《資 料》
ブランデンブルク法における 夫婦間相続と嫁資合意 *
藤 田 貴 宏(訳)
§1〈1.辺境伯領では存命配偶者は嫁資を持参したか否かにかかわらず相 手方の死後に財産の半分を保持する。〉〔1.存命当事者は不動産及び動産の半 分を保持する。〕「相手方を亡くした夫婦の一方は不動産と動産について半分を 取得する⒜。これはその者が持参したものが少なくても多くてもそうであるし、
また、何も持参していなかったとしてもそうである⒝【勅法[=相続その他の 事項に関する1527年の勅法、法令、規則:「ヨーアヒムの勅法」]第1章「夫婦 間相続」[第1節冒頭]及び実務慣行】。」
補注⒜:〈2.財産を夫婦の共有とするために制定された法令は法的に有効 である。〉〔2.財産は夫と妻の共有となる。〕我々の勅法のように財産を夫と
* 以下は、ヨーアヒム・シェプリッツJoachimScheplitz(1566-1634年)の『選帝侯ブラ ンデンブルク辺境伯領の法令並びに慣習法EtzlicheStatuteunndGewonheiten/der ChurundMarckeBrandenburg』(1608年)と、その改訂増補版『選帝侯ブランデンブ ルク辺境伯領の慣習法ConsuetudinesElectratusetMarchiaeBrandenburgensis』(1616 年)の内、第3部第2章「夫婦間の相続、婚姻特約や財産譲渡、寡婦分についてVon Erbfäll/EhestifftungundUbergabe/auchLeibgedingderEheleute」の第1節(1608年 版141-144頁、1616年161-164頁)及び第5節(1608年版156-160頁、1616年版168-172頁)
の試訳である。1616年版での増補部分には下線を付した。内容については拙稿「相続 と嫁資合意」Ⅵ参照。
妻の共有とする法令が有効であることは、別書4巻20章「夫婦間贈与について」
第2節やミュンシンゲルス『助言集』第6集助言52第24番から明らかである。
この点については、ガイリウス『実務考察集』第2巻考察78第9番も論じてい る。更に、『マールブルク大学法学部の諸博士諸教授による助言解答集』第1 巻助言第141番、第142番、第143番で論じられている諸点もこの見解の理解に 大いに役立つ。同第143番において、当該助言の著者で当該助言を法学部の名 で作成したゴエダエウスが述べるところによれば、別書前掲4巻20章第2節で 婚姻存続中に共同で取得された財産ついて定められている点を、同箇所にその 文言が引用されているマールブルクの法令が、夫婦のあらゆる財産に拡張し、
夫婦双方並びにその子等が平等に与る資産に相当するものとして財産を一括し ているとされ、ミュンシンゲルス前掲『助言集』第6集助言92[→52]第23番 以下も引用された上で、当該法令がこの点においてザクセン法を離れこれに優 先する旨付言されている。それどころか、今日では、非常に多くの民族におい て、慣行上、特定の財産であれ全財産であれ、夫婦間では、各地の様々な成文 法乃至不文法に基づき何らかの仕方で共有とされる傾向が優勢となっている と、エルネストゥス・コトマヌス『助言集』第3巻助言19第49番での引用に従 い述べられている。しかも、このコトマヌスの助言19第49番末尾に続く箇所に よれば、ゲオルギウス・ヌッテル『助言集』第4巻助言38第3番及び第22番が ドイツの慣習法に基づいてその旨主張している、とある。以上に私が述べた点 については、フリデルス・プルクマヌス氏が『助言集』第2巻助言1第374番 で教示しているところとも矛盾しない。というのも、同第378番及び第379番に 明らかなように、彼が述べているのは真正な組合についてであって、そのよう な真正な組合が我々の勅法によって夫婦間に導入されたわけではないからであ る。〔3.従僕の賃金や負債は最初に共有財産から控除されねばならない。〕実 際、「夫婦間相続」と題される我々の勅法では、別の箇所で、従僕の賃金や負 債は共有財産から支払われるべきである旨はっきり述べられている。この点は、
子のない夫婦の間の贈与について言及される箇所[同勅法第3節]でも同様に、
贈与による4分の1が付与される前に従僕の賃金や負債が共有財産からまず弁 済されるべき旨定められている。〔4.夫婦間に共有財産をもたらす法令は敬
