奈良教育大学学術リポジトリNEAR
エステル類の電気化学的研究 非水溶媒中における 安息香酸メチルおよびその誘導体の電極反応
著者 新居 敏男
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 29
号 2
ページ 29‑39
発行年 1980‑11‑25
その他のタイトル The Electrochemical Studies of Esters The
Electrode Reactions of Methyl Benzoate and its Derivatives in Non‑aqueous Solvents
URL http://hdl.handle.net/10105/2411
エステル類の電気化学的研究
非水溶媒中における安息香酸メチルおよびその誘導体の電極反応 新 Ir‑ w
(化学教室) (昭和55年4月30日受理)
The Electrochemical Studies of Esters
The Electrode Reactions of Methyl Benzoate and its Derivatives in Non‑aqueous Solvents
Toshio ARAI
(Department of Chemistry, Nara University of Education, Nara, Japan) (Received April 30, 1980)
Abstract
The electrochemical behavior of methyl benzoate and its 0‑, m‑ or p
‑substituted methyl benzoates has been carried out in dimethylformamide (DMF) by polarography and cyclic voltammetry.
The initial reduction is usually a one‑electron process which yields the corresponding anion radical. The redox potentials were obtained from cyclic voltammetry.
The effects of proton donor have been considered in order to clarify the role played by the protons in determining the electrode reaction mecha‑
msm.
1.緒 言
エステル類は,一般に難還元性で,緩衝溶液中ではポーラログラフ波を与えない.中谷らは1), ヨウ化テトラブチルアンモニウムを支持電解質として, 50%エタノール水溶液中でポーラログラ フ波を測定すると,安息香酸メチルなどの安息香酸アルキルは, ‑2.OV (vs. SCE)よりも負に 還元波を与えることを示し,また,チオフiンカルボン酸エステルやジカルボン酸エステルなど
の還元機構を検討している.
筆者らは2・3),さきに安息香酸アルキルおよびその誘導体のジメチルホルムアミド(DMF)中 におけるポーラログラフ的挙動を検討し,アルキル基の相異による安息香酸アルキルの還元電位 に対する効果,また,安息香酸メチルの0‑, m‑またはp‑置換体の還元電位や還元機構に対す
29
m 新 居 敏 男
る置換基効果を報告した.
最近, F. Magno らはォ'5¥ DMF中での安息香酸フェニルのサイクリックボルタンメトリー (CV)やクロノアンペロメトリーによる測定から,安息香酸フェニルがDMF中で生成するア ニオンラジカルは,その寿命が比較的短かく,そのアニオンラジカルは,定電位電解によりフェ ノキシドイオンが脱離する,その結果,生成するベンゾイルラジカルが二量化して,ベンジルを 生成すると報告している.
このように, DMFのような非水溶媒中では,還元により生成するラジカルが,種々の化学反 応を行なうので,エステル類の非水溶媒中における還元反応は,極めて興味深い.
筆者は,安息香酸メチル誘導体のDMF中における還元機構を明らかにするため,この報告で は,まず,それらのCVによるアニオンラジカル生成の酸化還元電位や,そのアニオンラジカル の安定性をしらべ,ポーラログラフ的挙動と,比較検討を行なった.また,プロトン供与体とし て, DMF中にフェノールや水を加えた場合の還元波に対する影響については,特にテレフタル 酸ジメチルとニトロ安息香酸メチルの挙動について述べる.
2.実 験 法
ポーラログラフによる測定は,既法2・3)と同様である. CVによる測定は,日厚計測製の Function Generator NFG‑3 と Dual Potentiogalvanostat DPGS‑1を用い,理研電子製ⅩY Recorder D72‑B で記録した.走査速度が 0.3V/sec 以上の場合には,岩通シンクロスコープ Model SS‑5157 を用い,ポラロイドカメラで撮影した.指示電極は,柳本製Glassy Carbon
電極(直径約 5mm)と,吊り下げ水銀電極を使用した.
