【目次】 はじめに 第1章 遅延損害金の法的性格 第1節 損害賠償の原因 第2節 債務不履行 第3節 金銭債務の特則 第4節 不法行為 第2章 損害賠償金の所得税法上の取扱い 第1節 非課税所得の根拠 第2節 損害賠償金等の非課税規定
所得税法における遅延損害金の非課税取扱いについて
Some Questions of Treating Delayed Damages as
Non-taxable Income under the Individual Income Tax Law
櫻井 博行* 論 説 要約 損害賠償の原因には不法行為と債務不履行とがある。社会生活の多様化、緊密化等は、他人 の利益を侵害する可能性を拡大させており、不法行為に関する民事上の裁判事例を多く生じる 結果となっている。一方、債務不履行は、日常生活及び経済活動では日常的に発生している。 債務不履行の場合だけでなく、不法行為の場合でも遅延損害金は発生する。そして、その額 が多額になることも珍しくない。受け取った遅延損害金が非課税所得になるか否か、仮に課税 されるとした場合の所得の種類は何か、収入を認識する時点はいつなのかについて納税者に与 える影響も大きい。それにもかかわらず、従来、この遅延損害金について論じられることは少 なかったように思われる。 このような意識のもとで、第1章では、遅延損害金の性格を概観し、法的には損害賠償金で あるものの、経済的には何ら利息と変わらない二面性を有することを確認する。第2章では、 遅延損害金が法的に損害賠償金であることから、まず損害賠償金の課税関係を整理し、その理 由を考察してみる。その結果、人的損害に係る損害賠償金の取扱いは、税法理論とは異なって、 立法政策による非課税規定であることが明らかになる。また、財産的損害の場合は、人的損害 とは別の理由から非課税となる。第3章では、判例を通じて、遅延損害金が法的に損害賠償金 であるにしても、元本債権である損害賠償金とは別個の課税関係を有することを考察する。そ の結果、遅延損害金にも非課税となる場合と課税される場合とが存在する。そして、遅延損害 金が課税される場合には、利子所得ではなく雑所得に分類されることについて言及する。第4 章では、遅延損害金の収入認識時点について、不法行為と債務不履行の場合を検討して一定の 原則を導き出すが、いくつかの留意すべき事項が存在する。 *税理士、当大学院法学研究科博士後期課程ビジネス法務専攻院生。
1. 問題の所在 2. 損害賠償金等を巡る所得税法の構造 3. 所得税法 36 条との関係 4. 損害賠償金の取扱いの変遷 5. 損害賠償金の趣旨を巡る判例 6. 小括 第3章 遅延損害金の非課税性と所得区分 第1節 問題の所在 第2節 判例 第3節 判例の検討 1. 所得となる根拠 2. 裁決の考え方 3. 異なる 2 つの考え方 4. 人的損害に係る遅延損害金 第4節 遅延損害金の所得区分 第5節 小括 第4章 遅延損害金の収入計上時期 第1節 問題の所在 第2節 遅延損害金債務の発生時期 1. 債務不履行の場合 2. 不法行為の場合 第3節 違法な利得 1. 不当利得が現実に入金された場合 2. 入金後不当利得が無効となった場合 3. 違法利得に係る遅延損害金 第4節 損害賠償金等の例外的な取扱い 1. 権利確定主義における条件 2. 課税実務の取扱い 3. 損害賠償金等の帰属時期の判例 4. 損害賠償金の適用の有無 第5節 小括 おわりに
はじめに
所得税法では、損害賠償を民法の債務不履行と不法行為に区別することなく、一定の損 害賠償金等を非課税としている。その根拠条文は、同法 9 条 1 項 17 号及びこれを受けて の所得税法施行令 30 条である。この規定を巡って、しばしば損害賠償金等が非課税とさ れる範囲が問題となってきた。たとえば、マンション建設を承諾する紛争解決金が非課税所得となる損害賠償金等に該当するか否かについての高裁判決1)や建物貸借契約解約に伴 い受領する和解金は非課税となる損害賠償金等が含まれているとは認められず収益の補償 として実質的に所得を得たと同一の結果となるとした地裁判決2)などがある。 このように、受領した損害賠償金は課税されるものと非課税とされるものに分けられ、 課税される場合には、損害賠償金の性質により各種所得が決定される。 そうすると、損害賠償請求につきものである遅延損害金も同様に取り扱われるのであろ うかという疑問が生じる。遅延損害金の法的性質と経済的性質が異なっており、損害賠償 金と異なる取扱いになる可能性が十分考えられるからである。 本稿は、法律上損害賠償金でありながら、経済的には利息と変わらない性質を持つ遅延 損害金に焦点をあてて、課税上の取扱いにどのような影響を与えているのかを検討するも のである。
第1章 遅延損害金の法的性格
第1節 損害賠償の原因 1. 損害賠償 所得税法上の遅延損害金の取扱いを検討するにあたって、法的性格を確認しておきたい。 そのためには、最初に、損害賠償の原因から探っていくことにする。 ある事実を原因として、財産・身体・自由その他法的保護に値すると評価される一切の 利益に対する侵害を生じた場合、その不利益を損害といい、その不利益を償って侵害がな かった状態にまで回復するように請求することができる被害者の権利を損害賠償請求権と いう3)。損害賠償の方法は、ドイツ民法のように原状回復の方法をとる4)ことも可能である が、便宜性を重視し、金銭賠償を原則とする(民法 417 条、同法 722 条①)。 損害賠償の原因には、主として不法行為と債務不履行とがある。社会生活の多様化、緊 密化等は、他人の利益を侵害する可能性を拡大させており、不法行為に関する民事上の裁 判事例を多く生じる結果となっている。一方、債務不履行は、日常生活及び経済活動では 日常的に多発しているはずであるものの、裁判事件にまで至ることは少ない5)。その理由は、 不法行為による損害賠償の方が極めて高額になることだけではなく、両者の法的な違いも 関係していると思われる。 1) 大阪高判昭和 55 年 2 月 29 日・税務訴訟資料 110 号 502 頁。損害を補償する目的で受け取った金員 のうち損害補償部分について非課税と認め実質的に建設承諾対価部分を一時所得とした。 2) 宇都宮地方裁判所平成 17 年 3 月 30 日判決・税務訴訟資料 255 号順号 9980。本件和解金は違約金と して取得した 2 年分賃料とともに全額不動産所得とした税務署長による更正処分は適法とされた。 3) 桜井四朗ほか『四訂 民・商法と税務判断〈債権・債務編〉』(六法出版社、1999 年)244 頁。 4) 小野秀誠『債権総論』(信山社、2013 年)126 頁。 5) 山崎郁夫『民法の基礎知識』(自由国民社、1993 年)95 頁。第 2 節 債務不履行 民法は、債務不履行について、次のように規定している。 契約成立の後、債務者が債務の本旨に従った履行をしないとき、債務者は、債権者に対 して損害を賠償する義務を負う。また、債務者の責めに帰すべき事由によって履行するこ とができなくなったときも、同様とする(民法 415 条)。 損害賠償を請求するためには、不履行について、債務者の責めに帰すべき事由があるこ とが必要であり、立証責任は、債務者にある6)。なお、債務の本旨とは、債務者のなすべ きことであり、何がそれにあたるかは、債務を発生させた原因(普通は契約)の解釈に よって決められる。 この債務不履行による損害賠償金の請求は、損害の発生とその金額の立証に多くの労力 と時間がかかる7)ものの、金銭債務については民法 419 条に規定する特則が設けられ、こ れとは異なる取扱いになっている。この点は次節に述べる。 第3節 金銭債務の特則 ここで、金銭債務の不履行の場合の特則について、まとめてみよう。 第一に、金銭債務の不履行の場合、債権者は、上述の債務不履行とは異なって、損害の 証明をする必要がなく、債務者は不可抗力をもって抗弁とすることが許されない(民法 419 条 2 項・3 項)。