博 士 ( 農 学 ) 廣 瀬 牧 人
学 位 論 文 題 名
地方公共団体の農業政策決定過程に関する研究
学位論文内容の要旨
本 論 文 は , 総 頁 数226頁 , 図41, 表73を 含 む 邦 文 論 文 で あ る 。 別 に 参 考 論 文4編 が添 え ら れて い る 。
国 の 農 業 政 策 決 定 過 程 に 関 す る 既 往 の 研 究で は , 得票 最 大 化 行動 に 基 づ く 政 治 家 の 影 響 力 行 使 が キ ー フ ァ ク タ ー の1っ と し て 認 識 さ れ て き た 。 し かし,県 レベル の地月公 ゴtI寸| 仆(以下 「地/´政府 」という 。)の農業 政 策 決 定 過 程 に お け る 政 治 家 の 影 響 力 行 使 の 態 様 に 関 する 計 量 的研 究 事 例 は 皆 無 で あ り , ま た , 世 論 の 変 化 な ど の 政 治 環 境 の 変 化や 農 業 政策 命 仆 に 関 す る 政 治 家 の 影 響 力 行 使 の 態 様 を 明 ら か に す る と い う観 点 か らの 分 析 は な されてい ない。
本 論 文 は , こ れ ら の 既 往 の 研 究 に お い て 残 さ れ た 課題 を 踏 まえ , 地 方政 府 の 農 業 部 門 へ の 財 政 支 出 総 額 を 対 象 に , 時 系 列 的 な 観点 か ら 分析 を 行 な い , 地 方 政 府 の 農 業 政 策 決 定 過 程 に お い て も 政 治 家 が 影響 カ を 行使 し て い る こ と を 確 認 す る と と も に , 政 治 家 が 行 使 し た 影 響 カ の大 き さ とそ の 影 響
. 力 行 使 の 方 向 を 計 量 的 に 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た も の で あ る 。 こ の よ う な 研 究 目 的 を 達 成 す る た め に は , そ の 前 提と し て ,地 方 政 府の 農 業 政 策 決 定 過 程 に 議 会 議 員 が 影 響 カ を 行 使 し 得 る 条 件が 存 在 する こ と を 確 認 す る こ と が 必 要 で あ る 。 こ の た め 本 論 文 は , ま ず @地 方 政 府の 予 算 編 成 過 程 に 関 わ る 制 度 と 実 態 及 び ◎ 政 党 の 得 票 構 造 と 農 業部 門 の 関係 を 検 証 し , そ の 上 で 地 方 政 府 の 農 業 財 政 支 出 規 模 の 決 定 に 関 わる 政 治 家の 影 響 力 構 造につい て分析 を行うと いうキ 冓成にな っている 。
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本 論 文 は,5章 か らな り , 第1章で は ,具 体的な分 析課題を 設定する と ともに 既彳i三の 研究成果 の整理をf7い,本研究の位置づけを明確にした。
第2章 で は ,地方政府 の政策決 定過程に 関する制 度とその 運用に関 し主 に定性 的な分析 を行い, @財政的 には地方政 府は中央 省庁に依存している が,事 務分担面 から見る と中央省 庁は地方政 府に依存 せざるを得ず,両者 の問に は,相互 依存的な 局面が存在していると考えられ,地方政府が『1ら の意志 を中央省 庁に対し て主張す る余地が残 されてい ること,@予算編成 は首長 主導で進 められる ものの, 議会の意向 も反映さ れるように運用され ていること,そして◎地方官僚は,予算編成過程における首長と議会の協調 的関係 を担保す るように 行動して いることを 指摘し, 地方政府の予算編成 過 程 に は , 議 会 議 員 が 影 響 カ を行 使 する 余 地 のあ る こと を 確 認し た 。 第3章 で は ,197】年から1983年の期間 に実施さ れた5幽の 衆議院選 挙と 4回 の 統一 地 方選挙を 対象にし た計量分 析を行い ,@農村 的地域が 保守系 A党 の 政党 基 盤で あ っ たこ と , ◎保 守 系A党の 得 票 確保 に は, 第1次 産 業 就 業者 数 が 重要な要 素となっ ていたこ と,◎保 守系A党の 得票増大 は,農 協の集 票能カに 多くを依 存してい たこと,@ これらの 傾向は,衆議院選挙
・統一 地方選挙 に共通し ており, かっ分析対 象期間を 通じて一貫している ことを 指摘し, 衆議院選 挙及び統 一地方選挙 の双方に おいて,農業部門は 保 守系A党 の 政党基盤 として大 きな役割 を担って いたので あり,国 の農業 政 策決 定 過 程及び地 方政府の 農業政策 決定過程 の双方で ,保守系A党には 農業部 門に利益 誘導する ために影 響カを行使 しようと するインセンティブ が存在していたことを確認した。
