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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 宇 津 木    恵

    学 位論 文 題名

  Relationships of Occupational Stress to Insomnia     and Short Sleep in Japanese Workers

( 日本 人 労 働者 に おけ る職業性 ストレス と不眠お よび短時間 睡眠の関 連)

学位論文内容の要旨

背景・目的

  不眠や短時間睡眠が様々な疾患の発症や死亡、健康障害と関連していることが報告されて いる。継続的な不眠が高血圧や循環器疾患発症と関連することや、短時間睡眠が急性心筋梗 塞 の 発 症 や 総 死 亡 の り ス ク 上 昇 と 有 意 に 関 連 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。   努力 報酬不均衡モデル(ERDと要求度コントロールモデル(DCM)は、職業性ストレスの 評価に幅広く使用されている。両モデルから、身体的精神的疾患と不健康な行動との関連が 報告されている。先行研究より単に「ストレスが有る」と自覚する人に不眠や短時間睡眠が 多いことは報告されているが、職業性ストレスモデルと睡眠の関連についての報告はDCM との関連で数編のみであり、しかも対象者の不足や、調整すべき交絡因子を考慮に入れてい ないなどの問題点が指摘されている。

  以上の問題点を踏まえ、本研究は2つのモデルで評価した職業性ストレスと不眠・短時間 睡 眠 の関 連 を明ら かにする ことを目 的に、日 本人の労働 者を対象 に調査を 行った。

方法

  対象は3地方自治体および1運輸会社の職場健康診断を受診した21―64歳までの労働者 である。調査は自記式質問紙調査票を用い、インフオームドコンセントを得た男性7,195名、

女性1,858名の参加が得られた。そのうち調査票の不完全であった283名(男性198名、女 性 85名 ) を 除 外 し 、 男 性6,997名 、 女 性1,773名 が 解 析 対 象 と な っ た 。   職業性 ストレス モデルは 、ERIとDCMを用いた。日本版ERIは、努カに関する7項目と 報酬に関する10項目からなる。評価は努力、報酬でそれぞれ総得点のうち上位1/3を高ス トレス群とした。さらに、ERIの総合指標として高努カかつ低報酬の者をERI高ストレス群 とした。また、 Overcommitment(OC)"は、仕事に過度にのめりこむ行動様式の指標であり、

この値が高い場合も高ストレスとなる。評価は総得点のうち上位1/3の者をERI‑OC高スト レス群とした。

  他方、 日本版DCMは仕事要求度に関する5項目と、仕事自由度に関する項目6項目から なる。仕事要求度、仕事自由度のそれぞれ総得点のうち上位1/3を高ストレス群とした。そ して、DCMの総合指 標として 、高仕事要 求度かっ低仕事自由度のものをDCM高ストレス 群とした。

  不眠の評価には、妥当性の検討されてぃるアテネ不眠尺度(AIS)を用いた。AISは、入 眠、夜間覚醒、早朝覚性、総睡眠時間、総合的な睡眠の質に関する5項目と、日中の気分、

精神的・身体的活動、眠気についての3項目からなる自記式尺度である。得点は「全く問題 がない」の0点から「深刻な問題あり」の4点からなる計24点満点であり、6点以上を「不 眠」と分類した。

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  短時間睡眠は、過去1ケ月における状況について回答を求め、「1日の睡眠時間」のうち、

6時間未満睡眠を短時間睡眠者と定義した。

  全ての分析は、男女に分けて分析をした。最初に、一元配置分散分析(ANOVA)及びズ2 検定より、男女差に対する検討を行った。次に、ロジスティック回帰分析により、ストレス モデルと、短時間睡眠および不眠の関連について、オッズ比(OR)と95%信頼区間(95%cD を求めた。調整因子としては、年齢、職種、シフトワーク、労働時間、休日日数、BMI、喫 煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、およぴ学歴を用いた。

結果

  AISで不眠と判定された者は、男性23.9%、女性31.4%であった。男性では、低ストレス 群と比較して高ストレス群において、不眠の率が高く、中でも、ERIの高ストレス群で有意 に強い高いオッズ比を認めた(ERI高ストレス群:OR 11.45; ERI‑OC高ス卜レス群:OR 3.49;

DCM高ストレス群:OR 4.05)。一方、女性でも同様に高ストレス群において不眠率は高かっ たが、DCMの高スト レス群が 一番高いORを示した(ERI高ストレス群:OR 4.54; ERI‑OC 高ストレス群:OR 3.77; DCM高ストレス群:OR 8.03)。しかし、仕事自由度と不眠との間に は男女とも有意な関連は認められなかった。

