奈良教育大学学術リポジトリNEAR
「自然」に対する幼児の理解
著者 今井 靖親
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 8
ページ 109‑118
発行年 1972‑03‑15
その他のタイトル A Study on Comprehension of Nature in the Preschool Children.
URL http://hdl.handle.net/10105/6253
r自然」に対する幼児の理解*
今 井 靖 親**
(心理学教室)
幼児は動植物をはじめ,自分の身辺に起きる自然現蓼に新鮮な興味・関心をもち,独特のとらえ方 でこれらの対象を理解している。彼らに自然を豊かに経験させ,科学する心の芽を育てるためには,
まず幼児の自然に対する見方・感じ方・考え方などの発達的特徴を把握し,それを指導面に生かして いくことがたいせつである。本研究では,幼稚園のr自然」の領域で比較的多くとワあげられる事物 に対して,幼児がどの程度理解しているかを調査し,その実態にもとづいて若干の考察を加えた。
方 法
(1)調査の対象 ①東京都,千葉県,神奈川県の市街地にある幼稚園に在園する幼児112名(4 歳児男女各16名 計32名,5歳児男女各23名 計46名,6歳児男女各17名 論4名)②岐阜県下の農 村地域にある2つの保育園に在園する幼児88名(5歳児男子21名 女子32名 計53名,6歳児男子14 名 女子21名 計35名)合計200名。
(2)調査の方法 文部省編 幼稚園教育指導書(自然編)にもとづいて,次に示すように,「自 然」の領域を4つに分け,それぞれ10項目を選定して定義法による解答を求めた。
①動物 うさぎ,ねずみ,いぬ,ばいきん,おに,めだか,さる,ぼうふら,らいおん,く しら
②植物 ダリア,稲,ごめ,チューリップ,さつまいも,森,麦,松,菊,バナナ ③気象・天体 雨,雲,夕立,月,電気,流れ星,風,天の川,雪だるま,雷
④乗物・機械・道具 三輪車,ピアノ,テレビ,磁石,時計,ロケット,ラジオ,人工衛星,
はさみ,自動車
質問は,園の保育者か児童学専攻の学生がおこなった。すなわち「これから私といっし■こお話し ましエうね。私がいろいろ聞きますから,よく聞いていて,私の言ったことばのわけを答えてくださ い。『うさぎ』とは何ですか。」というふうに問い,その答を調査用紙に記入した。
(3)調査の期間 昭和36年9〜10月
(4)整理の方法 幼児の解答を下に示すようなカテゴリーに分類し,年齢(都市の4〜6歳児),
* A Study on Comprehensi on of Nature in the Preschoo1Chi1dren.
**Yasuchika Ima i(Depar tment of Psycho1ogy,Nara Univers i ty of Education Nara)
,
一109一
地域(都市と農村の5.6歳児)による傾向を検討した。なお,このカテゴリーは,四宮(1971)が,
言語的思考における抽象作用の発達的研究で用いた整理・分類の方法にならったものである。
以下,各カテゴリーについて簡単に説明し,それぞれ実際の分類を掲げてお㍍
①概念的把握 与えられた項目について,事物の本質的な要素をとらえているものrうさぎ」…
「動物」,「三輸車」……「子どもの乗るもの」など
②前概念的把握 よワ上位の概念内容に必要な要素ないしは条件,およびそれに関連したことから に着目しているもの。
a.機能 「いぬ」…… 「わんわんほえる」,「雨」・…・・「空から降ってくる」など b.用途 「テレビ」……「見る」,「ごめ」……「食べられる」など
C.発生・形成 「稲」……「たんぽに生える」,「さつまいも」……「根から出る」など d.構造 「おに」……「つのがある」, 「松」……「葉っぱがある」など
e.材料 「雪だる幻……「雪でできている」など f.成分 「雨」……「放射能がはいっている」など
③知覚的把握 前概念的把握に比して,非本質的,皮相的,直観的,感覚的な面の着目にとどま ○ているもの
