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学術著作物の内容の保護について

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(1)

学術著作物の内容の保護 について

久々湊 伸 一

目 次

Ⅰ. は じめに

Ⅱ.

ドイツ判例の補遺

Ⅱ.

フープマ ンの教科書 に見 る学術著作物の著作権 に関す る学説 の 推移

Ⅳ.

学術著作物の内容の保護

1.学術著作物の内容 は保護 されない とい う説

2.

学術著作物の内容 を保護 しない理 由 とその反論

3.

学術著作物 における内容の重要性

4.

学術著作物 における形式 と内容の分離可能性

5.

学術著作物 におけ る著作者人格権 の重要性

6.

著作権保護のメル クマール と しての個性 と学術著作物

Ⅴ.

わが国判例の検討

V I .

一応の結語

L はじめに

技術の発達 は止 まる所 を知 らず,更 に加速 されている。人類の追求す る幸福 な生活の水準 は一部達せ られているが,反対 に環境問題が深刻 にな っている

技術の発展 は,その源を辿れば学術の進歩 に帰せ られ る。知的財産権法の重要 性 もこの技術の発展 によって生 じた ものであ る

技術的発明は特許権 によって 保護 され るが,科学上 の発見 は保護 されない。 1 )

芸術 において追求 され る美 は,時代的に洗練 されて高度 にな って行 くわけで

〔1〕

(2)

2 商 学 討 究 第 45 巻 第 3 号

はないと考え られ,ギ リシャ美術に対 して現代美術が優 っているとも思われな いのに対 して, 自然や社会の構造や法則を究明する学術は,人間の歴史的作業 によって積み重ね られて,進歩 して来た。学術の目的である真理の認識 は,客 観的でなければ理解 されない。学術においては,研究作業に独創性や個性が発 揮 されるが,研究結果 は客観的に価値ある認識でなければな らない。学術が歴 史的積み重ねであるということは,活発な討論の対象 にす ることができなけれ ばな らないことを も意味する。

「 文化の発展 に寄与する」著作権法 は,その保護の対象 として学術 と芸術を 念頭に置いている。コンピュータ ・プログラムも,情報の処理 という実用の目 的を有 しなが らも,言語の著作物 に入 ると考え られ2 ),広い意味で学術の著 作物 とされるということで著作権法上保護 され ることになっている。一方著作 権法の核心 は創作者の個性の現れである著作物 を保護す ることにあ るとされ る。個性 ということになると主 として 「 芸術」を保護するのが 目的になって く る。何故な らば 「 学術」 ・ 「 科学」は客観的な原理,法則を究明す ることを目 的 とし,積極的に個性を学術著作物 に表す ことを目標 に していないか らであ る。しか しそれを究明 して発見する努力, 言葉が適切かどうか判 らないが, 「 学術 的給付」をどの様に保護するか ということが重要で, ここには必然的に研究者 の個性が現れるのではなかろうか。著作権法はその成立以来 「 学術」を保護 し てきた。

昨今わが国において も学術著作物に関す る紛争が多いようで,い くつかの判 例が報告 されている 3

) 。

又 コンピュータ ・プログラムが著作物であ るとされ るに及んで学術著作物の著作権問題の究明が有益 となったもの と考え る。学術

1 )科学上 の発見 に関 して,その経済 的収益 に配 当加入 させ る制度 を科学 的所有権 ( wi sse nschaf t l i chesEi gent um) と言 い, 制度化 につ いての国際的な論議のあ っ たときもあるが, 現在 までのところ実現 していない。これについては,フープマ ン( 参 考文献 7)1 65 頁 , 拙訳書 290 頁 に触れてあるが, W.Erman, Wi s s enschaf t t l i ches Ei gent um, 19 29 が代表的な解説書であ り,最近の もの としては ,Bei er /St ral l S , De rSchut zwi ss ens chaf t l i che rFors chungs ergebni ss e,1 9 82 に詳 しい。

2 ) ドイ ツ著作権法 は改正 によ り 2 条 1 項 1 号 に言語 の著作物 の例示 と して, コ ン

ピュータ ・プログラム ( Programme f t i rdi eDat enverarbei t ung) を掲げた。

(3)

学術著作物 の内容 の保護 につ いて

3

的活動の中に情報処理の面が含まれているために, コンピュータ ・プログラム が学術的活動の相当の部分を代替することになり,学術的活動は更に高度化せ ざるを得ず,新理論の発見の価値が高まると同時に学術研究における競争 も激 化する方向にあると見 られるか らであると考える。

学説 によれば探偵小説の筋 は著作物の内容に個性が発揮 されて保護 され ると される。 これに対 して学術著作物には, このような内容に対する保護 は認め ら れないとするのが通説である。 これは学術的成果に対 しては討論の自由が不可 欠で,その内容を個人 に独 占させ ることはで きないとい うところか ら来てい る。 しか し又形式に しか著作権法の保護がないと割 り切 るとその結果が妥当で はないような裁判例が報告 されている ( 「 空港設計図事件」4 ),「 国家試験課題 作品事件 」5) ,「 現金取立てプログラム事件 」6) ,「 歴史家原稿事件 」7) 等) 。先 に学術著作物の著作権保護可能性 について論 じたが 8 ),更にその究明を続 け たい。

3 )平成 にな って,次の判決が報告 されている。東京地裁平 2・6・ 1 3 判決 「 改訂薬理学 事件」判 時 1 366 号 11 5 頁,京都地裁平 2・ 11 ・ 28 判決 「 野川 グループ事件」無体集 22

3 号 797 頁,金沢地裁平 3・3・ 2 2 判決 「 能登原発海洋調査事件」判時 1 429 号 46 頁, 東京地裁平 3・5・ 22 判決 「 教科書朗読テープ事件」判時 1 421 号 1 1 3 真,東京高裁平

3・ 1 2・ 19 判決 「 法政大学懸賞論文事件」知的裁集 23

3 号 823 貢,東京地裁平 4・2

・ 25 判決 「 雑誌 『 諸君 !』事件」判時 1 446 号 81 頁,東京地裁平 4・7・ 2 4 判決 「医療 講演会事件」判時 1 4 48 号 1 67 頁,大阪地裁平 4・8・ 27 判決 「 静かな伯事件」判 時 1 4 4 4 号 1 3 4 頁,東京地裁平 4・ 1 2・ 1 6 判決 「中国の塩政史事件」判時 1 47 2 号 1 30 頁,最 判平 5・3・ 30 判決 「 智恵子抄事件」判 時 1 461

3 頁,東京地裁平 5・8・ 30 判決 「ウ ォール ・ス トリー ト・ジャーナル事件」( 判例集未登載)著作権判例百選 Ⅱ90 頁, 東京地裁平 6・2・ 1 8 判決 「日経産業新聞事件」判時 1 486

11 0 頁。

4)BGHZ 7 3 ,288( Urt . V .15 .1 2 .1 97 8 )Fl ug h af enpl ane;GRUR 1 979 ,464 . 拙論 ( 参考文献 1 0 ) 5 頁以下参照。

5)BGH ( Urt . V . 21 . l l . 1 9 80 )GRUR 1 98

1

,35 2,St aat s examensarbei t . 拙論 ( 参考文献 1 0 ) 9 頁以下参照。

6)BGH ( Urt . V .9.5.1 9 85 )GRUR 1 9 85 ,1 04

1

,I nkass o‑Programme .

訳 「コンピュータ ・プログラムに関す る ドイツ BGH の判決 ( 1 98 5 年 5 月 9 日判 決)‑ 現金取立てプログラム事件 一一一」工業所有権研究 36

4 号 ( 107 号) 1 991

6 月1 7 頁以下参照。

7)OLG Frankr urt ( Ur t .V .27 .8.1 9 8

1

) GRUR 19 90

,

1 2 4

,

Hi s t ori ke r‑

manuskri p t .後出Ⅱ. 3. 参照。

8 )拙論 ( 参考文献 1 0 ) 参照。

(4)

4 商 学 討 究 第 4 5 巻 第 3 号

.

