大洗磯前神社への聖地巡礼
―奉納絵馬に注目して―
由谷 裕哉
1 問題の所在 大洗磯前神社は茨城県東茨城郡大洗町に鎮座し、延喜式の名神大社、 旧・国幣中社である。例祭に多くの参列者が詰めかけるだけでなく、日 常的にも数多くの崇敬者を集めている宗教的聖地である。 一方、ここ数年来、同社は複数のサブカルチャー作品(アニメ『ガー ルズ&パンツァー』、ゲーム・アニメ『艦隊これくしょん』)のファンに とって「聖地」と捉えられるようになり、氏子や一般参詣者とは異なる 人々が数多く訪れるようになっている。 ここで、アニメやゲームのファンにとっての「聖地」という用語法に ついて見ておく。通説では1、2002 年にTV放映されたアニメ『おねが い☆ティーチャー』のファンが同作の舞台モデルとされた長野県木崎湖 を「聖地」と称し、「巡礼」と称して訪れるようになったのが始まりと考 えられている。つまり、ファン集団におけるフォークタームということ になる(以下、聖地および巡礼にカギ括弧は付さない)。 こうしたアニメ聖地巡礼の研究は、ゼロ年代(2000 年から 9 年まで) の半ば頃から主に観光研究の分野で盛んになったため、聖地巡礼という 表現が宗教現象であるかのような誤解を招くとして、「舞台探訪」あるい は「コンテンツツーリズム」という形容を推奨する研究者もいる2。 それらに対して筆者は、かねてからアニメなどに関わる聖地巡礼の根 底には近世以来の巡礼や寺社参詣の伝統があるのではないか、という立 場からいくつかのアニメ聖地についての事例研究を発表してきた3。今回とりあげる大洗磯前神社は、上記作品の影響を受けた巡礼者によ って奉納された絵馬が、境内に多数掛けられているのが特徴となってい る(写真)。そこで本稿は、アニメを含むサブカルチャーに関わる聖地巡 礼が宗教的な行為であるのかないのか、といった先験的な問いを掲げる のではなく、まず奉納された絵馬を分析することを通じて、徐々にこう した問題に接近したいと考えるものである。 以下の立論では、次の第2節でサブカルチャー作品と関わりのある寺 社で絵馬が奉納されるケース、およびそうした絵馬奉納に関する先行研 究を概観し、第3節で大洗磯前神社とサブカルチャー作品との関わりの 経緯を見る。以上を踏まえて第4節において、2015 年 8 月 25 日時点の 悉皆調査に基づいて同社に奉納されていた絵馬を分析し、第5節で大洗 磯前神社への聖地巡礼について位置づけたい。
2 サブカルチャー作品と関わる寺社への絵馬奉納とその研究 これについては、2014 年に民俗学者・佐藤喜久一郎との共著で岩田書 院から上梓した『サブカルチャー聖地巡礼』(以下、前著と略)の第2章 で筆者が詳述したように、1992 年から5年間TV放映されたアニメ『美 少女戦士セーラームーン』および原作のファンが、5人の主要キャラク ターの一人が関係する「火川神社」のモデル麻布氷川神社(東京都港区) を訪れ、キャラクターの絵などを描いた絵馬を同社に奉納したのが始ま りと考えられている。聖地巡礼なる呼称がファンの間で流通するように なる、10 年近く前のことであった。 今世紀に入ってからは、いくつかの寺社でアニメやゲームの影響で作 品に関係する絵馬の奉納が見られるようになった。以下、丸括弧で作品 名と放映年を付記する形で、大洗磯前神社以外の主な例を作品の年代順 に列挙する。広島県尾道市の御袖天満宮(『かみちゅ!』、2005 年)、岐阜 県白川村の白川八幡神社(『ひぐらしのなく頃に』シリーズ、アニメ版 2006-2013 年)、埼玉県久喜市の鷲宮神社(『らき☆すた』、アニメ版 2007 年)、同県秩父市の曹洞宗定林寺(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知 らない。』、2011 年)、東京都千代田区の神田明神(『ラブライブ!』、TV アニメ版 2013-14 年)、などである。 聖地巡礼者によるこうした絵馬奉納に関して、いくつか先行研究も見 られる。代表的な論考は、いずれもゼロ年代から調査研究を始めたデー ル・アンドリューズと今井信治とによるもので、アンドリューズは白川 八幡神社4と宮城県護国神社(ゲーム『戦国 BASARA』)5、今井は鷲宮 神社6および秩父定林寺7について、それぞれ事例研究を行っている。い ずれも観光学からのアニメツーリズム研究とは異なり、宗教現象として ファン(巡礼者)による絵馬奉納を捉えている点には筆者も賛同する。 ここで両者による個々の論考について詳しく検討する余裕はないが、 〈1〉事例となる寺社と、それが含まれる地域社会との関わり、〈2〉作 品のテーマや語り口と絵馬を奉納するファンとの関連性、〈3〉巡礼者の 多様性、などの点があまり考察されていないのではなかろうか。