a.形 「月」……「丸い」,「めだか」……「小さい」など b.色 「バナナ」……「黄色い」, 「ピアノ」……「黒い」など
C.場所 「らいおん」一・・「動物園にいる」,「雲」……「空にある」など d.感覚 rさつまいも」・・…・rおいしい」, 「雷」……rこわい」など
④その他 誤答ではないが,前記のどの分類にも入れられないもの 「ねずみ」……「ちゅうちゅう」, 「時計」……「かちかち」など
⑤誤 答 認識の誤謬,不合理など
「天の川」…… 「空の池」, 「くじら」・・…・□llにいる」など
⑥無 答 わからない,答えないなど,解答の与えられていないもの
なお,1つの項目に対する解答で,2つ以上のカテゴリーに分類可能な場合には,それぞれのカテ ゴリーに分類した。
結 果 と 考 察
紙数の関係で全部を掲載できなかったが,表1〜表4に,領域および各項目に対する解答をカテゴ リー別にパーセントで示した。また,表5,表6には,各項日について1O%以上の数値のえられた解 答を具体的にかかげた。以下,本調査の結果について述べ,それにもとづいて若干の考察を加えるこ
とにする。
供 胴舳洲 † 川肝宮川 ■ 類字は%
カァコ
梶[ 概念 前 概 念 知 覚 その他誤答無㈱答 機能 用途 発生形成む造 成分 材料 形 色 場所感覚
動物 4 5 64 56 4 5 6 4 5
64
5 64 5 64 5 645
64 5 64 5 64 5 64 5 64 5 64 56ワさぎ
ヒずみ
30 90 1850
U50 57幽 R732
oO oo 00 Oo OO
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413
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O0
00
00
O0
00 OO 1633
P617 2625 R519
43 Q6
383 P89
02
30
P53
OO 019
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935
93
P50
20
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P16
い ぬ 3 2 1569 5238 Ou 6 0 O 03 11
30
000
0 O07
243 42116 006
0 02837150 O03
43曲・きん o 4 316幽15 0 o O o O
OO
OOO
000
0 O37 93
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2 31313 9拠個 183 9 1231 2232お に 3 7
39
1715 0 0 0 o 0 031 39四〇 o00
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181613246 o 04420 613薦246 200 96
めだか 615 2 19 151ε O O O 3 O
OO
ooo
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o o 1917213 9 02526296 73n
15 619 763
1115さ る o 2 966齪,50 0 0 0 O o
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13 150 oOO
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153 4 63115 3221112162090
236
133くじら 1311 1538 35ψ o 1 1 O 0
OO
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ooo
O 02524260 7 93128153 433
706
009