たとえば、事故等でやむなく返済ができなくなったとしても、債務不 履行の責任を免れることはできない。 第二に、損害賠償の額が一定のレートによって一律に決定され、そのレートは、原則と して法定利率によるが、約定利率がそれよりも高い場合には、約定利率によることになっ ている(民法 419 条 1 項)。約定によって支払う利息が本来の利息であり、その性質は元 本利用の対価である。これに対して、履行遅滞に陥った債務者は、元本を返すべきことに なり、元本を利用することはもはや許されない。そのために、履行遅滞によって生じた金 銭債務に係る損害の負担額は、実際に生じた損害額にかかわらず、一定の利率によって計 算された金額で、損害賠償金が完結できるよう定められている。なお、遅滞があれば当然 に利息が生じるという考え方は、金銭が常に利益を生み出すとの擬制に立脚している8)。 第三に、金銭債務の不履行についても賠償額の予定がなされる(民法 420 条)。した がって、賠償額の予定として債務者に予定される損害賠償額をあらかじめ取り決めておけ ば、損害の発生及びその損害額を立証する困難性並びに多くの労力及び時間を排除できる ことになる。この場合も、一定の率によって定められるべきものと通常解され、遅延利息 6) この点「いいかえれば、履行を遅滞した債務者は、その責めに帰すべき事由に基づかないことを証 明しない限り、債務不履行の責任を逃れることはできない。」とされている(我妻栄・有泉享・清水 誠・田山輝明『第 2 版追補版 我妻・有泉コンメンタール民法─総則・物権・債権』(日本評論社、 2011 年)755 頁)。 7) 我妻・前掲注 6)770 頁。 8) 小野・前掲注 4)38 頁。
に関する約定(遅延)利率と呼ぶことができる9)。 このように、債務不履行のうち金銭債務については、事前に、その損害額が契約上で確 定されている仕組みが出来上がっていることも裁判にならない大きな理由であろう。 以上述べた損害金のことを慣行的に遅延損害金10)といい、本来の利息である元本利用の 対価と性質を異にしており11)、法的には、履行遅滞という債務不履行による損害賠償金の ことである。 もっとも、遅延損害金が損害賠償金であるとはいえ、遅延損害金は履行期が到来したと きから損害賠償金に対して一定の利率が適用されている。さらに、遅延損害金は貸金業者 に対する制限や利息制限法 4 条の上限が適用されて、利息と同様の規制が及ぶ12)。したがっ て、遅延損害金は、経済的には何ら本来の利息と変わらず、遅延利息とも呼ばれる所以で ある。 第4節 不法行為 一方、不法行為においても、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利 益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任(民法 709 条)を有しており、 損害賠償請求を認められている(民法 709 条)。そして、その損害賠償は、原則として金 銭によってなされる(民法 722 条①)が、例外として名誉棄損における原状回復の場合が あり(民法 723 条)、たとえば、新聞に謝罪広告を出させることができる。 ただし、不法行為から生じる損害は、無限に拡大する可能性があるので、従来の通説は、 相当因果関係があるものに限定されるとしたうえで、これに一定の基準をもつ法的価値判 断を加えて賠償すべき範囲を決定することになる13)。この不法行為の場合、民法 416 条に 賠償されるべき範囲を定めている規定が存在する債務不履行の場合とは異なり、それに類 する明文規定がない。そのため、不法行為についても同条を類推適用する14)というのが学 説・判例の通説である。ただし、民法 416 条を類推適用する説に対しては有力な批判もあ る15)。 9) 我妻・前掲注 6)769 頁。 10) 遅延損害金は、経済的実質において本来の利息とはほとんど同じである(米倉明『プレップ民法 [第 4 版]』(弘文堂、2005 年)115 頁)。その点で租税上の延滞利息と類似点がある。延滞税は、私法 上の債務関係における遅延利息に相当し、納付遅延に対する民事罰の性質をもつ(金子宏『租税法〔第 19 版〕』(弘文堂 2014 年)733 頁)ので、遅延損害金と延滞税とは、法的には異なるが、経済的には 同じ性質をもっている。 11) 米倉・前掲注 10)115 頁。 12) さらに付け加えるならば、抵当権によって担保される債権は、特別の登記をしたときを除き、後順 位抵当権者のような抵当不動産について正当な利益を有する第三者を保護するために満期となった最 後の 2 年分についてのみ担保されると制限されているが、遅延損害金についても同様に規定を設けて 担保される債権の範囲を規定している(民法 375 条 2 項)。 13) 水辺芳郎『債権各論 第 2 版』(三省堂、2006 年)408 頁。 14) 我妻・前掲注 6)749 頁。 15) 瀬川信久「損害賠償の範囲と判断の枠組み」『新・法律学の争点シリーズ 1 民法の争点』(有斐閣、 2007 年)193 頁~ 194 頁。
債務不履行と不法行為とも違法な行為であるものの、基本的な相違点があるので、代表 的な例を挙げ、再確認しておこう16)。 第一に、債務不履行責任が、契約その他の法律関係に基づいて生じる責任であるのに対 して、不法行為責任は、このような法律関係を問題とすることなく、第三者に対して負う べき責任である。 第二に、債務不履行が、債務者自らがその責めに帰することのできない事由に基づくこ とを立証しなければ、その責任を負わなければならない17)のに対して、不法行為は被害者 自身がその立証をしなければならない。 このように、不法行為は、発生した損害の賠償を第一の目的としながらも、被害者が立 証責任をもつことから、加害者との激しいせめぎ合いがあると予想され、そのために紛争 が多発していると思われる。
第2章 損害賠償金の所得税法上の取扱い
そうすると、次に検討すべきは、遅延損害金を含む損害賠償金の法的性格が、所得税法 にどのような影響を与えているかであるが、その前に、損害賠償金の所得税法上の取扱い を検討しておく必要があろう。 第1節 非課税所得の根拠 所得税法は、同法 9 条に非課税所得の規定を設けているが、同法にとどまらず他の各種 法律18)に基づいて非課税としている。さらには、課税実務上、少額の現物給与19)や各種の 経済的利益20)について所得税通達にその対象を拡張させる形で事細かく多岐にわたって規 定している。 今日の租税理論によれば、税負担は各人の担税力に応じて負担すべきであるという租税 公平主義に基づいており、いわゆる所得は担税力の尺度として最も優れているので、富の 再分配や社会保障の充実に最もよく合致する所得税を租税制度の中心に位置づけるべきで あるという意見は圧倒的に多い21)。「所得」が担税力の標識として最重要であるとすると、 種々の非課税所得を課税対象からあえて除外する点で、それなりに相当な理由が無ければ 16) 我妻・前掲注 6)749 頁には、債務不履行と不法行為と相違点を 6 点挙げている。 17) 最判昭和 34 年 9 月 17 日・民集 13 巻 1412 頁。 18) たとえば、租税特別措置法 40 条の 3 に規定する物納による譲渡所得非課税や介護保険法 26 条に規 定する介護保険の保険給付金など、多岐にわたっている。またフリンジベネフィットに関する所得税 通達などにより税務執行上追求しないことになっている。 19) 所得税基本通達 28 関係。 20) たとえば、使用者が負担する各種レクリエーション費用(所得税基本通達 36-30)は、個人の利益 の帰属ないし程度が不明確など。 21) 金子・前掲注 10)82 頁など。また、金子宏『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣、2010 年) 105 頁にも同様な記述がある。