留学生事情(長大学部留学生の場合)
奥村訓代
Life‑Environment of Oversea Students
Kuniyo OKUMURA
0はじめに
1学部留学生は私費留学生
1 )長大希望者と日本語能力試験 2)入学者の周辺
2有意義な学生生活の為に
1)チューターの立場から(アンケート結果抜粋) 2)留学生の立場から(アンケート結果抜粋) 3留学生問題はアジア留学生問題であるという認識 4 4年∴貫教育の必要性
参考文献 荏
資料(アンケート)
0はじめに
長崎大学(以下長大)の留学生数は、当局の発表によると平成5年12月1日現在 173人で、その内訳は、学部学生43人、大学院生87人、研究生等43人となっている。
筆者は教養部において学部留学生の日本語および日本事情を担当し、かつ学内措置 として設けられている留学生指導センターにおいて大学院生および研究生の日本語 を指導している(平成5年度)が、本論文においては学習環境および生活基盤とい う視点から、私費留学生の占有率が最も高い学部留学生に的を絞り論述するもので ある。また筆者はここで単に長大の学部留学生の実態を明らかにするだけでなく、
その結果が全学教育における留学生問題解決の糸口となり、長大における学部留学 生の現状理解、および諸問題解決、ひいては全ての基礎となる日本語力の一層の充 実、ひいてはレポート、論文レベルの日本語能力開発のための4年間一貫教育への 発展を示唆し、今後増加する留学生と多様化する21世紀の留学生問題に警鐘を鳴ら すと同時にその速やかで平和的解決法を模索しようとするものである。そのために もこの論文では、学部留学生の当大学への受け入れという時点から既に生じている 学力面、生活面での問題点を明確にし今後の取り組みの方向性を探るものである。
1学部留学生は私費留学生
日本語教育は、大きく3つに分類されているO一つは大学院生や研究生のための 日常生活や研究の手助けになればよい日本語(研究の一部としての日本語) ‑ 」 れは普通『補講』と呼ばれている。二つ目が日本の大学に入るため、および日本の 大学での授業に間に合う日本語能力養成を目的とする日本語(目的あるいは手段と しての日本語) ‑つまり『予備教育』としての日本語。そして三つ目が、学部留 学生のための日本語(方法あるいは義務としての日本語) ‑つまり『マスターす
ることを余儀なくされた外国語』としての日本語である。
それぞれに雑多な問題を含んでいるが、ここでは学部留学生に関係の深い「マス ターすることを余儀なくされた外国語」としての日本語教育についてのみ特に言及 する。
特色1 ;対象は私費留学生が中心である
先ず、一番最初に言及しなければならないのは、 77パーセントが私費留学生であ るということである(図1参照)。この点に於て、他の研究生(私費率58.14パーセ ント、図2参照)や大学院生(私費率40.23パーセント、図3参照)と比べてその 特質が大きく変わるといえる(図4比較一覧表、および図5所属別国費生占有率一 覧表参照)0
特色2 ;日本語能力試験と統一試験受験義務
日本語能力と基礎学力(英語/数学/世界史/物理など)において日本の大学に 入学するに適しているか否かの試験(日本人で言うセンター試験的なもの)が義務 づけられていることである。この点も他の留学生(大学院生、研究生)と学部留学 生を区別する大きな相違点である。この試験は1年に1度、毎年12月に行われる〔日 本語能力試験1級l)と統一試験2)、但し日本国国費留学生は受験しなくとも良
い)〕。従って、彼ら学部留学生は、大抵の場合日本国内の日本語学校などで1年前 後の日本語予備教育なるものを終了している必要がある。
日本語能力試験には入門の4級から上級の1級まであり、 1級とは、漢字2000字、
語嚢10000語程度の能力を問い、その70パーセント以上(280点/400点)をとれば 合格の認定書がもらえ、日本の国公立大学入学のためのセンター試験的要素と英語 検定試験(Step)のような公的能力認定試験的要素を持つものである。また一方、
統一試験とは、日本語能力以外の科目の基礎能力を確認し日本の大学で学習するに 適する基礎学力のあるなしを判定するためのものであるといえる。しかし、これら 2種類の試験も、受験は一応義務づけられてはいるものの、合格つまり70パーセン ト以上の得点をとらなければならないという条件は付けられておらず、合否の基準 や取り扱いについては各大学に一任されている.従って私費留学生にとっては、こ の日本語能力試験および統一試験さえ受験しておけば国公立大学受験のチケットを 先ず入手したことになる。後は点数の良い悪Lによって希望する大学を選択すれば 良いと考えられている。この点においては日本人学生のセンター試験と類似する性 格を持っているが、少し異なるのは日本人の場合、センター試験の結果によって大 学選定を余儀なくされているのに対し、留学生の場合は大学およびその学部単位に よる特別試験が通例であり、つまり日本人の主流が分離分割方式であるのに対し、