次に試薬類について述べる. DMFはド‑タイトスペクトロゾルを使用し,支持電解質は0.1 Mの過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAP)を用いた.エステル類は市販品を再結晶また は,蒸留して使用した. CVによる測定は,すべて窒素気流下で行ない,また,測定は室温で行 t^sm
3.実験結果と考察
測定した安息香酸メチルおよびその誘導体のポーラログラフ特性を表1に示した.また, CV
Table I. DC and AC polarographic data for methyl benzoate and its derivatives in DMF containing 0.1 M TEAP at 25oC
‑El/2(V vs. SCE)
1 2 3 4
I‑id/c mTt
Ii la ls u
‑Es(V vs. SCE) Methyl benzoates
None
〟 ‑COOCH3 7サーCOOCH3
♪ ‑COOCHa C6H5OH 20 mM
2.19 1.94 2.35 1.94 2.75 1.64 2.22 1.63 2.02 2.26
2.2 2.1 1.4 2.1 1.4 2.1 1.9 2.0 2.8 9.6
1 2 3 4
64 2.23 2.33
1 2 3 4
0.5 0.5 0.5 0.5 0.3
0.5 0.25 0.25
♪‑COOH 0 ‑OH m‑OE クーOH m‑Br p‑Br
〟‑N02
CeHsOH 20 mM w‑N02
/> ‑N02
C6H5OH 20 mM l‑CHO
1.60 2.25 2.09 2.21 2.40 1.98 2.23 1.86 2.24 0.98 1.76
0.98 1.63 2.07 2.44 0.98 1.86 2.35 0.86 1.59
0.85 1.31 2.30 2.61 1.36 2.03 2.31
2.1 2.0 2.1 1.4 1.0 4.3 2.2 4.4 2.3 2.0 4.8
2.2 5.3 2.2 2.0 2.1 4.7 3.6 2.0 3.6
2.2 5.7 3.5 4.5 2.0 1.9 0.25
1.59 2.25
・US
I*
;:; :‥05: 2.37卦: o・乃::
によるそれらエステル類のラジカル生成の酸化還元電位(E‑)や,還元波高Ope)と,再酸化波 の波高Opa)との比などのデータを表2に示した.
Table II. Data from the cyclic voltammetry of methyl benzoate and its derivatives in DMF containing OJ M TEAP
Methyl benzoates ‑ E‑
(V vs. SCE) None
0 ‑COOCHa w‑COOCHs
* ‑COOCHg クーCOOH o ‑OH
m‑OE l ‑OH 0‑OCOCH3
m‑Br クーBr o ‑N02 m‑N02
♪ ‑N02 o‑C6H5CO クーCHO
2.19 1.90 1.95*
1.62 2.17 2.07 2.25*
2.45*
2.13 2.21 2.19 0.98 1.00 0.89 1.73 1.36
1・。竺L。(Moo竺一
t
‑ i t s i n s t o o a
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‑ o o
ゥ i‑I O I‑I tH i‑I ゥ ゥ
^pc E3 蝣E‑pe
(V vs. SCE)
2.18 1.64** 2.55
2
8
2
3 0
4 3 6
SK3K3I
* ** *
o o i d i n n a m i n S O O N I D N ' V O N N H r i H H H N
E‑‑l/2 (Epa+Epc). *E‑ are the cathodic peak potentials.W
E*c, E^c and E* are the peak potentials for further reduction of the anion radical. 榊Eg are the first peak potentials.
Electrode : Glassy carbon electrode.
Scan rate : 0.1 V/sec.
新 居 敏 男
次に,これらのデータとサイクリックボル タモグラムとから,それぞれの化合物の挙動 について述べる.
1.0 2.0 3.0
‑E(YvS.5CE )
Fie.l Cyclic voltammogram of 1.0 mM dimethyl phthalate in DMF containing 0.1 M TEAP.
Electrode : Glassy carbon. Scan rate, 0.1 V/sec.
10pA
1.0 2.0 3.0
‑E(Vvs.SCE)
Fig.2 Cyclic voltammogram of 1.0 mM dimethyl isophthalate in DMF containing 0.1 M TEAP. Electrode: Glassy carbon. Scan rate, 0.1 V/sec.
