証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互 連関モデル
その他のタイトル Trial Connection Model Between Accounting and Finance
著者 富田 知嗣
雑誌名 關西大學商學論集
巻 49
号 6
ページ 795‑808
発行年 2005‑02‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00018879
関西大学商学論集 第49巻第6号 (2005年2月) (795) 79
証券市場での企業価値評価と 会計システムとの相互連関モデル
富 田 知 嗣
はじめに
近年の会計に関する議論には,減損会計,時価評価会計や経済付加価値 (EVA)などを代表として,証券市場(以下,市場)あるいはファイナン スの考え方,特にキャッシュフローと時間価値を導入した議論が多くなっ ている。これは,会計が利害関係者の意思決定に有用であるためには,い かなる会計システムが望ましいかという思考に由来している。つまり,議 論で扱う利害関係者を市場の参加者(とりわけ投資家と企業)と想定し,
彼らが合理的経済人であることを前提とした上で,企業価値の測定や企業 価値創造活動などのために必要な情報を,会計が提供していると考えてい
るからであろう。
ところが一方で,カーネマンらの提唱する行動経済学から派生した行動 ファイナンスを代表として,行動主体が経済合理的に行動していると想定 したモデルヘの批判が少なからず登場している。たとえば,市場のアノマ リーが測定されるのは,市場は効率的ではなく,市場の参加者が合理的で はないからという主張となって現れている。もちろん,これに対して,市 場のアノマリーが測定されるのは,実証研究における不完全なモデルによ
って,市場の行動を測定しているためであると,反論も存在している。
こうした議論の対岸で,暗黙にであれ,会計がその議論の前提として効
率的市場・合理的経済人をおいていることに,若干の危惧を抱かざるを得 ない。すなわち.市場参加者における非合理性や合理性の限界がある場合,
それを考慮しないで設計される会計システムは.期待された機能を果たさ ない可能性が大きいと考えられるのである。とするならば,会計で扱う利 害関係者がどの程度合理的であると想定すればよいのか.あるいはどこに 非合理性があるのか.そのために生じる非効率性を防ぐためにどのような 策が講じられているのかを検討する必要がある。
これらを検討するための方法はいろいろ考えられるが,ひとつのモデル を構築し,そのモデルと現実を比較する方法が,有効な方法のひとつであ ろうと考えられる。そこで,本稿では,検討作業の第一歩として.合理的 な経済行動を前提とした証券市場の企業価値評価と会計システムとの相互 連関モデルを構築することを試みようと思う。以下では.まず.市場がど のような考え方と計算によって.企業価値を測定しているのかを確認する。
次に,企業が企業価値を創造するために,どのような会計システムを持ち.
市場のどのような要素に影響を受けるのかを検討してみたい。最後に,企 業活動の結果を示す会計数値を,市場がどのように評価・測定するのかを 考察した上で.相互連関モデルの構築を行うつもりである。
1. 市場での企業価値評価モデル
企業価値という言葉が使われるとき.株式価値あるいは株主資本価値と いう意味で使われる場合と.企業全体をひとつの資産とみなした企業価値 という意味で使われる場合とがある。厳密にその両者を使い分けることは あまりしないようである。それは.負債を貸借対照表に表記される簿価と して評価することが多く,その場合の株主資本価値は.企業全体の価値か ら簿価で評価される負債を控除すればよいからである。すなわち.市場の 評価による影響を受ける企業価値は,株主資本価値の部分であるから,企 業価値の評価を議論するときは,両者を厳密に区別する必要はないという
証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互連関モデル(富田) (797) 81 ことになるのであろう。
さて,企業価値の計算には,株主資本の価値と他人資本(負債)の価値 の合計として算出する方法と,企業全体をひとつの資産とみなして算出す る方法とがある。当然のことながら,いずれの計算方法を用いても算出 される企業価値は理論的に同じである。前者の計算方法では,株主資本の 価値を配当割引モデル (DDM)をベースにして計算し,負債の価値を簿 価として評価する。一方,後者の計算方法では,当該企業が獲得するであ ろう将来キャッシュフローを当該企業の必要収益率で割引いた現在価値合 計額で評価する。いわゆるキャッシュフロー割引モデルあるいはフリーキ ャッシュフローモデル (FCFM)である。従って,以下の等式が成立して いる。
企業価値=株主資本価値+負債価値
