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家蚕セリシンの主要成分の分離および 構造解明と利用に関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 高 須 陽 子

学 位 論 文 題 名

家蚕セリシンの主要成分の分離および 構造解明と利用に関する研究

学位論文内容の要旨

  セリ シ ンは 、カ イコ の 繭を 構成 する 糊状 の タン パク 質の総称であ り、繊維タンパク質である フィ ブロインの周囲を取り巻いて 、繊維を互いに接着してい る。製糸工程でiヨ牙IJ用されること な く廃 棄 され てき たが 、 近年 、大 量に 入手 可 能な 未利 用のタンパク 質素材であることから、医 用 材制 等 への 利用f謂 発が 期待 されている 。セリシンの利用を図るた めには、構造の決定された セ リシ ン につ いて 物性 お よび 機能 を評 価す る こと が望 ましいが、そ のために必要とされる技術 と ´庸 報 は十 分で はな い 。本 研究では、 第I章において、分解を伴わ ないセリシンの抽出法とセ リ シン 分子の 分離法を確立し、第II章にお いては、主要なセリシンの 分子構造を解明するため、

そ 加ぞ れ に対 応す る遭 | 斎を 同定 した 。こ れ らの 知見 をも とに 、 第m章 で は、 異種セリシンの 物 性 比 較 と 細 胞 接 着 促 進 陸 の 評 価 を お こ な い 、 分 子 構 造 と の 関 連 に つ い て 考 察 し た 。   ま ず 、 蒲 生(19B) の報 告に も とづ いて 、8M尿 素水 溶液 を用 いて カ イコ の繭 層か ら未 分 解の セ リシ ンを抽 出する条件を検討した。5% の2‐メルカプトエタノーリ レを含む800Cの8M尿素水溶 液 に繭 層断片 を2〜 10分浸潰・撹拌するこ とで、全本量の95%以ヒの セリシンを分解することな く抽 出できることがわかった。

  そこ で 、ゲ ルろ 過ク ロ マト グラ フイ ーに よ る未 分解 セリシンの相 互分離を検討したが、セリ シ ンが 分 子量300kDaを 超 える 高分 子を 含み 、8M尿 素水 溶液中におい てもゲル化することから、

現実 的に分離は困難と判断された 。そこで、2‐メルカプトエタノーリレを合む飽和チオシアン酸リ チ ウム 水 溶液 とエ タノ ー ルに よる分別沈 澱法を試みた。その結果、3種の主要なセリシンがそれ ぞ れ異 な るエ タノ ール 濃 度で 沈澱 した こと か ら、 この 方法によルセ リシンの相互分離が可能で あ る こ と が わ か っ た 。 主 要 な3種 類 の セ リシ ン はSDS PAGEに より 、 分子 量400、250、150kDa と 推定 きれ、 そ加ぞ加,中葡湘糸腺の中部 、前部、後部に局在するこ とから、これらをそれぞれ セ リ シ ンM、A丶Pと 名 づ け た 。 ア ミ ノ 酸 組成 の 比較 から 、セ リシ ンAは他 の2種類 と異 な る遺 伝子 から作られると予想され也

  主 要 な3種 頃の セ リシ ンに 対応 する 遺 伝子 を同 定す るた め 、リ シル エンpく プチ ダー ゼ を用 い てセ リシン を断片化し、得られたペプチ ドのアミノ酸配列の一部を 決定し、Serl遺伝子の塩基 酉 そ列 と 比較 した 。セ リ シンMを処 理 して 得ら れた ペ プチドのアミノ 酸配列から、セリシンMが Serl遺 伝 子の 産物 であ る こと が明らかと なった。また、同じ酵素で処 理したセリシンPの電気泳 動 パ タ ー ン から 、セ リシ ンPもSerl遭 伝 子の 産物 であ ると 推 定さ れた 。SDSPAGEに より 見 積も ら れ た 分 子 量か ら、 セリ シンMとPは 、そ れぞ れ セリ シン1Cお よび1B (Gareletal,1997)に相 当す ると考えられた。セリシンAから得られた4種のペプチド酉び|Jに対応する酉びUカミ&ガ遺云

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子に存在しなかったため、セリシンAはSerl遺伝子の産物ではないことが明らかになった。

  セリシンAとSer?遺伝子との対応関係の有無を調べるため、5b翻貴篋子の3.0kbの転写物の d)眦をR1弧Rにより増幅し、その塩基酉び|Jからコードされるタンパク質讎隣汾子量1蛇529 Dめのアミノ酸配列を決定した。この5羽タンパク質のアミノ酸組成はセリシンAのものと大 きく異なり、選択的スプライシングの存在に硼お鰍,1987)を考慮しても、アミノ酸組成の違 いを説明することが困難であったことから、セリシンAは,S勿遺伝子の産物ではないと判断さ れた。

