岡本百々子 論文内容の要旨
主 論 文
Life prognosis and renal relapse after induction therapy in Japanese patients with proliferative and pure membranous lupus nephritis
(日本人における増殖型・膜型ループス腎炎患者における寛解導入療法後の 生命予後と腎再燃についての検討)
岡本百々子 北村峰昭 佐藤俊太朗 藤川敬太 寶來吉朗 松岡直樹 坪井雅彦 野中文陽 清水俊匡 古賀智裕 川尻真也 岩本直樹 玉井慎美
中村英樹 折口智樹 西野友哉 川上純 一瀬邦弘 (Rheumatology in press.)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学共同専攻 (主任指導教員:川上 純 教授)
緒 言
全身性エリテマトーデス (SLE) は、慢性的な全身性の臓器病変を合併する自己免疫 疾患である。その中でもループス腎炎 (LN) はSLE 患者の約 25~50%に認められ、
生命予後にも影響する。積極的な治療介入にも関わらず、LN 患者の約 5~20%は末 期腎疾患 (ESRD) に進行する。国際腎臓病学会/腎病理学会 (ISN/RPS) の Class V の膜性LN (MLN) は、Class IIIまたはIVの増殖性LN (PLN) よりも腎予後が良好 であると考えられているが、約10%の患者ESRD へ進行すると考えられている。現 在、本邦において PLNとMLN の生命予後や腎再燃を比較した報告はない。今回、
長崎大学病院および関連施設で治療を受けた PLNまたはMLN 患者を対象に、寛解 導入療法開始後12 カ月の完全寛解 (CR) 達成の予測因子、および長期経過における 生命予後と腎再燃についてPLN群とMLN群で比較した。
対象と方法
腎生検でLNが確認され、1993年から2016年までに長崎大学病院および関連病院 で治療をうけた172例を後方視的に解析した。統計解析には複数の変数の群間比較に Wilcoxon順位和検定を、各変数の因子と治療との関連性はFisherの正確検定を使用 した。腎生検後の腎再燃までの期間、生存期間に関するデータは、Kaplan-Meier 法 で解析した。
結 果
解析は、欠損データや既存の腎疾患を含む症例を除外し、寛解導入療法開始後12カ 月のCR達成の予測因子および生命予後は140例を対象とした。また、腎再燃につい
てはその有無を追跡できた 81 例を対象とした。観察期間は 96 ヶ月 (四分位範囲:
44-168) 。140例中、PLN群は99/140例 (70.7%) 、MLN群は41/140例 (29.3%) であった。CR達成は PLN 50/99例 (50.5%) 、MLN 22/41例 (53.7%) にみられ、
CR非達成はPLN 49/99例 (49.5%) 、MLN 19/41例 (46.3%) にみられた。12ヵ月 後のCR達成の予測因子は、PLNではchronicity index (オッズ比[OR]:0.762、95% CI 0.581-0.998、p=0.038) 、MLNではCH50値 (OR:1.118、95%CI 1.022-1.222、
p=0.004) であった。観察期間中の腎再燃は、PLN群:19/59例 (32.2%) 、MLN群:
8/22例 (36.4%) であった。死亡例は、PLN群:5/99例 (5.0%) 、MLN群:2/41例 (4.9%) であった。Kaplan-Meier解析では、腎再燃 (p=0.52) と生命予後 (p=0.93) は PLN群とMLN群で有意差は認めなかった。
考 察
今回、日本人のPLN群およびMLN群の寛解導入療法開始後12ヵ月のCR達成の 予測因子、および長期追跡調査におけるLN患者の生命予後、腎再燃率を初めて明ら かにした。以前、我々は LN患者における寛解導入療法開始後12ヶ月のCR 達成の 有無がLN患者の生命予後および腎再燃に関連することを報告した。また既報では腎 再燃の有無が末期腎不全への移行や生命予後との関連があることも示されている。こ れらの知見により、我々は寛解導入療法開始後 12 ヶ月のCR 達成の予測因子を同定 することはLN患者の生命予後や腎再燃の予測に有用であると考えた。PLN群では、
腎 生検 組織 に おけ る chronicity index 低 値 が CR 達 成 と 有意に 関連 し て いた (p=0.026) 。また、MLN 群において、CH50 高値が CR 達成と有意に関連していた (p=0.004) 。CH50値は、SLEの臓器障害再発の予測因子であることが以前から知ら れているが、腎予後との関連はこれまで明らかになっていない。
本研究の特筆すべき結果として、寛解導入療法開始後12ヵ月にCRを達成したPLN 群とMLN群の間で、その後の生命予後や腎再発に有意な差は認められなかったこと が挙げられる。海外からの過去の報告では腎炎所見の強い PLN群の方がMLN 群に 比して長期的な生命予後や腎予後が不良であることが示されている。本研究の結果が 既報と異なっていた理由として、1) 人種差や社会経済的地位の潜在的な影響、2) 諸 外国との長期的な維持療法の違い、3) PLN群の予後の改善などが挙げられるが、今 後のエビデンスの蓄積が待たれる。今回の結果から、長期経過観察における生命予後 や腎再発率はPLNとMLNで有意差はなく、MLN患者においても導入療法後の維持 期のモニタリングについて PLN 群と同様注意深い観察が必要であることが示唆され た。