1.はじめに
近時,我が国でも,著作権と表現の自由と の関係が問題とされ始めてきている。広義に は情報政策の一つとして捉えられる著作権法 政策は,著作権という財産権の存在を前提に,
新しい技術的・社会的状況に対応するための 政策を展開する傾向がある。著作権の内容は,
情報流通の実態を前提として,政策的に決定 されていく性質を有する1。それ自体は悪い ことではないが,その政策的な決定がどこま で認められるのかという点について,明確な ルールがないように思われる。殊に,著作権 法は表現と関わるため,表現の自由との関係 が問題となるのは自然の成り行きであるにも かかわらず,我が国において,著作権法と表 現の自由との関係が議論の俎上に上がってき たのは,ここ数年来のことである。
この点,米国においても,著作権法と自由 な言論を保障する第一修正との関係が真正面 から問題とされてくることは少なかった。以 下 に 紹 介 す るEldred事 件 最 高 裁 判 決 も , 1790 年著作権法の制定以来,213 年の歴史の 中ではじめて,裁判所において著作権法の規 定の合憲性が正面から判断された事案なので ある。この事案には,幾つかの争点があるが,
自由な言論を保障した第一修正と著作権法と の関係についても議論がなされている。そこ で,以下では,Eldred判決について,第一
修正との関係に限定して簡単に紹介した上で,
Eldred事件最高裁判決後に示された幾つか
の見解について紹介することにしたい2。米 国における先行事例が,日本の著作権法と表 現の自由との関係のスキームを考慮する上で,
一定の示唆を与えてくれるものと思われる。
2.Eldred事件最高裁判決の概要
連邦議会は 1998 年にソニー・ボノ著作権 保 護 期 間 延 長 法 (Sonny Bono Copyright Term Extension Act. 以下,CTEAという)3 を制定した。この法律は,これから著作権を 取得するまだ存在していない作品のみならず,
現在すでに著作権が発生し保護されている既 存の作品についても,20 年間の保護期間を 付け加えた。原告らは,CTEAは違憲である との宣言的判決を求めて政府を訴えた。原告 らには,インターネット上において,非営利 でパブリック・ドメインの書籍を配給する者 や,希少本の配給者,シートミュージックの 配給者,聖歌隊の指揮者,フィルム保存会社 が含まれており,CTEAがなければパブリッ ク・ドメインに帰した著作物として,適法に 複製したり,配給したり,演奏することので きた 1923 年以前に創作された著作物を利用 する準備をしていた。そのため原告等は,
CTEAは,憲法の著作権条項(合衆国憲法1 条8節8項)および第一修正条項に反してい るとして訴えを提起したのである(以下では,
第一修正条項に関する部分だけ整理してい る)。
●研究ノート
著作権の保護期間延長と表現の自由 についての小考
― Eldred事件最高裁判決とその後の動向―
今村哲也
** 明治大学専任講師
CTEAと第一修正条項との関係について,
コロンビア特別区連邦地方裁判所は,「他人 により著作権が取得された著作物を使用する 第一修正の権利は存在しない」としてあっさ りと否定した4。続いてコロンビア特別区連 邦控訴裁判所は,「著作権は第一修正に基づ く抗弁からカテゴリカルに免除されている」
と述べて,第一修正条項に関する主張を退け ている5。
連邦最高裁判所の法廷意見は,「我々は,
コロンビア特別区連邦控訴裁判所が,著作権 は『第一修正に基づく抗弁からカテゴリカル に免除されている』と述べたことは言い過ぎ であったと認識している」と述べた6。しか し法廷意見は,結論としては,表現とアイデ アの二分論およびフェア・ユースの法理とい う 2 つの著作権法内部の調整原理により,第 一修正条項に対しては十分な配慮がなされて いるとした上で,「本件のように,議会によ り著作権の伝統的な保護の外延が変更されて いない場合,これ以上の第一修正条項による 審査は必要がない」と結論づけている7。結 論としては,Ginsburg判事による法廷意見 に 同 意 し た 6 名 の 計 7 名 の 判 事 に よ り , CTEAは合憲であると判断された。Stevens
判事とBreyer判事は憲法の著作権条項との
関係の部分について反対意見を述べ,法廷意 見には同意しなかった。
3.Eldred事件最高裁判決に対する評価
¸ 内容中立規制としての中間審査基準の 適用の否定
