博 士 ( 獣 医 学 ) 原 陽 子
学位論文題名
Studies on Infection and Propagation of
Neurotropic Viruses in Cultured Dorsal Root Ganglia Cells
(神経親和性ウイルスの培養背根神経節細胞における感染性と増殖性の研究)
学位論文内容の要旨
神経伝播を示すウイルスは末梢神経系から中枢神経系へと神経を伝播し、致 死的な脳炎・脳症を惹起する。神経伝播を示すウイルスとしては、狂犬病ウイ ルス、単純ヘルペスウイルス、ポルナ病ウイルス、オーエスキー病ウイルス、
豚血球凝集性脳脊髄炎ウイルスなどが挙げられる。これらのウイルスの神経細 胞内での感染および増殖機構を明らかにすることは、ウイルスの性状を理解す る上でも、これらのウイルス感染による疾患の予防・治療法を開発する上でも 重要である。
脊 髄背 根神 経節(DRG)は中枢神経系へのウイルスの侵入門戸またはウイル ス増殖の場として重要ぬ役割を果たしており、DRG細胞はこれまでに神経親和 性ウイルスの感染および伝播メカこズムを解明するための実験に利用されて きた。当研究室では、これまでに新生マウスDRG細胞を用いたin vitroの実験系 で高病原性トリインフルエンザウイルスの神経伝播の証明を行い、さらに細胞 骨格阻害剤を用いてこの伝播が微小管依存性軸索輸送とは異なることを報告 してVゝる。本研究では神経伝播を示すウイルスとして、豚血球凝集性脳脊髄炎 ウ イ ル ス(HEV)、 オ ー エ ス キ ー 病 ウ イ ルス(PRV)、 狂 犬 病 ウ イ ル ス(RV) を選択し、これらの感染および増殖にっいて新生マウスDRG,細胞を用いたzn vitro実験系で検索した。
第1章では、HEVの神経細胞における感染および増殖と細胞骨格との関連つ いて、微小管依存性に細胞内輸送をされることが証明されているPRVと比較検 討し た。 まず 、新生マウスのDRG初代培養細胞にHEVまたはPRVを接種し、そ の感 染性 を免 疫螢光 染亀 によ り検 討した 。そ の結果DRG神経細胞では、HEV およびPRV共にウイルス抗原が認められた。ー方、非神経細胞(シュワン細胞 および線維芽細胞)においては、ウィルス抗原がPRVでは認めちれたが、HEV では全く認められなかった。また、微小管または中聞径フィラメントの選択的 阻 害 に より 、DRG神 経細胞 にお けるHEVおよ びPRVの 感染 は有 意に抑 制さ れ た。これらの成績から、PRVと比較してHEVの感染はより強い神経細胞特異性 を有すること、および神経細胞での感染・はPRVと同様に微小管と中間径フィラ メントに依存することが明らかとなった。
第2章では、非常に強い神経親和性を有し、末梢神経から中枢神経系へと神 経伝播することが報告されているRVを用いて、同様の実験を行った。RVの検 出にはnucleoprotein (N蛋白)に対するモノクローナル抗体を用いた。RV抗原 は神経細胞と非神経細胞のいずれにおいても検出されたが、神経細胞の抗原陽 性細胞数はHEVやPRVと比較して低値であった。また、微小管、中間径フィラ メント、マイクロフイラメントの選択的阻害により、RV抗原陽性細胞数に有 意な変化は認められなかった。以上の成績より、RV抗原陽性細胞数の低値は、
神経細胞内での増殖速度もしくは伝達速度の遅さによるものと推察され、これ が動物およびヒトの狂犬病におけるウイルスの潜伏期間の長さと関連してい る可能性が考えられた。RVの感染および輸送が微小管およびアクチンフイラ メントに依存することが過去に報告されており、今回の成績と異なる理由につ いては、ウイルス粒子の輸送およびパッケー.ジングにはこれらの細胞骨格成分 が関与するが、ウイルスN蛋白は微小管およびアクチンフイラメントとは独立 した機構により合成される可能性,が推察された。また、RVの非神経細胞への 感染が認められたことから、これらの細胞がRVの神経細胞内での感染および 増殖の支持細胞として関与している可能性と、シュワン細胞における感,染が RVの神経伝播に関与する可能性が考えられた。
以上の結果は神経伝播ウイルスの感染および伝播様式の多様性を示唆して おり、これらのウイルス感染症の予防・治療法を開発する上で重要な知見と考 えられた。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 梅 村 孝 司
副 査 教 授 本 多 英 一 ( 東 京 農 工 大 学 ) 副 査 准 教 授 伊 藤 直 人 ( 岐 阜 大 学 ) 副 査 准 教 授 木 村 亨 史 ( 人 獣 セ ン タ ー )
学位論文題名
Studies on Infection and Propagatonof NeurotropiCViruSeSinCulturedDOrSalfbotGangliaCenS
(神経親和性ウイルスの培養背根神経節細胞における感染性と増殖性の研究)
神経伝播を示すウイルスは末梢神経系から中枢神経系へと神経を伝播し、致死的 な脳炎・脳症を惹起する。これらのウイルスの神経細胞内での感染および増殖機構 を明らかにすることは、ウイルスの性状を理解する上でも、これらのウイルス感染 による疾患の予防・治療法を開発する上でも重要である。本研究では、豚血球凝集 性 脳脊髄炎 ウイルス(HEV)、オーエスキー病ウイルス(PRV)、狂犬病ウイルス(RV) を 選択し、 これらの 感染およ び増殖に ついて新生マウスDRG細胞を用いて検索し た。初めにHEVの神経細胞における感染および増殖と細胞骨格との関連につ・いて、
微 小管依存 性に細胞 内輸送を されるこ とが証明されているPRVと比較検討した。
そ の結果、PRVと比較し てHEVの感染 はより強 い神経細胞 特異性を 有すること、
お よび神経 細胞での 感染はPRVと 同様に微 小管と中間径フイラメントに依存する こ と が 明ら か とな っ た 。次 に 、 非常 に 強い 神 経 親和 性を 有するRVに 関して、
nucleoprotein (N蛋白)に対するモノクローナル抗体を抗原検出に用いて同様の実 験 を行った 。その結果、RV抗原は神経細胞と非神経細胞のいずれにおいても検出 さ れたが、 神経細胞 の抗原陽 性細胞数 はHEVやPRVと比較 して低値 を示し、細胞 骨 格の選択 的阻害に おいてはRV抗原陽性 細胞数に有 意な変化 は認めら れなかっ た 。これら の成績から、RV抗原陽性細胞数の低値は神経細胞内での増殖速度もし くは伝達速度の遅さによるものと推察され、これが動物およびヒトの狂犬病におけ る潜伏期間の長さと関連している可能性が考えられた。また、ウイルス粒子の輸送 およびパッケージングには細胞骨格が関与するが、ウイルスN蛋白はこれらとは独 立した機構により合成される可能性が推察された。非神経細胞への感染が認められ た ことから 、これらの細胞がRVの神経細胞内での感染および増殖の支持細胞とし て 関与する 可能性と、シュワン細胞における感染がRVの神経伝播に関与する可能 性が考えられた。本研究成果は、神経伝播ウイルスの伝播および感染様式の多様性
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を示唆しており、これらのウイルス感染症の予防・治療法を開発する上で重要な知 見である。よって、審査員―同は上記博士論文提出者原陽子氏の博士論文は、北海 道大学大学院獣医学研究科規程第6条の規定による本研究科の行う博士論文・の審 査等に合格と認めた。
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