解析学 B:問題と解説
大学院情報科学研究科 尾畑 伸明(担当教員)
はじめに 2004年度後期に開講した工学部1年生向「微分積分学」で出題したレポート問 題・小テスト・期末試験とその解説を掲載する。
教科書:中村哲男ほか「基礎微分積分学II」共立出版
1 [改題]テーラー展開 1
1 +x =
∑∞ n=0
(−1)nxn = 1−x+x2−x3+x4 −+. . . , 1
1 +x2 =
∑∞ n=0
(−1)nx2n= 1−x2+x4−x6+x8−+. . . , arctanx=
∑∞ n=0
(−1)n
2n+ 1x2n+1 =x− x3 3 +x5
5 − x7 7 +x9
9 −+. . . . から
x=−1
2 とおくと 1 + (1
2 )
+ (1
2 )2
+ (1
2 )3
+ (1
2 )4
+· · ·= 2 (1.1) x= 1 とおくと 1−1 + 1−1 + 1−1 +− · · ·= 1
2 (1.2)
x= 2 とおくと 1−2 + 22−23+ 24−+· · ·= 1
1 + 2 = 1
3 (1.3)
x= 1
√3 とおくと 1− 1 3
( 1
√3 )3
+1 5
( 1
√3 )5
− 1 7
( 1
√3 )7
+− · · ·= π
6 (1.4) x= 1 とおくと 1− 1
3+ 1 5− 1
7+ 1
9−+· · ·= π
4 (1.5)
x=√
3とおくと √
3−(√ 3)3 3 +(√
3)5 5 − (√
3)7
7 +− · · ·= π
3 (1.6)
などが得られるが, (1.1)–(1.6)には正しいものと誤っているものがある. それぞれにつ いて正誤を明らかにし, 正しいものには証明, 誤りのものにはその理由を詳しく述べよ.
解説 一般に,関数のf(x)がテーラー展開できるためには,考えている中心点x=aにおい て関数f(x)が無限回微分可能である必要がある. 得られる高階微分係数の列f(a), f′(a), f′′(a), . . . からベキ級数
∑∞ n=0
f(n)(a)
n! (x−a)n
が作られる. しかしながら, これが f(x) を再現しているとは限らないのである.
さて,
1 1 +x =
∑∞ n=0
(−1)nxn= 1−x+x2−x3+x4−+. . . (1.7) については,右辺の部分和(等比数列の和)をきちんと求めて極限移行することによって,−1<
x <1でのみ正しいことがわかる. したがって, (1.1) は正しいが, (1.2), (1.3) は誤りである.
1 1 +x2 =
∑∞ n=0
(−1)nx2n = 1−x2+x4−x6+x8−+. . . (1.8) は (1.7) において x を x2 でおきかえたものである. あきらかに, −1 < x < 1 でのみ成り 立つ.
arctanx=
∫ x 0
dt 1 +t2
であるから, (1.8)の右辺を積分するのが自然な発想である. しかし, 2つの無限演算の順序交 換を伴うので自動的ではない. (1.8) の右辺は|x| ≤r <1 において一様収束であることが示 されるので, そのような x に対しては,
∫ x 0
dt 1 +t2 =
∫ x 0
( ∞
∑
n=0
(−1)nt2n )
dt =
∑∞ n=0
∫ x 0
(−1)nt2ndt =
∑∞ n=0
(−1)nx2n+1 2n+ 1
が得られる. r は r <1 なる限り任意に取れるので, 上の式は |x|<1 では正しい. よって, arctanx=
∑∞ n=0
(−1)nx2n+1
2n+ 1 (1.9)
が |x| <1において成り立つ. しかし, |x| ≥1 において正しいかどうかはこのことからは不 明である. (1.9)の右辺が収束するためには, 一般項が 0 に収束する必要がある.
nlim→∞
(−1)nx2n+1 2n+ 1 = 0.
すぐわかるが, |x| ≤1のとき収束, |x|>1のとき発散する. こうして, (1.9) が成り立つかど うかがはっきりしないx はx=±1の場合である. x=−1 のときは, (1.9)の右辺が
∑∞ n=0
(−1)n(−1)n 2n+ 1 =
∑∞ n=0
1
2n+ 1 ≥1 +
∑∞ n=1
1 2n =∞
となり,発散するので (1.9) は不成立. x= 1 のときは, (1.9)が成立することを示そう. その
ために,
arctan 1−
∑n k=0
(−1)k 2k+ 1
が n → ∞において 0 に収束することを示せばよい.
arctan 1−
∑n k=0
(−1)k 2k+ 1 =
∫ 1
0
dx 1 +x2 −
∑n k=0
∫ 1
0
(−1)kx2kdx
=
∫ 1
0
( 1 1 +x2 −
∑n k=0
(−1)kx2k )
dx
=
∫ 1 0
x2(n+1) 1 +x2 dx.
