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. 「相当の注意」 過失」

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(1)

はじめに第一章国際法上の﹁国家﹂と﹁過失﹂︵以上ニ︱一巻二号︶第二章国際義務の分類論と﹁相当の注意﹂︵以上二三巻一第三章一定の事態に対する責任と﹁相当の注意﹂一領域使用の管理責任(以上二四巻三•四号)

ニ結果的事態に対する責任 一注意義務の内容

1

防止の義務及び処罰の義務と注意義務

2

国際環境法における手続的義務と注意義務

3

所有の義務及び使用の義務と注意義務二﹁相当の注意﹂の決定のためのファクター

三﹁相当の注意﹂の基準

結論に代えて︵以上本号︶ IIIIIIIIIIIIIIIIIIII' IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIJ

  ̲̲̲̲̲

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IIIIIIIIIIIIIIIIIIII.

→  過

失 ﹂

及び

﹁相当の注意﹂

国 際 法 上 の 国 家 責 任 に お け る

修ガ

に 関 す る 考 察

智 ︵ 四

. 

之 完 ︶

(2)

定の予防措置をとったのであれば適法とされる︒

~

前節では状況により国家が注意義務を負う例として︑管轄または管理の下における事態を管理する義務を検討した

が︑国家が注意義務を負う状況はそれに尽きるものではない︒国家がそれ自体適法な行為を行っていたとしても︑当

該行為の結果生じた事態が国際義務に反するものであれば国家は責任を負う︒この種の責任の特徴は因果関係の存在︑

注意の介在︑そして行為の有用性と損害との比較衡量にある︒

先に述べたように︑

A g

は国家の行為の結果生じた外在的事態︵前節で検討した領域使用の管理責任の事例を含む︶

o

が違法となる﹁事態の不法行為

( d e l

i t s  

d '

e v

e n

e m

e n

t )

態の不法行為﹂と他の一般的な﹁行為の不法行為﹂との区別を議論した際︑爆撃により付随的に生じた衛生施設の損

害のような場合を﹁真のかつ適切な結果的︵因果的︶事態による不法行為

( d e l

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e )

(2 ) 

と呼

んだ

以下

いくつかの実定法規則及び判例を参照しながら︑結果的事態による不法行為︵領域使用の管理責任の事例を

除いた狭義の﹁事態の不法行為﹂︶

戦闘手段の規制

結果的事態の不法行為の例の︱つは︑

A g

などが挙げている︑戦闘にあたっての付随的損害を防止する義務であ

o

る︒武力紛争法上︑交戦国は文民︑民用物その他保護された物を攻撃することを原則として禁止されるが︑軍事目標

を攻撃することは交戦者の適法な行為であり︑軍事目標を攻撃した結果付随的に生じた文民または民用物の損害は一 結果的事態に対する責任

の概念を提示したが︑第一章で検討した

S p

e r

d u

t i

も︑この﹁事

の存在を確認していきたいと思う︒

(3)

この予防措置の内容を詳細に規定したのが︑ジュネーブ諸条約第一追加議定書五七条である︒五七条一項は﹁軍事 行動を行うに際しては︑文民たる住民︑個々の文民及び民用物に対する攻撃を差し控えるよう不断の注意を払う

( c o n

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t   c

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  t o  

s p a r

e )

J年況⇔疋しこの義務が注意義務であることを明ホしている︒同条二項は攻撃す

る者に目標が軍事目標であって特別に保護されたものでないことまたは禁止されているものでないことを確認するよ

(3 ) 

う義務づけ︵二項国︵︶︑攻撃にあたっては﹁巻き添えによる

( i n c

i d e n

t a l )

文民の死亡︑文民の傷害及び民用物の損

傷を防止し並びに少なくともこれらを最小限にとどめるため﹂に﹁すべての実行可能な予防措置﹂をとらなければな

(4 ) 

らない︵二項い間︶︒しかし︑攻撃が﹁予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において︑巻き添えによ

る文民の死亡︑文民の傷害︑民用物の損傷又はこれらの複合した事態を過度に

( e x c

e s s i

v e )

引き起こすことが予測さ

れる﹂場合には攻撃を行う決定を差し控え︵二項い国︶︑攻撃の実施の段階で予測されることが明白になった場合に

は攻撃を中止または停止しなければならない︵二項閲︶︒

︵付随的または偶発的︶結果を予見しなければならず︑予見される結果に比例した措置

をとらなければならない︒通常は予防措置をとればよいが︑攻撃の結果生じる文民その他への損害が攻撃により得ら

れる軍事的利益を過度に上回るならば攻撃を差し控えなければならないという義務の構造になっている︒もし

A g o

が﹁一定の事態を防止する義務﹂について指摘したことに従うならば対象となる事態︵文民または民用物の被害︶が

発生しない限り違法性はないことになるが︑議定書は事前に差し控える義務をも課しているのである︒そして︑攻撃

側が行わなければならないのは︑軍事的利益と文民または民用物の被害との比例性すなわち﹁人道の要請と嘆かわし

( 5 ) ( 6 )  

の判断であり︑それは様々なファクターの比較衡量である︒い軍事的必要との正当なバランス﹂ 攻撃する者は自らの攻撃の

(4)

財産への損害

フランス・ギリシア間の灯台事件仲裁裁判(‑九五六年︶

所及び資材倉庫を他の土地へ立ち退かせるよう命じられ︑二年後に元の場所に戻ることはできたが︑その後も仮事務

所におかれたままであった資材が火災により消失し︑事務所の立ち退き及び火災についてのギリシアの責任を申し立

てた事例である︒

︵国内法の用法に従った本来 の請求第一九号︵及び第ニ︱号の一部︶に関する常設仲

一九一五年にフランス会社である灯台管理事務所はギリシア当局によりサロニケの事務

裁判所は︑ギリシアの責任を認定するためには立ち退きの合法性及び損害と立ち退きとの因果関係が必要であると

する︒裁判所はギリシア軍が事務所の社員の中に間諜がいるとの重大な疑いを抱いており︑追放及び刑事訴追が正当

化されると認定した︒裁判所はさらに﹁この問題に否定的に答え結果的にギリシアが当該立ち退きの結果に原則とし

て責任を負うと述べたとしても︑裁判所の見解では︑火災により生じた損害と立ち退きの間に︑ギリシアに火災

しかもギリシア当局によって引き起こされたものでは決してないの惨憎たる結果を負担させることを正当化する

ような因果関係を認めることはできない︒損害は立ち退きの予見可能なまたは通常の結果でもないし︑ギリシアの側

(7 ) 

