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マネタリズムの復興

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マネタリズムの復興

その他のタイトル The Revival of the Monetalism

著者 尾崎 康夫

雑誌名 関西大学社会学部紀要

15

2

ページ 1‑24

発行年 1984‑03‑28

URL http://hdl.handle.net/10112/00022755

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マ ネ タ リ ズ ム の 復 興

I. 序 説 、

第二世界次大戦中および終戦直後の諸年度においては,世界の多数の国々,その中でも特に,

主要な交戦国の政府当局は,実物的な経済活動の側面では,国民に対して,最低水準の生活を保 証すると同時に,戦争遂行のため,また,戦後の経済復興を推進して行く上に不可欠な,人的な らびに物的な諸資源の供給を確保し,同時に,このようなかたちの経済の運営に伴って,しばし ば,発生し,冗進するインフレーションを防止し,抑制するために,賃銀・物価の管理・統制と,

実物的な財貨や用役の配給制あるいは割当制を実施して来たということは,周知の通りである。

これに対して,財政・金融の側面においては,上記のような諸活動を円滑に遂行する上に必要な 資金や通貨を供給して行くために,大型の赤字財政々策と低金利政策を立案・実施して来たとい

うことも,また,明らかな事実である。

これに対して,戦争終結後は,それぞれの国の経済活動の,平時経済に向っての復婦が進展し て行くに従って,上述のような性格を備えた管理・統制が,次第に緩和され,同時に,配給制・

割当制も,つぎつぎに,それらが適用される範囲が狭められ,遂に,廃止されるに至ったという ことも,また,周知の通りである。その結果,ことに,戦争直後の諸年度においては,上述のよ うな方法による戦時経済の運営・実施に伴なって,すでに,戦争中から,潜在的に蓄積されて来 た,巨大な有効需要が,一挙に,顕在化して来た。その反面,このような巨大な有効需要を充足 するために,市場に向けて供給される生産物の供給能力は勿論,これらの生産物を生産し供給す るために必要な生産諸要因,その中でも特に,生産設備や輸送機関等の能力は,戦時中の爆撃等 による破壊・損傷や,その他のかたちの監路や障害の作用によって,著しく減退していたのであ る。その結果,それぞれの国によって,その程度と期間とに大きな差異があったが,多数の国々 において,ィンフレーションが発生し,冗進したというのが実情であった。さらに加えて,米国 以外の,多数の先進諸国の場合には,政府ならびに金融当局が,数度にわたって,対米為替レー トの引下げを実施したということも,また,これらの国々のインフレーションを,ますます,冗 進させ,それに伴なって,これらの国々の経済事情を悪化させ,同時に,戦後の経済復興を遅延 させた,有力な要因になったということも,また,事実である。

このような諸事情を背景にして,各国の政府ならびに金融当局は,それぞれの国の内部におい

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て,安定した経済状態を実現すること,経済的な諸活動を円滑に運営・実施して行くこと,なら びに,各種の経済活動の順調な成長・発展を促進することを達成目標にして,具体的な財政・金 融政策を立案・実施して来たのである。そこで,以下においては,考察・検討の対象を金融政策 だけに限定して,議論を展開して行くことにする。

ところで,政府ならびに金融当局が立案・実施する金融的な諸施策が,充分に,その実施効果 を発揮し,それぞれの,具体的な施策に対して賦課されている目標を達成し得るためには,これ らの諸施策が,経済理論,その中でも,特に,金融理論に,その拠りどころを持っているもので なければならないということは,改めて述べるまでもないことである。これに対して,近年,世 界の大多数の国々,その中でも特に,いわゆる,先進資本主義諸国において立案・実施されて来 た,金融的な諸施策の理論的な拠りどころになっていた経済理論の大部分が,ケインズ理論,す なわち, J.M.ケインズが, 例の, 「雇用•利子および貨幣の一般理論」1) において展開し,彼の 理論の後継者達(いわゆる,ケインジャン)によって,さらに,その精緻化と動学化が進められ て来た経済理論であったということは,あらためて,述べるまでもないことである。ところで,

