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雑誌名 東西南北

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アジアにおける高齢者の人権論の視点 : フィリピ ンの人口動態を通して見る (公開シンポジウム 越 境する少子・高齢化 : 子どもと高齢者をめぐる日 本とアジアの新しい潮流)

著者 パトリアルカ エリアス

雑誌名 東西南北

巻 2013

ページ 71‑74

発行年 2013‑03‑19

URL http://id.nii.ac.jp/1073/00001971/

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今日のテーマである少子化や高齢化というのは、い まではどこの国にでも生じている普遍的な問題だと思 います。もちろん、アジアだけでなく、世界共通の課 題だと思います。

こうした世界規模で少子高齢化が進行していること から、小峰教授のお話にもあったように、人口に関し て考える時は「若い人口(子供)」と「労働力人口」、

そして「高齢者」という 3 つのカテゴリに分けること が多くなりました。世界中の人がこの分類を意識する ようになったと思います。

もちろん、人口問題である出生率低下や高齢化の問題をめぐってはさまざまな 考え方やアプローチがあります。そこで、今日ここでは最も根本的な視点として、

人権から考えたいと思います。高齢者の人権といった観点からお話を進めていき ます。

まずは、いくつかの大事なポイントとなる話題を提供し、その後で本筋の話に 入っていきたいと思います。

さて、世界銀行は、今世紀中に高齢者の存在感が世界中で急速に増していくだ ろうと予測しています。その急激な高齢者の増加の中心はアジアだとされます。

近い将来、人口動態の大きな変化がアジアで発生していくというのです。私も、

21世紀の前半中にもアジアの国々が日本と同様に高齢化していくだろうと考えて います。

アジアの高齢者の増加スピードは、先ほどの小峰教授とアグイラ准教授の指摘 にあったように、OECD諸国の歴史的経験よりもはるかに速いものです。事実、

いくつかのアジアの国では驚くほどの速さで進行しています。

ただし、アジア地域でも各国比較をするならば、その進行速度は国ごとに異な るし、年齢構成の構造も国によって異なっています。この点からも、アジアの高 公開シンポジウム:越境する少子・高齢化

アジアにおける高齢者の人権論の視点

フィリピンの人口動態を通して見る

エリアス・パトリアルカ

フィリピン・ラサール大学教授

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齢化現象については予測し難い部分があります。つまり、少子高齢化のスピード に各国でバラツキがありますし、何よりも統計データに表れない側面や要因が多 くて、本当に計り知れません。たとえば、アジア各国の人口の年齢構造の変化が、

それぞれの社会的背景や多様な文化や民族、宗教の影響もあって一律ではありま せん。そこで、福祉制度一つ取り上げてみても、その整備をどのように進めてい くべきなのかは、すべての国に共通のロードマップを作るといったことは現実的 ではありません。

もう一つの大事な点は、いま、アジア各国で人々の生き方や考え方も大きく変 わりつつあることです。私たちは、人口に占める年齢構成が変わると、社会が影 響を受けるといった具合に、一方向で考えているわけですが、実は、人々のライ フスタイルの変化が少子高齢化を促し、それが再び、世間一般の「常識」とされ るもの、例えば、結婚の適齢年齢や持つべき子供の数などへ影響を与えるという、

双方向性の動きが見られるのです。こうした、「年齢構成の変化」と「人々の変 化」の相互作用は、家族や学校、職場まですべての社会的な枠組みに影響を与え ていきます。

社会的に大きな影響を与え得る、年齢構成の変化と人々の暮らしの変容が一緒 に、しかも相互作用を持って発生する現代のアジア各国では、その対策を考える 際には、個々人の「生活の質」(Quality of Life)をいかに向上させるのかといった 視点が大切です。ですから、少子高齢化が進む21世紀のアジア各国の福祉政策は、

単なる対処策や弥縫策だけではなく、何よりも人々の生活の質を向上させるとい う明確な目的を持った、健康増進策や、はたまた、生きる喜びや楽しさを支える 施策といった観点を重視すべきでしょう。

発展途上国の中でも、とくにアジアの小国の大半はそうですけれども、福祉政 策の中心は児童保健、あるいは母子保健に置かれています。中高年や高齢者の健 康維持や管理、医療、介護といったものは、まだまだあまり考えられていません。

そして、多くのアジアの国々では、こうした健康管理などを含む福祉サービスが さまざまな異なった組織によって行われています。国内で統一された仕組みもで きていないのが現状です。もちろん、国が運営する福祉サービスもあるのですが、