虔かつ正当である。〕その上、夫婦間に財産共有をもたらす法令は敬虔、正当、
衡平、高潔、そして、人間味にあふれているといえ、この点についてはコトマ ヌスの前掲助言19の第51番と第52番も指摘している。〈3.妻が夫の地位にとっ て代わるという趣旨の法令も制定可能である。〉それどころか、妻が夫の地位 にとって代わることも法令によって定めることが可能である【バルトルス『権 力服従者論』問題3第1部、ミュンシンゲルス前掲助言52第25番】。
補注⒝〈4.婚姻は嫁資が無くても成立し得る。〉というのも、婚姻を伴わ ない嫁資はあり得ないが、逆に、嫁資を伴わない婚姻は十分にあり得るからで ある【勅法彙纂6巻18章「夫及び妻の遺産占有について」第1法文の公撰集引 用要約文へのヤーソンの注釈第10番】。〈5.夫は、嫁資の約束を伴わずに迎え た妻を扶養し夫婦の愛情をもって遇する義務を負う。〉〔5.夫は、嫁資の約束 無く妻を迎えたならば、無嫁資の妻を扶養し夫婦としての愛情をもって遇する 義務を負う。〕それ故、諸博士の通説によれば、夫は、無嫁資の妻であっても、
妻を嫁資の約束無く迎えたのであれば、これを扶養し夫婦としての愛情をもっ て遇すべきであり、無嫁資の妻を迎えたことについて責任を負わねばならない とされ、〈6.婚姻を成立させるのは合意であって嫁資ではない。〉〔6.嫁資 ではなく合意が婚姻を成立させる。〕それは、嫁資ではなく合意が婚姻を成立 させるからだとされる【ガイル『実務考察集』第2巻考察87第1番】。〈7.無 嫁資の妻は自らの人格を嫁資の代わりに提供するものと推定される。〉〔7.嫁 資の設定を受けなかった妻は自らの人格を嫁資として供する。〕ガイルは更に、
別書4巻20章第7節へのインノケンティウスⅣ世の注釈に依拠して、嫁資の設 定を受けない妻は自らの人格を嫁資として供すると述べている。〈8.無嫁資 の妻が困窮する場合には、市民法上、亡き夫を継承する。〉それ故、市民法上も、
婚姻が嫁資を伴っておらず、生き残った妻が困窮する場合には、勅法彙纂前掲 6巻18章第1法文の公撰集引用要約文に従って妻が夫を相続することになって いる。なお、この夫婦間の相続については、コレルス『ドイツ判決集』判決61 全体も参照できる。〔8.一方が貧しくあるいは婚姻上の贈与無しに婚姻した 夫婦の間では、利得は共有されるべきか否か。〕更に、この問題について貧し さだけを理由に判断することのないように、フリデルス・ソルスは『婚姻中取
得財産論』問題12全体において続けて次の問題を検討している。〈9.貧しい 者と富裕な者が婚姻を締結した場合に、婚姻上の利得は両者の間で分割され得 るのか否か。〉そこで問われているのは、一方が貧しいか、あるいは、婚姻故 の贈与も嫁資も無く婚姻を締結した夫婦の間では、利得は共有されるのかどう かである。同箇所第11番以下では、これを肯定する見解が支持されているが、
同第9番ではその例外が一つ提示されている。本論に立ち返るならば、我々の 勅法や、この地方の周知の実務や慣行では、夫婦の一方が亡くなると、その存 命者が全財産の半分を享受し保持することは明らかである。〔9.妻が嫁資の 弁済期限よりも前に亡くなった場合、本勅法に基づき嫁資の半分が夫に帰属す るのかどうか。〕そこで、夫が妻に先立たれて存命であるが、当人と妻の親あ るいは親族との間では、貴族の間に頻繁に見られるように、嫁資は一年あるい はそれ以上の期間内に支払われる旨合意されていた、という場合を考えてみる。
問題は勿論、妻が支払期限到来前に亡くなった場合に、それにもかかわらず、
妻の嫁資の半分が本勅法に基づいて夫に帰属するかどうか、である。しかも、
嫁資の利益について言及する法令について諸博士により様々に問われ論じられ ていることは法に通じる者であれば知らぬ者はないので、この点について論じ られるべき事柄は多い。第一に、法令が単に嫁資についてのみ言及している場 合、その法令は約束された嫁資についても適用されるのであろうか。この点に ついては、ロランドゥス・ア・ウァッレ『嫁資利益論』問題5その他の論者に 従ってガイリウス『実務考察集』第2巻考察79冒頭が論じており、ヨハンネス・
フリデリクス・ソルス『嫁資利益論』問題8もそうである。これらの人々は、