このケインズ理論,あるいは,ケイジャンの経済理論は,周知の如く,その本質が,有効需要の 増加を促すことによって完全雇用を実現し,その結果,社会全体としての生活水準の向上を促進 するということを志向して,立案・実施される諸施策(いいかえると,不況の発現を防止し,さら に,不幸にして,一度,不況が発生した場合には,それがもたらす,望ましくない諸影響や諸効 果を減殺し,または,解消するために立案・実施される諸施策)の裏付になるような経済理論で あった。

これに対して,第二次世界大戦の末期から終戦直後の諸年度にかけては,世界の大部分の国々 の経済事情(その中でも,特に,交戦国であった諸国の経済事情)は,以下の通りであった。す なわち,これらの諸国の経済組織は,戦争によって,生産設備やその他の諸施設に,大きな被害 を蒙り,財貨や用役・便宜等の供給能力は勿論のこと,これらの設備または施設の稼働能力も,

戦前の水準に比較して,著しく減退していた。他方,これらの財貨や用役・便宜等に対する有効 需要として機能する購買力の方は,この時期までに,それぞれの国の政府当局が実施して来た,

莫大な軍事費の支出によって,著しく増加していたという情況下にあった。その結果,それぞれ の国によって,その程度や冗進する速度には,可なり大きな差異があったということは,明白な 事実ではあったが,世界の大部分の国々において,一様に,インフレーション(ことに,デマン ド・プル型のインフレーション)が発生し,冗進したのである。したがって,このような事情の もとにおいては, いわゆる, ネオ・マネタリスト (Neo‑Monetarist)の経済学者達が主張して いる考え方に従って,財貨や用役・便宜等の市場において購買力として機能する,通貨ないし資 金,または,信用の供給額に対して,直接に,その大きさを増減させるように作用する,金融的

1) Keynes, J. M.: The General Theory of Employment, Interest and Money, 1936. 

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マネタリズムの復興(尾崎)

な諸施策を立案・実施することが要請された。

このような要請に基づいて立案・実施された,具体的かつ金融的な諸施策に関しては,これら の諸施策の立案・実施の拠りどころになっている金融理論を異にしている人達,具体的には,ヶ インズ(あるいは,ケインジャン)の理論を拠りどころにして,具体的な施策を立案・実施する ことを提唱する人達と,貨幣数量説 (TheQuantity Theory of Money)を拠りどころにして,

具体的な諸施策を立案・実施することを主張する, ネオ・マネタリスト (Neo‑Monetarist) の間に,論争が展開されて来た。そこで,この稿では,まず,それぞれの側の主張が,具体的な 施策を立案・実施する際に,その拠りどころとして適用されることが可能であるためには,それ ぞれに,どのような条件を整えておくことが必要であるかという,具体的な諸条件を,明らかに することにする。

II.  ケ イ ン ズ ( あ る い は , ケ イ ン ジ ャ ン ) の 経 済 理 論 の 特 質

それぞれの経済理論,ならびに,それらの経済理論を拠りどころにして立案・実施される具体 的な諸施策を,それぞれの施策が提唱されるようになった時期の相異に従って,年代順に,まず,

ケインズ(あるいは,ケインジャン)の経済理論から,考察・検討の対象として取上げて行くこ とにする。

J.M. ケインズは,前掲の「雇用•利子および貨幣の一般理論」において, それぞれの経済社 会において計画・実施される各種の経済活動の,全体的な規模とその構造とを決定する基本的な 要因は,当該経済社会を構成している経済単位のすべてが,一定期間中に,それぞれに運営・実 施した各種の経済活動の成果として稼得した所得(就中,国民所得)の大きさであると,いう考 え方に基づいて,現代経済社会において計画・実施されている経済的な諸活動の,全体としての 規模と構成とを,それぞれの種類の経済活動によって形成され,また,これらの経済活動の変化 に伴なって変動する,社会全体としての所得の大きさを考察・検討の対象とする分析方法,すな わち,巨視的所得分析法と呼ばれる,革新的な分析方法を案出し,この分析方法を,具体的な経 済社会の分析に適用したのである。これに対して,ケインズ以前の経済学者達が計画・実施した 経済分析の方法は,そのほとんどすべてが,個別生産物の価格の形成とその変動とを考察・検討 の対象とする,いわゆる,微視的価格分析法であった丸 したがって,ケインズが適用した,巨 視的所得分析法に比較すると,分析・検討の対象として取上げられる経済的な諸事象が,明らか に,相異している。その当然の結果として,それぞれの分析方法を適用することによって解明さ れる,経済的な因果関係は勿論のこと,到達する結論も相異するということも,また,当然の成 行である。そこで,以下においては,まず,ケインズ(あるいはケインジャン)の分析と,その 2) Leon Walrasが,彼の Elementd'economie Politique de la richesse social, 1870‑1877において展