本稿では、先行研究が注目しなかった上記諸点をも考慮しながら以下 に分析を行いたい。 3 大洗磯前神社とサブカルチャー作品 本節においては、事例とする大洗磯前神社と複数のサブカルチャー作 品との関連を概観する。その際、これまでの絵馬奉納研究が等閑視して いた点として先にあげた三点のうち、〈1〉(事例となる寺社と地域社会 との関わり)および〈2〉(絵馬を奉納するファンと作品のあり方との関 わり)にも注目したい。 (1)大洗磯前神社と大洗町 大洗磯前神社は、延喜式神名帳巻九に鹿嶋郡の名神大社「大洗磯前薬 師菩薩神社」と載る神社を継承している。なお、神名帳の写本によって は「大洗磯前薬師菩薩明神社」もしくは「大洗磯前薬師菩薩明神」とも 記されている8。当地はかつて鹿嶋郡に含まれており、同郡では他に鹿嶋 神宮のみが、共に名神大社として神名帳に掲載されていた。薬師菩薩の 称は、延喜式の時代から神仏習合の環境にあったことを推察させる。 しかし、同社が元禄3年(1690)に水戸光圀によって現社地近くに遷 宮され 9、次代の藩主である水戸綱條の命によって『大洗磯前大明神本 縁』が撰述されるに至った10ことからも、祭祀から仏教色が払拭された と考えられる。この頃の社名は、同縁起のように「大洗磯前大明神」で あった模様である。江戸末期に手稿が作成された『新編常陸国誌』の第 5巻にも、鹿島郡磯浜の神社として「大洗磯前明神」と表記されており、 「官社」とある11。祭神は、大己貴命および少彦名命の二柱である。 一方で大洗町は、昭和 29 年(1954)に東茨城郡の旧・磯浜町と旧・大 貫町が合併してできた行政区画である12。磯浜町を中心とする現在の大 洗町に相当する地域の主体はかつては漁村であり、また大洗磯前神社と も近い祝町(磯浜町に含まれていた)は江戸時代からの花街であった13。 しかし、大正 11 年(1922)に水戸と磯浜を結ぶ水浜電車が開通するなど
水戸との公共交通が整備され始めたことにより、海水浴場として注目さ れることになった。戦後には 1952 年に開館した大洗水族館(現・アクア ワールド大洗)のような観光資源も誕生し、1979 年に重要港湾に昇格し た大洗港には 1985 年に北海道とを結ぶカーフェリーも就航するように なり、かつての漁村(花街を含む)から大きな港を有する観光の街へと 大きく変貌した。1986 年に上梓された『大洗町史(通史編)』985 頁によ れば、その2年前の 1984 年には 280 万人の観光客を数えたとある。当時 の町人口が約2万1千人であったので、その 100 倍以上の観光客が町を 訪れたことになる。 神社とそれが立地する地域社会との関わり(前節での〈1〉)について 見れば、神社側の出版物における記述の一には、「崇敬者は全国に亘る」 という『茨城県神社誌』(1973 年)の記述を併載しつつ、昭和 55 年(1980) の磯浜地区に限定した氏子数として 4097 戸、人口 14819 人をあげてい る14。つまり、氏子数が町の人口の過半数であるので、観光地に立地す る外部にも開放的な大きな神社にして、大洗を表象するかのような宗教 施設である、ということになる。これを上述〈1〉に対する第一の答と 考えたい。 第二に重要な点として、当地は 2011 年 3 月 11 日に罹災し、甚大な被 害を蒙った。震災復興モニュメントが建てられたアクアワールド大洗や 震災時の写真パネルの展示がある大洗リゾートアウトレットモールなど は主に津波による被害であったが、小高い丘に立地する大洗磯前神社は 地震の被害を受け、複数の鳥居を初め随神門・拝殿・本殿の一部が破損 し、鳥居の一つは上部が倒壊した。このように、東日本大震災に際して 大洗磯前神社と大洗町は運命共同体として罹災したのであり、このこと が後にサブカルチャー作品との関わりの契機ともなったのである。 (2)サブカルチャー作品との関わり そのサブカルチャー作品との関わりについては、その一端を前著でも 述べたことがあるので(同書 104-112 頁)、ここでは出来るだけ簡略に
纏めたい。 大洗磯前神社をファンが聖地の一と見なすコンテンツの一である『ガ ールズ&パンツァー』(以下、公式略称の『ガルパン』)は、2012 年 10 月 からTV放映された。同作は女子だけが参加するという設定の「戦車道」 高校生全国大会を描いたオリジナル・アニメであるが、事前の打診に際 して神社側が拝殿や境内を描かれるのを拒否されたため、大洗の街並が 初めて作品で描かれた第4話でも参道と大鳥居しか描かれなかった。な お、同作が大洗を舞台背景とするに至った経緯については、大きな港や 古い神社がランドマークになっている街であることに拠っていたらしい (前著 133 頁)。さらに、オープニング映像で「大洗女子学園」戦車道チ ームの隊長であるヒロイン・西住みほが水に沈む描写があったように、 大洗を震災にあった街だと暗喩的に表現した作品であるとも解釈できる (前著 104 頁)。この点は、前節で〈2〉としてあげた点(作品と絵馬を 奉納するファンの意識との照応)とも関わってくるであろう。 ともあれ、同年 11 月 5 日に鷲宮神社などへの絵馬奉納で知られる絵馬 師二人が同社を訪れ、作品キャラクターを描いた絵馬を奉納している(前 著 105 頁)。当初から神社側は、この種の絵馬に好意的であった。翌 12 月、これら絵馬師が奉納した絵馬を紹介するブログ記事が登場したこ と15、および『ガルパン』が最終二話を残して放送が一時中断したこと により、放映再開を求めるファンをはじめとしてイラスト入り絵馬(い わゆる痛絵馬)の奉納が次第に増え始めた(前著 107 頁)。 『ガルパン』は遅れて 2013 年 3 月に第 11、12 話が放映されたが、こ の月の 24 日に大洗町で行われた第2回海楽フェスタ(前年に、震災復興 を祈願して大洗町が始めた観光行事)に際して、大洗町商工会が第4話 で戦車が走った商店街のお店に 54 体のキャラクター・パネルを設置し、 この辺りから『ガルパン』と地元商工会とのコラボレーションが本格的 に始まることになる(前著 106 頁)。ただ、この時点ではこうした商工会 の動きと神社とは直接関係していなかった。 2013 年の翌4月、ファンが同社を聖地と見なすもう一つのコンテンツ