留学生は完全に連続方式であるといえる。従って出願者と受験者、合格者と入学者 の間には毎年大学側が予測できない不確実要素が多く含まれている。しかし実際問 題として、留学生にも分離分割方式的なものが導入され受験に限定が加わったり、
特別試験がなくなれば、ビザの問題等が生じ、合格できなかった学生には帰国しか なくなるのも事実である。かといって来るべき留学生10万人問題をこのままじっと 手をこまねいて傍観していてはいけない。時代に対応できる学内体制を少なくても 1つ2つ作り上げておかねばならない。今後、倍の人数になる留学生の質と内容に 関する問題を考えるとき現状のままで良いはずはない。今こそ、真剣にその対策を 検討しなければならない時である。そのためには、当大学の学部留学生について、
できるだけ詳しく知っておく必要がある。
学部留学生理解の第一歩として、先ずは経済面の問題として下記の図をあげる。
学部留学生とはいかに私費留学生が中心であるかが、この図から一目瞭然で理解し ていただけると思う。私費であるということがどれだけ彼らの学生生活を苦しくし、
歪め、また粗雑な、中味の薄いものにしているかを今改めて検証してみたい。
図1.学部留学生の場合
Z. oo/o
■ 国費生
□ 政府派遣 国 私 費
学部留学生の約8割が私費留学生であることがわかる。
図2.研究生の場合
■ 国費生 [ ] 政府派遣 囲 私 費
研究生の場合は、政府派遣留学生が1人もおらず日本国政府給費生と私費留学生 に大別される。どちらかと言えば、やはり私費留学生の方が多いが、学習期間は大 抵1年未満であり、その意味では学部留学生と内容を異にする。
図3.大学院生の場合
■ 国費生
□ 政府派遣
□ 私 費
大学院生の場合は、日本国政府給費生に政府派遣生が中心で全体の6割に及んで
いる。
長崎大学には、数の上から見るとこの3年間は図4にみるように大学院生が急増 している。
図4.人数推移
一寸ト学部生 一亡ト大学院生
→ト‑研究生
一一◇一合計
 ̄■
文部省の将来計画からすると、人数の推移は学部生1に対し大学院生および研究 生で1. 5から1.67倍が妥当であると考えられる。平成5年度長崎大学の場合、そ の比率が1 : 3倍となり90年度から95年度の妥当な推移に対し少々多すぎる気もす る。
図5.所属別国費生の占有率 1.45%
■ 学部生 [] 院 生 [] 研究生
長崎大学留学生全体の経済状況を日本国政府給費生を中心に見ると、図5のよう に圧倒的に大学院生が中心であり、学部生はほとんど日本政府の経済的恩恵は受け ていないことになる。 1990年2月7日付けの朝日新聞の発表でも、日本政府による 国費留学生は全体の14.3%、外国政府派遣留学生3.0%、そして私費留学生は82.7
%と圧倒的に多かった。そしてそのほとんどが学部留学生である事もはっきりして いる。また政府の将来計画によると1983年に日本国政府給費生(以下国費) :私費 が2 : 8の比率であり、 1992年度に、国費:私費が15:85であったものが、 10万人 に達する平成12年、 2000年には国費:私費を1 : 9にする予定であり、国費生の比 率は確実にさがって行くのである(21世紀への留学生政策の展開についてより)
1 )日本語能力試験と長大希望者
長大留学生特別入試は、各学部がそれぞれの観点からそれぞれの入試スタイルと 基準で行なっている。従って本学の学力試験も面接だけから小論文、実技、科目指 定(数学、理科)、および医学部の総合問題3)まで多種多様である。そのような内 部事情と前述の留学生の受験事情(どこかに合格しなければ帰国しなければならな い。アルバイトの収入で日本での生活を維持しなければならない)が相侯って、過 去3年間の長大希望者、志願者、受験者、合格者および最終的入学者のデータは図
6のように、受験者数や合格者数の割に入学者数が少ないという結果になっている。
例えば、平成3年度は希望者103人中30人が受験し、 7人が合格。そして入学し たのは、ほんの5人であった。また、平成4年度は、希望者132人中48人が受験し、
27人が合格した。しかし、入学したのは17人に留まった。
図6.