開した一般的衡理論やA.MarshallがPrinciplesof Economics, 1890において示している部分均衡 理論において適用されている分析法は,明らかに,微視的価格分析法であった。

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前提になっている諸条件の中の主要なものを列挙し,それらの分析方法が,彼以前の経済学者達 が計画・実施していた微視的価格分析法と,どのように相異していたかということを,明らかに

しよう。

(1)  ケインズ以前の経済学者達(あるいは,経済専門家達)が,雇用の問題に関して実施して 来た経済分析によって解明し,さらに,その結果に基づいて導出した結論は,経済社会は,すべ て,窮局的には,自働的に,完全雇用均衡に収敏するという傾向を示す。したがって,それぞれ の経済社会に現実に存在している失業は,そのすべてか,現在の賃銀水準と現在の労働条件のも とでは,働く意志を持っていないか,または,たとえ,働く意志を持っているとしても,働く能力 を備えていないという理由に基づいて失業している自発的失業 (Voluntary Unemployment)  と職場の移動やその他の事情によって,一時的に,失業状態におかれている摩擦的失業 (Fricti onal Umemployment)の,二種類の失業だけであると,主張していたのである。 これに対し て,ケインズは,現実の経済社会には,上記の二種類の失業のほかに,現在の賃銀水準と労働条 件とのもとで,働く意志を持っており,同時に,働く能力を備えているにもかかわらず,適当な 働き口を見出すことが出来ないという理由によって失業している,非自発的失業 (Involuntary Unemployment)が,多数,存在しているというのが常態であるということを主張し,また,

実証したのである。したがって,このような非自発的失業を内包しながら,一応の均衡が成立し ているという,不完全雇用均衡の状態を示している経済社会においては,このような,好ましく ない状態を改善し,より一層,望ましい経済状態を実現するためには,この種の非自発的失業の 減少を促し,さらに,これを解消させる上に役に立つ,有効需要 (EffectiveDemand)の増進 を計ることが必要であると,ケインズは主張したのである。しかも,彼は,現に存在している失 業は,自発的失業と摩擦的失業だけであるという,彼以前の経済学者達(あるいは,経済専門家 達)の主張が誤った主張であり,彼の主張が正しい主張であるいとうことを立証するための手段 として, R.F. カーンが案出した「乗数」 (Multiplier)の概念3), 彼自身が案出した新しい概 念である,「消費関数」 (ConsumptionFunction)4lとの助けを借りたのである。

(2)  ケインズは,また,経済的な諸事象を表現するために適用される用語が,この目的を達成 するために,従来,適用されて来た用語よりも,より一層,適切で,しかも,表現の対象になっ ている経済的な諸事象の意味および内容を,より正確に表現することが出来るようにするために,

いくつかの,新しい用語を案出し,使用して,経済分析を実施している。その中の一・ニの例を 示して見ると,従来,一般に使用されていた, 「資本の限界生産力」 (TheMarginal Prodncti vity of Capital)という言葉は,ケインズの「一般理論」では,これとほぽ同一の内容を表現し ている,「資本の限界効率」 (TheMarginal Efficiency of Capital)という,新しい言葉に置

3) Kahn, R.H.: "The Relation of Home Investment to  Unemployment," The Economic Journal,  Jan. 1931, pp. 173198. 

4) Keynes, J. M. : op.  cit.,  p. 98. 