本件において,Eldred側は,CTEAは第 一修正条項との関係において内容中立規制で あり,高められた司法審査が適用される場面 であって,Turner事件最高裁判決8で適用 された中間審査基準が適用されるべきと主張 している9。これに対して最高裁の法廷意見 は,著作権法と憲法は近接した時点で制定さ れており,著作権による限られた独占と言論
の自由とは矛盾しないという制憲権者の見方 が示されていること,著作権法における表現 とアイデアの二分論とフェア・ユースの法理 と い う 内 在 的 調 整 原 理 の 存 在 , そ し て ,
Turner事件最高裁判決と本件とは事実関係
の法構造が異なることを根拠として,高めら れた審査基準としての中間審査基準の適用を 否定した。Eldred側は,第一修正条項に関 する既存の審査基準に当てはめることによる 判断を望んだものの,最高裁は著作権法の特 質,すなわち内在的調整原理の存在を基礎と した判断枠組みを示すことによって答えたか たちとなった。
第一修正条項と著作権法との調和について は,1970 年代に主要な論文が公表されてい るが,とりわけ重要なのはM. NimmerとP.
Goldsteinの所説であろう10。
第一修正と著作権法との調和について,
M. Nimmerは,定義づけ衡量という技法を
用いながら,アイデアと表現の二分論と著作 権保護期間の限定に答えを求めた。これに対 して,P. Goldsteinは,アイデアと表現の二 分論の他,とりわけフェア・ユースの法理を 強調した11。M. Nimmerが,第一修正と著作 権法との調和について,フェア・ユースの法 理を強調しなかった点はP. Goldsteinと異 なっているが,M. NimmerもP. Goldsteinも 著作権法の目的が第一修正の保護する表現を 促進するものであることを認めていた12。
M. Nimmerの所説によれば,著作権と表
現の自由との対立は,表現とアイデアの二分 論と著作権保護期間の限定という内在的制約 の存在によって解決されることになり,一定 の例外的な場合を除き,著作権を侵害する表 現は,基本的には第一修正の検討を個別的に 受けないという結論を採用することになる。
この基本的考え方は,Eldred事件最高裁判 決の判断枠組みと基本的な観点では共通して おり,それが踏襲されたとみてよい。
¹ 内容中立規制としての分類はこじつけ か?
著作権法は,内容規制とも内容中立規制とも,
明確には分類できない側面を有している。
Daniel A. Farberは,「Eldred判決は,著作 権をこれらの類型に押し込むよりも,独立の 類型(sui generis)として考えたのだろう」
とみている13。著作権法は著作権を侵害する 表現行為を制約するので,著作権法に対して いかなる違憲審査基準が妥当するのかという 問題が生じるのは自然なことであるが,一方
では,Eldred側の主張にみられるように,
著作権法の規定を従来の審査基準論に当ては めること自体,こじつけ的な手法なのではな いかという疑問も生じてくる。
こ の 点 ,Lackland H. Bloom, Jr.は ,
Eldred側が著作権法の違憲審査基準として
中間審査基準という判断枠組みを持ち出した ことについて,興味深い所見を示している。
第一修正に関する議論は,ここ 20 年間で非 常に複雑化しているため,コンテクストを度 外視すれば,望む方向へ議論を可能とするよ うな,第一修正の法理に関する何らかの基準 を援用することが難しくなくなっており,著 作権と第一修正の対立を見いだすことが容易 になっている,というのである。そして,
Eldred事件の上告側が,Turner事件の基準 を援用したことがまさにそれであると指摘し ている。Lackland H. Bloom, Jr.は,著作権 のありふれた事案に,複雑かつ難解な第一修 正の理論やそれに関連する抗弁を適用するこ とを裁判所に認めることは,著作権制度に大 きなコストを負担させることになり,著作権 法が意図する言論促進作用を害することで,
長期的にはフリー・スピーチの法理を損なう ことになることになりかねないとも指摘す る14。
著作権法との関係で中間審査基準を適用す るべきとの論説を展開していた主要な論者の 一 人 と し て ,Neil Weinstock Netanelが い る15。N. W. Netanelは,著作権法が,一定
の話し手にスピーチの資格を配分する性質を 有する規制として,第一修正に強い影響を与 え て い る こ と を 主 張 し て い る16。N. W.
