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長期未着手都市計画道路が建物更新に与える影響 〜長崎市を事例として〜
政策研究大学院大学まちづくりプログラム MJU17705 片山 稔夫
1 はじめに
都市計画道路の多くは、高度経済成長期における都市の拡大 を前提とした計画決定がなされている。計画決定から数十年が 経過したものの、事業着手がなされていない路線も存在してお り、これらの路線の中には近年の人口減少や社会情勢の変化に よって都市計画決定から長期間が経過し、整備の必要性が低く なった路線も多く存在している。
また、都市計画道路などの都市施設が計画決定されると、将 来の事業実施の円滑化のため、その区域内においては建築制限 が課されるため、長期未着手路線では、計画決定から事業着手 までの間に生じる土地利用の逸失利益の補償に関する訴訟など も見られる。このように、都市計画道路の区域内においては建 築制限による社会的損失の存在がこれまでも認識されている。
しかしながら、長期未着手都市計画道路が都市計画決定区域 そのものではなく、そこに隣接する立地(以下「区域隣接地」
と称す。)へ与える影響や、見直しを行うことによる政策効果に ついてはこれまで十分に検証されていない。
本研究は長崎市を事例として、長期未着手都市計画道路がい つ事業着手されるのか不明であるという不確実性や、都市計画 道路の見直し方針の公表による政策効果ついて、都市計画決定 区域内に加え、都市計画決定区域外である区域隣接地について も着目し、建物更新の意思決定についての考察、GIS を用いた 建物個別の詳細データによる実効容積率のシミュレーションに 加え、実証分析を行う。
本研究の主要な結果は以下のとおりである。長期未着手都市 計画道路の区域隣接地において接道条件が悪い立地では建物更 新が先送りされる傾向があり、老朽建築物による負の外部性の 増加が助長されるが、見直し方針を公表することにより不確実 性が軽減され、区域隣接地の建物更新先送りは解消される。ま た、建物の 50%未満が都市計画道路の区域にかかっている場合 において建物更新が前倒しされる傾向があり、事業実施の際に 取引費用の増加が生じる可能性を有する。
これらの結果から、長期未着手都市計画道路の再評価による 整備の必要性が低い路線の不確実性解消や、見直しの結果、存 続となった路線の建築制限による逸失利益への対策・不確実性 の軽減、事業実施時における取引費用の増加対策を踏まえた現 行制度の改善について提言する。
2 都市計画道路の現状 2.1 全国的な動向
平成 27 年度末時点で全国の都市計画決定された路線の計画 延長約 6.4 万 km のうち、約 2.1 万 km(計画延長の約 32%)が 未着手路線となっている。
このような中、長期未着手路線を必要性・実現性の面から再 評価し、その結果に応じて「変更」・「廃止」・「存続」のふるい 分けを行う見直しの必要性が平成 12 年頃から認識され始めた。
また、全国的に平成 18 年頃から急速に見直しが進められて いるが、全市町村のうち約2割において、未だ見直しの検証が 行われていない。
2.2 長崎市における都市計画道路の変遷
長崎市における都市計画道路の整備は、戦後、原爆や空襲な
どにより壊滅的な被害を受けた都心部の再建を図るため行われ た戦災復興土地区画整理事業、その後の都市改造を目的とした 土地区画整理事業などの市街地の整備と一体的に進められてき た 。一方、幹線道路以外の旧市街地内に計画された路線などに ついては長期未着手となったものも存在していた。
このため、平成 18 年度から中心部の長期未着手都市計画道 路の見直しに着手し、平成 21 年度に見直し方針の公表を行って いる。また、平成 25 年度から見直し方針に従い、都市計画の変 更・廃止の手続きを行っている 。
3 建物更新に与える影響の理論的考察
3.1 都市計画道路区域内の建物更新について
都市計画道路の区域内における建築制限は、実効的な土地利 用制限は建築基準法上の集団規定により異なるため、住居系の 用途地域では小さく、土地の高度利用が可能な商業系の用途地 域では大きくなる。また、都市計画道路の区域内に建物が存在しているというこ とは、将来事業着手した際には支障物件となるため、起業者か ら建物移転補償がなされることを意味する。このため、都市計 画道路が未着手の状態で建物更新を行うと、従前建物への補償 費を放棄することになる。
このように、都市計画道路の区域内については建築制限によ る土地利用制限に加え、補償への期待から建物更新を先送りす ることに対してメリットが生じ、建物更新に対し負のインセン ティブが生じる可能性がある。これにより、区域内には老朽建 築物が集積することによる負の外部性の増加が懸念される。