13平均 3 6 103633㎝ o 1 1 一 一12 8 6一 一 ■ 一 . 912188121615 9 911 5 31821 114 3 3131816
表1領域別・カテゴリー別・年齢別解答傾向(都市)
表2 領域別・カテゴリー別・地域別解答傾向(5・6歳児)
数字ほ%
則 概 念
知 覚 その他 誤答カテゴリー
A物 域
概念 無㈲答
機能 用途 発生・臓 権造 成分 材料 形 色 場所 感覚
都 農 都 農 都 農一 都 震 都 農 都 農 都 農 都 農 都 長 都 裏 都 裏 都 農 都 換 都 農
ダ リ ヤ 44 19 3 3 O o 1 o 3 o o o o O 0 1 6 5 1 1 3 1 1 2 1 3 他 61
稲ア め
911 57 OO 20 16
V0
563 08 16 81 1O
n
oo oO 00 Oo 05 oO 06 02 51 15
T
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O 11 P0
20 W
30 81 53
S 38
V
チューリリプ 個 49 1o 20 0 2 1 5 3 1 o o o O 1 O 41 17 1 2 5 o 6 6 0 0 6 11
さつまいも 20 1l O O 28 48 9 7 1 o o o o O 4 1 9 1 3 5 3・ O 26 16 O 1 18 8
森 9 3 0 O O O o o O o o o o o O O o O 3 o o 0 55 23 6 5 30 68
麦松 415 314 oo 02 53 30
R
33 31 119 02 oo oo 00 00 08 12 13 00 51 81 06 03 815 919 16
W 10
O 31 R3
36 T1 菊 50 41 5 9 1 o 1 6 4 1 o O o o 3 o
M
1 1 3 0 3 11 1o 3 o 20 刎ハ ナ ナ 29 15 O o 25 52 9 1o 4 o o o O o 13 2 価 7 4 8 10 1 9 7 o 2 4 5 平 均 鴉 17 2 4 18 20 3 3 4 1 一 ■ 一 一 3 1 工3 3 3 5 3 1 15 12 4 3 25 31
表3 領域別・カテゴリー別・男女別解答傾向(都市・農村・4〜6歳)
数字は%
則 概 念
知 覚 その他カテゴリー
@ 性気象・天体
概念 誤答 無榊答
機能 用途 曇生・ 構造 成分 材料 形 色 場所 感覚
男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女
雨 4 5 ψ む o o 1o 4 o o 1 o 0 o o 2 1 o O 4 4 拠 33 2 6 7 4
裏 3 1 15 12 0 0 1 2 0 o o 0 0 o 2 1 16 21 21 黎 o 0 拠 別 7 1O 12 13
夕 立
13 9 26 M o 0 0 o 0 o o o o o o o o O 0 o 2 4 47 ㎎ 3 8 14 18月 4 6 蝸 鵯 o o o 0 o 0 o O O O 16 19 10 8 1 6 2 2 n 17 2 8 10 3
登 気
4 6 38 51 ω η 1 0 0 O 0 o O o o 2 2 0 1 8 O o 8 6 o 2 8 8流れ星風 83 43 4715 1l oo oO oo 0O o0 oo oo Oo OO oo oo O0 0o oo o1 4o 14o 91 %14 姐9 103 1o3 14 601o
天の川 7 3 0 1 0 o 0 0 2 4 o O 0 O 1 O 0 O 7 6 0 1 13 6 19 21 56 58
雪だるま
9 6 1 2 O o 銅 36 1 3 o o 3 O 1 3 4 6 1 O 3 6 38 釧 1 3 4 5雷 o 3 31 25 o o 4 2 5 1 o O O O o o o o 3 6 6 1o 31 別 20 18 7 8
