1/3
論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨の公表
学位規則第 8 条に基づき、論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を公表する。
○氏名 小西 可奈(こにし かな)
○学位の種類 博士(スポーツ健康科学)
○授与番号 甲 第 1197 号
○授与年月日 2017 年 9 月 25 日
○学位授与の要件 本学学位規程第 18 条第 1 項 学位規則第 4 条第 1 項
○学位論文の題名 糖質介入が運動による中枢性疲労に与える影響
○審査委員 (主査)真田 樹義 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 橋本 健志 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 海老 久美子 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 木村 典代 (高崎健康福祉大学健康福祉学部教授)
<論文の内容の要旨>
スポーツ活動時に目的に適った理想的な動作を行うためには,力調節能力と実行機能が 重要な役割を持つ.運動を繰り返し行うあるいは持続する場合,力調節能力や実行機能の 低下,いわゆる中枢性疲労が生じる.その疲労に対して糖質は低減効果を有することが期 待されるが,運動時の中枢性疲労低減を目的とした糖質介入に関する知見はまだ不足して おり,多くの競技に広く活用できるような知見やガイドライン策定時に参照できるような エビデンスを蓄積することが課題である.
本論文は,運動時の糖質介入が力調節能力および実行機能の低下を抑制するかどうかを 検証し,中枢性の要因に着目した糖質の疲労低減効果について検討することを目的とし,
それらの研究成果を体系的にまとめたものである.
研究課題 1 では,運動時の糖質飲料摂取が力調節能力の低下を抑制するかどうかを検証 した.その結果,運動により低強度力調節課題中の標準偏差及び変動係数が増加したが,
糖質飲料摂取によりその増加が抑制された.しかし,糖質摂食後に実施した運動中の血糖 値は飲料摂取条件間で差が認められなかったことから,糖質飲料の摂取は血糖値を介する 経路とは無関係に力調節能力の保持に寄与している可能性が考えられる.このことは,糖 質飲料の摂取ではなく口内への曝露,つまり糖質飲料マウスリンスが力調節能力に影響を 及ぼす可能性を示している.
研究課題 2 では,最大酸素摂取量の 75%に相当する強度における 65 分間のトレッドミル 走運動前後で,正答率を制御したストループテスト不一致条件の反応時間を用い実行機能 を評価した.その結果,反応速度と正確性のトレードオフ効果を除外することで,運動に よる実行機能低下を検出できることが確認され,認知機能のトレードオフ効果を制御した 独自のプロトコルが開発できた.
研究課題 3 では,研究課題 2 のプロトコルを活用し,糖質飲料を摂取しないマウスリン スが運動による実行機能の低下を抑制するかどうかを検証した.その結果,運動後に実行
2/3
機能は低下したが,糖質飲料マウスリンスにより実行機能の低下が抑制された.
以上の研究成果により,運動時の糖質介入は力調節能力及び実行機能の低下を抑制する ことが明らかになった.また,糖質を摂取することなく口内への曝露のみで中枢性の疲労 を抑制出来る可能性が示されたことから,非エネルギー代謝的機序が中枢性疲労に寄与し ている可能性が示された.これらの結果は,運動時の栄養処方ガイドラインにおいて,こ れまで網羅されていなかった中枢性疲労に有効な栄養介入方法として活用できる可能性が 示された.
<論文審査の結果の要旨>
本論文の内容は,既に学術雑誌で発表している 2 編の論文を明瞭に系統立ててまとめた ものである.具体的には,適切な研究手法によって実施された 3 つの実験を,序論,総合 討論,総括,結論を含めた 7 つの章に体系付けてまとめており,論旨の明確性・一貫性も 十分にあると判断できた.
これまでに運動時の栄養介入が持久力や筋力に与える影響としては数多くの研究により 明らかにされてきたが,運動時の競技力に大きく寄与すると考えらえるスキルに着目した 効果的な栄養介入方法を検討した報告は非常に少ない.本研究は,スポーツ活動時に高い パフォーマンスを発揮するために重要と考えられる力調節能力や実行機能に着目し,糖質 介入がそれらの機能に与える影響を明らかにしようとしたものである.特に,現場を意識 し,栄養介入の実験であっても,通常の食事を摂取したうえでの糖質介入効果を検証する ものであり,スポーツ科学の領域において,現場応用に繋げやすい有意性をもつと思われ る.
本研究における独創的な点としては,中枢性疲労に対するエネルギー代謝としての糖質 介入効果というよりも,非代謝性の効果を示唆している点である.血糖値の上昇を介さず とも口内暴露のみで疲労軽減効果が期待できる点は,今後の栄養介入研究のみならず,認 知症の予防・改善等,臨床医療分野においても研究の発展性が期待できる.さらに,運動 疲労軽減のための栄養介入効果の検討としては,これまでスポーツ栄養学および運動生理 学分野において数多くの研究がなされてきたが,本論文はこれらの研究分野を融合させ,
糖質介入と客観的・定量的に評価しうる中枢性疲労との関連性を調査した点が挙げられる.
特に,研究課題 2 で独自に開発された認知機能のトレードオフ効果を制御した運動による 中枢性疲労の評価プロトコルは,今後,認知機能低下に対する様々な栄養介入効果の検討 に活用することが可能であり,さらなる研究の発展性が伺える.
予備審査では,タイトルにある中枢性疲労という大きな問題に対して,部分的な知見を 提示するに留まっており,全体的な研究の構成や,論議を深める必要があったが,本論文 では,コメントに対して十分かつ丁寧に対処し,構成の体系性も改善され,適切に修正さ れていることが確認できた.また,同様に,予備審査の段階では方法論や解釈の妥当性な ど,論旨を明確にする必要も感じられたが,本論文では適切に修正されていることが確認 できた.未だ糖質介入効果の詳細なメカニズムは不明であるものの,研究の限界点や課題 が整理して記述されており,関連する先行研究も適切に引用されている.
総じて,中枢神経機能の低下に着目し,糖質介入による,運動時の疲労軽減効果を検討 した本論文の論旨は明確であり,当該分野において高い学術的意義を有するものと判断で きた.
以上により,公聴会での口頭試問結果を踏まえ,本論文は博士学位を授与するに相応し いものと判断した.
3/3
<試験または学力確認の結果の要旨>
本学位請求論文について,2017 年 8 月 2 日(水)13 時 00 分より,BKC・インテグレーシ ョンコア大会議室にて公聴会を実施し,続いて 14 時 00 分から同場所で約 30 分間の口頭試 問を実施した.公聴会において,学位授与申請者は参加者の質問に対して十分な回答と説 明を行い,本研究の意図,成果,社会貢献性について参加者の理解は深まったものと評価 できる.本分野に精通している外部機関からの招聘副査を含む審査委員 4 名で行った口頭 試問においては,論文の新規性・独創性,研究方法の適切性,論旨の明確性を中心に確認 が行われ,申請者の十分な回答から,関連研究領域だけでなく,基礎となる豊かな学識を 有していると判断された.
したがって,本学学位規定第 18 条第 1 項に基づいて,博士(スポーツ健康科学)の学位 を授与することが適当と判断する.