の予防措置の欠如に帰しうるものでもない﹂として会社の受けた損害に対する責任を否定した︒

この認定は︑立ち退きそのものが適法であっても︑立ち退きと損害との間に因果関係があり︑なおかつこの結果が

当局にとって予見可能なあるいは立ち退きの通常の結果であればギリシアの責任があることを意味する︒ここで問題

となっている義務は外国人の財産を侵害しないという義務であり︑国家自身に関しては

の意味での︶結果の義務であるが︑

( 8 )  

する義務へと緩和されるのである︒ 裁裁判所の判断も興味深い︒

( 2 )  

一定の状況においては自らの作為の結果に注意を払って有害な結果の発生を防止

三四

(5)

イラン・米国請求権裁判所における米国人追放に関する諸事件

イラン・米国請求権裁判所はイラン・イスラム革命時における反米感情の高まりによりイランから出国することに

なった米国民による請求を扱ったいくつかの事件がある︒本稿に関連する事件の一っは

S h o r

対イラン事件(‑九八

t

七 年

であり︑本件の請求者はイランの情勢の悪化︑特に反米感情の高まりによる米国人への暴力などの状況を受け

てイランを出国したが︑これはイラン政府による国際法に反する追放であると主張した︒

三五

裁判所は︑﹁決定されるべき前提的争点は︑イランからの出国をもたらしたとして援用された諸事実が直接にもし くは意図された政策の結果として間接にイランに帰属するか否か︑またはそれらが請求者に対するイランの国際義務 を果たす際における相当の注意の欠如を示すものか否かである﹂として︑イランヘの帰属の問題を検討する︒裁判所 は ︑

S h o r

の出国をもたらした状況である革命支持者の行為はイランの革命運動︵その後新政府となった︶に帰属す

t

るものではないと認定した︒さらに︑請求者は革命の指導者であった巴

1 o m e i n i

師や革命運動の他のスポークスマン

の宣言に依拠したが︑裁判所は︑これらの声明への依拠は﹁追放に等しい状況における請求者の出国の原因であるよ

うな本質的要素を欠いている﹂という︒そして︑反米的であるが一般的な性質のものであって︑米国人が集団で追放 されるべきことを明示していないという︒国際司法裁判所の在テヘラン米国外交・領事職員事件判決において米国大 使館への襲撃に関して巴

1 0 m e i n i

師の声明が検討された部分を引用しつつ︑これらの宣言は追放の授権と同視するこ

とはできないし﹁これらの声明によって促進されたいかなる行動も請求者のイランを去るという決定の原因であると

( 9 )  

の証拠も存在しない﹂と判断した︒

一貫したものであり︑イラン国王

( S h a h )

この判決に対して

B r o w e r

裁判官は反対意見を付した︒同裁判官は一連の区

1 0 m e i n i

師の声明を検討し︑反米姿勢が

の打倒は国王が外国特に米国の企業の支配を許していることが理由とされ

( 3 )  

(6)

ものかを決定しなければならないという︒ ていること︑そして米国及び米国民が国王同様に標的であることが理解されるという︒そこで︑﹁イランにおいて最終的に成功を収めたイスラム革命の指導者のこれら一連の声明と︑たるところで米国人に起きた事態との間には原因と結果の関係があると結論づけるのが私には合理的にみえる﹂︒米国人への暴力の増加は

K h o m e i n i

師による米国及び米国民への言葉による攻撃の激しさの高まりに呼応している︒

同裁判官によれば︑多数意見は本件が︑﹁革命当局の指示により個別に請求者を対象とした具体的な事態または行

為﹂ではなく︑すべての米国人の﹁推定的追放

( c o n s t r u c t i v e e x p u l s i o

n )

﹂の主張を前提としている事実を無視してい

るという︒追放を実行する行為が高度に一般的で非具体的で焦点の定まっていなくて間接的であることは推定的集団

( 1 0 )  

追放に含意されているという︒

同じ

v

R a n k i n

対イラン事件(‑九八七年︶も︑米国人の追放が直接イラン革命運動及び新政府に帰属しないこと

を前提に因果関係による責任の可能性を検討した︒裁判所は︑まず外国人の追放に国際法が一定の制限を課している

こと︑イラン・米国間の友好条約︵友好︑経済関係及び領事権条約︶が事件当時有効であったことを確認し︑国際慣

習法及び友好条約の規則の具体的事実への適用は一定の問題の解決を必要とするという︒その︱つは新政府となった

反乱団体または革命運動の行為の国家への帰属であるが︑さらに革命の間に暴力により受けた外国人の損害が当該外

国人またはその財産それ自体を対象としたものかそれとも単なる付随的損害に過ぎないのか︑付随的損害ではない場

合に損失をもたらした行為が革命運動に婦属する行為によるものかそれとも帰属しない群集または個人の行為による

裁判所は革命における巴

1 o m e i n i

師の宣言から請求者の追放にいたる事実をフォローして︑次のような一般的結論

を導いた︒状況を巴

1 o m e i n i

師がイランに帰国した一九七九年二月の前と後で区別しなければならない︒まず︑帰国 一九七八年十一月の初めからこの国のほとんどい

三六

(7)

三七

の前には︑革命の指導者たちは︑国王が米国によって押し付けられ︑国王が米国の支配下にあり︑国王が米国の権益

に仕え︑国王を打倒する民衆の努力から米国が国王を保護していると主張して反米的態度をとったが︑それは王制の

打倒が目的であって︑外国人に対する一般的追放政策が存在した証拠はない︒﹁しかし⁝⁝一九七八年九月から一九

七九年一月までの期間に革命指導者たちの声明が個々の米国民及びその他の外国人の受けた種類の嫌がらせ及び暴力

を生じさせまたは促進させることは︑合理的に期待されえた﹂︒新政府に帰属しゅえにイラン国家に帰属することに

なるこれらの声明は︑外国人とその財産を保護する慣習法及び友好条約の義務に合致しない︒ただし︑米国民の受け

た損害に対するイランの責任を追及するためには︑個別の事案において損害がこれらの声明によって生じたことを証

他方︑さ

1 0 r n

e i n i

師の帰国後は︑彼はあらゆる外国人の出国を求めたと報じられ︑新政府は外国人及び外国企業と

の契約を破棄する措置をとり︑イランにおける外国人の影響力を弱め多くの米国人の出国をもたらす政策を実施し始

一般的に外国人を追放する権利の実体的及び手続的制約に違反している︒しかし︑

このことは自動的にすべての外国人の追放が違法となるわけではなく︑個別の出国の状況を検討し一般的及び具体的

な行為を特定することが必要で︑それによってそれらが追放を主張する個人にどのように影響しまたは動機づけた

か︑及び当該行為がイランに帰属するか否かを決定することになるという︒

そこで裁判所は︑イランの一般的な無秩序状態はイランに帰属しないこと︑請求者の

BHI

社との雇用契約は

B H

I

社によって契約に従って終了させられたのであってこのことも自動的にイランの責任を生ぜしめるわけではないこ

とを指摘した上で︑請求者のイラン出国の理由及び﹁請求者が彼の出国とイランに帰属する作為または不作為との間

の必要な因果関係を証明したか否か﹂を決定するため︑請求者のイランからの帰国をもたらした事情を検討する︒し めたという︒この政策の実施は︑ 明しなければならないという︒