一致して、異論無く、肯定説に与している。しかし、法令の文言が引き渡し済 みの嫁資について定めている場合には別様に解していることは、同じくロラン ドゥス・ア・ウァッレ前掲書問題6第3番やガイリウス前掲箇所第3番から分 かる。例えば、夫が[引き渡し済みの]嫁資の半分を保持し、残り半分を返還 するというように【ロランドゥス・ア・ウァッレ前掲書問題11第12番、ミュン シンゲルス『個別考察集』第5集考察100、ヨハンネス・フリデリクス・ソル ス前掲書問題11】。ただし、ソルスは再反論の箇所【同第11番以下】において、
この場合もまた同様に肯定説に好意的であり、エマヌエル・ソアレツ『通説宝
典』Mの項第54番及び第55番もこれを是認している。また、既に支払われた嫁 資について法令が定めている場合にも同様である【アンドレアス・ラウクベル ス『問題集』第1部問題31第25番】。更に、父自身によりその財産から約束さ れた内来嫁資と、母や後見人、兄弟が約束した嫁資とを区別する人々も相当数 存することは、トミンギウス『重要問題判決集』判決29にうかがうことができ、
マッタエウス・コレルス『執行手続論』第1部第3章第247番及び第248番以下 はこの点においてトミンギウスに与しており、彼等の見解をアンドレアス・ラ ウクバルスも前掲書問題31第3番において同様に援用している。しかしながら、
既に私が言及した事案に関連して、この議論の領域に立ち入ることは無益であ る。というのも、ラウクバルス前掲書問題31全体にわたって援用される諸文献 からも明らかなように、ヴィッテンベルクの人々は、如何なる区別も無く、既 に引き渡されあるいは支払われた嫁資と全く同様に、約束された嫁資をも夫に 付与しているからである。ザクセン法の議論によれば、夫は、日用品類[ゲラー デ]を除く亡妻の残した動産とともに、この嫁資を享受するとされている。ラ ウクバルス前掲箇所では、この上なく強固な論拠によってこの見解が擁護され ている。同じくこの見解を決然と是認しているのが、モレルス『ザクセン選帝 侯勅法集注解』第3部第19条注釈第9番、ペトルス・ヘイギウス『問題集』第 1部問題33第6番である。更に、近時公刊されたハルトマヌス・ピストリスの
『問題集』第3巻問題7からは、彼もまたこの立場を学識豊かに擁護している ことが明らかとなっている。以上をふまえ、管見によれば、我々の問題に関し ては、我々の勅法の文言そのものによって直ちに判断可能である。その文言は 文字通り精確に遵守されるべきであり、またよく言われるように、一般的に書 かれていることは一般的に理解されねばならず、法令の趣旨が明確でない場合 には法令の言い回しではなくむしろ文言が信頼されるべきである【学説彙纂40 巻9章「奴隷解放被解放の禁止とアエリウス・センティウス法について」第12 法文、ガイリウス『実務考察集』第2巻考察33第1番】。ところで、我々の勅 法の文言は次のようになっている。すなわち、「相手方を亡くした夫婦の一方 は古い慣行に従い財産の半分を取得する」、と。〔10.対人訴権、対物訴権、裁 判官の職権の何れによるにせよ、我々に対して義務づけられるものは全て財産
中に算入される。〕実際のところ、我々の所有権に属するものだけが我々の財 産に算入されるのではなく、財産が信用に基づき我々によって占有されている ものや地上物である場合であってもそうであることは、学説彙纂50巻16章「語 句の意味について」第49法文から明白である。また同様に、訴権や請求権、訴 求に伴うものは何であれ財産に数えられる。つまり、これら全てのものが財産 と見なされるのである。この場合、アルキアトゥスの学説彙纂前掲50巻16章第 49法文の注釈第8番にあるとおり、対物訴権、対物的請求権、裁判官の職権の いずれによるにせよ我々に対して義務づけられているものはすべて財産に算入 されるのであり、要するに、単なる財産という呼称にこの種の表現や権利が含 まれることに疑いの余地はないのである。以上の点を同様に是認するものとし て、アリアス・ピネルス『勅法彙纂6巻60章「母あるいは母方の財産について」
所収諸勅法注解』第1部表題注釈第2番、『マールブルク助言集』第2巻所収 のレイネルス・シクスリヌスによる助言14第40番がある。〔11.財産の占有を 移転させる法令は非有体的な権利や訴権にも当てはまる。〕また、ティベリウス・