ドイツ判例の補遺

1.鈴木真実子氏の論文 ( 「 弁護士訴訟書類事件 」 ) について

拙論で学術著作物 に関す る ドイツ BGH の判例 を紹介 した 9

) 。

拙論以後, 学術著作物 を論 じた もの に鈴木 真実子 氏の 「 弁護士文書 の著作権 とその制 限 」1 0) があ る。 ここで取扱 われている判例 は拙論で紹介 した中 に含 まれてい る 1 1 ) 。 弁護士訴訟書類 その ものの著作物性 を論 じた点が この論文の評価すべ き部分であると考え,又特に弁護士訴訟書類 より判決文に採用 された部分,あ るいは採用 されないで残 った部分などの取扱が問題 となろうが,それは報道の 自由乃至 は情報公開の問題 と関係 して来 よう

学術著作物を論 じているのは, 最後の 「6 おわ りに」の部分で学界に寄与す るところ大であると考え る。

まづ論文 中の気 にな る点を述べれば,「 Gemei ngut 」 は著作権の分野では

「 公有物」 とすべ きであろう

又弁護士訴訟書類が 「 文学著作物」 と 「 学術著 作物」のいずれであるか判別が困難であろ うとしている点 は,もっともであ り, 重要な指摘であるが,「 文学著作物」の概念の理解の程度 によ り感度 も異な っ て来よう。拙論 1 2 ) で も指摘 しておいたように,「 文学」 とい うのは ,l i t erary , Li t erat ur e であって,「 言語著作物」 と同義語 と考える立場があることを知 ら なければな らない。著作権法の保護範囲を決定す る 「 文学及び美術」の用語の

「 文学」はこれに相当す る。

だか ら高裁が文学著作物 と言 い,BGH が学術著作物 と言 って も,奇異 に感 ず る必要 はないのである

高裁 は実務的な文書を敢えて学術著作物 と言 う必要 がなか ったか ら学術著作物を含む広い概念 としての文学著作物を使用 したと考 え る 。BGH は,な るほど「 弁護士の訴訟書類 は原則 として学術的領域 ( 法学) に属 し文学の領域 に属 さない」と言 っている。この場合 の「 文学」 は狭義の 「 芸

9 )拙論 ( 参考文献1 0 )参照。

1 0 )鈴木 ( 参考文献 11 ) 26 頁以下参照。

ll

)BGH ( Ur t . Ⅴ .1 7 .4.1 9 86 ) GRUR 86 ,7 3 9 , Anwal t s s c hr i f t s at z . 拙論 ( 参 考文献1 0 )1 5 貢以下参照。

1 2 )拙論 ( 参考文献1 0 ) 4 貢注1 4 参照。

(5)

学術著作物の内容の保護について 5

術的言 語著作物」 に相 当す る。わが著作権法上 の 「 文芸」 に相 当 しよ う

BGH は文学 著作物 の中で特 に芸術 的言語 著作物 で はな く,小 さい コイ ン

( kl e i neMunz ) の著作物 と同様 に,学術著作物であ ることを強調 した もの である

これはもう気 になるところではないが,学術著作物の内容の著作権保護能力 について 「この間の事情 は, どうも理解 しに くい。 」 としている点 は,正 に, 本論で取扱お うとしているように,学術著作物 と芸術著作物 とを区別すべ き重 要な問題点を示唆 しているものであ って,その点がそれに続 く考察の中で暗示

されている。

フープマ ンも指摘 しているように , 「 著作権のママ子」扱 いされている 1 3 ) 学 術著作物 に対す る適切な保護を求めて,更に ドイツの文献を調査 され,その成 果を発表 され るよう期待 したい。

学術著作物の問題 としての 「 弁護士訴訟書類事件」の重要性 は,一連の判決 の内で比較的若 い判決であ って,それ以前の BGH の判決 による学術著作物 の諸原則を踏 まえて,更に一歩その核心 に迫 ろうとしている点である。従来の 判例ではその対象が学術著作物であることは強調 されていないのに対 して,学 術著作物 としての性質が薄い弁護士訴訟書類が学術著作物であることを強調 し

ている。著作物性の判断について,著作物の全体印象が重要 であるとした点が この判決の判示事項であるが,これは, 学術著作物の著作物性の判断において, 二つの規準が示 されているところに関係がある。一つは,わが国で も常に問題

となっている,資料の収集,選別及び配列に創作性乃至は個性が示 されるか ど うかの規準であるが, もう一つは,「 描 出され る学術的内容の思想形成 と思想 運用」 に創作性が示 され る場合であ る。判例が示 してい るよ うに,「 学術著作 物 においては,必要 とされ る精神的創作的内容 は,その特徴 と表現を第‑に措 出され る素材の収集,分類 および配列の形式 と方法 に見 出 し,ただちには又

‑ ほとん どの文学的著作物 におけるよ うに ‑ 描 出され る内容の思想形成

1 3 ) フープマン ( 参考文献 5)1 7 6 貢,フォン・モル トケ ( 参考文献 9)1 3 頁,ここで

は独著 1 条の著作物の三つの概念に対 して。拙論 ( 参考文献 1 0 )20 頁参照。

(6)

6 商 学 討 究 第 45 巻 第 3 号

および思想運用 には見出せない。 」 と述べた後, この 「 思想形成および思想運 用」の点に著作物性を見出す ことができるためには 「 具体的形成の精神的創作 的な全体の印象」によってのみ判定す ることがで きるとす るものである。それ だか らこそ, 1 2 2 貢のタイプライターによる書面の調査を要求 して下級審 に差 し戻 したのであ る。学術著作物 に対す る BGH の判断の経過 によれば,残 さ れた点 は,学術著作物において も,形式のみな らず,学術の発展のための討論 の自由を阻害 しない程度 において,学説や理論の思想その ものではな く,多少 ともその具体的な内容が ( BGH のいわゆる)「 括 出され る内容の思想形成 と 思想運用」 として創作性,個性等の著作物性を認定 されるかどうかという点に ある。

2. 「 現金取立てプログラム事件」1 4 )

拙論 1 5 ) で は この事件の要 旨を割愛 した。その理 由は この事件 の高裁判決 は 1 6 ) ,わが国の コンピュータ ・プログラムの著作物性を明 らかにす る立法運 動において,既に論議 され紹介 されていると思 ったか らである

しか しこの判 決を否定 した BGH の判決 は,残念 なが ら久 しく紹介 されなか った。そ こで 私 は,別途その全文を紹介す る機会を得た 1 7 )。 この判決 は, コンピュータ ・

プログラム及び学術著作物 に関す る重要判決であるが, コンピュータ業界か ら の風当た りが強いこともあったか,その後多少軌道修正する判決が出されてい る 1 8 )。 論者 としては,学術著作物の諸問題 を解決す ることが,アルゴ リズム や リバース ・エ ンジニア リングの問題を含むコンピュータ ・プログラムの諸問 題解決に資すると考えている。

1 4 ) 前掲注 6 参照。

1 5 ) 拙論 ( 参考文献 1 0 ) 参照。

1 6 )OLG Karl s ruhe( Urt . V . 9.2. 19 83 )GRUR 1 9 83 ,300 . 17 ) 拙訳前掲注 6 参照。

1 8 )BGH ( Ur t . V .4.1 0 .1 990 )GRUR 1 99

1

,449 ,Bet ri ebssyst em ;NJW 1 99

1,

He f t 1 9 ,S. 1 231 f f .;DB He f t( 1 5 .3. 1 99

1

)S. 587 f f .

(7)

学術著作物の内容 の保護 について ア

3. 「 歴史家原稿事件 」1 9 )

この事件 は,ハーバ ーシュ トウンプが,「 学術著作物の著作権保護 に関す る 思想」2 0 ) において紹介 し問題に したフランクフル ト高裁の判決によるもので, ある歴史家の 50 頁の原稿で長年の歴史研究によりナチ党貞によって偽装 された 第二次世界大戦前夜の独ポ国境での突発事件を記述 したものであった。原告 Ⅹ はその原稿か ら言葉通 り,殆 ど言葉通 り又は意味通 りに借用 した被告 Y の書物 が著作権侵害であると主張 した 。1 9 81 年の判決であるが,判決の登載 は 1 9 9 0 年であった 21 )。

存在する文書及び直接及び間接の証人の報告及び手記に基づいて大戦の開始 及び終結後の当該告知の展望に従 って偽装奇襲の計画 と準備,侵入区域ホ ッホ

リンデ ン及び ピッチェンにおける司令部の準備乃至は防衛措置及び偽装奇襲の 遂行を描出 し,そ してⅩはかの奇襲の犠牲者の尋問乃至は最後の追記所感にお いて国防軍 ( 1 9 3 5‑1 94 5 ) 及び親衛隊 ( SS‑Schut z s t af f e l )の権限乃至は国 防軍をできるだけ作戦行動に関与 させない努力を取扱 った。内容を具体的に示 した原稿を 1 96 6 年又 は 1 9 67 年 に ミュンヘ ンの現代史研究所に公表のため提 出 した。被告 Y は首席検事 として 1 9 6 8 年 グライウィッツ送信所 に対す る偽装奇 襲のナチ犯行者に対す る捜査手続を指揮 したとき,一般的にこのグライウィッ