[ コ 平成 3 年 匹ヨ 平成 4 年
‑.一一 平成 5 年
このデータでみる限り、平成5年には154名4)もの学生が長大を希望大学の一つ にしているが、実際の志願者数は60人、また受験者数は50人であった。そのうち合 格者数は19人であったが、最終的に長大に入学手続きを済ませたのは、ほんの10人 であった。この最終入学者数は受験者の1/5、或いは希望者の1/16であり、少 なくとも合格者の半数であり、非常に少ないということを意味していることは間違 いのない事実である。そこで我々は、この数字が意味する真意を、充分認識し理解
しておかねばならない。
3年間のデータからも分かるように、受験者数が希望者の1/3になるのは大学 のレベルや受験科目とも関係がないとはいえないが、断定するにはあまりに漠然と していて確たる証拠に欠ける。しかし実際のところ合格者の半数が入学手続きをし ない(他大学を選ぶ)点は見逃すわけには行かない。大抵の場合、長大よりいいと いわれる大学に進むのが常である。入試の段階における我々の課題は、いかに将来 的に可能性の高い学生を厳選し、同時に他大学に逃さないようにできるかである。
我々(受け入れ側、あるいは大学)サイドの問題意識から受験生(留学生)サイド の問題意識をも踏まえて今後の対策を検討したいものである。文部省協力者会議の 報告にも今後、 「留学生の特定地域への過度の集中を避けるために、それ以外の地 域における諸条件の重点整備を考慮する」とあるように、実際問題として留学生の 大都市集中がここでは問題である。つまり一つの問題は、他大学の足きり状況と合 格ラインである。今までの傾向からはっきりとしているのは、同じ合格ラインなら 留学生は、田舎より都市に流れるということである。その理由の一つは、アルバイ トに困らないからである。しかも1時間当りの給金がいいことである。ここ長大お いても2ヶ月の夏期休暇を利用して、関東、関西出稼ぎ集団が毎年結成されている という冗談をいう学生もいる。長崎と違い、大都会では24時間アルバイトがあり、
同じ仕事をしても1時間当りの給金が長崎の1.5倍から2倍であるといわれている。
この2ヶ月に彼らは後期の授業料を稼ぐというまことしやかな噂も飛び交ってい る。この表現は、勿論かなりおおげさなものであるが、日頃は勉学にいそしみ、そ の分、長期休暇のときに学費や生活費を稼ごうとする、むしろ真面目な私費留学生 の実情と哀しさを我々に与える。
2)入学者の周辺
実施団体である財団法人日本国際教育協会の発表によると平成2、 3、 4年度の 日本語能力試験の受験者数および全国平均点は、 2年度が10643人受験し平均点が 256.1点であり、 3年度が12613人受験し平均点が266.7点であり、 4年度は13381人 受験し平均点は275. 2点であった。これを長崎大学の入学者に限定して見てみると
2年度の学生の平均点は243.6点で、 3年度が270.46点であり、また4年度は272.4 点であった。この結果は一概に当大学生のレベルが、低いとか高いとかいう材料で
は決してない。
しかし、各学科や学部の事情であろうと察するが、今後の留学生特別入試におけ る試験科目のばらつきやその時の基準に暖昧さや不備はないかという反省を促す必 要はある。合否基準の明確化は受験生のみならず我々受け入れ側にも非常に論理性
と合法性を持たせることになる。それは具体的に日本語能力試験や統一試験をどの 程度、できればはっきりとした希望学生像や足きり点を示し、同時に入試における 本学の試験との兼ね合いの中で、どの程度それらが有効的なのか、つまり全体を 1000点とすれば、それらの試験はその中の何パーセントとしてカウントされるのか されないのかと言うことも明確にするべきである。これらの基準だけでもはっきり しておけば毎年、基準や方針、試験科目、学部間内のばらつきなどの是正には効果 的である。特に面接試問だけを課する学部学科においてはできれば単に試験官の印 象による判断とならぬよう客観的判断材料を準備しておかねばならない。
我々に要求されている課題の一つは、日本語能力試験や統一試験の結果をいかに 位置づけ、そこにどのような長崎大学独自の要素を加味し、将来延びそうな学生を 兄いだし、かつ帰国後日本での学習を生かし活躍する可能性のある人材を発掘する