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換えられている5)。 さらに,個別経済単位が,それぞれに稼得した所得の中で,貨幣の形態でも って保有しておきたいと考える額が占める比率を現わす言葉として,ケンブリッヂ学派の経済学 者達(ことに, A.マーシャル)が定義し,分析のために使用した, 「貨幣の所得速度」 (The  Income Velocity of Money), あるいは,マーシャルの「K」は,ケインズでは,「流動性選好」

(The Liquidity Preference)6)という,新しい,しかも,より一層,包括的な内容を含んでい る言葉に改められている。

(3)  第三番目には, ケインズが,「一般理論」において展開している新しい経済理論は,この 理論が世間に発表された時期に,経済学の理論的な分析・研究の分野において,すでに,名をな していた,年輩の経済学者達にとっては,これを理解するということが容易ではなく,その上,

これを,あらたに研究し,理解して行くための努力を払うだけの価値もないと考えられており,

同時に,他方においては,若い世代の研究者や学生達に対しては,これらの人達が,新しい分析

・研究の方法を理解し,さらに,現実の経済の実態を分析する際に適用して見たいと考えるよう な,新しい分析・研究の方法であった。そして,このような新しい分析・研究の方法が,経済分 析に適用せられるようになって来た結果, A.C. ビグーやD.H.ロバートソンのような,ケンブ リッヂ学派の大御所達が,当時まで,経済学に対して与えて来た,大きな影響力が棚上げされ,

A.H. ハンセン7)J. R. ヒックス8)およびJ.ロビンソン9)等の,現代経済理論の世界において,

中堅グループに属し,活気にみちみちた経済学者達が,理論的な分析・研究の舞台の,第一線に 登場して来たのである。このようにして,経済学の分析・研究の主流は,伝統的な,微視的静学 分析 (MicroStaticAnalysis)から巨視的動学分析 (Macro‑DynamicAnalysis)えと,移向

して行ったのである。

(4)  第四番目には,「一般理論」において展開されている新しい経済理論, ならびに,新しい 経済分析法は,優れた叡智と優秀な分析能力とを兼ね備えた経済学者達に対して,従来の伝統的 な経済理論, ことに, A.マーシャルの部分均衡理論よりも, より一層,包括的であり,しかも,

より一層,大きな魅力を内包している,新しい分析方法を提示している。しかも,ケインズが,

「一般理論」において, 彼独自の経済理論を展開するために適用した数式は,後に, J.R.ヒック スやR.G.D.アレン等によって,明示的に,しかも,抽象的なかたちでもって提示された,一般 均衡理論に比較して,歴史的な観点からも,また,実証的な観点からも,より優れた適応性を備 えているのである。その上,ケインズが,彼の分析において適用した数学的な手法は,上記のよ うな,彼以外の経済学者達が適用した手法ほどには,一般の人達にとって,難解なものではなく,

5) Keynes, J. M.: op  c ..it.,  pp. 135136.  6) Keynes, J. M. : op.  cit.,  p. 166. 

7) Hansen, A. H.: Monetary Theory and Fiscal Policy., 1942. 

8) Hicks, J. R.:  Value and Capital, An Inquiry into some fundermental principles of economic  theory. 1939. 

9) Robinson, J.: Economics of Imperfect Competition, 1933. 

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その上,実証性という点においても,より優れた特質を備えている分析の手法である。その結果,

進取の気性に富んでいる,若い世代の研究者達にとっては,極めて魅力の多い経済理論であり,

同時に,また,経済分析の方法であった。

(5)  第五番目には,「一般理論」は,消費性向 (Propensityto Consume)という,所得と消 費との間に存在し,しかも,広汎な妥当性を具備している経験的な因果関係を,関数のかたちで もって明示し,これを消費関数 (ConsumptionFunction)と呼んだのであるが,このことは,

当時の主要先進諸国において,年々,整備されて来た国民所得統計によって,その推定の基礎が 与えられるようになったということに由来するのである10)。その上,この関数関係は,必要なデ ーターさえ整えば,驚くほどに正確に,数値による推計が可能であるという,特質を備えている のである。

このように,ケインズは,一方においては,当時,経済理論の世界において支配的な勢力を持 っていた,古典学派の経済理論を拠りどころにして分析・検討を実施した場合には,これを解明 することが不可能であった,重要な経済問題の一つであった,非自発的失業の問題 (Involunta ry Unemployment)に対して,実践的で,しかも,具体的な解決策を提示した。また,他方に おいては,彼が提唱した新しい経済理論が,古来の,古典学派の経済理論よりも,より広汎な社 会的妥当性を具備しているということ,古い理論に含まれている有用な諸概念を,新しくて,し かも,わかりやすい用語を使用して明示していること,さらに加えて,新しく,かつ,より優れ た,科学的な分析方法を適用することによって,経済学の研究の世界に,その時期まで,侵しが たい姿でもって実在していた,年功序列がたを打破し,消去することによって,能力の優れた,