ならないことになる。たとえば、受領した遺族年金など22)は社会生活上の配慮であろうし、 相続、遺贈、個人から受け取った贈与により取得するもの23)は二重課税の排除24)である25)。 そうすると、受け取った損害賠償金が非課税となる理由について解明される必要がある。 第2節 損害賠償金等の非課税規定 1. 問題の所在 所得税法 9 条 1 項 17 号は一定の損害賠償金等を非課税としているが、前章で検討した とおり、遅延損害金が法的に損害賠償金であることからすると、受取った遅延損害金の所 得税法上の取扱いは、非課税所得となる可能性があると考えられる。したがって、最初に、 損害賠償金の課税関係を明らかにしなければならない。 通常の場合、損害賠償金等は金銭をもって取得することは前述した26)。所得は収入とし て流入される経済的価値であると定義するのが一般的であり27)各国の租税制度の基本的考 え方でもある。それゆえ、法人税法の取扱い28)と同様29)に受け取った損害賠償金等は当然 に所得となるはずである。それにも拘わらず、所得税法は、所得税法 9 条 1 項 17 号の規 定を設け、受取った損害賠償金等を非課税としている。 この非課税とする根拠について、2 種類の有力な説がある。すなわち、損害賠償金の非 課税規定の趣旨については、損害賠償金は損害を補填する性格のものであって「所得」を 発生させないと理解30)するものと、被害者保護の立法政策によるものであるという見解が 22) 所得税法 9 条 1 項 3 号。 23) 所得税法 9 条 1 項 16 号。 24) 最判平成 22 年 7 月 6 日・判時 2079 号 20 頁は、所得税法 9 条 1 項 16 号の趣旨を「相続税又は贈与 税の課税対象となる経済的価値に対する相続税又は贈与税との二重課税を排除したものであると解さ れる。」とした。なお、通説とは異なり、所得税法 9 条 1 項 16 号は「あくまでも政策的な非課税規定 であって、論理的・必然的観点から当然に非課税とすべきという趣旨に出たものではないのである。」 と主張もある(酒井克彦『所得税法の論点研究─裁判例・学説・実務の総合的検討─』(財経詳報社、 2011 年)20 頁)。 25) 通説は、担税力を考慮して非課税としているというのに対して、「そこから具体的な解釈や立法論 を引き出すことはできない」として異なる見解もある(岡本ほか『ベーシック税法〔第 5 版〕』(有斐 閣、2010 年)97 頁)。 26) 民法 417 条。その理由は「加害者が多額の費用を必要とするために加害者の負担が過酷になること、 また、貨幣経済・資本主義経済のもとでは、金銭によって損害を測定することが可能であり、かつ、 便宜であるなどの理由から、金銭賠償主義が採用された。」(水辺・前掲注 13)405 頁)。なお、別段の 定めとして民法 723 条がある。 27) 金子・前掲注 10)178 頁。 28) 現行法人税法は、損害賠償金について別段の定めをおいていない。法人税法 22 条 4 項の規定によ り一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことになる。ただし、損害賠償金の特殊性を考 慮し、法人税基本通達上、若干の特例を認めている。この点は、第 4 章第 4 節において検討する。 29) 法人税法上、当該賠償金等は、法人税法 22 条に規定する益金を当然に構成するものと理解されて いる。 30) 金子・前掲注 10)182 頁。
ある31)。 2. 損害賠償金を巡る所得税法の構造 一方、所得税法 9 条 17 号は、債務不履行責任と不法行為責任とを分類することなく、 非課税の範囲を人的損害と物的損害とを区別し、損害保険金及び損害保険金で心身に加え られた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものを例示 している32)。ただし、所得税法 9 条の最後には「その他の政令で定める」と規定している ことから、この条文は一定の要件を満たす損害賠償金等が非課税となることを例示してい るにすぎず、具体的な保険金又は損害賠償金等の範囲は政令に委ねている。すなわち、所 得税法施行令 30 条 1 号は、損害保険契約又は生命保険金契約に基づく保険金等で、身体 の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝 料その他の損害賠償金、2 号は、損害保険契約に基づく保険金等で資産の損害に基因して 支払を受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき 支払を受ける損害賠償金、3 号は、心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相 当の見舞金を、それぞれ非課税としている。 3. 所得税法 36 条との関係 収入金額に対する所得税法の態度は、人の担税力を増加させる利得はすべて所得を構成 するという包括所得概念に基づき、課税範囲を広く含めている。その点を端的に表してい るのが所得税法 36 条であり、同条は、別段の定めがあるものを除き、各種所得の金額の 計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入す べき金額であることを明らかにし、現物の受取だけではなく経済的利益を含めている。さ らに所得税法施行令 94 条において、棚卸資産、技術に関する権利、著作権につき損失を 受けたことによる損害賠償金等(1 号)及び休業補償等の収益補償の性質を有するもの33) (2 号)で、所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、事業所得等の収入金額に なることを明らかにして、これらの収入金額の範囲を広くとらえるよう要求している。 この所得税法 36 条において示された収入金額の範囲を広くとらえる考え方は、所得税 法 9 条 17 号にどのように反映されているのであろうか。人的損害に係る損害賠償金等に ついて規定している同法施行令 30 条 1 号が非課税の適用となる範囲にその損害に基因し て勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は利益の補償として受取 31) 宮崎綾望「ビジネス・リスクと税制」租税法研究 41 号(有斐閣、2013 年)38 頁。この点さらに 「前者の立場によれば、不法行為責任によるものであるか契約責任によるものであるかにかかわらず、 損害を補填する部分は非課税とすべきことになる。他方、後者の立場からは、契約者責任に基づき取 得した賠償金についてまで非課税規定を適用すべきか否かについて、ただちに答えを引き出すことは できない。」とも述べる。 32) 名古屋高判平成 22 年 6 月 24 日判決・税務訴訟資料 260 号順号 11460。 33) 京都地判昭和 49 年 3 月 22 日判決。税務訴訟資料 74 号 868 頁。