ツの事件を もっぱ らついでに述べているⅩの原稿を見聞 した。Ⅹは Y の求めに 応 じて捜査行為のため原稿の複写を現代史研究所より寂 り寄せることを許可 し た 。1 97 9 年 ミュンヘ ンの リーメス出版 よ り 「タ ンネ ンベル グ作戦行動」 と題 す る書物が刊行 され, Y と H.L. の作 となっていた。 Ⅹの原稿 にあ るよ うな ホッホ リンデ ンの税関及び ピッチェンの営林署宿舎に対す る偽装奇襲が叙述 さ れていた。判決理由の要部を抽 出すると次の通 りである。

「 一般的に原稿は著作権法 2 条 1 項 1 号の意味における文書著作物である。

1 9 ) 前掲注 7 参照。

20 )ハーバーシュ トウンプ ( 参考文献 4)参照。

2 1 )ハーバーシュ トウンプが発掘 した判例 と言える。判決文は相当時間が経 ってか ら公

表 された ことになる。前掲注 7 参照。

(8)

♂ 商 学 討 究 第 45巻 第 3 号

しか し本件 に関す る限 り著作権保護 は基礎付 け られない, とい うのは著作権法 2 条 2 項 によれば この法律 の意味 における著作物 とは もっぱ ら個人的精神的創 作物であ るか らで ある。原審 ( LG) はⅩの個人 的精神的創作物 を彼が場所的 所与 と事件 を 自己の出典研究 と証人の尋問に基づ いて整理 して叙述 した ところ に認 めた。 しか しその限 りにおいてⅩの学術的研究の成果 と文書著作物 におけ る彼の知見の描出と形成 とは分離 さるべ きである ( 「 国家試験課題作品事件 」 ) 2 2 ) 。 学術的文書著作物 はつ ま りある限界 において何人 もア クセスで き ( BGHZ3 9 , 30 6 ,311‑GRUR 1 96 3 ,6 33 ‑計算尺) , そ してそれ故 に又著作権保護能力 がないか らである ( 前掲 「 国家試験課題作品事件 」) 0

著作権法上保護 され るのはむ しろ学説 の 自由によ り著作権法の制限が描 出及 び形成 に対 して も生 じない限 りにおいてその学説 を叙述す る具体的な形成 と描 出に限 られ る ( 前掲 「 国家試験課題作品事件 」) 。か くて問題 の学術的専門領域 において通常の表現方法 は原則的に保護能力あ る固有創作的特徴 ( 刻印)を欠 いてお り,学術上 の基礎か ら指示 され もしくは取扱われ る領域の問題 において 広範 に普及 している構成及 び描 出方法 はそれ故 に独創的な精神的給付 とは見な

されない ( 前掲 「 国家試験課題作品事件 」) 0

それ故 に本件 においてⅩの研究成果及 び これを編集 した出典資料それ 自体 は 著作権法上保護 されない。それ は Y がその書物を作成す る際に自由に利用す る ことがで きる,た とえ正 に長年の研究作業 にⅩの精神的給付の重点があるとし て もである。 これ に対 し原稿 にあ る研究成果の描 出と形成 は独創的な精神的給 付 とは認 め られない。その原稿 はその構成 において主 と して もっぱ ら歴史上の 出来事の時間的経過 に従 ってお り, これを客観的に事実 に則 した言葉で再現 し てあ る。その時間的経過の順序 に従 って歴史的出来事を客観的に叙述す ること は,歴史 に関す る文書著作物 において学術上の理 由か ら指示 され るものである が,少 な くとも歴史学の領域 においては広 く一般化 された ものである 。 ・・・」

裁判所 は原告の研究の成果 と文書著作物 における彼の知識の叙述 と形式 を厳

22 )前掲注 5 参照。

(9)

学術著作物 の内容 の保護 について 9

密に区別 し,学説は自由であるか ら,著作権法上保護されるのは,その学説を 叙述する具体的形式 と描出のみであるとし, この前提に立 って当該歴史家の原 稿 は個人的精神的創作物 とは見なされないと結論 した。というのは長年の研究 調査によって収集された原告の精神的給付の核心をなすその研究成果は著作物 の学術的内容 として自由であり,一方描出の形式は原稿が客観的に且つ事実通 りの言葉で歴史的事件をその時間的な経過に従 って再現 しているか ら個性を有 しないか らとした。 この判断が正 しいとすれば重大な問題を含んでいることに なる。数学や論理学の重大な命題の新 しい証明を含む論文のみならず,歴史学 や社会学の論文に至までそのまま自由に複製 してもよいというようなことにな

るか らである。

Ⅲ. フープマンの教科書 に見る学術著作物の著作権 に関する学説の推移

著作物 は個性であると述べ るのは,ウルマ‑である 23 )。 それ以前の学説 2 4 ) においては,著作物における形式 と内容を区別 し,形式に独創性のあることが 著作権保護の要件 とされたが,ウルマ‑は外面的形式,内面的形式及び内容の 何れを問わず,そこに著作者の個性が認められれば著作権保護を認めるべきも のとした。すなわち著作物の著作権保護可能性を判断する場合には著作物に刻 印された個性 と公有物 とを区別するべきであるとされる。そ して内容に個性が 認め られて著作権保護可能性を認め られ るものとして,詩人の発見 した物語, 探偵小説の筋が挙げ られ,その考え方に従 った判例 として 「アル ト・‑イデル ベル ヒ事件」が挙げられている 2 5 )0

23 )Ul mer,Ur heber‑ undVer l agsr echt , 1 95

1

, S. 7 6;2. Auf l .1 960 ,S. 1 08;

3. Auf l . 1 980 ,S. 1 22 .

24 )Kohl e r, Urhe berrechtanSchri f t we rke nundVer l ags recht, St ut t gar t1 907 , S. 12 8;deBoor, Urhe ber‑ undVerl ags recht , St ut t gart , 1917 ,S. 73 ,76;

Al l f el d, LUG ぎ1 Anm.9.

25 )KG GRUR 1 9 26 S.44 1 f f . , Al t‑Hei del ber g‑dung‑He i del berg;BGH

の判例 として は「ガスバ ローネ事件」( BGH( Urt . V . 30 .1. 1 959 )GRUR 1 9 59 ,

379 ,Gasparone )が指摘 される。

(10)

10 45 巻 第 3 号

ウルマ‑は内容における個性が芸術著作物にのみ認め られ,学術著作物にお いては認め られないというような区別を していない 2 6 )0

これに対 してフープマ ンは学術上の知識,理論,学説 は自由であるとする際 に 「もちろん学術的内容 はそれ 自体 自由のままでなければな らない 。 」2 7 ) とし た。 しか しこれは初版ではそのようにはなっていない 2 8 ) 。「 学術著作物 はすで にこの素材に捧げ られ且つ描出において表現される特別の給付のために保護能 力がある。 」 と。また第 2 版 2 9 ) には 「これに対 し トロツラー 『 無体財産権法』

1 巻 1959 年 3 0 ) 364 頁以下 は,学術的給付によってではな く,その形式付与のみ によ り,著作権能力 あ りとす る。 」 とい う文章が加 わ っている。 これが第 6 版 3 1 )になると上のよ うに変わ っている。それは トロツラーの説 に従 っている

ことが判 る。「トロッラー『 無体財産権法 』1 巻, 3 版, 1 983 年 3 2 ) 354 頁以下) 」 が続いてお り,又その次 に次の文章が続 く, 「 BGH は学術著作物 に対 し,創 作的な描出方法のみの保護を保証する, これはもちろん又素材の収集,分類及 び配列にある給付によって も著作権能力があ りうる ( BGH GRUR 1979 年 4 64 頁 「 空港設計図事件 」3 3 ) ; 同 1980 年 230 貢 「モヌメンタ ・ゲルマニアエ ・ヒ ス トリカ事件 」3 4 ) ; 同 1981 年 352 頁 「 国家試験課題作品事件 」3 5 ) ; 同 1 981 年 520

26 ) しか し公有物 に対す る見解 において 「 学術著作物 においては,文学的公有物の範囲 が拡大す る。 」 とし, 自然又 は歴史 的事実ばか りでな く,著作物 に含 まれ る思想及 び学説 は,その意 味内容 において 自由で あ考としてお り (ウルマ‑,前掲注 23 , 1 21 頁参照。 ), これ に対 してエム ・アルテ ンポールは,公有物 と著作権法上の制限 とを見誤 っていると批判す る ( アルテ ンポール ( 参考文献 1)9 2 頁以下参照) 0 27 )H. Hubmann, Urhebe r‑ undVe rl ags re cht ,6.Auf l . 1 9 87 ,S. 38 . 2 8 )de r s., Urhe be r‑ undVe rl ags r ec ht , 1 9 59 ,S. 3 3 .