Netanelによれば,著作権法はTurner事件 で問題となった再送信義務づけ条項と同様,
一部の話し手ないし産業に対し,政府が言論 の権利を事実上割り当てることになる規制で あり,立法府への敬意から緩和されがちな内 容中立規制においても,中間審査基準を維持 すべきとされる。競争制限による利益の分配 は,経済立法の分野において通常行われるこ とだが,言論資格割当の形式でなされるレン トの分配については,厳格に審査するべきで あるという17。著作権法内部の安全弁として 機能するとされるアイデアと表現の二分論や フェア・ユースの法理も,それらの適用に予 測可能性が十分に保障されていないため,話 し手の自己検閲を誘発すること,また,こう した内部の安全弁が存在している場合でも,
第一修正の審査の必要が免除されるわけでは なく,他の法分野ではこのような予防措置の 妥当性を保障するためにしばしば第一修正が 適用されていることを指摘する18。
Eldred判決では,CTEAとの関係では中 間審査基準の適用が否定されたわけであるが,
その後,第一修正条項と著作権法との関係に ついてN. W. Netanelがどのような考え方を 示しているのか,他の論者の所説とともに以 下で紹介する。
4.Eldred事件最高裁判決後の諸説
¸ N. W. Netanelの考え方
N. W. Netanelは,Eldred判決後の論文に おいて,第一修正の適用からのカテゴリカル な免除は「冷淡な」(tepid)ものであるとし つつも,Eldred判決は,「著作権の伝統的な 保護の外延」を変更する著作権法の規定との 関連,そして,著作権の自由な言論の内在的 予防措置との関連において,第一修正の介入 の余地を残していると指摘する19。
N. W. Netanelは,Eldred判決が,第一修 正の審査は「議会により著作権の伝統的な保 護の外延が変更されていない」場合には必要 でないとしているが,そのことは,連邦議会 が著作権の伝統的な外延を変えるときには,
第一修正の審査が正当化されるかもしれない ことを意味するとしている20。N. W. Netanel によると,Eldred判決自体は,その外延の 範囲についてほとんど何も示唆していないが,
1998 年デジタル・ミレニアム著作権法(Dig- ital Millennium Copyright Act: DMCA)にお ける技術的保護手段回避規制の規定が,外延 を変更するものに該当することは明らかであ り,同規定はTurner事件で採用された中間 審査基準にも耐えられないと主張している21。
また,Eldred判決の法廷意見はその脚註 において,著作権法の規定に対して直接的に 第一修正条項の抗弁を主張する場合について も,また,著作権の侵害に対して第一修正の 抗弁を主張する場合についても,「第一修正 の関係と調整するように著作権の内部的予防 措置について解釈することが適切である」と している22。N. W. Netanelはこの脚註につ いて,司法抑制の原則という基本を述べただ けではなく,著作権の内部的予防措置につい ては,第一修正の関係と適合する方法により,
その範囲を解釈し,定義するべきであること も示唆していると読み込む23。具体的には,
第一に,フェア・ユースの法理の適用におい て,表現の修正や独立した目的も含まれた,
被告による批評的な使用やトランスフォーマ ティブな使用に対して,改めて重きを置くこ とであり,このことは原著作物の派生的著作 物のマーケットで競合する場合であってもそ うあるべきだとする。第二に,フェア・ユー スに関して,提出された事実から判断して正 当かつ合理的な主張(colorable claim)であ ることを被告において示した場合,被告が効 果的なスピーチにとって必要である以上のも のをコピーし,かつ被告の使用が著作権者の 著作物の現実あるいは潜在的な市場を侵害す
る可能性が高いことの立証責任は,著作権者 が負担するべきであるとする。そして,第三 に,フェア・ユースの法理について,提出さ れた事実から判断して正当かつ合理的な主張
(colorable claim)をしたが,結果として不 成功に終わった場合でも,裁判所は,原則と して,被告による使用を禁止するのではなく,
合理的なライセンス料の額を賠償額として認 めるものとするべきであるとする24。
N. W. Netanelの考え方は,本判決で示さ れた若干の部分について,最大限,第一修正 との関係で積極的に理解しようとする試みの ひとつであるといえる。
