はじめに
厳しい経済状況に影響を受け、 日本の労働環境は大きく変化してきた。 かっての終身雇用制度、 年功 序列制度に代表される日本の雇用慣行も終焉を告げ、 代わって働く人々には新たに真の実力・能力、 具
キャリア教育の意味とキャリアカウンセリングの役割
宮 城 まり子*1
*1 立正大学心理学部
要 旨: 本研究では、 社会労働環境が大きく変化する現在、 子どもから若年者の将来の
「生き方、 働き方」、 すなわち、 彼らのキャリア開発・キャリア形成支援ための早 期からの 「キャリア教育」 の意味とそれを支える個別の支援方法としての 「キャ リアカウンセリング」 の役割について研究し、 明らかにすることを研究目的とす るものである。
日本においては現在フリーターやニートと呼ばれる正規に就業してない若者、
無業の若年者の増加、 若年者の早期離職者の増加が問題となっている。 その原因 の一つとしては、 経済不況に伴い組織・企業側が人件費の抑制を目的として正規 の労働者 (正社員) の採用を手控え、 その門戸を厳しく狭めており、 若年者の職 場が著しく減少し若者が締め出されている現状があることがあげられる。 しかし、
それに加え、 若年者の未成熟な労働観 (労働意識)、 職業観 (職業意識) がその 原因となっており、 いかにこうした若者達に自らの 「生き方、 働き方」 について 早期から考えさせ、 キャリア意識を醸成し将来の 「生き方・働き方」 に関する
「キャリア設計力」 を育成するかが重要な課題として存在している。
本研究では、 こうした早期の小学校から高校にいたる系統的な 「キャリア教育」
についての研究だけではなく、 大学における学生の 「就職支援」 から 「キャリア サポート」 への転換、 「大学キャリア教育」 の意味と必要性について、 立正大学 のキャリアサポートの一貫としての 「キャリア開発講座」 を具体的に例示しなが ら考察する。
キーワード:キャリア教育、 キャリアカウンセリング、 キャリアガイダンス、
キャリアデザイン、 インターンシップ、 キャリア開発基礎講座
体的なアウトプットとしての成果を厳しく問われる時代へと変容してきた。 こうした労働環境をめぐる 社会状況の変化とともに、 働く個人に求められる能力要件も変化している。 すなわち、 単なる 「学歴」
だけではなく、 個人の固有の付加価値、 雇用されうるに値する能力 (潜在的能力、 顕在する具体的な能 力―対人能力、 コミュニケーション能力なども含む) と生きること・働くことへの積極的な姿勢・態度、
意欲、 行動力、 明確な目標などが問われるようになった。
こうした厳しい経済・労働環境の変化のなかで、 正規に雇用されないままアルバイトなどを継続しな がらパートタイマーとして働くフリーターやニート (NEET:Not in Education, Employment, or Training) と呼ばれる無業の若者の増加 (2003年厚生労働省―労働経済白書、 フリーターは217万人、
前年比8万人増、 ニートは52万人、 前年比4万人増) が新たな社会的問題となって深刻な問題を投げか けている。 また、 就職後3年以内に早期に離職する若者数も増加している。 こうした現象は、 企業側が 正規雇用を控え、 有期雇用を増加させていることに原因があるものの彼らには個別なさまざまな事情や 背景もあるだろうが、 このような厳しい労働社会の大きな変化に適切に適応できない若者達であるとも いえる。 今後、 次世代を担うこうした若者の増加は、 年金問題を始めとして少子高齢社会のさまざまな 側面に悪影響を及ぼすことが懸念されており、 企業に対しては正規雇用の枠を拡大することを働きかけ るとともに、 いかにこうした若者の増加を防止し、 正規の就業を支援し、 真の 「自立」 (精神的、 経済 的、 生活的自立) を促すことができるかが問われている。 文部科学省、 厚生労働省をはじめ政府機関の みならず民間機関においても具体的にさまざまな施策や対応策がとられ実施されているが、 こうした数 多くの施策の一つとして、 早期の児童の段階から高校・大学にいたるまでの系統的、 体系的な 「キャリ ア教育」 プログラムの開発と実施がある。 いまや、 厳しい少子化のなかで大学においても生き残りをか けて大学の存在を明らかにし、 その特性をアピールするためには、 質の高い、 高付加価値のある学生を 育成し、 社会へ優秀な人材を輩出する大学であることをアピールすることが必要である。 そのためには、
大学教育においても大学入学後早期からの 「キャリア教育」 の重要性を学生に理解させ、 教職員もキャ リア教育を担うものとしての役割と責任を強く認識しなければならない。 このように現在は、 「キャリ ア教育」 は個々の大学の存在と価値を大きく左右する重要な要素、 教育課題になっている。
本論文では児童期から大学にいたる 「キャリア教育」 を取り上げ、 「キャリア教育」 の現状分析と今 後の課題を考察するなかで、 小学校から大学にいたる 「キャリア教育」 の意味と活用、 果たすべき責任、
その過程における個別の 「キャリアカウンセリング」 の役割についても論じることとする。
1. キャリア教育とは何か
キャリア教育の定義キャリア教育に関してはこれまでさまざまな解釈がなされている。 「キャリア」 (career) という言葉 そのものが英語であり、 キャリアの定義も多様な定義があるといっても過言ではない。 筆者は次のよう にキャリアを定義している。 キャリアは狭義では、 「職業、 職務、 職歴、 経験、 歩みや足跡、 業績、 役 割、 進路、 方向性」 などと捉えることができるが、 広義ではキャリアとは、 「生き方・働き方 (仕事・
活動) を通した、 個人の生涯における自己表現のしかたそのものである」 と定義する。 要するに、 個人 がその生き方・働き方を通して、 一回しかない自分の人生において、 自己のもてる能力を最大限発揮し、
役割をにない自分自身を表現するその表現のしかたそのものであると考える。 また生涯発達心理学の観
点からは、 キャリアは組織内、 企業内における職務・仕事を意味することのみに留まらず、 定年後の人 生、 生涯発達を視野に入れた拡大された概念となっている。 特にこれからの高齢社会においては、 定年 後も20年から30年の長い人生を我々が送る側面を考慮すると、 多様な社会的な活動などもキャリアに含 めて考えることも必要である。