  短時間睡眠との関連について、男性では、交絡因子調整前後共に仕事自由度を除き、低ス トレス者と比較して高ストレス者で有意に6時間未満睡眠の者が多かった(ERI高ストレス 群: OR 2.47; ERI OC高ストレス群:OR l.67; DCM高ストレス群:OR l.72)。女性では、ERI では高ストレス群で低ストレス群と比較し有意に6時間未満睡眠者が多かったが、DCMで は関連が認められなかった(ERI高ストレス群:OR l.77; ERI OC高ス卜レス群:OR l.63)。 考察

  本研究は多数の対象者に対し、職業性ストレスモデルで示されるストレスと不眠・短時間 睡眠の関連について報告した初の研究である。本研究から、2つの職業性ストレスモデルの 高ストレスが、不眠や短時間睡眠に関連していることが明らかとなった。その有意な関連は 交絡因子調整後も認められた。

  本研究で、我々はAIS6点以上のものを不眠群として分類した。先行研究から、日本人常 勤労働者の不眠率は凡そ17.3%ー29.9%であり、本研究の不眠率は男性23.9%、女性31.4% と先行研究と類似していた。また、先行研究同様、本研究においても男性より女性の不眠率 が高かった。

  本研究は、2つの異なる職業性ストレスモデルを用いている。先行研究からERIが外的因 子と内的因子を含むのに対し、DCM心理社会的職場環境という構造的素因のみに限定され ることが報告されている。また、前向きコホート研究.からERIに含まれる競争カや敵意とい った負の個人的特徴は、低仕事自由度と高仕事要求度の結果生じたという報告がある。加え て、高ERIと 低仕事自 由度が、高ERI、高DCMだけで評価した時より、より健康状態や慢 性症状を予測する因子となることが報告されている。今後の研究により、ERIとDCMの差や、

両者を合わせた際の効果について検討されることが望まれる。

  さらに、性差についても考慮に入れる必要があると考えられる。不眠と職業性ストレスモ デルについては、本研究から男性でERIの外的因子において有意に強い影響が認められた。

しかし、 女性では、ERIよりむしろDCMにおいて強い影響が認められた。本研究では、男 性より女性の人数が少ないため直接的に性差について検討することはできない。過去の総説 において、社会心理的因子に関して男性の結果を女性に適用することは不適切であることが,

指摘されている。男女の人数が異なった際の職業性ストレスのりスクの性差の評価方法の開 発も含め、今後の研究で検討されることが必要である。

  職業性ストレスと睡眠障害に関しての因果関係の機序については、十分に解明されてはい ない。しかし、職業性ストレスがコルチゾルの上昇と関連し、コルチゾルおよぴ視床下部下

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垂体副腎(hypothalamic‑pituitary‑adrenal: HPA)中枢の活性化が睡眠困難と関連してい ることが報告されている。このHPA中枢活性化が職業性ストレスに誘導された睡眠障害と 関連していることが考えられる 。

  本研究は、大規模集団を用い、妥当性・信頼性を検討された職業性ストレスモデルと睡眠 め関連について明からにした初の研究である。今後、前向き研究や介入研究で、職業性スト レスと他の健康障害との関連や、ストレスの軽減が不眠や他の健康障害を減らすかどうかの 検討が必要である。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

  Relationships of Occupational Stress to Insomnia     and Short Sleep in Japanese Workers

(日本人労働者における職業性ストレスと不眠および短時間睡眠の関連)

   過 去数 十 年間 に わ たり 、 不眠 や 短時 間 睡眠 が様々 な疾患の発 症や死亡、 健康障 害と 関 連し て いる こ とが 報 告さ れ て いる 。 努力 ・ 報酬 不 均衡 モ デル (ERI) と仕 事 自由 度 ・要 求 度モデ ル(DCM) は、 職場の心理 社会的スト レスを測定 する理論的 な職 業性 ス トレ ス の指 標 とし て 幅広 く 使 用さ れ ており 、高ストレ スが身体的 精神的疾 患や 不 健康 な 行動 に 及ぼ す 影響 が 報 告さ れ ている 。しかし、 職業性スト レスモデ ルと 睡 眠の 関 連に つ いて は DCM で 数編 見 られ る のみ で あり 、 対象 者 の 不足 や 、調 整す べ き交 絡 因子 を 考慮 に 入れ て い ない な どの問 題を抱えて いる。本研 究は職場 環境 ス トレ ス が不 眠 、短 時 間睡 眠 に 及ぼ す 影響を 明らかにす ることを目 的に、日 本人 の 労働 者 を対 象 に調 査 を行 っ た 。対 象 は4 職 域に お ける 職 場健 康 診断 を 受診 した 21 − 64 歳の 労 働者 で 調査 票 の完 全 であ っ た男性6 , 997 名 、女性 1 , 773 名 であ った 。 デー タ は自 記 式質 問 紙調 査 票 、健 康 診断よ り得た。不 眠の評価に はアテネ 不眠 尺 度(AIS) を用い 、計8 項 目総計24 点の うち、6 点以上のも のを不眠群 とした。