(8)

かし︑請求者の出国の動機に関して︑イランから最終的に出国するつもりであったのかそれとも一時的な出国であっ

て後に戻る意図があったか否かについて︑両方の証言が存在しており︑請求者は挙証責任を果たしていないと認定さ

れた︒すなわち︑請求者は﹁被告の新政策の実施が⁝⁝請求者のイランからの出国の実質的な原因となるファクター

であること﹂及び﹁彼の出国の決定がイランに帰属する具体的作為または不作為によって生じたこと﹂を証明できな

かったと結論づけた︒

これらのイラン・米国請求権裁判所の判決は︑結論においてはイランの責任を否定しているものの︑革命指導者の

宣言が国際義務違反となりうる事態の原因であるか否かを検討しており︑このことは実際に因果関係があると判断さ

れればイランが責任を負いうることを意味するものである︒特に

R a n k i n

事件では︑巴

1 0 m e i n i

師の宣言が米国人の追

放をもたらし一般的には違法であることが認定されている︒これらの事件において請求が認められなかったのは︑事

実の問題として革命指導者らの反米的声明が請求者の出国という具体的事態に原因と結果の関係でつながっていると

( 1 2 )  

は考えられなかったためである︒

これらの判決及び少数意見は因果関係の存否につき予見可能性の基準を採用していると解釈するのが

C a r o

であ

n

る︒彼は︑﹁その公務員が危険な演説を通して群集の怒りを外国人に向ける国家は責任を負うべきである︒この責任

の潜在的な射程に対する限界は︑連鎖している行為者の行為が︑連鎖を開始せしめる行為の予見可能な結果であるこ

とである﹂と述べ︑また国内法と同様に︑因果関係の連鎖に第三者︵私人︶が介在していることは因果関係を切断す

( 1 3 )  

るものではないと主張している︒

三八

(9)

欧州人権条約一条は条約の適用範囲を締約国の管轄内にすなわち領域的に限定している︒また同条約は非締約国の

行為を規律しないし︑締約国が非締約国に条約の基準を課す手段となることを意図するものではない︒条約一条は締

約国が引渡先の国での条件が条約の保障のそれぞれに完全に一致するまで引き渡すことができないという一般原則を

認めるものではない︒犯罪容疑者が裁判を免れることを防止する引渡の目的は無視されてはならない︒英国政府は申

立の対象であるヴァージニア州当局の実行に対して何らの権限も有していない︒他の条約︵難民条約三三条︑欧州引

渡条約︱一条︑拷問禁止条約三条︶においては好ましくない結果の待っ他国の管轄下に個人を移送することの問題が とであるという︒ こ ︒

本節で検討しているような種類の不法行為の一っとして︑逃亡犯罪人の引渡や外国人の送還の結果︑引渡または送還先の国において人権侵害を受けるおそれがある場合を挙げることができるであろう︒欧州人権裁判所の

S o

e r

i n

g

件判決(‑九八九年︶を嘲矢とする犯罪人引渡及び追放の人権保護との適合性をめぐる諸事件は﹁事態の不法行為﹂

︵ 狭

義 ︶

の観点から把握するのが適切であるように思われる︒

S o

e r

i n

g 事件は英国による︵西︶ドイツ国民

S o

e r

i n

g の米国への引渡が米国︵ヴァージニア州︶における死刑の順番

待ち現象

( d e a

t h

r o w  

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en

om

en

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)

を受けるおそれがあることから︑引渡が欧州人権条約三条︵拷問または非人道的

もしくは品位を傷つける待遇の禁止︶に違反すると認定された事例である︒裁判所︵全員法廷︶は次のように判示し

裁判所によれば︑引渡措置が条約の権利の享有に不利に影響する限り︑当該結果が遠隔のものでないと考えられる

ならば締約国の義務を生じさせるという︒本件で問題になるのは引渡の不利な影響が引渡国の管轄外で生じているこ 犯罪人引渡及び退去強制と引渡・送還先での人権侵害

三九

(10)

﹁しかし︑これらの考慮は︑その管轄外で受ける引渡のあらゆるかついかなる予見可能な結果に対する三条の下で

の責任から締約国を免れさせるものではない﹂︒欧州人権条約の解釈にあたっては人権及び基本的自由の集団的実施

のための条約という特殊な性格を考慮しなければならず︑条約の趣旨及び目的はその保障が﹁実際的かつ実効的﹂に

なるように規定を解釈し適用することを求める︒さらに︑人権のいかなる解釈も﹁民主的社会の理想と価値を維持し

及び促進することを意図した文書である条約の一般的精神﹂に合致しなければならないという︒

裁判所は︑拷問及び非人道的または品位を傷つける待遇もしくは処罰が条約上緊急事態における逸脱が認められて

おらず絶対的に禁止されていることは︑三条が民主的社会の基本的価値を体現していることを示しているという︒拷

問禁止条約三条が引渡を禁止する具体的義務を規定している事実は︑同様の義務が欧州人権条約三条には内在してい

ないということを意味しない︒﹁締約国が︑行われたとされる犯罪がどんなに凶悪であっても︑拷問を受ける危険の

あると信じる実質的な根拠のある他国に知りつつ容疑者を引き渡すならば︑前文の参照する﹃政治的伝統︑理想︑自 由及び法の支配の共通の遺産﹄という条約の基礎にある価値とほとんど両立しないであろう︒このような状況におけ る引渡は︑三条の簡潔で一般的な文言には明示的に参照されていないけれども︑同条の精神及び真意に明らかに反す るであろうし︑裁判所の見解では︑引き渡さないというこの内在的義務は︑当該容疑者が引き渡された国において同 条の規定する非人道的または品位を傷つける待遇もしくは処罰にさらされる現実の危険に直面するであろう場合にも

及ぶのである﹂と判示する︒

そして裁判所は︑何が非人道的待遇にあたるかは事案の状況によるという︒共同体の利益の要請と人権の保護の要

求との公平なバランスを探ることが条約全体に内在している︒人の移動の容易さと犯罪の国際的広がりの拡大によ 明示的かつ具体的に扱われている︒

四〇

2 0 0 6 )

(11)

とい

う︒

ファクターにはこのような考慮を含めなければならないという︒

四 り︑国外に逃れた容疑者を裁判にかける諸国の利益は増大している︒逆に︑犯罪者に安住の地を提供することはその国の危険となるだけでなく引渡の基礎を害することになろう︒非人道的待遇の概念の解釈適用に当たって考慮すべき