平 均 6 4 26 23 4 3 6 4 1 1 一 I 一 一 2 3 4 4 4 6 3 4 騰 25 7 9 18 20 i111一
μ 数字は%
目1j 概 念
知 覚
その他 誤答 無㈱答 カテゴリー謨ィrn域 道具 概念 機能 用途 発生・ 構造 成分 材料 形 色 場所 感覚
都 農 都 農 都 農 都 農 都 農 都 長 都 農 都 農 都 慶 都 農 都 農 都 長 都 農 都 最
三輪 車
s ア ノ29 Q4
30 P6
18 70 26 R6
41 T1
Oo OO 21
P
20 oO 00 oo OO 06 OO 40 Oo 14 oO OO 00 20
P3 T
11 Q
63 39 34 916
一ア レ ヒ 25 20 43 8 28 ㎎ o o 4 2 O o 0 o 3 o O O 1 O 4 o 5 1 1 4 2
磁 石
9 1O 70 47 4 5 o o 0 0 o o o o 1 O 5 o 1 1 oo oO 3 5 O 21 34時 計
3 7 40 20 脳 40 1 O 5 O O ・O O O 3 O 1 O 0 o η 1 o 4 5ロケッ ト 1o 8 58 56 11 8 o o 5 OO Oo 00 oO O−O 00 OO 1 o o 0 15
P5
79 10 22 12⊥4 18一 ■4
ラ ジ オ 28 9 26 26 30 伽 ol oO 3 ■1 o o 0
人工衛星
13 2 34 36 5 6 4 0 O o o O 13 1 1 o 4 O O O 10 8 O o 別 45は さ み 羽 ユ4 3 8 靱 68 o O O o O o 0 O O O 4 0 O o 0 o 6 3 0 2 4 1 自 動 車 25 20 44 42 鴉 % 1 O 3 O o o o o O O O 0 1 O O o 15 8 0 2 1 1
平 均 19 I4 36 25 % 35 . I 5 一 一 ■ 一 ■ 3 一 2 1 2 一 1 一 12 8 2 2 8 14 表4 領域別・カテゴリー別・地域別解答傾向(5・6歳)
表5 各項目について1O%を越えた解答(地域別)
一動検一
繊 都 市 農 村
項目 籍 答 カテゴリー 比率(%〕 解 答 カテゴリー 比率ω
は ね る 農 能 23.2 と ぶ 機 能 35.2
ぴ二んぴょんはねる〕 (ぴょんぴょんとぷ〕
耳が長い 形 23.2 一 無 答 17.O
う さき (色が.体が白い〕白 い 色 21.4 (色が.体が白い〕白 い 色 14.7
と ぷ 機 能 16.O
(ぴ^んぴ1んとぶ〕
目が赤い 色 12.5
ち口うち唄う鳴く 機 能 11.6 ち順コち距つ その他 11.3
ねずみ
(ち旧うち旧ラいう〕 か じ る 機 能 ll.3ち岨rち岨う その他 1L6 (何か戸を.1こんじんをかじる〕
ほ え る 機 能 24.1 わんわん その他 28.4
い ぬ (わんわんほえる〕 ほ え る 機 能 19.3
わんわん その他 1?.8 (わんわんほえるj
な く 識 能 13.3 ^ 無 答 1O,2
ばいきん 一 無 答 2?.6 一 桑 答 38.6
きたたい 感 覚 11.6
つのが生えている 構 造 30.3 ⊥一 無 答 42.o
お に (頭に,2つの,赤いつのが生えている つのが生えている 構 造 12.5
こ わ い 感 覚 21.4 (つのがある〕
赤 い 色 13.3
泳 ぐ 携 能 14.2 川にいる 場 所 23.8
(川の中で,池で,水の中で泳ぐ〕
めだか
小 さ い 形 1一.2 泳 ぐ一 機 能無 容 18.110.2川にいる 場 所 12.5 (川の中で、池で泳ぐ〕
木に登る 機 能 17.8 木に登る 機 22.7
さ る (木登ワできる〕おしりが赤い 色 14.2 動物園にいる(木登り寸る〕 場 所 14.7
き oき}oとなく 機 能 12.5 ユ 無 答 1O.2
ぽつふb 皿 無 答 79.4 一 』 篠 答 9ミ1.1
うおうってなく 機 能 16.9 ■ 集 答 28.4
らいおん こ わ い 感 覚 14.2 劇物園にいる 場 所 20.4