かであり、それこそが今後の長大にとっての大きな任務であるといえる。長崎とい う町も大学も、古くから留学生を受け入れている割に進歩が少なく、むしろ時代の 要求に遅れをとっているといわれないように、今まで培った歴史と伝統を守り諸外
国に長大卒又は修了生として立派に活躍してもらえる環境づくりに、大学全体で取 り組まねばならない時に直面しているのだ。
着実に毎年増える大学院生や研究生に対し、一方の学部留学生は増えたり減った りで隔年のシーソゲーム状態である。平成3年度が5名かと思えば、 4年度は17名、
5年度は10名、そして6年度は16名となっている。
研究生は半分が日本政府(県など)、の奨学金を貰っており、期間が大抵1年程 度であり、同様に大学院生もそのほとんどが国費生で研究だけに打ち込め、また基 本的に研究者であるからいいとしても、学部留学生はそのほとんどが中国を中心と する東南アジアの学生で4年間在籍し、これから日本で専門を見つけようとする、
しかも私費留学生であるのだ。それゆえに大学院生や研究生より真剣にその進路を 鑑みた受け入れ体制を整えてやる必要性を感じずにはいられない。 10万人受け入れ 計画の見直し(協力者会議の提言)により学部留学生を当初の6万人から5万人に 減らし、その1万人を専修学校等に振り替えた真の理由はこの辺にもありそうだ。
2有意義な学生生活の為に
入学に関する留学生問題(特に学部留学生と大学院生、研究生)との違いは、以 上のように経済的バックグランドの相違と学習環境にあるが、現実問題として、そ れらの留学生が長大入学後どのような学生生活を送っているか、はたして満足して いるのかという点にある。ここでは留学生のアンケートと、彼らのチューター(こ こでは教養部のチューター)である日本人学生によるアンケートから、特に関係の ある項目をピックアップし、既存している諸問題と彼らの意識の一端を見てみるこ
ととする。
さて、長大には現在学部に、 8ヶ国43人の留学生と数人の学部研究生が在籍して いる。 (その国籍別一覧表は、図7参照/平成5年度)。彼らの多くは中国出身者で あり、また全体的に共通して言えることは、ほとんど全員が日本より物価の低い東 南アジアの国々の人々であることだ。
図7.学部生の出身国 2.33%
□
□ 口
□ 国 E j
中国
スリラン′カ イン′ドネシア
台湾 韓国
マレーシア
アンケート結果からもその一端が伺える。チューターに対する相談で何が一番多い のか、またチューターを悩ませる原因は何か。非常に興味深い。一方、我々が良か れとやっていることが、留学生にとっては悩みの種になってはいないだろうか。異 文化間の出来事であるから、 「小さな親切、大きな迷惑」となってしまわないとも 限らない。ひいては我々のおしつけの国際親善、みがってな異文化交流をしている のではないかと、半ば心配しながらのアンケートである。
1)チューターのアンケート結果(抜粋)
アンケート1どんな内容の相談や問題が多かったですか(有効回答数19) 試験に関すること7人、日本語に関すること6人(方言、レポート含む) 生活に関すること3人、サークルに関すること1人、その他2人 アンケート2チューターで一番困ったことはなんですか
コミュニケーション5人、習慣3人、時間2人、その他3人、
あまり感じなかった6人
アンケート3チューターをして何かいいことがありましたか(複数解答可) 国際交流ができた11人、国際的視野が広まった7人、
外国の習慣が理解できた5人、日本理解に貢献した1人
2)留学生に対するアンケート結果(抜粋)
アンケート4あなたはアルバイトをしていますか(有効回答数22) ハイ10人、イイエ12人
アンケート5日本であなたが困っていることはなんですか
円高10人、友達3人、方言6人、日本語5人、交通2人、
異性1人、下宿5人、食べ物2人、気温1人、水1人、その他2人、
日本語以外の学習3人、学校1人
アンケート6 ‑ケ月の生活費はいくらぐらいですか
15万円以上2人、 14から12万円0人、 11から9万円1人、
8万から6万円11人、 6万円以下6人、無回答2人 アンケート7日本政府の留学生対応策についてどう思いますか