=フリーキャッシュフローの現在価値合計 … (1) ここで,フリーキャッシュフローは,事業からのネットキャッシュイン フローから投資によるネットキャッシュアウトフローを控除して求められ るのであるが,減価償却を除く会計発生高は大きく変化しないとすると,
事業からのネットキャッシュインフローは,法人税等控除後営業利益に減 価償却を加えた値として近似することができ,投資によるネットキャッシ ュアウトフローは減価償却分であると仮定するならば,フリーキャッシュ フローは法人税等控除後営業利益で代用することができる。
企業価値=L((l‑法人税等率)X営業利益/(1+必要収益率)り…(2) さらに,現在の当該企業の利益が将来も続く(将来利益の期待値)と仮 定I)し,法人税等控除後利益をNOPAT,必要収益率をrと書き直すならば,
企業価値 = NOPAT/r ... (3)
1) 現在の利益が将来利益の期待値ではない場合,個別の各期の期待値や成長モデル などで計算すればよいが,ここでは主要要因の抽出を目的とし,簡略化することに する。
と簡略化することができる。そして,経済付加価値 (EVA)はNOPAT2l から資本費用3)を控除した値であるので, NOPATは, EVAに資本費用 を加えたものとして表記することができる。また,投下資本を負債 (L) と株主資本 (E) の簿価合計額とし,必要収益率を加重平均資本コストと すれば
企業価値 (EVA+r (L+E)) /r
L + E +EVA/ r ... (4) と,企業価値を表記することができ,企業価値は,総資本簿価に資本コス
卜超過利益の現在価値合計を加えたものである, と考えることができる。
ここで,市場が効率的であるならば,計算された企業価値と市場による 企業価値は等しいはずであり,負債と株主資本の簿価合計は投下資本とし ているので,この式は,スターン・スチュワート社の提唱する市場付加価 値 (MVA4))の計算式(市場による企業価値ー投下資本)と同じ内容と なる。また, DDMにクリーンサープラス関係を反映させて導出される,
いわゆるオールソン・モデルに負債簿価を加え5)' 純利益の代わりに法人 税等控除後営業利益を利用して,将来の超過収益力を測定していると考え れば,この式の内容はオールソンモデルと一致することになる。
企業価値が上記のように示されるとして, (3)式に戻ってみたい。分 子の法人税等控除後営業利益 (NOPAT)は,将来の利益が当期利益に等
2)スターン・スチュワート社によるEVAのためのNOPATには, 100を越える修正 項目があり,厳密には通常会計で扱う法人税等控除後営業利益とは異なる。
3) 投下資本(有利子負債と株主資本の合計)に加重平均資本コストを乗じて計算さ れる。
4)同様の仮定をおけば, MVA=EVA/rとなる
5)クリーンサープラス関係は,資本取引がなければ,当期の純資産簿価は前期の純 資産簿価に当期純利益を加え当期配当を控除した値に等しいというものであるが,
同様に負債による資本調達もないとすると,純資産簿価の代わりに総資本簿価をお くことも可能である。
証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互連関モデル(富田)(799) 83
しく,一定であるとしているが,市場における将来利益の期待値が,現在 の企業利益に依存して決定されている6)ことを意味する。一方.分母の 必要収益率 (r)であるが,株式という証券の期待収益率 として捉えると,
以下の資本資産評価モデル (CAPM)によって,市場リスクの尺度であ るベータの関数として記述される。
期待収益率
=無リスク利子率+ベータX (市場の期待収益率ー無リスク利子率)
必要収益率は,ベータ値が大きい企業ほど,必要収益率が高くなり,ベ ータは当該企業の証券のリスクが大きいと期待される企業ほど大きくなる わけである。すなわち,企業価値は,市場における当該企業の将来利益の 期待値と期待収益率の変動幅.によって変化するということができるであ ろう。
2. 企業における投資意思決定と会計システム
企業は,調達した資金を有効かつ効率的に運用して,企業活動を実施す ることで,利益の最大化あるいは富の最大化,ひいては企業価値の最大化 をめざしている。そのために.現在の事業では.できるだけ少ない犠牲(費 用・キャッシュアウトフロー)で,多くの成果(収益・ キャッシュインフ ロー)を獲得する努力を払い,新しい事業やプロジェクトの実施決定には,
6)利益の時系列特性は,利益の自己相関特性を前提としており.ランダムウォーク モデルやトレンド付きランダムウォークモデル.あるいは移動平均モデルなどで捉 えられることが多く.ランダムウォークモデルで市場が期待形成しているとも考え ることができよう。
7)加重平均資本コストとして捉えるならば.さしあたり.負債と株主資本の割合が 変化せず,負債コストも大きな影響を与えないと想定して考えればよいが.加重平 均資本コストであっても.当該企業のリスクの大きさによって.変化することに変 わりはない。
