過失 の一応 の推定 の意義
‑ 保全処分 の不当執行 に関す る判例 を中心 に ‑ (1)
町 村 泰 貴
目 次
Ⅰ.問題 の所在
Ⅱ.
保全処分 の不当執行 における損害賠償請求 の法状況( 1
) 実定法 の規定( 2 )
無過失責任説 と過失責任説 の対立Ⅲ.
戦前 の判例 の検討( 1
) 初期 の判例( 2 )
明治4 1
年大判 とその後 の判例( 3 )
大正1 0
年判決 とその定着( 4
) 小括 (以上本号)Ⅳ.
戦後 の判例Ⅴ.
理論的位置付 けの試 みⅠ.問題の所在
語学上 いわゆる 「一応の推定」 とは,特 に不法行為訴訟 における過失 の立証 について判例上形成 されて きた概念であ るが, その意義内容 についての理論的 な位置付 けには見解 の対立 がある。 近時 の主要 な文献 に限 って見 ると, まず こ の問題 につ いて エポ ック ・メイキ ングな中野教授 の論文 にお いて は,過失 の
「一応 の推定」を経験則 の適用 による事実上 の推定 にはかな らないと しつつ,過 失事実 の抽象的 ・不特定的認定 の許容 とその認定 を妨 げる特段 の事情 について の反証責任 との2点 において特殊性 が見 られ ると位置付 け られた1。これに対 し て渡辺教授2は, ドイツにおける表見証明
Ans c he i ns be we i s
の理論 を検討対象1
)中野貞一郎 「過失 の 『一応 の推定』について」曹時1 9 巻 1
1号,1 2
号 (昭和4 2
年) (同 『過失 の推認』 (弘文堂)所収。以下で は同書か ら引用す る)。直聖
F iE
とされた上で,中野教授 の 「一応の推定」の理解 に疑問を指摘 され
,
「表見証明 は,立証困難 を前提 とし,実体的利益考量 に もとづ き,相手方 にも一定の反証 提 出責任を負わせ ることにより,挙証者の立証負担を軽減す るもの」 3
とまとめ られた。 また太田助教授 は,過失の 「一応の推定」 を法的価値判断 と位置付 け られ,疑似結果責任の定立 と過失を基礎付 ける事実群 の証明責任分配 との機能 を もっ とされた4。 さらに最近,藤原判事 は,過失 の 「一応の推定」が問題 とな るケースのそれぞれにつ き予想 され る経験則 に考察 を加 え られた上で,過失の「一応の推定」 は証明責任 の転換その ものであると結論付 け られている5。
このように学説 の理解が対立す る中で判例 は,特 に保全処分の不当執行 によ り生 じた損害の賠償を不法行為 として請求す るケースについて,戦後の下級審 判決を中心 にかな りの量 の蓄積がある
。
「一応の推定」の意義を論 じるには,この判例 自体 についての検討を してお くことも有用であろう6。またこの問題 につ いては証明度や証明責任 との関連 の外 に,実体法上 の不法行為成立要件 との関 連 も指摘 され るが,その当否 も含 めて判例を通 じた損害賠償義務成否の基準が 検討 さるべ きようにも思われる。
そこで本稿 では,過失の 「一応の推定
」
の うちとりわけ多数の判例の蓄積が2)
渡辺武文 「表見証明 と立証軽減」吉川大二郎博士追悼論集 『手続法の理論 と実践』(法律文化社 ・昭和
5 6
年)下1 3 9
貢,特 に1 5 3
貢以下参照。3)
渡辺 ・同前1 5 7
貢。直接 には表見証明を対象 とされ るようであるが,それ以前の論 述内容か ら見て,
「一応の推定」の理解 にも及ぶ ものであろうと思われる。4)
太田勝造 『裁判 における証明論 の基礎』 (弘文堂 ・昭和5 7
年)1 9 2
頁以下参照。5
)藤原弘道 「一応の推定 と証明責任の転換」竹下‑石川編 『講座民事訴訟』5
巻 (弘 文堂 ・昭和5 8
年)1 2 7
頁以下。6
) これまで も吉川大二郎 「保全処分 に因 る損害賠償責任 に関す る諸問題」同 『保全処 分の研究』(弘文堂 ・昭和1 2
年)4 3 7
頁以下所収,斎藤秀夫 ‑桜田勝義 「保全処分 と 損害賠償責任」吉川大二郎博士還暦記念 『保全処分の体系』上 (法律文化社 ・昭和4 0
年)1 3
頁以下,上北武男 「判例研究」同志社法学2 3
巻 1号8 0
頁以下 などで,多 くの判例が検討 されていたが,これ らはいずれ も過失の要否が主 な検討対象で,
「一応の推定」の意義 に焦点 を絞 った ものではない。西 ドイツの表見証明 との比較法的 アプローチでは,特 に中野 ・前掲書 (注
1
)および渡辺 ・前掲論文 (注2)
が詳細 である。過去の一応の推定の意義
89
見 られ る保全処分 の不当執行 のケースを取 り上 げて,実体法 ・訴訟法 の両面 に おける意義 を再検討 す る羊ととす る。以下,考察 の前提 とな る保全処分 の不 当 執行 とその損害賠償 をめ ぐる法状況8を とりまとめ (Ⅱ), 戦前 の判例 の流れを 検討す る (Ⅲ)。そ こで は過失 の 「一応 の推定」 と呼 ばれ る法理 がいっか ら,ど の よ うな形で形成 されて きたのか とい う歴史的 な考察 が中心 とな る7。そのあ と で戟後現在 に至 るまでの判例 の傾向 と意義 を まとめ (Ⅳ),これを理論 的 にど う 位置付 け るべ きか につ いての私見 を呈示す る (Ⅴ)。
Ⅲ.保全処分の不当執行 における損害賠償請求の法状況
(1) 実定法 の規定
我が国の現行民法 ・民訴法 において は,仮差押 や仮処分 な どの保全処分 によ る執行 の後,本案訴訟 において保全処分 の執行債権者 が敗訴 した り,上訴 によ り保全処分 が取 り消 された場合 に,執行債務者 が受 けた損害 の填補 を 目的 とす る直接 の規定 は見 当た らないので, その損害 は一般 の不法行為 と して賠償 を求 め ることがで きるにとどまる。 そ こで債権者 の過失 が要件 とな るが,周知 の通 り, ここで は無過失責任 を認 め るべ きだ とす る見解 がむ しろ多数 を 占めてお り,過失 の 「一応 の推定」 はこの多数説 の見解 を取 らないとい う前提 でのみ問 題 とな りうる。 もっとも過失 の証明責任転換 は無過失責任への志 向 と密接 に結 び付 く問題で あ るか ら