3.1 フタル酸ジメチル
フタル酸ジメチルの三異性体のうち,0‑フ タル酸ジメチルとm‑フタル酸ジメチル(イ ソフタル酸ジメチル)は,表1のポーラログ ラフ的挙動から, 1電子ずつの2段の還元波 を与え,第1波はいずれも高い交流波高を示 すので,可逆的にアニオンラジカルを生成す
ると考えられる.
しかし,表2と図1に示したように, CV では,0‑フタル酸ジメチルは,走査速度V‑
0.1 V/secで, v/V‑0.92 となり,生成す るアニオンラジカルは,あまり安定ではな い.走査速度をv‑lV/secまで増大させる と,ほぼ等波高の酸化還元波が得られた.
m‑ フタル酸ジメチルは,図2にみられる ように v‑0.1V/secの走査速度では,殆ん ど再酸化波を与えず, v‑20V/secまで走査 速度を増加させると,第1波のtpa/lpcの値
は,ほぼ1となる.このように,立体効果の 大きいと考えられる 0‑フタル酸ジメチルの アニオンラジカルは, m‑ フタル酸ジメチル のそれよりも,かなり安定である.
l‑フタル酸ジメチル(テレフタル酸ジメチ ル)は,表1よ り1電子波高の2段波を与 え,いずれも高い交流波を示すことから,次 式のように, 2段の還元により,キノイド構 造をとると考えられる.
H3CO¥・Oく:H3COv CH.。・沓<o"
。CH3
e‑ ㌔3CO\
T‑ ‑o/
I l m
v8や
しかし,表2と図3に示したように,走査 速度v‑0.1 V/secでは,その第2波は,再 酸化波を示さない.走査速度を増加させてゆ くと,第2波の再酸化波は,その波高を増大 しv‑25V/sceでは,第1波および第2波 は,いずれもほぼ等波高の酸化還元波を与え ることがわかった.したがって,第2波で生 成するキノイド構造は,あまり安定ではな
く,化学反応により,約‑0.7Vに酸化波を 示す生成物となる.このDMF中での定電位 電解による生成物については,現在検討中で
SサmI
次に,l‑ フタル酸ジメチルのプロトン供 与体の存在における還元について述べる.ま ず, DMF中にフェノールを加えて,その濃 度を増加させると,図4にみられるように, 第1波の挙動は,ほとんど変化しないが,第
2波の直流波高は増加し,フェノール濃度が 20mMでは,全合波高は,第1波のそれの 7.3倍となり,また,第2波は,交流波から,
OOI J 、・、C
1.0 2.0 3.0
‑E(Vvs.SCE) Fig.3 Cyclic voltammogram of 1.0 mM dimethyl
terephthalate in DMF containing 0.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon. Scan rate, 0.1 V/sec.
wHt
1.0 2.0 3.0
‑E( Tvs.5CE) Fijj.4 DC and AC polarograms of 1.0 mM di‑
methyl telephthalate in DMF contain‑
ing 0.1 M TEAP. Curves (a) none, (b) 10 mM and (c) 20 mM concentration
of phenol.
1.0 2.0 3.0
‑E(Yvs.SCE )
Fig.5 DC polarograms of 1.0 mM dimethyl phthalate in volume % water‑DMF mixture containing 0.1 M TEAP.
m 新 居 敏 男
やゝ可逆な2段の合波であることがわかる.
同様に,含水DMF中での挙動を検討した.図5にみられるように,DMF中の水の含量を増 加させると,まず,第2波の波高が増大し,つづいて,第1波の波高も増大しtz.40%含水DM F中では,ほぼ等波高の2段波となり,それぞれの波高は4電子波高に相当する*.
したがって,還元電子数から考えると,p‑位の2つのエステル基は,まず一万のエステル基が アルコールにまで還元され,つづいて,やや負電位で,他のエステル基が還元きれて,テレフク リルアルコール(p‑キシレングリコール)になるのではないかと推定される.