ここで等比数列の和の公式を用いた. 次に, 0≤x≤1において, 0≤ x2(n+1)
1 +x2 ≤x2(n+1) は明らかである. よって,
0≤
∫ 1 0
x2(n+1) 1 +x2 dx≤
∫ 1 0
x2(n+1)dx= 1 2n+ 3. こうして,
0≤arctan 1−
∑n k=0
(−1)n
2n+ 1 ≤ 1
2n+ 3 →0.
結局, (1.4), (1.5)は正しく, (1.6) は誤りである.
2 関数 f(x, y) を
f(x, y) =
xy
x2+y2 (x, y)̸= (0,0) のとき, 0 (x, y) = (0,0) のとき, によって定義する.
(1) f(x, y)は (0,0) で連続かどうか調べよ.
(2) 偏微分係数 fx(0,0), fy(0,0) を求めよ.
(3) 直線 (x(t), y(t)) = (αt, βt) に沿って関数 f(x, y) の変化を調べて, グラフ z = f(x, y)の概形を描け.
解説 (1) 直線y=mx に沿って, (x, y)→(0,0) とすると, lim
(x,y)→(0,0) y=mx
xy
x2+y2 = lim
x→0
mx2
(1 +m2)x2 = lim
x→0
m
1 +m2 = m 1 +m2.
これは m のとり方によって異なり, 一般には f(0,0) = 0 と一致しない. よって, f(x, y) は (0,0)において連続ではない.
(2) 定義にしたがって計算する.
fx(0,0) = lim
h→0
f(h,0)−f(0,0)
h = lim
h→0
0−0 h = 0.
同様に,
fx(0,0) = lim
h→0
f(0, h)−f(0,0)
h = lim
h→0
0−0 h = 0.
(3) 直線 (x(t), y(t)) = (αt, βt) に沿って値を調べるために, g(t) =f(αt, βt) とおく. 定義 からt ̸= 0 においては,
g(t) = αβt2
(α2+β2)t2 = αβ α2+β2
となり一定である. つまり, 原点を通過する直線上では f(x, y) は一定値である. 初等的な不 等式
2|αβ| ≤α2+β2
から,
αβ α2+β2
≤ 1 2
であるから, f(x, y) の値は −1/2≤f(x, y)≤1/2の範囲にあることもわかる.
3 a ∈R2 を中心, r >0 を半径とする開円板(r-近傍)を U(a;r) ={x∈R2; d(x, a)< r}
とする. 次の図形 E を内部に含まれる開円板の列 U1, U2, . . . で埋め尽くす(つまり, Ui ⊂E であって,E =
∪∞ i=1
Ui としたい. ただし,Ui は互いに重なってもよい)ことはで きるか? どうすればよいか?
(1) E1 ={x∈R2; d(x, o)≤1},ただし o は原点. (2) E2 ={x= (x1, x2)∈R2; |x1|+|x2|<1}. (3) E3 ={x= (x1, x2)∈R2; |x1|+|x2|>1}.
解説 (1) できない. もし, Ui ⊂E1 であって,E1 =
∪∞ i=1
Ui とできたとして矛盾を導こう. E1
の周上の点を1つとり, p とする. p∈E1 であるから, p を含む Ui が少なくとも1個存在す る. Ui の中心を ai,半径をri とする. d(ai, p)< ri であるから,線分 aip の延長上に,点 q を
d(ai, p)< d(ai, q)< ri を満たすようにとることができる. 特に, q∈Ui である.
3角形 △oaiq に注目すれば,
d(o, q)> d(o, p) = 1.
これは, q̸∈ E1 を意味する. つまり, q ∈Ui であるのに q ̸∈E1 となり, Ui ⊂ E1 の仮定に反 する.
(2) 可能である. 一例を示そう. 図形的に同じなので, 正方形を E2 ={(x1, x2)∈R2; |x1|<1, |x2|<1}
と取り直す. 中心を pnij =
( j 2n, k
2n )
, i, j = 0,±1,±2, . . . ,±(2n−1), n= 1,2, . . . とし,正方形 E2 に内接する円を考える. その内部を Uijn とする. つまり,
Uijn = {
x∈R2 d(x, pnij)<min{1−|j|
2n,1− |k| 2n
} .
まず, E2 の点に対して, n, i, j をうまく選んで, その点を含む Uijn が存在することを示そう. E2 の点でx 軸または y 軸上にある点はU000 に含まれる. そこで, 軸上でない点を考えよう.