比較的に,若い世代の研究者達が,学界の最先端に躍出て,それぞれの研究分野の第一線におい て活躍するという機会を提供したということ,一般均衡理論を,従来よりもわかりやすく,しか も,現実の,経済的,ならびに,社会的な諸問題を解決して行く上に,より,やりがいのある仕 事—諸要因の間,あるいは,諸変数の間に存在している経験的な因果関係を,計量的に把握す るということ一ーを,著しく前進させたという,革新的な成果を挙げたのである。

][.  ネ オ ・ マ ネ タ リ ス ト (NeoMonetarist)の 経 済 理 論 の 特 質

前節において考察・検討されたケインズの経済理論(あるいは,ケインジャンの経済理論)は,

これらの経済理論が形成された際に,その背景を形成していた,歴史的ならびに社会的な諸事情 の変化に伴なって,これらの理論の妥当性を制限し,有効性を,著しく減殺し,あるいは,全く 否定するように作用する諸条件あるいは諸事情が発生して来た。その結果,この革命的なケイン ズの経済理論(あるいは,ケインジャンの経済理論)に対して,反革命的な理論であると見なし 得るような,新しい経済理論が案出されるようになって来たと,いうのが実情であった。このよ

10) Keynes, J. M.: op.  cit.,  pp. 89131. 

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うにして案出され,普及•発展して来た経済理論の中の,代表的なものの一つが,ネオ・マネタ リストの経済理論である。

しかも,この新しい経済理論はケインズの理論(あるいは,ケインジャンの経済理論)が,か りに,その最善を尽したとしても,これを解決することが不可能であった,重要な経済問題の一 っ,具体的には,ィンフレーションの問題を取上げ,この問題を理論的に解明して行くことと,

インフレーションの発生とその冗進を防止し,あるいは,阻止する上に有効な,具体的な諸施策 を案出すということに,最大の努力を集中したのである。その理由は,ケインズの経済理論(あ るいは,ケインジャンの経済理論)は,インフレーションの問題に関しては,その他の重要な経 済問題に比較して,分析・検討が,著しく不充分であり,その結果,インフレーション対策とし ての,具体的な施策に関しても,その実施効果が,著しく不明確な施策であるとしか見なされて いない,所得政策 (IncomePolicy)を提案するということしか出来なかったからである。さら に,ケインジャン達は,いわゆる,「ニュー・エコノミックス」 (TheNew Economics)の経済 学者達の助けをかりて,金融政策よりも,むしろ,財政政策 (FiscalPolicy)の立案・実施によ って,ィンフレーションの発生と冗連を防止または阻止するというやり方の方が,施策の実施効 果が大であると考え,この線に則して,具体的な諸施策を立案・実施することを,提唱したので ある。しかしながら,このような考え方に基づいて立案・実施された具体的な諸施策は,そのす べてが,失敗に帰したと,いうのが実情であった。

これに対して,ネオ・マネクリズムの経済理論を提唱している経済学者達は,ケインズの経済 理論(あるいは,ケインジャンの経済理論)が内包しているこの欠点を,人々が信じるように仕 向けることに努力するとともに,当時,誰もが努力を費す価値がないと考えていた,貨幣ないし 通貨の側面からインフレーションを考察し,分析し,その結果に基づいて,具体的なインフレー ション対策(ことに,インフレーション対策としての金融的な諸施策)の立案・実施の問題を,

理論的に解明して行くということに,大きな,知的努力を傾注したのである。

ところで,マネタリストに包含される経済学者達が提唱した貨幣数量説(TheQuantity The‑

ory of Money)は,基本的には,他の事情に変化がない限り,物価(したがって,その逆数と して示される,貨幣の価値あるいは購買力)は貨幣の流通額に比例して, (したがって,貨幣の 価値あるいは購買力に反比例して), 上下するということを拠りどころにして展開され,主張さ れて来た学説である。 しかも, 古いかたちの貨幣数量説の生成•発展は, アメリカ大陸の発見 後,新大陸から欧州に向って,大量に流入した金・銀等の貨幣用素材を使用して,国内市場に向 けて,大量の通貨が供給され,その結果,欧州諸国において,激しい物価騰貴が発生したという 事実に,その拠りどころを求めることが出来る。このような,古いかたちの貨幣数量説は,すで

11) Bodin, Jean: Reponse aux Paraaoxes de M Maltestroit Louchant !enc issementde toutes les  choses et des Monnaies, Paris. 1563. 