第4章 で は ,既往の研 究では捨 象されて いた政府 の意思決 定結果に 基づ く投票者の政党に対する評価のイ上方を加味した分析を彳了うため,地方政府 内部で の農業政 策の優先 度に関す る政策選好 と,農業 部門における地方政 府 の活 動 水 準に関す る政策選 好という2っの直接 観測をす ることが 不可能 な 潜 在 変 数 を 含 む 分 析 モ デ ル を 提 示 し ,LISRELモ デ ル を 用 い て 計 測 を 行っ た 。 その結果 ,@地方 政府の農 業政策決 定過程に おいても 保守系A ー672―
党は影響カを行使していたこと,◎保守系A党の影響カの行使は,地方政 府内部での農業政策の優先度を向上させるという方向で一貫して発揮され,
その影響カは,どの年次においても2番目に大きな影響要因であったこと,
◎保守系A党は,農業部門における地方政府の活動水準を高めるという方 向では影響カを行使しておらず,むしろ,農政批判が高まった時期にあた る1980年度には,農業部門における地方政府の淅勘水準を低下させるとい う方向で影響カを行使していたことを指摘し,保守系A党は,農業政策の 優先度を高めるという面では,支持基盤としての農業部1 −の期待に応えて いたものの,農業部門における地方政府の活動の拡充による農業の生産基 盤や農村の生活基盤の整備を通じて農業の一層の発展を園るという面では,
支持基盤である農業部門の期待に允分に応えていなかったということが明 らかになった。
第5竃では,各章の要約と,各分析結果に基づいて,以下のように結諭 している。
@地方政府には,地域への説明に際して,国の農業政策決定過程における 「政治的」意思決定を施策展開の正当性の根拠として利用し,自らの意志 決定の責任の所在を暖味にする傾rJがあったことは否めない。しかし,地 方政府の予算編成過程を対象として分析を行った結県,「政治的」とョう 言葉を意思決定に関わる政党問もしくは政党内部の政治的取引や,政党の 思惑を斟酌して行政実務を処理して行く官僚の行動としてとらえるならば,
地方政府の農業政策決定過程においても,「政治的」意思決定が行わる余 地が残されており,また,実際にも「政治的」意思決定が行われていたこ とが確認された。
@この「政治的」意思決定は,地方政府内部における財政面で見た農業政 策の地位を高めるという意味で農業部門にとって有利なものであったが,
いわゆる「三割自治」のもと,農業部門における地貞政府の活動の程度を 高めることを通じて農業者の厚生を増大させるという点では特に有斥I亅なも のとはなっていなかった。
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◎間接民主制の下では,地域住民は,自らの選択や諸利益の実現を議会議 員に託すことになる。従って,農業者や農業団体は,議会議員の選挙公約 や所属政党の政策綱領だけではなく,地方政府の農業政策決定過程におけ る議会議員の行動に,より一層の関心を払っていかなければならない。ま た,農業者が議会議員の行動を的確に把握するためには,地方政府の政策 決 定 過 程 の 透 明 性 を 高 め る よ う な 制 度 の 改 善 も 求 め ら れ る 。 以上のように,本論文は,従来あまり注目を集めてこなかった地方政府 の農業政策決定過程における政治家の影響カ行使の態様について,既往の 研究において残されていた課題を踏まえつつ,本論文提出者がはじめて計 量的に明らかにすることを試みるとともにf農業政策の展開に際して地方 公共団体の役割が重視される潮流の中で,地方公共団体の農業財政支出規 模の決定に関する政治的影響カ構造に関する客観的な議論の素材を提供し た点で,学術上極めて高く評価される。
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学位論文審査の要旨
主査 副査−
副査 副査
教授 教授 教授 助教授
黒 柳 太 田原 土 井 出 村
学 位 論 文 題 名
俊雄 高昭 時久 克彦
地方 公共団体 の農業政策決定過程に関する研究
本 論 文 は , 総 頁 数226頁 , 図 41, 表73を 含 む 邦 文 論 文 で あ る 。 別
に参考論文4編が添えられている。
本 論文は,既 往の研究に おいて残さ れていた課 題を踏まえ ,地方 政府 の農業部 門への財政 支出総額を 対象に,時 系列的な観 点から分 析を 行ない, 地方政府の 農業政策決 定過程にお いても政治 家が影響 カを 行使してい ることを確 認するとと もに,政治家がf↑他した影嚮 カの 火きさと その影響力 行使の方向 を計量的に 明らかにす ることを 目的としたものである。
第1章で は ,具 体 的な 分 析課 題 を設 定するとと もに既往の 研究成 果 の 整 理 を 行 い , 本 研 究 の 位 置 づ け を 明 確 に し て い る 。 第2章で は,地・方 政府の政策 決定過程に関する制度とその運用に 関し 主に定性 的な分析を 行い,@財 政的には地 方政府は中 央省庁に 依存 している が,事務分 担面から見 ると中央省 庁は地方政 府に依存 せざ るを得ず ,両者の間 には,相互 依存的な局 面が存在し ていると 考え られ,地 方政府が自 らの意思を 中央省庁に 対して主張 する余地 が残 されている こと,◎予 算編J戊は酋長主導で進められるものの,