である、ブラウザゲーム『艦隊これくしょん』(以下、公式略称の『艦こ れ』)が始まる。これは旧帝国海軍の軍艦を少女に擬人化したキャラクタ ーをプレイするゲームであるが、キャラクターの一である軽巡洋艦那珂 の艦内神社であり、その忠魂碑が境内にある大洗磯前神社がファンの聖 地と認識されるようになった16。とはいえ、筆者が同年の8月に同社に 奉納されていた絵馬を調査した際には、『艦これ』関連の絵馬はまだ一桁 に留まっていた。 なお、詳細な日付けは不明であるが、同年9月頃、同社では増え続け る奉納絵馬に対応するため、境内の拝殿からヨリ遠い側に新たに六面の 絵馬掛け所を新設した。その際、コンテンツ絡みのイラスト入り絵馬の 多くをこちらに掛け替えた為、その後は拝殿に近い側に一般の信者によ る絵馬、遠い側にコンテンツのファンによる絵馬が掛けられる傾向が生 まれた。 翌 2014 年 1 月は、複数の点において神社とファンとの関係が変化した 画期と考えられる。第一に、『ガルパン』の主要キャラクター5人の版権 イラストが描かれ、背景に同社の「神磯の鳥居」画像がプリントされた 巨大絵馬が、境内に置かれるようになったことである。なお、巨大絵馬 は翌年から1月に更新されるようになっている。第二に、同月付けの社 報『大洗さま』の巻頭記事で、軍艦那珂が紹介されたことである17。こ れらは、かつてはアニメに拝殿や境内が描かれることを拒否されていた 同社が、サブカルチャー作品歓迎へと姿勢を変化させたことの現れであ ろう。 2014 年 2 月 17 日には、前年まで参列者が少ないため神社側が廃止を 検討していたとされる軍艦那珂忠魂祭(前著 135 頁)に、『艦これ』のフ ァンが参列するようになった。 その後については紙幅の関係で省略するが、以上を纏めると神社とコ ンテンツとの関係で当事例に特徴的な点は、二つあると考えられる。第 一に、これまでの例(御袖天満宮、白川八幡神社、鷲宮神社、秩父定林 寺など)と異なり、関連作品で拝殿などが映像化されたり寺社での祭礼
が描かれたりなどしておらず、同神社に物語上の重要な意味づけがなか ったという点である。第二に、(これは鷲宮のケースもそうであったが) 神社が町を表象するような存在であり、このケースに特有なのは大震災 に際して大洗町と運命共同体であったことであろう。二つのコンテンツ のうちとくに『ガルパン』が、先述のように大震災を罹災しつつ復興し た街として大洗を暗喩的に描いていたと考えられることを、ここでも想 起しておく。 4 大洗磯前神社への奉納絵馬 同社への奉納絵馬の分析については、奉納文(祈願文)の分類基準を 考察する所から始めたい。 (1)奉納文の分類基準と分類結果 絵馬に関して民俗学などからの研究が少なくないにも拘わらず(前著 94-98 頁)、奉納文の分類については、西海賢二による小田原市の菅原 神社および報徳二宮神社への奉納絵馬の分類が、民俗学プロパーとして ほぼ唯一の先行例ではないかと考えられる18。調査データに月日は付さ れておらず、平成4(1992)年度とのみ記されているものである。 前者は、祭神から予想されるように合格祈願が圧倒的に多くなってい るが(2220 枚中 1613 枚で、72.6%)、二宮尊徳が祭神である後者は、か なりの数の分類項目が出されていた。すなわち、全数 1368 に対して数の 多い順に、合格祈願(932)、学業成就(138)、心願成就(64)、身体健全 (63)、子供に関する祈願(37)、恋愛に関する祈願(33)、家内安全(32)、 複数祈願(27)、技能上達(20)、以下は一桁で、外国人祈願、厄除け、 商売繁盛、交通安全とされていた。 そもそも、個々の絵馬に書かれた祈願文を何らかの基準で分類しよう と試みると、どの項目に入れるべきか迷う文に必ず出遭う。例えば家族 の健康と平穏を祈るような、上記の西海による分類項目の「身体健全」 と「家内安全」と「複数祈願」のどれにも含まれるような書き込みが少