う お う その他 10.2
海1こいる 場 所 20.5 潅にいる 場 所 28.4
く しら (海の中にすんでいる〕大 き い 形 18.7 大 き いo 篠 答形 28.411.3
川1こいる 誤 答 1I.3
表6 各項目について1O%を越えた解答(地域別)
一気象・天俸一
也寂 都 市
農 村
項目 解 答 カテゴリー 比率.㈲ 籍 答 カテゴリー 比率ω 降 る 機 能 38.3 降 る 識 能 47.7
(空から降る) (空から降る〕
雨 (ざあ一つと降る〕 (いうばい降る〕
水(水のこと〕 その他 14.2
白 い 色 17.8 ■ 無答 20.4
雲 空1こある 場 所 I3.3 空にある 場 所 14.7
(空にいる〕 (天にある〕
空 場 所 13.6
■ 集 答 22.3 ごろごろ その他 18.1
タ 立
雨が降る 機 能 16.O ぴかづと光る その他 11.3(雨が降。てくる〕 ごろごろ鵯る その他 1α2
夜 出 る 機 蟹 27.6 夜 出 る 機能 19.3
(夕方出る〕 丸 い 形 13.6
月 (暗くなると出る〕 照 る 機 能 112.5
丸 い 形 18.7 (照。ている)
責 色 い 色 12.5
明 る い 機 竈 15.1 明 る い 機 21.5
貫 気
夜つける 用 途 11.3■ 集 答 45.5 一 舗 答 71.5
汰れ星
続 れ る(星が満れるj 機 能 1皿2吹 く
機能
19.6 吹 く 機 能 31.8風 凹 痛 答 19.3
含量(台風のことj その他 13.6
天の川
一 業 答 43.7 一 集 答 72.7書だるま 量でつくる 発生・形成 18.7 登でつくる書 発生・形成その他 25.017.0
ころころ,8る 機 絶 24.1 ころころ その他 22.7
書 (ごろごろいう)
, 集 答 12.5
ごろごろ その他 16.9 ごろごろ晴る 機能 16.9
(1)動物について
解答で目につくのは,前概念的把握と知覚的把握が圧倒的に多いことである。ある動物について,
「〜とは何ですか」と間われた時,幼児はまず動物の特徴である機能的側面すなわちはねたり,ほえ たワ,泳いだワすることをまっ先にあげた。 「くじら」の大きさ,「うさぎ」の白さ, 「めだか」の すみか,「おに」や「らいおん」のこわさなども,多くの子どもの指摘するところであった。「くじ
ら」や「めだか」のように「さかな」という概念でとらえやすいものを除くと,概念的把握はどの項 目も低い数値を示していた。
幼児は言語的表現が乏しいので,「いぬ」について「わんわん」というような答え方をする。これ が「誤答」でないことは明らかであるとしても, 「わんわんほえる」という答ではないので, 「機能」
のカテゴリーに分類することは必ずしも適切でない。本調査において「その他」のカテゴリーに属す る解答が多かったことは,このように,幼児の解答の多くがあいまいであり,不完全であったという 事実によるものであワ,言語的にまだ未発達な段階にある幼児の特徴をあらわしていると見ることが できる。
一113一
「誤答」の多かったのは「めだか」であるが, 「おたまじゃくし」とまちがえて, 「あとでかえる になる」という解答がめだった。都会の子は「めだか」について「おたまじゃくしの子」とか,「海 にいる」などと答え,農村の子の多くが「くじら」が「川にいる」と答えるなど,地域による相違が みられた。
「いぬ」 「うさぎ」 「さる」 「ねずみ」など,幼児の身近で親しまれている動物への理解度は高か ったが,最近では見る機会の少なくなった「ぼうふら」とカ㍉ことばとしては知っているが,存在が
目に見えない「ばいきん」のような対象は,ほとんど理解されていないことがわかった。
「動物」は幼児が最も興味・関心をもっておワ,また親しんでいる対象であるのに, 「誤答」「無 答」を合わせた「非解答」が全体の30%近くを占めたという事実は,先にふれたような言語表現の限 界のほかに,調査者の質問の不適切さなどを考劇こ入れても,実際の指導にあたっては,重大な問題 点になると思われる。