るものを含めるのに対して、物的損害に係る損害賠償金等について規定した 2 号は、事業 所得等の収入金額に代わる性質を有する収益補償金等34)をその対象から除き課税の対象と している点が注目される35)。また、3 号の見舞金についても、2 号と同様に所得税法施行令 94 条や役務の対価たる性質を有するものを除外している。 このように、1 号は、明らかにすべての利得を所得としようとする所得税法 36 条の原則、 もっと極端にいえば、我が国の所得課税の基本となる包括所得概念と異なった取扱いに なっているのである。 4. 損害賠償金の取扱いの変遷 この点について、損害賠償金等の取扱いの変遷を確認することで明らかになってくる。 戦前の所得税は、所得について制限的に構成されおり「営業ノ事業ニ属セサル一時ノ所 得」ないし「営業ヲ目的トスル継続的行為ヨリ生ジタルニ非ザル一時ノ所得」を一貫して 課税対象から除外してきた。そうすると、損害賠償金は始めから所得課税の対象外であっ て、原資の回復が課税対象となる虞れはまずなかったものといってよいだろう36)。 昭和 22 年の所得税法の全文改正により一時所得が創設されたと同時に、旧所得税法 6 条 5 号において障害保険契約又は損害保険契約に基づき支払を受けた保険金、損害賠償に 因り取得したもの、慰藉料その他これらの類するものが非課税とされた。 昭和 36 年 12 月の政府税制調査会答申では、人的損害の補償について「人的損害により 受ける補償金等は、精神的損害に対する慰しゃ料、肉体的損害に対する医療費等のみなら ず、現在給与所得者が業務上の災害に基づいて受ける休業補償費等を非課税とする考え方 を拡張して、人的損害に基因して失われた利益の補償である限り、たとえそれが事業所得 又はこれに準ずるものの収入金額の補償であっても、非課税とすることが一般の常識にも 合致し、適当であると認めた。37)」と述べている。また、物的損害の補償について「不法 行為その他突発事故による損失はまさしく災害による損失であり、そのような損失の補償 と、契約、収用等の場合のように当事者の合意に基づくか、あるいは強制的な要素あるに しても社会的に合意が要請されている場合の損失の補償とは、事情が異なるし、また、補 償の対象が収益を目的としない生活用資産であると、なんらかの形の収益をあげることを 目的として保有されるそれ以外の資産とでは、その取扱いを異にして考えるのが適当であ る。」とされた。 この答申を受けて、昭和 37 年税制改正で現在の所得税法 9 条 1 項 17 号と同じ条文が規 34) 所得税法施行令 94 条 1 項。 35) 「存在したはずの事業収入等の回復(補償)に対しては本来行われるはずであった所得課税を行な うという趣旨のものとして理解しうる。」(黒川功「増加した所得税額への損害賠償金の非課税所得該 当性─『税の山びこ現象』と税法の体系的・整合的解釈の必要性─」北野弘久先生追悼論集刊行委員 会編『納税者権利論の課題』(勁草書房 2012 年)435 頁。 36) 黒川・前掲注 35)436 頁。 37) 政府税制調査会「税制調査会答申及びその審議の内容と経過の説明」50 頁。
定され、整備が図られ、現在にいたるという歴史がある。 さらに、現行の課税実務に目を向けると、傷害のみならず、疾病等による高度障害保険 金等についても、非課税の枠を広げるように解釈している(所得税法基本通達 9-21)。ま た、所得補償保険金も施行令 30 条 1 号に掲げる身体の傷害に基因して支払いを受けるも のとして非課税の適用をうけることになっている(同通達 9-22)。 このように、戦後、包括所得概念が導入され、課税所得の概念が拡がって新たな所得金 額が誕生したと同時に、制限的所得概念では隠れていた損害賠償金等の非課税所得性の取 扱いは、人的損害と物的損害とに区別38)して非課税の判断をすることになった。すなわち、 人的損害については非課税とすることが国民感情に合致する39)という点で政策的配慮がな され、一方、物的損害については損害の回復であって所得ではない40)という理由でその範 囲を拡大していったといえる。 5. 損害賠償金の趣旨を巡る裁判例等 前述の昭和 36 年の政府税制調査会答申の考え方は、裁判の中で、度々反映されている。 この所得税法 9 条 1 項 17 号に関する裁判例等は、損害賠償金の名目で受取った金員が、 同号に規定する損害賠償金等に該当するか否かに関するものが多い。ここで、2 つの裁判 例を挙げることにする。 ① 大阪地裁昭和 54 年 5 月 31 日判決・行集 30 巻 5 号 1077 頁41) マンション建設反対に伴って受け取った補償金の非課税所得性について、「…損害賠償 金、見舞金、及びこれらに類するものを非課税としたわけは、これらの金員が受領者の心 身、財産に受けた損害を補填する性格のものであって、原則的には受領者である納税者に 利益をもたらさないからである。そうすると、ここにいう損害賠償金、見舞金及びこれら に類するものとは、損害を生じさせる原因行為が不法行為の成立に必要な故意過失の要件 を厳密に充たすものである必要はないが、納税者に損害が生じ、または生じることが確実 に見込まれ、かつその補填のために支払われるものに限られると解するのが相当である。 …受領のあった金額の全額が非課税になると主張しているが、この主張は、本来法律に よって一義的に定められなければならない非課税の範囲を、支払者と受領者の合意によっ 38) 「損害賠償金の非課税性を考える場合、人的損害と物的損害を分けて考えている立法例が多い。た とえば日米欧9か国の税制を研究したある研究は、損害賠償金を偶発的利益 (windfall gains) の1つと 位置づけたうえで、次の傾向を明らかにしている。一般的に、分類所得税のもとでは、課税資産や課 税資産に関連する範囲で損害賠償金が課税される。資産損害の賠償金は、受取額の範囲で課税される。 人的損害の賠償金は、遺失利益や獲得能力を基礎にして損害が算定されている場合においても非課税 とする38」増井良啓「隣人訴訟」佐藤英明編著『租税法演習ノート[補正版]』(弘文堂、2006 年)80 頁。 39) 「人的損害に対する補償金等を広く非課税としているのは、いわば人情の機微を考慮した措置とい えよう。」植松守雄『五訂版 注解 所得税法』(大蔵財務協会、2011 年)463 頁。 40) 金子・前掲注 10)181 頁。さらに増井教授は「損害の回復だから課税されないと説明さるのが通常 である。」とされる(増井・前掲注 38)80 頁)。 41) 前掲注 1)の第一審である。
て変更することを認めるものであって到底採用することができない。」として、受領した 損害賠償金等の名目で受け取った金員の性格を判断したうえで、そのうち損害を補償する 部分の金額だけ非課税所得とし、マンション建設の承諾の対価相当額を課税対象として認 定した42)。 ② 東京地裁平成 15 年 1 月 29 日判決・判例時報 1836 号 82 頁 土地の売買契約に際して譲渡所得課税の軽減措置を受けるために特約していた買主の協 力義務が履行されなかったことを原因とする損害賠償金の一部が課税所得に当たるとした 判例43)もある。「…損害賠償金が非課税とされる理由は、損害賠償が他人の被った損害を 補填し、損害のないのと同じ状態にしようとすることにあって、その間に所得の観念を入 れることが酷であることによるものと解される。すなわち、損害賠償金の名目で支払われ たとしても、そのすべてが非課税所得になるわけではない。本来所得となるべきもの、又 は、得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、喪失した所得(利益)が 補填されるという意味においてその実質は所得(利益)を得たと同一の結果に帰着すると 考えられ、このような場合は、名目上、損害賠償金であっても、非課税所得にはならない。 …」と判示された。 6. 小括 以上の検討を踏まえて、所得税法 9 条 1 項 17 号を簡潔に述べるならば、次の通りに要 約されるであろう。 同条同号は、損害賠償金等を民法上の債務不履行と不法行為とのいずれに起因するかに よって区別することなく、非課税の範囲を物的損害と人的損害に分けて規定している。物 的損害について支払いを受ける損害賠償金等は、棚卸資産等に対するものを除き損害の回 復は所得ではないという考え方に基づいて非課税所得としているのに対して、人的損害に より受ける補償金等は、非課税の範囲をかなり広げ、所得税法 36 条の例外として精神的 損害に対する慰謝料、身体的損害に対する医療費、給与所得者が業務上の災害に基づいて 受ける休業補償金等や喪失利益補償まで含めている。その理由は、一般の常識、つまり国 民感情を考慮した政策的措置であるといえる。 