条約の実施機関が条約の潜在的違反を宣言することは通常のことではないが︑﹁もし実施されれば請求国における

その予見可能な結果により三条に反することを申立人が主張するならば︑危険にさらされると主張される苦痛の重大

かつ回復不可能な性質に照らして︑三条の与える保障の実効性を確保するため︑この原則からの逸脱が必要である﹂

裁判所は以上のような一般論を﹁逃亡犯罪人がもし引き渡されれば請求国において拷問または非人道的もしくは品

位を傷つける待遇もしくは処罰を受ける現実の危険に寵面すると倍じる実質的な根拠が示された場合には︑締約国の

逃亡犯罪人を引き渡すとの決定は三条の下での間題を生じ︑ゆえに条約の下でのその国の責任を生じうる﹂とまとめ

る︒そして︑本件は請求国における条件が三条の基準に合致するか否かの評価に関するが︑それは請求国の条約違反

または一般国際法違反の責任を裁定する問題ではなく︑条約違反の責任は﹁直接の結果として禁止された虐待に個人

をさらす行為をとったという理由で引渡を行う締約国の負う責任である﹂とする︒その上で︑米国ヴァージニア州の

死刑の順番待ち現象を検討し︑申立人の年齢及び犯行時の精神的状態︑本国ドイツヘの引渡の可能性などを考慮して︑

( 1 4 )

 

米国への引渡決定がもし実施されれば人権条約三条に違反すると結論づけた︒

以上が

S o e r i n

事件判決の概要であるが︑この判決では︑欧州人権条約三条が明示的に非人道的待遇を受けるおそ

g

れのある国への引渡を禁止しているわけではないことから︑禁止規定のある拷問禁止条約に言及し︑前文の﹁政治的

伝統︑理想︑自由及び法の支配の共通の遺産﹂に訴えつつ︑三条の精神に引渡の違法性を基礎づけている︒

(12)

この事案を他国の国際違法行為への﹁援助﹂

( I

L C

国家責任条文草案︹最終草案︺

( 1 5 )

 

解もある︒しかし︑申立人が米国において直面するであろう死刑の順番待ち現象が欧州人権条約三条の基準に合致し

ないとされてはいるが︑米国は非締約国であり︑判決が違法としたのはあくまで英国の引渡決定である︒英国の引渡

決定がなければ申立人が非人道的待遇に直面しなかったであろうという意味で︑米国で受けたであろう死刑の順番待

ち現象は英国の行為の結果である︒後の欧州人権裁判所の判例では︑条約三条の問題は引渡だけではなく追放や送還

( 1 6 )

 

についても生じているが︑条約三条の適用範囲は引渡先または送還先で行われる非国家的実体による侵害や︑引渡ま

( 1 7 )

 

たは追放によって引き起こされる申立人の罹患している疾患の病状の悪化にまで及ぽされている︒ある国家が他国の

違法行為に間接的に責任を負うというのではなく︑国家はその行為に由来する一切の﹁事態﹂に責任を負うというこ

とである︒すなわち︑国家の責任はその行為から生じる結果たる事態にまで拡張されるというのが正しい理解といえ

( 1 8 )

 

よ ヽ つ ︒

( 1 9 )  

ここで英国が違反するとされた義務が注意義務の性格を帯びていることに注目する必要がある︒判決において特に

考慮されているのが引渡決定の結果の予見可能性であり︑﹁現実の危険﹂すなわち条約に反する結果の発生する蓋然

( 2 0 )  

性が指標となる︒その後の判例では︑蓋然性が低ければ危険は現実のものとみなされず︑﹁現実の危険﹂は一般的な

( 2 1 )

 

ものではなく被害者にとって具体的なものでなければならないとされる︒先に述べたように︑国内法における過失は

行為者がその行為の︵違法な︶結果を予見してそれを回避することにある︒ゆえに結果の発生︵すなわち損害︶自体

は違法行為の成立要件ではなく︑﹁現実の危険﹂という引渡決定の時点において予見される結果発生の蓋然性があれ

( 2 2 )  

ば︑違法行為が発生し事前差止のような措置も認められることになる︒また︑国際義務に違反しうる結果︵いかなる

性質のものであれ︶が予見可能であれば︑引渡に限られず︑追放または送還の決定もその執行を差し控えなければな 一六条︶として位置づける見

(香法

2 0 0 6 )

(13)

So er in

事件で裁判所は条約上のいかなる人権も侵害するような引渡が禁止されるという一般原則は存在しないとg

述べ︑人権条約の特別な性格そして拷問または非人道的待遇の禁止が﹁民主的社会の基本的価値﹂を体現しいかなる

逸脱も許さない絶対的性格を有するものであることを強調しているが︑他の権利︑さらには人権の保護以外の国際法

規則について同様に引渡の禁止という効果を持たないことにはならないであろう︒理論的には︑他の人権であっても︑

引渡先で人権侵害が起きる高度の蓋然性があり︑かつ個人の人権保護の利益が犯罪抑止などに関する国家の利益を上

回るならば引渡を差し控えなければならないと考えられる︒特に問題となる権利の重要性が義務国の行為義務を導く

( 2 3 )  

重要なファクターであるということができる︒

さらに︑結果として生じるであろう被害の重大かつ回復不可能な性質も重要なファクターである︒権利の重要性及

び損害の重大性のファクターは結果発生の蓋然性及びその証明の程度にも影響するであろう︒つまり︑前者のファク

( 2 4 )  

ターが重大であれば蓋然性の程度が相対的に低くても引渡または追放は禁じられる余地がある︒そして︑裁判所は人

権保護の要請と犯罪人の引渡による処罰という国家︵共同体︶の利益との公平なバランス︑さらに受けるであろう待

遇が犯罪の重大性に比例するものであるかも考慮しなければならない︵つまり比較衡量である︶としている︒つまり︑

軍事攻撃における付随的損害防止義務と同様に︑原因行為のもたらす利益と行為によって生じる有害な結果との比較

( 2 6 )  

衡量である︒特に︑裁判所がドイツヘの引渡という代替的手段によって引渡の目的が達成されることを指摘した点

は︑英米法におけるネグリジェンス責任の認定における損害回避措置のコスト及び実行可能性の考慮を想起させるも

のである︒すなわち︑有害な結果を回避しうるコストの少ない措置が存在し︑それによって原因行為と同じ目的を達

成できるならば︑原因行為の有用性は低くなるのであり︑第三国への引渡や被請求国による代理処罰といった代替的 らないことになる︒

(14)

( 2 7 )  