,
「一応 の推定」の理解 において も無過失責任論 にふれて お く意味があろ う。7)
なおその場合,
「一応の推定」の登場 した時期を探るにはあらか じめ 「一応の推定」
がどのようなものかの概念が前提 となるところ,前提たるべき概念の意義自体 も判 例から検討 しようとするものであるから, トー トロジーとなる可能性がある。 これ を回避するために,さしあたり通常の心証形成過程でなされる事実上の推定とは区 別 しうることを 「一応の推定」の仮定的なメルクマールとする。
8)
保全処分については,法改正が進行中であり,その内容いかんによっては本稿の問 題に大きな影響を持っと思われる。本稿は現行法の下での判例の意義を明 らかにす るものであるので,その前提となる法状況 も昭和6 3
年までの立法および改正準備 資料にとどめられる。法改正はⅤにおいて,今後の展望として若干の指摘をする。無過失責任論 の背景 と して,仮執行宣言付判決 の変更の場合 の民訴法
1 9 8
条2
項 を挙 げなければな らない。この規定 は,大正1 5
年 の民訴法改正 の際 に,そ れ以前 の旧5 1 0
条2
項gが給付物 の返還 のみを定 めて損害賠償 を規定 して いな か った ところを改 めた ものだが,立法過程 の審議 では もっぱ ら損害賠償請求 の ために別訴 を提起す る手間が省 けるとい う点 に力点 が置かれ,過失 の要否 には 言及 されていなか った10。 しか しなが ら大正1 5
年改正法案 の起草 を担当 した松 岡義正博士 の注釈書11では,現行1 9 8
条2
項 について,当時 の ドイツ12における 学説 を豊富 に参照 して,危険負担 の結果 として課 され る無過失責任 と説明 され てお り,立法者 と して も仮執行 の場合 は無過失責 任 を課す との認識 が前提 に あ ったよ うに推測 され る。現在 この損害賠償義務 が無過失責任 と解 され ること に学説判例上異論がない13。なお ドイツ法で は, 仮執行 の場合14の外 に保全処分 について も,
ZPO9 4 5
条15が損害賠償義務 を定 めて いる。 そ して これ らの規定 による損害賠償義務 の 成立 には執行債権者 の過失
Ve r s c hul de n
が不要 と解 されている16。9)
旧5 1 0
条2
項 「仮執行 ノ宣言 ア リタル本案 ノ判決 ヲ廃棄若 ク‑破穀又‑変更 スル ト キ‑判決 二基 キ被告 ノ支払又 シ給付 シタルモノノ弁済 ヲ被告 ノ申立 二因 り判決 ヲ以 テ原告 二言渡 スへ シ」1 0 )
『民事訴訟法改正調査委員会速記録』 (法曹会 ・昭和4
年)7 1 6
貢以下。ll)松岡義正 『新民事訴訟法註釈』第
5
巻 (清水書店 ・昭和1 0
年)1 1 7
2貢以下。1 2 )
日本の現行民訴法1 9 8
条2
項 にはZPO7 1 7
条2
項が相当す る。1 3 )
無過失責任であることを示 した リーディング ・ケースとして, 大判昭和1 2
年2
月2 3
日民集1 6
巻3
号1 3 3
頁。 学説 としてはさ しあた り兼子 ‑松浦 ‑新堂 ‑竹下 『条 解民事訴訟法』 (弘文堂 ・昭和6 1
年)5 8 2
頁参照。1 4 )
前注1 2 )
参照。1 5 )ZPO9 4 5
条 「仮差押若 しくは仮処分の命令が当初 よ り不当なことが明 らかなとき 又 は命ぜ られた処分が第9 2 6
条第2
項若 しくは第9 4 2
条第3
項 に基づいて取 り消 さ れたときは,命令を得た当事者 は,命ぜ られた処分の執行 によって又は相手方が執 行を免れるために若 しくは処分の由消を得 るために担保を立てた ことによって生 じた損害を相手方 に賠償す る義務 を負 う
。
」 (法務資料第4 2 6
号 『ドイツ強制執行法』中野貞一郎訳 による。)
1 6 ) St e i n ‑ J o na s
,Ko mme nt a rz ur ZP
O,2 0. Auf
l.,§ 9 4 5
Rdnr.1
.( Gr uns ky
,1 9 8
1)過去の一応の推定の意義
91
( 2 )
無過失責任説 と過失責任説 の対立こうした状況 を背景 に して, 日本法 において も,仮執行 に関す る
1 9 8
条2
項 を保全処分 の不当執行 の場合 に類推適用 して,無過失 の損害賠償責任 を認 める べ きだ とす る見解 が多数 を占めている17。その論拠 は,不法行為理論 を損害の衡 平 な分担 とい う視点で とらえ,その衡平 は保全処分制度上,すなわち保全処分 が原則 と して債権者 の一方的疎明資料 に基づいて,債務者 に十分防御 の機会 を 与 えないまま発布 され ることか ら利益 を得 た債権者 が全責任を負担す るときに 達せ られ,無過失責任 を負担す ることが全責任 を負担す ることになるとい う価 値判断 にはぼ集約 され, その価値判断が仮執行 に関す る民訴法1 9 8
条2
項 の場 合 と同等 ない しそれ以上 に妥当す るが故 に,類推適用が正当だ とされ る。 この ほか仮処分 が濫用 され る傾 向にあ ること18や,過失 を推定す ること自体無理 な 理論構成 であ る し,推定 によって も過失が認 め られない場合がでて くるが, そ れで は相手方 が不当に保護 されない こととな り公平 の要求 に適 わない こと19な ども指摘 されている。これに対 して無過失責任 を認 めない見解20の論拠 は,保全処分制度 は本案訴 訟遅延 を補完す るために活用 され るべ きで,無過失責任 を課す な らば, その目 的が阻害 され, ひいて は裁判制度 の利用 を も阻害す るに至 るので適 当で はな