現状で満足である3人、全く理解できない4人、かなり不満である4人、
少し不満である6人、答えられない1人、無回答4人
アンケート8地域との交流について色々なイベントをあなたはどのように考えま すか
素晴らしい2人、もっとやって飲しい8人、無回答2人、その他2人、
まあまあ7人、馬鹿にしている1人
以上から言えることは、やはり留学生の一番大きな関心事は、何といっても日本 での生活それ自体である。円高の影響は思いのほか厳しい。ある学生は、 「自己資 金を十分持ってきたつもりである。しかし、実際に日本に来てみると思ったより出 費がかさみ、 1年分のつもりが半年した持たない。下手をすると、 4、 5ヶ月で残 高がゼロになってしまう。勉強はしたい。でも勉強どころではない。先ず、生活が できなくなりそうだから。私は生きるために食います。そして勉強するために働き ます。」という。あまりの過酷さに、つい国費生や大学院生、また日本政府や大学 に対し不満を述べる学生もいるが、その切なさと無意味さを一番よく知っているの も彼ら自身である。
3留学生問題はアジア留学生問題であるという認識
ここでは他府県の留学生問題や取り組みを見ながら、長大留学生の特徴や問題点 を再確認したいと思う。
1)九州の場合
高等教育研究所の1989年のデータによると、九州の留学生数は日本全体の5%を 占めている。トップは当然関東で全体の63%、次いで近畿の16. 1 、そして中部 の8.3%、そして九州、東北、中国、北海道、四国と続く。当時の1552人の留学 生の九州における内訳は福岡が690人、次いで長崎が195人、熊本が182人、沖縄が171 人、大分が124人、鹿児島が97人、佐賀が61人、宮崎が32人となっていた。平成3 年5月におけるデータでも九州は全体の5%の2,233人を擁し、県別では福岡の961 人に次いで長崎の265人であった。
留学生問題はアジア留学生問題であると言われるほどに、九州大学でも1993年時
点で85%が中国(台湾含む)、韓国をはじめとするアジア諸国の留学生で構成され ている。長崎大学とて同様にアジア諸国の留学生が、 80%以上を占め、特に学部留 学生の場合は、平成5年度はボリビアの学生を除く98%がアジア諸国出身であるこ
とは無視できぬ事実である。
2)名古屋の場合
名古屋大学留学生相談室の1991年および1992年のデータによると、留学生の相談 で圧倒的に多いのは、 「留学希望」、 「生活」、 「宿舎」、 「指導教官との連絡」であり、
その次に「家族」、 「日本語」だった。しかし「奨学金」、や「ビザ」の問題も見逃 せないと言う。
3)東京の場合
東京ボランティアグループ留学生相談室に持ち込まれる問題の多くは、先ず、宿 舎捜しである。次いで交友関係、奨学金、進学、情報と続く。何と宿舎捜しは21%
と5人に1人が悩んで相談にいったことになる。それは部屋が無いのではなく、留 学生のサイフに合った部屋のないことを意味している。
4)日本政府の場合
文部省の留学生課の発表によると、 1983年当時の見通しでは、平成12年に国立大 学35000人、公私立大学に65000人の留学生を受け入れる計画であった。また国立の
内訳は、学部レベルで15000人、大学院レベルで20000人としていたが、平成3年 (1991年)には全体を国立32500人とし、公私立を67500人としている。またその内 訳は、学部レベルを減らし12500人とした点と、公私立の学部留学生数も減少させ、
それらを前の発表の10000人から20000人に増やし、高専、専修学校へ充当している。
これは一方には前述のように、学部留学生に私費が多く問題点も多いという理由と、
他方においては、 18才人口減に伴う措置であると考えられる。
5 )各地の地方公共団体の動き
平成4年度までに次の公共団体が、留学生宿舎の建設に着手した。東京都(大田 記念館)、神奈川県(神奈川国際学生会館2箇所)、愛知県(国際留学生会館)、京 都市(学生センター)、神戸市(学園都市留学生会館、広島県(留学生会館)、宮崎 市(外国人留学生向住宅)
6)世界からみた留学先としての日本
馬越徹(1986年)によると韓国人の日本に対する留学希望順位は第2位である。