これまで文部科学省がさまざまな機会を通してキャリア教育について述べてきたが、 平成16年の 「キャ リア教育の推進に向けて」 のなかでは、 キャリア教育を 「児童生徒 (学生) 一人ひとりのキャリア発達 を支援し、 それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲、 態度や職業観を育てる教 育である」 としている。 これらを総合してキャリア教育を定義すると筆者は次のように考える。 キャリ ア教育とは、 「個人が自らのもてる能力を最大限発揮しながら、 自分らしい人生や自分らしい仕事に従 事することを通して、 豊かに質の高い人生を送ることができるために、 まず自己理解を深め、 職業に関 する知識や技能を身につけ、 望ましい人生観や職業観を育み主体的に将来のキャリアを選択し、 形成す る能力・意欲を育成する教育」 であると考える。
キャリア教育の始まりとその流れキャリア教育はアメリカにおいて1970年代初めから1980年代の半ばまで、 米国連邦教育局による教育 改革最重点施策の一つとして推進された進路教育として始まった。 ここでのキャリア教育の目標は、 初 等教育から中等教育まで知的教科内容と職業的内容とを同時並行に学習し、 進路選択期に適正な自己理 解、 進路の探求、 進路設計に基づいて、 児童生徒が自律的に自分の生き方や進路を選択し決定できる能 力を育むことであった。
日本においては昭和45年の後半に数校の高等学校が指定校としてキャリア教育の実践を行ったが、
「キャリア教育」 という言葉が日本において正式に初めて用いられるようになったのは、 1999年文部科 学省、 中央審議会答申の 「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」 においてであった。 ここ では 「学校と社会および学校間の円滑な接続」 を図ることを目的にキャリア教育を小学校段階から発達 段階に応じて実施する必要があることが指摘された。
そして、 このキャリア教育の実施にあたっては、 学校・家庭・地域が互いに連携し、 職業体験的な学 習を取りいれると同時に、 学校においては発達段階に応じて目標を設定し、 教育課程に位置づけて計画 的に取り組み、 成果を振り返り、 その評価を絶えず行うことの重要性も述べられた。
これ以降、 キャリア教育に関する実践、 成果の報告書が次第に出されるようになった。 それらは、
「児童生徒の職業観、 勤労観を育む教育の推進」 (2002年:国立教育政策研究所生徒指導研究センター)、
「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書―児童生徒一人ひとりの勤労観、 職業 観を育てるために」 (2004年:文部科学省) である。
また、 フリーターやニートの増加現象を懸念した文部科学省は、 2003年には教育・雇用・産業政策の 連携強化による雇用問題に対応した総合的な人材育成を目的とした 「若者自立・挑戦プラン」 を政策と して掲げた。 そして、 そのなかの一環としてキャリア教育を位置づけ、 初等中等教育からフリーター、
ニートに至るまでのそれぞれの発達段階に応じた適切な教育支援を行うようになった。
その後、 文部科学省は2004年に 「若者自立・挑戦プラン」 の具体的推進策として 「新キャリア教育プ ラン推進事業」 を開始した。 その結果、 小学校110校、 中学校86校、 高等学校80校、 全国43都道府県1
政令市45地域において、 合計276校が実践協力校としてキャリア教育を具体的に実践し取り組む事業を 推進することになった。 そして、 「地域の教育力を活用した活動を行うなかで児童生徒一人ひとりの勤 労観、 職業観を発達段階に応じて育てる」 研究に取り組くんできた。 そして、 文部科学省は 「キャリア 教育推進フォーラム」 を開催し、 「キャリア教育の推進に向けて」 のパンフレットを配布した。 これ以 降、 さまざまなキャリア教育が全国で実践されるようになった。
2. キャリア教育の目的と意義
文部科学省は2004年 「キャリア教育の推進に向けて」 のなかで次のように述べている。 キャリア教育 は何よりもまず児童生徒 (学生) の 「勤労観、 職業観」 を育てることをその目的とし、 「学校の教育活 動全体を通じて、 児童生徒 (学生) の発達段階に応じて、 小学校段階からの組織的・系統的なキャリア 教育」 が必要であるとその基本姿勢を示している。 すなわち、 自分自身と働くことの関係づけ、 自分の 生き方・働き方についてのベースとなる価値観の形成を促すような教育や指導、 さまざまな支援をキャ リア教育を通して実践することの必要性を強調している。
そして、 キャリア教育における発達課題として次のような課題を提示している。 これらはまたキャリ ア教育の目的とも考えられる。 適正な自己理解、 生き方や進路への関心・意欲を育てる、 職業観・勤労 観を育てる、 さまざまな職業や進路先に関する知識や情報の獲得、 進路の選択や意思決定能力、 職業生 活に関する習慣や行動様式、 職業生活に必要な技術・技能の獲得などである。 こうした課題を、 早期の 小学校の段階から個々の発達段階に応じた学習指導や学習活動を計画し、 具体的な実践を行いながら振 り返りを行い、 成果を評価し、 それに基づき内容の検討、 改善を図っていくためには、 キャリア教育プ ログラムの開発とその位置づけが不可欠であると述べている。
キャリア教育の意義に関しては、 文部科学省は2004の 「キャリア教育報告書」 のなかで次のように述 べている。
① キャリア教育は一人ひとりのキャリア発達や個人としての自立を促す視点から、 従来の教育のあ り方を幅広く見直し、 改革していくための理念と方向性を示すものである。
② キャリア教育は、 キャリアが生徒 (学生) の発達段階やその発達課題の達成と深くかかわりなが ら段階を追って発達していくことを踏まえ、 生徒 (学生) の全人的な成長・発達を促す視点に立っ た取り組みを積極的に進めることである。
③ キャリア教育は生徒 (学生) のキャリア発達を支援する観点に立って、 各領域の関連する諸活動 を体系化し計画的、 組織的に実施することができるように各学校が教育課程偏在のありかたを見 直していくことである。