42) 私見であるが、この判決における補償金等が非課税となる理由に関しては、疑問を持っている。補 償金等は金銭を伴う損害賠償金であり、まず、その金銭の入金は所得と認識したうえで、所得税法 9 条に該当するかを判断するように所得税の法文上規定されているはずである。すなわち、人的損害は 課税するのが酷である場合に限って、また、物的損害については損害の回復部分についてのみ、非課 税の適用を受けるのであって、補償金等が損害を補填する性格を有していることのみをもって、所得 税の課税対象外となると規定されているわけではないからである。しかしながら、補償金等の性格を 理由に、この判決と同様に「損害の賠償であって利益をもたらさない」と説明されることも多い。た とえば「…以上のことから、心身に対する損害に対する賠償金はそれを受け取ることによって、確か に資産は増加するかもしれないが、それは損害の賠償であって利益をもたらすものではないため、課 税対象ではないということができる。」とするのがその例である(奥谷健/中村芳昭・三木義一編著 『演習ノート 租税法』(法学書院、2007 年)57 頁)。 43) 東京地裁平成 15 年 1 月 29 日判決・判例時報 1836 号 82 頁。
このように、損害賠償金等のうち、人的損害は、立法政策によって非課税となり、物的 損害は、損害を補填する性格を有するので非課税所得となる。両者は、非課税の理由が大 きく異なるのである。
第3章 遅延損害金の非課税性と所得区分
第1節 問題の所在 前章において、非課税所得となる損害賠償金は、民法上の債務不履行及び不法行為とに 区分されることなく、人的損害については身体の傷害に基因して支払を受けるもの及び心 身に加えられた損害につき支払をうけるもの、物的損害については資産の損害に基因して 支払をうけるもの及び突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受けるもの に限定されている。そうすると、法的には損害賠償金そのものであるが経済的には利息と 何ら変わらない性質を有する遅延損害金は、元本債権である損害賠償金等が非課税となっ た場合には、同様に非課税所得とならなければならないのであろうか。また、仮に非課税 所得性に該当しない場合には、いかなる所得区分となるかについて、いくつかの遅延損害 金に関する判例を通して検討してみよう。 第2節 裁判例等 ① 神戸地裁平成 25 年 12 月 13 日判決44):有価証券報告書の虚偽記載による損害賠償金・ 遅延損害金の非課税該当性に関する事例 有価証券報告書の虚偽記載の公表により、保有していた株式が暴落し損害を被ったため、 その会社及び取締役から損害賠償金・遅延損害金及び和解金の各支払いを受けたところ、 処分行政庁が原告らに対して損害賠償金は一時所得、遅延損害金は雑所得に当たるとして 更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことから、原告が各処分の取消しを求 めた事例である。 主な争点は次の通りである。 ア本件損害賠償金が所得税施行令 30 条に規定する非課税所得に該当するのか、それとも 同施行令柱書及び同施行令 2 号括弧書きに該当し、非課税所得から除外され課税対象と なるのか。 イ本件遅延損害金が非課税所得に該当するか。 上記アについて、裁判所は、「本件損害賠償金は、虚偽記載という違法行為がなかった としたならば得られたであろう収益を補填するものではなく、虚偽記載の公表によって失 われた価値、すなわち資産に加えられた損失を回復させるものであるから、収入金額に代 わる性質を有するもの(所得令 94 条 1 項柱書き)とはいえない。」とし、非課税所得に該 44) 判例時報 2224 号 31 頁。当するとした。また、イの遅延損害金については、「元金の性質いかんにかかわらず元金 の使用によって得られたであろう利益の喪失を補填するものであるから、不法行為その他 突発的な事故による資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金とはいえない。」 とし、雑所得の収入金額とした45)。 ② 福岡高裁平成 22 年 10 月 12 日判決46):商品先物取引に係る和解金の非課税所得該当性 に関する事例 原告と訴外会社との間で成立した訴訟上の和解に基づき支払われた和解金のうち、必要 経費を控除した残額について、雑所得に当たるとして更正処分及び過少申告加算税賦課決 定がなされたことについて、処分の取消しを求めた事例である。 本件和解金は、不法行為に基づく損害賠償請求及び遅延損害金請求を容認した別判決を 前提として、訴訟上の和解により発生したものであるから、その実質は、不法行為に基づ く損害賠償金及び遅延損害金であるところ、本件先物取引における不法行為は突発的な事 故に類するものであり、損害賠償金は先物取引の売買差損等により原告の生活用資産であ る金銭等の資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金であり、収益補償ではな いと認められるから非課税所得に該当する。 一方、本件和解金のうち遅延損害金は、不法行為その他突発的な事故により資産に加え られた損害に基因して取得した損害賠償金ではなく、履行遅滞による損害賠償金であって、 元金の使用による得べかりし利益の喪失、すなわち元金使用の対価としての性質を有する ものであるから、所得税法 9 条 1 項 16 号47)及び法施行令 30 条 2 号の規定する非課税所得 には該当せず雑所得となるとした48)。 ③ 平成 22 年 4 月 22 日裁決49):請求人に支払われた弁護士費用賠償金に係る遅延損害金 は、元勤務先の不法行為によって、請求人が支出を余儀なくされる弁護士費用という 財産的損害を補填するための賠償金であるから、非課税所得であるとした事例 審査請求人は、損害賠償請求事件の判決によって元勤務先の不法行為と相当因果関係の ある損害と認められた賃金相当額及び弁護士費用賠償金並びにそれらに係る遅延損害金を 45) この判決に対して反対する意見として、「遅延損害金も不法行為に起因した損害であり、支払が遅 延したことによって生じた損害を補てんするものであることに変わりはありません。また、民法 419 条 1 項が金銭債務の種類について制限していないとはいえ、もともと課税される他の金銭債務の利息 と、非課税の損害賠償金の遅延損害金を同一に考えて課税することにも無理があります。」望月爾「有 価証券報告書の虚偽記載による株価暴落に対する損害賠償金等への課税」税務 QA147 号(税務研究会、 2014 年 6 月)53 頁。 46) 税務訴訟資料 260 号順号 11530。 47) 現在の 17 号。 48) 商品先物取引に関する同様な判例として、受領した和解金が非課税所得たる損害賠償金に該当する とした事例として前掲注 32)の名古屋高裁判決がある。本件は、損害賠償金の額のうちに損害を受け た者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場 合には、当該金額を非課税所得となる金額から控除しなければ、当該金額につき非課税所得と必要経 費の控除という二重の控除を認めることとなってしまうため、これを防ぐことにあるものと解される と判示した。 49) 裁決例集 79 集 135 頁。