対称性から x= (x1, x2)∈E2 で x1 >0, x2 >0 をみたすものを考える. さらに a = 1−x2 ≤b= 1−x1
となっているものとする. (そうでないときは, x1, x2 の役割を入れ替えて同じ議論をすれば よい.) n を大きくとって,
a > 1 2n ×2 となるようにとる. 次に, i, j を
i
2n ≤x1 < i+ 1
2n , j
2n ≤x2 < j+ 1
2n , (3.1)
となるようにとる. i, j は 0,1,2, . . . ,2n−1 から選ばれている. p=
( i 2n, j
2n )
と定め, pを中心とし正方形 E2 に内接する円を描き, U =Uijn を考える.
このとき, x∈U であることを示そう. 実際, (3.1) から d(p, x) =
√(
x1− i 2n
)2
+ (
x2− j 2n
)2
≤
√( 1 2n
)2
+ ( 1
2n )2
=
√2 2n . 一方,U の半径 r は,
r= min {
1− i
2n,1− j 2n
}
であるから,
r≥a > 2 2n. したがって,
d(p, x)≤
√2 2n ≤ 2
2n < r.
つまり, x∈ U. こうして, E2 内のすべての点は, n, i, j をうまく選ぶことによって Uijn のい ずれかに含まれる. 各 n ごとにUijn を適当に配列し,それらをを n の小さいほうから順に並 べて,番号をつけたものを Ui とすれば求める {Ui} になる.
(3) 可能である. (2) の類似で考えてみよう. 図形的に同じなので, E3 ={(x1, x2)∈R2; |x1|>1, |x2|>1} と取り直す. n= 1,2, . . . に対して, 点 pnij を
pnij = ( j
2n, k 2n
) ,
で定める. ただし, i, j は |i|,|j| ≤n·2n を満たす整数であり, pnij が E3 に属さないものは除 外する. 各 pnij を中心とする円で, E3 に属するようなもののうち最大のものをUijn とする.
任意の点x∈E3 は,n, i, j をうまく選んでx∈Uijn とできることが(2) と同様に示される.
また,各 n に対して Uijn は有限個しかないので, 一列に並べることができる. それらを n に したがってつないで一列に並べて番号をつけたものを {Ui} とすれば, 求めるべきものの一 例になる.
4 n = 0,1,2, . . . とする. cosnθ は n 次多項式 Tn(x)によって, cosnθ=Tn(cosθ)
のように表示できることを証明せよ. 次に,
∫ +1
−1
Tm(x)Tn(x)dx, m, n= 0,1,2, . . . , を計算せよ.
解説 n= 0 のときは, T0(x) = 1 (定数)とすれば cos 0θ = 1 =T0(cosθ). n = 1 のときは, T1(x) = x とすればcosθ =T1(cosθ). n ≥2 とする. 三角関数に対する公式から
cos(n+ 1)θ= cosnθcosθ−sinnθsinθ, sinnθsinθ=−1
2(cos(n+ 1)θ−cos(n−1)θ).
よって,
cos(n+ 1)θ = cosnθcosθ+1
2(cos(n+ 1)θ−cos(n−1)θ).
移項して,
cos(n+ 1)θ = 2 cosnθcosθ−cos(n−1)θ. (4.1) さて,n≥1として,nまで主張が正しいとすれば,多項式T0, T1, . . . , Tnが存在してTk(cosθ) = coskθ, k= 0,1,2, . . . , n が成り立つ. (4.1) から,
cos(n+ 1)θ= 2 cosθTn(cosθ)−Tn−1(cosθ)
となるが, これはcosθ の n+ 1 次多項式である. ついでながら, Tn+1(x)は Tn+1(x) = 2xTn(x)−Tn−1(x), T0(x) = 1, T1(x) = x, から定まる.
(2) x= cosθ とおく. xが −1→1 と変化するとき,θ は π →0 であることに注意.
∫ 1
−1
Tm(x)Tn(x)dx=
∫ 0
π
cosmθcosnθ(−sinθ)dθ
=
∫ π 0
cosmθcosnθsinθ dθ.
ここで,
cosmθcosnθsinθ = 1
2{cos(m+n)x+ cos(m−n)x}sinx
= 1
4{sin(m+n+ 1)x−sin(m+n−1)x
+ sin(m−n+ 1)x−sin(m−n−1)x}
に注意する. これを積分するにあたって,m±n±1が 0になるかどうかで場合わけする. ま た, 記号を簡単にするために, 問題の積分値をIm,n とおく.
Im,n = 1 4
∫ π
0
{sin(m+n+ 1)x−sin(m+n−1)x
+ sin(m−n+ 1)x−sin(m−n−1)x}dx. (4.2) (i) m=n≥0 のとき. m±n±1は 0にはなりえない.