中国においても日本は、第2位の国であった。そしてタイ国とフィリピンにおいて は第3位となり、シンガポールにおいては第5位となり、マレーシアとインドネシ アに至っては上位5位迄には入っていないというお粗末な結果であった。それに反 して、各国とも第1位はアメリカが断然トップであった。最近の日本留学は「近い
から」とか「奨学金がもらえたから」とか「アルバイトができるから」と言う意見 までさまざま聞かれる。
大まかな点においては、長崎も他大学や他府県と同じ状況下におかれていると判 断される。しかし下宿に関しては、関西に比べ人種差別が少ないようである。これ は長崎の特に韓国、中国との古い歴史の賜であると考える。しかし狭いにもかかわ らず、情報ネットワークの悪さが目立つ。また、今や留学生教育は、学生、大学(受 け入れ側)、そして地域の三位一体で取り組まなければならない社会問題と成りつ つある事を再度認識させられた。
4 4年一貫教育の必要性
今回は特に経済的問題をもつ、私費留学生(学部留学生)の現状と問題意識の一 端を述べた。最後に彼らの生活と学習という2重構造を理解した上で、学部留学生 のためには、単なる「外国語としての日本語」ではなく「方法としての日本語、あ
るいはマスターしなければならない言語」として、 4年一貫教育の必要性とそのメ リットについて言及しなければならない。
現在、教養部(全学教育)においては10単位の日本語と2単位の日本事情が開講 されている。他大学と比べて、これは決して劣るべきものでもなければ勝るべきも のでもない。しかし、現実問題として日本語ができないと他科目や研究にも大きな 障害をきたす学部留学生にとっては、不十分であると言える。日本語力の充実から 目的別、意図別、そしてレポートから論文作成にいたる日本語能力養成は4年間と 言う年数とステップを踏まない限り不可能であるということを力説したい。この問 題については、平成5年度国立大学日本語教育連絡協議会においても全学教育にお ける留学生教育の今後の方向性として、著者の問題定義が一つの目玉として取り上 げられた。
4年一貫日本語教育が特に学部留学生に必要な理由は、
1 )日本語が十分でないと他教科にも弊害をもたらす。
特に英語などにおいては意味も訳もできない状態である。
2)作文力に著しく欠ける。
語嚢10000語、漢字2000字の大学生としての基礎日本語能力のある学部留学生 の多くは、会話と聞き取り(方言は除く)においてかなりのレベルであり、あ まり不十分を感じないのは確かだ。しかし、作文においてはあまり能力が望め ないのも事実である。この辺が、日本語教育の上級における大きな課題の一つ でもある。従って、その延長線上にあるレポート、論文における指導は単に日
本語担当教官の努力では済まない大きな日本語教育上の問題点である。
3)格差の増大
くさび塑教育においては、 1年次から専門教育が始まるわけだが日本語におけ る十分な習得のできていない留学生と一般学生とには、あまりに格差がありす ぎる。つまり、大学院生等と異なり、その専門知識はほとんど無く、また日本 の大学やシステムについても知らないのだ。頼る先輩(留学生)も数えるばか
り、しかも彼らとて生活に忙しく他人にあまりかかわっている暇などない。
4)年数と共に延びる日本語教育
日本に10年いても日本語が上手になるとは限らない。しかし10年間日本語学習 を計画的に続ければ、必ず日本語は上達する。例えば予備教育機関で1年、長 崎大学で4年、その後も5年間の大学院生活を終えた留学生A君がいるとしよ
う。 A君は丁度10年、日本に滞在することになる。確かに日常会話と自分の専 門に関する日本語では不自由しなくなるだろう。しかしA君の発音は、はたし て問題ないだろうか。いわゆるフォリナートークのままではないだろうか。テ
レビでお馴染みのアグネスチャンはどうだろう。古いところではイイデス・バ ンソンさんも同様で、一言その話しぶりを聞くだけで、外国人であることばか