3.2 都市計画道路区域隣接地の建物更新について
都市計画道路の区域隣接地については、建築制限による影響 は生じないが、仮に道路整備が行われると現状より高幅員な道 路に接道することとなり、道路斜線制限や2項道路によるセッ トバック、容積率の道路幅員制限などの土地利用の制約が減少 するため従前より土地の高度利用が可能となる。このため、建物を更新するのであれば、道路整備前よりも道 路整備後の方が土地の高度利用が可能となることから、建物更 新を先送りすることに対してメリットが生じ、建物更新に対し 負のインセンティブが生じる可能性がある。これにより、区域 内に加え、沿線に老朽建築物が集積することによる負の外部性 の増加が懸念される。
図 1 道路整備による土地利用自由度増加のイメージ
3.3 仮説
本研究では、以下の4つの仮説を設定した。
土地利用制限と補償への期待から建物更新を先送りすること に対してメリットが生じるため、仮説①「長期未着手都市計画 道路は区域内の建物更新を抑制する」。
区域隣接地では、道路整備前よりも道路整備後の方が土地の
2 高度利用が可能となることから、建物更新を先送りすることに 対してメリットが生じるため、仮説②「長期未着手都市計画道 路は区域隣接地においても建物更新を抑制する」。
実効的な土地利用制限は建築基準法上の集団規定により異な り、現状で接道している道路の幅員が小さい場合にも大きくな るため、仮説③「建物更新抑制効果は住居系地域・商業系地域 や接道条件により異なる」。
長期未着手都市計画道路の見直しにより廃止方針が示された 路線については建築制限による影響は残るものの、将来の周辺 環境に対する不確実性が解消するため、仮説④「建物更新に関 する影響は見直し方針の公表により軽減する」。
4 土地利用自由度の増減シミュレーション 4.1 実効容積率の増減シミュレーション
上記の方法により都市計画道路が整備された場合の実行容積 率の変化についてシミュレーションを行った。
図 2 道路整備後の実効容積率の増減(左:住居系 右:商業系)
住居系地域では、建築可能階数が1階未満の増加に留まって いる。商業系地域では、部分的に都市計画道路の区域内である 建物においては、道路整備の際に用地買収を伴うため建築可能 階数が1階未満の増減が大半となっている。また、用地買収を 伴わない区域隣接地では建築可能階数が1階以上増加するケー スが多い。接道不良な地区における区域隣接地ではさらに建築 可能階数が増加する結果となっている。
図 3 シミュレーション結果の実効容積率集計(平均値)
集計結果から、住居系地域では建築制限による実効容積率の 減少は小さく、一方、商業系地域では、50%以上区域内である①、
④について建築制限の影響により土地利用自由度がある程度妨 げられていることがわかる。
接道条件の違いを見ると、接道不良の場合には2項道路によ るセットバックの影響や道路斜線制限の影響により既に使用で きない容積が生じているため、接道良好と比較すると建築制限 による実効容積率の減少は小さい。また道路整備後の実効容積 率については 50%以上区域内である①、④については、住居系 地域と同様に道路整備時点において敷地の大半が道路用地とな ることから大幅な実効容積率の減少となっているが、区域隣接 地である③、⑤については前面道路容積率や道路斜線制限によ り抑えられていた実効容積率が、道路整備により指定容積率ま で利用できるようになることを表している。このため、商業系 地域における区域隣接地では、道路整備後に土地利用を行うこ とに大きなメリットが生じることとなる。
5 建物更新に与える影響の実証分析 5.1 実証分析の方法
今回の推計モデルでは、建物更新に大きな影響を与えると予 想される建物の用途、建物の構造、築年数、耐震性能、地域性、
年次などをコントロールした上で、「長期未着手都市計画道路の 影響」や「見直し方針公表の政策効果」について、「実証分析1」
と「実証分析2」の2つのモデルを構築し分析する。
分析では、データ観測期間内に建物を更新していれば1をと るダミー変数を被説明変数とする。被説明変数が離散変数であ るため、プロビットモデルを構築し、長期未着手都市計画道路 の影響や見直し方針公表が建物更新に有意に影響を与えるのか について検証する。具体的には、図4に示すように分析対象建 物を長期未着手都市計画道路の区域から 50m 以内とし、「その他 立地」をベースとし、「50%以上区域内」、「50%未満区域内」、「区 域隣接地」に該当すれば1をとるダミー変数を説明変数に加え ることで分析を行う。
図 4 都市計画道路に関する立地分類
なお、「実証分析1」では長期未着手都市計画道路が建物更新 にどのような影響を与えているのかを実証するため、長期未着 手都市計画道路の見直し方針公表前のデータを分析対象とする。
