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(1)

血管炎症候群の診療ガイドライン

Guideline for Management of Vasculitis Syndrome(JCS 2008)

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本医学放射線学会,日本胸部外科学会,日本血管外科学会,       日本小児科学会,日本腎臓学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本病理学会,       日本脈管学会,日本リウマチ学会 班 長 尾 崎 承 一 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠 原病・アレルギー内科 班 員 安 藤 太 三 藤田保健衛生大学胸部外科 居 石 克 夫 九州大学大学院医学研究科病理病態学 磯 部 光 章 東京医科歯科大学大学院循環器内科 太 田   敬 愛知医科大学外科学血管外科 小 林 茂 人 順天堂大学附属順天堂越谷病院内科 重 松   宏 東京医科大学病院第二外科 種 本 和 雄 川崎医科大学胸部心臓血管外科 中 島 康 雄 聖マリアンナ医科大学放射線医学  中 林 公 正 杏林大学第一内科学 能 勢 眞 人 愛媛大学大学院医学系研究科病態解 析学講座 松 永 尚 文 山口大学大学院医学研究科放射線医 学講座 宮 田 哲 郎 東京大学外科・血管外科 由 谷 親 夫 岡山理科大学理学部臨床生命科学科 吉 田 雅 治 東京医科大学八王子医療センター腎 臓内科学 吉 田 晃 敏 旭川医科大学眼科学講座 協力員 有 村 義 宏 杏林大学第 1 内科学 石 津 明 洋 北海道大学医学部保健学科 岩 井 武 尚 東京医科歯科大学血管外科 岡 崎 貴 裕 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠 原病・アレルギー内科 岡 田 宗 正 山口大学医学部放射線科 片 岡   浩 北海道大学大学院医学系研究科免疫 代謝内科学 協力員 金 子 一 成 関西医科大学枚方病院小児科学 川 名 誠 司 日本医科大学医学部皮膚科学教室 木 田 一 成 順天堂大学附属順天堂越谷病院内科 小 林 泰 之 聖マリアンナ医科大学放射線医学 古 森 公 浩 名古屋大学血管外科 坂 本 一 郎 長崎大学医学部・歯学部附属病院放 射線科 椎 谷 紀 彦 北海道大学病院循環器外科 重 松 邦 広 東京大学血管外科 高 橋 淳 士 旭川医科大学眼科学講座 滝 澤   始 帝京大学医学部附属溝口病院第 4 内科 長 岡 泰 司 旭川医科大学眼科学講座 長 澤 浩 平 佐賀大学医学部内科学 野 島 美 久 群馬大学医学部生体統御内科学 橋 本 博 史 順天堂大医学部附属越谷病院 濱 口 真 吾 聖マリアンナ医科大学放射線医学 廣 村 桂 樹 群馬大学第三内科 深 谷 修 作 藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科 正 木 久 男 川崎医科大学胸部心臓血管外科 松 本 常 男 山口大学医学部放射線科 山 田 秀 裕 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠 原病・アレルギー内科 吉 田 俊 治 藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科 外部評価委員 熊 谷 俊 一 神戸大学大学院医学系研究科臨床病 態・免疫学 小 池 隆 夫 北海道大学大学院医学系研究科病態 内科学 笹 嶋 唯 博 旭川医科大学第一外科 福 井 次 矢 聖路加国際病院 堀 江   稔 滋賀医科大学呼吸循環器内科学教室 (構成員の所属は2008年7月現在)

(2)

総 論

1

ガイドライン作成の背景

1

血管炎症候群の分類

 血管炎症候群は罹患血管のサイズから大型血管炎,中 型血管炎,小型血管炎に分類される(表 1).大型血管 炎は大動脈および四肢・頭頸部に向かう最大級の分枝の 血管炎で,高安動脈炎と側頭動脈炎が含まれる.中型血 管炎は各内臓臓器に向かう主要動脈とその分枝の血管炎 で,結節性多発動脈炎と川崎病が含まれるが,バージャ ー病もこの範疇に入る.小型血管炎は細動脈・毛細血管・ 細静脈の血管炎で,時に小動脈も傷害の対象となる.こ の群は免疫複合体の関与するものと関与しないものとに 大別される.関与する血管炎にはヘノッホ・シェーンラ イン紫斑病と本態性クリオグロブリン血症が含まれる が,悪性関節リウマチもこの範疇に入る.一方,非免疫 複合体性の血管炎の中に,顕微鏡的多発血管炎・ウェゲ ナー肉芽腫症・アレルギー性肉芽腫性血管炎の3疾患が あるが,これらは抗好中球細胞質抗体(ANCA)という 共通の疾患標識抗体に基づきANCA関連血管炎と総称 される.

2

血管炎の概念:その歴史的変遷

①大型血管炎の歴史  高安動脈炎の歴史的変遷は沼野藤夫らがよく記載して いる.本疾患の最初の記載として,漢方医の矢数道明は 漢方医書「橘黄医談」(1824年)を紹介している.これ

目  次

Ⅰ.総 論………1254 1.ガイドライン作成の背景 ………1254 2.ガイドライン作成の基本方針 ………1259 3.ガイドラインの構成 ………1260 Ⅱ.高安動脈炎………1260 1.疾患概念・定義・疫学 ………1260 2.発症機序 ………1262 3.病理所見 ………1263 4.臨床症状 ………1265 5.診断法および診断基準 ………1265 6.治療指針および治療法ガイドライン ………1268 7.予後 ………1275 Ⅲ.バージャー病………1275 1.疾患概念・定義・疫学 ………1275 2.発症機序 ………1275 3.病理所見 ………1276 4.臨床症状と検査所見 ………1277 5.診断法および診断基準 ………1278 6.治療指針および治療法ガイドライン ………1282 7.予後 ………1283 8.今後の展望 ………1285 Ⅳ.側頭動脈炎………1285 1.疾患概念・定義・疫学 ………1285 2.発症機序・病理所見 ………1286 3.臨床症状と検査所見 ………1286 4.診断法および診断基準 ………1286 5.治療指針および治療法ガイドライン ………1287 6.予後 ………1288 Ⅴ 結節性多発動脈炎………1289 1.疾患概念・定義・疫学 ………1289 2.発症機序・病理所見 ………1290 3.臨床症状と検査所見 ………1291 4.診断法および診断基準 ………1293 5.治療指針および治療法ガイドライン ………1294 6.予後 ………1296 Ⅵ.小型血管炎………1296 1.顕微鏡的多発血管炎   (Microscopic polyangiitis:MPA) ………1296 2.ウェゲナー肉芽腫症 ………1299 3.アレルギー性肉芽腫性血管炎   (シャーグ・ストラウス症候群) ………1302 4.ヘノッホ・シェーンライン紫斑病 ………1303 5.本態性クリオグロブリン血症 ………1305 6.悪性関節リウマチ ………1307 文献………1310 (無断転載を禁ずる)