デキアヌス『助言集』第3巻助言113第4番及び第6番によれば、財産の占有 を移転させる法令は、非有体物、つまり、権利や訴権にも妥当するとされ、ア ルノルドゥス・ア・レイギウス氏も『法学宝典』「財産」の項第45番でこれを 同趣旨で引用している。〔12.妻が嫁資として取得した権利はその死後夫に帰 属する。〕最後に、ハルトマヌス・ピストリス前掲箇所問題7第8番も、この 問題について、ザクセン法が、妻の死後に、あらゆる動産に加え、動産という 名称に照らしてやはり動産に相当する権利や訴権をも夫に付与している以上、
嫁資の内に取得された権利もまた、その嫁資が動産から成っている限りは、妻 の死後に夫に帰属するのがあらゆる意味で論理的である、と結論付けている。
以上の点は、このような場合に財産の半分を存命の夫に付与する我々の勅法の 文言において全く疑念の余地無く確証されている。その意味で、法令は夫を相 続人や承継人のごとく扱っているのである【アンドレアス・ラウクバルス前掲 書第1部問題31第15番】。なお、嫁資が期限を付して約束され、妻が弁済期到 来前に亡くなった場合であっても、以上の見解に異論を唱える者は誰一人いな い。〔13.〕というのも、同じくハルトマン・ピストリス前掲箇所第9番によれ
ば、約束に付された期限が、債務の生じること自体を妨げるものではなく、そ の履行請求が期限の到来する時まで先送りされるという仕方で債務を生じさせ るものであるという点については、全く異論がないとされるからである【彼に より援用された諸典拠による】。従って、期限が、この種の約束から債務が生じ、
これによって取得された権利がさしあたり相続人へと移転することの妨げとな らないことは確実である【勅法彙纂6巻51章「転落財産の廃止について」第1 法文1節、学説彙纂36巻2章「遺贈あるいは信託遺贈の取得日はいつか」第5 法文による】。また、ハルトマヌス・ピストリスの上記箇所は更に参照に値する。
というのも、彼は上記見解を支えるものとして、学説彙纂24巻3章「婚姻解消 時に嫁資は如何にして返還請求されるべきか」第44法文1節と同23巻3章「嫁 資の法について」第20法文に加えて、バルドゥスの勅法彙纂5巻11章「嫁資の 約束あるいは無方式合意について」第3法文注釈、ヤーソンの学説彙纂12巻4 章「原因により与えられたが原因が不存続であるが故の不当利得返還請求訴権 について」第9法文1節注釈第15番、小ソキヌス『助言集』第1巻助言35末尾、
ルイヌス『助言集』第1巻助言225、ロランドゥス・ア・ウァッレ『嫁資利益論』
問題88、パヌティウス『嫁資利益論』第1条文言「返還されるべき」注釈第38 番及び第39番をその末尾に引用しているからである。更に、同箇所第10番aの 補注にも多くの著者が援用されている。同様に、マッタエウス・コレルス『ド イツ判決集』第二部判決221へのフリデルス・ペンソルドゥスによる補注第15 番もこの見解にふれていて、同箇所末尾でこの見解に言及しているので、同じ 趣旨でこの立場に与していると言える。そして、我々の下でも、既に私が是認 した見解どおりに判断されていることは、ヨハンネス・クリストポルス・ア・
ツェルヴェストの事件に見て取れる。すなわち、その事案では、貴族の女性マ ルガレータ・フォン・デア・ヴァイデが婚姻することになり、婚姻成立後一年 と一日以内に嫁資が支払われるべく婚約時に合意した。ところが、天命により、
上記マルガレータは婚姻が成立して27日目に亡くなった。にもかかわらず、マ ルガレータの相続人は、嫁資合意の約定に基づき妻が亡くなり子のない場合に は夫が取得することになっていた嫁資を夫に弁済すべくまさに命じられたので ある。
§5〈1.嫁資合意中の取り決めは両当事者によって確実に遵守されるべき である。〉〔1.両当事者間の嫁資合意は遵守されるべきである。〕「婚姻特約が 作成され、その中で双方の親類によって、互いに一方の死後に他方が金銭、動 産、そして、不動産上の収益を優先的に取得すべく譲与する旨定められ、確約 され、合意されたならば、それは有効である【勅法[=相続その他の事項に関 する1527年の勅法、法令、規則:「ヨーアヒムの勅法」]第1章「夫婦間相続」
[第2段]】」。