なくない。また、西海の「心願成就」はあまりにも曖昧に感じられる。 したがって、このような先行研究での分類項目を尊重しつつも、各事例 に即した項目を立てる必要があると考えられる。 筆者はかつて、ファンが絵馬を奉納するアニメ聖地の一である秩父定 林寺の絵馬について、調査報告を行ったことがある19。調査日は 2013 年 2 月 13 日、絵馬の全数は 635 枚であった。分類に際しては上記の西海の 項目を参照しつつ、合格祈願・学業成就(26 枚、全体の 4.1%)、健康祈 願(含・家族に関わる祈願)(22 枚、3.5%)というように、西海による計 四つの項目を二つずつ併せた項目を二つ設定した。一般的な祈願項目と しては、それぞれ3、4位であった(表1)。この時には一般的な祈願内 容以外を、「定林寺に特有と考えられる祈願内容」と「『あの花』の作品 やキャラクターに特化した祈願内容」へと再分割した為(前者が三次元、 後者が二次元を想定していた)、曖昧さが増したのではないかと反省して いる。 本事例でも定林寺で使用した分類項目と同様に、合格祈願と学業成就、 身体健全と家内安全を併せた項目を設定してみた(表2)。調査日は 2015 年 8 月 25 日で、表のように全数が 3259 枚の内、前者が 343 枚(10.5%)、 後者が 294 枚(9.0%)となり、それぞれ一般的な祈願内容の1、2位と なった。 なお、これら一般的な祈願項目以外の「コンテンツに関わる内容」(1488 枚、全数の 45.7%)は、後で詳述するが、特定コンテンツに関係するイラ ストが入っているか、関係する文言があるものに限定した。同じ事例に 基づいて先に口頭発表した際、その割合を多めにカウントしていたが、 本稿における集計ではかなり絞った。 一般的な祈願内容の他項目も、ほぼ西海の分類に沿っているが、上記 のような理由で西海の「心願成就」は立項せず(秩父の場合も同)、「外 国人祈願」「厄除け」は本事例では数が少ないという理由から立項しなか った。65 枚(2.0%)とカウントされた「クラブ活動・スポーツなど」は 西海の「技能上達」に対応するもので、本事例ではスポーツ(陸上など)
で全国大会に出たい、といった祈願内容がかなり見られた他、ピアノな ど習い事の上達もこの項目に含めた。なお、表1のように、秩父の事例 ではこうした祈願内容は、ほとんど見られなかった。 表1 秩父定林寺への奉納絵馬 (2013 年 2 月 13 日調べ) 表2 大洗磯前神社への奉納絵馬 (2015 年 8 月 25 日調べ) 分類項目 データ数 割合 分類項目 データ数 割合 恋愛成就・良縁祈願 52 8.2% 合格祈願・学業成就 343 10.5% 仕事関係(含・求職、 新生活) 29 4.6% 健康祈願(含・家族に関す る祈願) 294 9.0% 合格祈願・学業成就 26 4.1% 仕事・求職 88 2.7% 健康祈願(含・家族に 関する祈願) 22 3.5% 恋愛成就・良縁祈願 85 2.6% 経済状況の好転 11 1.7% クラブ活動・スポーツな ど 65 2.0% 外国語による祈願 7 1.1% 安産祈願・幼子の成長 40 1.2% 安産祈願(含・妊娠祈 願) 5 0.8% 交通安全 34 1.0% 交通安全 2 0.3% 経済(含・商売繁盛) 22 0.7% 定 林 寺 に 特 有 と 考 え られる祈願内容* 321 50.6% 複数祈願ほか 220 6.8% 『あの花』の作品やキ ャ ラ ク タ ー に 特 化 し た祈願内容 160 25.2% コンテンツに関わる内容 1488 45.7% 総数 635 100% 総数 3259 100% * 秩父に関して(含・聖地巡礼感想)、友人関 係、皆の幸せ、世界平和、東北震災復興、札所 関連、複数祈願など
「仕事・求職」は、秩父について論考を纏めた時にも疑問を投げかけ ていたが、西海の分類項目には見られないものである。時節柄か、秩父 ではこの種項目が 29 枚(4.6%)で一般的な祈願内容としては第2位であ ったが、本事例の 88 枚(2.7%)もその第3位であった。「複数祈願ほか」 の「ほか」には、友人関係や他の分類項目に含まれない心願成就をカウ ントした。 その他の一般的な祈願内容として、秩父では作品が恋愛を主要テーマ の一としていたためか、「恋愛成就・良縁祈願」が一般的な祈願項目の第 1位(52 枚、8.2%)であった。対して本事例では同項目が 85 枚(2.6%)、 それとも関連する「安産祈願・幼子の成長」が 40 枚(1.2%)と、それほ どの割合ではない。大洗磯前神社の祭神の一は大己貴命であり、別称の 大国主命は縁結びの神として信仰されることもあるが、それを意識する 奉納者が少なかったのかもしれない。 ここまでの考察で触れてこなかったのは「交通安全」および「経済(含・ 商売繁盛)」の2項目だけになるが、このうち前者(34 枚、1.0%)は本事 例に特徴的だと考えられるので、改めて次に検討しよう。 (2)交通安全の祈願 以下、この分類項目に含めた奉納文の過半数を引用することになるの で、前著で行ったと同じ転記の形式をとることにしたい。すなわち、絵 馬毎に冒頭に〇を置き、イラストがある場合は文章の前に丸括弧でその 旨を付記する。句読点がない場合、適宜補うこともある。 〇今年も無事故でたくさん走れますように! 2014 〇今年もハーレーで楽しく走れます様に。 〇2014 年ヘリティジで北海道へ行きます! 1年間安全運転で! 1年間無事故で! 〇目指せ! 年間1万 km 〇2015 年は必ずハーレーを買います♡ 〇Fun and Safe!! Happy Ride as I can, this year.