(3)

によれば著者の山本鹿洲は,右上肢の脈拍消失と左上肢 の脈拍微弱を示した45歳の男性患者を記述したが,足 背動脈は触知良好であったという.この患者はその後 4∼5年して著しいるいそうをきたし,初診から11年目 で死亡した由である.本疾患の最初の科学的な報告は 1908年になされ,日本眼科学会において金沢大学眼科 学教授の高安右人が「奇異なる網膜中心血管の変化の一 例」として報告した1).この22歳の女性例は花環状吻合 の眼底所見を呈し後年盲目に陥っている.次いで同様の 症例が解析され,脈なし病pulseless disease(清水・佐 野 1948年)として英文で発表された2) .この疾患は東 アジアに多く欧米では稀な疾患であるが,このpulseless diseaseという名称が英文誌に紹介されてからは,欧米 でも広く知られるようになった.1994年のChapel Hill 分類3) にも,高安動脈炎Takayasu’s arteritisとして取り 上げられている.

  側 頭 動 脈 炎Temporal arteritis(giant cell arteritis) は

Hutchinson(1890年)による報告4) が最初であるが,そ の2年前にBruce(1888年)により報告5) されたリウマ チ性多発筋痛症との関連が受け入れられるようになるの は20世紀後半になってからである. ②中型血管炎の歴史  1908年および1909年にLeo Buergerは慢性下肢動静 脈閉塞症の11例および19例の切断肢を解析し,血栓性 閉塞を主病態と考え閉塞性血栓性血管炎thromboangiitis obliterance(TAO)と報告した6),7).その後,本疾患の 疾患単位としての議論が行われたが,臨床的疾患単位と してのバージャー病Buerger disease は広く認知されてい る.我が国では特発性脱疽として以前より知られている.

 結節性多発動脈炎の最初の報告はKussmaul and Maier

(1866年)によりなされた壊死性血管炎の1剖検例であ る8) .この27歳の男性症例は発熱,下痢,筋痛,全身倦 怠を主訴として入院し,糸球体腎炎,末梢神経障害,リ ンパ節腫脹,皮下腫瘤を呈し,1ヶ月後に著明な腹痛, 極度の衰弱をきたし,乏尿となり死亡している.病理解 剖により全身の中等大の動脈の周囲に結節状肥厚を認 め,顕微鏡的には筋層に始まる壊死性血管炎が血管全層 に 波 及 し た も の で あ る と さ れ, 結 節 性 動 脈 周 囲 炎 periarteritis nodosaの名で報告された.これが壊死性血 管炎の最初の報告であるが,炎症が必ずしも血管の「周 囲」にとどまらず,「全身」の血管が侵されることから,

のちに結節性多発動脈炎polyarteritis nodosa(PAN)と

呼ばれるようになった(Ferrari, 1903年).のちにPAN からいくつかの小型血管炎が分離される.  中型血管炎の川崎病は川崎富作(1967年)により初 めて報告された小児の急性熱性疾患である9) が,その後, 田中・直江ら(1976年)により剖検例における血栓を 伴う冠状動脈炎が報告され,血管炎として認識されるよ うになったものである.1994年のChapel Hill分類3)に も川崎病Kawasaki diseaseとして取り上げられている が,日本循環器学会のガイドラインに独立して掲載され ているので,本ガイドラインでは取り扱わないことにし ている. ③小型血管炎の歴史 1)免疫複合体性血管炎  1942年,フィブリノイド変性を主たる病理学的所見 表 1 罹患血管のサイズに基づく血管炎症候群の分類 分類 罹患血管 血管炎 大型血管炎 大動脈とその主要分枝 ○高安動脈炎 ○側頭動脈炎 中型血管炎 内臓臓器に向かう主要動脈と その分枝 ○バージャー病 ○結節性多発動脈炎 川崎病 小型血管炎 細動脈・毛細血管・細静脈. 時に小動脈 ANCA 関連血管炎  ○顕微鏡的多発血管炎  ○ウェゲナー肉芽腫症  ○アレルギー性肉芽腫性血管炎 免疫複合体性血管炎  ○ヘノッホ・シェーンライン紫斑病  ○本態性クリオグロブリン血症  ○悪性関節リウマチ  ○を付した疾患は本ガイドラインで取り上げた疾患である.  下線の6 疾患は厚生労働省特定疾患治療研究対象疾患である.結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎は 2005 年度までは「結節性動脈周囲炎」として一括して登録されていたが,2006 年度より個別に登録されている.

(4)

とする疾患群として「膠原病」と言う概念がKlemperer ら に よ っ て 提 唱 さ れ,PANを 含 む6疾 患 が 包 括 さ れ た10) .さらに,Zeek(1952年)はフィブリノイド壊死 と炎症性病変を有する血管病変に対して壊死性血管炎 (necrotizing vasculitis)という概念を提唱し,過敏性血 管炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎,関節リウマチ,結 節性多発動脈炎および側頭動脈炎の5疾患を包括・分類 した11).この中には大型の血管を障害する側頭動脈炎か ら小型血管を炎症の場とする過敏性血管炎まで含まれて おり,壊死性血管炎とは形態的に壊死性病変を呈する血 管炎の集合体であったと言える.過敏性血管炎は免疫複 合体により形成される血管炎の表現型として認識されて い た が,Henoch-Schönlein紫 斑 病(Schönlein 1837年, Henoch 1868年)との異同につき混乱があった.その後, 免疫学的手法の進歩に伴い,Henoch-Schönlein紫斑病で は血管炎局所にIgA免疫複合体が沈着していることが明 らかとなり,本態性クリオグロブリン血症でも免疫複合 体の沈着が証明され,免疫複合体病としての血管炎の概 念が確立した.このような背景でChapel Hill分類では 過敏性血管炎の名称は除かれることになる.