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企業価値が創造されるように選択し実施される。ここでは.現在実施され ている事業・プロジェクトについては,現有経営資源の配分問題と理解し,
新規の事業・プロジェクト決定については,投資意思決定問題として理解 して.考察してみたい。
まず.投資意思決定問題であるが.投資を行う方向性が戦略によって決 定されているとして. どの案件に投資を行うかの意思決定手法としては,
会計利益率を利用した方法8). 回収期間法正味現在価値法.内部収益率 法などがあげられる。そのうちで.正味現在価値法や内部収益率法といっ た割引キャッシュフロー (DCF)法は.時間価値を考慮しているという 点で,他の手法よりも優れていると考えられている。また,投資規模やキ ャッシュフローの絶対額を考慮できるということから,正味現在価値法が 合理的な投資意思決定のための手法として扱われることが多い叫
正味現在価値法は.当該案件から得られる将来のキャッシュフロー(CF) の現在価値合計が投資額 (I)を上回っているか否か,あるいは投資額も 含めて当該案件から得られる将来のネットキャッシュインフロー (NCF) の現在価値合計がプラスであるか否か,によって当該案件の投資を判断す る手法である。
正味現在価値 (NPV)= I: ((CF‑,)/(1 + r)')‑I
= I: ((NCF J / (1 + r)り r : 割引率
将来のキャッシュフローは.経済状況や当該企業を取り巻く環境,事業・
プロジェクトの内容などを勘案して.合理的に推定されたその確率分布の 8)単純に利益率のみで判断する方法や一定のハードルレートを超えた選択する方法 などがある。 EVAを利用した方法は,ハードルレートに資本コストもしくは加重 平均資本コストを利用するという点では,この分類に含められると考える。
9)正味現在価値法による投資意思決定とEVAによる投資意思決定は同じ効果を持 ち, EVAの方が利益ベースの会計システムと結びつきやすいので, EVAによる投 資意思決定の方が望ましいとする説もある(フータウ他 [1999]を参照されたい)
証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互連関モデル(富田) (801) 85 期待値が利用されることになるであろう。そして,将来キャッシュフロー
を現在価値に割り引くときの割引率であるが,加重平均資本コストや資本 コスト,あるいは当該案件のために要した資金調達のコストが考えられ,
いずれの割引率であっても市場によって決定10)される。すなわち,正味 現在価値法による投資意思決定は,投資内容と市場による当該企業の評価
によって,行われることを意味する。
次に,経営資源配分問題であるが,長期的には,策定された戦略に基づ き長期経営計画に則って経営資源の配分が行われる。このとき同時に,先 に考察した新規事業あるいはプロジェクトの実施が検討される。資源配分 を考慮する場合の単位は,プロジェクトや関連したプロジェクトをいくつ かまとめたプログラム,あるいは事業計画という単位であろうと考えられ る。それは,プロダクト・ポートフォリオ・マネージメントを典型として 考えればよく,「カネのなる木」事業から「問題児」事業へ経営資源を投 入し,長期的に「問題児」事業を「花形」事業へ成長させたり,新規事業 を「花形」事業として成長させたりすることで,経営資源の効率的な利用 が模索されるからであり,決して「購入」「営業」などといった部署(職能)
単位で模索されることはないであろう。もちろん,たとえば特定事業の「営 業」に重点的に資源配分をするということはあり得るが.まずは事業単位 での資源配分ありきであると考える。
そして.経営資源配分問題は,短期的には.短期総合計画によって.会 計的には予算編成によって.経営資源が配分されると考えられる。このと
きの資源配分の決定は.予算編成過程からわかるように.当該企業の組織 単位に従って.部門別(職能部門あるいは事業部)・部署別の単位で行わ れる。とすると,経営資源の配分を策定するときの配分対象の分類が.長 期と短期で異なることになるが.図1のような組み替えが行われるのでは ないだろうか。
10)加重平均資本コストの場合は.市場だけでなく.当該企業の資本構成の影響も受 ける。
図1 経営資源配分の長期から予算への組み替え
1長期的経営資源配分1
~~l~~I_J __~ ご~: ̲ ̲ ̲ ̲ ]二~:!.___! ___~~ こ [ : ̲ ̲ ̲ ̲ ・ ̲ ・ ̲ ̲ ̲ ̲ [ 贔 二
CIF1.t‑1 CIF1., CIF1,t+l COF1.H COF,., COF1,,.1 既存事業2 NCIF2,t‑1 NCIF2., NCIF2,t+l