〇(バイクの絵)今年1年、無事故でありますように。 〇今年はいっぱいばいくにのりたい! 〇今年も健康、無事故で楽しく Ride ができますように。(後略) 〇ハーレーを買うぞ! 〇(2台のバイクの絵)今年もハーレーライフが楽しい1年になり ますように! 〇(バイクの絵)ハーレーのオーナーになる! 〇(バイクの絵)安全運転。 〇今年も無事故、無違反で楽しくツーリングが出来ますように! 〇北海道ツーリングを 120%楽しめますように! 〇安全にツーリングできますように。 〇無事故でたくさんツーリングができますように。 H27.5.23 〇50cc ライダー。初ツーリングで大洗! とても楽しめました! みなさんのツーリングがより良いモノになりますように! H27.8.16 ここまでに引用した奉納文に顕著な特徴として、二点をあげることが できる。一つは、引用しなかったものも含めて、表2にカウントした 34 件全てが拝殿から遠い、六面の絵馬掛け所にあること。引用文や付記し たイラスト内容のように、『ガルパン』『艦これ』に言及する奉納文が皆 無であるに拘わらず、それらはイラスト入り絵馬が多く掛けられている 掛け所のみに見られるのである。この分類項目以外の一般的な祈願を記 す絵馬には、このような傾向は見られない。 第二に、引用した 18 件のうち自動車の運転とも推測できるものが若干 あるとはいえ、大半がバイクによるツーリングに関すると考えられるこ とである(3番目の「ヘリティジ」は、ハーレーダヴィッドソンの車種 と思われる)。つまり、大洗磯前神社はバイク乗りが好んで立ち寄る場所、 ということになる。北海道へのツーリングに関する記述が引用中2件あ るのは、大洗港からバイクと一緒にフェリーに乗船する、という意味だ と思われる。前節で見たように、これはフェリーが停泊する大きな港を 持つ(その点が、『ガルパン』の舞台モデルに選ばれた理由の一でもあっ
た)大洗の特徴に関わっている。 以上はコンテンツと無関係な、一般的な祈願内容に分類した絵馬の奉 納文であったが、コンテンツ絡みの絵が付されている絵馬にも、交通に 関わるものが少なからず見られる。典型的なのは、デジタル写真の画像 に『ガルパン』若しくは『艦これ』のキャラクター絵を重ね合わせた絵 馬を数十枚奉納している人の絵馬で、彼はバイク乗りらしい。代表的な 奉納文を複数あげておく。 〇(バイクに腰掛ける角谷杏)来たれ! 二輪道!! ヨロシク~☆ 清く正しい二輪道の発展を願います!! 〇(バイクの右に秋山優香里)~同じ趣味の人達と出会える機会が増 えますように~ スミマセン、一人のツーリングがほとんどなもの でして.... 〇(ナカジマと右後にバイク)~走りたくなる道を色々みつけられま すように~ 安全運転でいきましょう! メロンロードもゆっくり でいいよ~ 〇(バイクに乗るアンチョビ)コツコツ貯めて買ったんだ♪ 愛車を これからも大事に乗れますように!! 以上は、『ガルパン』キャラクターの口調や設定をまねた書き込みとな っており、「ゆっくりでいいよ~」は台詞の引用である。奉納者は『ガル パン』の大ファンだと推測されるが、同じ人が那珂を描いた絵馬や、大 洗磯前神社拝殿工事の写真を背景として「改修作業が順調に進みますよ うに」と記した絵馬もあった(同社は 2014 年から 15 年までの1年弱、 震災被害からの修復のため、拝殿・本殿・神門の工事を行っていた)。し たがって、大洗磯前神社にも何らかのこだわりを持つバイク乗りなのだ と思われる。 コンテンツ絡みの交通安全祈願で、別の人による絵馬も見ておく。後 者は自転車での巡礼を記すものである。
〇(秋山優香里)交通安全! バイクも最高だぜ!! 〇(キャラクター識別困難、カチューシャか)東京からチャリで来た よ。また大洗で、おいしい料理食べられますように。2014.9.30 (3)コンテンツに関わる内容 次に、コンテンツに関わる絵馬の動向を概観したい。上記表2のよう に、総数 3259 枚に対して、1488 枚(45.7%)と計数されたものである。 なお、(2)で末尾にあげた6件も、こちらに含まれる。 これら特定コンテンツに関わる祈願文を有していたり、キャラクター の絵を描き込んだ絵馬については、一般的な祈願内容に対して行ったよ うな分類を現時点でしていない。どの分類項目に入れるか、が一般的な ものよりさらに定めづらいからであり、キャラクターの絵と共に一般的 な祈願文が書かれることさえある。それに対して前著では、コンテンツ に関わる奉納文の傾向について「アニメ聖地に特徴的な祈願文」として、 「聖地の繁栄・永続性を願う」「死者供養」「二次元の世界での願望など」 「震災復興祈願」「世界平和」「皆の幸せ」という6テーマを設定してい た(前著 112-128 頁)。 前著では大洗磯前神社を含むアニメ聖地に奉納された、およそ 2014 年 3 月頃までに筆者が調査できた絵馬の奉納文を母集団としていたので、 本稿ではそれ以降に大洗磯前神社へ奉納された絵馬を対象にしたい。な お、その対象に関して「死者供養」「二次元の世界での願望など」がほと んど見られないか考慮する必要性を感じなかったので、それ以外の4テ ーマについて以下見てゆくことにする。転記の方法は、先の「交通安全 の祈願」と同様である。 [聖地の繁栄・永続性を願う] 前著でも記したように、大洗磯前神社へのイラスト入り絵馬奉納の第 1号である絵馬師「拝身朋幸」が常套的にこの種の祈願文を書き込むの で、他のアニメ聖地と比べても数が多いと思われる。前著(115-116 頁)