以上のように、 キャリア教育は同時に次のような3つの課題を解決する方法としても強い関心が現在 寄せられている。 それらは、 ①学校教育のあり方の改善、 ②子どもたちの全人的な成長や発達を促す視 点、 ③各学校での教育課程編成のあり方の見直しなどである。
3. キャリア教育のニーズとその背景
2004年、 キャリア教育の推進を提言した文部科学省の調査研究協力者会議報告書によると、 キャリア 教育の必要性に関しては次のような背景と要因が挙げられている。 (「キャリア教育の推進に関する総合
的調査研究協力者会議報告書−児童生徒一人ひとりの勤労観、 職業観を育てるために−」)
社会状況の変化と青少年の意識の変化① 少子高齢化社会の到来、 産業・経済の構造的変化、 雇用の多様化、 流動化などを背景として、 就 職・進学を問わず進路選択をめぐる環境が大きく変化したこと。
② 学校における教育活動がともすれば 「生きること」 や 「働くこと」 と疎遠になり、 十分な取り組 みがこれまで行われてこなかったこと。
③ 就職・就業をめぐる環境が激変し、 新規学卒者に対する正規雇用の求人が著しく減少し、 求職希 望と求人希望とのアンバランスが拡大していること。
④ 若者自身の資質などを巡る課題として、 職業観・勤労観の未熟さ、 職業人としての基礎的資質、
能力の低下が見られること。
⑤ 子どもたちの生活・意識の変容として、 子どもたちの成長・発達上の課題が複雑化しており、 身 体的な早熟傾向に対して、 精神的発達・社会的自立が遅れる傾向があり、 生産活動や社会性など における未熟さが見られること。
こうしたさまざまな要因より、 小学校段階から大学生まで、 職業意識、 職業能力の育成が体系的、 系 統的に行われなければならないと考えられている。 すなわち、 こうした社会状況の変化とともに、 今日 の青少年の発達特性、 職業意識の著しい変化が、 今日キャリア教育が必要であることの理由としてあげ られている。
高校卒業者、 大学卒業者の職業意識の希薄化また、 報告書には青少年の職業意識や勤労意識の希薄化があげられている。 2003年の文部科学省の学 校基本調査結果によれば、 大学卒業者の就職率は55.1% (前年比1.9%減) であり、 これは1968年度の 同調査開始以来、 最低の結果となっている。 大学卒業者の経年変化では平成3年度の大学卒業者の就職 率は81.3%であり、 それ以降減少傾向がずっと継続している。 この傾向は4年制大学だけではなく、 大 学院、 短期大学、 高等専門学校卒業者の就職率も前年を下回る傾向が続いており、 高校卒業後の大学、
短期大学への進学率の増加に反して、 卒業後の就職率の減少が問題となるところである。 (図1−図3:
高等学校、 短期大学、 大学の卒業者数、 就職者数および就職率などの推移)
このような傾向は、 日本における産業構造の変化、 経済成長の不透明化、 雇用形態の多様化と流動化、
長引く経済不況などが大きく影響した結果であると考えられるが、 同時に大学卒業者のうち、 アルバイ ト等の一時的な仕事についた者の総数が4.6% (前年比0.4%増) で過去最高の数となっていることや、
早期離職者の増加 (新規大学卒業者の3年以内の早期離職者34.3%、 短期大学卒業者は41%、 高校卒業 者は48.3%、 中学卒業者は68.5%−2002年度厚生労働省調査結果) 傾向が存在している (図−4:新規 学卒就職者の在職期間別離職率の推移)。
このような現象の背景には、 青少年の職業意識の低下、 勤労意識の希薄化をうかがうことができる。
こうした結果を裏付けるものが、 2003年度の厚生労働省の調査結果 (図−5:2003年, 2004年度労働経 済分析) であり、 調査結果によれば、 15歳から34歳の年齢層に217万人のフリーター、 52万人のニート がいると推計されている。 こうした問題となる社会現象への対策として、 教育現場として可能な対応を
図1 卒業者数、 就職者数及び就職率等の推移 [高等学校]
(万人) (%)
200
150
50
0 100
昭 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63平2 4 6 8 10 12 14 15 年3月卒業
100 90 80 70 60 50 40 30 20
10 0 卒
業 者 数
就職 率・ 進学 率等 卒 業 者 数
うち就職者総数 就 職 率
大学等進学率
うち進学も就職もしていない者
進学も就職もしていない者の比率
44.6%
10.3%
10.3%
16.6%
(注) 1 「進学も就職もしていない者」 は、 家事手伝いをしている者、 外国の大学等に入学した者又は進路が未定であるこ とが明らかな者である。
2 昭和50年以前の 「進学も就職もしていない者」 には、 各種学校、 公共職業能力開発施設等入学者を含む
(2003年 文部科学省、 学校基本調査)
図2 卒業者数、 就職者数及び就職率等の推移 [短期大学 (本科)]
(千人) (%)
300
250
200
50
0 150
100
昭26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62平元 3 5 7 9 11 13 15年3月 卒業 100 90 80 70 60
50 40 30 20 10 0 卒
業 者 数
就 職率
・進 学率 等 うち就職者数
就職率
大学等への進学率 進学も就職もしていない者の比率
卒業者数 過去最低 昭31年 52.3%
過去最高 平3年 87.0%
19.4%
11.1%
59.7%
(注) 「進学も就職もしていない者」 とは、 就職でも進学でもないことが明らかな者で、 例えば、 家事の手伝い、 研究生と して学校に残っている者及び専修学校・各種学校・外国の学校・職業能力開発校等への入学者もこの欄に含まれるが、
一時的な仕事に就いた者は含まない。
(2003年 文部科学省、 学校基本調査)
早急に行う必要があると考えられている。
体系的、 系統的なキャリア教育の必要性2003年度の 「青少年白書」 ではキャリア教育が必要な理由として、 次の点が指摘されている。 ①若者 の高い失業率 (2002年度平均で、 15歳から19歳が16万人、 20歳から24歳が53万人、 25歳から29歳が56万 人であり、 この失業率は1990年以降今日まで上昇を続けている)、 ②高水準の未就業卒業者数、 ③早期 離職者の増加、 ④フリーターの増加の4点である。 この青少年白書では、 こうした職業意識の低下、 勤 労意識の希薄化などの問題解決に対しては、 キャリア形成が適切に行えるように職業能力の育成、 児童 早期からの体系的なキャリア教育が必要であるとし、 そして、 キャリア教育は単に青少年労働者だけで はなく、 小学校、 中学校から高校、 大学にいたる総ての生徒、 学生に対し進路や職業意識の形成を促す 必要があることを指摘している。
