して間接事実から要証事実を推認すると. いう段階的・心証形成の過程の問題で︑立証責任の転換を意味しないことも定説である︵田中・新版証拠法八○頁︑同・立証責任. 判例の研究八一頁︑賀集﹁事実上の推定における心証の程度﹂民訴雑誌一四号四一頁等︶︒診療過誤訴訟において﹁事実上の推定﹂. の一場合としての因果関係・過失の一応の推定の活用が主張される所以は︑被害者たる原告の立証を容易にする︑立証困難を除去. するという考慮による︒かつて︑角膜への入墨手術による失明事件︵大正五年八月四目東京控訴院判決︑法律新聞二六七号三〇. 頁︶について︑失明の原因となる徽菌の感染は︑手術の際消毒を怠ったか︑体内の徽菌が繁殖したかのどちらかであるが︑消毒を. 怠ったことの立証がないから後者と認めるほかなく︑過失なしとされていた︒このような立証を求めるのは患者に酷であり︑医師. の支配領域内にあることがらについて︑必要に応じて一応の推定をすべぎことが主張されていた︵加藤・注釈民法⑲一五一頁︶の. いて認知されたことを意味する︒. である︒前記最高裁判決GO・②は︑注射過誤についてであり︑選択的認定ではあるが︑まさに﹁事実上の推定﹂理論が最高裁にお.

(17) しかし︑問題がないわけではない︒第一には︑その選択的・択一的認定方法について︑第二には弁論主義の適用に関する﹁直接. 巻一〇号三二頁︶後述する︒後者について︑ω判決の判例批評をされた村松教授は︑不法行為の要件としての故意・過失が主要事. 事実と間接事実﹂の差異についてである︒選択的認定方法が許されるかについては中野教授の批評もあり︵同・前掲法曹時報一九. 実そのものか︑どうか問題になると指摘して︑﹁もし︑通説に従って︑過失を主要事実とすれば︑その内容をなす具体的事実︵注射. はないQしかし︑相手方にも十分主張・立証させる必要があることから︑妥当ではないとしても違法ではない﹂といわれる︵村松・. 液の不良︶は間接事実になるので︑間接事実は弁論主義の立場から自白に拘束されず当事者の主張しない事実を認定しても違法で. 民商法雑誌三六巻五号六九五頁︑同・民訴雑考二二頁︑二四頁︶︒過失とか正当事由という一般条項において︑主要事実をどう. 解するかは問題のあるところである︒端的に︑過失が主要事実なりとする見解もあるが︑それについては︑すでに︑主要事実とい. う以上事実でなけばれならないとの反論があり︑賛否それぞれの長所・短所も指摘されている︵田尾﹁主要事実と間接事実にかんす. る二︑三の疑問﹂裁判法の諸問題中二七四頁︶︒原告の主張していない過失の具体的内容である事実︵間接事実︶を認定しても︑狭. 義の弁論主義に反しないとするには︑釈明権︵民訴法一二七条︶を行使して︑相手方が不意打ちを受け︑十分な立証をつくし得な. かったということの無い様考慮すればA難点も解消するかと考える︒事実上裁判官の自由な心証形成の問題としてみれぽ︑口頭弁. 論の全趣旨と証拠調の結果を斜酌して自由に判断されるわけで︑現実に弁論で争点となっておれぽ妥当性をもつといえよう︒逆に︑. 過失の内容をなす具体的事実の主張に拘束されて︑判断できないとすることは︑裁判そのものを不可能にするであろう︒主要事実・. 間接事実の中間に新たなメクマールを措定することが出来れぽとも考えるが︑この点︑続けて思考を重ねたいと思う︒︵直接事. 実・間接事実について︑中村宗雄・民訴要論二四二頁︑中村英郎﹁当事者弁論主義﹂民訴法・演習講座⑩三二〇頁︑法律実務講座 二巻二六頁︑一二二頁︑兼子・民訴法体系一九九頁︑三ケ月・民訴法一五九頁︶︒. 一コニ︵四七一︶. Hの類型に属する水虫訴訟事件⑬については︑結果から逆算された注意義務︵換言すれば無過失責任︶の観なきさえないとの意. 民事訴訟法判例研究.