では大洗に関して 15 件書き上げていたが、それ以降もこの種の祈願文は 数多く見られる。したがって、以下は絵も含めて特徴的なものに限定す る。 〇(大野あや)大洗が良い町であり続けますように。2014.5.3 〇(川内三姉妹)もっと元気に大洗。 〇(西住みほ)ガルパンと大洗がこれからも多くの人に愛されますよ うに。2014 年 5 月 5 日 〇(アンチョビ)大洗の地とガルパンが末永く愛されますように。 2014.7.20 〇(西住みほ)大洗がいつまでも楽しい町でありますように。 〇(西住まほとティーガーⅠ)大洗の発展とガルパン2期を願って! 拝身朋幸 2014.11.16 88 枚目 〇(丸山紗希)大洗....また来るとこ。2014.11.17 〇 ( ぴ よ た ん と 三 式 中 戦 車 ) 大 洗 の 発 展 を 願 っ て ! 拝 身 朋 幸 2014.12.3 99 枚目 〇(小山柚子)大洗の町がもっと発展しますように! 水戸にも来て ね~by 水戸市民 〇(鶴姫しずか;『ガルパン』のスピンアウト作品のキャラクター)こ れからも大洗が元気でありますように。(後略) 〇(不明イラスト)奇跡の街大洗との出会いに感謝と、今後の更なる 発展を祈念して。2014/12/31 〇(ダージリン)大洗の末永い繁栄を願って・・・(後略)H27/1/29 〇(アンチョビ、カルパッチョ、ペパロニ)大洗の発展とガルパン劇 場版の成功を願って!!2015.2.27 〇(蝶野亜美)大洗町がいつもにぎやかでありますように!!(後略) 2015.7.11 〇(ダージリン)大洗町の繁栄とガルパン映画が成功しますように!! 2015.8.22
[震災復興祈願] 本稿でも既に述べたように、当地は東日本大震災の罹災地である。こ のことに関連して、前著(121 頁)でも震災復興を祈願する文章が記され た同社への奉納絵馬を7件紹介していた。しかし、時間の経過と共に、 この種の絵馬はあまり奉納されなくなっている。 〇東日本大震災、GO AHEAD 東北。 〇大洗がますます元気になりますように。宮古含め震災地域が早く元 に戻りますように。(後略) 前著以降に確認できたこのテーマの主な絵馬は、キャラクター絵の無 いこの2枚ではないかと思われる(コンテンツに言及せず、かつ複数祈 願の一で震災復興を記す絵馬は他に複数あった)。最初のものの“GO AHEAD"は、『ガルパン』の台詞であり、後半のものは後略とした箇所に 『ガルパン』に関わる書き込みがある。 [皆の幸せ] 前著では、合格祈願や病気平癒のような現世利益・利己的な祈りや願 いと異なる、アニメ聖地で生成しつつある「新しい祈り」と位置づけ、 大洗磯前神社に関しても7件をあげていた(前著 126-129 頁)。しかし、 このテーマに関しても、2014 年 3 月以降は顕著に見られるというほどで はなかった。 〇(西住みほと那珂)大洗とお友達みんなの幸せを祈って。 2014.3.10 〇(稲富ひびき)大洗のみんながしあわせになりますように!(後略) 2014.7.19 〇(秋山優香里)大洗とすべての世界がシアワセでありますように! 2014.7.20 〇(那珂)みんなが幸せになれますように! 2015 年 3 月 15 日 〇(那珂)みんながそれぞれそれぞれの場所で幸せになれますよう。 2015.5.29
以上が主なものであるが、那珂のみを描いた2件を除いて大洗が言及 されており、先の「聖地の繁栄・永続性を願う」テーマに近い内容とも 考えられる。 [世界平和] 前著でも見たように、色々なアニメ聖地に見られる祈願内容の一であ る。大洗の場合、『ガルパン』も『艦これ』もミリタリー物コンテンツで あることから、前著(124 頁)でも9件を紹介していた。その後に奉納さ れたものの中で、目立つものを以下に列挙する。 〇(マイクを持って歌う那珂と、背景に忠魂碑の写真;前出のバイク 乗りによる絵馬)皆様が安心できる平和な世の中でありますよう に!! 〇(那珂)戦争はゲームの那珂だけにしてくださいね! 〇(那珂)平和でありますように。2014.5.4 〇(ピースサインの那珂)世界が平和でありますように! 2014.6.21 〇(ピースサインの那珂と武部沙織;二人のコスチュームが逆、前日 と同じ奉納者)平和でありますように! 2014.6.22 〇(笑顔の那珂)那珂 chan 追悼 祖国を思い、家族を案じ、戦地へと 赴いて命を失った方々、戦禍に犠牲となったすべての人に謹んで哀 悼の意を表します 2014.8.16. 〇(カメラを持っている不明のキャラクター、『たまゆら』の沢渡楓か?) 願い事 世界平和 2014.11.15 〇(マイクを持って歌う那珂)来年もまた、世界が平和でありますよ うに。2014.12.22 〇 ( 和 装 の 那 珂 ) 世 界 が 平 和 で あ り ま す よ う に ! 拝 身 朋 幸 2014.12.28 101 枚目 〇那珂ちゃん!! 世界がそして大洗が、いつまでも平和であります ように。平成 27 年 1 月 28 日 〇(オレンジペコ)天下泰平 二〇一五年二月廿五日
〇(河嶋桃)I pray for peace and happiness throughout the world. May God bless the people of Japan. June 20, 2015