年齢的にみると, 「概念」「形」「色」などによるとらえ方は,年齢の上昇に伴なって増加し,
「機能」や「構造」 「場所」 r感覚」などによるとらえ方は減少する傾向があった。 rその他」は6 歳児になると急に減少しているが,「非解答」には年齢による傾向はあまりみられなかった。
男女別にみると, 「概念」 「機能」 「形」によるとらえ方は男子に多く, 「感覚」によるとらえ方 や「無答」が女子に多かった。その他のカテゴリーでは,特に男女差は見られなかりた。
地域による傾向を調べると, 「都市」の子どもは「農村」の子どもに比べて, 「概念」 「機能」
「形」 「色」などが多く,農村の子どもには「場所」によるとらえ方, 「誤答」 「無答」などが多く,
環境の差が現われているように思われた。
(2)植物について
この領域の項目には,「花」という答が容易にひき出される「チューリップ」「菊」 「ダリア」さ らに,「食べもの」「くだもの」と答えやすい「バナナ」などがはいっていたためか,概念的なとら え方の多い点が目につく。同じように「食べるもの」でも, 「ごめ」は「ごはんにたく」, 「さつま いも」は「焼いて食べる」など,r用途」による解答のほうが多かった。
「チューリップ」やr菊」の「咲く」というよ弓な解答を除くと,動物の領域で最も多かった「機 能的把握」は,この領域ではほとんど無く,逆に動物では1%にも満たなかった「用途」によるとら
え方が,前概念中で最も多数を占めていた。同様に,当然予想されたことであるが, 「いね」一
「田んぼに生える」など「発生・形成」によるとらえ方が現われていた。
「チューリップ」の赤, 「バナナ」の黄色がひじょうによくとらえられているが,それに比べると,
同じ花でも, 「菊」の色についてのとらえ方が少ない。またrチューリップ」のr色」が多かったの とは対照的に, 「形」については,ほとんど述べられていないことが目についた。
「稲」は「田んぽ」と結びつけられ, 「場所」のカテゴリーの中では1O項目中いちばん解答が多か った。 「感覚」によるとらえ方のおもなものは, rバナナ」や「さつまいも」の「おいしい」, 「松」
の「痛い」などであつた。
「森」についての解答をみると, rその他」と「無答」に集中し,この項目を「植物」の中に選ん
だことの不適切さを示していた。
「誤答」の多かった「麦」 「稲」について調べたところ,麦は稲または「ごめ」とまちがえられ,
逆に稲が愛とまちがえられていることがわかった。また,「森」についての誤答は,これを「盛ワ」
=「盛ワそば」と受けとワ,「おそば」とか「食べるもの」などと答えたことによるものであった。
年齢別にみると,概念的とらえ方が年齢の上昇と反比例して減少している。これは,年齢が進むに つれて, 「チューリップ」と「菊」を単に連想的に「花」ととらえることが,急激に減ったからでは ないかと考えている。しかし,この2つの項目を除いた他の項目について検討したところ,植物にお ける「概念的把握」には年齢による差はみられなかった。「前概念的把握」のうち,「概念」「用途」
などのカテゴリーでは年齢的な差はみられないが,「発生・形成」「構造」については,わずかなが ら,年齢の発達段階に応じて,解答数の増加する傾向がみられた。「知覚的把握」の中では,年齢が 上昇するにつれて, r形」「色」によるとらえ方が増加し,「感覚」によるとらえ方が減少していた。
この点については,動物の領域においてみられた傾向と同様である。 「その他」 「誤答」 「無答」Iに 関しては,年齢による差はなく,ほぼ同じような比率を示していた。
男女による差は.どのカテゴリーについても見いだせなかった。
地域による差のめだつカテゴリーは,「色」「概念的把握」、「無答」などであった。これ以外のカ テゴリーでは,地域差は特に顕著とはいえないが,各項目についてみると,都市と農村の差の著しい ものがあった。 (チューリップー「機能」一都市10%,農村20%;さつまいも一「用途」一 都市28%,農一村48%;バナナー「用途」一都市25%,農村52%;「稲」一「場所」一都市5