(18) 資料. 一一四︵四七二︶. 見︵河津﹁医師の医療上の注意義務﹂法律時報三六巻七号八六頁︶が出ているが︑イギリスにおいても︑照射総線量が過大であっ. アメリカの裁判例でも︑過. た︑あるいは︑放射線障害予防措置が不十分であった︑という事実が存在すればネグリジェンスは立証ないし推定されるであろう︑. といわれている︵2暮富P蜜a8巴2畠嵩鵬98でO↑野村・前掲・ジュリスト三五四号七八頁︶し︑. 大照射を主たる理由として医師に過失を認めているとのことで︑過度の照射自体︑過失を推定されるのも止むを得ないであろう︵奈. 良・前掲法曹時報二二巻八号一三二頁︶︒さらに︑皿の類型に属する﹁脳血管撮影造影剤注入事件⑭の判旨は︑施術上の不手際︵頸. 動脈穿刺の失敗・撮影の失敗自体︶と直後の症状の悪化から︑原告の一応の立証による事実上の推定を明示したもので︑きわめて. 魅力的な判決理由︵沢井﹁公害に関する民事裁判例の研究13﹂判例評論一一九号九七頁︶︑明確な理論構成を提示しつつ﹁一応の推. 定﹂によって過失を認定した︵中野・前掲法曹時報一九巻一〇号三三頁︶ものと評されている︒特にその適用理由を︑医師側が﹁医. 学上の専門的知識と資料とを保有﹂していることに求め︑その不手際は医術の限界を示すものであることの反証をあげよ︑という︒. この点﹁難きを求めるもので︑医療過誤の背負い込みとの感じのするケースである﹂との見解︵松倉・前掲・二一二頁︶もある︒. 二度目の交通事故で︑すでに脳軟化症・脳腫瘍等の障害が生じていた後でのダブル事故である点で︑相当因県関係が否定されたゆ. えんでもあろう︒しかし︑過失の一応の推定・事実上の推定理論を明示しながら﹁その余の立証の負担は被告国に移ったと見るべ. きである﹂となすは︑報償責任の原理に基づく使用者責任︵中間責任︶としては︑無過失責任を指向するものとして是認出来ると. しても︑立証責任の転換ないしは無過失責任を認めたかの誤解︵清水・判例評論一〇六号一二三頁︶を生むところである︒事実上. の推定理論が︑蓋然的な経験則にもとづく自由な心証形成の問題で︑証明度の問題・証明の必要・作用の移転と解する原則論から. は︑その適用・限界を逸脱するものと考えられるわけで︑再び従来の混同をくり返さないためにも︑慎重な表現が望まれる︒過失. の一応の推定によって︑事実上︑結果的に無過失責任の感がするとしても︑あくまで︑過失責任の立場を転換するものではない︒ ここに推定理論の限界があることを再確認する必要がある︒.