1 7 )
主要な文献 に限 って挙げれば,平野義太郎 ・判批 ・判民大正1
1年度3 7
頁,野田良 之 ・判批 ・判民昭和1
1年度1 8
頁,兼子一 ・判批 ・判民昭和1 3
年度2 2 4
貢,斎藤‑桜田前掲論文 (注
6)1 3
頁,特 に1 8
頁以下,古崎慶長 「違法な仮処分 と損害賠償」村松俊夫裁判官還暦記念論文集 『仮処分の研究』上 (日本評論社 ・昭和
4 0
年)3 0 7
頁,特 に
3 1
1頁以下。 このほか最近の注釈書では,斎藤秀夫編 『注解民事訴訟法』( 3 )
(第一法規 ・昭和4 8
年)2 9 4
頁 (小室),兼子‑松浦‑新堂 ‑竹下 ・前掲書 (荏1 3 )5 8 1
頁 (竹下)などが類推適用を肯定 している。ちなみに保全処分の法改正準備の中で も,昭和
4 8
年9
月に公表 された強制執行法 案要綱案 (いわゆる第2
次試案)の第3 3 7
等ではこの無過失責任を導入す る方向が 検討 されてきた。下記Ⅴ参照。1 8 )
古崎 ・前掲論文 (注1 7 )3 1 2
頁。1 9 )
野田 ・前掲判批 (注1 7 )2 1
貢。2 0 )
吉川 ・前掲書 (注6)4 4 2
頁以下および4 5 5
頁以下,上北 ・前掲判例研究 (注6)
特 に1 0 1
頁以下,松浦馨 「仮差押え及び仮処分の改正 について(4 )
」判時8 3 7
号3
頁。い21とい う外,仮執 行 との単純 な比較 がで きない こと,つ ま り仮執行 は本案判決 を経 てお り, そ こで過失 を要求 すれば損害賠償責任 が肯定 され る事 例 は非常 に 少 な くな るが,保全処分 の場合 は異 な ること, また仮執行 の場合 は満足 が終局 的であ るのに対 して,保全処分 で は単 に保全 の程度 に とどま ることの はか,無 過 失責 任 を課 す ことは, 債権 者 に権利 の存 否 の判 断 を義務 付 け る ことにな る
が,被保全権利 が存在 して いて も本案訴訟 で敗訴 す る場合 はあ るので適 当で は ない こと,濫用 を防止 す るためであれば,過失責任 の下 で も損害 の公平 な負担 によ り可能 で あ る ことな どが指摘 されて い る22。
両説 の対立点 は多岐 にわた るが,保全処分 の不 当執行 によ り生 じた損害 の衡 平 な分配 を損害賠償 とい う形 で実 現す るとい う基本的 な枠組 は共通 して い る。
その上 で何 が衡平 か とい う価値判 断 と,濫用 の存否 やその抑止 に無過失責任主 義 が有効 か ど うか の事実認識 に,両説 の対立点 があ るよ うに思 われ る。 しか し
なが ら,無過失責任 を認 めない立場 にあ って も,少 な くとも吉川博士 と松浦教 授 は過失 の (一応 の)推定 を是認 されて お り23,そ こで いわれ る 「推定」が太 田 助教授24の指摘 す るよ うに 「疑似結果責任」の定立 を意味す るので あれ ば,両説
の実質 的 な帰結 はほとん ど大差 が ない とい うこととなろ う。
2
1)吉川 ・前掲書 (注6)4 4 2
頁以下。2 2 )
上北 ・前掲判例研究 (注6)1 0 1
頁以下。なお松浦 ・前掲論文 (注2 0 )
判時8 3 7
号3
頁以下では,保全処分の種類による違いをも考慮 した詳細な検討を加えられてい るが,基本的には立法論 として述べ られ,無過失責任の導入に反対される論拠 とし て,( a)
保全処分の中でも仮の地位仮処分については一方的疎明資料に基づき発布さ れるわけではないこと, (
b)
仮の地位仮処分が濫用されているかどうかが疑問である し,その抑止に無過失責任をもって対処することが必ず しも妥当 しないこと,(
C)
衡 平 という観点か らも,常に無過失責任を債権者に課す ことが衡平 とはいえないこと
, ( d)
民訴法1 9 8
条2
項 との権衡論 も特に仮の地位仮処分には妥当 しない, と指摘 される。2 3 )
吉川 ・前掲書 (注6)4 5 5
頁以下では,立証責任の転換 という。松浦 ・前掲論文 (荏2 0 )
判時8 3 7
号6
貢では,事実上の推定 と法律上の推定 (証明責任の転換)とを区 別 し,理想論 として仮差押 ・係争物仮処分の場合は法律上の推定,仮の地位仮処分 の場合は事実上の推定 とすることが望ましいとされる。上北教授の見解は明 らかで はない。2 4 )
太田 ・前掲書 (注4)1 9 2
頁以下参照。過去 の一応の推定 の意義 93
なお,民訴法
1 9 8
条2
項 につ いて は, その損害 の範囲 について判例通説 が仮 執行 と相 当因果関係 のあ るあ らゆ る損害が入 ると解 し2 5 ,
特 に精神的損害 の賠 償 も無過失責任 と して認 めるのに対 して,賠償範囲を限定 しよ うとす る少数説 も唱え られて いる26。 そ こで1 9 8
条2
項 の類推適用 が問題 とな ってい る保全処 分 の不当執行の場合 も, この点が問題 とな りうるが, ここでは全損害が賠償範 囲 に入 るとの見解 に異論 はないよ うである27。Ⅲ.戦 前 の判例 の検討 2 8
(1)初期 の判例
「一応 の推定」を示 した判決 と して引用 され る29明治
4 1
年 の大審院判決 (後掲【
7
】)以前 の判例状況 を見 ると, まず次 の 【1】が挙 げ られ る。【
1
】大判明治3 5
年1 2 月 5
日民森8
輯1
1巻2 6
貢事案 は不明だが, 仮差押 の不当執行 による損害賠償が求 め られ, 民訴法
7 4 1
条2
項 の2 5 )
兼子 ‑松浦 ‑新堂 ‑竹下 ・前掲書 (注1 3 )5 8 3
頁以下 および同書引用の文献参照。判例 として は最判昭和