また、「実証分析2」では、見直し方針公表前後データを分析対 象とし、公表の影響について DID 分析を行うため、「50%以上区 域内」、「50%未満区域内」、「区域隣接地」をトリートメントグル ープ、「その他立地」をコントロールグループとし、公表ダミー の交差項を「実証分析1」の説明変数に追加している。
5.2 使用するデータ
使用するデータは、都市計画基礎調査における建物現況調査
(長崎市)をベースとし、ArcGIS を用いて建築確認(長崎市)、 都市計画道(長崎市)、指定道路情報案内システム(建築基準法 上の道路種別)(長崎市)、用途地域、小学校区(国土数値情報)
3 など座標情報をもとに紐付けを行なっている。
5.3 推計モデル
実証分析1の推計式は以下のとおりである。なお、αは定数 項、βは係数、εは誤差項、iは建物固有、t は時間を表す。
建物更新 以上区域内
未満区域内 区域隣接地 接道不良 以上区域内 接道不良 未満区域内 接道不良 区域隣接地 接道不良 建物用途
建物構造 築年数 旧耐震 旧旧耐震
未登記 小学校区 年度
実証分析2については、実証分析1のモデルに都市計画道路 との関係を示す各変数と公表ダミーの交差項を追加している。
5.4 実証分析の結果と考察
5.4.1 実証分析1の結果住居系地域については接道良好な地区においていずれにも 該当しない立地と比較して、着目する①〜⑥の立地特性におい ては建物更新確率に統計的に有意な水準で影響を与えているケ ースは確認できない。
商業系地域については接道良好な地区においていずれにも 該当しない立地と比較して①:50%以上区域内の建物は更新確率 が 0.5%低く、②:50%未満区域内の建物は更新確率が 2.4%高く、
③:区域隣接地の建物は更新確率が変化しない結果が得られ、
このうち②については 1%有意水準で建物更新確率が高いこと がわかる。また、④:50%以上区域内の建物は更新確率が変化し ない、⑤:50%未満区域内の建物は更新確率が 0.8%高く、⑥:区 域に隣接する建物は更新確率が 1.8%低い結果が得られ、⑤・⑥ において 5%有意水準で建物更新確率が変化していることがわ かる。
表 1 実証分析1の推定結果(商業系地域)
プロビットモデル プーリング回帰プロビットモデル
非説明変数 1997~2009 年(13 年間)建物更新ダミー 各期(4 年間)建物更新ダミー
推定結果 限界効果 推定結果 限界効果
説明変数 係数 S.E δF/δx S.E 係数 S.E δF/δx S.E
① 50%以上区域内ダミー -0.119 (0.223) -0.015 (0.026) -0.108 (0.173) -0.005 (0.007)
② 50%未満区域内ダミー 0.481 *** (0.153) 0.084 *** (0.033) 0.372 *** (0.116) 0.024 *** (0.010)
③ 区域隣接地ダミー -0.018 (0.156) -0.002 (0.021) -0.005 (0.126) 0.000 (0.006) 接道不良ダミー -0.088 (0.116) -0.012 (0.015) -0.059 (0.093) -0.003 (0.005)
④ 50%以上区域内ダミー
×接道不良ダミー 0.090 (0.319) 0.013 (0.048) 0.093 (0.255) 0.005 (0.015)
⑤ 50%未満区域内ダミー
×接道不良ダミー -0.714 ** (0.300) -0.059 ** (0.014) -0.532 ** (0.242) -0.016 ** (0.004)
⑥ 区域隣接地ダミー
×接道不良ダミー -0.667 ** (0.300) -0.059 ** (0.016) -0.567 ** (0.250) -0.018 ** (0.004) 建物用途ダミー 0.084 (0.105) 0.011 (0.015) 0.042 (0.083) 0.002 (0.004) 鉄骨造ダミー -0.411 *** (0.158) -0.047 *** (0.015) -0.368 *** (0.123) -0.015 *** (0.004) コンクリート造ダミー -0.279 * (0.149) -0.033 * (0.015) -0.210 (0.130) -0.009 (0.005) その他造ダミー -0.005 (0.140) -0.001 (0.019) 0.065 (0.095) 0.003 (0.005) 築年数 0.002 (0.003) 0.000 (0.000) 0.000 (0.003) 0.000 (0.000) 旧耐震ダミー -0.294 (0.193) -0.034 (0.019) -0.174 (0.167) -0.008 (0.006) 旧旧耐震ダミー 0.070 (0.195) 0.009 (0.025) 0.222 (0.157) 0.010 (0.007) 未登記ダミー -0.010 (0.200) -0.001 (0.027) -0.094 (0.165) -0.004 (0.008)