¹ Richard A. Posnerらの考え方
William F. PatryとRichard A. Posnerは,
Eldred事件において問題とされたような古
い著作物の使用の課題は,憲法問題としてで はなく,フェア・ユースの法理の適用や著作 権法の多少の修正により解決することができ ると提案している。彼らはフェア・ユースの 法理を適用する場合に,著作権法 107 条に示 される4要素はあくまで例示的なものであり,
また,当該法理は裁判所により柔軟に適用さ れるべきことを前提に,その適用に際して,
市場における取引の可能性(feasibility of a market transaction)という観点を取り入れ る。非常に古い著作物で,商業的な価値が限 られている場合を仮定した場合,そうした著 作物を使用することには十分な社会的価値が あるにもかかわらず,使用のためにライセン スを取得するための取引費用が,ライセンス により生じるプライベートな利益を大きく超 えてしまうことになる。しかし,こうした場 合に,すべての古い著作物についてのコピー を無条件に認めてしまうのも適切ではない。
そこでWilliam F. PatryとRichard A. Posner は,「潜在的な模倣者に対して適切な照会の 義務(a duty of reasonable inquiry on the would-be copier)を課すことによって,適 当なバランスをはかることができる」と主張 する。そして,このようなかたちでフェア・
ユースの法理が適用された場合の,予測され る著作権登録制度の有りようについても付言 している25。
Richard A. Posnerに よ れ ば ,CTEAは , 著作権者を追跡してライセンス交渉をするこ とがコスト高であるかほとんど不可能である ような多数の古い著作物の著作権の保護期間 を拡張することによって,パブリック・ドメ インを妨害するものであるとする26。また,
他 の 論 文 に お い てRichard A. Posnerと William M. Landesは,保護期間の延長とい う立法手段に対抗するものとして「無限に更 新 可 能 な 著 作 権 」(Indefinitely Renewable Copyright)という考え方を提案している27。 これは,著作権の最初の保護期間を短くする 一方で,何度でも更新可能な保護を与えるこ とにするが,その度に高額な更新料を支払う ことにするという考え方で,これにより,結 果としてパブリック・ドメインの領域が拡大 すると主張している。
º Wendy J. Gordonの考え方
最後に,第一修正条項との関係で論じられ ている訳ではないが,米国著作権法学の主要 な論客の一人であるWendy J. Gordonによ
るEldred後の論説について若干紹介してお
きたい28。
Wendy J. Gordonは,「我々は他人の言葉 を用いて話す権利を有するか? Eldred事 件と著作権保護期間」と題する論文において,
創作者の権利という観点からも,道具主義な いし帰結主義の観点からも,CTEAによる保 護期間の延長は支持されないとし,そのよう に結論づけている29。Wendy J. Gordonは自 らの議論を次のようにまとめている。
「創作者の権利という観点からは,ある者 の創作的な労働の投資は保護されるべきこと になるが,それは創作者が,『[他人にも]十 分に,そして同じようにたっぷりと』,残し ている場合でなければならない(角括弧内は 筆者付加)。我々の法は,創作者(およびそ の雇用者と権利の譲受人)にそれ以上の多く
を与えている。それによって,労働の投資よ り多くのものが保護されており,『[他人にも]
十分に,そして同じようにたっぷりと』残さ れていないかも知れない場合であっても,権 利を与えている。それにより,公衆の権利が 侵害されている。その結果,法は公衆に対し て幾らかの負債を有している。こうした負債 を部分的に返す最も良い方法のひとつは,著 作権保護期間を制限することである」30。
また,Wendy J. Gordonによると,ロック の禁止していることの核心は,「労働」を目 的的な行為であることを前提に,労働者がそ の労力により更に得ようとする目的に対して,