29 )A. a.0.2.Au f l . 1 9 6 6 ,S. 35 .

30 )Tr ol l e r, I mmat er i al gt i t e rr ec ht I , 1 95 9 . 3 1 )前掲注 27 参照。

3 2 )Trol l e r, I mmat er i al gt i t e rr ec hti.3.Auf l ‥ 1 9 8 3 . 33 )前掲注 4 ,拙論 ( 参考文献 1 0 ) 5 頁以下参照。

3 4 )BGH ( Ur t . Ⅴ. 7.1 2 .1 97 9 )GRUR 1 9 80 ,227

,

Monume nt aGe rmani ae Hi s t or i ka. 拙論 ( 参考文献 1 0 ) 6 頁以下参照。

35 ) 前掲注 5 ,拙論 ( 参考文献 1 0 ) 9 頁以下参照。

36 )BGH ( Ur t . V . 27 . 2.1 9 8 1 )GRUR 1 9 8 1 ,5 2 0 ,Frage nsamml ung. 拙論

( 参考文献 1 0 )1 1 貢参照。

(11)

学術著作物の内容の保護について ll

頁 「医学教科書問題集事件 」3 6 ) ; 同 1 9 8 4 年 6 5 9 貢 「 パ イプライ ン建設公募資料 事件 」3 7 ) ; ZUM 1 9 8 6 年 5 3 9 貢, 5 41 貢 「 弁護士訴訟書類事件 」)3 8 )。 プラ ン ダ‑ ( UFI TA 7 6 巻 ( 1 9 7 9 年) ,2 5 貢 3 9 ) ,同様の主 旨‑‑バーシュ トウンプ

「 学術的言語著作物の個性について 」1 9 8 2 年) 4 0 ) によれば著作権能力は又内容 の個性か らも生ず る ;個性的内容においては形式の個性はもはや問題にはな ら ない。 」 第 7版 によれば,フープマ ンは没 し,その改版権が レ‑ ビンダーに移 って いることが判 る。 この箇所 は,その際討論が有 ったと思われる。以下のように なっている 4 1 ) 0

「 学術著作物 はすでにこの学術的内容の描出において表現される特別の給付 のために保護 に値す る。その上一般に又外面的形式,様式及び言語において著 作権保護のためすでに十分な個性的特徴を含む. しか し形式付与 は取扱われる 対象か ら決定 されることがあり得 る。 この場合に内容に捧げ られる個性的給付 が保護能力の判断において考慮 されねばな らない (§5Ⅲ 3 参照) 。その際創 作的給付 は又個性的に形成 され る研究労作の内容に もある

不当に も BGH は学術著作物に対 し創作的な描出方法のみの保護を保証す る, これはもちろん 又素材 の収集,分類及 び配列 にあ る給付 によ って も著作権能力が あ り得 る ( BGH GRUR 1 9 7 9 年 4 6 4 頁 「 空港設計図事件」 ;同 1 9 8 0 年 2 3 0 貢 「 モ ヌメ ンタ ・ゲルマニアエ ・ヒス トリカ事件」 ;同 1 9 8 1 年 3 5 2 貢 「 国家試験課題作品 事件」 ;同 1 9 8 1 年 5 2 0 貢 「医学教科書問題集事件」 ;同 1 9 8 4 年 6 5 9 頁 「 パイプ ライ ン建設公募資料事件」 ; ZUM 1 9 8 6 年 5 3 9 頁 ,5 4 1 貢 「 弁護士訴訟書類事 件 」 ) 。この今 日なお通説である,学術的知識の 自由の教義か ら出発す る説 (ト

ロツラー 『 無体財産権法』 1 巻, 3 版, 1 9 8 3 年 3 5 4 頁以下及 び前版 3 8 頁参照) は著作権法に何 らの支えを持たない。 」

3 7 )BGH ( Ur t . Ⅴ . 2 9 .3. 1 9 8 4 )GRUR 1 9 8 4 ,6 5 9

,

Aus s c hr e i bungs unt e r l age n .

拙論 ( 参考文献 1 0 )1 3 頁以下参照。

3 8 ) 前掲注 1 1 ,拙論 ( 参考文献 1 0 )1 5 頁以下,鈴木 ( 参考文献 1 1 )参照。

3 9 ) ブランダー ( 参考文献 8 )参照。

4 0 ) ‑‑バーシュ トウンプ ( 参考文献 3 )参照。

4 1 )Hubma nn/Le hbi nde r ,Ur he be r ‑undVe r l ags r e c hも 7 .Auf l . 1 9 9 1 ,S. 2 9 .

(12)

1 2 45 3

それに続 く文章 は,アルテ ンポ‑ルの文献 4 2 ) に基づ いて, ドイツ著作権法 が学術著作物に特別な取扱を していないか ら,内容の個性による著作権保護を 学術著作物にも認めるべ きことを述べている。教科書 6 章 「 著作物 と給付」の 中において, 1 版, 2 版, 6 版, 7 版を比較す ると ( 3 乃至 5 版を参照できな いのを遺憾 とす る), 4 行, 6 行 ,2 4 行 ,4 0 行 と改版の度 に追加 されて量が多 くなっていることが判 る。 しか し初版にあった文章 はそのまま残 っており,塞 本的な考え方 は変わ っていないと思われる。 「 創作的精神の法 4 3 ) 」 が 1 9 5 4 年,

「 観念の法的保護 4 4 ) 」 は 1 9 5 7 年に公表 され,教科書の初版 は 1 9 5 9 年である。

フープマンは,学術的内容は自由であ り,個性がある学術的給付は保護すべ きであるということを固執 しているのに対 して, レ‑ ビンダーが改版 した際に は,学術的知識の自由は通説であるが古い教義だとし,観念 も保護されるけれ ども,それは文芸,学術,美術の何れを問わず,客観的に認識可能な観念内容

( 表象内容) として具体化 されている場合に限るとしている。

Ⅳ.学術著作物の内容の保護

1.学術著作物では内容は保護 されないという説

著作権法の原則 として著作物の構成要素である形式 と内容の うち形式を保護 す るという考え方が基本的に存在する。一方翻訳の場合 に外面的形式 は異なる が,翻訳文 と原文の間にある共通な部分 は内容ではな く,形式であってこれを 内面的形式 として保護 しなければな らないことになっている。演劇や映画の場 合に,内面的形式による保護がある。

ところが,内面的形式 も侵害 していないような場合に侵害 とされるべ き事例 が現れた。そ して学説において も,詩人が案出 した物語,探偵小説の筋等 は, 内容に著作者の個性が現れた場合であるとして,著作権法上保護すべ き特徴 と

4 2 ) アルテ ンポール ( 参考文献 1 )参照。

4 3 ) フープマ ン ( 参考文献 7 )参照。

44 ) フープマ ン ( 参考文献 6)参照。

(13)

学術著作物の内容の保護 につ いて 13

いうのは著作物に示 された著作者の個性であるが, この個性は形式 ( 外面的形 式あるい は内面的形式)ばか りでな く内容 にも示 される。従 って形式 と内容の 区別 というものは重要ではな く,著作者の個性が著作物に示 されているか,早 なる公有物かの区別をすることが重要であるとい う強力な説が生 じた0

しか しこれに対 して学術著作物においては,内容に個性が現れ る筈がないか ら,形式のみに保護が与え られ,内容である学術上の理論,学説,知識 は保護 されないという主張が強い 4 5 )0

フープマ ンは 「 観念の法的保護 」4 6 ) の中で学術上の理論,学説,知識が著作 権法上保護 されないことを論証 している。 「 学術 は真理に身を捧げるが,与え られた対象に相応す るもののみが真実である。一般に人間の想像力に相応する 学術的理論 も存在す る。想像力はなるほど真理ではないが,それ故に無条件に 価値を喪失す ることはない。ほとん どの学術的理論 は先所与的観念の隠遁 と人 間精神の不十分 さに従 い想像力 と真理の混合物を含む。その真理 は自由であ り,想像力が産出す るものはこれに対 してそれ自体その創作者に属す る,それ にもかかわ らず何 ら法的保護を要求 し得ない。正 しさの領域においては,か く