町丁目ダミー (省略) (省略) (省略) (省略)
年度ダミー - - (省略) (省略)
定数項 -4.298 (114.606)
- - -4.490 *** (0.201) - -
対数尤度 -489.1646 -648.5560
LR chi2(Wald chi2) 72.27 (575.52)
サンプル数 1,794 5,382
注1) ***、**、*は、推定された係数がそれぞれ1%、5%、10%水準で有意なことを示す。
注2) ダミー変数の限界効果δF/δx は、ダミー変数が 0 から 1 に離散的に変化したものを示す。
注3) プーリング回帰モデルの標準誤差 S.E はクラスター頑健手法を用いた頑健な標準誤差を示す。
図 5 実証分析①の結果イメージ(商業系地域)
5.4.2 実証分析2の結果
紙面の都合上、推計結果の掲載は省略するが、推計の結果、
各立地特性による見直し方針公表の平均処置効果は接道良好地 区かつ 50%未満区域内である②の場合、見直し方針公表により 更新確率が 1.0%減少し、接道良好地区かつ区域隣接地である③ の場合、見直し方針公表により更新確率が 2.0%増加、接道不良 地区かつ 50%未満区域内である⑤の場合、見直し方針公表によ り更新確率が 3.9%増加、接道不良地区かつ区域隣接地である⑥ の場合、見直し方針公表により更新確率が 3.9%増加となった。
このうち③・⑥については 10%有意水準で建物更新確率が増加 している。
なお、50%以上区域内である①・④については見直し方針公表 後の建物更新サンプル数が不足しており推計ができないため除 外している。
長崎市における長期未着手都市計画道路の見直しでは、大半 の路線が廃止方針として公表されたことから、長期未着手路線 に起因した周辺環境の不確実性が大きく軽減されたため、土地 利用自由度増加への期待がなくなり建物更新を先送りするイン センティブが消失したことや、このためこれまで先送りされて きた建物更新が実行に移されたことを示す可能性がある。
図 6 実証分析②の結果イメージ(商業系地域)
5.4.3 実証分析結果のまとめ
まず、実証分析1において住居系地域では「50%以上区域内」、
「50%未満区域内」、「区域隣接地」について、接道条件に拘わら ず統計的に有意な水準での変化は見られなかった。これは、住 居系地域においてはシミュレーションで示したとおり建築制限 の実効的な効果が非常に低いためであると考えられる。
商業系地域については、「50%以上区域内」では、その他立地 と比べて建物更新確率に有意な影響を与えておらず、建築制限 の影響は大きいものの、道路整備時点ではサンクコストが移転 補償として補填されるため建物更新に負のインセンティブが働 いていない可能性がある。また「50%未満区域内」の建物更新確 率については接道状況に拘わらず建物更新確率が高くなる傾向 があることが実証された。これは、道路整備前に計画ラインま でセットバックして建替えることによって、道路整備後に既存 不適格や違法建築物なる可能性があるものの、土地の高度利用 が可能となるため、建物更新を道路整備前に前倒しするメリッ トが生じる可能性がある。
また、商業系地域における「区域隣接地」で接道条件が悪い 箇所では建物更新確率が低くなる傾向があることが実証された。
これは、道路整備による土地利用自由度増加への期待が非常に 大きいことから、建物更新を先送りして道路整備後に建物更新 を行うメリットがあるため建物更新に負のインセンティブが働 いている可能性がある。
4 これらのことから、仮説①「長期未着手都市計画道路は区域 内の建物更新を抑制する」については支持されず、仮説②「区 域隣接地においても建物更新を抑制する」については商業系地 域で接道が悪いことを条件として支持され、仮説③「建物更新 抑制効果は住居系地域・商業系地域や接道条件により異なる」
については支持された。
さらに実証分析2において、実証分析1で長期未着手都市計 画道路の影響が実証された商業系地域における見直し方針公表 の政策効果を検証したが、その結果、「区域隣接地」において見 直し方針公表により建物更新確率が有意に増加することが実証 された。これは、不確実性が軽減されたことで先送りされてい た建物更新を実行した可能性がある。このことにより、仮説④
「建物更新に関する影響は見直し方針の公表により軽減する」
は支持された。
5.4.4 仮説に反する実証分析結果についての考察 実証分析1において、商業系地域における「50%未満区域内」