  悪 性 関 節 リ ウ マ チmalignant rheumatoid arthritis

(MRA)の最初の報告はBevans(1954年)で,胸膜炎, 心外膜炎,心内膜炎,肉芽腫性の肺・腎病変,壊死性血 管炎などを主病態として電撃的な経過をとった2症例が MRAの名前で報告された12) .本邦では厚生労働省の特 定疾患に含まれ,「血管炎をはじめとする関節外症状を 認め,難治性もしくは重篤な臨床症状を呈する関節リウ マチ」と定義されている.しかし,海外ではMRAの呼 称はほとんどみられず,リウマチ性血管炎rheumatoid vasculitisと呼ばれることが多い.血管炎の主病態は免 疫複合体病である. 2) ANCA関連血管炎  免疫複合体病としての血管炎の概念の一方で,明らか な免疫複合体の沈着が認められない一群の小型血管炎も 知 ら れ, 寡 免 疫 性 の 血 管 炎(pauci-immune vasculitis) として,免疫複合体病による血管炎と病因論的に区別さ れていた.  1923年にWohlwillは,肉眼的には異常を認めないが 顕微鏡的観察により初めてPANと診断できる2剖検例を 報告した13) .2例ともPANに極めて類似した臨床経過を とったが,剖検にて動脈は肉眼的には正常であり,顕微 鏡的観察により小動脈にPAN様病変を認めた.これが 顕微鏡的PANの最初の報告例である.これに基づき Arkin(1930年)は,傷害される血管のサイズにより

PANを古典的PANと顕微鏡的PANの2つのカテゴリー

に分類した14)

.その後,後者はPANとは本質的に区別

すべきカテゴリーあると考えられるようになり,その病 変が細動脈のみならず毛細血管や細静脈にもみられるこ

と か ら 顕 微 鏡 的 多 発 血 管 炎microscopic polyangiitis

(MPA)の名称が提唱され,Chapel Hill分類でも採用さ

れている.  20世紀前半にはさらに2つの疾患がPANから分離独 立された.1939年,ドイツの病理医Wegenerは,全身 の血管に古典的PANと区別のつかない壊死性肉芽腫性 血管炎を認め,さらに上気道と肺に壊死性肉芽腫,腎に 壊 死 性 半 月 体 形 成 性 腎 炎 を 認 め る3剖 検 例 を 報 告 し た15) . こ れ が の ち に ウ ェ ゲ ナ ー 肉 芽 腫 症Wegener’s granulomatosis(WG)としてPANから分離独立される に 至 っ た. 一 方,1951年, 米 国 の 病 理 医Churgと Straussは,それまでPANとされていた症例のなかから, アレルギー性鼻炎や気管支喘息,好酸球増多症が先行し, 次いで肉芽腫性血管炎をきたした13例の剖検例を報告 し,この疾患をアレルギー性肉芽腫性血管炎allergic

granulomatous angiitis(AGA)と命名して,PANから分

離独立させた16) .今日では,このような臨床経過をたど る症例をChurg-Strauss症候群(CSS)と呼び,さらに 病理所見の確定しているものをアレルギー性肉芽腫性血 管炎と呼ぶことが多い.  顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症,アレルギ ー性肉芽腫性血管炎の3疾患においては病変局所に明ら かな免疫複合体の沈着は認められず,寡免疫性の血管炎 の代表格であるが,この3疾患の共通の病因として注目 されたのが,1982年に発見された抗好中球細胞質抗体

(anti-neutrophil cytoplasmic antibody; ANCA)である17)

. 対応抗原により,ミエロペロキシダーゼ(MPO)を認 識するMPO-ANCAと,プロテイナーゼ3(PR3)を認 識するPR3-ANCAに分けられるが,前者は顕微鏡的多 発血管炎とアレルギー性肉芽腫性血管炎に関連し,後者 はウェゲナー肉芽腫症に関連している.このことから,

1997年にJennette and Falkはこの3疾患をANCA関連血 管炎ANCA-associated vasuculitisと総称することを提唱 し18),今日まで広く受け入れられている.

3

血管炎症候群の本邦における疫学

 血管炎症候群の多くは希少性で原因不明の難治性疾患 であり,厚生労働省特定疾患として難治性血管炎調査研 究班の研究対象疾患になっている.中でも患者数が比較 的多く治療が困難な疾患は,治療研究対象疾患として治 療費の一部が公費で負担され,認定された患者には医療 受給者証が交付される.これらは高安動脈炎,バージャ

(5)

ー病,結節性多発動脈炎,顕微鏡的多発血管炎,ウェゲ ナー肉芽腫症,悪性関節リウマチの6疾患である(表 1). この6疾患においては,毎年,認定が更新されて医療受 給者証が交付されるため.その件数から患者数が推定さ れる.この12年間の交付件数の推移を図 1 に示した.  これによると,本邦で多い血管炎はバージャー病,高 安動脈炎,悪性関節リウマチであり,これらの患者数は この12年間で比較的一定または減少傾向にある.一方, 結節性多発動脈炎とウェゲナー肉芽腫症は年々増加の一 途をたどり,この12年間で2∼3倍に増えている.特定 疾患の申請システムから,結節性多発動脈炎と顕微鏡的 多発血管炎は2005年度までは「結節性動脈周囲炎」と して一括して登録されていた(2006年度からは個別に 登録されるようになっている).従って,両疾患の詳細 な患者数は不明であるが,1990年代の調査では顕微鏡 的多発血管炎が圧倒的多数含まれていた.このことから, 本邦では顕微鏡的多発血管炎とウェゲナー肉芽腫症の ANCA関連血管炎の患者数が増加していることが推定 される.ANCA関連血管炎の中では,顕微鏡的多発血 管炎がウェゲナー肉芽腫症よりも患者数が多いのが,欧 米と比較した時の本邦の特徴である.一方,大型血管炎 でも欧米との疫学的差異がみられ,本邦では高安動脈炎 が圧倒的に多く側頭動脈炎は極めて少ないのに対し,欧 米では逆に側頭動脈炎が高頻度にみられる.このように 本邦の血管炎症候群患者の疫学や病態は欧米と大きく異 なっており,それが本邦独自の診療ガイドラインが求め られてきた背景である.