獲得した。課税庁は、この判決によって支払いを受けた金員のうち、賃金相当額及び弁護 士費用賠償金に係る各遅延損害金について、賃金相当額は非課税所得に該当せず、遅延損 害金は雑所得に該当する更正処分を行ったことに対して審査請求した。 審判所は次のように判断した。請求人は、その支払を受けたことにより、担税力を増加 させる経済的利益を得たといえる。本件損害賠償金及びその遅延損害金は請求人の労務の 対価として支給されるべきものあったので、非課税所得には該当せず、請求人の所得を構 成する。また、本件損害賠償金にかかる遅延損害金は雑所得となる。一方、請求人は、元 勤務先の不法行為により弁護士に訴訟の提起とその追求を委任することを余儀なくされた ことによって、当該訴訟に係る弁護士費用の支払いをすることが認められる。そうすると、 弁護士費用賠償金及び弁護士費用賠償金に係る遅延損害金は、元勤務先の不法行為によっ て、請求人が支出を余儀なくされる弁護士費用という財産的損害を補填するための賠償金 であるから、非課税所得であるとした。 ④ 最判昭和 58 年 3 月 25 日判決50):生命保険金の遅延利息は雑所得となるとした判例 「生命保険契約の保険金等が納税者の一時所得となる場合、右保険金等の支払遅延利息 として受取った金員は、納税者の雑所得となる筋合いである。」として、非課税所得を否 定した。 ⑤ 最判昭和 53 年 6 月 23 日判決51):損害賠償金名義の紛争解決金は一時所得に、遅延損 害金は雑所得に当たるとした判例 原告は訴外 A から受領した金員について、大阪府知事の違法な本件土地の買収処分に 基因して X が被った損害を賠償するために支払われた損害賠償金である旨を主張するが、 右金員は訴外 A が土地に関する紛争を終息させ、自己の土地所有権を早期に確実なもの とするために原告に対して支払うことにした和解契約に基づく紛争解決金たる性質を有す るものと認められ、したがって右金員は所得税法 9 条(非課税所得)1 項 21 号52)の損害 賠償金には該当しないものと言わざるをえず、右のような紛争解決金たる金員は一時所得 に係る総収入金額であり、遅延損害金は雑所得に該当するものというべきであるとした。 第3節 判例等の検討 これらの判例等を検討してみよう。 1. 所得となる根拠 ③の裁決を除き、遅延損害金は、雑所得になると判示している。そして、④及び⑤の判 例は、紛争解決金又は生命保険金が「一時所得」に該当する場合、それに伴って発生する 遅延損害金は、雑所得とした。ただし、その理由は述べられていない。 一方、最近の裁判例(①及び②)は、遅延損害金の基となる損害賠償金が「非課税所 50) 税務訴訟資料 129 号 774 頁。 51) 税務訴訟資料 101 号 578 頁。 52) 現 17 号。
得」となる場合であっても、遅延損害金は、これとは別に、雑所得になることを明らかに している。 前章で述べたように遅延損害金は、別名、遅延利息と呼ばれ、履行遅滞によって生じた 損害額を賠償額の予定として一定の利率によって算出した額で完結できるように定められ ているものと理解されている。金利と同様な計算を法令上も要求され、経済的には金利の 性質を有しているので、損害賠償金本体の算出方法とは、当然に、異なってくる。 その点、上述②の福岡高裁平成 22 年 10 月 12 日判決は、遅延損害金を明白に元金使用 の対価としての性質を有するもの、つまり金利であると断定し、所得税法 9 条 1 項 17 号 及び法施行令 30 条 2 号の規定する非課税所得には該当せず、雑所得になるとした。 このように、遅延損害金が元金の使用によって得べかりし利益の補填=元金の使用の対 価としての経済的性質を有すことをその所得区分の根拠としており、遅延損害金の基とな る損害賠償金等が非課税になるか、それとも所得の対象となるかとは、全く無関係である とした。もっとも、これらの裁判例は、損害賠償金が資産に加えられた損害に基因して取 得した遅延損害金であって、人的損害に基づく補償金的性格を有するものではない点に注 意が必要である。この点は、この節の最後に考察する。 非課税所得の判断を損害賠償金等と遅延損害金とに区別してするということは、所得税 法上、必ずしも元本債権たる損害賠償金と遅延損害金とを一体として捉えるのではなく、 別種類の損害賠償金として取り扱っていることを意味する。遅延損害金は、元本債権に附 帯するというのが実務上の一般的な考え方53)であるが、これと異なって、両者は、異なる 課税上の性質を持つ損害賠償金であるといえる。 ただし、この点について、詐害行為後に生じる遅延損害金が保全される債権額54)に加算 されるか否かの最高裁の判例55)が存在する。遅延損害金債権とは元本債権の当然の拡張で あり、遅延損害金が詐害行為のため元本の弁済を受けられなかったことから生じたもので 元本と一体をなすものであるから、債権者取消権によって保全される債権の額が加算され るべきであるとして損害賠償金・遅延損害金の一体論を支持している。しかしながら、こ の最高裁判決のいう一体とは、詐害行為取消権の被保全債権元本債権の存在がなければ遅 延損害金が生じることはないという意味で一体と表現したのであって、元本債権と遅延損 害債権とが別個のものであることを否定したものではない56)と考えられる。 53) たとえば、岡正晶「非課税所得となる損害賠償金の範囲」税務事例研究 Vol.5(日本税務研究セン ター、1989 年)41 頁。 54) 詐害行為取消権によって債権者が債務者の行為を取り消すには、その行為の前に被保全債権が成立 していることを要する。最判昭和 33 年 2 月 21 日・民集 12 巻 2 号 341 頁。 55) 最判平成元年 4 月 13 日金融法務事情 1228 号 34 頁。遅延損害金が詐害行為取消権の被保全債権額 に加算されるとする見解と否定する見解がある。戦前の判例は否定していたが、最判昭和 35 年 4 月 26 日・民集 14 巻 6 号 1046 頁に加算説を採用し、それ以降、判例は加算説をとっている(小野・前掲 注 4)224 頁)。 56) 小野・前掲注 4)224 頁を参照。
2. 裁決の考え方 一方、上記③の裁決は、弁護士費用賠償金が不法行為を認めらせるために支払われた費 用に係る賠償金57)であることを理由に、この弁護士費用に係る遅延損害金は財産的損害を 補填するための賠償金であると認定し、非課税所得としている。この非課税の根拠が遅延 損害金の性質からの判断ではなく、弁護士費用賠償金が非課税であることを理由に、その 弁護士費用賠償金に係る遅延損害金も非課税とする一体論で判断している。 また、この裁決は、財産的損害の補填の範囲を広く認定した点に特徴があり、その判断 基準は “ 支出を余儀なくされる ” というところにあると思われる。つまり、人的損害の考 え方を財産的損害にも拡充したものと推測される。 3. 異なる 2 つの考え方 所得税法 9 条 1 項 17 号の非課税規定の趣旨をどのように理解するかによって、損害賠 償金の非課税性の判断は異なる。たとえば、前述の宮崎綾望氏は、租税法学会で次のよう に述べた。「17 号の非課税規定の趣旨は損害を補填する性格であるから『所得』を発生さ せないと理解する考え方では『不法行為であろうが債務不履行であろうが損害を補填する 部分は非課税とすべきである。』他方、被害者保護の立法政策によるものであるという見 解の場合『契約者責任に基づき取得した賠償金についてまで非課税規定を適用すべきか否 かについて、ただちに答えを引き出すことはできない』と不法行為の場合と同様に債務不 履行により取得した賠償金について曖昧である考え方もある。58)」とした。 その意味で、遅延損害金を雑所得とした福岡高裁平成 22 年 10 月 12 日判決と、支出を 余儀なくされる弁護士費用賠償金に係る遅延損害金を非課税所得とした平成 22 年 4 月 22 日裁決とは、非課税規定の趣旨の捉え方が異なるものとして理解される。 非課税所得の趣旨が物的損害に対する補填とする考え方に基づけば、資産に加えられた 損害について損害が回復するまでが非課税であって、損害額を超過する損害賠償金等まで 非課税とする理由はない59)。この福岡高裁判決は、商品先物取引において担当営業者及び その会社の不法行為によって生じた物的(財産的)損害について補償したのである。仮に 物的損害以上の補償金等を受け取るとすれば、これは、政令 30 条 2 項の括弧書きである 事業所得等の収入金額とされる保険金等に該当し、所得税法 36 条及び所得税法施行令 94 条により業務の遂行により生ずべき収入金額に代わる性質を有するものとして事業所得又 は雑所得の収入金額となるべきである。 57) この点、水辺氏は「わが国では弁護士強制主義を採っていないので、弁護士費用を損害賠償請求し うるかが問題となる。判例は訴訟そのものが不法行為である場合は、被害者として弁護士費用を損害 として請求しうるとし、さらに訴訟の専門家・技術化その他実態を踏まえて、相当と認められる範囲 で弁護士費用を損害として請求を認めている(最判昭和 44 年 2 月 27 日・民集 23 巻 2 号 441 頁)。」と する(水辺・前掲注 13)412 頁)。 58) 宮崎・前掲注 31)38 頁。 59) 金子・前掲注 10)182 頁。