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1560年代から,一部の貨幣理論家達によって主張されていたのである11)。その後,このかた ちの貨幣数量説は, J.ロックによって,一層,明確なかたちでもって叙述された12)。つづいて,

R. カンティヨン1a>.D. ヒューム14)等によって継承された。さらに,ァービング・フィッシャー , 有名な交換方程式15)に到って, 最も要約されたかたちでもって提示されるに至ったのであ

貨幣数量説は,このような経過を辿って,次第に,貨幣理論としての体系化が進められて来た のであるが,その反面では,この学説は, 1929年に,ニュー・ヨークの株式市場の閉鎖に伴なっ て発生し,全世界的な規模にまで拡大・波及した金融恐慌と,それに続いて発現して来た,深刻 な不況とを分析し,検討し, さらに進んで, これらの恐慌や不況の発生を防止し, その影響と 被害を緩和し,減少させる上に有効を働を示す諸施策の裏付となる経済理論を提示することが不 可能であったために, また,他方においては, J.M. ケインズの「一般理論」の公刊によって,

「有効需要の原理」を拠りどころにした財政政策の立案・実施が重要視されるようになり,各国 の政府当局が,このようなかたちの財政政策を,積極的に採用するようになって来たために,ィ

ンフレーション対策としての金融政策の意義および重要性は,一般の人々の間においては勿論の こと,経済専門家達の間においてさえも,次第に低下して行ったのである。さらに加えて,上述 のようなかたちの財政的な諸施策の立案・実施が,上記の,深刻な不況の発生と冗進を防止ある いは阻止し,さらに,それに伴なって発生して来る,大量の非自発的失業を防止する上に,有効 な働きを示したために,貨幣数量説は,全く,信用を失墜し,ィンフレーション対策としての金 融政策の立案・実施のための,理論的な拠りどころとしても,ほとんど,重要視されないように なったという,実情にあった。

しかしながら,上述のようなかたちの貨幣数量説,ならびに,この学説を拠りどころにして展 開されて来た貨幣経済社会の分析や考察・検討は,その姿を,全く消してしまったというわけで はなく,一部の貨幣理論家,その中でも特に, HenrySimmons, Lloyd Mints, Frank Knight  および JacobViner等のシカゴ学派 (ChicagoSchool)の貨幣理論家達によって,主として,

口伝という方法によって,継承されて来たのである。しかも,この学説は,第二次世界大戦の末 期から終戦直後の諸年度にかけて,世界の多くの国々,ことに,交戦国において発生した苛烈な インフレーションの際に,その発生を抑制し,冗進を阻止する上に有効な,具体的な施策を提案 することが出来たという,優れた特質を具備していたのである。そこで,以下では,この新しい かたちの貨幣数量説が備えている, もろもろの特質を, M.フリードマンが主張しているところ に従って,個別的に,考察・検討することにする15)

12) Lock, John: Consideration of the Lowering of Interest and Raising of Money, 1869.  13) Cantillon, Richard: Essai sur la  nature de Commerce en general, 1691. 

14) Hume, David: 

15) Friedman, M.: "The Quantity Theory  of  Money‑a Restatement"  Studies  in  the  Quantity  Theory of money (ed. by Milton Friedman),'1956,  pp. 321. 

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マネクリズムの復興(尾崎)

(1)  まず第一に挙げなければならない特質は,貨幣数量説は貨幣に対する需要の理論であって,

産出量・貨幣所得,あるいは,物価水準の決定理論ではないと,いうことである。何故ならば,

これらの諸変量の決定の問題を取上げるためには,貨幣数量説を,貨幣供給に関する制限的な諸 条件と,その他の諸変量に対して課せられる諸条件とを結合した上で,これを取扱う必要がある からである。

(2)  第二番目に挙げなければならない特質は,窮局的な資産の保有者にとっては,貨幣も,ま た,一種の資産であり,したがって,資産の保有者達が自己の資産を保有する際に適用する,資 産の保有形態の一種である。これに対して,生産活動やその他の種類の経済活動に従事している 企業やその他の経済単位にとっては,貨幣は資本財の一種であって,他の種類の資本財や用役と 結合することによって,当該企業が販売する生産物を造出するために使用される,生産的な用役 の源泉である。したがって,貨幣に対する需要の理論は,資本理論の中の特殊理論の一つである。

