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「戸別所得補償法案」の内容と問題点

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Academic year: 2021

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「戸別所得補償法案」の内容と問題点

食料自給率の向上に重点

民主党が国会に「農業者戸別所得補償法案」を提出し、審議が行われている。この法案 は7月の参院選で同党が政権公約に掲げたものである。政府・自民党が実行に移した品目 横断的経営安定対策は、小規模農家の切り捨てであるという批判があった。こうした批判 が、農村部で民主党が躍進した要因であった。

法案の目的は、①食料の国内生産の確保、②農業経営の安定、③食料自給率の向上、④ 地域社会の維持・活性化などの農業の多面的機能の確保である。品目横断対策は食料自給 率の向上との関係が明確でないのに対して、この法案では、食料自給率の向上に重点が置 かれている。

法案のポイントは、一つには原則としてすべての販売農業者を対象としていること、も う一つは交付金を米にも支払うことである。品目横断対策が大規模農家を対象とする選別 政策の性格を持っているのに対して、この法案ではすべての販売農業者を対象としている。

交付方法は、主要農産物ごとの標準的な販売価格と生産費との差額を面積支払いするとい うものである。

こうした内容は、かつての農業政策の中心であった生産者価格を支持する政策が、形を 変えて復活したものであるかのようにみえる。たしかに、交付方法は面積支払いであるが、

その対象となる面積は、当該年度の生産数量を一定の算式で換算することになっている。

参院選での民主党の主張は、米の生産調整を廃止し、大幅な米価下落による所得の減少 を、直接支払いするというもののようにみえた。自民党農政を批判する政策パンフレット にも、日本は欧米よりも、農業所得に占める戸別所得補償の割合が極端に低く、中山間地 域の直接支払い等しか支出していないことが掲載されていた。このため、民主党は直接支 払いを推進しようとしていると私は受け取っていた。

本稿では、「戸別所得補償法案」の問題点を整理し、今後の農政の政策手法のあり方に ついて検討したい。

「戸別所得補償法案」の問題点

「戸別所得補償法案」の問題点として、以下の点を指摘することができる。

第1に、主要農産物の種類ごとに生産数量の目標を設定する際に、米と麦・大豆とでは、

その性格が大きく異なることである。

米については、現行の生産調整制度の下で、生産目標数量の設定がすでにおこなわれて る。これは過剰による価格下落を回避するために、事前に生産を抑制することが目的であ る。この制度では、目標数量を下回ることが目標の達成となる。

これに対して、麦・大豆の目標数量の設定については、法案の最大のポイントである食 料自給率の向上が目的である。詳細は法案の条文だけからは読み取れないが、現在の生産 量以上を目標数量とし、国内生産を拡大するために、生産振興を実施しようとしていると 考えられる。この場合は、目標数量を上回ることが目標の達成ということになる。

このように米と麦・大豆とでは、おなじく目標数量を設定するにしても、目指す方向が まったく逆である。それを同じ制度のなかで実施しようとすることは、たいへん困難であ

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ると考える。

第2に、交付金の額の算定の理念についてである。麦・大豆については、自給率向上の ために生産振興を実施するのであるから、その金額は比較的高めに設定するということに なろう。問題は米に対する交付金の金額である。高めに設定すれば米過剰を加速すること になり、低めに設定すれば、対象品目に米を加えた意味が薄れてしまう。

本来であれば、交付金の水準や、その算定の理念こそが重要であるにもかかわらず、こ の点についての民主党の考え方は明確には伝わってこない。

第3に、市場に対してどのように介入するかについてである。今回の法案では、米生産 調整を継続することとしたので、民主党も米の価格維持を政策目標の一つとしたと考えら れる。選挙の時とは、大きな方針転換である。そうすると、米の需給政策全般にわたる方 針の提示が必要となろう。たとえば、豊作により過剰米が発生した時にどのような対策を とるか、生産目標数量を守らない農家に対してどのように対処するかなどである。また現 行の対策では、麦や大豆については、産地づくり交付金で振興してきた。こうした対策を 維持するのか、廃止するのか、今後議論すべきことはきわめて多い。

各党は政策手法を明確に

政党にとって公約を実現するためには、法案を通すことが何よりも重要である。しかし、

法案という圧縮された文章だけでなく、党の農業政策全般にわたって、国民の前でわかり やすく政策の内容を説明することがより重要であると考える。

民主党の法案では、農業と農村に関するビジョンが必ずしも明確でない。政府・自民党 のビジョンは、経営規模の拡大で農業の再生を考えるものである。たしかにその方向だけ で問題は解決するものではない。小規模農家も含めて集落を守ることや、小規模であって も加工や流通まで取り込んだ多角化経営を行って経営を安定させる方向も必要である。

ただ、現実に政権交代の可能性がある中で、農業政策の安定性も重要である。これまで も農政は大きく変化し、農家はそれに大きく揺さぶられてきた。この上、政権交代があれ ば、さらにまた大きく変化する可能性もある。各政党には、それぞれの政策手法を明確に することを望むとともに、政策の安定を求める声もまた強いことを理解してもらいたい。

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