4. 人的損害に係る遅延損害金 以上、引用したこれらの判例等は、財産的損害に係る遅延損害金の非課税所得の判断で あって、人的損害に係るものではない。人的損害にかかる遅延損害金については、どのよ うに考えればよいのであろうか。 前章で明らかにしたとおり、受領した損害賠償金は、税法の理論を超えて被害者救済に 対する国民感情に配慮した取扱いになっており、非課税枠を広くとらえる構造を有してい る。課税実務上は、その対象範囲をさらに拡大させている。したがって、人的損害に係る 遅延損害金は、非課税所得とすることが、損害賠償金の非課税の範囲について拡大するこ とを容認する国民感情に合致するであろう。 第 4 節 遅延損害金の所得区分 前述の遅延損害金に関する判例によれば、遅延損害金は利子所得ではなく、雑所得に区 分されるとした。この理由を考察しなければならない。 利子所得の範囲は、所得税法 23 条 1 項において、預貯金の利子、公社債の利子、合同 運用信託の収益の分配、公社債投資信託の収益の分配、公募公社債等運用投資信託の収益 の分配の 5 種に限定列挙されている。 このうち、合同運用信託の収益の分配、公社債投資信託の収益の分配、公募公社債等運 用投資信託の収益の分配は、法律的には利子の概念に含まれない60)が、経済的に預貯金利 子等と性質が類似するとして、利子所得に含まれている。 その反面、法律的・経済的にも利子である貸付金の利子等は、社会通念上、利子に含ま れるはずであるが、所得区分において、利子所得から除外されている。また、公社債の償 還差益は、その経済的実質は預貯金利子と類似しているものの、雑所得に分類されている。 さらに、金融類似商品の収益さえも利子所得から除かれている61)。 このように、これらを概観しても利子所得のメルクマールを明確にすることは困難であ る62)が、一般的には次のように説明されている。 第一に源泉徴収との関係である。わが国の利子課税は、明治 32 年の改正で公社債の利 60) 金子教授は東京高判昭和 39 年 12 月 9 日行裁例集 15 巻 12 号 2307 頁を引用したうえで「預貯金の 利子であるが、その性質は、金融機関等が不特定多数の者から消費寄託契約(民 666 条)に基づいて 受け入れた資金に対して支払う利子であって、定期に定率で多数の者に同じ条件で支払われる点に特 色がある。」とされる(金子・前掲注 10)198 頁)。 61) 昭和 62 年度の税制改正で、一律 20.315%(所得税等 15.315%、地方税 5%)税率による源泉分離課 税が適用され、源泉徴収だけで課税関係が終了することになっている。具体的には、 ①定期積金の給 付補てん金 ②銀行法第 2 条第 4 項の契約に基づく給付補てん金 ③一定の契約により支払われる抵 当証券の利息 ④貴金属などの売戻し条件付売買の利益 ⑤外貨建預貯金で、その元本と利子をあら かじめ定められた利率により円又は他の外貨に換算して支払うこととされている換算差益 ⑥一時払 養老保険や一時払損害保険などの差益(保険や共済の期間が 5 年以下のもの、又は保険や共済の期間 が 5 年を超えていてもその期間の初日から 5 年以内に解約したものの差益に限る。)としている。 62) 水野忠恒『所得税の制度と理論─「租税法と私法」論の再検討─』(有斐閣、2006 年)131 頁。
子について初めての源泉徴収制度が導入されて以来、常に源泉徴収制度と一体をなすもの として発展してきた歴史があり63)、源泉徴収によって課税関係が完結するものを利子所得 としている。ただし、金融類似商品は、利子所得に含まれないにもかかわらず、租税特別 措置法によって、源泉徴収されてきた歴史があるので、一概にそうとはいえない。 第二に、この源泉徴収と裏腹の関係であるが、必要経費を観念する必要のないものを利 子所得として選定している。たとえば、貸付金の利子が利子所得から除かれる理由は、貸 金等の回収費用など必要経費が生じるからである64)。 そうすると、遅延損害金が利子所得ではなく雑所得に属する理由は、利子所得の範囲が 極めて限定されており、経済的に何ら利子と異ならないもであっても、すべてバスケット カテゴリーである雑所得として課税の対象とすべきであるからにほかならない。また、源 泉徴収制度にもなじまない。 第5節 小括 前章で明らかにしたとおり、所得税法 9 条 1 項 17 号に規定する損害賠償金等の非課税 となる根拠は、人的損害については、非課税とすることが国民感情に合致するとし、物的 損害については、損害の回復であって所得ではないという理由からである。実定法上は収 益補償等の取扱いに大きな差が生じているし、また、昭和 36 年の政府税制調査会答申に 議論した歴史が残っている。ここで重要な点は、両者の非課税となる根拠が異なっている ことである。 遅延損害金についてもこの考え方は当てはまる。人的損害に係る遅延損害金は、法的性 質が損害賠償金であるものの、税法の理論を超えて国民感情に配慮している結果、非課税 所得になるのに対して、物的損害に係る遅延損害金は、法的性質からではなく元本利用の 対価たる利子と同様の経済的性質に着目したことによって、雑所得として課税されること が明らかになった。
第4章 遅延損害金の収入計上時期
第1節 問題の所在 ここまでの遅延損害金に関する議論では、遅延損害金の非課税性とその所得区分につい て言及してきた。人的損害に係る損害賠償金等が非課税所得となる場合には、そこに生じ る遅延損害金も同様に非課税となるのに対して、物的損害に係る損害賠償金等が非課税所 得になったとしても、その遅延損害金は、雑所得として課税の対象となることが明らかに なった。 63) 植松・前掲注 39)263 頁。 64) 植松・前掲注 39)263 頁。次に検討すべき事項は、遅延損害金が課税される場合、いつの時点からその収入を認識 すべきであるかということである。 遅延損害金を含む損害賠償金の収入に計上すべき時期について考察する場合、通常、債 権者側から検討するのであるが、収入の計上時期が後述するような損害賠償の性質に基づ く例外的取り扱いの可能性を秘めているため、債権者側ではなく、むしろ債務者側からの アプローチの方が、十分にその目的を達成できると思われる。 損害賠償請求権は、債権者又は被害者において発生するが、それは同時に債務者にも損 害賠償債務として認識される。債務不履行責任は、当事者の間で、主に契約に基づく債 権・債務の関係がある場合において、債務者が債権者に対して損害を賠償する責任のこ と65)であり、また、不法行為の場合には、不法行為が成立することによって、加害者とし ての不法行為に基づく損害賠償債務が発生するのである。 そこで、最初に、損害賠償金債務の発生時期を民法の債務不履行の場合と不法行為の場 合から、それぞれ検討してみることにする。ただし、人的損害に係る遅延損害金は、前章 で述べたとおり、非課税所得となるので、ここでの議論から除く必要がある。 第 2 節 遅延損害金債務の発生時期 1. 債務不履行の場合 伝統的に債務不履行には、履行遅滞66)と履行不能67)、さらに不完全履行68)の態様がある とされている。