議会の意rrも丿爻映されるように迎′nされていること,そして,◎地 方官 僚は,予 算編成過程 における首 長と議会の 協訓的関係 を担保す −675―
る ように 行動 して いる ことを 指摘 し,地方政府の予算編成過程には,
I議会議tが2捗幣)亅をそ・f使する余亅也のあることを讎認している。
第3帝では,I971qニから1983f|ニの期H‖に災施された51iJIの衆議|耽 選 挙 と4mJの 統 地方 選 挙 を 対 象に した 計鼠分 析を 行い ,くD農 村的 地 域 が 保 守 系A党 の 政 党 基 雛 で あ っ た こ と , ◎保 守 系A党 の 得 票 確 保 に は , 第i次 産 業就 業 者 数 が 重 要 な 要 素 と なっ て い た こ と , ◎保 守 系A党の 得票増 大は ,農 協の 集票能 カに 多く を依 存して いた こと,
@ これら の傾1幻 は, 衆院 選・ 統一地 方選 に共 通し ており ,か っ,分 析 対 象 期 間 を 通 じて 一 貫 し て い ること を指 摘し ,衆議 院選 挙及 び統 一 地 方 選 挙 の 双 方に お い て , 農 業 部 門 は 保 守 系A党 の 政 党 基 盤 とし て 大 き な 役 割 を 担っ て い た の で あり, 国の 農業 政策決 定過 程及 び地 方 政 府 の 農 業 政 策決 定 過 程 の 双 方 で , 保 守 系A党 に は 農 業 部 門 に利 益 誘 導 す る た め に影 響 カ を 行 使 しよう とす るイ ンセン ティ ブが 存在 していたことを確認している。
第4章 で は , 既 往の 研 究 で は 捨 象 さ れ て い た政 府 の 意 思 決 定 結果 に 基づく 投票 者の 政党 に対す る評 価の仕方を加味し、た分析を行うた め , 地 方 政 府 内 部で の 農 業 政 策 の優先 度に 関す る政策 選好 と, 農業 部 門にお ける 地方 政府 の活動 水準 に関 する 政策 選好 とい う2っの直 接 、 観 測 す る こ とが 不 可 能 な 潜 在変数 を含 む分 析モデ ルを 提示 し,
LISRELモ デ ル を 用 い て 計 測 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , @ 地 方 政 府 の 農 業 政 策 決 定 過程 に お い て も 保 守 系A党 は 影響 カ を 行 使 し て いた こ と , ◎ 保 守 系A党の 影 響 カ の 行 使 は , 地 方 政府 内 部 で の 農 業 政策 の 優 先 度 を 向 上 させ る と い う 方 向で一 貫し て発 揮され ,そ の影 響カ は , ど の 年 次 に おい て も2番 目 に 大 き な 影 響 要因 で あ っ た こ と ,◎
保 守 系A党 は , 農 業部 門 に お け る 地 方 政 府 の 活動 水 準 を 高 め る とい う 方 向 で は 影 響 カを 行 使 し て お らず, むし ろ, 農政批 判が 高ま った 時 期 に あ た る1980年 度 に は , 農 業部門 にお ける 地方政 府の 活動 水準 を 低 下 さ せ る と いう 方 向 で 影 響 カを行 使し てい たこと を指 摘し ,保 ―676―
守系A党は,農業政策の優先度を高めるという面でfま,支持基盤と しての農業部門の期待に応えていたものの,農業部門における地方 政府の活動の拡充による農業の生産基盤や農村の生活基盤の整備を 通じて農業の一層の発展を図るという面では,支持基盤である農業 部門の期待に充分に応えていなかったということを明らかにしてい る。
第5章では,以上の分析結果を要約し,地方政府の農業政策決定 過程に対する農業者等の対応として、地方議員の行動に一層の関心 をもち,同時に地方政府の政策決定過程の透明性を高めるような制 度改善の提言を行っている。
以上のように,本論文は,重要でありながら従来分析がなされて こなかった地方政府の農業政策決定過程における政治家の影響力行 使の態様にっいて,本論文提出者がはじめて計量的に明らかにする ことを試みるとともに,地方公共団体の農業財政支出規模の決定に 関する政治的影響力構造に関する客観的な議論の素材を提供した点 で,学術上極めて高く評価される。
よって審査員一同はI最終試験の結果と併せて,本論文の提出者 廣瀬牧人は,博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるも のと認定した。
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