4

血管炎症候群の共通の症候と

診断のアプローチ

①共通の症候  血管炎症候群では「血管」の「炎症」のために,多臓 器の虚血や出血による症状とともに炎症所見を呈する. 炎症による全身症状と局所の臓器症状に大別される. 1)全身症状 Ⅰ.原因不明の発熱: 発熱は38℃∼39℃の高度の発 熱が多く,スパイク熱の型をとることが多い. Ⅱ.全身症状: 高度の発熱が持続するため,体重減少 を伴ってくることが多い.脱力感,全身倦怠感などの漠 然とした症状を訴える. 2)局所の臓器症状  全身の多臓器の症状が同時に(または順次に)みられ るのが特徴である.臓器症状は罹患血管の障害による虚 血や出血の症状であり,罹患血管のサイズにより差が見 られる(表 2). Ⅰ.大・中型血管炎の臓器症状(表 2 Ⅰ):  大型∼中型の血管は大動脈と臓器を結ぶ血管であるた め,傷害された特定の血管に応じて,脈拍欠損,咬筋跛 行,失明,急性腹症など,対応した臓器の障害をきたす. 腎臓の中型以上の血管の傷害では,急激に進行する高血 圧と腎機能障害を呈する. Ⅱ.小型血管炎の臓器症状(表 2 Ⅱ):  皮疹では特に下腿に好発する,いわゆる触知可能な紫 図 1 血管炎患者数の推移(特定疾患医療受給者証交付件数) 表 2 大・中型血管炎と小型血管炎の臓器症状 Ⅰ.大・中型血管炎による臓器症状 総頚動脈: めまい,頭痛,失神発作 顎動脈: 咬筋跛行 眼動脈: 失明 鎖骨下動脈: 上肢のしびれ,冷感,易疲労性,上肢血圧 左右差,脈なし 腎動脈: 高血圧,腎機能障害 腸間膜動脈:虚血性腸炎 冠動脈: 狭心症,心筋梗塞 肺動脈: 咳,血痰,呼吸困難,肺梗塞 Ⅱ.小型血管炎による臓器症状 皮膚: 網状皮斑,皮下結節,紫斑,皮膚潰瘍,指 端壊死 末梢神経: 多発性単神経炎 筋肉:  筋痛 関節: 関節痛 腎臓:  壊死性(半月体形成性)糸球体腎炎 消化管: 消化管潰瘍,消化管出血 心臓:  心筋炎,不整脈 肺:   肺胞出血 漿膜: 心膜炎,胸膜炎 眼:   網膜出血,強膜炎

(6)

斑が特徴的である.多発性単神経炎は当該神経を養う中 ∼小動脈の血管炎の症状であり,初期には感覚障害とし ての知覚過敏,知覚鈍麻などが出現し,進行すると運動 障害を併発し下垂手や下垂足となることがある.腎臓の 小血管の血管炎では,血尿,蛋白尿,円柱尿などの腎炎 の臨床像を呈する.肺における細動脈炎や細静脈炎によ り肺胞出血が起きると泡沫上の血痰が喀出されることも ある. ②診断のアプローチ  「一見脈絡のない多彩な全身症状を呈する発熱患者」 では,まず血管炎を疑うことが重要である.血管炎症候 群と鑑別を要するものとして,感染症,悪性腫瘍,およ び膠原病やその類縁疾患を除外する.罹患血管のサイズ により,アプローチが異なる(図 2).大型∼中型血管 炎では血管造影が有用である.小型血管炎では免疫複合 体の有無により疾患が大別される.免疫複合体陽性群で はIgA免疫複合体(IgA-IC)やクリオグロブリンの有無 に注意する.悪性関節リウマチでも免疫複合体陽性とな り,リウマトイド因子(RF)が著しく高値となる.  免疫複合体陰性群にはANCA関連血管炎が含まれ, MPO-ANCAや PR3-ANCAに注意する.大動脈とその 主要分枝を障害される高安動脈炎以外では,罹患血管の 生検が診断に有用である.

5

血管炎治療の治療薬と

その合併症に関する注意点

①副腎皮質ステロイド剤  多くの血管炎治療における第一選択薬である.副作用 として,糖尿病,感染症,消化性潰瘍,精神症状,骨粗 鬆症・脊椎圧迫骨折,高血圧,緑内障・白内障,高脂血 症などが起こる.これらの合併症は治療経過中に時期を たがえて出現するためモニターおよび合併症に対する対 応策の理解が必要である.合併症を発症した場合に,消 化性潰瘍治療薬など,薬剤の追加で対応できることも多 いが,特に高齢者に脊椎の圧迫骨折が生じた際には,疼 痛,ADL/QOLの低下,臥床による多くの合併症の増加 が生じるため,ビスホスホネート製剤の予防投与が必要 である19),20).感染症は血管炎の再燃であるか判断に苦 慮することがある.肺の日和見感染が多いため,治療経 過中に起こる,結核,ニューモシスティス肺炎,サイト メガロウィルス肺炎などに注意する21) .ステロイド剤の 減量(steroid sparing)目的に免疫抑制剤の併用投与が 勧められる. ②シクロホスファミド(エンドキサン®)  難治性血管炎には欠かせない薬剤である. DNAをア ルキル化してDNAの複製を阻害し,細胞死をもたらす. 血球減少,肝障害,感染症などに注意する.また,本薬 剤の代謝産物が膀胱粘膜を刺激して出血性膀胱炎を誘発 するため,投与中は水分摂取を多くし,尿排泄を頻回に するとともに,間歇静注療法に際しては,予防薬として メスナを投与する.総投与量が5∼10g以上になると発 癌性が増加する.また,精巣・卵巣障害にも注意する. 血管炎に対する保険適用はないため,十分なインフォー ムド・コンセントを得ることが勧められる. ③アザチオプリン(イムラン®,アザニン®  プリン代謝拮抗剤である.投与開始初期に血球減少, 肝障害などの副作用に注意する.  アロプリノール(ザイロリック®)との併用で骨髄抑 制がおこるため,併用時には本剤を1/4∼1/2量に減量 する.保険適応症は,①腎移植,②移植時拒絶反応抑制 である. ④メトトレキサート(メソトレキセート®,  リウマトレックス®,メトレート®)  葉酸拮抗剤である.関節リウマチには,リウマトレッ クス®,メトレート®が保険適応であるが,血管炎症候 群の治療に対しては保険適応外となる為,この場合も十 分なインフォームドコンセントを得ることが求められ る.  一般に本剤は毎日内服ではなく,週に1∼2日(朝,夕) の内服で投与されることが多いので注意する.本剤は催 奇性があるため,妊娠希望者には6ヶ月以上の休薬期間 感染症・悪性腫瘍・膠原病を除外 血管炎症候群の症候あり 罹患血管のサイズ 大型 中型 小型∼毛細血管 血管造影 免疫複合体(IC) + − 生検 高安 動脈炎動脈炎側頭 バー ジャー 病 MPO-ANCA ANCAPR3- グロブリンクリオ IgA IC RF PAN AGA WG HSP クリオグロ ブリン血症 MPA MRA 組織生検 図 2 血管炎症候群の診断のアプローチ

(7)

が必要である.肝障害は用量を増すと出現し,減量する と改善する場合が多い.血球減少症は,腎障害,高齢者 の脱水症に際し出現することが多い.腎排泄性のため, 本剤の血中濃度が増加するためである.このため,腎不 全患者には禁忌である.間質性肺炎の副作用の頻度は少 ないが,基礎疾患に間質性肺炎がある症例では注意する. 高齢者,呼吸器疾患のある症例では,ニューモシスティ ス肺炎が合併することがあり,投与中にβ-Dグルカンの 測定を行い,必要時スルファメトキサゾールトリメトプ リム(バクタ®2錠を週3回)の予防投与を行う.この場 合,メトトレキサートとトリメトプリムの相乗効果があ るため,メトトレキサートの量を減じる必要がある. ⑤アスピリン(バイアスピリン®,バッファリン 81®  シクロオキシゲナーゼ1(Cox-1)阻害によりトロン ボキサンA2の合成を阻害し,血小板の凝集を抑制する. 側頭動脈炎の内膜肥厚に関与するIFN-γの発現を抑制す る22).炎症やステロイド剤による動脈硬化は広く知られ たことであるが,アスピリンとともに,スタチン製剤, アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤の投与も考慮される.