〇(大野あや)2015 年大洗海開きカーニバル 護衛艦ちくま ちょー すごいんですけどぉ! 他にも巡視船あかぎ、パトリオットなどの 展示、さらには(後略) 2015.7.11 〇(あんこうチーム5人)ぱんつぁーふぉーです!! 世界平和!! 2015/8/24 流石にこのテーマの奉納文には那珂(当社境内に忠魂碑がある)のイ ラストが多いが、『ガルパン』もミリタリー物であるため、平和や戦争関 連で想起されることがあるのだと推察される。 なお、引用中 2015 年 7 月 11 日付けの書き込みについて付記しておく。 この日と翌日、「海の月間 艦艇公開 in 大洗」が行われ(奉納文の行事 名は誤り)、『ガルパン』のキャラクター西住みほと角谷杏のパネルが会 場に置かれたり、護衛艦ちくまの入港に当たって陸上自衛隊音楽隊が『艦 これ』アニメ版のテーマ曲を演奏したりなど、両作とのコラボレーショ ンがなされた20。絵馬は、それを踏まえての書き込みであろう。 5 考察とまとめ 前著(82 頁)でも触れたことであるが、絵馬の奉納文や巡礼ノートへ の記載を分析者の興味に沿って抽出することには、批判もある。その意 味では、絵馬の奉納文全体に対してテキストマイニングを行う必要があ るのかもしれないが、前節で行った引用に関する限り、奉納絵馬全体に 一つの方向性を見出すことを目的としていない点を強調しておく。 というのは、前節で引用した奉納文の執筆者(聖地巡礼者)に関して、 大きく3つの傾向が見出せるのではないかと筆者が考えるからである。 順不同で、①商店街を含む大洗のファン、かつ『ガルパン』の大ファン、 ②バイクファン、自転車ファンなど、自分の身体を多少苦しめても遠方 に行くのが趣味の人々、③ミリタリーに興味を持つ人々、海軍や戦死者 に思い入れのある人々、となる。これは、先に奉納絵馬に関する先行研
究の問題点としてあげた〈3〉(奉納者の多様性を顧みない姿勢)への代 案提示になるとも考えられる。以下、順に見てゆきたい。 ①に相当するのは、「聖地の繁栄・永続性を願う」テーマに抽出した奉 納文のうち、自分の絵を他人に見せることを目的とする絵馬師を除いた 人々である。「皆の幸せ」で引用したうち、大洗に言及した絵馬も含めて 良いであろう。奉納者は、主に『ガルパン』(少数だが『艦これ』も)の 好みのキャラクターを絵馬の裏側に描き、大洗がいかに素晴らしい場所 であるかを記している。「奇跡の街」と形容した人さえいた。 本稿は大洗磯前神社に焦点を絞っている為これまで詳しく触れなかっ たが、先に 2013 年 3 月 24 日のこととして記した『ガルパン』キャラク ター・パネルの設置後、作中で戦車が走った商店街は「100 円商店街」な るイヴェントをしばしば行うようになった。同イヴェント時のみならず、 週末になると人気キャラクターのパネルの置かれた主に食品関係のお店 をファンが訪れ、店の方と親しく語り合ったりするようになっており、 パネルとお店の紹介に力点を置いた大洗のガイドブックも刊行されてい る21。ファンの多くは比較的若く、おおむね男同士で連れだって大洗を 訪れ、商店街を散策した流れで大洗磯前神社を訪れたりしている。絵馬 に先のような奉納文を書き込んだ人たち(絵馬師以外)は、こういった 商店街のホスピタリティに魅了されて大洗を訪れる『ガルパン』の若い 男性ファンと、ある程度重なる部分があるように思われる。 コンテンツツーリズムとの関わりという点では、作品の舞台背景を捜 して特定するという行為とは無関係であるが、作品キャラクターのパネ ルが置かれているお店、というコンテンツゆかりのホストのファンとな った点において、彼らはコンテンツツーリストに近いと云えるのではな いだろうか。 ②は、「交通安全の祈願」に関する奉納文としてあげた人々にほぼ対応 する。彼らは、全国のアニメ聖地に見られる苦行タイプの巡礼者(前著 27-28 頁)と類似するように思われる。とはいえ、彼らのうち写真画像 とキャラクター画像を貼り合わせた絵馬を奉納している人は、描いてい
る『ガルパン』キャラクターとバイクとを照応させて描いていることか ら、バイク乗りである自分と『ガルパン』というコンテンツや大洗とい う場所(および、先述のように大洗磯前神社)との対応に、特別のこだ わりがあるものと思われる。 コンテンツツーリズムとの関わりという点では、この写真絵馬の人は 比較的濃く、その他の一般祈願に入れた 34 件の奉納者はかなり薄い(そ れでも、拝殿から遠いイラスト入り絵馬が掛かる絵馬掛け所に奉納して いる)、と差があると考えられる。なお、後者の一部は、コンテンツとの 関わりではなく、大洗を北海道とのフェリーが就航している港のある街、 と考えているであろう。 ③は、「世界平和」としてまとめた奉納文を書いた人々と対応する。彼 らの一部は、これも本稿ではこれまで詳しく触れなかったが、大洗磯前 神社での 2 月 17 日の軍艦那珂忠魂祭を訪れる人たちと近いように思わ れる。 筆者は 2015 年度のこの神事に参列したが、ご遺族1組を除く 10 人ほ どの参列者(全て男性)のうち、ご家族に戦死者ないし海軍関係者がい ることから供養のつもり参列した、などと仰る方が3名いらっしゃった。 いずれも、商店街を日常的に訪れる『ガルパン』ファンよりかなり年配 で(40 代くらい)、忠魂祭にきわめて真摯に参列されていた。この人たち にとって大洗磯前神社および那珂の忠魂碑は、戦死者や帝国海軍を表象 する存在だと考えられる。 先の奉納文にも見られたように、ここで仮に③として纏めたグループ にも、海上自衛隊のイヴェントに言及した人のようなミリタリー・マニ アに近い人から、「那珂 chan 追悼」の絵馬に戦死者哀悼の文言を記した 人まで、かなり幅がある。しかしながら、戦死者・海軍ないしミリタリ ー一般を表象する存在として大洗磯前神社(と那珂の忠魂碑)を捉えて いる点では、先に①②と纏めた人々に比べて、また合格祈願など一般的 な祈願を絵馬に書き込む人々に比べても、神社に対する思い入れや宗教 的な関心(慰霊・追悼など)が強いと考えられる。もちろん、同社境内に