既存事業n NCIF •. t‑1 NCIF.,, NCIFn,t+l 新規事業A NCIFA,t+l 新規事業B
新規事業N
1短期的経営資源配酋
既存、ill'
1部門・部署i I部門・部署2
既存事業2 II 集 計
CIF国
COF1,,.2 NCIF叫
NCIFn.1+2 NCIFA. い2 NCIFB,t+2
CIF1.,‑n COF1.,‑n NCIF,.,‑n
NCIF.,,‑n NCIFA.,‑n NCIFs.,‑n NCIFN,t‑n
合計
経営資源配分における長期的な視点のときには,戦略にそって,企業価 値が最大化されるように,キャッシュフローの正味現在価値を考慮して,
既存事業の拡張・ 縮小や新規事業の開始などが判断される。そして,個々 の事業のネットキャッシュフロー (NCIF)は,合理的に算定された期待 キャッシュインフロー (CIF)と,合理的かつ効率的に配分される経営資 源をキャッシュベースで測定したキャッシュアウトフロー (COF)の差 額として求められる。経営資源の配分は,当該企業の経営資源の将来の増 減と将来の発展性などの変化を考慮しながら,既存事業の拡張・縮小・廃 止や新規事業の開始の判断が同時に行われると考えられる。このように計
証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互連関モデル(富田)(803) 87 画された資源配分をもとに,短期的な視点では,次期の計画数値が,当該 企業の組織形態にあわせて,各事業に関係している部門・部署に配分され る。そして,各部門・部署はこの配分を積み上げ,各部門・部署ごとに集 計する。この集計過程と部門・部署単位での経営資源の再配分過程が,予 算編成過程となる。従って,次期のネットキャッシュフローは,予算売上 高と予算費用に置き換わることになる。
すなわち,経営戦略にそって行われる投資意思決定は,このような組み 替えプロセスを経て,会計システム(予算制度)へと繋がっていく11)と 考えられるのである。予算数値へと変換されたとき,資本コストのような 市場の評価によって変化する要因は,明示されない形式に変化するのであ る。
3. 開示会計情報による企業価値評価
企業の将来のさしあたって一年の経営活動は,編成された予算に基づい て実施される。予算数値は,合理的に推測された将来事象の確率分布にも とづいて,計画されたキャッシュフローを組織単位ごとに効率的に配分 することで作成される。その結果,予算どおりに,経営活動が実施される 限り,その活動は合理的な行動として認識できる。しかし,たとえ合理的 に推測された将来事象であるとしても,厳密には起こり得る将来事象の確 率分布の範囲で,実際の経営活動の成果が生じるわけであり決して期待 値すなわち計画された数値どおりになるわけではない。このような誤差 は,予算統制活動によって是正されることになる。
予算統制は,月次決算制度を初めとする,期中での経営活動の成果を記 録する会計システムを経由して,予算・実績比較や予算差異分析などによ 11)バランスト・スコア・カード (BSC)や戦略マップを経由して.プロジェクト単
位でのプロジェクトBSCからプロジェクト予算へ展開し,年次予算制度と繋がると 考える場合もある。(浅田 [2004].小原他 [2004].鈴木 [2004]を参照されたい)
って,経営計画の達成度や原因分析を行い,必要な策を講じるためのシグ ナルを出す役割を果たす。経営活動は,予算統制から発せられるシグナル を受けて是正され,より計画どおりの成果を出すように実施される。それ でも修正されなかった誤差は,長期経営計画策定における経営資源配分や 次年度における予算編成にフィードバックされ,将来の経営活動の修正項
目として認識されることになる。
一方,一年間の経営活動の結果は.会計システムを経由して作成される 財務諸表となって,市場に開示されることになる。市場参加者あるいは投 資家は開示された財務諸表の情報をもとに当該企業の評価を行い,形成 される期待によって,当該企業の証券もしくは株式を保有するか売却する か,あるいは取得するか否かを決定する。そして,各市場参加者の評価お よび行動の総和が,市場の反応すなわち証券価格の変化として表現される のである。とくに,財務情報の中でも会計利益数値は,市場参加者の意思 決定に大きく影響している12)。それは,会計利益が,経営活動としての努 力と成果を総体として示しているからである13¥
もちろん,それだけではない。 DDMによれば,株価は将来の配当の現 在価値合計であらわされる。配当は利益をその原資とするため,将来の配 当は将来の利益に依存しており,将来の利益は現在の利益よって推定され ることになる14)。また,オールソンモデルによれば,株主資本価値は,純 資産簿価と利益および配当とその他の超過収益力もしくは将来利益によっ て決定される。超過収益力もしくは将来利益は,現在の利益によって一般 には推定される。さらに,前述の (4)式による企業価値は,資本簿価に 資本コスト超過収益力を加えたものであり,資本コスト超過収益力は法人 12)利益に対する市場の反応は数多くの検証がなされており.利益の動向(増益・減 益)や水準(期待外利益)に対する反応の検証が進んでいる。(桜井 [1991),拙稿 [2004)など)