して保護に値する創造者の尊厳はない,学術の帰依者は発見者の栄誉に限 られ る。」既 に彼 は 「 創造的精神の法 」4 7 ) の中で こうも述べている。 「 学術上 の理 論や学説 は,一般にその排他権を個人に付与するという形で保護 されることは ない,蓋 し発見 されたもの,真なるものは,個々人に留保することはで きず, 真理 と想像力の区別は往々に して不可能である。常に学術上の論争 に対 して裁 判所が判断を下す ことはで きない。それ故に新学説,発見及び理論に潜入する 個人的給付 は, 著作権 とは別の方法で保護すべ きである。 著作権法上の権限は, 学術著作物においては,実際には内面的形式,すなわち思考過程,論証,構成 等あるいは外面的形式,すなわち一般に言語的衣装 に限定 されている。それに

45 )前掲注24 参照。

4 6 )フープマン ( 参考文献 6) 8 貢o学術著作物の内容の保護の擁護者は,一様にこの 文章を引用 してその批判を開始 している。ブラ ンダー( 参考文献 8) 35 頁以下,ハー バーシュ トウンプ ( 参考文献 3)6 3 貢,フォン ・モル トケ ( 参考文献 9)6 3 貢。

47 ) フープマン ( 参考文献 7)1 0 3 貢,拙訳書 1 83 頁参照。

(14)

14 商 学 討 究 第 45 巻 第 3 号

反 して芸術の領域 においては個人的内容,芸術的体験,詩人の物語,音楽的着 想 も著作権に服す る。その領域 においては内容における個性 は直ちに一般源泉 か ら受けるもの と区別される。」

2. 学術著作物の内容を保護 しない理由付けとその反論

・掌術著作物においては,著作権保護の要件を調査す る場合,その内容 は考慮 す る必要がない,すなわち学術的内容である学説は自由であって誰にもアクセ ス可能でなければな らないとされ る。

この原則を正当な らしめる理由として次の三つの点が挙げ られている 4 8 ) 。 ( 1) 技術的所有権 ( 特許権等) との限界付けか ら導かれる。

( 2 ) 学術的内容 は先所与的である。

( 3) 学術的進歩のため学術的思想財を個人に独 占させてはな らない。

第一の点に付いては,著作権によって学術的思想,すなわち自然法則 に関す る理論を保護す ると,それ と同 じものを対象 としている技術的所有権制度 と抵 触す ることにな る。 色別 による「 万年 カ レンダー 」4 9 ) に著作権保護を与え ると, 特許権乃至は実用新案権で保護す る必要がな くなる。前者は何 らの方式を必要

としないのに死後 5 0 年の保護が与え られ るのに対 して,特許権の保護を得 るた めには,( 1 ) 出願まで秘密を保持す ること ,( 2) 出願 して審査を受 けること ,( 3) 保 護期間はせいぜい出願か ら 20 年である, というような厳 しい条件が付いている か らである。 これに対 してフォン ・モル トケは,権利の効力の点で,特許が技 術的思想の実施を保護 しているのに対 し,著作権は複製その他無形利用に対す る保護で あ って抵触 せず,おのずか ら対象 を異 に してい ると見 る 5 0 )。 ‑ ‑ バーシュ トウンプもお菓子の作 り方を書いた本 と,その作 り方 によってお菓子 を作 ること或いは作 られたお菓子 とを例 に して説明 している 5 1 )0

48 ) フォン ・モル トケ ( 参考文献 9)59 貢以下,ハーバー シュ トウンプ ( 参考文献 3) 6 3 貢以下,ブラ ンダー ( 参考文献 8)35 貢以下参照。

49 ) 大阪地裁昭 59・1・ 26 判決,無体集 1 6

1 号1 3 頁,判時 1 10 2 号1 3 2 頁。

50 ) フォン ・モル トケ ( 参考文献 9) 61 頁以下参照。

5 1 )ハーバー シュ トウンプ ( 参考文献 3)73 責参照。

(15)

学術著作物の 内容 の保護 につ いて 15

次 に学術的内容の先所与性, すなわち, 学術的研究者 は, 既 に存在す る真理, 自然法則を発見す るに過 ぎないわけであるか ら,内容に対 して個性を主張でき る訳がないとす るフープマ ンの主張 は,反駁す ることの困難 な一面を もってい る。 しか しこのよ うな主張 に従 ってな された と考え られ るフラ ンクフル ト高 裁 5 2 ) の歴史家の 5 0 頁の原稿 内容が 自由に利用で きるとす る判断に遭遇す ると, 確信 は崩れて釆 ざるを得ない。

彪大な数の学者 は,莫大な時間を費や して この真理の発見のために格闘 して いるに もかかわ らず,そこで得 られた結論 とその結論を正当な らしめる証明の 論述 に研究者 の個性 がない と決めっ けて よいのであろ うか。上記 したよ うに フープマ ンによれば,主張や論証か ら示 され る真理 は,先所与的であ り, これ を個人 は独 占で きない。又真理でないものは,価値がないか ら保護す る必要が ないとす るのである。‑‑バーシュ トウンプやフォン ・モル トケは,哲学者の 回想録などを引用 して学術的理論の発見が何如 に創作性 に満 ちた ものであるか を論証 している 5 3 ) 。

フープマ ンの論証 も完全 に否定す ることはできないが,それは哲学的信念の 問題 になって来 るところがあ り,従 って別の信念か ら研究成果 には創作力が寄

5 2 ) 前掲注 7 ,前出 Ⅲ.3.(7 頁以下)参照。

5 3 ) ハ ーバ ー シ ュ トウ ンプ は, 主 と して ク ッチ ェラの 「 言語 哲 学」 ( Franzvon

Kut schera, Sprac hphi l osophi e ,2. Auf l .Munche n 1 97 5 . ) やヘ ンベルの 「自

然科学 の哲学」( KarlG.Hempel ,Phi l osophi ede rNat urwi ssens chaf t en ,

Munchen 1 97 4 . 英語訳か らの訳書,カール ・G ・ヘ ンベル著/黒崎宏訳 「自然

科学の哲学」( 哲学の世界 7 )培風館昭和 42 年刊 〔 2 3 頁 「 科学 における仮説や理論

は,観察 された事実か ら導かれるのではな く,観察 された事実を説明す るために発

明され るのである 。」 〕) を参照 して, 又 フォン ・モル トケは主 として,ポパーの 「 研究

の論 理 学」 ( Kar lR.Popper, Los i k de r Forchung,7.Au f l . Tubi nge n

1 9 82 . 英語訳か らの訳書,カール ・R ・ポパー著/大内義一 ・森博共訳 「 科学的

発見の論理」( 上)( 下)恒星社厚生閣 1 971 /1 972 年刊 〔 ( 下) 562 頁 ( アイ ンシュタ

イ ンのポパー‑の書簡) 「( あなた と同様に)理論 は観察結果の積み上げによって出

来上が るものではな く,われわれによって発明 されるものだ と思います 。」 ) に従 っ

た認識論 的観 察 と, ケ ス トラーの 「 天才」 ( Art hurXoes t l er ,Derg6t t l i che

Funke,Der s chopf e‑ r i s che Akt i n Kuns t und Wi s senschaf t ,Be rn ,

Munchen, Wi en 1 9 66 . ) に従 った創作過程の心理学 によって フープマ ンの先所

与性の理論を反駁 している。フォン ・モル トケ ( 参考文献 9) 6 5 頁以下参照。

(16)

16 商 学 討 究 第 45 巻 第 3 号

与 していると考えることも出来そ うである

思 うに,新たな理論を発見 した者 は,有頂天 になって この理論を是が非で も早 く皆の前に公表 しようとす るであ ろう。そうするとその表現には無意識の うちに自己の個性が示 されて来 るであ ろう

そ してその時は,その表現がある意味で絶対的な ものであった。 しか し 別の個性の人 々が色 々論議 して行 くにつれて,その新理論が客観的に理解 さ れ,その理論の核心的な ものが次第に明 らかにされるて くる。先所与性 は後か ら論議することによって次第に明 らかにされて来 ることであって,その論議の 総てはそれぞれ人の創作活動 とすべきであろう

その中で認識 は不完全であっ て も,新理論を発見 した ことの価値の故 に,それを表現 した論文が一つのモ ニュメン トとしての価値を持っ部分がある。そのような もの も法的保護のなか で考慮 していかなければな らないのではないか と思 う5 4 ) 0