6

血管炎の治療合併症に対する

予防法・治療法

 厚生労働科学免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業, 免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究班(主任研 究者 橋本博史)の以下のガイドライン21) を参照された い.  ①ニューモシスティス肺炎 1)免疫疾患におけるニューモシスティス肺炎予防基準 1次予防 年齢が50歳以上 ステロイド剤投与例 PSL1.2mg/kg/日以上,あるいは,PSL0.8mg/kg/日 以上で免疫抑制剤併用 中止基準:PSL0.4mg/kg/日以下 免疫抑制剤投与例 PSL0.8mg/kg/日以上併用,あるいは,末梢血リン パ球数500/μL以下 中 止 基 準:PSL0.4mg/kg/日 以 下 併 用, あ る い は, 安定して末梢リンパ球数500/μL以上 2次予防(ニューモシッスティス肺炎に対する治療に 一旦反応した後の予防) 発症例全例  中止基準:一次予防と同じ. 2)ニューモシスティス肺炎の予防法  Ⅰ.ST合剤(TMP/SMX)(バクタ®:1錠=1g)     1g/日∼4g/週 (2g/回)∼8g/週(4g/回)  Ⅱ.イセチオン酸ぺンタミジン吸入(ベナンバック ス®:1A=300mg)     300mg/月∼300mg/2週 3)検査値にて注意すること  年齢によって異なるが,末梢血リンパ球数算定し, 1000/μL以下で注意,予防投与を行う.500/μL以下で は予防投与を勧める. ②副腎皮質ステロイド大量使用女性患者の骨折予防と治療  YAM80%未満では骨折のリスクが高く,治療予防の 絶対適応である.骨塩量が保たれている(Tスコア>− SD)にもかかわらず,骨折を起こす例が多くあり,厳 重な管理を要する.ステロイド剤長期大量使用時は,T スコアに関わらず活性型ビタミンD3とビスフォスフォ ネートの併用を考慮する.高脂血症が骨折のリスクとな る可能性がある(RR=3.11).骨粗鬆症には,ビスフォ スフォネートの効果が期待されるが,治療初期の骨折に 対する予防効果は不明である.

2

ガイドライン作成の基本方針

1

対象とした疾患

 今回,血管炎症候群の診療ガイドラインを策定するに あたり,循環器専門医および一般診療医の診療に寄与す ることを第一義的に考慮し,疫学や罹患血管のサイズも 加味して対象疾患を選定した.その結果,次にあげる5 疾患(群)についての診療ガイドラインを作成すること とした.このうち本邦で患者数が多く,循環器専門医に よる診療機会の多い2疾患(高安動脈炎とバージャー病) については最も十分な記載を行った.逆に,本邦で患者 数が少なく,リウマチ専門医による診療機会の多い残り の3疾患(群)については要点の記載にとどめた. ①高安動脈炎 ②バージャー病 ③側頭動脈炎 ④結節性多発動脈炎 ⑤小型血管炎(顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫 症,アレルギー性肉芽腫性血管炎,ヘノッホ・シェー ンライン紫斑病,本態性クリオグロブリン血症,悪性 関節リウマチ)

(8)

2

適応の分類

 本ガイドラインでは欧米の研究成果のみならず本邦の 研究成果を取り入れて,現時点における血管炎症候群の 診療に関する標準的なガイドラインの作成に努めた.患 者数が限られていること,および,ランダム化比較対照 試験が少ないことから,エビデンスレベルの低い研究成 果も採用した.他のガイドラインにならい,治療法推奨 度とエビデンスレベルは表 3 の分類に従った.

3

ガイドラインの構成

 本ガイドラインは,総論と各論の2部に分けて作成し た.総論では血管炎症候群の理解のための血管炎の分類 を解説するとともに,薬物治療の主体となる副腎皮質ス テロイド薬および免疫抑制薬の注意すべき副作用をまと めた.  各論では前ページにあげた5疾患(群)につき,以下 の項目につき解説した. ①疾患概念・定義・疫学 ②発症機序 ③病理所見 ④臨床症状と検査所見 ⑤診断法および診断基準 ⑥治療指針および治療法ガイドライン ⑦予後  血管炎症候群の理解と診断には病理所見が重要であ る.そのため,診断に必要な病理所見を記載し,可能な 限り特徴的な写真を掲載した.  血管炎症候群の診断基準としては,世界的にはアメリ カリウマチ学会(ACR)の提唱した基準が標準であるが, 本邦では厚生労働省難治性血管炎調査研究班の診断基準 が主に用いられる.この両基準の感度と特異度を本邦の 患者集団で厳密に検証した研究はない.従って,本ガイ ドラインでは主として臨床実地現場で頻用される基準を 掲載し,必要に応じて両者を併記した.  治療は,現在それぞれの疾患で行われている標準的治 療法に関して,薬物療法と非薬物療法に分けて指針を示 した.特に,高安動脈炎とバージャー病については,本 邦の血管外科分野における研究成果に基づく手術適応と 手術手技,および,それらの成績につき詳細に述べた.  標準的治療法に抵抗性の症例に対して,近年,生物学 的製剤の投与や,遺伝子治療,および,血管再生医療の 導入が試みられてきている.本ガイドラインでは,それ らの現状と今後の動向についても触れた.