他人は害を及ぼすかたちで干渉するべきでな い,ということであるとし,それを基礎とす ると,たとえば,70 年以上もの将来の他人 の行為が,労働者のそのような目的に害を及 ぼすことは考えがたいとする。このように Wendy J. Gordonは,「労働」は目的的な行 為であり,コモン・ローにおいては,義務が 予見可能性のない対象に及ばないとされるよ うに,権利についても同様に考えるべきであ るとする31。
Wendy J. Gordonは,著作権の保護期間延 長に対する帰結主義的観点からの否定的な論 拠として,厚生の損失との関係で生じる二つ の問題について例証している。一つは,「現 在価値」(present discounted value)に与え る効果の小ささである。著作権の保護期間は すでに十分に長いため,20 年間の延長によ り得られる収益を「現在価値」に置き換えた 場合,その現在価値の創作者に与えるインセ ンティブの限界効果は小さいか,ゼロに近い という32。もう一つは,保護期間の延長によ る一律の死重損失(deadweight loss)の問 題である。ある一定の期間の独占さえ与えれ ば創作される著作物は,その一定の期間を経 過した後には,死加重損失を生む著作権のカ テゴリに分類される著作物となる。Wendy J. Gordonは,「最高裁判所が『生存期間プラ ス 70 年』の期間を支持したとき,余分な 20
年がなくても存在することになっただろうす べての書籍や映画が,死加重損失を生む一因 となるカテゴリに分類されることになった」
と述べている33。
5.結びに代えて
「著作権法は,第一修正条項に対する巨大 な免税区の一つである。それは自由な言論に 対する基本的な責務や審査基準を軽んじてい る。著作権法の領域外では甚だしい第一修正 条項の侵害であるとみられることが,そこで はごく普通に生じている」といわれることが ある34。著作権法学者一般にそこまでの危機 感はないようにも思われるが,憲法学の視点 からみるとそういう状況が生じているという 見方ができるのかもしれない。ここ数十年に おける著作権法の構造的変容は顕著であるが,
構造の内部にいる者にはその変化の兆候が見 えにくい場合もある。こうした状況において,
米国でも建国以来初めてという司法による著 作権法の憲法判断は,時宜に適った警鐘を鳴 らしてくれたかもしれない。
米国の連邦最高裁判所は,表現とアイデア の二分論とフェア・ユースの法理という内在 的制約原理の存在を基礎として,「著作権の 伝統的な保護の外延が変更されていない」こ とを理由に,CTEAの第一修正との関係にお ける司法審査を不必要としている。この「著 作権の伝統的な保護の外延」という部分につ いて,最高裁自体はほとんど何も述べていな いが,Eldred判決後の議論のスタートとな るのかもしれない。また,N. W. Netanelが,
Eldred判決の法廷意見における脚註と関連
付けて提案したようなフェア・ユースの法理 の適用の在り方についても,議論が再燃して くるだろう。我が国でも,横山助教授が著作 権法制度の外郭について「立法府が著作権関 連立法を制定する際に踏み越えてはならない 一線 というものが確実に存在する」と述 べ,司法過程を通じたコントロールの必要性
を説いている35。Eldred判決の結論自体は,
米国の識者の間においてある程度予測できた ものなのかもしれないが,この裁判によって,
パブリック・ドメインに関する公共政策の在 り方について関心が高まってきたことは確か である。
注
1 中山信弘『マルチメディアと著作権』(岩 波書店,1996年1月)62頁参照。
2 本判決を解説する邦語文献は多数あるが,
とりわけ,大日方信春「1998年「著作権保護 期間延長法」の合憲性」広島県立大学論集7 巻1号(2003年8月)169頁,横山久芳「著 作権の保護期間延長立法と表現の自由に関す る 一 考 察 」 学 習 院 大 学 法 学 会 誌 39 巻 2 号 (2004年 3月)19頁,山口いつ子「表現の自 由と著作権」中山還暦『知的財産法の理論と 現代的課題』(弘文堂,2005年 12月)365頁 が参考となる。その他に,近藤紀男「アイデ アと表現の区別―米国の判例に見る著作権と 表現の自由―」名古屋学芸大学短期大学部研 究紀要第2号(2005年3月)34頁,尾島明
「著作権の保護期間延長と合衆国憲法」知財 研フォーラム 53巻(2003年春号)2頁,横 山久芳「ミッキーマウス訴訟がもたらしたも の―著作権保護期間延長立法の合憲性―」
ジュリスト 1244号(2003年 5月)268頁,I.