5 2
年3
月1 5
日民集3 1
巻2
号2 8 9
貢が,
「仮執行 によ り被告 の受 けた損害 とは,損害の うち特定 の ものに限定 され るものではな く,仮執行 と相 当因果関係 にある全損害を さす もの と解す る」 と判示 している。 ただ しこの判決 は 別訴で損害賠償 を請求 した事案である。2 6 )
宮川種一郎 「仮執行 の宣言」総合判例研究叢書 民事訴訟法( 3 )
(昭和3 6
年)3 9
責, 坂原正夫 ‑申出一雄 ・判批 ・法学研究5 1 巻 7
号1 3 3
頁,林順碧 「仮執行 に基づ く損 害賠償の範囲」菊井先生献呈論集 『裁判 と法』下 (昭和4 2
年)1 1 1 3
頁,特 に1 1 2 8
頁以下,清田明夫 ・判批 ・判時
8 7 4
号1 5 6
頁,同 ・判例解説 ・ジュ リス ト昭和5 2
年 度重要判例解説1 2 1
頁。2 7 )1 9 8
条2
項類推 による無過失責任説の立場 か ら, 損害 の範囲 につ いて比較的詳 しく 検討 しているもの として,古崎 ・前掲論文 (注1 7 )3 1 9
貢以下,斎藤‑桜田 ・前掲 論文 (注6) 2 7
頁以下 などが挙 げ られるがい ず れ も損害 の範囲 について一般 の不 法行為 と同様 に解すべ きとされている。 なお古崎 ・前掲論文 (注1 7 )3 1 9
頁では, 仮執行 に関す る1 9 8
条2
項 の損害 の範囲が限定 されることを判例 の立場 であると解した上 で,類推適用 に際 して損害範囲の点 は修正す るとの見解 を採 られている。
2 8 )
なお判決文の引用等 にあた り,当事者名 は記号 に直 し,句読点 を補 うとともに,旧 漢字 も同一性 を損 なわない限 り (例 えば樺‑権)新漢字 に置 き換えた。2 9 )
中野 ・前掲書 (注1)7
頁,藤原 ・前掲論文 (注5)1 3 1
貢 など。「損害」の意義が問題 とな った。原判決 は同条項の 「損害」を訴訟法上の損害,すなわち 訴訟費用 ・執行費用 に限定 し,それ以外 は不法行為法に基づ く賠償請求が可能であるが,
そのためには仮差押債権者の
Y
の故意 ・過失が必要 なところ, Ⅹはその証明を していな いとして請求を棄却 した。 Ⅹは仮差押が不当である以上故意 ・過失が推定 されるとして 上告。上告棄却
。7 4 1
条2
項の 「損害」には訴訟費用 ・執行費用以外 の もの も含 まれるが,い ずれにせよ賠償請求 は不法行為法に基づ くので,「原告 トシテ債権者 ノ為 シタル仮差押 力 其故意又‑過失 二出テタル コ トヲ立証 シ得 タル上 二非サ レ‑民法 ノ規定 二基 キ債権者 二 賠償責任 ヲ生 セ シムル ヲ得 ス。 如何 トナ レ‑債権者 ノ為 シタル仮差押 力民事訴訟法上不 当 トシテ取消サ レク リトモ其仮差押 力常 二必 スシモ債権者 ノ故意又‑過失 二原因 シタル モノ ト云 フコ トヲ得サル可 ク, 此 ノ如 キ場合二於 テ法律上債権者 二故意又‑過失 ア リト 推定 シタル規定 ナケ レ‑ナ リ。 是 ヲ以 テ此趣 旨二基 キクル原判決‑挙証 ノ責任 ヲ不当二 移転 シタル不法 ナ シ」これに続 いて 【
2
】東京控判 (判決年月 日不明)明治3 7
年 (ネ)4 4 3
号新聞2 2 7
号1 9
頁 は,事案 ・結論 とも不明であるが,仮差押取消の場合 に訴訟費用 ・ 執行費用の賠償 は当然与え られ るが,それ以上の損害 は民法上の もので故意 ・ 過失を要件 とし,仮差押が本案訴訟の結果取消 されただけでは過失を認 めるに 足 りないと判示 してお り,棄却事例 と思われ る。これ らの判決では,損害の範囲について問題があるものの,一般の不法行為 として賠償請求す る限 り故意 ・過失が要件 とな り, その証明責任 は保全処分債 務者 にあ り, さらに保全処分が不当であることのみによっては過失の推定がな されないとす る点で一致 している。 もっともこの時期 において も既 に過失の推 定が主張 されていた ことは注 目に価 しよう。 次の 【
3
】 も同様だが,過失の推 定ができない理由と して 【1】 は単 に明文規定がないというのみであるのに対して,訴訟 における処分権主義 を持 ち出 している点で興味深 い。
【
3
】長野地判 (判決年月 日不明)明治3 9
年 (レ)8 7
号新聞3 7 9
号1
1貢 事案 は訴外A
の遺産財団に対 してⅩが強制執行を開始 したところ, Yがその配当前 に過去の一応の推定の意義
95
仮処分を申請 ・執行 して配当を遅延させたというもので, Yが本案訴訟で敗訴 したため Xが配当実施の予想 される日か ら利息相当額の賠償を請求 した (その他の事案詳細は不 明)。争点 は損害発生の起算 日の当否 とYの過失の有無で,原判決は請求を認容 した。
原判決廃棄,請求棄却。民訴法上に損害賠償を当然に認める法条がなく,不法行為 とし て故意 ・過失が要件 となることを指摘 した上で
,「 X
はY
が右仮処分の本案訴訟に於て敗 訴 したりとの争なき事実を以てY
の仮処分申請行為の過失に因 るものなることを証 し得 たりと推断せんとするが如 きも, 右推断は失当なりと謂はざるべか らず。 何んとなれば 仮処分申請 と基本案訴訟 とは全 く別箇の行為に して, 而 して訴訟行為に関 し民事訴訟法 に於て当事者処分権主義を採用 したるを以て, 当事者 は訴訟の必勝を期 し得べき場合 と 難 も猶其意思の如何に依 り敗訴者 と為 り得べきものとす。 如斯場合に敗訴 したる事実の みに依 り直ちに敗訴の当事者が訴訟行為を過失に困 りて為 したるものと謂ふを得ず。 然 ば則ち訴訟行為 と別箇に存する仮処分申請行為を本案訴訟に於て敗訴 したる為め過失に 因るものと直ちに推断するを得ざること一層明瞭なるべきなり。」故に過失の立証を しな いので棄却。以上 の請求 棄却事例 に対 して,認容事例 と して は 【