の建物更新確率については接道状況にかかわらず建物更新確率 が高くなる傾向があることがわかった。これは、仮に見直しを 行っても存続することとなった路線については新たに別の問題 が生じる。図7は建物更新が前倒しされ、事業着手前に最大の 土地利用を行なった場合の事業実施時のケースを示す。都市計 画道路の事業が実施され、計画区域内が用地買収されることと なると、残地部分に残された建築物については用地買収により 敷地面積の減少が生じ、敷地面積が関係する規定(建ぺい率や 容積率)に適合しないこととなった場合は既存不適格建築物と して取り扱われることとなる。一方、道路斜線制限については 既存不適格の対象とされていないため、違法建築物となる。
図 7 事業実施段階での弊害
これは、違法建築物の法令改善に要する補償費の増加や、マ ンション資産価値の低下、またそれらに起因する用地交渉や事 業期間の長期化などが懸念されている。
この問題は、事業実施に関する取引費用を大幅に増加させる こととなり、仮に計画道路の供用が大幅に遅れることになると、
道路整備により便益を享受する社会への損失を発生させること となる。
6 まとめ
最後に、長期未着手都市計画道路の見直しに関する制度改善 の方向性及び今後の研究課題について言及したい。
6.1 政策提言
提言① 未着手路線の定期再評価を法制化
道路整備がなされるか否かの不確実性による社会的損失が 存在することから、再評価を義務化することで社会情勢への変 化に対応し、その都度再評価の結果を公表することで必要性が なくなった路線により生じる影響を取り除き、効率性を改善す る必要がある。
しかし見直しの結果、存続となった路線については依然とし
て建築制限による逸失利益(提言②で対応)や不確実性による 建物更新抑制効果(提言③で対応)を有する。
提言② 建築制限による実効容積率の制限に応じた固定資産税 補正措置を固定資産評価基準に明記
都市計画道路の区域面積に応じて土地の固定資産税を補正 する制度を導入している市町村も存在するが、全国的にばらつ きが存在するため、建築制限による実質的な土地利用制限に応 じた固定資産税の補正により、建築制限に起因した逸失利益を 緩和する。これにより、公平性の改善のみならず、不必要な路 線を放置することが行政コストとして認識され、見直しによる 検証を促進するインセンティブとなることから効率性も改善す る。
提言③ 計画決定と事業認可の中間的位置付けとして着手時期 などを含めた整備計画制度を法制化
現行制度では計画決定から事業着手時の認可までの間にお いて、いつ着手するかわからないといった不確実性を有するた め、整備計画公表により優先的に着手される路線と当面着手の 見込みがない路線を明らかになるため不確実性に起因する影響 を軽減し、効率性を改善することが可能となる。
提言④ 都市計画道路の事業認可前における道路斜線制限の後 退緩和は適用除外とする
現行制度では部分的に区域内であるケースにおいて都市計 画事業認可前に計画ラインまでセットバックして建物更新を行 うことによって、土地の高度利用が可能となることから、事業 実施時の取引費用の増加が生じる可能性があることから、都市 計画道路の計画決定と同時に道路斜線制限の後退緩和を適用で きないようにすることで、事業実施段階での違法建築物の発生 を抑制し、取引費用の増加を防止することができる。
6.2 今後の課題
今回事例とした長崎市においては、見直し方針の公表に基づ いた都市計画の廃止・変更手続きから日が浅く、都市計画道路 の廃止により建築制限が解消された場合の建物更新確率の変化 についてはサンプル不足により実証分析が行えなかった。建築 制限の解消によって建物更新の意思決定がどのように変化する のかを検証することも都市計画を行う際に必要となると考えら れる。このため、建物更新についてのデータの蓄積が必要とな る。
本研究においては住居系地域では長期未着手都市計画道路 が建物更新には影響を与えていない結果が得られたが、対象と した長崎市における住居系地域は大半が斜面市街地という地域 特性を有していた。商業系地域においては平地部であるため、
同規模の他都市においても同様の現象が生じていると考えるこ とができるが、他都市に適用する場合においては住居系地域に ついては影響の再評価が必要になると考えられる。
また、長崎市は人口減少が著しい都市の一つであり、人口動 態がどのように変化するかについても考慮する必要がある。今 後も人口増加が見込まれる都市においては、都市計画道路の整 備に対する期待や土地利用ニーズが異なることも想定される。
不確実性の解消については必要性は存在するものの、本研究と 異なる建物更新へのインセンティブが生じている可能性がある ため、留意が必要である。