手段が可能であればそれだけ容易に引渡の停止が認められるであろう︒

結果を回避するための措置は具体的には状況に応じて決定され︑予測される危険に比例したものである︒

一九九五年の

T u

g a

事件は︑受理可能性に関する委員会︵三人の裁判官による委員会︶r

力化装置を備えていなかった︶ つねに引

渡を差し控えなければならないわけではなく︑死刑の不適用の保障またはより人道的な執行方法への変更の保障を請

求国から得るなど︑損害を回避するため可能な予防措置が存在しかつそれをとるならば十分であると認定されると考

( 2 8 )  

えら

れる

欧州人権裁判所において︑引渡または送還に関する事例以外に︑国家がその行為の結果に責任を負うか否かが問題

の決定である︒原告はイタ

リア国民であり︑イラン・イラク戦争中に埋設された対人地雷を除去する作業で対人地雷︵自己破壊装置及び自己無

の作動により負傷したが︑この地雷はイタリア企業が製造しイタリア法に違反してイ

ラクに輸出したものであった︒原告は

S o

e r

i n

事件判決を引用し︑イタリア政府は実効的な武器輸出許可制度によっg

て︑知っていたまたは知るべきであった地雷の供給の結果生じた被害から原告を保護する義務がありそれを怠ったと

主張

した

委員会は︑請求は受理不可能であると決定したが︑その理由は︑本件が

S o

e r

i n

事件とは事案が異なるというものg

である︒引渡及び追放に関する事件では︑その旨の決定が条約締約国の﹁管轄内﹂ となった事例がいくつかある︒ 人権に関して結果的事態が問題となった他の事例

の行為であることが明白で︑当該

行為が直接に特定の個人を特定のかつ直接の危険にさらしている︒本件は︑原告の被害がイタリア当局による武器輸

四四

(15)

出を禁止することの欠如の直接の結果であるとはみなされない︒原告の経験した事故の直接かつ決定的原因を構成す

るのは第三国︵イラク︶の行為であって︑武器の供給と当該第三国による使用との間に直接の関係は存在しない

( 2 9 )  

まり原告の被害は排他的にイラクに帰属する︶とした︒

この事件では被請求国の行為と結果との間の因果関係の遠隔性を理由として請求が棄却されており︑

S o

e r

i n

事件g

のように予見可能性の基準が適用されているわけではない︒

四五

一九九八年の

L.C.B

事件判決は︑出生後数年して白血病であると診断された原告が︑病気の原因は︑原告の出

生前に英国のクリスマス島での大気圏核実験に関連する作業に従事していた原告の父親が被爆したことにあるとし

て︑欧州人権条約︱一条などの違反を主張して英国を訴えた事例である︒裁判所︵小法廷︶は︑条約二条一項第一文が

国家による故意のかつ違法な生命の剥奪だけでなく管轄内にある者の生命を保護するため適当な措置をとることをも

義務づけていると述べ︑問題は︑事案の状況によって国家が原告の生命が危険にさらされることを防止するため必要

なあらゆることをなしたかどうかであるという︒裁判所は︑まず原告の父親が危険なレベルの放射線を被爆したとい

うデータもそのような症状を示した証拠もないと認定し︑むしろ当時の測定記録は要員が所在していた地域で放射線

が危険なレベルに達していなかったことを示しているという︒この記録は︑英国当局が原告の父親が危険な照射を受

けなかったと合理的に確信していたであろうことを信じさせる根拠となるという︒

次に裁判所は︑前記の点が確実でないことから︑父親が被爆したことを英国当局に信じさせるような情報を当局が

有していたとした場合に︑英国当局が原告の両親に忠告し原告の健康を監視することが合理的に期待しえたか否かを

も検討する︒しかし︑父親の放射線被爆とその子の白血病との間に因果関係が存在することは立証されなかった︒ゆ

えに︑不確実な関係に基づいて︑原告に関して措置をとるべきであったと合理的に判断することはできないという︒

︵ つ

(16)

決内容は被告国の行為︵核実験︶の結果︑原告が受けた︵と主張する︶危険を国家は了知または予見することは不可 が決定する必要はないという︒ 最後に裁判所は︑原告の胎内での及び出生後の健康を監視することが白血病の症状を軽減するような早期の診断及

び医療処置につながったかどうかは明らかに不確実であるという︒父親のクリスマス島での所在によって原告の生命

が脅かされる危険があると信じる理由があれば︑当局はそのことを!それが原告を援助するかどうかにかかわらず ー原告の両親に知らせる義務があったかもしれず︑そのことは議論の余地があるが︑上記の認定に照らせば裁判所

以上から︑裁判所は︑父親が危険なレベルの放射能にさらされること及びこのことが原告の健康に危険を生じるこ

との蓋然性に関して当局に利用可能な情報により︑当局がこれらの事項を原告の両親に通知するためまたは原告に関

( 3 0 )  

していかなる他の行動をとるために行為することは期待できなかったと結論づけた︒

この判決では︑原告の父親が危険なレベルの放射能に被爆したことは認められず︑かりにそうだとしても原告の健

康との因果関係が証明されていないので当局は原告が危険にさらされたと信じる合理的理由はないとされた︒この判

能であったと解釈することが可能である︒さらに︑原告の健康を監視すれば病状を軽減しえたことを疑問視している

のは︑注意義務の判断における防止措置の実効性を考慮したとみることも可能である︒

M a s t r o m a t t e o

事 件 (

=10

0二年︶も興味深い事例である︒原告は銀行強盗から逃走しようとしたグループに射殺さ

れた人物の父親である︒発砲した者は当時殺人︑強盗などの罪で服役中で︑イタリア裁判官により一時外泊

( p r i s o n l e a v e )

を許可されたがそのまま逃亡していた者であった︒また銀行強盗グループの中の別の一人も強盗胴助の罪で

服役中であったが一時外泊に問題がなかったので︑イタリア裁判所の決定により︑拘禁刑に代わって︑昼間は外で働

き夕方に刑務所に戻る準拘禁措置の下にあった︒殺害には関与していないが運転手役を担当した人物も︑服役中で一

四六

(17)