大概はサービスに一貫性がなく、ばらばらに提供されています。実質的には一般 家庭の努力に依存している部分が少なくありません。これは大きな問題です。

また、社会保険についても、アジアの多くの国は国民皆年金制度を持っていま せん。日本のようにすべての国民が年金を受け取れるといった仕組みは持ってい ないのです。アジアの多くの国では、年金を受け取れるのは人口のごく一部のみ です。年金受給の資格もさまざまな条件がつけられています。当然ながら、年金 にはかなりの国家予算が使われているわけですけれども、国民の大半はその恩恵 を受けることがありません。

大きな問題として指摘しておきたいのですが、アジア諸国では一部の国を除き、

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働く人々の約 8 割は年金の受給資格を持たないといわれます。その理由は、多く の労働者がいわゆるインフォーマル部門で働いているからです。つまり、非常に 零細な店の経営者や行商、辻商人だとか、日雇い労働者であるとか、とにかくさ まざまな小さな仕事で暮らしている人たちは年金制度から除外されているわけで す。

これは世界銀行の数字ですが、発展途上国の平均ではインフォーマル部門で働 く人が、全雇用者の半分から 4 分の 3 ぐらいを占めています。発展途上国の雇用 は、インフォーマル部門が圧倒的ということですね。アジアの発展途上国でみて も農業を除く雇用の45%から85%がインフォーマル部門なのです。

すでにご紹介したように、名目上はアジア諸国のほとんどで例外なく社会福祉 や社会保険制度が導入されています。けれども、その成熟度合いは日本に比べて 相当遅れています。基本的なところが足りないことは言うに及ばず、中高年や高 齢者が抱いている心理的な不安や、あるいは将来的なニーズが無視されがちであ るということもあります。

ここからはいままでの話をまとめて、人権問題につなげていきます。

唐突に聞こえるかもしれませんが、普段の暮らしの中で起こっていながら見過 ごされがちな問題として、高齢者に対する虐待の問題があります。人権問題の大 きな課題の一つです。

高齢者への虐待には、いくつかの種類があります。まず見られるのは「放って おくこと」です。すなわち、高齢者に対する「無視」ですね。高齢者の存在とそ のニーズを分かっていながら積極的に無視することです。また、悪意を持って、

精神的、心理的な虐待をすることも見られます。あるいは、さまざまな形で高齢 者から搾取することもあります。さらには、肉体的な虐待という非常に露骨な形 での虐待もあります。こうしたことを放置することは深刻な人権侵害と言えるで しょう。

私とアグイラ准教授はフィリピン・ネグロス島のバコロド市からやって来たの ですが、以前にバコロド市で高齢者の虐待に関する調査をおこないました。高齢 者グループに直接面談をして、かなり突っ込んだ話も聞き取りました。細かいイ ンタビューをおこないました。その結果から分かったのですが、積極的な悪意が 込められた虐待を受けた経験を持つ高齢者が想定していた以上に多かったです。

調査対象となった高齢者の実に86%が「存在やニーズを無視されるといった問題 がある」と回答しています。

調査対象となった高齢者の中には体の一部の機能が衰えたり、障害を持ったり した人たちがいました。耳が聞こえなくなったりとか、目が見えなかったりとか、

肢体不自由になったりとか、さまざまな障害を持っていました。すなわち、高齢 者の総数が増える中で、身体的にも社会的弱者となった人たちへの虐待行為は私 たちが気付かないうちに拡がっていたのです。

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そのほかに、高齢者の人権に関わるさまざまな課題が存在しています。その一 つは住民の強制的な立ち退きの問題です。貧困地域の住民が強制的に移住を強い られることは日常茶飯事です。当然こうした地域にも高齢者は住んでいます。貧 困世帯の高齢者が立ち退きさせられる場合は、二重三重に困難を伴うはずです。

本来はより手厚い保護の対象となるはずですが、そんなことは一顧だにされませ ん。また、伝染病の蔓延や自然災害の発生、地域紛争などで国内の難民が発生し た場合にも同様のことが起こりえます。

当然、高齢者も他の年齢層の人々と全く同じように人として安寧に生きる権利 を持っています。衣食住を満たす適切な生活水準を維持できるような暮らしは公 的に保障されなくてはいけません。高齢者が高齢であるという理由でもって、あ るいは体の機能が衰えたことを理由にして非人間的な扱いを受けるようなことが あってはなりません。「無視」をはじめとする虐待や差別のない暮らしを高齢者 に保障する諸制度が大切です。平等主義に基づく、貧困高齢者に対する差別のな い暮らしや(高齢者の)社会参加による生きがいの創出といったことは、基本的 人権なのです。

幅広い意味での基本的な人権は、もちろん高齢者にも保障されて然るべきもの と最後に強調して、本日の話の締めくくりとします。

ご静聴ありがとうございました。

[Elias P. Patriarca, J r.]

参照

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