  セリシンAをコードナる遺伝子を同定するため、Qーキモトリプシンを用いてセリシンAを断 片化し、得られたペプチドのN末端アミノ酸配列についてカイコゲノムデータベースを検索し た。対応する配列を含むコンティグが見出されたことから、これをもとにR1ぽCRをおこない、

セリシンAをコード尹ると予想される遺伝子の全長の塩基配列を決定した。この遺f妄子は分子 量121,4161瓰のタンパク質をコードしていた。このタンパク質がセリン含量の高い2種の反復配 列を含み、全体のアミノ酸組成がセリシンAのものと良く一致したことから、セリシンAをコ ードする第三のセリシン遺伝子として蹶ヨと名づけた。跏ヨがゲノム中に1コピー存荏し、5齢 カイコの中部絹糸腺の前部で多く発現することを確認した。セリシンAが5め遺伝子によって コードされるタンパク質の約2倍の分子量を持っことについては、何らかの修飾を受けている と考えられた。

  以上により、カイコの主要なセリシン遺伝子は、セリシンMおよぴPをコードする5別遺伝 子と、セリシンAをコードナる&B遺伝子であることが明らかになり、これらがそれぞ加連関 分析により見出された蹴廱位およびェ跏2座位に相当することが判明した。そして、いずれの分 子も、セリンリッチな反復配列を持っが、遺伝子によってその反復構造が異なるため、物性お よU湖舘彪も異なることが予想された。

  そこで、次に異なる反復配列を持っセリシンの物性の違いについて検討した。セリシンMお よびAのそれぞれの水溶液から得られたキャストフィルムは、湿熱処理によりいずれもp‐シー ト構造を形成したが、p ̄シート構造の含量はセリシンMの方が高かった。一方、セリシンAの 反復配列はセリシンMの反復配列に比べてp‐シート構造を形成しにくいことが一次構造から予 測され、フイルムの二次構造に関する実験結果と一致した。また、アミノ酸残基による疎水性 評価により、セリシンAはセリシンMに比べて親水性が高いと予測された。これらの物性に関 する実験および予測の結果は、最も繊維化しやす丶ヽ位置にあるセリシンAが最も繊幽 匕しにく い性質を持つことを示唆するものであることから、カイコは吐糸する際に、複数のセリシンを 物性に応じて使い分けていることが予想された。

  M缸贓dd(1995冫の報告にもとづぃて、セリシンの創傷被覆材としての利用可能性を検討し た。ヒト皮膚繊維芽細胞の初代培養細胞を用いて、未分解セリシンフイルムの細胞生育促進陸 を評価したところ、セリシンが培養祝期の細胞接着を促進することが明らかになった。3穫頃の セリシンのうち、セリシンMに高い細胞接着促進性が見られ、これに含まれるセリンリッチな 38残基の反復配列部分に主な活性が存在することがわかった。これにより、セリシンあるいは その部分ペプチドが細胞培養墓防あるいは創傷被鬢防として利用できる可能陸が示された。

  以上のように、本研究において主要な3種類のセリシンタンパク質と遺伝子との関係が明ら かになり、主要なセリシンタンパク質の一次構造が解明された。また、今回同定された遺伝子

.Sめは、遺伝子細換えカイコを用いた物質生産系への利用が期待される。このように、本研究で 未分解のセリシン抽出法と分離法を確立され、各セリシン分子の物性・機能評価を一次構造に 関連付けて検計尹ることが可能となったことで、セリシンの物性を制御し、その機能をI謂発す るうえで重要な基盤技術が確立し也

    ー268―

(3)

学位論文審査の要旨

主査   教授   伴戸久徳 副査   教授   木村淳夫

副査   准教授   滝谷重治(大学院生命科学院)

学 位 論 文 題 名

家蚕セリシンの主要成分の分離および 構造解明と利用に関する研究

  セリシンは、 カイコの繭を構成する糊状の タンパク質の総称であり、 繊維タンパク質である フィブロインの 周囲を取り巻いて、繃雛を互いに接着している。製糸工程でiヨ禾IJ用きれること なく廃棄されて きたが、近年、大慰こ入手可能な未利用のタ冫りくク質素材であることから、医 用材料等への利 用開発が期待されている。セ リシンの利用を図るために は、構造の決定された セリシンについ て物性およぴ隴能を評価する ことが望ましいが、そのた めに必要とされる技術 と情報は十分で はない。本研究は、分解を伴 わないセリシン分子の抽出 ・分離法を確立し、そ 加′ぞ加ーに対 肘る遺伝子を同定するとともに、異種セリシンの物性比較と細胞接着促進性の評 価をおこない、 分子構造との関連について考 察したものである。