裁判所︵大法廷︶

四七

︵第一の人物の一時外泊のニカ月前︶が期限を過ぎても戻ってこなかった者である︒被害者の死

にイタリアは欧州人権条約二条違反の責任があると訴えたのが本事件である︒

は︑まず

O s m

事件判決などの先例を引用して︑条約二条一項第一文は生命を保護するため適

a n

当な措置をとることを締約国に義務づけていること︑この義務は法執行機構に裏付けられた犯罪抑止のための実効的

な刑法規定の制定に及び︑また明確に定義された状況においては他人の犯罪行為によりその生命が危険にある個人を

保護するため防止措置をとる積極的義務を含むことを確認し︑並びに︑にもかかわらずこのことはあらゆる生命に対

する危険を防止する積極的義務を課すものではなく︑第三者による犯罪行為による個人の生命への現実のかつ直接の

危険の存在を当局が知っていたまたは知るべきであったこと︑及び合理的に判断して︑当該危険を除去するために期

待しえたであろうその権限の範囲内での措置を当局がとらなかったことが納得のゆくように証明されなければならな

その上で︑本件が先例と異なるのは︑責任が特定の個人に対する保護の欠如により生じたか否かという問題を決定

するのではなく︑暴力犯罪で服役する者の潜在的行為から杜会に一般的保護を付与する義務と当該保護の射程の決定

まず裁判所は︑イタリアの一時外泊及び準拘禁の制度自体が締約国の責任を生ぜしめるか否かを検討する︒裁判所

るとする︒裁判所は一時外泊に関するイタリア法の規定を検討し︑ は︑拘禁刑の目的の︱つは再犯の防止などによって社会を保護することにあるが︑同時に刑に処せられた者の漸進的な社会復帰の政策という正統な目的を持ち︑このような観点から社会復帰を許す暫定的釈放のような措置の利点があ

一時外泊は一定の期間の拘禁を経た後でのみ認め

られること︑服役態度が良いこと︑釈放が杜会に危険をもたらさないこと︑及び受刑者が社会復帰プログラムに参加 が問題となっていることにあるという︒ いことを確認する︒ 時外泊を許可された

(18)

司法当局による欠如は証明されなかったとした︒ する真正な意思を有していることなどの要件が課せられ︑その判断が刑の執行に責任を持つ裁判所によって判断されていることを確認する︒そして︑犯罪組織の構成員または組織犯罪と関連する犯罪の場合には一時外泊が認められないことにも留意して︑イタリアの制度は社会に対して十分な保護措置をとっていると認定した︒

裁判所は次に︑加害者のうちの二名に一時外泊及び準拘禁待遇を許可した決定の採択及び実施が条約二条の要求す

る注意義務

(d

ut

o f

y

c a

 

r e )

に違反するかどうかを検討する︒この二名が事件当日服役していたとすれば原告の息子は

殺害されていなかったことは明白であるが︑単なる﹁あれなければこれなし

を生ぜしめるには十分ではない︒原告の息子の死亡が︑当局が知っていたまたは知るべきであった生命への現実かつ

直接の危険ただし本件での危険は特定された一または複数の個人のそれではなく公衆の一員への危険であるがー

ーを回避するため合理的に期待しえたあらゆることをなすことの欠如から生じたものであることが証明されなければ

一時外泊及び準拘禁措置を許可したイタリア裁判所が︑服役態度が良好であることや社会復帰の希望に

関する刑務所当局の報告︑︵準拘禁を許可された者については︶一時外泊の成功に関する報告及び外出中の就業につ

いての許可に基づいており︑釈放が生命への現実のかつ直接の危険

l

ましてや原告の息子の死を生じること︑

る︒同一の裁判官が共犯者︵運転手役︶ さらに釈放後に社会に危険を生じさせないよう追加的措置をとる必要があることを示す材料は何もなかったと認定す

の一時外泊を認めたあとで主犯のそれを認めたことによって二人が共謀して

犯罪を実行することが予見可能であったという主張も認められない︒裁判所は原告の息子の生命権を保護することの

裁判

所は

︑ ならないという︒

( s i n e   q

u a n o   n )

の条件では国家の責任

四八

(19)

Sa br

a 及び

S h a t i l

a の難民キャンプで起きた︑

P h a l a n g i s t

民兵によるパレスチナ難民の虐殺事件がある︒事件後にイス

ラエル政府が設立した調査委員会の報告書

(K ah an

報告

書︶

ルにも﹁間接的責任﹂があると認定した︒民兵が難民キャンプに入るのを許すことを決定した者は︑その自由になる

情報及び公知の事実から虐殺の危険を予見すべきであり︑虐殺の発生により当該決定により間接的責任を負うという

( 3 2 )  

もの

であ

る︒

また︑本事件に関して一九八二年に国際審査委員会

( M

a c

B r

i d

e 委員会︶が発表した報告書も︑

ジュネーブ第四条約及び第一追加議定書における﹁保護を受ける者﹂

書の重大な違反であることを認定し︑イスラエル軍が虐殺に直接関与していないとしても︑占領国として虐殺に責任

を負うと認定した︒その根拠の一っとして︑

Ph al an gi st

軍の作戦を計画した際その結果を予見すべきであったという 判決ではないが輿味深い事例として︑

( 6 )  

予見不可能であったと認定されている︒ 最後に裁判所は警察当局に注意義務違反がなかったかを検討し︑

その他の事例

四九

亡後は一般に用いられる方法で指名手配書が配布されており︑これより実効的な措置をとりえたとしても︑注意義務

( 3 1 )  

違反があると考える理由はないとし︑結局請求を退ける判断を下した︒

この事件では︑被請求国の行為と原告の損害との間の事実的因果関係の存在は肯定されたものの︑申し立てられて

いる有害な結果

││i

原告の受けた具体的な危険ではなく社会一般が受けた危険として広く定式化されているがー

│ i

一九八二年にレバノンに侵攻したイスラエル軍の占領下の西ベイルートの

は︑﹁直接の責任﹂は

P h a l a n g i s t

民兵にあるが︑イスラエ

パレスチナ難民が

であること︑虐殺がジュネーブ諸条約及び議定 一時外泊中は通常とられている監督が行われ︑逃

(20)

( 3 3 )  

r e c k

l e s s

n e s s

(未必の故意または認識ある過失︶を挙げている︒ 

二つの委員会はともにイスラエル軍は虐殺に間接的に責任を負うとしており︑その責任は前節で検討した占領国と

( 3 4 )  

してのすなわち事実上の支配に基づく管理責任や

P h

a l

a n

g i

s t

軍に対する指揮命令関係の存在を前提とした上官責任に

も基礎づけられているが︑本稿との関係では︑イスラエル政府は民兵を難民キャンプに入ることを許した決定にあたっ

て︑その結果虐殺が発生することを予見すべきであったとされたことに注意すべきであろう︒このような論理は︑

P h

a l

a n

g i

s t

民兵の行為はイスラエルに帰属しないが︑占領国としての責任とは無関係に︵事後の虐殺の阻止の義務は

占領国としての支配に基づくものであるが︶︑

( 3 5 )  