Fred Koenigsberg, Stefan Mentzer・日本国 際知的財産保護協会事務局訳「著作権の保護 期 間 延 長 と 合 衆 国 憲 法 」AIPPI48 巻 5 号
(2003年5月)348頁,芹澤英明「アメリカ 著作権法における著作権保護期間延長規定の 合憲判決」エル・アンド・ティ 20巻(2003 年7月)114頁がある。
3 Pub. L. 105-298, 112Stat. 2827.
4 Eldred v. Reno, 74 F.Supp.2d 1, 53 USPQ2d 1217(D.D.C. 1999).
5 Eldred v. Reno, 239 F.3d 372 (D.C. Cir.
2001).
6 Eldred v. Ashcroft, 537 U.S. 186, 221 (2003).
7 Id. at 221-22.
8 Turner Broadcasting System, Inc. v.
FCC, 512U.S. 622(1994). 評釈として山口い つ子「判批」アメリカ法[1995-2] (1996年) 288頁,長谷部恭男「情報化と表現の自由―
多チャンネル化とメディア法制」ジュリスト 1089号(1996年)47頁,山口いつ子「判批」
アメリカ法[1998-2](1999年)286頁以下を
参照。
9 Eldred v. Ashcroft, 537U.S. 186, 193-194, 218-221(2003).
10 Melville Nimmer, Does Copyright Abrid- ge the First Amendment Guarantees of Free Speech and Press?,17U.C.L.A. L.REV. 1180(1970); Paul Goldstein, Copyright and the First Amendment, 70 COLUM. L. REV. 983(1970). なお,M. Nimmerの所説につい ては,この論文を照会した阿部浩二「論文紹 介」アメリカ法[1974]134 頁の他,拙稿
「著作権法と表現の自由―その規制類型と審 査基準について―」第 4回著作権・著作隣接 権論文集(著作権情報センター,2003年 12 月)25頁以下,同「著作権法と表現の自由に 関する一考察―その規制類型と審査基準につ いて―」季刊企業と法創造1巻3号(2004年 11月)82頁以下,横山・前掲註¹36頁以下,
山口・前掲註¹371頁以下参照。
11 Nimmer, supra note 10, at 1189; Gold- stein, supra note10, at 988.
12 Id. Nimmer, at 1186; Id. Goldstein, at 990. 13 Daniel A. Farber, Conflicting Visions
and Contested Baselines: Intellectual Property and Free Speech in the “Digital Millennium”, 89 MINN. L. Rev. 1318, 1354 (2005). この点,内容中立規制のなかで新た な判断枠組みを設定する見解もある。たとえ ばN. W. Netanelは,Turner事件(Turner Broadcasting System, Inc. v. FCC, 512U.S.
622 (1994). 評釈として山口いつ子「判批」
アメリカ法[1995-2](1996年)288頁,長谷 部恭男「情報化と表現の自由―多チャンネル 化 と メ デ ィ ア 法 制 」 ジ ュ リ ス ト 1 0 8 9 号
(1996年5月)47頁参照)に基づいて,内容 中立規制の新たな類型として,「言論資格割 当 (speech entitlement allocations) 規 制 」 を設定する。言論資格とは,「所定の伝達経 路を通してなされた表現をコントロールする 権利,予期される観衆にアクセスする権利,
特定の表現内容の使用をコントロールする権 利を含むもの」とされている。著作権法を言 論資格割当規制に含まれるものと位置づけ,
Turner事件で用いられたような厳格な形式
で適用されるオブライエン・テストを用いる べ き で あ る と 主 張 し て い る 。See, N. W.
Netanel, Locating Copyright within the First Amendment Skein, 54STAN. L. REV. 1, 54-69(2001).
14 Lackland H. Bloom, Jr., Copyright Under Siege: The First Amendment Front, 9
COMP.L.REV. & TECH.J. 41, 56.
15 N. W. Netanelの見解を紹介している邦語
文献として,拙稿・前掲註Á88頁以下,山 口・前掲註¹379頁以下を参照。
16 N. W. Netanel, Locating Copyright with- in the First Amendment Skein, 54STAN. L.
REV.1, 45-7(2002).