1)セ リシ ン の抽 出と 主成 分の 分 離: カイ コの 繭層 か ら未 分解 のセ リ シンを抽出する 条件を検 討し、5%の2‐メルゥル プトエタノーリレを含む80cCの8M尿素水溶液に繭層断片を2‑,10分浸涜・

撹拌 する こ とで 、全 体量の95%以印つセリシンを分解す ることなく抽出できることを 明らかに した。次に、2‐メルカプトエタノーリレを含む飽和チオシアン酸リチウム水溶液とエタノールによ る分弓|彫嚇賢法によ り、3種の主要なセリシンの相互分離が司能であることを示した。主要な3種 類のセリシンはSDSPA(3Eにより、分`子量400丶250、15010aと推定され、それぞ加ー中商嫻糸腺 の 中 部 、 前 部 、 後 部 に 局 在 す る こと から 、こ れら を そ加 ぞ加 セリ シ ンM、 ムPと名 づけ た 。

2) セ リ シ ン タ ン パ ク を コ ー け る 遺 伝 子 の 同 定お よび 決定 :主 要 な3種 頃 のセ リシ ンに 対応 す る遺 伝子 を同定するため、リ シ′レェンl‑せプチダLゼを 用いてセリシンを断片化し、 得られ た ベプ チド のアミノ酸配列のー 部を決定し、勵イ遺伝子の塩 墓聖渺ばと比較した。セリ シンMを 処 理し て得 ら加 たペ プ チド のア ミノ 酸 配列 から 、セ リシ ンMがSer遺 伝子 の産 物 である ことが 明 らか とな った 。ま た 、同 じ酵 素で 処理したセリシンPの電 気泳動パターンから、セリ シンPも

& ガ 遺 伝 子 の 産 物 で あ る と 推 定 さ れt.‑o一方 、セ リ シンAから 得 られ た4種の ペプ チ嚠 に対 応 する 配列 がSW1遺 伝子 に存 荏 しな かっ たた め、 セ リシ ンAはSerl遺 伝子 の産 物 ではな いこと が 明ら かに なっ た。

  セリ シンAは アミ ノ酸 組成 の 比較 から &カ 遺伝 子 産物 では ないと判断されたため、僻 キモト

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リプシンを用いてセリシンAを断片化し、得られたペプチドのN末端アミノ酸配列にっいてカ イコゲノムデータベ.ースを検索した。対応する配列を含むコンティグが見出されたことから、

これをもとにRl:PCRをおこない、セリシンAをコー1サると予想される遺伝子の全長の塩基配 列を決定したところ、この遺伝子は分子量12L416Daのタンパク質をコードしていた。この遺伝 子産物はセリン含量の高い2種の反復配列を含み、全体のアミノ酸組成カ沌リシンAのものと 良く一致したことから、セリシンAをコードする遺伝子としてSer3と名づけた。また、&みが ゲノム中に1コビー存荏し、5齢カイコの中r;糸腺の前部で多く発現することを確認したセ リシンAがSer3遺f妄糾こよってコードされるタンパク質の約2倍の分子量剳寺つことから、何 らかの修飾を受けている可能性が考えられた。

3)セリシンの物性および機能の評価:異なる反復配列を持つ、これらセリシンの物性の違い について検討した。セリシンMおよぴAのそれぞれの水溶液から得られたキャストフィルムは、

湿熱処理によりいずれもpシート構造を形成したが、pシート構造の含量はセリシンMの方が高 かった。また、アミノ酸残基による疎水性評価により、セリシンAはセリシンMに比ぺて親水 性が高いことが予測されたふこれらの結果から、絹糸の最外層に位置するセリシンAが最も繊 維 化 し に く く 、 吐 糸 の 際 の 潤 滑 剤 と し て 適 し た 性 質 を 持 っ こ と が 示 唆 さ れ た 。   ヒト皮膚繊維芽細胞の初代培養細胞を用いて、未分解セリシンフイルムの細胞生育促進陸を 評価したところ、3種頃のセリシンのうち、セリシンMに特に高い細胞接着促進性が見られ、

これに含まれるセリンリッチな38残基の反復酉び啼汾に主な活性が存在することがわかった。

これにより、セリシンあるいはその部分ペプチドが細胞培養斟才あるいは會囎議瞞附として利

以上、本研究において、未分解のセリシン抽出法と分離法が確立され、主要な3種頃ロ)セリシ ンタンパク質と遺伝子との関係を明らとなったことで、各セリシン分子の物性・機能評価を一 次構造に関連付けて検討ナることが可能となった。以上の成果は、セリシンの物性を制御し、

そ の 機 能 を 開 発 す る う え で 重 要 を 基 盤 技 術 を 確 立 し た も の と い え る 。   よって審査員.一同は、高須陽子が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するもの と認めた。

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