しかも,この理論は,資本市場において作用する需要の側と供給の側との,それぞれから,その 一部づつを取上げ,それらを結合したものであるという,特異な性格を備えている理論である。

(3)  第三番目に挙げなければならない特質は,窮極的な富の所有者の側における貨貨需要の分 析は,形式上は,これを,消費の目的に充当される用役に対する需要の分析と同一であると見な し得ると,いうことである。すなわち,貨幣に対する需要は,個々の支出単位がさまざまな形態 でもって保有している富の総額によって左右されるということのほかに,これらの富を,特定の かたち,または,その他のかたちでもって保有した場合,それぞれの場合に,富の保有者が負担 したければならない費用の多寡と,これらの保有者達が,それぞれに保有している富を,生産活 動やその他の,さまざまなかたちの経済活動のために提供した場合に稼得することが出来る所得 の大小,ならびに,その他のかたちの収入の多寡により,さらには,富の保有者達の嗜好ないし 選好によってというように,主として,三つの要因によって支配されると,いうことである。

(4)  第四番目に挙げなければならない特質は,富は,これを,最も広義に解釈すれば,所得な らびに消費の対象となり得るような,あらゆる種類の用役や便宜を生み出す,すべての源泉を包 含する。したがって,この解釈のもとでは,人間が保有している生産能力も,また,富の範疇に 包含される。その結果,われわれは,富を生産能力というかたちでもって保有するということも 出来るわけである。このように考えて来ると,利子率は,富である貨幣ストックとフロー(流量)

として把握される所得との間に存在している関係を表示しているものであると,いうことになる。

そこで,所得を Y,利子率をr' さらに,富の保有額を Wでもってあらわすならば,この三者 の間には,下記のような関係が成立する。

(1)

ところで,このかたちでもって,最も広義に解釈された所得が,通常適用されている定義に従 って限定され,測定される所得と,その大きさの点で,常に,一致するという必然性はない。何

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故ならば,まず第一に,通常適用されている定義に従って限定され,測定された所得の場合には,

一般に,人間が保有している生産能力を不変に維持して行く上に必要な支出額についての控除が 行なわれてはいないからである。第二には,このかたちでもって定義された所得の場合には,所 得の大きさが,人々が無限に維持して行くことが出来るような,用役・便宜の消費の安定した水 準という,理論的な概念に基づいて測定された水準とは,可なり大きな乖離を発生させるように 作用する,過渡的な諸要因が示す作用によって,影響を受けるからである。

(5)  第五番目に挙げなければならない特質は,現代経済社会において,種々様々な経済活動に 従事している個人,あるいは,経済単位は,いろいろに,その形態が相異している,各種の富を 保有することが出来るということに由来する。その結果,富を保有している個人あるいは経済単 位は,それぞれに,可能な範囲内において,一つのかたちの富の保有から他のかたちの富の保有 えと,保有形態を転換することによって,富の保有の結果として享受することが出来る,全体と しての効用を極大にすることが出来るように,それぞれに保有している富を,各種の財貨や用役

・便宜に配分する。

これに対して,今日,それぞれの個人あるいは経済単位が富を保有する場合に適用する,具体 的な保有形態は, おおむね, つぎの 5つに区分することが出来る。 i. 一定の名目価値のもとで,

債務の支払・決済に当って,一般的に受領される債権あるいは商品であると解釈されている貨幣 CM), ii. 名目価値が一定している利子が,一定期間,定期的に支払われる債券(B), iii. 企業が 稼得した純利潤に対して,当該企業が発行している株式の所有数に従って,比例的な配当金の支 払を要求することが出来ると,一般に,見なされている株式CE),iv. 物的な財(G),V. 人的資 (H)5つの形態でもって保有される。しかも,このような保有形態の相異に対応して,それ ぞれに,つぎのような,相異したかたちの所得または収益を稼得することが出来る。

