過剰適応の規定要因と測定方法の再考
一「内的適応Jと「外的適応jの二側面に焦点、を当てて一
人間教育専攻
臨床心理士養成コース 樋 高 和 樹
1.はじめに
過剰適応はこれまでアレキシサイミアと並ん で心身症の病前性格として心身医学の領域を中 心に研究が進められてきた(三輪ら, 1994)。 しかし、近年では摂食障害(菅,2008)や不登 校(堀, 2006)などさまざまな心理的な不適応 を呈する事例が報告されている。過剰適応のパ ーソナリティについて、真面目、頑張り屋など (小林ら,1994)が従来から指摘され、他者指 向的な対人関係のとり方が特徴とされている (大獄, 2005)。このため、表面的には良好な 社会生活を送っているように見られ、周囲から 適応的とみなされることが多いが、内面では自 身の感情や欲求を抑圧していることが考えられ
る。桑山 (2003)は、北村 (1965)の適応に関 する理論を応用することで過剰適応の概念構造 を明確にしている。北村によれば、適応には心 的状態の安定を意味する内的適応と社会・文化 的環境への適応を意味する外的適応があり、こ の双方が統合された状態が本来、適応である。 桑山はこの考えを参考に過剰適応を 「外的適応 が過剰なために内的な適応が困難に陥っている 状態」と定義した。外的適応は、個人を取り巻 く人間関係あるいは社会集団への適応と言い換 えられる。そこで本研究では、過剰適応を 「対 人関係におけるあらゆる対象への過剰な努力に より、自己の内的な状態がないがしろにされた 状態」と定義する。ところで、ニれまで作成さ
指 導 教 員 久 米 禎 子
れている過剰適応を測定する尺度には、内的適 応と外的適応の二側面のバランスから過剰適応 を測定する尺度はなく 、過剰適応の規定概念に 見合っていない。さらに、信頼性や妥当性の問 題も指摘されている(桑山, 2003;大橋, 2003 など)。このため、過剰適応の規定要因とその測 定について再考する必要があると考えられる。
2 .
目的本研究の第一の目的は過剰適応が従来の指摘 通り内的適応と外的適応の二側面から規定され ることを実証的に明らかにし、この二側面から 過剰適応を測定する尺度を作成することである。 第二の目的は攻撃性との関連から、過剰適応の 特徴や不適応的な面を検討することである。 3.方法
X県内の大学生 ・大学院生206名(男性 102 名,女性 104名)の協力を得て、講義時間の一 部を使用し、集団形式で、調査を行った。調査協 力者の平均年齢は20.23歳、標準偏差は1.43で あった。調査内容はフェイスシート、調査者が 作成した過剰適応に関する質問項目 80項目、日 本版
B u s s ‑ P e r r y
攻撃性質問紙(安藤ら, 1999)、 調査者が作成した多表出形式P ‑ Fs t u d y
から構 成された。調査は 2011年 6月から 7月にかけ て実施した。4.結果
過剰適応に関する質問項目について因子分析 を行った結果、「内的適応」因子と「外的適応」
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因子の 2因子 34項目が抽出され、これを過剰 適応尺度とした。この 2つの下位尺度について クロンパックのα係数を求めたところ、「内的適 応」尺度が.92、「外的適応」 尺度が.90と高い数 値が得られ、本尺度の信頼性が確認された。こ の2つの下位尺度の性差を検討したところ、女 性は男性よりも 「外的適応J尺度の得点が高か った。さらに、女性において「外的適応j尺度
と 「言語的攻撃Jに負の相関が示された。
過剰適応尺度の下位尺度である ‑r内的適応」
尺度と 「外的適応J尺度について、平均値を基 準に 4群に類型化を行った。その結果、不適応 群(内的適応低・外的適応低群)36名、過剰適 応群(内的適応低・外的適応高群)68名、自己 適応群(内的適応高・外的適応低群)55名、適 応群(内的適応高 ・外的適応高群)47名に分類 さ れ た 。 こ の 4類 型 を 独 立 変 数 、 日 本 版 Buss‑Perry攻撃性質問紙の得点、を従属変数と
して4群開の平均値の比較を行った。その結果、
「敵 意」に有意な差がみられ、多重比較(恒lkey) を行ったところ、過剰適応群の得点が他の 3群 よりも高かった。続いて、 この
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類型と多表出 形 式P‑Fstudyにおける aggressionの表出方向 との関連を調べるために3要因(類型×場面×発言形式)の分散分析を行った。その結果、類 型と発言形式との間に交互作用が認められ、多 重比較 (Bonferroni)を行ったところ、内言で 過剰適応群と自己適応群は適応群よりも他責反 応が少なかった。
5.考 察
因子分析の結果から、 内的適応と外的適応に 相当する 2因子が抽出され、過剰適応が内的適 応と外的適応の二側面からなることが実証的に 明らかにされた。また、「内的適応J尺度には自 己不全に関する質問項目が多く含まれ、内的適
応は自己不全を中心に構成されることが明らか となった。さらに、人間関係や社会集団への適 応を意味する外的適応に性差が見られ、女性は 外的適応が男性よりも良く、外的適応が良いほ ど言語的な攻撃性が低くなることが明らかとな った。このことから、 周囲の人間関係や日本文 化を背景に男性と女性とでは外的適応の意味合 いが異なることが考えられた。
類型別にみた攻撃性の表出に関して、過剰適 応群は他の群よりも「敵意」 得点が高かった。
このことから、過剰適応の人は、攻撃性を身体 あるいは言語などを用いて直接他者に表出する のではなく、清疑心や不信感など間接的な形で 他者に表出していると考えられた。このように、
攻撃性が間接的に他者に向けられることは、攻 撃性の抑圧となり、不適応につながることが示 唆された。さらに感情表出について、内言で過 剰適応群は適応群よりも他責反応が少なかった。
この理由と じて、過剰適応の人は欲求不満場面 から目を背けて自分自身をごまかす、感情を統 制しようとするなど 「生の感情」に向き合うこ とを避けて(桑山, 2003)おり 、自身に生じる はずの感情や欲求が排除されている可能性が考 えられる。このような体験が続くことで、過剰 な外的適応により内的適応に歪みが生じ、適応 が不均衡な状態に陥ることが理解される。また、
この内的適応の悪さが顕在化することで、心理 的な不適応を呈することが考えられる。
6.今後の課題
本研究で、自己不全を中心とする内的適応の 悪さにより、過剰適応に限界が生じて、不登校 などの不適応を呈することが示唆された。過剰 適応を背景とした不適応について、本研究で得 られた知見を臨床現場で支援や予防にどう生か していく かが今後の課題である。
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