補注:これに対応するのは、学説彙纂23巻4章「嫁資合意について」及び勅 法彙纂5巻14章「嫁資や婚姻前贈与、嫁資外財産にについて交わされた合意に ついて」であり、そこではこの種の嫁資合意が遵守されるべき旨定められてお り、『市民法封建法手文庫』第29章第2節第2番において私はこの見解に与す るものを多数引用しておいた。マッタエウス・コレルスの『ドイツ判決集』判 決61全体、ペトルス・ヘイギウス『法問題集』第1巻問題23第35番【〈2.嫁 資合意はドイツの至る所で受容されている。〉ここでは夫婦間相続に関する嫁 資合意がドイツのいたるところで受容されている旨述べられている】、フリデ リクス・プルクマヌス『助言集』第2巻助言25全体とりわけ第24番に引用され ているものも以上に付け加えることができる。プルクマヌスが同第31番で述べ るところによれば、この種の嫁資合意は、婚約した男女双方の家族の間で合意 されると、婚約した女性への言及がなくても、辺境伯の勅法に基づき遵守され ねばならないとされ、続く箇所では本条についても同様に言及されているので、
この指摘は本条に関連しているものと解し得る。〈3.嫁資合意はどの程度受 容され、如何なる場合に嫁資合意から相続が生じあるいは生じないのか。〉また、
この嫁資合意について、そこから如何なる場合に相続が生じあるいは生じない のかは、コトマヌス『助言集』第2巻助言2問題1冒頭から第58番、同じく助 言78第60番から第65番で論じられている。また、当該嫁資合意がどの程度有効 なのかについては、ハルトウィグス・ア・ダッセル『リューネブルク法注解』
第8条注釈第14番から末尾までにかけて論及されている。〈4.嫁資合意は配 偶者の遺言によって破棄され得ない。〉〔2.夫婦間に締結された嫁資合意は一 方の遺言によって破棄され得るのか。〕夫婦間で締結されたこのような嫁資合
意が一方の遺言によって破棄され得るかどうかは、ウェーセンベキウス『学説 彙纂勅法彙纂注解』勅法彙纂2巻3章「合意について」第15法文注釈第9番や ヘイギウス前掲箇所第37番が論じている。消極的見解、つまり、それは不可能 であるとの見解に、カッサネオと共に与しているのはミュンシンゲルス『助言 集』第2巻助言14第9番及び第10番、シカルドルス『勅法彙纂講義』6巻20章
「財産持戻について」第6法文注釈第6番であり、〈5.ただし双方の合意があっ た場合には撤回が可能である。〉後者では、双方の合意によってのみ撤回が可 能であるとされている。今述べた見解、すなわち、夫婦の一方の遺言では嫁資 合意を覆すことはできないという見解を最良の諸論拠によって裏付けているの は、エルネストゥス・コトマヌス『助言集』第2巻助言78第159番から最後ま での第3節、とりわけ、第169番である。この点については、更に、ペキウス『夫 婦間遺言論』第1巻第32章第5番も参照できる。〈6.妻は嫁資合意を無視し て都市法や地域の慣習法に逃げ込むことはできない。〉〔3.妻は婚姻前の契約 を無視して、自らの立場からはむしろ有利になるかもしれない都市法を、夫の 相続人の意向に反して選択することはできるのか。〕その箇所で共に論じられ ているは、妻が婚姻前の契約を無視して、自らの立場からはむしろ有利になる かもしれない都市法を、夫の相続人の意向に反して選択することはできるのか、
という点である。ペキウスは、そのような慣習が幾つもの民族において受容さ れているのは確かであるとしつつも、ローマ人の法律によってそれを裏付けら れるかは不明であり、むしろ、そこに引用された法文によりローマ人の法律は 妻やその相続人を合意によって拘束するものと解している。ダニエル・モレル スの『セメストリア』第1巻第13章や『選帝侯アウグスト勅法集注解』第3部 第20条注釈冒頭から第11番までもこの問題について論じている。同第10番末尾 によれば、今日、ライプチヒの参審裁判所においても、従前の立場が変更され、
嫁資合意が存する場合には、それが保持されるべきで、嫁資合意を無視して法 令や慣習法に立ち戻ることを寡婦に許さない旨判示されている。同様に、この 見解は、アンドレアス・ゴルドベキウス『ザクセンのゲラーデ相続論』「相続 の第一順位について」第46番によっても是認され、そこに引用された文献に基 づき、嫁資合意がドイツの自明の慣習により徹底して維持されるべきで、嫁資
合意から離れることは決して許されないとされている。〔4.この問題の範例。〕