i.  (M)-—貨幣は,一定した名目価値を備えている一般的流通手段であって,財貨や用役・

便宜等の取引に当って,その媒介手段(あるいは,支払手段)として,広汎に使用される。取引 に当って,媒介手段として,貨幣を使用すれば,取引が簡素化され,さらに,取引範囲が拡大す るというように,便宜性という点においては勿論のこと,確実性という点においても,人々に対 して,大きな利益をもたらす。さらに,このような非金融取引(あるいは,実物取引)において は,貨幣の価値(あるいは,購買力)は,名目的な一単位の貨幣と引換に入手することが出来る 財貨や用役・便宜等の多寡に比例して, あるいは,物価指数 (PriceIndex Numbers)に反比 例して,増減する。

ii.  債券(B)—ーもしも,われわれが標準的な債券を,名目的な金額が一定している,永久所 得に対する請求権をあらわす証券であると見なすならば,債券の保有者達は,つぎのような,ニ つのかたちの所得あるいは収入を稼得することが出来る。すなわち,その第ーは,毎期,利札と 引換に受取る利子所得あるいは利子収入である。これに対して,いま一つのかたちのものは,債 券の市場価格の変動によってもたらされる所得あるいは収入(または,損失)である。ただし,

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(12)

マネタリズムの復興(尾崎)

この市場価格の変動によってもたらされる所得あるいは収入が,つねに,正の値を示すという必 然性はなく,時によっては,負の値を示し,したがって,損失を蒙ることがあるということも記

しておく必要がある。

iii.  株式(E)-—株式は,一般には,債券に類似した性格を備えている有価証券として取扱わ れる。しかしながら,すでに,上に述べたように,債券は,名目金額が一定している永久所得に 対する請求権を表示している有価証券であるのに対して,株式は,実質所得(あるいは,実質収 入)の額が一定している永久所得のフロー(流量)を,その所得者(株主)に対して,供給するこ とを約束する有価証券である。すなわち,購買力伸縮条項 (EscalatorClause)が附記されてい る,標準的な債券であると見なすことが出来る。したがって,株式を所有していることによって,

株主が稼得出来る名目所得(あるいは,名目収入)は,通常,つぎの,三種類の数値が合計され たものとして,株主に流入して来る。その第一は,物価に,何ら変動がない場合に,株主が株式 を保有していることによって,一年間に, 稼得することが出来る名目所得(あるいは,名目収 入)の額である。その第二は,物価に何らかの変動があった場合には,その変動に対応して,し かるべき調整を加えるという方法を適用して算出した,名目所得(あるいは,名目収入)の調整 額である。そして,その第三は,時間の経過にともなって,利子率の水準,あるいは,物価水準 が変動するのに対応して発生する,株式の名目価格が変動がもたらす,名目所得(あるいは,名 目収入)の額である。

iv.  物的財CG) —最経的な富の保有者が保有している物的財がその保有者にもたらす,年々 の所得(あるいは,収入)は,貨幣の流量という形でもってではなく,実物的な財貨や用役等の 流量というかたちでもって稼得されるという点を除けば,その性格が株式に類似している。すな わち,物的財がもたらす所得(あるいは,収入)の流量を名目的なクームで現わすならば,株式 を保有していることによって稼得される所得(あるいは,収入)の場合と同様に,その大きさは,

物的財の価格の変動に対応して変動する。物的財がもたらす名目的な所得(あるいは,収入)の 大きさは,さらに加えて,株式の場合と同様に,貨幣の価値の上昇あるいは下落による,名目的 な所得(あるいは,収入)の増減を生み出すということを,容認しなければならない。たとえば,

前にも述べたように,これらの物的財についても,物価水準Pの変動が,等しく,妥当するもの と仮定するならば,もしも,物的財というかたちで, 1弗の価値をもっている財を保有している ならば,この財を保有しているということによって,時点0において稼得することが出来る名目

1  dP 

所得(あるいは,名目収入)の大きさは, p"cf.fである。しかも,この値は,物価水準がP である場合, 1弗を物的財の形態で保有していることによって,その財の保有者が稼得すること が出来る実質所得(あるいは,実質収入)であると,定義することが出来る。

V. 人的資本 (H)—最終的な富の保有者が保有している,第五番目の種類の富は,人的資本 である。ところで,現代経済社会のように,奴隷制度が全く廃止されている経済社会においては,

人的資本を取引の対象にしている市場において計画・実施される取引活動が,著しく限定された

参照

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