とされているのである︒ 一定の許可を与えた際︑当該決定の予見可能な結果に責任を負うもの

これまで︑様々な判決や一次規則を参照してきたが︑現実に責任ありとされた事例は多くはなく︑大半は責任の理

論的可能性が肯定されたに過ぎないものの︑国家は自身の行為そのものではなく︑行為の結果生じた

あろう︶事態を理由として責任を負う︑そしてその責任は予見可能性及び防止措置の実行可能性を条件とする︑すな

わち問題となっている義務は注意義務であると考えることができよう︒

︵及

び生

じる

参照してきた事例では︑単なる事態の発生だけでは国家は義務違反ありとはされていない︒当該事態が国家自身の

行為の結果生じたものでなくてはならない︒すなわち︑因果関係の有無が義務違反を認定するための重要な条件となっ

ている︒例えば︑灯台事件においては︑資材の火災による消失だけではなくそれが領域国政府の立ち退き命令の結果

によるものでなくてはならないとされた︒

S o

e r

i n

g 事件では︑引渡先での死刑の順番待ち現象自体に引渡国は責任は

負わないが︑それが引渡という行為の予見可能な結果ならば引渡を差し控えなければならないとされた︒

M a

s t

r o

m a

t t

e o

五〇

(21)

事件では︑加害者の一時外泊を許可した決定にあたって被告政府が社会の構成員の生命への直接の危険を知りまたは

なお︑本稿は国家責任一般の要件として国家の行為と事態との因果関係が要件であると主張するものではない︒現

代の国家責任法は義務違反と婦属の二つを要素とし︑国家責任に広く合法性確保の機能が付与されるようになった結

( 3 6 )  

果として︑国内法の不法行為責任では要件の一っである有形的損害の存在は要素とはされていない︒損害︵外在的事

( 3 7 )  

態︶の要件性は一次義務の内容に依存するものとされ︑一般に有形的損害は国家責任の救済手段の︱つである金銭賠

( 3 8 )  

償の要件と位置づけられている︒同様に︑有形的損害が国家責任の要素とはされなくなったことの論理的帰結として︑

同じく国内法上は責任の一般的要件である加害者の行為と被害者の受けた損害との因果関係の存在も︑金銭賠償の対

( 3 9 )  

象範囲の問題として位置づけられることになった︒

損害と同様に︑因果関係も︑一次義務の内容に応じてなど一定の場合に義務違反の認定のためのファクターとして

存在することは妨げられていない︒この場合の義務違反の要素としての因果関係は︑金銭賠償付与の条件としての因

( 4 0 )  

果関係とは区別されなければならない︒金銭賠償の要件としての因果関係は︑原因行為が違法であることを前提とし

て︑どこまでの範囲の損害に違法行為国は金銭賠償をなすべきかという問題である︒他方︑義務違反の要素としての

因果関係は因果関係の存否が義務違反の有無を左右する︒

本節において検討した多くの事例で因果関係の存在が義務違反の認定に必要とされたのは︑因果関係が責任の一般

( 4 1 )  

的要件だからではない︒また︑一次規則がそう規定していたからでもない︒戦闘手段の規制に関する規則のような場

合もあるが︑本節で検討した大半の事例で問題となっている一次義務は︑在留外国人の財産権の保護や外国人の追放

への制限︑人権の尊重︵拷問または非人道的待遇の禁止や生命権の尊重など︶などいわゆる結果の義務︵義務の求め 知るべきであった場合にはじめて責任を負うとされた︒

(22)

る結果の不達成によって直ちに責任が発生する義務︶

一般的な状況にではなく︑請 であって︑義務の内容自体から因果関係の要件や注意義務が導

一次規則を事案に適用する際に問題となっているのが国家の行為ではなく外在的事態であっ

て︑義務違反の決定の前提として︑当該事態が国家の行為の結果であるか否かという事実の評価をしなければならな

いという場合があって︑これに該当したからである︒

( 4 2 )  

状況によってである︒ つまり︑因果関係の要件が問題となるのは個々の事案の具体的

問題はその基準である︒国家はその行為のもたらすあらゆる結果に責任を負うわけではない︒参照した事例の多く

において︑加害国の行為と請求国または請求者の受けた損害の間には﹁あれなければこれなし﹂の関係が成り立って

いるようにみえる︒このような事実的因果関係の連鎖は無限に及ぶのであって︑

M a s t r o m a t t e o

事件で欧州人権裁判所

が指摘しているように︑単に因果関係があるからという理由で国家に責任を負わせることは不当である︒因果関係を

限定する一定の基準が必要であり︑これまで参照してきた事例では︑損害の遠隔性︑予見可能性︑予見される危険の

具体性などの基準が用いられている︒が︑有力なのは

S o e r i n g

事件などが採用し︑イラン革命中の米国人の追放事件

( 4 3 )  

に関してC

o n

が主張している予見可能性の基準であるように思われる︒灯台事件では他の基準と併用してであるが

この基準が用いられている︒このことは金銭賠償の要件としての因果関係の基準として予見可能性が有力とされてい

( 4 4 )  

ることからも首肯できる︒論理的には違法行為として責任を負う事態の範囲が金銭賠償の範囲よりも広いということ

はありえないからである︒そして︑本節で参照した判例の多くは︑因果関係の連鎖は︑

求国︵者︶が具体的に受けた被害︵または受けるであろう危険︶にまで及ぶものでなければならないとしている︒

ゆえに︑国家は自らの行為の結果︵事態︶に対して結果が予見可能な限りで責任を負わなければならない︒この場

合に国家に課せられている具体的な義務も予見可能性に条件づけられている︒結果的事態の不法行為において国家の かれるわけではない︒

(23)

負う義務は︑灯台事件や

S o e r i n

g

件︑

M a s t r o m a t t e o

事件が理解しているように注意義務である︒この種の不法行為

の場合には︑行為自体は適法であって結果のみが違法であるから︑国家は直ちに行為を差し控えるのではなく有害な

一般的な注意義務と同様に予見可能性に加えて防止のための措置の実効性

も要件となりうるが︑結果回避のための措置をとることが不可能であれば責任を免れるとはされていない︒むしろ︑

この段階では

S o e r i n

事件のように原因行為︵引渡︶そのものを差し控えなければならないとされている︒

g

ただ

し︑

S o e r i n

g

事件では事態発生の蓋然性︑原因行為の重要性︵犯罪の抑止︶︑被侵害利益の重大性︵引き渡され

た犯罪人の受ける拷問その他の待遇︶︑結果回避措置のコスト︵第三国への引渡といった代替的措置︶の比較衡量が

行われていることに注意する必要がある︒灯台事件においても︑当局による立ち退き措置の正当性が強調されている︒

このような点から結果的事態に対する責任は国内法の民事責任における過失︵注意義務違反︶の特徴をよく備えて

いるといえる︒すなわち︑注意義務が課せられる状況とは︑人が行為するにあたって自己の行為の結果を予見しかつ

︵有害であれば︶結果を回避するための行動をとらなければならないという状況であって︑これまで検討してきた結

果的事態の不法行為に合致する︒また︑国内法の不法行為責任では︑原因行為の重大性や被侵害利益の重大性などを

考慮して過失の有無が判断されるが︑これも先にみた

S o e r i n

事件で議論された締約国の義務の性質について欧州人

g

権裁判所が展開した推論に類似している︒結果的事態に対して責任があるというためには︑国家の行為と有害な事態

の間の因果関係の存在に加えて︑注意義務の違反が証明されなければならないことになる︒

なお︑狭義の事態の不法行為の場合にも︑事態︵損害︶が発生しなければ責任は生じないというものではないと考

えられる︒参照した多くの事例ではすでに事態が発生してしまってから責任が問題になっているが︑事態が発生する

高度の蓋然性︵危険︶があれば︑国家は事前にそれを防止するための措置をとらなければならないというべきである︒ 結果を回避するための措置をとればよい︒

(24)