4
】大判 明治3 7
年2
月1 0
日民録
1 0
輯5
巻1 7 9
頁 が,仮処 分 につ き被 保 全権 利 な しと して本 案訴 訟 で敗 訴 した場 合 の例 と して挙 げ られ るが, ここで は過失 の有無 が争点 とな って いな い。下級審 で は 【5
】東京控判 明治4 0
年3
月2 1
日最近 判 1巻5 5
頁 お よびその 終局判決 で あ る 【5'
】東京控判 明治4 1
年5
月2 3
日最近判3
巻3 3
頁 が, 当時 の水難救 護 法30に基 づ き公売 に付 され た沈船 の抵 当権者Y
が競 落 人 Ⅹ に対 して 保全処 分 を執 行 し, かっ競 売手続 を開始 した と ころ, その抵 当権 が公売 によ り3
0)水難救護法 (明治3 2
年3
月2 9
日法律9 5
号)は,遭難 した船舶の救護を市町村長の 事務 と定め (1
条),その費用は船長または船舶所有者が支払 うものとしていた( 1 6
条)が,一定の期間内に救護費用が納付 されない場合は救護 された船舶および積荷 等を公売に付すこと
( 1 7
条),最終的に不納付 となればその公売による代金か ら救 護費用を回収すること( 1 9
条2
項)・としていた。 しか し1 9
条1
項には,
「救護其 ノ 効 ヲ奏セサル トキ‑救護費用‑国庫 ヨリ之 ヲ支給ス」と定められており,【5
】では 救護の効を奏 した場合かどうかがまず争われていた。 さらに水難救護法による公売 がなされると,船舶登記法 1条の準用する不動産登記法2 9
条および1 4 8
条が適用 され,その船舶に設定 されていた先取特権,質権,抵当権の登記は抹消される。消滅 していたため保全処分 も競売手続開始 も取 り消 され,その間 に船 と備品が 朽廃 した損害 の賠償 をⅩが
Y
に対 して請求 したとい う事案 において,賠償請求 を認容 してい るが, ここで もY
の過失が証拠 によ り認 め られてお り,過失 の推 定 はなされていない31。このよ うに初期の判例 において は,損害賠償 の認容事例で も棄却事例 で も, 故意 ・過失を要件 として, その立証 を原告 ‑保全処分債務者 に要求 して いた。
その中で次 の 【
6
】 の一般論 は注 目に価す る。【
6
】大判明治3 9
年1 0 月 1 8
日民録1 2
輯2 3
巻1 2 8 9
頁事案 は, 動産 の売買をめ ぐり売主Yが代金債権保全のため買主Yの財産 に仮差押 を し て支払請求 の本訴 を提起 した ところ, Ⅹは
Y
の債務不履行 を理 由 と して支払 を拒絶 し, かつ仮差押 による損害の賠償 を求 めて反訴 を提起 した というものである。 原判決 は本訴 を一部認容 したが, 反訴請求 については, 本訴請求 に理 由がない ことのみによって直ち に仮差押が故意 ・過失 によるものとい うことはで きないと して棄却 した。
Ⅹ上告。上告棄却。「仮差押 ヲ為 シタル者 力債権 アル コ トヲ確信 シ,而 カモ斯 ク信 スへキ相当 ノ 理 由ア リタルカ如 キ場合‑, 仮令裁判上其債権 ナキニ帰 スルモ他 二特別 ノ事由アラサル 限 リ‑其仮差押 力故意若 ク‑過失 二出テクルモノ ト為 ス可 カ ラス。 故 二原院‑YカⅩノ 有体動産 二対 シ仮差押 ヲ為 シタル事実姓 ニ
Y
ノ請求 力理由ナキ コ ト‑之 ヲ認 メタルモ, 果 シテ其仮差押 カY
ノ故意若 ク‑過失 二出テ クル コ トヲ認 メ難 キニ因り
Ⅹ ノ主張 ヲ排斥シタルモノニテ,毒 モ不法 ニアラス。」
この判決 の解釈 は,前段 の 「相当 ノ理 由」があるときとい う限定 を重視す る か どうかによ って分かれ る。前段 の限定 を重視すれば
,
「相当 ノ理 由」の立証 が ない限 り過失 が肯定 され るとの反対解釈が導かれ得 る。本判決 の結論が請求棄3 1
)【5
】は原因関係 のみ判断 した中間判決 で,X
の主張がすべて認 め られ,【5
'】にお いて損害額が算定 されている。Y
の過失 も 【5
】 において認定 されているが, そ こ では書証 と証言 を 「綜合すれば右侵害行為 はY
の過失 に出てた ることを認 む るに足 る」 とい うのみで, その内容 は明 らかでない。過去 の一応の推定の意義
97
却であることも,Yの仮差押 の被保全権利が一部認 め られていた ことか ら 「相 当 ノ理 由」が認 め られた事案であ ったとして説明で きる。 そ うだ とすれば, こ
こでは過失 のアプ リオ リな推定が前提 とされて いたと位置付 けることになる。
しか し前段 の限定 をそ こまで重視 して理解す るべ きか どうか は疑問であろう。
基本的 には過失 の立証 を原告 ‑仮差押債務者 に要求 し, その証明がないとして 棄即 された もので, これ以前 の判例 の枠組 にとどまっているとの評価 も可能 で ある し, また被保全権利が一部認容 された ことを もって 「相当 ノ理 由」 あ りと 評価 したと して も,被保全権利が全部不存在 の事例 において どのよ うに働 くの か,つ ま りその射程が どこまで及ぶか は明 らか とはいえないか らである。
( 2 )
明治4 1
年大判 とその後 の判例【
7
】大判明治4 1
年7 月 8
日民録1 4
輯8 4 7
貢事案 は,賃貸人
Y
が賃借人A
と汽缶 (ボイラー)の賃貸借契約を締結 していたところ, AがⅩに転貸 してYに賃料を支払わなか ったため, Yが賃貸借契約 を解除 して目的物を 占有す るⅩにその引渡を訴求 し, 合わせて保全処分 (仮差押か仮処分かは判例集か ら明 らかではない)を申請 し,執行 したが,相当の期間を定めた催告がな く解除権が発生 しな いという理由で敗訴 した。 そ こでX
がY
に損害賠償を求 めたところ, 原審 はY