%,農村15%;「松」一「誤答」一都市8%,農村0%など)「稲」や「さつまいも」の「無答」
が,都市の子どもよワ農村の子どもに少なかったことは,環境による差が現われたものとして興味深
い。
(3〕気象・天体について
気象・天体は,日常幼児が大きな関心を寄せている対象であるが,その実態や本質はとらえにくい 性質をもっている。そのためか,「何か」「どんなものか」と問われた場合に,正確な答が出されて いない。他の領域に比して, 「概念的把握」「前概念的把握」が少なく, 「その他」や「誤答」が多 い事実が,このことを証明しているように思㌔
「雨」 (「降る」)「電気」 (「明るい」)「風」 (「吹く」)など,機能的な面に特徴をそなえ ている対象は,当然「機能」によるとらえ方が多いが,「天の川」や「雪だるま」など,機能的側面 の乏しい対象については,ほとんど解答がなされていない。気象.天体の1O項目中,「用途」として の解答がえられたのは「電気」だけであった。 r雨」についての解答に「成分」のカテゴリーに分類 されるものが初めてえられた。また, 「雪だるま」についての解答に「材料」のカテゴリーに該当す るものが初めてえられた。
「形」についてのとらえ方は,ほとんどが「月」に関するものであワ,そのほかは, 『雲」「天の 川」 「雪だるま」にわずかながら解答がみられているにすぎない。 「色」についても, 「月」と「到 が中心である。 「雲」の色には,自,黒,水色,ねずみ色,赤などがあげられているが,白が最も多
一115一
かうた。 「月」の色は,すべて「黄色」であるが,そう答えた子どもの割合が,農村では5%なのに 対し,都市では13%もあった。 「場所」約とらえ方の最も多いのは「雲」 (「空にいる」「天にある」
など)で,他はずっと少なくなっている。 「雨」一「冷たい」, 「風」一「寒い」「涼しい」,
r雷」一「こわい」などの感覚的なとらえ方の多いことも目についた。
「誤答」の多かった「雷」「天の川」についてみると,「雷」は「ぴかっと光る」など,いなづま との混同であワ, 「天の川」は「川のこと」「おワひめさん」「流れる」など,多種多様な,幼児ら しい谷となっている。 「雨」や「月」などと比べて,「流れ星」「天の川」が幼児にとって理解困難 な対象であることは, 「無答」の数の多い点によくあらわれている。
年齢別にみると,年齢の上昇に伴なって増加しているのは,「概念的把握」 「発生・形成」「色」
などのカテゴリーであワ,減少しているのは「無答」のカテゴリ・・である。これ以外のカテゴリーには,
特に顕著な傾向は認められないが,どちらかというと,4歳児と5歳・6歳児との間に発達的な区切 ワがあるように思われる。先に述べたように,「自然」の中で気象・天体は,幼児にとって理解困難 な対象であるが,特に4歳児には,こうした対象はまだごく観念的にしかとらえられていないようで
ある。
男女別にみると,項目によっては,「夕立」 「風」「電気」「雲」などに性差の著しいものもある が,カテゴリー全体を検討すると,男女差はみられない。
地域別にみると、都市の子どもは「概念的把握」 「色彩的把握」という点では,農村の子どもよリ かなワすぐれている。都市の子どもに「無答」が少ないことも目だっているが,項目について詳細に 検討すると,「夕立」「月」「流れ星」の「概念的把握」や,「夕立」の「機能」,「雲」の「色」
や「場所」, 「流れ星」 「天の川」の「無答」に地域差の著しいことがわかる。
(4)乗物・機械・道具について
「時計」「ロケソト」のように,「概念的把握」が10%以下のものもあるが,この領域では,一般 に「概念的把握」の成績がよい。特に「三輪車」「テレビ」のように,子どもたちに身近なものにつ いては20%から30%台を示してい飢
「磁石」一「すいっける」 「くっつく」,「ロケット」一「空をとぶ」は「機能」において,
「はさみ」一「切る」, 「ピアノ」一「ひく」は「用途」において,それぞれの特徴がよくとら えられている。 「機能」 「用途」の両方にわたってよくとらえられているのは, 「テレビ」 「時計」
「自動車」である。