那珂の忠魂碑が祀られていることは『艦これ』に関するオンライン情報 によって知るに至ったのであろうが、そのことで彼らをコンテンツツー リストと呼ぶのは適当でないように思われる。 さらに、ここでは絵馬の奉納文から凡そ3通りの聖地巡礼者像を描い てみたが、その他にも一般参詣者以外の多様な人々が、同神社に聖地巡 礼していると考えられる。本稿では考察に至らなかったものの絵馬奉納 文はいくつか引用した、絵馬師もそうした存在である。 要するに、前著(31-38 頁)でアニメ聖地巡礼者をオタクと短絡的に 結びつける旧来までの見方に異義を提起していたように、これまでのア ニメ聖地巡礼の研究は、いわば金太郎飴的な聖地巡礼行動、および巡礼 者像を求めることに腐心してきたと考えられる。先に奉納絵馬に関する 先行研究の問題点としてあげた〈3〉(奉納者の多様性を顧みない姿勢) はその一つの現れであろうが、観光に力点のあるコンテンツツーリズム 研究も、同じように巡礼者(ツーリスト)を一様な性格を有する集団と 捉える傾向にあったのではないだろうか22。 それに対し本稿では、奉納された絵馬の分析という枠組の中で、コン テンツに対する愛着や忠誠度合い(①>②および③)、および宗教的関心 (①および②<③)の双方に開きのある、あるいは別目的のついでとい う形で(①は商店街、②の一部は大洗港に)、年齢層も異なる多様な人々 が、大洗磯前神社に巡礼していると考えられることを導いた次第である。 これを、当面の結論としたい。
1 今井信治「ファンが日常を『聖化』する」、山中弘(編)『宗教とツーリズム』世 界思想社、2012 年、参照。 2 大石玄「アニメ《舞台探訪》成立史―いわゆる《聖地巡礼》の起源について―」、 『釧路工業高等専門学校紀要』第 45 号、2011 年、岡本健『n次創作観光』NP O法人北海道冒険芸術出版、2013 年、など参照。後者の 51 頁では、「アニメ聖 地巡礼は、宗教的な意味を持っていない」と断言されている。 3 由谷裕哉「聖地巡礼と記念行為―日本のアニメ聖地の例から―」、『比較思想研 究』第 39 号、2013 年、同「湯涌ぼんぼり祭りに関する巡礼者の言説を巡って」、 『宗教民俗研究』第 23 号、2014 年、など。
4 Andrews, Dale K., "Genesis at the Shrine: The Votive Art of an Anime Pilgrimage",
Mechademia, 9, Minneapolis, 2014. 5 デール・アンドリューズ「現代巡礼考―アニメ・ゲームから生まれた聖地―」、 『日本民俗学』283、2015 年。 6 今井信治「アニメ『聖地巡礼』実践者の行動に見る伝統的巡礼と観光活動の架 橋可能性:埼玉県鷲宮神社奉納絵馬分析を中心に」、『CATS叢書』VOL.1、2009 年、同「コンテンツがもたらす場所解釈の変容―埼玉県鷲宮神社奉納絵馬比較分 析を中心に―」、『コンテンツ文化史研究』VOL.3、2012 年。 7 今井信治「フレームから浮かび上がるリアリティ;秩父札所十七番定林寺調査 を中心に」、『デジタルゲーム学研究』第 6 号、2013 年。 8 式内社研究会(編)『式内社調査報告』第 11 巻(東海道6)、皇學館大学出版部、 1976 年、460 頁による。 9 『式内社調査報告』第 11 集(注 8 前掲)、461 頁、岡田米夫『大洗磯前神社誌』 熊田正治(大洗磯前神社宮司)、1981 年、89 頁、名越時正『水戸光圀と大洗』大 洗町教育委員会、1986 年、7―9 頁、など参照。 10 影印と翻刻版が、同題により大洗磯前神社から 1998 年に刊行されている。 11 宮崎報恩会(編)『新編常陸国誌』常陸書房、1969 年、250 頁。なお、同書第7 巻神社の箇所(356-357 頁)では、「大洗磯前薬師菩薩神社」と延喜式の社名で 解説されている。 12 大洗町史編さん委員会(編)『大洗町史(通史編)』大洗町、1986 年、11-13 頁。 13 伊藤純郎 『三浜漁民生活誌-大洗地方の近代史-』崙書房、1990 年、参照。 14 『大洗磯前神社誌』(注 9 前掲)、279-280 頁。 注
15 ブログ『自由な色で広げたい』、2012 年 12 月 6 日「大洗磯前神社の痛絵馬を見 に行ってきた」。http://blog.livedoor.jp/teaoevo/archives/1753632.html (2016 年 5 月 31 日閲覧) 16 例 え ば 、 ウ エ ブ サ イ ト 『 聖 地 巡 礼 ・ ガ ル パ ン & 艦 こ れ 大 洗 編 ( 1 )』。 https://netatopi.jp/article/1000701.html (2016 年 5 月 31 日閲覧) 17 藤本頼生 「船の進水式と艦内神社」、『大洗さま 大洗磯前神社社報』第 34 号、2014 年。 18 西海賢二『絵馬に見る民衆の祈りとかたち』批評社、1999 年。 19 由谷裕哉「秩父定林寺における奉納絵馬」、『西郊民俗』第 224 号、2013 年。 20 ウ エ ブ サ イ ト 『 animate tv 入 港 歓 迎 式 で は 「 艦 こ れ 」 の 曲 も ? 』。 http://www.animate.tv/news/details.php?id=1436762924 (2016 年 5 月 31 日閲覧) 21 『大洗フィーベル 大洗ガルパン・トラベルガイド2』廣済堂出版、2015 年。 22 例えば、岡本健『n次創作観光』(注 2)は、聖地巡礼者を開拓者・追随者・二 次巡礼者に三分類するものの、彼らの特徴について、本稿が導いたような趣味・ 嗜好・年齢などに大きな開きがあるとは見なしていないと考えられる。