金銭債務の不履行は、不能とはならず常に履行遅滞になるから69)、遅延損 害金についても、履行遅滞に係る債務の発生について述べれば足りる。 民法 412 条は、履行期と履行遅滞の生ずる時期について次の 3 種類を規定しているので、 債務者は、債務の期限に関する条件に従い、それぞれの時期から遅滞の責任を負うもので ある。まず、確定期限70)がある場合には、その期限が到来した時(同条 1 項)、次に、不 確定期限71)がある場合には、その期限の到来したことを知った時(同条 2 項)、最後に、 期限の定めのない場合には、履行の請求を受けた時(同条 3 項)とする。債務不履行によ る損害賠償請求債務は、いずれに該当するかというと、3 項の「期限の定めのない」債務 として成立する。よって、債務不履行による場合、催告によって遅滞となる。 65) 我妻・前掲注 6)745 頁。 66) 履行遅滞は、履行が可能にもかかわらず、債務者が履行期を徒過して債務を履行しないことをいう (民法 415 条前段)。 67) 履行不能とは、正当な理由がないのに債務の本旨に従った給付をしない場合をいう(民法 415 条後 段)。 68) 履行があっても、不完全な給付をする形態である(小野・前掲注 4)107 頁)。 69) 小野・前掲注 4)38 頁。さらに「経済的変革が生じない限り、履行はつねに可能であり、履行不能 ということもない。遅行遅滞があるだけである。」とされる(我妻・前掲注 6)703 頁、767 頁)。 70) いつ到来するかがはっきりしている期限である。たとえば、平成 27 年 4 月 30 日。 71) 到来することは確実であるが、いつ到来するかがはっきりしない期限である。たとえば「A が死亡 したら払う。」
しかしながら、遅延損害金は、別途、明文規定(民法 419 条 1 項)を設けて、損害の証 明を不要とした。そのことによって、この損害賠償である遅延損害金の計算は、催告の有 無とは無関係に、履行期が到来した時から起算される。したがって、収入として計上する 時期は、履行期到来の時からとなる。 2. 不法行為の場合 上述のように、債務不履行の遅延損害金は、履行期の到来によって計算されていくので あるが、不法行為についても同じように適用されるのかが、次の検討すべき事項である。 不法行為による損害賠償債務も「期限の定めがない」ので、民法では催告時から遅滞と なる(民法 412 条 3 項)はずである。しかしながら、判例72)は、不法行為の損害賠償金請 求権は、催告がなくても不法行為成立とともに遅滞となるとしている。これは、加害者の 責任負担と不法行為の被害者の保護のためであると同時に、違法な状況はただちに除去さ れる必要があるからである73)。したがって、不法行為による損害賠償金に係る遅延損害金 の収入として認識する時期は、不法行為があった時期からとなる74)。 このように、債務不履行による遅延損害金が、履行期の到来によって収入として認識さ れていくのに対して、不法行為によって生じる遅延損害金は、不法行為成立と同時に収入 として認識されていく。このことは、認識時期に差が生じると同時に、収入金額にも影響 を及ぼす。 第3節 違法な利得 原則として、遅延損害金に係る収入認識の時期が、かような時期になるにしても、経済 的側面は利息にほかならないという遅延損害金の特異な性質を考えるならば、違法な利息 (所得)について考察しておかなければならないだろう。なぜならば、第1章第3節にお いて記述したように、利息制限法 4 条は、この遅延損害金をも、その対象としているから である75)。 1. 不当利得が現実に入金された場合 違法な利得である利息制限法上の超過利息に関して、昭和 46 年 11 月 9 日の最高裁判 決76)は、未収部分は課税対象とならないものの、債権者に超過利息・損害金が現実として 72) 最判昭和 37 年 9 月 4 日・民集 16 巻 1834 頁。 73) 小野・前掲注 4)110 頁参照。 74) 最判平成 21 年 9 月 4 日・裁判所時報 1491 号 2 頁。は、利息制限法を超える利息支払を継続したこ とにより過払金が発生した場合でも、その過払金が発生した時点から遅延損害金が発生するとした。 つまり、不法行為による時点から債務不履行が発生して、収入は生じる。 75) 利息制限法 4 条第 1 項は「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、そ の賠償額の元本に対する割合が第 1 条に規定する率の 1.46 倍を超えるときは、その超過額について、 無効とする。」としている。 76) 最判昭和 46 年 11 月 9 日・民集 25 巻 8 号 1120 頁。
収受された場合には、全額、貸主の所得として課税対象とすべきと判示した。課税実務上 も従来の「収入金額とは、収入すべき金額をいい、収入すべき金額とは、収入する権利の 確定した金額をいうものとする。」としていた旧所得税基本通達 194 を昭和 45 年に所得税 法基本通達 36-1 に改編している。その新通達は「法 36 条 1 項に規定する「収入金額とす べき金額」又は「総収入金額に算入すべき金額」は、その者が行った行為が適法であるか を問わない」とし、権利確定主義の直接的表現を削除したまま、今日に至っている。 法律的にみれば、違法な利得は、当初から返還義務を負っているものであるから、もと もと所得を観念することはできないはずである。ましてや、違法の利得を更正処分により、 課税対象とすることには、ことさら無理がある。 しかしながら、納税者が自ら違法利得(遅延損害金を含む。以下この節において同じ。) について未収計上し、その時点で収入として認識するとしたならば、あえて所得から除外 する必要はないだろう。また、違法性の認識の有無とは無関係に、違法利得が実際に入金 されることもあるだろうし、その場合、入金額を担税力のある所得として収入金額に計上 することは、包括所得概念の理に適っている。 したがって、不法利得に係る遅延損害金について、納税者自ら未収計上したものは、そ の計上を認めることになる。 2. 入金後不当利得が無効となった場合 むしろ問題は、この不当利得を未収の状態のときにあえて収入金額に計上したが、後日 この収入が無効となった場合である。 この点について最高裁77)は、課税処分により雑所得として計上した遅延損害金が後日の 訴訟上の和解により貸倒れとなった場合、不当利得返還請求権が認められると判示した。 この判決を受けて、所得税法 64 条 1 項において回収不能が生じた場合には、回収不能に 係る部分の所得はなかったものとみなすとした所得税法改正78)を行ったほか、同法 152 条 で更正の請求の特例を設けて後発的更正の請求79)を可能として対応し、この問題は、とり あえず、解決されたとされている80)。 3. 違法利得に係る遅延損害金 77) 最判昭和 49 年 3 月 8 日・民集 28 巻 2 号 186 頁 78) 同法同項括弧書きにより、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に係る所得はこの適 用から除外されており、これらは、その回収不能時に、その所得の金額の計算上必要経費に算入され ることになっている。所得税法 51 条 2 項。 79) あくまで個人的な見解であるが、所得税法 63 条又は 64 条に規定するその他これに準ずる政令で定 める事実が生じたことにより、国税通則法 23 条の理由が生じたときに、当該事実が生じた日の翌日か ら 2 か月以内に限り税務署長に対して更正の請求をすることができるとしているが、納税者側からす ると、更正の請求期間が延長されたにもかかわらず、この場合の請求できる期間が短すぎるのではな いだろうか。 80) 加藤雅信「過誤納金の還付請求権」租税判例百選[第 5 版](有斐閣、2011 年)180 頁~ 181 頁。