13) EVAの計算構造からは.資本費用を上回る法人税等控除後営業利益が獲得され ているならば.企業価値が創造されていると.認識されることになる。
14)拙稿 [2004). 88‑89頁
証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互連関モデル(富田) (805) 89 税等控除後営業利益を基礎に計算され,やはり現在の利益を出発点として いる。
本来,合理的に予測された結果としての企業価値(あるいは株価)であ り,企業は合理的に行動しているため,時間が経過し,会計利益が報告さ れても,計画どおりの結果であれば,将来キャッシュフローは変化しない ので,企業価値は変化しないはずである。しかし,合理的に将来事象の確 率分布を推定し,それによって策定された経営計画にもとづいて,経営活 動を実施しても必ずしも推定した将来事象の確率分布の期待値と一致す るわけではない。予算統制を施したとしても,誤差(期待値からのズレ)
が生じる。この誤差が,計画の修正を通じて,当該企業の将来キャッシュ フローに変化を生じさせることになる。つまり,開示された会計利益によ って,誤差が市場参加者によって確認され,将来キャッシュフローの予測 を修正させることで,期待形成に影響を与えるのである。
結果として,市場での反応となって現れ,証券価格(株価)が変化する ことになるのであり,株価の変化すなわち株価変動は,当該株式の収益率 の変動として認識される。市場参加者から見た場合,これは,当該株式の 将来収益率の確率分布を推測する場合の,分散(標準偏差)すなわちリス クの推測に利用されるのである。 CAPMに依拠すれば, リスクはベータ を経由して,期待収益率すなわち資本コストに影響することになる。ここ で, (3)式や(4)式をもとに企業価値を再度考えてみると,企業価値は,
会計利益の開示によって認識された誤差から,生じた将来キャッシュフロ ーや利益の予測の修正数値と,そしてそれによる株価変化から修正される 新しい資本コストとによって,再度測定しなおされることになるといえる。
4. 相互関連する市場評価と会計システム
本稿では.企業価値という言葉を軸にして.市場参加者(投資家)の投 資意思決定と企業の投資意思決定および経営活動との相互関連性を経済
第 49巻 第 6 号
合理的なモデルパターンとして考察してみたわけであるが,会計システム が単に財務情報を市場に開示するだけの役割を果たしているだけでなく,
市場の評価を吸収する形で,合理的かつ効率的に企業の経営活動を営むた めのコントロールシステムとしての役割も担っていることが確認された。
このことは,投資家と企業という行動主体間の相互作用だけではなく,市 場システムと会計システムというシステム間の相互関連性が存在すること
を意味するのである。
図2 市場における相互連関モデル
企
市 場業
資金提供 投 資 家(価値創造) 配当等 (ポートフォリオ)
[ 企 業 の ] こ :本三資三 f 確 : 率 : 分 決 布 定
1会
計
・・‑‑・・・・・‑‑‑‑‑・‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑・・・・‑・・・‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ ・‑
l
投 資 案 ぶJIの計画l I l
予算へ」組み替え "
↓
, I ‑・・・・‑‑・・・・‑‑‑予算統制・・・・・・・‑‑‑・・・‑‑‑‑‑・ j ・・‑‑
し
‑‑‑‑直‑‑(‑‑財‑・務・・報・‑告‑‑)・・・・・・・‑‑J' ‑・.会社利益の開示 予測誤差の認識
図2は,本稿での考察を図に示したものであり,効率的にシステムが機 能しているとした場合の,市場での企業価値評価(ファイナンスあるいは 市場システム)と会計システムとの相互連関モデルである。このモデルは,
証券市場での企業価値評価と会計システムとの相互連関モデル(富田)(807) 91 いわゆる教科書レベルでの理論をベースとしており,主要なエッセンスと 思われるもので表現しているにすぎない。よって,モデル内として示され ている各パーツごとの,詳細な議論が捨象されてしまっていることは,否 定できない。本稿の目的が,市場をとりまくシステムが, どのように設定 され,どのように機能しているかを検討するための出発点を構築するこ とにあり,捨象されしまった議論の考察・検討は今後の課題としたい。
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