(19) 本件判例に類似のケースとして︑蓄膿手術による左眼失明事件︵昭和四四年四月九日大津地裁判決︑判例時報五七二号六二頁︶. がある︒右眼と左眼の差異を除けば︑原告が未婚の若い女性であること︑相手が国立大学病院︵京大︶すなわち国であること︑手. 術の状況等同一であり︑慰謝料の算定も本件判例の一審の結論を参照している︵都合三六七万円認容︶などの共通点があるo判示. は︑﹁左眼失明は左経上顎洞筋骨蜂案廓清中誤って鉗子によって直接視神経等を損傷したか︑または鉗子による眼窩内血管の損傷の. ため出血し︑術後の止血操作のためのタンポソの圧力が直接視神経等を強く圧迫したための何れかであり︑右両者のいずれの場合. も︑直接︑問接の違いはあるけれども鉗子で紙状板を突き破って鉗子を眼窩内に刺し入れたことが失明等の障害をひき起した原因. である﹂として相当因果関係を認めている︒しかも︑証言内容を抜書ぎにして︵例えば︑当大学病院耳鼻咽喉科教授の手術過誤︵眼. て︑山口県︵山口県立中央病院︶でも︑昭和四四年六月九日同種事件に対して五〇〇万円の支払を認めた仮示談がなされた︵ジュ. と鼻の境をこえたこと︶を起してすまないという詫び状︑カルテ総括等︶︑事実認定をなした点に特色がある︒この判決に影響され. リスト四三〇号七六頁 ︶ ︒. しかるに本件判例は︑一審が具体的に因果関係︑過失を推認して︑無理な手術であったとするのに対して︑その理由によれば︑. ﹁いやしくも手術の過程において失明の結果が生じた以上︑それが不可抗力によるものであるか︑少くとも現在の医学知識をもっ. ては予測し得ない特異体質等その他これに類する原因に起因することの立証がない限り︑手術にあたった医師に過失があったもの. と推定すべきである﹂という︒まさに︑手術過誤の場合に過失の一応の推定︑すなわち事実上の推定を活用したもの︑として注目. に価する︒事実認定の方法も︑﹁手術器具の操作を誤り︑飾骨洞と眼窩との隔壁をなしている紙状板を破り︑これを越えて器具を眼. 窩内に挿入し︑直接に︑ないしは骨片その他なんらかの介在物を通じて間接に︑右眼球後部の視神経もしくは血管に衝撃を加えて. これを損傷し︑もってXの右眼失明の結果を来さしめた﹂ものと推認する︒いわば︑直接ないしは間接に︑外力によって失明した. 一一五︵四七三︶. という重複的認定を行なったものと考えられる︒従って︑前記最高裁判決の選択的・択一的認定方法︵注射過誤の場合︶とは異な. 民事訴訟法判例研究.

(20) 資料. 一一六︵四七四︶. る新たな認定基準を提示したものと評することができる︒しかもそれ自体危険な行為である手術の過誤の場合に〜事実上の推定を 認めた点︑果して妥当かが問題となる︒. すでに検討した通り︑英米法における﹁事実推定則﹂︵因①ω曽器一8鼠9﹃︶︑独法における﹁表見証明﹂︵︾拐魯俄霧ぼ≦蝕ω︶の理. 論は︑何れもその適用・限界につき︑きびしいわく組・基準の措定が強く要請されている︒﹁過失がなければ通常起らない性質の事. 故であること﹂︵英米法︶︑﹁型にはまった物事の通常の成りゆきの場合に限る﹂︵独法︶というのがそれである︒中野教授は︑前記. 最高裁判決のような選択的・択一的事実認定は一般的には許されないが︑両事件の場合﹁損害が被告二過失アルニ非ザkハ通常生. ゼザルベキ事情﹂がある︵明治四〇年三月二五日大判民録二二輯三二八頁︑中野・前掲法曹時報一九巻一〇号一五︑三二頁︶といわ. れる︒まさに英米法・独法のそれと同一限界・要件︵推定許容基準︶と考えることが出来る︒注射過誤の場合︑適切な注射行為で. あれば︑通常﹁有害なる結果を残すべき筈がない﹂︵前記⑥判決︶とされている︒なぜなら︑注射液は元来適法な検印あるものを購. 入使用するのが普通で︑人体に害を及ぼす筈がない︑からである︒タソポソその他異物残留事件︑異型輸血事件等は︑緊急な場合 を除いては︑当然適用基準に該当する︒. 本件は︑鼻の手術にさいして︑境界を越えて視神経を侵し︑失明したというケースであるが︑全く同種事件に対する裁判での具. 体的・個別的な事実認定の経過ならびに本件裁判における﹁心証形成﹂の過程を考察すれば︑手術直後の当大学病院眼科医の診断. 一般にこの. 所見︑他大学病院耳鼻咽喉科教授・専門医の鑑定意見も充分に判断形成の要素として考慮され︑書証としての診療録・カルテの内. 容も有力な証拠として究明した上でのYの過失の一応の推認︑すなわち︑事実上の推定であると考えられる︒従って︑. 理論の安易な適用にっいての疑念︵例えば︑柏木・前掲・一二四頁︑中野・前掲・二号三三i三四頁︑野田・民商法雑誌五四巻. る◎さらに︑本件においては︑﹁事実上の推定を動揺させ︑くつがえす﹁特段の事情﹂すなわち不可抗力・予測し得ない特異体質等. 五号三七−三八頁︑同・法律時報四三巻五号五一頁︑同・前掲・実務民訴講座10二八七−二八八頁︶を克服しているものと評しう.