また、同第47番では、嫁資合意は法令に匹敵すると付言されている。そこで引 用された文献に基づき、両者には同一の効力や効果が付与されねばならないと いうのである。この見解は、カスパルス・アントニウス・テサウルス『裁判実 務問題集』判決34の補注でも同様に是認されており、ピエモンテ元老院もこれ に与していると指摘されている。とはいえ、妻が嫁資合意を無視して自らの立 場にとってむしろ有利になるかもしれない都市法を選択することはできないと 私が述べたところを以上の点に押し込めてしまわないように、どの程度におい てこれが妥当するのかを事案を用いて説明することが望ましい。〈7.妻は、
利益を得るならば、嫁資合意よりも都市法や地域の慣習法を優先させることは できない。〉〔5.この問題の範例。〕例えば、富裕な夫が、わずか50の嫁資を 持参するかあるいは全く嫁資を持参しない貧しい妻を娶り、その妻との嫁資合 意において、妻よりも先に夫が亡くなった場合には、妻は夫の財産から100か 200を受け取るだけで、残りは全て子等に留保される旨定めた、とする。この 事案もしくはこれに類する事案では、夫が亡くなると、妻が当該嫁資合意を破 棄したがり、我々の勅法[第1章「夫婦間相続」第1段]に基づいて全財産の 半分を請求することがある。そこで、このようなことを為し得るのかどうか問 題となる。先に述べたところに従えば、そのような婚姻前に為された合意の規 定には絶対に従うべく義務づけられるから、このようなことは許されないこと になる。〈8.妻は、利得の取得についてではなく損害の回避について争って いるならば、嫁資合意から離れて都市法を選ぶことができる。〉〔6.この問題 の範例。〕他方で、例えば、婚約した男女間で、親しい人々や親類の立会いの 下で、婚約時に、どちらか一方が婚姻中に子のないまま亡くなった場合、存命 配偶者はあれやこれを優先的に取得し残りの財産を辺境伯領の勅法に基づき分 割されねばならない旨定められたとする。そのような嫁資合意がきわめて頻繁 に締結されていることは私も知るところである。ところが、夫が妻に先立って 負債を残して亡くなり、存命の妻が、嫁資合意の中で言及されている辺境伯領 の勅法に基づく遺産分割を放棄し、自らの嫁資やそれ以外に夫の下に持参した ものを回復して対処することをむしろ望むという事態が生じた場合、そのよう
なことを為し得るであろうか。この点、私は、嫁資合意にもかかわらず、妻に それが許されていると解する。というのも、この場合、妻は、最初の事案のよ うに利益の取得について争っているのではなく、損害の回避について争ってお り、ここでの妻の立場はより強力と言えるからである【モレルス『ザクセン選 帝侯勅法集注解』第2部第23条注釈第28番】。〈9.人間の取り決めは嫁資の優 遇故に法律の規定を廃しない。〉〔7.嫁資の優遇故に人間の取り決めは法律の 規定を廃しない。〕また、これは、嫁資の優遇故に、人間の取り決めが法律の 規定を廃しないからでもあり、勅法彙纂2巻3章第30法文に依拠してモレルス が前掲『注解』第3部第20条注釈第7番でそう述べている。
以上の学説は全く同じ範囲において我々の事例に適用可能であると私は解す る。なぜなら、ここで妻は、最初の事案のように何らかの法令上の利益を求め ているのではなく、普通法上の利益を、それを享受し自身の利益を追求すべく、
主張しているにすぎないからである。〈10.普通法へと導く規定は修正された 事例でも広く解釈適用されるべきである。〉しかも、我々を普通法の遵守へと 促す規定[第1節の「皇帝法に従って」]は、それが尊重されるのは勿論、修 正された事例においても広く解釈適用されるべきである【クラウェッタ『助言 集』助言174第7番で引用された典拠による】。嫁資合意においては、享受し得 る一定の取得分について主張する側の莫大損害の援用もまた無益であると、フ リデリクス・プルクマヌス氏が『助言集』第2巻助言25第40番で証言している。
〔8.嫁資合意は終意処分の性質に倣う。〕加えて、同第41番及び第42番によ れば、それは、とりわけ、嫁資合意が相続に関する定めの存する点において終 意処分の性質を備えており、勅法彙纂4巻44章「売買の取消について」第2法 文の救済も終意処分には適用が無いからである。〔9.妻は辺境伯の勅法によ り亡き夫の財産の半分を取得するが、嫁資合意中に異なる定めの存する場合は この限りではない。〕更に、氏は同第7番及び第8番において特に次のように 述べている。すなわち、我々の辺境伯領の勅法によれば、妻は亡き夫の財産の 半分を取得できるが、嫁資合意中に別様に定められている場合にはこれは当て はまらず、こちらの定めが遵守されるべきである、と。続く箇所では、これが 普通法に合致するという点が更に詳細に論証されている。我々の嫁資合意の事