H3CO.¥
(/尊く4e‑+4H+>HOH2C O.CH3沓く4er+^>HOH2C OCH3督CH2OH
‑CHO
‑ cooCH3
1.0 2.0 3.0
‑E(Vvs.SCE)
Fig.6 DC and AC polarograms of 1.0 mMp‑sub‑
stituted methyl benzoates in 40 volume % water‑DMF mixture containing 0.1 M TEAP.
また,安息香酸メチルの♪一位にそれぞれ アルデヒド基とオキシメチル基を有するテレ フタルアルデヒド酸メチルとオキシメチル安 息香酸メチルの40%含水DMFLTlでの還元波 を測定し,p‑フタル酸ジメチルのそれととも に図6に示した,すなわち,エステル基に対
して, A‑位にあるアルデヒド基は2電子波 高を示し,また,♪一位のオキシメチル基は還 元波を示さないが,いずれも後続する還元 波は,クーフタル酸ジメチルの第2波と同様 な還元波を与え,この結果からも,クーフタ ル酸ジメチルの40%含水DMF中での第1波 は,エステル基がオキシメチル基まで還元さ れることが明らかとなった.
以上の結果は,中谷ら1)による50%エタノ ール水溶液中での定電位電解による還元の結 果と一致する.また,水素化ナトリウムアル ミニウムによる化学的還元にも対応してい る.しかし,化学的還元では,両方のエステ ル基がアルコールまで還元されるが,定電位 電解還元では,一万のエステル基のみを直接 アルコールまで還元することが可能で,パイ ロットプラントで,カルボメトキシベンジル アルコールの製法に利用されているようであ る.
DMF中に水を加えると,粘度が増大し,拡散電流値は小さくなる.したがって,直流波高から電子数を 推定する場合には補正が必要である.次の文献を参照.
T. Fujinaga, K. Izutsu and K. Takaoka, J. Electroanal. Chem., 12, 203 (1966).
Lund ら6)は,塩酸酸性水溶液中で,芳香族エステルの定電位電解によ りア)Llデヒドを得てい る.また,エステル類をナトリウムに対して不活性な溶媒中でナトリウムと加熱するとアシロイ ンが生成し,さらに,緒言でも述べたように, DMF中で安息香酸フェニルは,還元によりベン ジルを生成することが報告されている.したがって,すでに述べたように,フタル酸ジメチルの DMF中における還元生成物を明らかにして,反応機構を確立する必要がある.
3.2 ヒドロキシ安息香酸メチル
表1より, 0‑置換体のEy2は, A‑置換体のそれにくらべて,大巾に正の値を示し,交流波を 与えるが, m‑およびp‑置換体の直流波の波高が低く,やや寝た波で,また,交流波も示さな い.表2と図7のCVにおいても同様な傾向を示し, 0‑置換体のみが再酸化波を与え,アニオ ンラジカルを生成することがわかる.これは, 0‑置換体は,分子内水素結合を作っているため ではないかと考えられるが, m‑およびp‑置換体の挙動については,明らかではない.
1.0 2.0 3.0 0
‑E(Tvs.SCE )
Fig." Cyclic voltammogram of 1.0 mM methyl o‑hydroxybenzoate in DMF containing O.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon.
Scan rate, 0.1 V/sec.
1.0 2.0 3.0
‑.E(Yvs.5CE )
Fie.8 Cyclic voltammogram of 1.0 mM methyl クーbromobenzoate in DMF containing O.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon.
Scan rate, 0.1 V/sec
3.3プロモ安息香酸メチル
プロモ安息苗酸メチルのm‑およびp‑置換体は,ホ‑ラログラフ特性とCVによるデ‑タお よび図8から,いずれも,その第1波は2電子還元で脱臭素波であり,第2波は,脱臭素した, 安息香酸メチルの還元波と推定される.
Br一瞥くOOCH3→‑0‑くOOCH3伊c/o"
¥OCH‑
3.4ニトロ安息香酸メチル
ニトロ安息香酸メチルの三異性体のポーラログラフ的挙動については,すでに報菖した2).簡単
新 居 敏 男
1.0 2.0 3.0 0
‑E(Vvs.5CE)
Fig.9 Cyclic voltammogram of 1.0 mM methyl o‑nitrobenzoate in DMF containing O.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon.