進路指導からの転換とキャリア形成指導したがって、 これまで行われてきた旧来の進路指導観を離れ、 新たな指導理念と方法を導入すること が必要であり、 キャリア教育はこれまでのような単なる進路指導ではないことの認識を新たにすること が求められている。 現代のような成熟社会においては、 産業経済の構造的変化に対応できるキャリア形 成支援を行う理念と方法が必要であり、 これまでのように単に就職や進学・進路指導を直接的に行うこ とだけではなく、 生徒、 学生の長い生涯にわたるキャリアを展望しながら、 個人のキャリアを充実させ るために、 キャリア開発とキャリア形成支援を目的とするものでなければならないと考える。 したがっ
図3 卒業者数、 就職者数及び就職率等の推移 [大学 (学部)]
(千人)
600
500
400
100
0 300
200 卒 業 者 数
(%)
昭25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63平2 4 6 8 10 12 14 15 年3月 卒業 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0
就職 率・ 進学 率等
22.5%
11.4%
55.1%
うち就職者数 就職率
大学院等への進学率 進学も就職もしていない者の比率
卒業者数 過去最高 昭37年 86.6%
平3年 81.3%
(注) 「進学も就職もしていない者」 とは、 就職でも進学でもないことが明らかな者で、 例えば、 家事の手伝い、 研究生と して学校に残っている者及び専修学校・各種学校・外国の学校・職業能力開発校等への入学者もこの欄に含まれるが、
一時的な仕事に就いた者は含まない。
(2003年 文部科学省、 学校基本調査)
中学卒
高校卒
大学卒 短大等卒 (%)
80 70 60 50 40 30 20 10 0
57年 58年 59年 60年 61年 62年 63年 2年 3年 3月卒
4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年 11年 12年 13年 元年
3年目 2年目 1年目 60.2
8.9 14.6
36.7 61.4
9.3 14.6
37.5 63.9
9.5 15.5
38.9 64.8
8.8 14.9
41.0 64.3
9.1 15.1
40.0 64.5
9.4 15.3
39.8 65.5
9.4 14.6
41.4 65.7
9.5 14.7
41.5 67.0
9.9 14.1
43.0 66.3
9.7 14.3
42.3 65.2
9.3 14.0
41.9 66.7 10.0 13.5
43.2 67.8
9.8 14.2
43.7 70.4 10.0 14.7
45.6 71.0
9.3 13.9
47.8 70.3
9.2 14.7
46.4 70.8
9.5 13.5
47.9 68.5
8.8 14.3
45.4 63.1 14.2
48.9 49.8
49.8
(%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0
57年 58年 59年 60年 61年 62年 63年 2年 3年 3月卒
4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年 11年 12年 13年 元年
37.7 10.6 11.9 15.2
40.9 10.7 13.1 17.1
40.5 10.3 13.0 17.2
39.3 10.4 12.0 16.9
41.9 11.0 13.2 17.7
46.2 11.9 14.6
19.8 48.7 11.8 15.2
21.8 47.2 11.0 14.7
21.5 45.1
9.7 13.8
21.6 41.8
8.8 12.6 20.4
39.7 8.8 11.6 19.3
40.3 9.5 12.1 18.7
43.2 10.4 12.9
19.9 46.6 10.6 14.8
21.2 48.1
9.3 14.8
24.0 47.5
9.1 13.8
24.6 46.8
9.7 13.2
23.8 48.3
9.6 14.6
24.0 41.0 14.7
26.3 25.7 25.7
(%) 80 70 60 50 40 30 20 10 0
62年 63年 元年 2年 3年 5年
3月卒
6年 7年 8年 9年 10年 11年 12年 13年 4年
38.4 12.5 12.3 13.6
40.3 12.9 13.1 14.3
39.6 12.3 13.1 14.2
38.4 11.4 12.9 14.2
36.0 10.0 12.1 13.9
33.9 9.3 10.7 13.9
33.7 9.9 10.6 13.2
37.5 11.3 11.5 14.6
41.1 11.7 13.3 16.1
41.2 10.4 13.2 17.6
39.7 10.1 12.1 17.4
39.0 11.1 11.6 16.3
41.0 10.9 12.8 17.3
32.2 12.8 19.3
18.8 18.8
(%)
60 70
50 40 30 20 10 0
62年 63年 元年 2年 3年 5年
3月卒
6年 7年 8年 9年 10年 11年 12年 13年 4年
28.4 8.3 9.1 11.1
29.3 8.6 9.4 11.4
27.6 8.0 9.0 10.7
26.5 7.4 8.8 10.3
25.0 6.8 8.2 9.9
23.7 6.6 7.6 9.5
24.3 7.1 7.8 9.4
27.9 8.4 8.8 10.7
32.0 9.1 10.6 12.2
33.6 8.5 11.0 14.1
32.5 8.3 10.4 13.8
32.0 9.3 9.8 12.9
34.3 9.1 11.3 13.9
27.3 11.6 15.7
15.1 15.1