In,n=
∫ π
0
1
4{sin(2n+ 1)x−sin(2n−1)x+ 2 sinx}dx
= 1 4
[
−cos(2n+ 1)x
2n+ 1 + cos(2n−1)x
2n−1 −2 cosx ]π
0
= 1 4
{
−(−1)2n+1−1
2n+ 1 +(−1)2n−1−1
2n−1 −2(−1−1) }
= 1 4
{
− −2
2n+ 1 + −2 2n−1+ 4
}
= 1− 1
(2n+ 1)(2n−1).
(ii) m > n≥0 のとき. まず,m+n+ 1̸= 0, m−n+ 1̸= 0 であるから, Im,n = 1
4
∫ π
0
{sin(m+n+ 1)x−sin(m+n−1)x + sin(m−n+ 1)x−sin(m−n−1)x}dx
= 1 4
[
−cos(m+n+ 1)x
m+n+ 1 − cos(m−n+ 1)x m−n+ 1
]π
0
+1 4
∫ π
0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx
=−1 4
{(−1)m+n+1−1
m+n+ 1 +(−1)m−n+1−1 m−n+ 1
}
+1 4
∫ π 0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx.
したがって, m+n の偶奇で場合わけするのが便利であろう.
(iia) m+n が偶数のとき. m−n も偶数になる. さらに, m+n−1,m−n−1 は奇数な ので0 にならない.
Im,n =−1 4
{ −2
m+n+ 1 + −2 m−n+ 1
}
+1 4
∫ π 0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx
= 1 4
{ 2
m+n+ 1 + 2 m−n+ 1
}
+1 4
[cos(m+n−1)x
m+n−1 +cos(m−n−1)x m−n−1
]π
0
= 1 4
{ 2
m+n+ 1 + 2 m−n+ 1
}
− 1 4
{ 2
m+n−1 + 2 m−n−1
}
=− 1
(m+n+ 1)(m+n−1) − 1
(m−n+ 1)(m−n−1). (iib) m+n が奇数のとき. m−n も奇数なので,
Im,n =−1 4
{(−1)m+n+1−1
m+n+ 1 + (−1)m−n+1−1 m−n+ 1
}
+ 1 4
∫ π 0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx
= 1 4
∫ π 0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx m+n= 1 のとき,つまり m= 1, n = 0 のときは, 被積分関数が0 となり,
Im,n = 0.
m+n >1, m−n= 1 のとき, つまり m=n+ 1, n ≥1,のときは, Im,n = 1
4
∫ π
0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx
= 1 4
∫ π
0
(−sin(m+n−1)x)dx
= 1 4
[cos(m+n−1)x m+n−1
]π
0
= 1 4
(−1)m+n−1−1 m+n−1 = 0.
最後に, m+n >1,m−n > 1のとき, つまりm ≥n+ 2, n ≥0,のときは, Im,n = 1
4
∫ π 0
{−sin(m+n−1)x−sin(m−n−1)x}dx
= 1 4
[cos(m+n−1)x
m+n−1 +cos(m−n−1)x m−n−1
]π
0
= 1 4
{(−1)m+n−1−1
m+n−1 + (−1)m−n−1−1 m−n−1
}
= 0.
m > n≥0 として計算したが, n > m≥0 の場合も同様である. 以上まとめると, m=n≥0 のとき,
∫ 1
−1
Tn(x)2dx= 1− 1
(2n+ 1)(2n−1). m̸=n, m+n が偶数のとき,
∫ 1
−1
Tm(x)Tn(x)dx=− 1
(m+n+ 1)(m+n−1)− 1
(m−n+ 1)(m−n−1). m̸=n, m+n が奇数のとき, ∫ 1
−1
Tm(x)Tn(x)dx = 0.
(注意)Tn(x) は第1種チェビシェフ多項式と呼ばれる. Tn(x) は cosnθ を cosθ で表す公式 になっている.
関連問題 第1種チェビシェフ多項式 Tn(x) に対して次の積分を計算せよ.
∫ 1
−1
Tm(x)Tn(x)
√1−x2 dx
5 θ を定数として, (x, y)∈R2 に対して (X, Y) を {X =xcosθ−ysinθ
Y =xsinθ+ycosθ によって定める. 次の問に答えよ.
(1) (x, y) を (X, Y)で表せ.
(2) (X, Y)を平面上の新しい座標系と考えるとき, 元の(x, y)-座標系との関係を図を 用いて説明せよ.
(3) 曲線 ax2+ 2bxy+cy2 = 1 を (X, Y)で表し, θ を上手にとることによって AX2+BY2 = 1
の形にできることを示せ.
(4) 次の曲線の概形を図示せよ. (a) 2x2+ 2√
3xy+ 4y2 = 1 (b) x2+ 4xy−3y2 =−1