りか、誰であるかまですぐわかってしまうのである。初級における発音矯正が 十分でないまま中級・上級になった人に多い例である。事実A君の場合も、き ちんとした日本語教育を受けたのは予備教育機関の1年と長崎大学教養部(全 学教育1年時)の合計2年にしか過ぎないことになる。日常会話や悪い表現に は教師はいならいが、まともで知的な文章や表現には、指導者と時間がいくら あっても余ることはない。せめて、 4年間の学部在学中に他大学では今だ成し 得ない4年間日本語一貫教育を完成させ、りっぱな留学生を世に送るのも我々 学部留学生の日本語を担当する者の使命であり、歴史と伝統に培われた長崎、
語学発祥の地長崎の責任でもあると強く確信している。
参考文献
アイセック九州における外国外留学生の現状と問題アイセック九州1985 高等教育研究所高等教育研究所紀要12高等教育研究所1990
日本語教育学会日本語教育の概観日本語教育学会1997
外国人留学生問題研究会外国人留学生問題研究会会報合冊凡人社1993 外国人留学生問題研究会留学生と異文化コミュニケーション凡人社1990
注
1 )国際交流基金との共催により、年に一度行われる日本語能力試験でレベルは1 級から4級まである。但し1級は日本の国公立大学を希望する私費留学生を対象に 行われる試験で高度の文法、漢字(2000字程度)、語嚢(10000語程度)を習得し、
社会生活をする上で必要であるとともに、大学における学習、研究の基礎としても 役立つような、総合的な日本語能力(日本語を900時間程度学習したレベル)を確 認するものである。平成4年度の場合、国内は12月6日、東京、名古屋、大阪およ び福岡で行われ63ヶ国の留学生13419人が受験し、また海外に於いても24ヶ国52都 市で実施され1541人が受験した。
2)日本語能力試験1級と同様に、日本の国公立大学入学を希望する私費留学生に 課せられる日本語以外の科目の能力を確認する試験。昭和45年以来実施され、現在 のように日本語と分離されたのは昭和59年から。 (数学、物理、化学、生物、世界 費、英語の6科目。但し文系は数学、世界史、英語の3科目で理系は数学、物理、
化学、生物、英語の5課目を受験)
3)和文又は英文による一般的な社会、および自然科学に関する問題について日本 語により論述と口頭試問を行う。 (詳しくは私費外国人留学生募集要項参照)
4)この数字は、日本語能力試験1級の受験者のうちあらかじめ長大を受験希望し た学生数に、試験後長大を希望し直接出願してきた受験希望者に含まれていなかっ た学生数の合計である。
資料(アンケート)
1)留学生用アンケート(内容大項目) 日常生活に関するアンケート 1) 1ヶ月の生活費はいくらですか
2)アルバイトをしていますか。また理由は、時間数は、仕事の内容は何ですか 3)あなたが日本で困っていることは何ですか
方言に関するアンケート
1)日本人の特に学生の言葉をどう感じますか
2)店などで聞く日本語が、あなたの日本語と違うことがありますか。あれば、
どんな時ですか
3)方言がわからなくて困ったことがありますか 4)方言を学校で学ぶべきだと思いますか 5)標準語と比較して方言をどう思いますか
6)異文化理解や地域理解に方言は、必要でしょうか
政府の留学生(就学生)の対応策に関するアンケート 1)あなたの満足度は
2)その具体例
3)その他どんな事を望みますか 地域との交流に関するアンケート
1)いろいろなイベントをどう思います。また、その理由は 2)今後どのようなイベントや活動を期待しますか
3)あなたは地域に馴染んでいると思いますか 日本人に関するアンケート
1)日本人をどう思いますか。その理由は
2)結婚の対象として日本人を考えたことがありまか。ある、なしの理由 2)チューター用アンケート
1)あなたは主にどんな時間帯に指導しましたか 2)どんな内容の相談や問題が多かったですか 3)チューターで一番困ったことは何ですか
4)留学生に対する希望や意見があれば書いてください 5)チューターをしていて何かいいことがありましたか
6)他のチューターに対し何か一言(こまめに学生係りや他のチューターと の横の連絡をとりたいと言う意見が多 く、その結果チューター会議が2ヶ月 に1度行われている。チューター感想 文集もできている。)
7)チューターをした感想なり反省を200字程度にまとめてください 8)また、チュ一夕をしたいですか
(1994年4月28日受理)