Scan rate, 0.1 V/sec.
1.0 2.0 3.0
‑E( Vvs.SCE)
Fig.ll Cyclic voltammogram of 1.0 mM methyl クーnitrobenzoate in DMF containing O.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon.
Scan rate, 0.1 V/sec.
Fig.10 Cyclic voltammogram of 1.0 mM methyl m‑nitrobenzoate in DMF containing O.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon.
Scan rate, 0.1 V/sec.
にのべると,表1にみられるように,三異性 体の第1波はいずれも高い交流波を与え,可 逆的にアニオンラジカルを生成する. m‑置 換体は3段波を示し,第2波はラジカルのニ トロ基がオキシアミノ基へ還元され,第3汐 は交流波を与え, m‑アミノ安息香酸メチル のE塊の値に近いことからエステル基の還元 に対応する.しかし, 0‑置換体は,隣接位置 のニトロ基とエステル基との立体効果によ
り,第3波を示さない.次に, p‑置換体は2 段波のみであるが,その第2波も交流波を与 え,また,直流波高も 0‑およびm一置換体 のそれに比べて低い.したがって,テレフタ ル酸ジメチルの還元の場合と同様に,第2波 の還元でキノイド構造をとるが,このキノイ
ドが不安定で,さらに還元が進むのではない かと思われる.
次にCVによる表2のデータと,図9‑ll のサイクリックボルタモグラムとから,これ
ら三異性体の還元は,ポーラログラフ的挙動
に対応することがわかる.すなわち,三異性体の第1波の^pa/^pcの値はいずれも1であり,安定 なアニオンラジカルの生成である.第3波は,ポーラログラフ的挙動で,交流波を与えるので, エステル基の還元に対応すると推定できるが, CVでは明瞭な再酸化波が得られないので, CV 法のみではエステル基の還元とは云いきれない.これは, p‑アミノ安息香酸メチルのCVについ ても同様であるが,安息香酸メチルのl一位に電子供与性のアミノ基やヒドロキシルアミノ基が 置換されると,それらの還元電位が負に移行して,支持塩の立ち上りに近くなるため,明瞭なサ
イクリックボルタモグラムを得にくいという点にも原因があると思われる.
DMF中にプロトン供与体としてフェノールを加えると,表1にもみられるように,三異性体 はいずれも4段波を与える.その第4波は,交流波を与えるので,エステル基の還元に対応する と考えると,フェノールの存在では,次式のように還元が進むと考えられる.
NH0日
二三三三 ≒二子
COOCH‑, COOCH, ‑C‑0‑CH, '0 フェノ‑ルを加えたDMF中でのこれら三異性体のCVは,ポーラログラフ的挙動と同様であ るが,フェノールの存在では,再酸化波を与えないので,あまり有効なデータとはなり得ない.しかし,指示電極として,水銀吊り下げ電極を用いると興味ある結果が得られた.これを上記 のニトロ基の2段の還元について述べる.
1.0 2.0 3.0
‑E( Vvs.SCE )
Fig.12 Cyclic voltammogram of 1.0 mM methyl
♪‑nitrobenzoate in DMF containing O.1 M TEAP. Electrode : Glassy carbon.
Scan rate, 0.1 V/sec.
MF中には,フェノールを加えた.まず, ‑1.8V
まず, Glassy Carbon電極を用いて, p‑
ニトロ安息香酸メチルのニトロ基の還元によ るサイクリックボルクモグラムを図12に示し た.負方向に走査して, ‑2.20Vで正方向に 折返すと ‑0.58Vに新しく再酸化波(a)が 堀われる.そのEpaよりもやや正の電位で負 方向に折返すと, aに対応する再還元波(b) と新しい再還元波(C)とが得られる ‑0.58V から正方向にOVまで走査しても再酸化波は 与えない.これらのa,bおよびCは,ニト
ロ基の還元により生成したヒドロキシルアミ ノ基が,正方向への走査で酸化きれ, aでニ トロソ基となる. aとbは,ニトロソ基の酸 化還元波で, Cはニトロソ基の還元の第2波 となる.これらは,ニトロソベンゼンなどの 挙動について知られている.