図4 新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移
(注) この離職率は厚生労働省が管理している雇用保険被保険者の記録を基に算出したものであり、 新規に被保険者資 年月日と生年月日により各学歴に区分している。
(2002年 厚生労働省)
て、 学校教育と職業、 社会とを結びつけるための、 生徒、 学生のキャリア形成・キャリア開発のための 自律的学習とそのプログラムが必要である。
以上から、 学校教育のなかでのキャリア教育の位置づけとしては次の3点があげられる。 ①産業構造 の変化と若者の勤労意識の低下問題への対応、 ②従来型の進路指導観からの転換、 新たな進路指導観の 導入、 ③成熟化社会における個人のキャリア開発とキャリア形成の方法としてキャリア教育を位置づけ ることができる。
4. 進学・進路指導からキャリア教育・サポートへの転換
次に、 これまでの進学・進路指導とキャリア教育、 就職指導から 「キャリアサポート」 への転換の違 いについて考えてみる。 これまでの進路指導、 就職指導は、 どちらかといえば個人の適性と職業特性と を単にマッチングさせることに重点が置かれていた。 これは、 いわゆる 「マッチング理論」 であり、 こ の理論はその前提として、 本人の適性と職業特性とがうまくマッチングすれば、 最適な進路選択が可能 になると考えられ、 これが従来の進路指導の方法、 目的となっていた。
しかし、 近年の産業社会は変化が激しく、 産業構造の急激な変化や技術革新などによる労働環境のこ れまでにない大きな変化は、 高校や大学卒業時に適性として個々にマッチングした進路や職業選択は、
必ずしも生涯継続的に一貫して個人にマッチするものとは限らなくなってきた。 さまざまな労働環境、
労働事情の変化、 本人自身の興味・関心の変化、 環境やライフステージによる人生観・労働観などの本 質的な変化も長い人生の過程においては当然発生すると考えられる。 それゆえに、 卒業時における個人 特性と仕事との単純なマッチングだけではなく、 生徒や学生自身が自らの 「生き方・働き方」 を主体的 に考え、 適正な自己理解にもとづき将来のキャリアをデザインする力を育成することが大切である。 自 ら主体的、 積極的な学びを通してキャリア開発努力を継続的に行い、 その都度キャリア選択を行いなが ら、 自分らしいキャリア形成を行う能力 (キャリア形成力) を育成することが求められている。
キャリア発達理論においては、 「キャリアは必ずしも、 青年期に決定され形成されるものではなく、
個人の生涯にわたってキャリアは変化し発達、 形成されるものである」 (D. Super, 1990) と考えられ るようになってきた。 すなわち、 労働環境が激しく変わる現代は、 ある時点 (学年・年齢) で、 今後の 進路目標を明確にし単にそれを達成すれば、 生涯こと足りるというものでは決してないことは明らかで
(年)
平成15年 平成14年 平 成 9 年 平 成 4 年 平成62年 平成57年
217 209 151 101 79 50
0 50 100 150 200 250
(万人)
図5 フリーターの増加推移
○厚生労働省 「平成15年版・平成16年版労働経済の分析」 に基づくフリーターの増加推移
ある。 こうした変化の激しい労働社会において充実して自分らしく生きるためには、 生涯発達の視点よ り、 キャリア形成を考慮し時代の変化、 ライフキャリア・ステージの変化に柔軟に対応しながら、 主体 的にキャリアデザインを行う力 (将来設計能力) の育成が何よりも重要な教育課題であると考える。
昨今、 大学においても就職指導課 (部) から、 キャリアサポートセンター、 キャリアデザインセンター への名称変更を行う大学が増えているように、 その役割は単なる大学の出口における就職の指導を行う だけに留まらず、 大学入学から卒業に至るまでの間、 また卒業後の長い人生を展望しながら、 学生たち の職業意識、 職業観の涵養、 キャリア計画と自律的キャリア開発、 キャリア形成力、 それにともなう大 学での勉学への動機づけを行うことなど、 キャリア支援を総合的に行うことをその役割とすることに変 化している。
5. キャリア教育の要点と課題
キャリア教育のその本質と目的は、 子どもや若者に 「生きる力・働く力」 − 「自立力」 を身につけさ せることであると言える。 繰り返すが、 卒業を前にした出口における生徒・学生の進学・進路指導、 就 職指導のみだけではなく、 深く 「生き方・働き方」 を考えさせ、 彼らの入学時から在学中、 卒業後の生 涯にわたる主体的キャリア開発とキャリア形成力を身に付けさせるための具体的指導を行うことがキャ リア教育なのである。
生涯発達の過程において、 正しい 「自己理解」、 「自己と働くことの関係付け」、 「価値観の形成とその 明確化」 などを系統的・体系的に行うためには、 キャリア教育における個々の明確な達成目標を設定し、
生徒・学生に対しキャリア教育を通して育成したい具体的能力を明らかにすることが求められる。
そこで、 キャリア教育を通じて育成する能力をあげると次の6点にまとめられる。
① キャリア発達の考え方をキャリア教育の根幹に置く。
② 生徒や学生の年齢や発達段階に応じた職業観を育成する。
③ 職業や進路についての情報収集、 分析能力を高める。
④ 職業における役割と責任を果たすために求められる基礎的な汎用性のある基礎能力を身につけさ せる。
表1 小・中・高における発達課題
小 学 校 段 階 中 学 校 段 階 高 等 学 校 段 階
〈 職 業 的 ( 進 路 ) 発 達 段 階 〉 進路の探索・選択にかかる
基盤形成の時期
現実的探索と暫定的選択の 時期
現実的探索・試行と社会的 移行準備の時期
〈 職 業 的 ( 進 路 ) 発 達 課 題 〉
・自己及び他者への積極的 関心の形成・発展
・身のまわりの仕事や環境 への関心・意欲の向上
・夢や希望、 憧れる自己イ メージの獲得
・勤労を重んじ目標に向かっ て努力する態度の形成
・肯定的自己理解と自己有 用感の獲得
・興味・関心等に基づく職 業観・勤労観の形成
・進路計画の立案と暫定的 選択
・生き方や進路に関する現 実的探索
・自己理解の深化と自己受 容
・選択基準としての職業観・
勤労観の確立
・将来設計の立案と社会移 行の準備
・進路の現実吟味と試行的 参加
