第 84 回獣医学会講演抄録
ストレスに対する行動学反応や神経内分泌学的応 答は,生命の維持活動に不可欠である。
一方,その反応性が高すぎる個体では,社会的生 活を営む上で妨げになることもあり,さらには鬱病 や高血圧,心筋梗塞などの罹患率が高まることさえ 知られている。ストレスに対する反応性が亢進する 神経科学的基礎の解明は,その原因の追及のみなら ず,治療法開発や社会的支援の充実などにもつなが る重要な研究課題といえよう。
一般に,発達期にある動物では,周囲環境からさ まざまな影響を受けることで,遺伝的に制御されて いる中枢神経のネットワーク構築が修飾され,それ ぞれの個体差を広げながら成熟していくことが知ら れている。この幼少期の社会環境,特に母子間の関 係の疎密が,成長後のストレス反応性に影響を与え ることが,マウスやラットなどのげっ歯類からヒト を含む霊長類まで広く認められている。
これまで私たちの研究室ではラットおよびマウス を用いた現在までの研究によって,母親から通常よ り 1 週間ほど早期に離乳することで,体成長には影 響を与えることなく,情動や行動の発達に特異的な 変容をもたらしうることを明らかにした。
具体的には早期離乳された個体では仔の成長後に
不安行動と攻撃性が上昇し,ストレス内分泌系が亢 進すること,またメス動物においては母性行動が低 下することなどを見出してきた。また発達期を通じ て不安行動の変容と情動行動とのかかわりが深い部 位である辺縁系の変化を追跡した。
マウスに早期離乳ストレスを負荷したところ,う つ病との関連が示唆されている海馬での神経細胞新 生が低下しており,脳重量も減少,さらには扁桃体 におけるミエリン形成の早期化が確認された。また 不安や攻撃行動を制御するとされているセロトニン 神経系の発達にも影響が認められた。
さらには前頭前野においては持続的な神経栄養因 子の低下が観察された。
これらの結果により幼少期の社会環境が神経系の 発達におよぼす影響は予想以上に大きく,持続的で あることが見出された。
現在,麻布大学伴侶動物学研究室ではこれら知見 をもとに,適正な犬との関係の構築を目標として,
犬の気質評価システムの開発と,日本盲導犬協会と の包括的研究協定に基づく盲導犬育成のための基礎 研究を開始した。
本発表では基礎研究結果に加えて,これら新しい 試みについても紹介する。
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