の故意 ・ 過失が認 め られないとして請求を棄却 した。
Ⅹ上告。上告理 由は前掲 【6
】を引用 し,
「左ス レ‑仮差押 ヲ為 シタル者 力債権 アルコ トヲ確信 スルモ而 カモ斯 ク信 スへキ相当 ノ理 由 ナキ トキハ猶 ホ過失 ノ責 二任 スへキヤ当然 ノ法理 ナ リ」 とい う。
破穀差戻。「実際或権利 ヲ有 セサル債権者 力法律 ノ規定 ヲ知 ラス若 クハ之 ヲ誤解 シテ之 ア リト確信 シ債務者 二対 シテ財産 ノ仮差押 ヲ為 シ之 二損害 ヲ生 セ シメタル トキ‑, 二昼
‑債権者 二過失 アルモノ ト見ル可 ケ レトモ, 然 レトモ債権者 ノ玄 二出テタル相当ノ理 由 アル場合 ニ‑過失 ア リト云 フヲ得 ス。」本件 について,原審 には,Yが
A
に契約解除の意思表示を したのでⅩの占有 に適法 に原因な しと信 じたと判示 したにとどまり, そ う信 じ た ことにつ き何等相当の理 由あることを説示 しない点で,理由不備があるとした。
このよ うに 【
7
】 は 【6
】 の一般論 を,保全処分債権者 の確信 に 「相 当 ノ理 由」 がなければまず過失 と見 るとい う反対解釈 の形 で展開 し, しか もその判 旨が賠償請求 の認容 の方 向 (棄却判 決 の破穀差 戻) に結 び付 いた とい う点 で,釈 しい もので あ る。 そ して ア ンダー ライ ンを付 した部 分 か ら 「一応 の推定」 とい
うネー ミングが与 え られ た ことはい うまで もない。 しか しなが ら事案 は,動 産 賃貸借契約 の賃料 不払 いを理 由 とす る解 除 に催告 が必 要 で あ る ことを見過 ご し
た とい う比較 的単 純 な ミスで, それ 自体過失 と評 価 で きる もの, あ るい は過失 を主要事実 と位置付 け るな らば,過 失 の存在 が事 実上推定 され るに十分 で あ っ た と考 え られ る。 そ うだ とす ると,判 旨 は単 に法 律 の不知 ・誤解 を過失 と評価 で きる ことを示 した にす ぎない もの と も解 され よ う。
ま た こ こで の過 失 の推 定 が直 ち に判 例 の主 流 とな った わ けで はな く, 次 の
【
8
】 は仮執行 の事 案 で あ るが, 【6
】 を逆 の意 味 で先例 と して引用 して い る。【
8 】大判明治 4 4
年6
月2 2
日民録1 7
輯4 2 4
頁事案 は必ず しも明 らかでないが, 船舶による物品運送契約において, 運送人Yが目的 地たる大連での陸揚ができなかったため出発地の門司港に戻 り, その費用を荷主Ⅹに請 求 したというものと思われる。 これに対 してⅩは, 大連での陸揚の困難が契約上指定以 外の港に陸揚することの認められる事由に該当 しないことなどを主張 し, 保証金の返還 を訴求 した32。第一審 はYの請求を認容 し,仮執行宣言を付 したので,YがⅩの財産を差 押えたところ, その仮執行宣言にかかる判決が控訴審で変更 されて差押 も取消 となった が,Ⅹが求めた損害賠償は認められなかった詔。またⅩの保証金返還請求 も棄却 されたよ うである。 そこでⅩが上告 した。 上告理由のうち仮執行宣言に基づ く差押による損害の 賠償にかかわる部分 は, 原審が
Y
の故意 ・過失なき限り直ちに不法の差押 とはいえない と判示 したのに対 して, 仮執行 は後 日上級審で取 り消されることが当然予想 されるもの であるので, そのことを予知 しなが らした差押に故意 ・過失がないとはいえないというものである。
3 2 )
Yの本訴請求 に対 してX
が反訴を提起 したものと思われるが,判例集 の事件名 は「保証金取戻請求 ノ件」 となっている。
3 3 )
この判決 は,現行民訴法1 9 8 条 2
項 と異なり損害賠償を規定 していなかった旧5 1 0
条
2
項の下での事件であるか ら,賠償請求 は別訴 となるはずである (前注9)
およ び1 0 )
参照)が, ここでは同一訴訟内で請求 されているようである。過去 の一応 の推定 の意義
99
上告棄却。「債権者 力自ラ債権 アル コ トヲ信 シテ仮差押 ヲ為 シタル為 メ債務者 二損害 ヲ 生 セ シメタル場合 二在 テ, 右 ノ債権 力裁判上之 ナキニ帰 スルモ其仮差押 力故意若 ク‑過 失 二出テクルモノニ非 サル以上‑債権者‑其損害 ヲ賠償 スへキ責任 ナキ コ ト‑, 本院判 決例 (明治
3 9
年 (オ)第3 6 5
号明治3 9
年1 0
月1 8
日言渡〜引用者注前掲 【6
】) ノ趣 旨 二依 り明 カニ認 ムル コ トヲ得 へキ法理 ナ リ。 而 シテ其債権者 力採 りタル手続 力仮差押 ナ ル ト仮執行 ノ宣言 二基 キ仮執行 ヲ為 シタル場合 トニ因 テ此法理 ノ適用 ヲ異 ニス‑キ理 由 アル コ トナシ。(中略)故 二原院 力本訴 ノ差押‑
Ⅹニ於 テY
ノ故意又‑過失 二因 りタル コ トヲ主張 スルニ止 マ リ其立証 ヲ為 ササルモノ トシテ本件差押 ヲ不法行為 卜認 ムル コ ト能 ハス ト為 シタル ヲ論難 スル本論 旨‑上告適法 ノ理 由ナ シ。」この判決 については,原審の判決内容が明 らかでな く,
Y
の本訴 とX
の保証 金取戻請求 の関係や損害賠償請求 の方法 な ど, よ く分か らない点 が多 いが,判 旨の引用部分 に限 って見れば,【6
】を先例 と して仮差押 の不当執行 による損害 賠償 には仮差押債権者 の故意 ・過失 が要件 となること, そ してその証明責任 は 賠償請求 の原告 たる仮差押債務者 に帰属す ることが確認 されている。 事案が仮 執行 に関す るものであるか ら保全処分 の不当執行 における先例的価値 は乏 しい が,【6
】の保全処分債権者 の確信 に 「相 当 ノ理 由」がある場合 とい う部分 に力 点 を置 いた反対解釈 を しない ことを大審院 自 ら34が示 した もの と して重要 であ る。 また 【7