短時 間 睡眠 は 、過 去 1 ケ 月 に おけ る 1 日 の 平均 睡 眠時 間 につ い て聞 き 、6 時 間 未満 睡眠 を 短時 闇 睡眠 と 定義 し た。 本 研 究に お ける調 整項目は、 年齢、職種 、シフト ワー ク 、労 働 時間、 休日日数、 BMI 、喫煙 習慣、飲酒 習慣、運動 習慣、およ び学歴 とし た 。分 析 では 、 まず 男 女の 差 に つい て の検討 した後、ロ ジステイッ ク回帰分 析に て 不眠 、 短時 間 睡眠 と 各ス ト レ スモ デ ルの関 連について 検討した。 結果、本 研究対象者 の不眠率は 男性23.9 %、女 性31.4 %であった 。高ストレスの不眠への影

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司 一

   

   

研 玲

山 間

小 本

授 授

教 教

査 査

主 副

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響 で は 、 男 女と もDCM仕 事自 由 度を 除 き高 ス トレ ス 群で 高 いオ ッ ズ比 を 認 めた 。 特 に男 性 で はERI高 ス トレ ス 群で11.45と高 い オッ ズ 比が 得 られた一方 、女性では DCM高 ス 卜 レ ス 群 で8.03と 高い オ ッズ 比 を 認め た 。短 時 間睡 眠 との 関 連で は 、男     ず

性 で は 、DCM仕 事 自由 度 を除 き 高ス ト レス 群 で高 い オッ ズ 比を 認 めた が 、 女性 で はERIで の み 高 ス トレ ス 群に 高 いオ ッ ズ比 を 認め た 。不 眠 率に つ いて は 、 先行 研 究 と 比 較 し 、本 研 究の 対 象は ほ ぼ類 似 し てい た 。本 研 究か ら2つ の 異な る 職業 性 ス ト レ ス モ デル の 構造 の 違い が 結果 に 反 映さ れ たこ と が示 唆 され 、 加え てERIが 職 場 の 雰 囲 気と い った 職 場環 境 スト レ ス を示 す のに 対 し、DCMは 他者 と の 比較 か ら 生ま れ る 職場 環 境ス ト レス を 示し て いる と いう 項 目差 、 また女性で 心理社会的 因 子に 敏 感 なこ と から 女 性の 高 スト レ スに は 心理 的 な因 子 が男性より 強く関係し て いる と い う性 差 が考 え られ た 。本 研 究は サ ンプ ル サイ ズ の大きい集 団を用い、

不眠 、短時間睡 眠に影響を 与える交絡 因子を調整 して、信頼 性妥当性の 検討された 2つの職業性ストレスモデルに示される心理社会的職場環境のストレスが不眠、短時間 睡 眠の オ ッ ズ比 を 上げ る 要因 と なる こ とを 初 めて 明 らか に した報告で ある。特に 睡 眠に 関 す る調 査 では 、DCMよりERIの 方 がス ト レス 測 定の 有用な指 標であった 。 ま た不 眠 、 短時 間 睡眠 と スト レ スの 因 果関 係 、機 序 は未 だ 明らかでは ないが、今 後 の職 場 に おけ る スト レ ス対 策 では 、 不眠 、 短時 間 睡眠 対 策といった 取組みも加 えて 対策をとっ ていく必要 性が考えら れた。審査 において、 副査本間教 授から、今 回対象となった北海道の4職域が日本の平均の睡眠時間、不眠率と差がないか、短時間 睡眠者に不眠を訴える者が多かったか、睡眠障害はいつ寝たかが関係することからその 検討はしたか、短時間睡眠の季節差についての質問があった。次に、副査岸教授より性 差のDCMモデル とERIモデ ルの示す心 理的因子の 差について 、および今 後集団に対し て予防医学的に対応するにはどういった方策が考えられるかについて質問があった。ま た 、 主 査 小 山 教 授 よ り 抑 う つ の 因 子 を 考 慮 に 入 れ た か 、AISの 偏 り に つ い て 、 および各職場の職種について、また弓|き続き行う追跡研究の予定にっいての質問があ った。いずれの質問に対しても、申請者は自身の研究結果や先行研究を引用し、おおむ ね妥当な回答をしていた。

  この論文は、ストレスが不眠と短時間睡眠のオッズ比を有意に上げる要因であることを、

大規模集団を対象に信頼性妥当性の検討された2っの職業性ストレスモデルを用い初め

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て明らかにしたことで高く評価され、今後、予防医学的研究への発展が期待され る。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や単位取

得なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するもの

と認定した。

参照

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