⑤ 職業や進路に関する体験 (インターンシップなど) や調査、 探求などを通じて実際的な職業観を 育成する。
⑥ 生徒・学生に対し、 生涯に渡るキャリア開発、 キャリア形成能力を身につけさせる。
児童・生徒、 学生の発達に応じたキャリア発達上の課題については、 国立教育政策研究所生徒指導研 究センターの 「職業観・勤労観を育む教育の推進について」 のなかで 「学校段階別に見た職業的発達段 階、 職業的発達課題」 に整理され、 その内容は表―1に示されているとおりである。 ここでの、 「職業 観」 とは、 それぞれの職業に対する価値的な理解であり、 生きていくうえでの職業の果たす役割や意義 についての認識を示す概念である。 また、 「勤労観」 とは、 勤労に対する価値的な理解・認識であり、
職業としての仕事や勤めだけではなく、 ボランティア活動、 家事や手伝い、 その他の役割遂行、 働くこ とそのものに対する個人の見方や考え方、 価値観であり、 個人が働くこととどのように向き合っていく かという姿勢や構えを規定する基準となるものである。
6. キャリア発達にかかわる能力の育成
キャリア教育の先進国であるアメリカでは、 1989年全米職業情報整備委員会において 「全米キャリア 発達ガイドライン」 が提出され、 そのなかで小学校から成人にいたる4つの段階で3能力領域の必要を 述べている。 それらは、 ①自己理解、 ②教育的、 職業的探索、 ③キャリア設計である。
一方、 2002年、 国立教育政策研究所は 「キャリア教育報告書」 のなかで 「職業観、 勤労観」 を育むた めの学習プログラムとして、 4領域8能力を提示している。 それらは、 ①人間関係形成能力、 ②情報活 用能力、 ③将来設計能力、 ④意思決定能力の4つの領域である。 こうした基本的4領域を各学校が実情 に応じた独自の 「学習プログラム」 を作成し、 指導に役立てていくことが指導されている。
そして、 こうした指針を受けて次のような方向性を視野に入れた取り組みを展開することが期待され ている。 (2005年 「キャリア教育報告書」 「キャリア教育の推進に向けて」)
① 「働くこと」 への関心・意欲の高揚と学習意欲の向上
・職業や進路などキャリアに関する学習と教科・科目の学習と野相互補完性の重視
・進路への関心・意欲の高揚と学習の必要性、 有用性の認識の向上
② 一人ひとりのキャリア発達の視点
・生徒、 学生たちのキャリア発達の的確な把握
・キャリアカウンセリングの機会の確保と質の向上
③ 社会人・職業人としての資質・能力を高める指導の充実
・基礎・基本の学習の充実と徹底を図る学校教育の推進
・将来の職業生活を視野に入れた情報活用能力や外国語の運用能力などの専門的な知識・技能を修 得する学習の充実
④ 自立意識の涵養と豊かな人間性の育成
・働くことの意義についての総合的な理解の促進
・早期からの自立意識の涵養と豊かな人間性の育成
「図解はじめる小学校キャリア教育」 (三村隆男、 2004) によれば、 キャリア教育を始めるにあたっ ては、 新たな領域の創設によって新しい教育活動に取り組むという考えをせず、 むしろ学校の教育課程
編成にもとづく教科などの学習や活動の指導実践をキャリア教育の視点で捉えていくことが大切である と述べている。
7. キャリア教育推進のための条件とその整備
キャリア教育の実践と効果的な運用を行うためには、 その前に基本的な条件や環境の整備が欠かせな い。 そのための必要事項としては次のような点があげられている。 (キャリア教育報告書、 2005年)
① キャリア教育を推進するための学校 (大学) 内の組織、 体制づくりを行う。
② 教員の資質向上と専門的能力を有する教員の養成を行う
・学校全体でキャリア教育の本質的理解を共有する
・基本的なキャリアカウンセリングができるような研修プログラムの開発・普及を行う
・キャリア教育の視点に立ったカリキュラム開発能力や地域社会とのコーディネート能力を身につ けさせるための教員研修の充実を図る
③ 学校外の教育資源活用にかかわるシステムをつくる
・職場体験、 インターンシップなどの受け入れの確保、 体験学習推進のための学校、 地域、 企業、
関係行政機関などでのシステムづくりや地域の産業界などにおける人材をキャリアアドバイザーと して確保、 活用するためのシステム作りをする
④ 保護者との連携の推進を図る
・学校から保護者への積極的な働きかけと保護者の学校教育への積極的な参画を推進する
・家庭の役割の自覚を促す
⑤ 関係機関などとの連携を行う
・ハローワーク、 大学、 専門学校との連携や経済団体、 企業等の理解と協力の推進を図る
8. キャリアカウンセリングの活用と役割
キャリア教育においてキャリアガイダンスとキャリアカウンセリングは相互に車の両輪として役割を 果たすものである。 キャリアガイダンスは集合としての生徒・学生全体に対する指導・支援を通して働 きかける機能をもっているが、 一方キャリアカウンセリングはカウンセリングを通して個人に対し個別 の支援・指導を通して働きかける機能をもっている。 キャリア教育の充実を図るためには、 こうしたキャ リアガイダンスとともに、 キャリアカウンセリングが個別に有効に機能し、 一人ひとりのキャリアに関 する相談に応じる中でその役割を果たすことが欠かせない。
カウンセリングには大別すれば、 「なおすカウンセリング・治療的カウンセリング」 と 「育てるカウ ンセリング・開発的カウンセリング」 があるが、 キャリアカウンセリングは、 2番目の 「育てる、 開発 的カウンセリング」 であり、 現在から未来を展望して自分の生き方、 働き方を考え、 キャリア開発、 キャ リア形成、 キャリア設計のための支援と指導を行うカウンセリングである。 そして、 一人ひとりの生き ること、 働くことへの意欲・態度、 職業能力を育て、 キャリアを開発支援するカウンセリングとして位 置づけられている。
アメリカの全米キャリア開発協会:NCDA (National Career Development Association) はキャリ アカウンセリングを次のように定義している。 「個人がキャリアに関してもつ問題や葛藤の解決ととも