(21) これに類する原因に起因することの立証がない限り︑医師に過失があったものと推定すべし﹂という︒事実上の推定が働く典型的. 事例であり︑いわゆる﹁問接反証﹂が︑事実上の推定を動揺させるに十分でなかったということであろう︒この点︑﹁立証責任の所. 在が事実上転換︵事実上の推定︶されたものと解すこと︵判例時報五七〇号五一頁︶は︑事実上の推定理論が証明度の問題として. 以上︑判例集・書面を通しての事実認定および︑その評価と︑現実の裁判における経験則を通しての﹁生の心証形成﹂の過程と. 定着・進展しつつある現状において︑再び︑誤解をまねくおそれがあり︑時計の針を逆にまわすことになりかねないと考える︒. は︑比較すべぎもない緊張関係の度合いの違いを痛感する︒しかし︑なお要言すれば︑本件判例は診療過誤訴訟における証明度の. 問題として︑手術過誤︵但し蓄膿手術に限る︶の場合に︑過失の一応の推定すなわち﹁事実上の推定﹂を活用したものとして︑さ. らには︑今後益々適用度を増すであろうこの理論の具体的類型・一基準を明示したものとして︑高く評価することがでぎる︒判旨 は︑まさに正当といわざるを得ない︒. 医事訴訟は益々激化し︑賠償額も高額化すること必至である︒提訴前に証拠保全のため職権でカルテや手術室等の証拠を写真に. とって︑裁判所に保管させる方法︵民訴法三四三条・医師法二四条二項︶がとられたケースもあり︑アメリカ︵特にカリフォルニ. ア︶では四人に一人は一度以上鼠巴鷲m&8︵不正療法︶による訴訟を経験し︑保険料も一人四︑○OOドルの高きに及ぶという︒. わが国における医師賠償責任保険︵例えば︑安田火災・医師特約によれば︑対人事故︵過失の場合のみ︶一事故三〇〇万円まで︑一. 年問九〇〇万円まで︑保険料一般病院ーベットにつき四二〇円︑医療法一条︶にょる補償制度に自ら限界あり︑医療の原点である. 患者不在と批判される各地区医師会による﹁医事紛争処理委員会﹂の機能にもあまり大きな期待がもてない現段階︵処理件数のうち. 一一七︵四七五︶. ︵赤坂昭二︶. %は︑斡旋による示談で解決してはいる︶において︑懸案の簡明な手続による公正な審理・調停機関︵医学専門の調査官必要︶の 早急な実現が望まれる︒. 民事訴訟法判例研究.