第三に,学術研究の成果である学術上の学説,理論乃至は知識 は,学術の発 展のため討論の対象 とされなければな らないので,その理論の発見者に独 占さ せるわけには行かないという理 由が挙げ られる。 この点 については誰 も否定 し ていない。それだか らと言 って学術著作物の保護要件を調べる場合に,その内 容は一切判断の対象にすべ きではないという主張は妥当ではないというのが, 学術著作物 を特 に研究対象 とす る者 ( ブラ ンダー 5 5 ) ,ハ ーバ ー シュ トウ ン

プ 56 ) , フォン ・モル トケ 5 7 ) 等)の意見である。内面的形式 とい うものを考え

5 4 ) この点 は発明の特許権の範囲 ( 特許請求権の範囲)の解釈で も問題 にな るところで あ る。パイオニア発明はその応用性の認識が不完全であるため,権利範囲の表現が 不十分で権利範囲が狭いが,後続の改良発明の際表現が網羅的でかえ って広 く強い 権利を取得す る傾 向がある。法解釈でその調整がなされている場合 もある。発明は 思想であ り,著作物 は表現であ ると言 って も,そ こにもやは り程度問題があ り,そ の限界の部分 は不明なとろがあ り,時間の経過 と共 に変化せ ざるをえない。例えば 科学者 A の理論 P が先所与的であるとして,その理論 P が科学者 B の新 しい理論 Q によって誤 りであることが証明 された ときは,理論 Q が先所与的であ ったことにな るのだろうが,理論 P はその時点で どうな って しまうのだろ うか。だか ら先所与性 な るもの も畢寛時代 において相対的な もの と考え るべ きで,そ うすれば個性的な学 術的給付の役割 と価値が認め られなければな らないことが判 る。個性 は学術では消 極的意味を持つに過 ぎないとされて もそれでよい訳である。

55 ) ブランダー ( 参考文献 8) 参照。

56 )‑ーバーシュ トウンプ ( 参考文献 3 , 4)参照。

5 7 ) フォン ・モル トケ ( 参考文献 9 )参照。

(17)

学術著作物 の内容 の保護 につ いて 17

ているところに,既に内容尉酌の必要性が潜んでおり,又 この内面的形式 と内 容の区別,分離 も困難であるとされていればなおさらである。フープマ ンは, 学術著作物の内容,すなわち学説,理論,知識に,著作物性を認めない代わ り に,学術的給付は保護 されなければな らないとしているの も, これ らの方向に ある考え方であるように思 う 5 8 )0

学術的内容の保護 はむ しろ学術的討論を妨げるよりも促進す るという意見が ある。保護の保証があると,安心、 Lで情報を公開 しようとし,特許権を得 るよ うな経済的利用の見込みのある情報が著作権で保護されれば,優先権の証明に 都合がよい 5 9

)。

3. 学術著作物における内容の重要性

学術著作物の内容は,著作権法上保護 されないというのが通説である。 しか し学術に奉仕する研究者 は,従来の認識には間違 ったところ,未だ気が付いて いないところがあるが,長年の研究の結果,新 しい理論,従来の理論を訂正す る説を論証できたとして,論文を発表す るのである。その研究者 にとって最 も 自分に帰すべ きものは,論文の表現ではな くて結果 としての新学説である。 こ の新学説が学術著作物の内容である。 この新学説 は重要性があればあるはど論 議の的になる。勿論論証は相当に長い文章 になる

論証を含む新学説 は,形式 的な面で著作権保護を受けるが,他の研究者はその論証を別の表現で叙述する

こともできる。

表現形式 は,学術著作物ではもっぱ ら目的に奉仕 してお り,表現 自体が 目的 であることはない。学術著作物は様々な種類の言語行為を含む 日常用語 とは異 な り,真理の論証のための明瞭性,正確性を必要 とする。 「 体系的,基礎的及 び問主観的に調査可能な知識に達するための学術的目標設定は,その際明解,

58 )フープマ ン ( 参考文献 5)1 86 貢以下,同 ( 参考文献 6)1 4 貢,同 ( 参考文献 7)

2 2 頁,拙訳書 3 7 頁以下参照。

59 )フォン ・モル トケ ( 参考文献 9)84 頁以下,バイヤー/ シュ トラウス ( 前掲注 1 参

照) 6 2 頁以下参照。

(18)

J g 45 3号

明瞭性,正確性,明白性等の概念によって輪郭付けられる有用な言語手段に対 す る特別の要請を行 う。 」 6 0) そ こで勢い表現の使用が規則化 され個性が表現に 示 される余地が無 くなるとされる 6 1 )0

学術的言語著作物 と芸術的言語著作物 はどのように区別 されるか。 「 学術的 言語著作物においては,言明文又は主張文の類型が支配的である。何々はその 場合であることを確認 し,一定の事態が生ずる条件を定め,報告を し,情戟を 与え,ある事を記述す る等のために用い られ る 。 」6 2 ) 芸術的言語著作物 におい ては,事実的基礎の上に構築されるが,その事実が真実であることを報告 した り証明することが 目的でな く,む しろ事実を変形 して意図する審美的効果を狙 う。 学術的言語著作物においては, 表現の選択 とその経過が重要な役割を演 じ, 変更を許さない傾向にある

学術著作物 は同一内容の ものを別の形式を使用 して表現するというような事 を目標にしてはいな い。 非常に錯綜 した内容の理論を平易に且つ明解に表す こ

とが学術的言語著作物の目的であり,形式乃至は表現 ということに力点を置け ば,個性を捨象す る方向に努力す る事が学術著作物の目標であるということに なる。内容は保護 されず,形式において も,表現の選択の余地のないまでに絶 対的な表現を追求す ることが目的であるとすると,著作権法上は保護 されない ものになって くる。内容 も形式 もそれ程優れていない,理解困難で表現の特殊 な,その点では個性的なものが,かえって著作権法上は保護され,学術上専門 的に優れた文章は自由利用されやすいという皮肉な結果 となる。従 って著作権 法において特に学術著作物にとって価値のあるのは内容であって,この内容の 利用を,討論の自由を保障する条件の範囲内において,著作者の利益のために 保護することを考えるべきである。

学術的内容の自由を強調 したフープマ ンも次のように言 っている。 「 著作権 能力は形式付与に表現される創作的給付によってのみ理由づけられ るとす る

60 )ハーバーシュ トウンプ ( 参考文献 3) 2 貢参照。

6 1 )ハーバーシュ トウンプ ( 参考文献 3) 4 貢参照。

6 2)‑‑バーシュ トウンプ ( 参考文献 3)23 頁,フォン ・モル トケ ( 参考文献 9)26 貢

参照。

(19)

学術著作物 の内容 の保護 につ いて 1 9

BGH の意見には満足で きない。 これによると学術的領域における保護能力 は 学術著作物にとって副次的な事情に関係付け られる。学術にとって最 も重要な ことは,内容,研究の成果であ り,それが公衆に提示 される形式ではない。な るほど学術的内容は自由であり,何人 もアクセスできなければな らないが,そ れ故になお内容に奉仕す る,学術的給付,研究活動 は研究成果が公表 される著 作物の著作権能力の判断において共 に考慮することがで き又考慮すべ きであ

る 。 」6 3 )

4. 学術著作物における形式 と内容の分離可能性

造形美術,すなわちわが国で美術 と言 っている狭義の美術では,形式 と内容 はほとんど分離で きない。原作品その ものが著作物であって,複製物 は補助的 手段 に過 ぎない。 「ほとんど」 と言 ったのは原作品の場合 もその支持物である 画布や紙,絵具それ自体ではな く,表現であって,複製物にもその著作物がほ とんど同一の状態で表現 されていることになるか らである。 しか し美術的観賞 においては原作品の観賞 と複製物のそれ とは明瞭に区別 されている。音楽につ いては,従来は楽譜が著作物 とされ,演奏家によってその演奏に相違が出て く るとすれば,それ らすべてに共通す るところの ものを もって著作物 と見ていた ということになる。 しか しそもそも作曲者の美観なるものは,音の表現を離れ てイメージされない。む しろ音楽では美術よりも内容 と形式は不可分であると 言える。 これに対 し,言語著作物 は内容 と形式 は比較的分離可能 とされる。元 来言語の持 っている特徴,抽象化,象徴性の特徴 によるものと考え られる。小 説や映画は,言語の著作物 としての側面 においては,その代替物が成立する。

同一のシナ リオを用いる二つの映画が一方で同一 と見 られなが ら, リメイクと い うように呼ばれたりもして,異なる作品として認め られている。又興行成績 のよい作品には,同一性あるいは相似 性のあるキャラクターや事件を使 って再 登場する, この時はシナ リオ も異なっている。源氏物語 にはい くつ もの現代訳