】の解釈 について も,保全処分債権者 の過失 の立証 がなお依然 として必要 と理解 されていた ことを暗示す るもの と思われ る。
その後大審院判決 は大正
1 0
年 (後記 【1 7
】) までないが, その間の下級審判 決では 【9
】東京控判明治4 3
年7 月 8
日新聞6 6 6
号1 6
頁 (仮処分),【1 0
】東 京控判明治4 5
年2 月 2 7
日最近判1 0
巻1 0 0
貢 (仮差押),【1
1】東京控判大正5
年
6 月 2 9
日新聞1 1 6 6
号2 1
頁 (仮差押),【1 2
】東京控判大正1 0
年8 月 3
日法3 4 )
ちなみに 【6
】 と 【8】 はともに第‑民事部 の判決 である。 これに対 して 【7
】 は 第二民事部 の判決であり, これを重視す るとすれば,大審院内部 での見解 の相異 と い うことになろう。 もっともさきに述べたよ うに 【7
】 の事案で は保全処分債権者 の過失 を評価 ない し認定す ることが容易であ ったと思われ,一般論 の差異 は事案の 違 いに帰せ られ るべ きものであろう。律評論
1 0
巻2 5
号民法9 4 3
頁 (仮差押)の4
件が被保全権利不存在 についての 保全処分債権者の故意を認定 して賠償請求 を認容 している。この うち 【9
】は, 家屋の所有者Y
がその家屋 に入居 していたⅩに対 して所有権 に基づ く明渡を訴 求 し,合わせて明渡の仮処分を執行 したところ,Ⅹの賃貸借契約の存在の主張 が認め られて本案請求が棄却 され確定 した事案で,X
の損害賠償請求 にY
が契 約成立を知 らなか ったと主張 したのに対 して,判 旨が 「知 らざりし点 に付 き何 等の立証 なき本件 にあ りては,Yは故意 に右執行 を為 した ものなりと云 はざる べか らず」 として故意 を認 めているのが目を引 く。 ただ しこの事案ではY
自ら が関与 した契約 の成立の知 ・不知が問題 とな っているのであるか ら,単 に事実 上の推定が働 いていた ものであろう。【1 0
】【11】【1 2
】はみな証拠 により故意 を 認定 してお り,推定 は問題 となってないケースである35。この間に請求棄却事例 としては 【
1 3
】千葉地判大正2
年4 月 1 4
日新聞8 7 0
号5
頁が唯一挙 げ られるが,そ こでは被告 ‑仮差押債権者 の過失 の有無 も争点 と なっているに もかかわ らず, もっぱ ら被告の消滅時効 の抗弁を採用 して棄却 し た ものであ り,過失の推定 に関す る見解 は明 らかでない。ここまで挙 げた判決 は,仮執行 に関す る 【
8
】を除いてすべて被保全権利の 不存在の事例であるが,保全の必要性がないのに仮差押を申請 ・執行 して上訴 により取 り消 された場合の損害賠償請求事件 も,大正 に入 ってか ら下級審判決 例 に登場 して くる。【1 4
】大阪地判大正2
年 (ワ)9 0 6
号 (大正3
年4 月 2 9
日判 決36 )
新聞9 5 0
号2 6
貢 と 【1 5
】大阪地判大正6
年7 月 2 4
日新聞1 3 0 8
号3 1
貢 はいずれ も十分な財産を有す る債務者 に対 して財産隠匿のおそれありと偽 って仮
3 5 )
ただ し 【1 2
】は証人の証言か ら故意を認定 しているのみで,必ず しも明 らかでない。これに対 して 【
1 0
】 は仮差押債権者が債権証書 を偽造 した もので,私文書偽造 によ る有罪判決が確定 して服役済みの事件,【11】は仮差押債権者が弁済 を受 けた後 も仮 差押を解除 しなか ったという事件で, いずれ も仮差押債権者の故意の認定 に問題 はな
い。3 6 )
掲載 された法律新聞には判決年月 日の記載がないが,斎藤 ‑桜 田 ・前掲論文 (注6)
3 5
頁では大正3
年4
月2 9
日判決 として引用 されている。過去の一応の推定の意義
101
差押 を申請 した ことが証拠 によ り認定 され,【
1 4
】は謝罪広告 の請求認容,【1 5
】 は慰籍料請求認容 である。 次 の 【1 6
】 は過失 を認定 した事例である。【
1 6
】大阪地判大正1 2
年1 0
月2 7
日新聞2 2 1 3
号5 貢
Ⅹの主張事実 によると,Yが被保全権利 として主張す る権利 は, 騒取 された自己所有 の株式を証券取引所の現物取引特別代理人たるⅩが入手 し, 競売 に付 してⅩ自らが競落 人 とな って転売 したため, Yの有す る株券返還請求権が侵害 されたことに基づ く損害賠 償請求権である。 この披保全権利の成立 自体 に争 いがあるところ, YはⅩに直接支払請 求を しないで突然仮差押を申請 ・執行 したとい う事案である。
請求認容。 Ⅹの地位 と営業状況か ら客観的に見てYの主張す る被保全権利の弁済 は容 易にな しうる状態だ ったと認定 した上で, Ⅹの職業 は信用が生命であり, その信用を穀 損す る恐れのある行動 に出るのであれば,「一応其以前Ⅹニ対 シテ其請求 ヲ為 スカ若‑其 他 ノ方法 二渡 リテ之 力弁済 ヲ受 ケルノ方法 ヲ試 ムル ヲ妥当 トスへキニ拘 ラス, 当事者間 争 ナキカ如 ク
Y
‑一回 ノ請求 ヲモⅩニ為サス シテ突然之 力仮差押 ヲ為 シタル コ ト‑Y
ニ 於 テ仮差押 ヲ為 スニ付 キ要 スル相当 ノ注意 ヲ為 スコ トヲ怠 りタルセノ ト認 メサルへカラス 。 」
この 【
1 6