に、 ライフキャリア上の役割と責任の明確化、 キャリア計画、 決定、 その他のキャリア開発行動に関す る問題解決を個人またはグループカウンセリングによって支援することである」。 この NCDA の定義 にも見られるように、 キャリアカウンセリングは単なる個人と仕事 (進路) をマッチングさせることに よって、 仕事を見つけるため、 進学 (就職) 情報提供のためのカウンセリングではない。 個人の生涯発 達を視野にいれながら、 個人のキャリア開発、 キャリア形成、 キャリア設計の支援を幅広い視点から行 い、 自己実現へ向けたキャリアに関するさまざまな問題解決を側面から支援するカウンセリングである。
自己理解の支援としては、 ①自分は何をしたいのか、 自分はどうありたいのか、 ②自分は何に興味・
関心があるのか、 自分は何が好きなのか、 ③自分が得意なこと、 上手なこと、 強みといえることは何か (弱みは何か) ④自分が大切にしたい価値 (価値観) とは何か、 ⑤自分の役割と責任は何か、 ⑥自分は 具体的にどのように行動すべきか、 などについてカウンセリングを通して、 生徒・学生に自己洞察させ、
自己理解を深める支援を行う。 また、 これらは、 個別のカウンセリングだけではなく、 グループカウン セリングも有効である。 同学年、 同年齢や同じようなキャリア上の問題や悩みを抱える人達がグループ を組み、 話し合い、 意見や情報を交換し合うことは、 自己理解・他者理解と深い自己への気づき促す上 で大変効果的である。
キャリアカウンセリングの主な目的は次のようにまとめることができる。
① ライフキャリアに関する正しい自己理解を促す
② ライフキャリア設計、 キャリア計画、 キャリア開発の支援を行う
③ 進学・職業選択、 進路選択、 意思決定の支援を行う
④ キャリア目標達成のための方略の支援を行う
⑤ キャリアに関する情報提供を行う
⑥ 学校、 職場、 環境へのよりよい適応、 個人の発達の支援を行う
⑦ やる気、 意欲、 自尊感情の維持と向上の支援を行う
⑧ キャリア不安、 葛藤などのキャリアにまつわる情緒的な問題の解決支援を行う。
また、 キャリアカウンセリングは生徒 (学生) のみならず、 保護者に対するカウンセリングも必要で ある。 現代は保護者が遠い昔、 自分の進路選択を行った時代とはその時代背景は大きく変化しており、
こうした相違を調整するためにもカウンセラーは保護者の相談にものり不安をうけとめ、 問題解決の支 援を行い、 保護者を支えることも今日、 キャリアカウンセラーに求められる大切な役割である。
専門のキャリアカウンセラーの支援だけではなく、 教員自身も日々生徒や学生の相談に適切に応じる ことができるように、 キャリアカウンセリングを身につけることが必要である。 そこで、 教員に対する キャリアカウンセリング習得のためのキャリアカウンセリング研修の実施、 研修プログラム内容のさら なる充実が求められている。
10. 大学におけるキャリア教育
社会労働環境の激しい変化、 組織・企業のあり方、 採用・雇用のあり方も以前とは大きく変化してき たことからも考えると、 大学での教育、 指導、 就職支援のありかたとその内容は、 時代の要請に合わせ て変化して当然であるといえる。 また、 これまでにも述べてきたように、 フリーター・ニートなどの急 激な増加問題をうけて、 その増加を防止し、 こうした若者の就業・自立支援、 また、 卒業後3年以内に
早期離職する若者の増加を防止するための問題解決を行うこととともに、 学生たちが自分自身の大学卒 業後の進路を入学直後の早くから考え、 キャリア形成を意識し将来のキャリアについて主体的に考え、
計画し、 キャリア開発努力を行い自己実現を果たす支援を行うためには、 大学における 「キャリア教育」
は非常に重要な意味を持つようになってきた。
かっては、 大学3年の後期からそろそろ卒業後の進路、 就職について考えるのが一般的であった。 そ のため入学後の1、 2年間は入学試験からの解放も加わり、 特にキャリア意識も無く、 何もしないまま にあっという間に時間は過ぎ、 気づいてみればすでに3年の後期という状態であった。 卒業後の進路に ついて考えることは3年後期でも十分に間に合った時代はとうに去った。 いまや、 大学卒業資格だけで はなく、 大学時代に自らに付加価値をつけ、 他者とは異なる自分自身の価値と特性を身につけることが 求められるようになった。 どこの大学を卒業したのかだけではなく、 「何ができる人なのか、 専門性と してどのような知識やスキルを持っているのか、 どのような優れた人間性や能力を備えた人物なのか、
また自己の能力開発に関し大学時代にどのような努力を具体的に行ってきた人物なのか」 などが厳しく 問われ、 組織や企業から採用に値する有能な人材かどうかを選別される時代である。
したがって、 大学の4年間を通して、 1年次から自分がどのようなキャリア計画を行い、 具体的に大 学時代に何を学び、 何を身につけ、 どのような強み、 能力や専門性を身につけるのかについて明確化し、
卒業後社会においていかなる仕事を通して人間として 「自立」 し、 社会に貢献できる人間になるかにつ いて考え、 明確な目標をもつことは、 すべての学生にとって大学時代の課題として存在している。 その ためには、 入学後の早い時期から学生ひとり一人に自分の将来設計について考える機会を与え、 「自分 らしく生きること、 働くこととはどのようなことか」 「自分はどのような人生を送り、 どのような職業 に携わりたいのか」 そのために 「大学で何を学ぶか、 何を身につけるのか」 をじっくり洞察させ考える 機会を与えることが欠かせない。 そして、 キャリア教育を大学での専門教科に対する学びへの動機づけ、
積極的な学習意欲・学習態度形成に連動させていくことが必要であろう。
すなわち、 キャリア教育を通した学生へのキャリアサポートは単なる就職支援ではなく、 大学での学 びへの動機づけ支援にも連動するものである。 そして、 キャリア教育は単独の別枠の教科ではなく、 大 学教員が教育担当するすべての学問、 教科のなかに含まれているものである。 したがって、 もはやキャ リア教育は大学内において、 単にキャリアサポート担当部署だけの仕事ではなく、 大学教員、 職員全体 の仕事であるといえる。