63 ) フープマ ン ( 参考文献 5)1 86 頁参照。

(20)

20 商 学 討 究 第 45巻 第 3号

が存在 し,訳者,解釈者の個性が現れるものと考え られている。 しか し広 く芸 術 と言われるも、 のについては,形式であるところの表現にその価値があるもの

とされ,その表現に美観 ( 内容)が関連 している。

これに対 して学術著作物 においては,更に分離可能性が高いと言える 6 4 )0

学術著作物の重要な機能は意味内容を客観的に表現 し理解 させ ることである。

最善の表現は最 も平明な文章で著者の個性 は示 しに くい。一方学術上の理論を 外面的形式を変えて表現す ることは容易である。その理論を十分に理解 した人 は,例を挙げて分か りやす く説明す ると,別の価値のある表現 となる。又十分 に理解 していない人がその理論を自分な りに表現す ると,益々理解できない誤 りを露呈す るような文章 となって くる。 これは理論その ものと表現すなわち内 容 と形式が学術著作物ではいかに分離可能であるかの例証 となろう。

この分離可能性が,実は侵害の容易性につなが り,法的手段を もって保護す ることを必要 とするのである。印刷術の発明によって著作権法が成立 した時代 には,文書 ( 比較的分離可能性の高い言語著作物に関係す る)のみが保護の対 象であった。美術や音楽が保護の対象になったのは,その後写真術や レコー ド の発明により分離可能性が増加 したか らである。

5. 学術著作物における著作者人格権保護の重要性

学術著作物の内容が重要であると言 って も,即 これに著作権を認め,学説を 叙述する全ての文章をその学説の唱導者の独占に帰 し,その者の許可な しには その文章が使えないと言 うことは誰が見て も不当であろう

学術上の討論の自 由の重要性か ら来 るものであ り,科学的所有権 6 5) とい う考え方が未だに稔 っ ていないの もそのためであろう 。 従 って著作物の経済的な利用を保護す る著作 権については,外面的形式あるいは内面的形式に著作者の個性の示された もの

64) フープマン/ レ‑ ビング‑ ( 前掲注4

1

)26 頁,フォン ・モル トケ ( 参考文献 9)51 頁以下参照。形式 と内容の区別 は不要であるとい うハ ーバー シュ トウンプの主張

( 参考文献 3 の56 頁以下)をフォン ・モル トケは批判 している ( 参考文献 9 の 50 貢 参照) 0

65)前掲注 1 参照。

(21)

学術 著作物 の 内容 の保護 につ いて 2 1

でなければな らないとされる。 これによって通常の盗作の外,広告文への学術 論文の引用等が防止 されるであろう

これに対 し, 自由討論に委ね られる新理 論 も,他人がその者の自説のように利用す ることまで も甘受 しなければな らな い言われはない。学術著作物の内容を保護する必要性の根拠の一つになる。

著作者人格権 としてわが国著作権法 は,公表権及び同一性保持権 と共に氏名 表示権を認めるが,国によってはこの氏名表示権の外に, これ と共に著作者資 格の確認請求権を認める 6 6 )。 氏名表示権を類推的に解釈 して これを認め るこ とも考え られるが,新学説を保護す るためには, この権利の法的確認が望まし い。

新学説を唱えたことに対す る名誉は,直接著作物か らの経済的な収益 とはな らないに して も,学界における名誉,職業上の業績による昇進,昇給につなが れば間接的には経済的利得 になるところか ら重要である。

V. わが国判例の検討

昨今学術論文の紛争 に関す る報告が多 く,判例 も多 くなっている。その中の 多 くの ものは,形式に関する侵害で普通の ものである。本論で特に取扱お うと す る著作物の内容に関する判例を中心 に以下に紹介す る。

1 . 「 発光ダイオー ド論文事件 」6 7 )

原告 Ⅹは,被告 Y l会社の研究所 においてカ ドミウムテルライ ド ( CdTe) とマグネシウムテルライ ド ( MgTe ) の混晶カ ドマテ ライ ト ( CdTe‑MgTe)

66 ) ドイツ法1 3 条 1 文,アメ リカ法1 06A 条 1 項,中国法1 0 条 2 号 ( 氏名表示権の中に いわゆ る氏名表示権の外 に著作者の身分を表明す る権利を明記す る,拙論 「中華人 民共和国著作権法の特色」小樽商科大学 商学討究4 2

2・3 号 1 991 年20 頁参照) , オース トリア法 1 9 条 ( 氏名表示権 は20 条で規定す る) ,スイス法 9 条 1 項 ( 氏名表 示権の方 は公表権 と共 に規定 している) , ロシャ連邦法1 5 条 1 項 ( 氏名表示権 の前 に r i ghtofaut hors hi p を列記す る)参照。 この権利 につ いてはエ ンゲル ( 参考 文献 2 )で詳細 に論ぜ られている。

67 )

大阪地裁 昭

5 4・9・ 25 判決,判 夕39 7 号 1 5 2 頁。

(22)

2 2 第45巻 第 3号

の合成実験を開始 し,それが光半導体の材料 として優秀な性質を有することを 発見 した。そこで Y l会社においてⅩ及び被告 Y 2 を含む研究グル」プが作 ら れ,Ⅹ, Y2 は光半導体材料の共同研究をす る中でそれぞれ単独又は共同で研 究報告書の作成や研究発表を行い,又特許権の取得を行 った。 Y 2 は T 大学 に 学位論文 「 CdTe と MgTe の混晶による発光 ダイオー ドの研究」を提出 し工 学博士の学位を得た

Ⅹはこの Y 2 の学位論文がⅩの研究報告書等の記述の一部を利用 し,又材料 選定の理由やアイディアを解説 した部分を利用 しているとして著作財産権及び 著作者人格権の侵害であると主張 した。

これに対 し裁判所 は , 「 著作権法が保護 しているのは, 思想,感情を,言葉,

文字,普,色等 によって具体的に外部に表現 した創作的な表現形式であって,

その表現 されている内容すなわちアイディアや理論等の思想及び感情 自体 は,

たとえそれが独創性,新規性のあるものであって も,小説のス ト‑ リ一等の場

合を除 き,原則 として,いわゆる著作物 とはな り得ず, ・・・・殊に,自然科

学上の法則やその発見及び右法則を利用 した技術的思想の創作である発 明等

は,万人にとって共通 した真理であって,何人に対 して もその自由な利用が許

さるべ きであるか ら , 」著作権法上の保護の対象にはな らず,そのなかの発明

等 は工業所有権の対象 とな り得 るに過 ぎないとし,「自然科学上の法則ない し

物質の構造,性質等の記述については,その創作的な表現形式 ( 説明方法)が

著作者人格権,著作財産権保護の対象 となることは格別,その内容 自体につい

ては,それが仮 にⅩが最初に着想 した独創性のあるものであって も,著作者人

格権 ・著作物利用権保護の対象 となるものではない」 ,「自然科学に関する論文

中 ・・・・個 々の法則を説明 した一部分については,同一の事柄で も種々の表

現方法のある一般の文芸作品 とは異なり,その性質上その表現形式 ( 方法)に

おいて,個性に乏 しく普遍性のあるものが多いか ら,当該個 々の法則の説明方

法が特に,著作者の個性に基づ く創作性のあるもの と認め られる場合に限 って

著作者人格権 ・著作財産権保護の対象になる」 とし,本件学位論文中の用語に

はぼ同一の ものがあるが,各用語 は単 に物質の性質を現 したもので,思想 ・感

(23)

学術著作物の内容の保護 について 2 3

情を表現 した ものではないか ら著作者人格権 ・著作財産保護の対象たり得ない

としたβ

2. 「ゲー トボール競技規則書事件 」6 8 )

原告 Ⅹは現在 シルバースポーツの花形であるゲー トボール競技を創作考案 し,「ゲー トボール競技規則」を著述出版 した.被告 Y はゲー トボ‑ル競技普 及団体の一つで,その代表者 A はこのゲー トボール競技を簡単 に説明 した小冊 子に接 して,その競技を知 りその研究,普及 に努め Y を全国的規模の組織 とし て設立 し,Yは「ゲー トボール競技規則」を出版 した。 Ⅹの主張 はY規則書が, その内容 とする思想においてⅩ規則書 と同一であるか らⅩの著作権を侵害す る というものであった。