】で認定 されている過失 は,Ⅹの資産状態 か ら保全 の必要性がない ことを調査 しなか ったとい う点 にではな く, Ⅹの信用投損 とい う結果を回避す るために事前の請求 など仮差押以外 の方法 を試 み ることを怠 ったとい う点 に認 め られた ものであ り,保全処分 の不当執行 のケースではユニークな過失 の とら え方 といえよ う。 ここでは仮差押 の債務者 に与 え るダメー ジの大 きさが考慮 さ れていることに注意すべ きであ る。 ただ し, この意味での過失 の認定 自体 には 特殊性 があるわ けではない。以上要す るに,保全処分 の不当執行 の場合 に保全処分債権者 の過失 が一応推 定 され, これを覆す には特段 の事情 を被告側 で証明 しなければな らないとい う
【
7
】で判示 された一般論 は,【7
】の事案 自体か ら見 て も過失 が単 に事実上推 定 され ること, あるいは法律 の不知 ・誤解 を過失 と評価で きることを指摘 した にとどまると解す る余地 があ り, その後 の判例 において もそれ以上 の意味を持つ先例 と して受 けとめ られたわけではないとい うことがで きる。 ただ 【
7
】以 降 の もの として挙 げた判決 は仮執行 に関す る 【8
】 と消滅時効 の抗弁 が採用 さ れた 【1 3
】を除 いてすべて損害賠償請求 の認容事例であ り,【7
】以前 の判例 と 結論 だけを比較すれば,【7
】以降 は損害賠償請求 が認容 され ることが多 くな っ た と推測 され る。 もっともこれは判例集 に登載 された ものだけか らの推測であ るし, その変化 が判例全体 の傾向を表 していると して もその原因が過失 の 「一 応 の推定」 の登場 にあ ったと見 るべ き根拠 はない。
結局 この時期 まで は,過失 の 「一応 の推定」 といって も事実上 の推定 と異 な る特殊 なカテゴ リーを形成 し ていた とい うには十分でないとい うべ きである。( 3 )
大正1 0
年判決 とその定着保全処分の不当執行 に関す る大審院判決 は 【
7
】以降 しば らく判例集 に登場 していないが,その間 に,
「一応 の推定」の別 の類型 として挙 げ られ る他人所有 の山林 での無断伐採 のケースにつ いての大審院判決 が大正7
年 と9
年 とにこっ 現 れた37。それ らはいずれ も大審院の第二民事部の判決であるが,これに続 いて 保全処分 の不当執行 のケースで も,同 じく第二民事部 による次 の 【1
7】が現れた 。
【
1 7
】大判大正1 0
年4
月4
日民録2 7
輯6 8 2
貢 38事案の詳細 は明 らかでないが,電話加入権の帰属 をめ ぐって争 いとな り,Yの先代Y' が電話加入名義人Ⅹに対 して, 電話加入権の処分禁止の仮処分を申請 ・執行 し,
あわせ
て電話加入名義変更を求 めて本案訴訟 を提起 したが敗訴 したというもので, Ⅹが電話加 入権を転売で きなか ったことによる利益 の喪失を損害 として陪償を訴求 した。 判決文の まとめた上告理由によれば, 原判決 は本案訴訟でY'の請求が棄却 されたことのみを理 由 としてY'の過失 を認 めて請求を認容 したが, Yはこれでは過失 に該当す る事実がな いと上告 した。3 7 )
大判大正7
年2
月2 5
日民録2 4
輯2 8 2
貢および大判大正9
年4
月8
日民録2 6
輯4 2 8
頁。3 8 )
評釈 として,平野義太郎 ・判批 ・判民大正1 0
年度1 5 8
頁。過去の一応の推定の意義
103
上告棄却
。「 Y'
ヵ本件 ノ電話加入権 ヲ有セサルニ拘 ラス正当ノ電話加入権者 タル
Ⅹニ 対 シ仮処分 ヲ執行 シテⅩノ電話加入権 ヲ侵害 シタル事実ハ原判決 ノ認定 セル所 ナル ヲ以 テ其侵害行為 二付 キテ‑反証 ナキ限 り先代Y' ニ少 ク トモ過失 ア リト推定 スル ヲ相当 ト ス。」ここで は
Y'
の過失 を認 めるべ き異体的事実が全 く現れてお らず,単 に本案 請求 の棄却 とい うことか ら仮処分執行 における過失 を推定 している。従 って少 な くとも判決文か ら見 る限 りでは, それまでの過失 の積極的な認定 の上で反証 のない ことを指摘す る判断枠組 とは異 な ると位置付 けることがで きる39。 ただしこれ は判決文 のみを見 た限 りでの位置付 けであ り,原審が もっと詳 しい認定 事実 を挙 げていた ことは考 え られ る。 また 【
7
】 において考 え られたよ うに, 保全処分債権者 に単純 な法律 の誤解 があ ってそれ自体 を過失 と評価で きるケースがあ ったか どうか も, ここでは明 らかでない。
これ に続 いて 【
1 8
】大判大正1
1年2
月1
7日民集1
巻2 号 4 6
頁40が挙 げ られ るが,原判決 が被保全権利 の存在 を誤信 した ことを仮差押債権者 の過失 と認定 してお り41,その点 は上告理 由で取 り上 げ られてお らず,大審院の判断 も示 され ていない42。次 の 【
1 9
】【2 0
】では保全 の必要性 の不存在 についての過失 に推定が認 め られた 。
3 9 )
平野 ・前掲判批 (注3 8 )1 5 9
頁 は 「仮処分執行者が故意又 は過失 あ りと推定せ られ 立証責任が顛倒 された」 と位置付 けている。4 0 )
評釈 として,平野 ・前掲判批 (注1 7 )3 7
頁,薬師寺志光 ・判批 ・法学志林2 5 巻 3
号
1 2 0
貢。4
1)時計用ガラスの売買契約 において,買主Y
の転売先か ら品質規格の指定 と異 なると の苦情が出た場合 は売主Ⅹが損害賠償責任を負担す るとの特約 の存在をYが主張 し て,Ⅹに損害賠償を訴求 し,合わせてⅩの所有財産 に仮差押を執行 したが,実 はそ のような特約 は存在 しなか ったという事案であ り,Yが自ら関与 した契約内容 につ いての誤信が過失 と評価 されたようである。4 2 )
上告理由で取 り上 げ られた争点 は,損害 として主張 された仮差押物件の品質低下が, 換価処分の申立 (旧民訴法7 5 0
条4
項)を しなか ったX
の過失 によるもので過失相【