また、 大学にとっても、 少子化のなかで大学としてその独自性と個性、 存在感を明確化し、 社会に貢 献する有能な人材を多数輩出する質の高い大学として冬の時代を生き残るためには、 学生に対しどのよ うな特色ある教育を行い、 どのような学習環境とその機会を提供できるのか、 学生のニーズ・要望に的 確に対応できる大学であるか、 出口の卒業時にはどのような卒業生を輩出できるか、 などが問われてい る。 ゆえに、 大学での 「キャリア教育」 とそれにともなう個別のキャリア相談 「キャリアカウンセリン グ」 の充実は、 現代の社会の要請のみならず、 高校生や大学生、 保護者など家族からの期待にも応える ための大切な要因である。 そして、 今後大学の入口で優秀な受験生、 入学する学生を確保するためには、
大学の出口のところで優秀な卒業生を輩出する大学であることを証明することが重要な鍵を握ると思わ れる。
11. 立正大学におけるキャリア教育
現在立正大学では 「キャリア開発基礎講座、
, 、 」、 インターンシップなどを、 キャリアサポー トセンターが積極的に展開し、 入学後の大学1年生から2年生、 3年生にいたるまで、 継続して系統的 なキャリア教育を実施している。 具体的なキャリア教育プログラム内容は、 表2、 3、 4に示すとおり であり、 その目的は学生に入学直後から自分のキャリア形成について考えさせ、 キャリア意識を涵養し、4年間の具体的キャリア開発目標を明確化させ、 自己の付加価値を高める努力を行うことへの動機付け を行っている。 そして、 この講座では、 就職活動の方法、 職業に関する知識・情報を提供し、 適性の診 断、 話す・聞く、 読む・書くコミュニケーション能力の育成などもキャリア形成上の大切な課題として、
キャリア開発基礎講座のなかに含めている。
これまで立正大学において 「キャリア開発基礎講座」 を受講した学生のアンケート結果 (図−6、 7、
8) と自由記述式の感想をまとめると下記に示すとおりである。
図6の結果によれば、 キャリア開発基礎講座
を受講した大学1年生が講座から得たもので目立つの は、 自分が何をしたいのか、 どのような仕事をしたいのかが明確になった (86.4%)、 就職、 卒業 後の進路について考えるようになった (81.8%)、 就職活動の仕方に関する知識が深まった (68.2%)、 大学時代に自分が何をすべきかが明らかになった (63.6%) などがあげられている。 また、 大学2年 生では、 1年生と同様就職、 卒業後の進路について考えるようになった、 自分が何をしたいのか、どのような仕事をしたいのかについて考えるようになった、 は共に75.2%、
必要な資格などについて の知識が得られた (66.7%)、 大学時代に自分が何をすべきかが明らかになった (56.3%) があげら れている。 そして、 3年生では、 就職、 卒業後の進路について考えるようになった (79.7%)、 履 歴書、 エントリーシートの書き方などが分かった、 仕事、 各業界に関する知識が得られた (56.1%)、 就職活動の仕方に関する知識が深まった (54.5%) などが講座から得られたものとしてあげられてい る。 しかし、 3年生の課題としてまだ自己理解に関する部分の評価が低いことが今後の講座の課題となっ ている。また、 自由記述による感想については次のような感想が寄せられている。 これらの感想からは、 自分 のキャリア形成への関心、 自己理解、 学習への動機付け、 具体的な就職活動の知識・情報の獲得などが 講座を通じてなされ、 キャリア開発講座が学生のキャリア形成に大いに役立っていることが分かる。
○大学1年生の感想
・大学の4年間を無駄にしないようにするためには、 自分と向き合い、 自分を知り、 自分が何をしたい のかを大学時代に見つけたいと思った。
・1年に入学したばかりだが、 4年後の卒業時に単に卒業証書をもらうためだけではなく卒業して社会 に入るためには、 実力をつけることの必要性、 資格などもとり、 大学時代に自分を磨くことの大事さ や必要性を痛感し、 そのためには今からスタートするべきだと思えるようになった。
・大学4年間の過ごし方を考えさせられた。 税理士を目標として一歩、 一歩進んでいこうと思いました。
外的なことにとらわれず自分らしく生きていく、 時間を大切にしたい、 できるだけ計画を立てていこ うと思う。
・自分がこの4年間、 真剣に何をするか考えようと思った。
表2 立正大学キャリア開発基礎講座プログラム (1年) キャリア開発基礎講座
1回 「キャリアとは何か、 人生をどう過ごすか考えてみよう」
2回 「自己理解の意義、 内容、 方法」
3回 「働く意義を考え、 さまざまな職業を知る」
4回 「自分に合う職業の見つけ方」
5回 「社会環境を知り、 やりたい仕事の将来性を考える」
6回 「働く空間とシーンをイメージする」 自己発見レポート配布 7回 「人生を切り開く能力とは、 社会が求める能力と発揮したい能力」
8回 「社会のしくみと職業人意識」 YES プログラム対応 9回 「よい人間関係を築く、 マナーの基本」 YES プログラム対応 10回 「対人コミュニケーションの基本、 聴く力」 YES プログラム対応 11回 「自己表現力・話す力を高める」 YES プログラム対応 12回 「自分のキャリアを描いてみよう」 キャリアデザイン作成
表4 立正大学キャリア開発基礎講座プログラム (3年) キャリア開発基礎講座
1回 「自分のキャリアの方向性を探る」
2回 「適職に就くための就職活動プロセス」
3回 「進路研究 業界・企業・職種をつかむ」
4回 「進路研究 進路選択の基準とキャリア形成」
5回 「職種に求められる能力を知り、 自分ブランドをつくる」
6回 「文書による自己表現法」
7回 「よい人間関係構築のための人間力づくり」
8回 「面接力をつける」
9回 「基礎学力を強化する 言語能力」
10回 「基礎学力を強化する 論理構成力」
11回 「専門職員が教える、 就職先の見方」
12回 「自己表現の総合演習」
表3 立正大学キャリア開発基礎講座プログラム (2年) キャリア開発基礎講座
1回 「豊かな人生・キャリアの方向性について考える」
2回 「自分に合った仕事の調べ方」
3回 「ワークスタイルを知り、 自分らしい働き方を考える」
4回 「さまざまな職業の現状と将来性」 5回 「さまざまな職業の現状と将来性」
6回 「さまざまな職業の現状と将来性」 自己プログレスレポート配布 7回 「なりたい職業ではどんな人材を求めているか」
8回 「文章表現力を高める」
9回 「自己表現力を高める」
10回 「プレゼンテーション力を高める」
11回 「ディスカッション力を高める」
12回 「キャリアをデザインする」