5配位及び6配位のポルフィラジン鉄・コロラジン 鉄錯体の合成と性質
著者 倉橋 悟志
URL http://hdl.handle.net/10236/12562
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氏 名
学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員 (主査)
(副査)
倉 橋 悟 志
5配位及び6配位のポルフィラジン鉄・コロラジン鉄錯体の 合成と性質
博 士(理 学)
甲理第149号(文部科学省への報告番号甲第482号)
学位規則第4条第1項該当 2013年4月17日
御 厨 正 博 山 口 宏 小笠原 一 禎
教 授 教 授 教 准教授
授
壷 井 基 裕
論 文 内 容 の 要 旨
ポルフィリンは、テトラアザの16員環骨格を持つ大環状有機配位子であり、天然にも存在することから旧 来より良く知られている有機化合物である。この有機配位子はいわゆる巨大環効果により色々な金属イオン を取り込んだ金属錯体を形成することから、様々なポルフィリン金属錯体が合成され、研究されてきた。そ の中でもポルフィリン鉄錯体は、実際に生体中でヘム鉄として赤血球のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビ ン中に存在し、酸素の運搬や貯蔵の役割を果たし、さらにペルオキシダーゼやチトクロム類の酸化還元酵素 中にもあり、生体が生命活動を維持して行く上で必要不可欠の存在である。ヘム鉄は、いわゆる生元素の代 表的存在としての鉄元素が生体中で最も顕在する形とも言える。そのためポルフィリン類は無機化学ばかり でなく有機化学、物理化学、生物化学、医化学等の広い分野で非常に多くの研究者によって注目されて来た 化合物群であり、様々な種類のポルフィリン誘導体が合成されてきた。また、16員環骨格を15員環としたコ ロールも天然に存在し、そのコバルト錯体はビタミン B12として生体内で重要な役割を果たしており、コロー ル誘導体も多くの研究者によって研究がなされてきた。一方、フタロシアニン類は古くからフタロシアニン として知られる無機顔料の本体であり、数多くの誘導体が合成開発されてきた。
論文提出者は、ポルフィリン及びコロールのメソ位の炭素を窒素に置き換えたポルフィラジン及びコロラ ジンの研究が、合成が困難であったためにほとんど手つかずの状態であったことに着目し、これらの鉄錯体 の合成開発を目指した。そして電子吸収スペクトル、1HNMR スペクトル、13CNMR スペクトル、EPR スペ クトル、SQUID による磁気モーメント、メスバウアースペクトル、マススペクトルの測定を行い、その豊 富なデータを基に鉄の電子状態を明らかにし、軸配位子の電子的効果を見出している。さらにポルフィラジ ン鉄・コロラジン鉄両錯体とも単結晶作製に成功し、X 線回折による結晶構造の決定を行い、ポルフィラジ ン環及びコロラジン環がπ共役性の平面構造をとっていることや鉄の配位環境を明らかにしている。本論文 は、5章から成る。第1章は、要旨である。第2章は、序論であり、本研究の背景について、ポルフィリン 鉄を中心にしながらその電子状態研究についてこれまでの研究の状況を的確にまとめながら解説し、本研究 を行うに至った動機、研究の目的を述べている。第3章は、実験の部であるが、論文提出者が改良したポル フィラジンやコロラジンの合成法及び新たに開発した同位体置換体の合成法について述べている。そして鉄 錯体の合成法、鉄錯体の単結晶作製法、各種分光法による測定法について記述している。第4章は、結果と
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考察であり、これらの鉄錯体が軸配位子の違いによって鉄 (III) のS= 3/2の中間スピン状態からS= 1/2の 低スピン状態、さらには鉄 (II) のS= 0の低スピン状態をとることを明らかにし、その要因について考察し、
ポルフィリン鉄との違いについて議論している。第5章は、結論である。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
ポルフィリン類やフタロシアニン類は、天然に存在するヘム鉄のポルフィリンや無機顔料として役立って いるフタロシアニンを代表とする大環状の有機化合物で色々な金属イオンを取り込むことから長年数多くの 研究者を惹き付けて来た化合物群であり、非常に多くの誘導体が合成され、ポルフィリノイド化学と呼ばれ るくらい隆盛を極めている分野と言える。その中でポルフィリンの環状骨格に着目すると、メソ位の炭素を 窒素に置き換えたポルフィラジンとコロラジンはポルフィリン、コロールそれぞれとフタロシアニンとの 中間的な化合物に位置すると考えられ、その化学には興味が持たれる。論文提出者は、ポルフィラジンとコ ロラジンの研究がその他のポルフィリン類縁化合物と比べるとほとんど手つかずの状態であることに着目 し、これらの大環状化合物の鉄錯体の研究を取り上げた。そして合成したポルフィラジン及びコロラジンを 鉄塩と反応させて鉄錯体を単離し、さらに様々な軸配位子を反応させて5配位及び6配位の鉄錯体を生成さ せた。単結晶作製が困難なこれらの鉄錯体の電子状態を調べるのに電子吸収スペクトル、1HNMR スペクト ル、13CNMR スペクトル、EPR スペクトル、SQUID による磁気モーメント、メスバウアースペクトル、マ ススペクトルの測定を行い、それぞれの測定手法の特徴をうまく活用して鉄の電子状態を探った。本研究で 特徴的なのはピロール部分のα位炭素を13C に同位体置換したポルフィラジン・コロラジンの合成法を開発 することによって、13CNMR スペクトルの常磁性シフト観測による電子状態の研究をこの系で初めて可能と した点で、温度変化測定を行うことにより、ポルフィラジン鉄・コロラジン鉄における軸配位子の配位挙動 を詳細に調べることに成功している。そして、ついには鉄錯体の単結晶作製にも成功している。これは、論 文提出者の絶え間ない努力の賜物であり、X 線結晶解析で明らかになった結晶構造は、ポルフィラジン及 びコロラジンがπ共役性の高い平面構造を保って鉄イオンを捕捉している様子を示している。本研究で見 出された結果は、ポルフィラジンやコロラジンの鉄錯体についての新しい知見として注目される。要約する と、本研究では、ポルフィラジン及びコロラジンの新規鉄錯体の合成法を確立し、その構造や電子状態を明 らかにし、ポルフィラジンとコロラジンがポルフィリンでは滅多に見られない中間スピン状態を容易に生じ ることができ、軸配位子の性質によってその電子状態を変化させるという新たな知見を見出している。論文 提出者が発見した以上の事柄は、ポルフィリノイド化学において重要な情報を提供するものであり、この 分野の新たな展開のきっかけを与えるものとして意義深い。本論文の一部は既に Journal of Porphyrins and Phthalocyanines に掲載済み、Recent Developments in Coordination, Bioinorganic and Applied Inorganic Chemistry (Press of Slovak University of Technology)に掲載予定であり、残りの部分については投稿 準備中である。さらに、参考論文として2編の論文が Journal of Porphyrins and Phthalocyanines および Inorganic Chemistry Communications に公表されている。
審査委員会は提出された論文の内容について論文提出者との面接を行い、詳細な質疑応答を行い、加えて 公開の博士学位審査論文発表会を行った結果、著者が自立して研究活動を行うのに必要な研究能力およびそ の基礎となる学識を持っていると判断した。外国語能力については既に大学院外国語学力認定試験を合格し ており、十分と判断された。
以上により、審査委員会は本論文提出者、倉橋悟志氏が博士(理学)の学位を授与されるに足る資格を有 するものと認める。