案については、『アルトドルフ法助言集』に収録されたマルクァルドゥス・フ レヘルという著者による助言114も注目され、ここで紹介するに相応しい。そ れは以下のようなものである。すなわち、父が、地域の慣行に従い娘が父の相 続を放棄するとの条件で娘に嫁資を与え、更に、娘が婚姻中に子をなさずに亡 くなった場合には、自らが与えた嫁資や、それ以外に娘にその家族からもたら されたものが何かあればそれもまた、彼の息子等に帰属する旨合意された。そ の後、夫も亡くなって、妻は、自らの姉妹等を相続人に指定する一方、父が合 意によって予め配慮していた兄弟等には僅かな遺贈を行った。この場合、ほぼ 同様の性質の問題が三つ生じる。〔10.父は嫁資を与える際に娘が婚姻中に子 をなさずに亡くなった場合に自ら与えた嫁資が息子等に帰属する旨定めること ができるのか。〕一つは、父は嫁資の付与にそのような合意を付することがで きるのか否か、である。この点、同箇所第1番では、父は嫁資を与える際に娘 が子をなさずに亡くなれば嫁資は彼の息子等に帰属する旨定めることは可能で あると断言されている。〔11.当該合意によって兄弟等は権利を取得するのか。〕
第二の問題は、当該合意に基づいて兄弟等は何らかの権利を取得するのか、で ある。同じく第2番の「第二の点については云々」の段にあるとおり、通常は 他人のために要約し諾約しても無効であるが、同第3番は、特別な例外として、
父や母、あるいは、祖父母が、嫁資返還の合意や約束によって彼等の子や孫等 に配慮する場合には、衡平に基づき子や孫等に準訴権が付与されるとしている。
もちろん同第5番の指摘するとおり、この点が妥当するためには、両親等が直 接的かつ明確な文言で子等に対して約束することが必要である。すなわち、夫 婦が子をもうけずに亡くなった場合、財産は彼等の実家に復帰するとのみ合意 され、帰属すべき者について、それが例えば子なのか、孫なのか、男子なのか については明確な言及がない場合には、この種の特約に同じ効力が生じること はなく、この場合、参照すべきなのは無遺言相続の法定の順位であると解され、
夫婦の一方が子もなく無遺言で亡くなった場合には財産は最近親者に帰属する とされる。この点についてペキウス『夫婦間遺言論』第1巻第6章第2番が援 用されており、それはこの点についてより一層詳細に述べているように思われ る。〔12.遺言によって父の合意が廃され、父の財産を兄弟以外の者等に移転
することは可能か。〕最後に第三の問題とは、娘が遺言することによって父の 合意を廃して、父や家族の他の者から受領した財産を兄弟以外の者に移転する ことは可能か、である。この点、同第5番の「第三の点については云々」の段 では、その冒頭に次のように解答されている。すなわち、(つい先ほど述べた とおり)父の合意もしくは約束によって兄弟等が権利を取得するとすれば、彼 等の行為を介さずに彼等から当該権利が姉妹等によって奪われるということは 確かにあり得ないし、学説彙纂50巻17章「古法の諸準則について」第11法文も それを示唆している。更に同箇所では次のようにも付言されている。もし娘が、
嫁資を受領した上に、父の相続も放棄していなかったとしたならば、上記のよ うに法令に定めるのは勿論容易である。また、そのような放棄は、市民法上は 認められていないけれども、カノン法上は許容されており、多くの地域の法令 や、我々の間で最も受容されている慣習によっても是認されている。ところで、
そのような慣習は、とりわけ二つの理由から疑念を生じさせる。それは、第一 に、嫁資が兄弟以外の者の手に渡ることはない旨父が定めてしまうと、そのよ うな父の合意によって、父の財産や遺産から嫁資以外に何も受け取らずまた受 け取ることもできない娘が、遺言する権能を奪われることになるからである。
また、第二に、(今問題となっている)この娘にとって、父から受領した嫁資 が義務分となるからである。〔13.子等に自然法により残されるべき義務分は 完全かつ不可侵でなければならず、遺贈や信託遺贈によって負担が課されるこ とはない。〕よく知られているとおり、子等に自然法により残されるべき義務 分は完全かつ不可侵でなければならず、遺贈や信託遺贈により負担を課すこと はできない【新勅法第18勅法】。これはフレヘルが同助言第6番と第8番にお いて詳細に解明しているとおりである。とはいえ、これらの点にもかかわらず、