次に,水銀吊り下げ電極を用いて同様にニ トロ基の還元波を測定し,図13に示した. D まで負方向に走査し,そこで60秒定電位電解 後,正方向に走査するとGlassy Carbon電極の場合にみられたaとbの酸化還元波以外に,さ
新 居 敏 男
1.0 2.0 3.0
‑E( Vvs.SCE )
Fig.13 Cyclic voltammograms of 1.0 mM methyl />‑nitrobenzoate in DMF in the presence of lO mM phenol, containing 0.1 M TEAP.
Electrode : Hanging mercury electrode.
Scan rate, 0.1 V/sec.
らに正電位にdとe の新しい酸化還元波が みられる.このさい, aのピークよりもやや 正の電位で,負方向に走査させるとbの波高 は低い. OVまで走査して,すぐ折返すとe は1段波であり,またbもその波高はあまり 増大しない.しかし, OVで定電位電解後, 負方向に走査させると(・一・一・一・‑) eは2段に分れ,また, aに対応する再還元
波bは大きな波高となる.
このようなd と eに相当する酸化還元波 は,水銀吊り下げ電極を用いたニトロソベン ゼンの還元の場合について知られていたが, Galusら7)は,最近,ニトロソー,アゾキシ
‑およびアゾーベンゼンをDMF中で還元し た場合,支持電解質として,アルカリ金属の 過塩素酸塩を用いた場合にのみ,このような 酸化還元対が得られるとして詳細に検討して いる.その結果,Galusらは,ニトロソベン ゼンの還元により生成するアゾベンゼンのジ アニオンが水銀に吸着された場合にこの一組の波が観察され, TEAPを支持電解質に用いると酸 化波のみしか観測されないと結論している.筆者の還元では TEAPのみを用いており,また,
フェノールを加えたのはフェノールの存在で d とeの波が大きく現われるためである.ニトロ 基の還元は, 2段でフェニルヒドロキシルアミノ基となると考えられているが,フェノールの存 在で‑1.8Vで定電位電解を行なうと,アゾキシベンゼンやアゾベンゼンも生成する可能性があ
り,さらに検討する予定である.
3.5 その他のエステル類
表2の0‑アセトキシ安息香酸メチルと0‑ベンゾイル安息香酸メチルの両化合物は,いずれも エステル基のオルト位に大きな置換基をもつが,それらのEOは,安息香酸メチルのそれよりも正 のEO を与えた.この結果は,フタル酸ジメチルのEO も同様で,これらはベンゼン環に置換さ
‑I‑ ‑モー y
れる1‑0‑ ‑0̀ 『 が,いずれも平面構造をとるため,立体
0 0 0
効果が少ないと考えられる.クーカルボキシ安息香酸メチルの第1波の波高は低く,非可逆で,カ ルボキシル基の水素の還元波であり,第2波でエステル基がアニオンラジカルを生成すると考え
られる.
おわりに,この研究に御協力をいただいた前田真千代,山本英子,花崎史子の諸氏に厚く謝意 を表する.
4.文 献
1)中谷純‑,木下 宏,小野慎一,日化, 78, 935 (1957).
2)新居敏男,土橋 勝,藤永太一郎,電気化学, 34, 144 (1966).
3)新居敏男,日化, 89, 188 (1968).
4) F. Magno and G. Bontempelli, J. Electroanal. Chem., 68,337 (1976).
5) R. Seeber, F. Magno and G. Bontempelli, J. Electroanal. Chem., 72, 219 (1976).
6) P. E. Iverson and H. Lund, Acta Chem. Scand., 21, 389 (1967).
7) M. Lipsztajn, T. M. Krygowski and Z. Galus, J. Electroanal. Chem., 81, 347 (1977).