17 Id. at 67-69.
18 N. W. Netanel, Copyright and the First Amendment: What Eldred Misses−and portends, in JONATHAN GRIFFITHS AND UMA
SUTHERSANEN (ED), COPYRIGHT AND FREE
SPEECH(Oxford: OUP, 2005) at 143-144. 19 Id.
20 Id.
21 Id. at 146. 22 537U.S. 186, 219.
23 N. W. Netanel, supra note18at 147. 24 Id. at 148-149.
25 William F. Patry, Richard A. Posner, Fair Use and Statutory Reform in the Wake of Eldred, 92CALIF. L. REV. 1639, 1650(2004).
著作権登録制度の運用主体とその運用の仕方 にはさまざまな方法があるだろう。この点,
Lawrence Lessigは,「許可の取り方を調べる 簡単な方法がない」ことを指摘した上で,登 録行は著作権局がするべきではなく,著作権 局は登録業者のための規格群を作成して登録 業者を承認するのみで,あとは登録業者の競 争により,許可のための仕組みが安く単純な ものとなるような制度を提案している。ロー レンス・レッシグ著〔山形浩生・守岡桜訳〕
『FREE CULTURE いかに巨大メディアが
法をつかって創造性や文化をコントロールす るか』(翔泳社,2004年)333頁以下。
26 Richard A. Posner, The Constitutionality of the Copyright Term Extension Act:
Economics, Politics, Law and Judicial Technique in Eldred v Ashcroft, 2003SUP. CT. REV.143, 148(2003).
27 William M. Landes and Richard A. Posner, Indefinitely Renewable Copyright, 70 U CHI. L. REV.471(2003).
28 Wendy J. Gordonは,ロックの自然権理論
を基礎とした場合に,かかる自然権に内在す る公衆の利益(表現の自由)の基づく制約を 受けることを指摘し,第一修正の抗弁やフェ アユースの柔軟な解釈による対応とは異なる 説明の仕方でこの問題についてアプローチし て い る 。Wendy J. Gordon, A Property Right in Self-Expression: Equality and
Individualism in the Natural Law of Intellectual Property, 102 YALE L.J. 1533, 1537(1993). Wendy J. Gordonの 論 文 ‘A Property Right in Self-Expression’に代表 される,彼女のロック所有論と但書きによる 表現の自由の保護に関する考え方については,
小泉直樹『アメリカ著作権制度 原理と政策』
(弘文堂,1996年)28-37頁,森村進『ロック 所有論の再生』(弘文堂,1997年)259頁以 下,村井麻衣子「著作権市場の生成とfair
use−Texaco判決を端緒として(2・完)」
知 的 財 産 法 政 策 学 研 究 7 号 ( 2005 年 5 月 ) 150頁以下において分析されている。
29 Wendy J. Cordon, Do We have a Right to Speak with Another’s Language? Eldred and the Duration of Copyright, in PAUL
L.C. TORREMANS(ED), COPYRIGHT ANDHUMAN
RIGHTS: FREEDOM OFEXPRESSION, INTELLECTU-
AL PROPERTY, PRIVACY (Kluwer Law Interna- tional, June 17, 2004), at 129.
30 Id. at 126. 31 Id. at 127-128. 32 Id. at 115-116.
33 Id. at 116-117. Wendy J. Gordonは,経済
学者のStan Liebowitzの分析を参照しながら,
異なる著作物やその類型はそれぞれ異なるイ ンセンティブに対応するため,単一の保護期 間を定義することにより,死加重損失を生み だすことを例証している。Id.at 117-119. 34 Jed Rubenfeld, The Freedom of Imagi-
nation Constitutionality, 112YALEL.J.1, 3. 35 横山・前掲註¹「著作権の保護期間延長立
法と表現の自由に関する一考察」80頁参照。
付記 本稿は,平成 17年度文部科学省科学研 究費補助金(若手研究(B))「著作権法と表 現の自由」(課題番号 17730089)および平成 17年度公益信託マイクロソフト知的財産研究 助成基金の研究助成による研究成果の一部で ある。