高安動脈炎

1

疾患概念・定義・疫学

1

疾患概念

 高安動脈炎または高安病は大動脈およびその基幹動 脈,冠動脈,肺動脈に生ずる大血管炎である.本邦では 大動脈炎症候群と呼ばれることが多いが,欧米での呼称 は高安動脈炎(Takayasu’s arteritis)である.人種や地 域差があるが,我が国では若い女性に好発する.病理学 的には動脈外膜側より内膜側に進展する血管炎である. 免疫疾患と考えられており,側頭動脈炎(巨細胞性動脈 炎),結節性多発性動脈炎,川崎病などとの異同が問題 となることがある.主徴は全身の炎症,血管炎による疼 痛と血管狭窄・閉塞・拡張による症状であり,そのため 炎症が沈静化した後も血流障害による各種臓器障害,動 脈瘤が問題となる.一般に炎症は年余に及ぶが,免疫抑 制剤に反応し,また自然軽快する傾向が認められる.血 管合併症を残し,時に再燃する.我が国では厚生労働省 の特定疾患治療研究事業の対象疾患(難病)の1つに指 定されている.症状が多彩で,非特異的であり診断が遅 れることも多いが,近年の画像診断の進歩により早期診 断が可能となってきており,予後は改善している23) .

2

歴史的変遷

 本疾患の歴史的変遷は沼野藤夫らが詳細に報告してい る24)−26) .漢方医の矢数道明によれば本疾患の記載は 表 3 治療法推奨度とエビデンスレベル (1)治療法の推奨度 ①クラスⅠ: 有用であるという根拠があり,適応であ ることが一般に同意されている. ②クラスⅡ a: 有用であるという意見が多い. ③クラスⅡ b: 有用であるという意見が少ない. ④クラスⅢ: 有用でないかまたは有害であり,適応で ないことが一般に同意されている. (2)エビデンスのレベル ①レベル A: エビデンスが豊富である. ②レベル B: 複数の信頼できるエビデンスがある. ③レベル C: 多くの専門家の一致した意見である

(9)

1824年の漢方医書「橘黄医談」の記載にさかのぼると いう27) .この中で山本鹿洲は左右上肢の脈拍の消失,微 弱を示した45歳男性患者を紹介している.欧米では, 1856年に両側上肢と左頸部の脈拍欠如をきたした22歳 女性例が報告されている28).  高安右人は金沢大学眼科教授であり,1908年(明治 41年)に日本眼科学会において“奇異なる網膜中心血 管の変化の一例”として,花環状吻合の眼底所見を示し た22歳の女性を報告した1).追加発言の中で橈骨動脈の 脈拍欠損が指摘されている.1942年に新見保三が高安 病の呼称を初めて使用している29) .1951年東京大学の 脳外科医,清水健太郎,佐野圭司は自験例を含む25例 をまとめ,花環状吻合を示す眼底所見,脈拍減弱ないし 欠 損, 頸 動 脈 洞 反 射 の 亢 進 を3徴 と し て, 脈 な し 病 (pulseless disease)と名付けて報告した2) .これが翌年

American Heart Journalに紹介され,欧米でも本症が知

られることになる30) .そのため当初は高安病より「脈な し病」の名称が広く使われた.  血管炎としての記載は1940年東京大学精神科の太田 邦夫がめまいと失神発作で入院し死亡した28歳女性患 者の剖検所見として,大動脈をはじめその基幹動脈の内・ 中・外膜全層にわたる血管炎(panarteritis)であること を報告したのが初めてである.  その後も本疾患の研究を進めたのは主として本邦の学 者である.上田英雄,伊藤厳らは病理組織,臨床病態に ついて広範な研究を行った31),32) .aortitis syndrome(大 動脈炎症候群)という病名が定着したのも上田らの功績 に基づくものである.さらに沼野らは病因,診断,病理 所見などについて多数例での解析を行っている.また沼 野は1989年より11回にわたって国際高安動脈炎会議を 主催し,研究発展に貢献した33) .我が国では1975年に 難病として指定され,以後調査研究が継続されている. 1975年の厚生省大動脈炎症候群研究班では正式名称と して高安病を使用する申し合わせを行った.

3

疫学

①年齢,性差,発生頻度  本疾患は厚生労働省の特定疾患に指定されており,調 査研究班で全例調査が行われている.現在5,000人あま りが登録されているが,図 3 に示すように,3年ごとの 新規発症数は200∼400例で減少傾向にある.現在の年 齢分布は50歳代が多い34).男女比は約1:8(表 4)で, 女性に多い.女性における初発年齢は20歳前後にピー クがあるが,中高年で初発する例もまれでない(図 4). 一方男性例でははっきりとしたピークが認められない (図 5).発症に女性ホルモンが関与していることを示唆 するデータである.症候が多彩であり,非特異的な所見 が多いことから,なお未診断例が多いものと考えられ, 正確な発症頻度の推定は困難である. ②地域差  世界的にはアジア,中近東での症例が多い.北米では メキシコを除き報告は少ない.いずれの地域でも女性に 多い傾向がみられるが,本邦における比率が最も高 図 3 高安動脈炎の患者数の推移 (厚生労働省特定疾患医療受給者調査から) 表 4 高安動脈炎患者の男女比(文献 25 より改変) 国 症例数 女性 男性 女性 / 男性 日本 2,148 1,909 239 8.0/1 韓国 47 40 7 5.7/1 中国 500 370 130 2.8/1 タイ 63 43 20 2.2/1 インド 106 63 43 1.6/1 イスラエル 56 32 18 1.8/1 トルコ 14 11 3 3.7/1 メキシコ 237 207 30 6.9/1 ブラジル 73 61 12 5.1/1 コロンビア 35 26 9 2.9/1 図 4 本邦高安動脈炎患者年齢分布 (平成 10 年度厚生省難治性血管炎研究班) 250 200 150 100 50 0 0<10 11<20 21<30 31<40 41<50 51<60 61<70 71<80 81< (歳) 人数

(10)

い33) .我が国および南米では頸動脈病変が特徴的である が,イスラエルをはじめとするアジア諸国では腹部大動 脈を主とした病変による高血圧が多い.