フレヘルは、娘は自らの遺言によって父の処分を廃することはできない旨述べ ている。第一の異論に関しては、遺言する自由な権能が優遇されるのは確かだ としても、その権能は決して永続的ではないと述べている。というのも、相互 的な補充指定を通じて[この権能が]親によって制限される場合【勅法彙纂3 巻28章「不倫遺言について」第12法文】が存するからとされる。第二に、娘の 義務分について補充指定したり信託遺贈を設定することは不可能であるという
点も決して永続的ではないとされる。そうではなくて、この点が正しいのは、
父が悪意ある敵対的な気持ちや継母の説得その他これに類する原因から、子等 の内の誰かに不利益を加える場合だけであり、慎重に一定の配慮を以て行った 場合はこの限りではない。というのも、当該義務分は、期限や条件からは自由 でなければならないとしても【勅法彙纂3巻28章第32法文】、良き意図と特別 な判断と思慮の下、父によってそれに期限や条件が設定されることは可能であ るから【同第25法文】。同様の理由から、未成熟補充指定もまた弁護されてい る【同第26法文】。以上に述べたところは全てやはり、フレヘルの同助言第9番、
10番、11番において詳細に論じられている。そして最後に、フレヘルは、同助 言第12番でこの問題について以下のようにはっきり断じている。「ところで、
これらすべての点は、父が娘のために与え、与えるに際して自ら望む規定を定 めることができる上記嫁資【学説彙纂23巻4章「嫁資合意について」第7法文 前書】についてのみ当てはまると私は考えている。他方、他の外来の財産、す なわち、娘の家族で父以外の近親者、あるいは、母、あるいは、夫から、婚姻 前あるいは婚姻後に娘に帰属した財産(これらは父の所有権に属していない【勅 法彙纂6巻61章「家父権に服する卑属に婚姻その他により帰属する財産とその 管理について」全体】)については、父がそのような規定を設けることも、信 託遺贈によってそれらの財産に負担を課することも決してできない。つまり、
これらの財産を、上記近親者や母から、兄弟等に復帰するとの条件の下に受領 するような場合を除いて、娘はこれらの財産について思うままに処分できるの である。そして、勅法彙纂6巻61章第2法文はそのような財産を内来の嫁資や 婚姻故の贈与から明確に区別している」。以上フレヘルによる。この彼の見解 を前記アルトドルフ大学法学部は投票により是認した。〔14.婚姻前契約に対 しては如何なる遺言の作成も無効である。〕また、[ブランデンブルク選帝侯の]
副尚書長官フリデルス・プルクマヌス氏も『助言集』第2巻助言1第465番で、
婚姻前の契約に対して如何なる遺言の作成も無効である旨主張し是認している
【上記引用箇所】。それはとりわけ、そのような遺言によって、他人、例えば、
前婚の子等のために婚姻前契約として締結された契約が取り消され、その他人 等が害されることになるからである【同助言第457番における引用箇所による】。
この点について更に議論をすすめる人は、そのような変更が夫婦双方の同意に よって為された場合にも同様に上記の点を拡張し、子等に不利益な仕方でそれ が作用することはないとする。〔15.嫁資合意の事案。〕しかしながら、マッタ エウス・コレルス『助言集』助言40は次のような事案を紹介している。すなわ ち、三度目の婚姻をした父が一度目と二度目の婚姻による子等並びに新たな花 嫁との間で、自己の財産にかんする将来の相続について嫁資合意を作成し、そ の地域の高級官吏の面前においても時期をみて当該嫁資合意の認証を得たとし ても、その父は、当該嫁資合意にもかかわらず、一度目や二度目の婚姻による 子等に不利益な仕方で遺言を作成することは、相続人指定によってそれらの子 等に義務分が残されている限り、可能であるという点が同助言の問題2として 提示されていて、コレルスは同第7番から第147番にかけてその問題を論じ、
上に述べたとおりに解答している。そして、それらは全てコレルスにより市民 法の規定に則ってそのように裏付けられているが、それは、上記助言が、フラ ンケン公国、とりわけ、普通法が通用し遵守されているヴュルツブルク司教領 のある者のために作成されたからである。この見解についても、上記箇所にコ レルスにより提示された諸論拠に照らし私には不満はない。