裁判所 は,「 Ⅹ各規則書 は,Ⅹが考案 したゲー トボール競技 に関 して,ゲ‑

トボール競技のいわれ, レクリエーションスポーツとしての意義,競技のや り 方,競技規則等の全部ない し一部を固有の精神作業に基づき,言語により表現

したものであ り,その各表現 はスポーツとい う文化的範噂に属す る創作物 と し

て著作物性を有す るというべ きである。 」とし,この点のY の主張を退けて「 新た に創作 されたスポーツ競技に関 し,その競技の仕方の うち, どの部分をいかな る形式,表現で競技規則 として抽出,措定す るかは著作者の思想を抜 きに して はおよそ考え られない」 としたが,Yの競技規則書がⅩのそれ と文章表現,著 述構成,その表現形式等 も明 らかに異な っているとして著作権侵害を認めな かっ た 。

3. 「 三浦梅園事件 」6 9 )

この事件の原告 Ⅹは,三浦梅園の研究者であり,被告は出版社 より三浦梅園 の作品の編集を依頼 された大学教授 Y l と出版社の編集担当者か らなる。Ⅹに 対 し梅園の著作物 「 玄語」その他の翻訳の協力方を依頼 した Yl 等 は,協力の

68 )

東京地裁八王子支部昭

59・2・ 10 判決,無体集16

1 号7 8 頁。

69 )

東京地裁 昭

59・4・ 23 判決,判 夕536 号440 貢。

(24)

2 4 商 学 討 究 第 45 巻 第 3 号

話 し合いの意見が一致 しないまま年月を経た時点で,「日本の名著」 シリーズ の担当者 としてその中に梅園の著作物の翻訳 と梅園に関す る解説を収めて刊行 したところ ,Ⅹは自己の論文を収録 した「 三浦梅園の思想」の記載 と対比 して, Y l等 はⅩ著作物に表 された学説ない し思想を盗用 し,Ⅹ著作物に触れず,い かにも自己の独創的知見であるかのように装 って記述部分を作成 したと主張 し

た 。

これに対 し裁判所は,対比部分には 「 両者の間に表現形式の同一性ない し近 似 陸は全 く認め られない」とし,学説ない し思想を盗用 したとのⅩの主張につ いては, 「 学説ない し思想それ 自体の保護が著作権法の保護の範噂に属す るも のでないことはいうまで もな」いと判示 した。

4. 「中国の塩政史事件 」7 0 )

被告 Y lの著書 「中国塩政史の研究」に恩賜賞 ・日本学士院賞を授与 される ことが発表されたところ,原告 Ⅹは,Ⅹの論文を盗作 した部分があるとして, 報道合戦を行 った後訴訟を提起 した。Ⅹは Y lに対 し 「 先行権」を否定 したこ とは学問的名誉権の侵害にな り,又Ⅹ論文の著作権侵害,名誉穀損等を主張 し た。 Y lの師である Y 2 に対 して も名誉穀損を主張 した。 Y lは反訴 により名 誉穀損による損害賠償請求を行 った。

裁判所 は,Ⅹの主張する 「 先行権」 とは 「 他者に先ん じて当該研究を手掛 け た研究者が,他者に対 し先駆者 としての地位を主張 しうるとともに,学会等に おいて も,当該研究の先駆者 としての評価を受 け,尊重 されることをも意味す るもののようである。 」 とし, これは種 々の要素を総合 しなければ容易にな し えない ものであって 「このような学問上の評価ない し判定は,その研究の属す

る分野の学者, 研究者等に委ね られるべ きものであ り, 裁判所において審査 し, 法令を適用 して解決す ることのできる法律上の争訟ではない」 とした0

著作権侵害についてⅩの指摘 した盗作部分の対比は次の通 りである0

70 )

東京地裁平

4・ 1 2・ 1 6 判決,判 夕83 2 号 17 2 頁,判時 1 47 2 号 1 30 頁。

(25)

学術 著作 物 の 内容 の保 護 につ いて

25

Ⅹ論文 「 牢盆を広 くして以て商ばいを来 ( まね) く」 と読み下 したうえ,( 1

8 頁 1 2 行) ,「 『 牢盆を広 くす る』 ,つま り最 も重要な製塩用具たる 『 牢盆』の幅 員を拡げて大型化 し,牢盆一個あた りの製塩量を増大 し,そのように して豊富 に生産 された官塩を以て塩商人を招 く政策を打ち出 したのだ, と解するのが自 然である。 」

Y l論文 「 『 牢盆を広 くして価を来す。凡て制置する所,皆妻 より始まる。 』 と見え,一方,海塩製造業者 には堅固な製塩鍋牢盆を支給 して生産額の拡大を 計 り,商人を多数招来 して塩利の増大を企画 したのである。 」

これに対 し,裁判所 は,Ⅹ論文発表 2 0 数年前に加藤博士によって同 じ読み下 しがなされているので,読み下 し方 に著作物性は認め られず,又 「 読み下 し文 を含め,その解釈を示 した文章全体について対比す ると,両者は,論述の趣 旨 又は目的,その対象,論述の内容,論述の基礎 となった史料の異同,論述の構 成等表現内容及び表現形式において全 く相違 し,両者の表現内容及び表現形式 が同一又は類似するとは到底認め られない」 として著作権侵害を否定 した.

又 「自己の学説 と同趣 旨の見解を示 したことを もって, 自説を盗用,盗作 し たものであり, これはⅩの著作権等を侵害す るものである旨主張す るが ごとく であるが,学説ない し思想それ自体の保護 は,著作権法の保護の範噂に属する

ものでない」 とした。

5. 「 野川 グループ事件 」71 )

この事件では,脳波の解析,神経回路網の解析に関 して,医師,測定技師, 数学者 と共に,大学理学部の生物物理専攻の研究員であった原告Ⅹと同学部助 教授で流体力学を専攻す る被告 Y の 5 名 による学際的共同研究が行われて来 た。 Yは,単独名の ものと, 3 名の連名になる二つの論文を国際的に著名な学 術雑誌に発表 したところ,Ⅹはそれ以前に共同研究期間中共同研究者の連名で 作成 された学会発表用の小論文,審査原稿,学会講演の予稿,学会講演の抄録

71 )( 一審)京都地裁平 2・ 1 1 ・ 28

判決,無体集

22

3

7 97 貢 ; ( 二審)大阪高裁平 6 ・

2・ 25

判決,判

夕846

244 頁。

(26)

26 第45巻 第 3

を参考文献 として掲記すべ きであるのを怠 り, これを無断で複製 し又は翻案 し たとして著作権 と著作者人格権の侵害を主張 した。

第一審裁判所 は,Ⅹが著作権の保護の対象 として主張 しているのは 「ウイル ソン ・コ‑ワン模型か らフアンデルポール方程式等の偏微分方程式を導 き出す アイデア」であるか ら著作権保護の対象 とはな らないとの Y の主張に対 して, アイデアではな く文献に表現されたものを著作権保護の対象 としていることを 認めたが,学術著作物の特性を次のように指摘 している。

「 科学研究の著作物は,一般にある主題を設定 し,その主題につ き理論或い は実験結果に基づ き論証の筋道を分析,総合 して構成 し, これを言葉,文字, 数式等によって表現 して成 るけれども,その性質上文学作品等 とは異な り,言 葉,文字等の表現手段の用法には余 り創作的個性がないのが通常である ( 数式 も,既成の方程式等 は言葉や文字などと同 じ表現手段の一つに過 ぎない。 )反 面,論証の筋道の構成が著作者の創作性を示す もの として重要 な地位を占め る。 」 とし,著作権侵害の存否については,「 外形上の表現の異同を検討す るだ けでな く,表現 された内容の実質的異同を も検討 しな くてはな らない。 」 とい う重要な判断を し, この観点 に基づいて第 1論文について侵害 となる構成 と表 現において異なるばか りでな く,主題について も異なるものと判断 した。

又第 2 論文については同一表現の記述があることを認めたが, これについて は,「 学会 ・国際会議での発表や会議録 は専門家の閲覧を経ていないので,厳 密な意味では科学論文 とは認め られず, このため,科学論文には学会,国際会 議での発表や会議録 は引用 しないとい う慣行があるものと認め」て Y の抗弁を 採用 した。

これに対 し第二審の裁判所 は,原審の判断を一部修正 して,まず 「 数学 に関

する著作物の著作権者は,そこで提示 した命題の解明過程及びこれを説明する

ために使用 した方程式については,著作権法上の保護を受 けることができない

ものと解す るのが相当である。一般に,科学についての出版の目的は,それに

含まれる実用的知見を一般 に伝達 し,他の学者等を して, これを更に展開する

機会を与えるところにあるが, この展開が著作権侵害 となるとすれば,右の目

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