(22) 齊藤金作教授を追悼して. 一九六九年一一月二五日に︑東京の早稲田大学刑法担当の正 教授であられた齊藤金作博士は︑六六歳にてその生涯を閉じら. ハインリッヒ. 日本刑法学会名誉会員. ハンス. イェシェック. イッ法文化圏と目本法文化圏との間の忠誠な媒介者としての役. 齊藤金作博士は︑早稲田大学法学部での修業を終えられた. 割を果されたのであります︒. 後︑一九二八年に同法学部助手︑一九三二年に専任講師︑一九. れました︒博士は日本の指導的な刑事法学者の一員で在られ︑. 刑事法の全領域にわたって学術上の著作を遺され︑その数々の. 確に言えぽベルリンでエドゥアルト・コールラウシュ教授の許. さわしく︑博士は一九三六年から一九三八年までドイッで︑正. で勉強せられました︒博士は︑かの有名なフランツ・フォソ・. 三八年に助教授に嘱任せられました︒日本の刑法学の伝統にふ. としてこよなく愛せられ︑生前︑親密な心のつながりを抱いて. リスト教授により創設された刑事法学者の研究グループで︑ア. 著作は︑博士の母国において高く真価を認められております︒. おられました︒博士は日本刑法ー一九〇七年の日本刑法典は. 博士は︑若き日の勉学に勤しまれた地︑ドイッを第二の心の故郷. なかんずくドイッの影響を受けて制定されたものであります. ルク大学へ招聰せられた後は︑同教授により創設された外国お. ドルフ・シェンケ教授と親交を結ばれ︑シェンケ教授がフライブ. よび国際刑法研究所に愛情を寄せられ︑先のシェンケ教授の没. 多の翻訳によって︑ドイッ語を話す地域の専門の人々へ紹介せ. られたのであります︒さらに博士は︑全く同様に︑ドイッの彩. 研究所を訪問せられることを常とし︑また︑幾多の優秀な教え. 後も︑ドイッ国を学術研究のため旅行せられる途中︑必らず同. ーを︑ドイッ語でものせられた学問的諸労作により︑また幾. しい著書︑論文︑法律案を目本語へ翻訳せられました︒このよ. 一一九︵四七七︶. うにして今は亡き博士は︑およそ三〇年の長きにわたって︑ド 齊藤金作教授 を 追 悼 し て.

(23) 同法学部で長い間学部長を勤められ︑指導的教科書の著者であ. 稲田大学法学部刑法担当の正教授に嘱任せられました︒博士は. 子を同研究所へ紹介せられました︒一九四二年に齊藤博士は早. は︑﹁現代外国刑法﹂シリーズの第一巻︵一九五五年︶のうち 日本刑法に関する代表的叙述︵第二〇九頁から第三六八頁ま. 〇日の日本刑法準備草案を翻訳せられました︒さらに︑私ども. え子︑西原春夫教授と共同執筆︶ならびに一九六一年二一月二. せられ︑また一九五三年八月一〇日の改正日本刑法︵博士の教. 一二〇︵四七八︶. れ︑司法試験委員会の有力な一員であられ︑早稲田大学という. られ︑学生から慕われ愛された大学での授業担当教授であら. で︶について︑博士の御蔭を蒙っているのであります︒博士の. 齊藤金作教授を追悼して. 偉大にして卓越した日本の私立大学の運命が相共に決定づけた. ︸ドイッの文献の目本語訳は︑ビルクマイヤー教授の共犯論︵一. 八九〇年︶に始まり︑各理由書をも含めて一九五六年のドイツ. ところの中央に位置する人々の一員であられました︒. 齊藤博士の幾多の著書は︑刑事法学の基礎および基本問題︑. 刑法草案乃至一九六二年のドイッ刑法草案ならびにドイッ刑法. の現状︵全刑法学雑誌第六七巻︹一九五五年︺第一頁以下およ. 刑法総則および各則︑刑事訴訟法を論究せられたものであり︑. び犯罪論に関する寄稿集一九六八年第一九頁以下所載︶および. の最近のドイッの個別的な論説︑例えぽ︑ガラス教授の犯罪論. 九六一年の刑法総論教科書改訂版︑一九六九年の刑法各論教科. 私︵イェシェック教授︶の比較刑法の発展︑課題および方法. 改正のための比較法的諸資料各則篇︵一九五五年︶および各種. 書全訂版ならびに刑事訴訟法ー一九六一年の上巻︑一九六八. ︵一九五四年︶に及んでいるのであります︒一九六三年に早稲. せられております︒世に知られているものに︑なかんずく︑一. 年の下巻1があります︒博士の数多くの論説および論文は実. 田法学は︑﹁齊藤金作教授還暦祝賀論文集﹂と題して︑還暦祝. また単行論文の形をとって繰り返し︑繰り返し︑共犯論を攻究. 体刑法および刑事手続法の全領域に及ぶものであり︑博士が好. 齊藤博士は︑日本とヨー巨ッパ︑とくにドイッそしてまたフ. 賀記念号を博士に捧げたのであります・. ランスとの問の学術的交流に常に強い関心を抱かれ︑博士の訪. んで採り上げられた論題である共犯論については倦むことなく. 一九四〇年にかけて日本刑法改正仮案f一九三一年の総則お. れた国々から多くのものを摂取せられました︒博士はその限り. 特に力説せられたのであります︒齊藤博士は︑一九三九年から. 草野豹一郎判事と共同執筆︑そして総則についてはベルリンの. では現代的生活態度をとられた一日本人であられました︒ま. よび一九四〇年の各則︵草案の起草委員であられた博士の恩師 人リッヒアルト・ブ胃イエル氏と共同執筆︶をドイッ語に翻訳.