2

発症機序

1

血管障害の機序

 高安動脈炎の病因は依然として不明のままである.し かし,感染などのストレスがきっかけとなり,自己免疫 的な炎症機序でT細胞を中心としたエフェクターによる 血管組織の破壊が生じると推定されており,さらに背景 として遺伝素因の存在も示されている. ①免疫学的要因  高安動脈炎の血管傷害には従来より細胞性免疫の関与 が指摘されてきた.炎症の進展に伴いT細胞が主体とな った組織破壊のメカニズムは,世古らが中心となって解 析しており,その研究より得られた動脈壁の傷害説を紹 介する. 1)細胞性免疫  細胞性免疫ではT細胞とnatural killer(NK)細胞の働 き が 重 要 と な る.T細 胞 は そ の 表 面 のT細 胞 受 容 体 (TCR) で 主 要 組 織 適 合 抗 原 複 合 体(Major histocompatibility complex: MHC)と結合して提示され た抗原ペプチドを認識する.大多数のT細胞は,α鎖と β鎖 と 呼 ば れ る2つ の 糖 蛋 白 鎖 か ら 成 るTCRを も ち, αβT細胞とよばれる.αβT細胞にはヘルパーT細胞(Th) と細胞傷害性T細胞(CTL),およびその他のサブセッ トがある.これと対照的に,1つのγ鎖と1つのδ鎖から なるTCRの少数のサブセットがあり,それをもつT細 胞をγδT細胞と呼ぶ.γδT細胞は腸管粘膜に多く存在 し,それを活性化する抗原分子の詳細は判明していない が,MHCによる抗原提示は不要であるとも言われてい る.また,γδT細胞は脂質抗原を認識する.γδT細胞 の役割は不明だが,現在のところは異物の侵入に対して 最初に反応する細胞,調節細胞,生まれつき備わってい る防御力と獲得した防御力の架け橋となる細胞などと位 置付けられている.  NK細胞,CTLやγδT細胞はウイルス感染細胞や癌細 胞などの標的細胞に接着して,perforinなどの細胞傷害 物質を放出し直接破壊するため,キラー細胞とも呼ばれ ている.最近では,NK細胞,CTLやγδT細胞に発現さ れるNKG2DレセプターがMCH ClassⅠchain-related A/ B(MICA/B)抗原を認識し,それを発現する標的細胞 に対する障害を増強することも報告されている35) .  T細胞ではTCRを介する主シグナルの他に,副刺激 シグナルがT細胞を抗原特異的に活性化するのに必要で あることが明らかになっている.副刺激シグナルを伝え るシステムとしてはimmunoglobulin superfamilyに属す るICAM-1やB7-1(CD80),TNF receptor/ligand superfamilyに属する4-1BB/4-1BBLやFas/FasLなどの多 くの分子が同定されている. 2)高安動脈炎での動脈障害機序  高安動脈炎及び粥状動脈硬化症の大動脈瘤の壁を比較 し,細胞性免疫を介する血管壁傷害機序を検討したとこ ろ,ともに壁浸潤細胞はヘルパーT細胞(Th),細胞傷 害性T細胞(CTL),マクロファージ,natural killer細胞 (NK細胞)からなっており,特に高安動脈炎ではγδT 細胞が約30%を占めた.これに対して粥状硬化症では マクロファージの割合が有意に多かったが,γδT細胞 はほとんど認められなかった36) .

  正 常 動 脈 壁 で は 中 膜 で65kdのheat shock protein

(HSP65)がわずかに認められるのみだが,高安動脈炎 では,内膜,中膜,栄養血管(vasa vasorum)の一部で HSP65の強い発現がみられ36) ,標的細胞上のHSP65に 反応するといわれるγδT細胞が高安動脈炎での浸潤細胞 の主体となっていることと一致した所見であった.  高安動脈炎においてT細胞は非特異的なサイトカイン により動脈壁内へ浸潤するのではなく,限られた細胞の みが特異的に浸潤している可能性がある.同一患者にお 図 5 本邦高安動脈炎患者発症年齢分布(上段女性,下段男性) (平成 10 年度厚生省難治性血管炎研究班) 140 120 100 80 60 40 20 0 0<5 6<10 11<15 16<20 21<25 26<30 31<35 36<40 41<45 46<50 51<55 56<60 61<65 66<70 71<75 人数 12 10 8 6 4 2 0 0<5 6<10 11<15 16<20 21<25 26<30 31<35 36<40 41<45 46<50 51<55 56<60 61<65 66<70 71<75 人数 (歳) (歳)

(11)

ける異なる部位の病変へ浸潤しているT細胞のTCRが 遺伝子的に同じ発現パターンであることから,同一の抗 原刺激に対して反応している可能性が示唆される37),38) .  また高安動脈炎ではCTL,NK細胞,γδT細胞の細胞 質内にperforinの発現を認め,perforinは細胞外に放出 されて血管壁細胞を傷害していた.粥状動脈硬化病変で もCTLやNK細胞はperforinを発現していた36),39) .血管 壁の傷害メカニズムは同様であるが,粥状動脈硬化では T細胞が非特異的に浸潤しているのに対して,高安動脈 炎では,いまだ不明ではあるが何らかの抗原特異的に浸 潤しているT細胞が傷害の主役となっていることが推測 できる.  高安動脈炎の病変血管では,正常血管と比較して,主 に 栄 養 血 管 に お い てHLA classⅠ・ Ⅱ の 著 明 亢 進, ICAM-1の発現の亢進がみられる36) .また,4-1BBLや Fasは中膜や栄養血管で著明な発現亢進がみられ,浸潤 細胞の大部分にはそれに対応する4-1BBやFasLの発現 がみられた40).さらに,中膜や栄養血管ではMICAの著 明な発現がみられ,一部の浸潤細胞にはNKG2Dレセプ ターの発現を認めた36) .このため,これらの副刺激シグ ナル経路が高安動脈炎において大動脈壁傷害のメカニズ ムの1つであることが示唆されている. ②感染の要因  免疫学的異常をきたす最初の引き金として,何らかの ウイルス感染などのストレスが原因となっていることが 推測される.主として血管壁中膜の平滑筋細胞に,スト レスで誘導されやすいといわれるMICA抗原が発現して くる.このMICAがγδT細胞を誘導することで病態形成 が始まる可能性がある.かつては結核罹患との関連が指 摘されたときもあったが,現在では否定的である.

2

遺伝的要因

  高 安 動 脈 炎 の 遺 伝 的 素 因 と し てHLA-B52, HLA-B39.2との関連が報告されている41) .さらに近年, HLA-B遺伝子の近傍にあるMICA遺伝子との関連が示 唆され,MICA-1.2との強い相関があるとの報告がなさ れた42).高安動脈炎のHLA関連の疾患感受性遺伝子は MICA遺伝子の近傍にあることが示唆されている.高安 動脈炎においてはMICAがキラー細胞の標的になってい る可能性を支持している報告である.

3

動脈硬化との対比

 本来高安動脈炎は動脈硬化症とその病態が異なってい るが,頚動脈の内膜肥厚の測定の結果,動脈硬化の危険 因子に差がない群で比較しても,高安動脈炎患者に動脈 硬化症の促進がみられたことが報告されている.動脈壁 の炎症により動脈硬化が促進される可能性が示唆されて いるが43),治療薬(副腎皮質ステロイド薬)の影響も考 えられる.