が可能であったかが問題となる︒ 一般的に一次義務自体の内容は

︵国内法における

その

こと

は︑

S o

e r

i n

g 事件をはじめとする欧州人権裁判所の判例において引渡または送還が事前に差し止められたこ

とからも明らかであるし︑第一追加議定書五七条二項い印及び圃が事前に予防措置をとることや攻撃を事前に差し控

本章では︑注意義務が義務の内容からではなく事案の具体的状況によって課せられる場合があることをみてきた︒

まずその第一の状況として領域使用の管理責任を取り上げ︑判例の内容を概観し︑管理責任が領域以外の管轄権や事

実上の支配の下にある事態についても認められること︑管理責任の法的構造と責任認定のための要件を明らかにし

︵または生じるであろう︶事態に対する責任の事例を取り上げ︑例外的で

はあるが︑このような種類の責任が存在し︑義務の内容が注意義務であることを明らかにした︒

領域使用の管理責任の場合も︑因果関係による責任の場合も︑事案の状況によって義務の範囲が国家に直接帰属し

ない事態にまで拡張されるという点で共通している︒これらの状況において国家自身の行為は問題となっていない︒

領域使用の管理責任では国家の管理の権限を媒介として国家に帰属しない事態が問題となり︑結果的事態に対する責

任の場合は国家の行為から生じた事態が問題となっている︒また︑

義務の分類論でいうところの︶結果の義務であるが︑拡張される際に注意義務へと緩和される点も共通している︒義

務の違反があると認定するためには︑国家が事態を予見することが可能であり︑また当該事態の発生を回避すること

これは行為者が行為の結果を予見し有害な結果を回避しなければならないという国内法の過失︵注意義務︶概念と た︒次に︑国家の作為の結果として生じる

小 括

えることを義務づけていることからも認められる︒

五四

(25)

五五

一次義務の分類論の文脈においてであるが︑﹁特定事

同一であるが︑このことが直ちに国際法上の国家責任において過失が一般的要件であることを意味するわけではな

際にいわば翻訳されて︑その具体化された行為義務が注意によって条件づけられているに過ぎない︒注意義務が

問題となるのは事案の具体的状況に依存するのである︒そのような意味で︑第二章で検討した︑義務の内容自体が注

意義務である場合とは理論的に区別されなければならない

( 4 5 )  

の私人を規制する義務であることが多いであろう︶︒

領域使用の管理責任においても結果的事態に対する責任においても︑それぞれの責任が成立するためには事態の発

生が不可欠の要素である︒しかし︑すでに述べたように︑現実の損害が発生するまで待っ必要はなく︑注意義務は事

態︵

損害

一次義務自体は結果の義務であるが︑それが事案の具体的状況に適用する

の発生を防止するため措置をとる義務であるから︑発生のおそれ

う義務づけられると考えるべきである︒現実には︑責任が問題になった多くの事例ですでに防止すべき事態が発生し

ていてその賠償が請求されているが︑そのことは事前差止めの請求の余地を否定するものではないように思われる︒

本章の冒頭で述べたように︑

A g

o

は領域使用の管理責任と結果的事態に対する責任の両者を一括して﹁事態の不法

行為﹂と呼び︑

ILC

の国家責任条文草案の作業においては︑

態発生防止の義務﹂︵防止の義務︶とも呼んだ︒しかし︑この両者には決定的な違いがあるように思われる︒それは

因果関係についてである︒

A g

草案の特定事態発生防止の義務においては︑防止すべき事態の発生︑国家機関の注意

o

の欠如及び当該注意の欠如と事態の発生との﹁あれなければこれなし﹂とみなされるような少なくとも間接的な因果

( 4 6 )  

関係の存在が義務違反の要件とされていた︒ここでの﹁間接的な因果関係﹂は︑私人による外交公館︑外交官あるい

は外国人への被害といった︑国家自身の作為の結果ではなく国家自身の不作為︵防止措置の欠如︶が問題になる場合 い︒本稿で参照した事例の大半において︑

︵危険︶があれば義務国は措置をとるよ ︵ただし︑実際にはそれらの一次義務は内容自体が管轄下

(26)

ても国家であっても変わるものではない︒

( 4 7 )

 

の︑国家が防止措置をとったならば防止しえたであろうという仮定に基づく判断を意味するものである︒それは厳密

な意味での因果関係の認定ではなく︑むしろ︑国家が管轄または管理の権限に基づいて事態の発生を防止すべき特別

の責任を負っていることを前提に︑事態の発生を予見し防止すべきであったか否か︑及び予見し防止することが可能

であったか否かという判断にほかならない︒この点で単純に国家自身の作為の結果であるか否かが間題となり︑管轄

または管理の権限の存在を前提としない結果的事態の不法行為における違法行為の認定とは区別されなければならな

他方で︑因果関係に関する両者の区別が相対的なものであることも認めなければならない︒因果関係の認定そのも

のが規範的な判断であるということがある︒そして︑作為の因果関係の判断においても︑当該作為がなかった場合の

仮定的結果を想定し現実の結果との比較が行われる︒さらに︑因果関係の基準が予見可能性であれば︑因果関係存否

( 4 8 )  

の判断は注意義務違反の判断︵事態の予見可能性と防止措置の合理性からなる︶に包摂されるであろう︒

また︑越境汚染防止義務のように︑領域使用の管理責任と結果的事態に対する責任の複合的な場合も存在する︒こ

れは私人の行う経済活動については管轄または管理の下の活動を規制するという領域管理義務の一態様であるが︑原

因国での活動が他国での環境汚染をもたらしたか否かという因果関係の判断が必要となる︒国家自身が運営する施設

の場合は︑自らの作為が被害国における汚染という有害な事態をもたらしたか否かという︵狭義の︶事態の不法行為

の事例となる︒さらに︑越境損害防止義務では︑原因となる活動は経済開発を行う権利の行使というそれ自体適法な

行為︑すなわち国際法によって禁止されていない活動であって︑結果として生じた汚染の重大性が原因行為の重要性

( 4 9 )  

に比較して過度なものであってはじめて違法なものとなるが︑このような比較衡量は直接の原因行為者が私人であっ

五六

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