「人工衛星」は「概念的把握」「前概念的把握」ともに項目中最も低い数値を示したが,これは,
調査した時点が古いことが,かなワ関係しているように思う。現在のように人工衛星が珍しくない時 代においては,幼児の認識もまた変化しているであろう。このような時代的変化については,近く同 様な調査をおこなって検討を加えてみたいと考えている。
この領域ではr知覚的把握」がひじ一うに少ないことがわかる。それでも比較的多かったものをあ げると,「ピアノ」 (「形」一「大きい」,「色」一「黒い」, 「場所」一「家にある」),
「人工衛星」 (「形」一「丸い」,「場所」一「空にいる」)などである。
「誤答」の比較的多いのは,「三輪車」とrピアノ」である。前者は「自動車」と後者は「オルガ
=/」とまちがえられている。
年齢別にみると,全体的に年齢に応じた発達傾向があるが,6歳児の発達の著しい点が指摘できる るように思う。この傾向は,特に「三輪車」「自動車」rロケット」 「磁石」などによくあらわれて
いる。
男女差についてみると, 「磁石」「ロケット」「人工衛星」に対する認識は,女子よワ男子のほう がだんぜんすぐれていることがわかる。しかし,カテゴリー別に平均して比べると,男女による差は ほとんど認められない。
地域別にみると, 「誤答」に「都市」と「農村」の差が全くなく, 「無答」は農村の子どもに多か ったが,他のカテゴリーでは,わずかながら「都市」が「農村」よワ比率が高かった。しかし,全般 的にみて,この領域については,地域による明確な差があるとは言えない。
要 約
本研究の目的は,幼稚園の「自然」の領域で比較的多くとワあげられる対象について,幼児がどの ような理解をしているかを調査し,その実態にもとづいて若干の考察を加えることである。調査の対 象となった幼児は,都会地と農村に居住する200人である。定義法にようて得られた解答はカテゴリ ーに分類され,領域ごとに考察がなされた。おもな結果は次のとおワである。
(1)動物について……「いぬ」「うさぎ」 「さる」など,幼児の身近で親し奉れている動物への認識 や理解度は高かったが,見る機会のきわめて少ない「ぼうふら」とカ㍉存在が目に見えない「ばいき ん」のような対象は,ほとんど理解されていなかった。動物は幼児にとうて最も興味・関心の強い対 象であるとされているが, 「概念的把握」のできる子どもは少なく, 「誤答」 「無答」一が予想以上に 多かった。
(2)植物について……「概念的把握」は,とワあげた4つの領域のうちで最高を示したが, 「無答」
もまた最も多かった。これは,「チューリップ」「菊」など容易に「花」と答えやすいものが選ばれ ていた反面, 「稲」 「麦」など,幼児一時に都会の幼児には,なじみの薄い対象が含まれていたた めと思われる。
(3)気象・天体について……他の領域と比較して,「概念的把握」「前概念的把握」が少なく,「そ の他」や「無答」が多かった。この領域のものは,実体や本質がとらえにくいので,「自然」の領域 中,幼児にとって最も理解困難な対象であるといえよう。
一(4〕乗物・機械・道具について……「概念的把握」「前概念的把握」が多く, 「無答」が少なかった。
とりあげた項目が,幼児の身近なものであったことにもよるであろうが,概してこの領域のものは,
よく理解されていると考えてよい。
(5)全体的にみると, 「自然」に対する理解には年齢差,地域差がかなワ認められたが,男女差はあ まり見い出されなかった。
一11f一
<付記〉 本研究の一部は,1971年5月の日本保育学会,および同年10月の日本教育心理学会で,
東京教育大学の松原達哉と筆者が連名で口頭発表をおこなった。
参 考 文 献
松原達哉・今井靖親 1971 自然に対する幼児の見本・考え方 日本保育学会第24回大会発表論文 抄録15−3似
松原達哉・今井靖規 1971 自然に対する幼児の認識 日本教育心理学会第13回総会発表論文集 168−169
文部省編 1965 幼稚園教育指導書(自然編) フレーベル館
四宮 晟 197エ 言語的思考における抽象作用の発達的研究 新光閣書店