(24) た︑それと同時に︑博士は日本民族の古典的な理想を追う一日. ことを意識され最後にドイッに来られた折に︑博士はライン左. 詩歌をドイッでものされました︒一九六三年に死期の遠くない. る途中︑母国語で次の歌を詠まれました︒この翻訳はそこに意. 岸をヶルンからフライブルクヘ急行列車︵Dツーク︶で遡られ. 本人であられたのであります︒博士は日本の絵画︑陶磁暴およ ました︒博士は庭造りにも︑東洋蘭の栽培にも精を出されまし. び書道芸術を愛好せられ︑ときに筆を自らとられることもあり. 影を伝えられるに過ぎないものであります・. 達覆o算ぎ90ぎ彦巴類①置Φ一9の筈窪. 味せられ︑示唆せられている事柄の豊富さ︑奥深さの僅かな面. 臣o︼W①おog盆固富ωΦぎUo5ω︒窪習9. た︒博士は優れた随筆家であられました︒芸術的な論題とあわ. 四︑ドイッに寄せられる愛情が見出されるのであります︒すな. せて︑博士の小随筆集である﹁松陵随筆﹂の中には︑再三︑再. ピンディング教授の墓﹂︑﹁エドムンド・メッガー教授の計﹂︑. わち︑博士は右の随筆集のうちで︑﹁フライブルクのカール・. の山河. i松陵随筆より. ふたたびを見ることあらじDッークの窓べ過ぎゆくドイツ. ≦一Φの一①四日田霧けR旨Φ貯霊身跨$︿03①喧①陣梓g︑︑ゆ. ﹁ハイデルベルクのグスタフ・ラードブルフ・ハゥス﹂につい. て執筆しておられます︒齊藤博士は精神の内奥にあっては禅仏. 教の信奉者であられました︒博士は欣然としてこの教えの瞑想. 付記. ︵内田一郎訳︶. 離れることによって解脱することを希求せられました︒博士が. と観照とに沈潜せられ︑厳格に身を持し︑そして絶対的に欲得を. 逝去せられた折︑博士の信仰の上の兄弟達が鎌倉の円覚寺に相. イッの全刑法学雑誌第八二巻第四冊︵一九七〇年︶外国欄に掲. よび国際刑法研究所の所長をしておられます・本追悼文は︑ド. 載され︑別刷を中村英郎教授を通じて頂戴したものでありま. イニシェック教授は︑現在︑フライブルク大学の外国お. い集って︑博士を追悼する座禅の会を催されました︒円覚寺は. 聖なる高度の目本文化の伝承の地であって︑寺域の絶対的な静. ︵四七九︶. す︒中村教授の御懇篤な御配慮に対し︑心から感謝致します︒. る七五〇年を経た洪鐘に感じとられるそれは西欧の訪問客の心. 二二. 寂さ︑均斉のとれた建物︑色彩︑そして寺域の入口の近くにあ に深い感銘を与えずにはおかないものがあるのであります︒齊 藤博士は︑伝来の寂情詩の厳格な形式を踏まえた幾多の日本の 齊藤金作教 授 を 追 悼 し て.

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