3

病理所見

 本症の病変の特徴は,弾性型動脈に限られた中膜・外 膜の病変を基盤としている.特に中膜の外膜寄りに病変 の主座があり,平滑筋細胞の壊死や弾力線維の破壊と線 維化を伴い,外膜の炎症性肥厚を特徴とする44) .さらに 最近の研究からも外膜・中膜に分布する栄養血管(vasa vasorum)の壁周囲に炎症性細胞浸潤がみられ,基本的 に高安動脈炎は,栄養血管炎ともいえる.  高安動脈炎の多くの症例にみられる狭窄病変は,おも に内膜肥厚によりもたらされるが,内膜肥厚そのものは 中膜病変による二次的な反応性病変と理解されている. しかし,近年画像診断の発達とともに,より早期に発見 され治療がなされることにより,従来比較的若くして死 亡していた症例が長く生存するようになった.それに伴 い,肥厚した内膜に石灰化を伴う動脈硬化症の合併が多 くなり,しばしば高安動脈炎の病理診断に窮するように なってきた.しかし,粥腫形成が少ないこと,板状の石 灰化を伴うことなどが鑑別の要点になる45) .  他方,大動脈の起始部の拡張性病変に起因する大動脈 弁閉鎖不全症で見つかる症例が存在する.こうした症例 の病理組織学的な検討によれば,概ね中膜病変が極めて 高度であり,中膜に小梗塞をつくりそれを取り巻くよう にして巨細胞が出現する症例が多い.その結果,動脈瘤 形成やときに解離にいたる症例も報告されている.した がって,臨床的には急激な経過を取り,予後も悪いとい われている45).  以上の点を踏まえた上で,より一般的な病理学的所見 をまとめると以下のようになる.罹患部位によって,解 剖学的に4つの型に分けられる.(Ⅰ)大動脈弓部と弓 部動脈がおかされるもの,(Ⅱ)胸腹部大動脈がおかさ れるもの,(Ⅲ)大動脈全体がおかされるもの,(Ⅳ)肺 動脈がおかされるもの.典型的には狭窄性病変として知 られているが,大動脈瘤や大動脈弁閉鎖不全症が症例の 約15∼30%にみられる46) .病変の主座は肺動脈幹を含 む主幹部動脈にあり,那須らは閉塞性増殖性幹動脈炎と 命名した.  1997年,Numanoらにより新しい分類法が提唱され た47) .これは主に血管造影による分類法であり,Ⅰ∼Ⅴ

(12)

型に分け,さらに冠動脈,肺動脈の病変を加味したもの である.(図 6)  高安動脈炎の組織像は,初期には栄養血管への細胞浸 潤(perivascular cuffing)を伴う外膜の単核細胞浸潤で あり,肉芽腫性全層性動脈炎を特徴とし,中膜に梗塞病 変と断片化した弾力線維を貪食しているLanghans型巨 細胞の浸潤とからなる症例もある.その後,中膜の広範 な線維化と内膜の著明な無細胞性の線維性肥厚がみられ る.リンパ球性形質細胞性細胞浸潤の中に巨細胞を認め ることも認めないこともあり,形態学的には頭蓋外巨細 胞性動脈炎と鑑別しがたい(図 7).  瘢痕期になると,内膜は進行性の肥厚を示し,外膜は 著しい線維化を伴い肥厚する.中膜の外膜よりでは,弾 力線維の特徴的な虫食い像がみられる(図 8).肥厚し た外膜の中に,さらに肥厚した栄養動脈をみる.終末期 の動脈硬化と識別しがたいが,内膜の線維化はよく板状 の石灰化を伴う.粥腫形成も少ない.分岐動脈の近位側 にも及び内腔を狭窄する.したがって,罹患した大動脈 は鉛管状の様相を呈し,一見して高安動脈炎の瘢痕期と わかる(図 9).瘢痕期の病理組織学的所見を呈する症 例でも,よく観察すると巨細胞の出現や壊死組織をみる ことがある.  炎症が急激に進行した場合,血管の弾力性が失われる 結果,血管はむしろ拡張し動脈瘤形成をみることがある. 図 7 急性期の高安動脈炎 中膜の外膜よりに小梗塞が存在し,それを取り囲むように主に リンパ球浸潤がみられる.中膜の弾力線維を貪食した多核の巨 細胞が認められる.これらの所見が中膜の弾力線維の虫食い状 を呈するものと思われる. 図 9 高安動脈炎における大動脈の肉眼的所見 大動脈では著明な石灰化と粥状硬化症により壁の弾力性はほ とんど消失し,いわゆる鉛管状になっている. 図 8 慢性期(瘢痕期)の石灰化の少ない部位の病理組織像 中膜は菲薄化し,弾力線維も少なく,外膜よりでは虫食い状に なっている.内膜は著明に肥厚している.外膜も肥厚しており, 栄養血管も肥厚している. Ⅰ型: 大動脈弓分枝血管 Ⅱ a 型: 上行大動脈.大動脈弓ならびにその分枝血管 Ⅱ b 型: Ⅱ a 病変 + 胸部下行大動脈 Ⅲ型: 胸部下行大動脈,腹部大動脈,腎動脈 Ⅳ型: 腹部大動脈,かつ / または,腎動脈 Ⅴ型: Ⅱ b+ Ⅳ型(上行大動脈.大動脈弓ならびにその分枝 血管,胸部下行大動脈に加え,腹部大動脈,かつ / ま たは,腎動脈) Ⅰ∼Ⅴ型に加え,さらに冠動脈病変を有するものには C(+), 肺動脈病変を有するものには P(+)と表記する. (「医学・薬学のための免疫学(第2 版)豊島聰・田坂捷雄・尾 崎承一著,p.163,東京化学同人,東京,2008」より引用) 図 6 血管造影における高安動脈炎の分類 血管造影所見からみた病変の分布より以下に分類される Ⅰ     Ⅱa    Ⅱb    Ⅲ     Ⅳ     Ⅴ

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特に上行大動脈は絶えず高い血圧にさらされる結果,拡 張し相対的な大動脈逆流が生じ患者の予後を決定する重 要な因子となっている.  肺動脈の病変は剖検例ではしばしばみられるが,肺高 血圧を呈する症例はむしろ少ない.病変は肺動脈本幹か ら区域動脈にわたる中枢側に発生することが多い.

4

臨床症状

 初発症状は,原因不明の発熱,頚部痛,全身倦怠感な どで上気道炎と類似した症状を認める.その後,血管病 変の症状を呈してくる.すなわち狭窄病変では,大動脈 弓部分枝病変による脳虚血症状や視力障害,上肢の乏血 による血圧左右差や脈なし,腎動脈狭窄や大動脈縮窄症 による高血圧,肺動脈狭窄による肺梗塞,時に冠状動脈 入口部狭窄による狭心症が主たるものである.  拡張病変では大動脈瘤や大動脈解離,大動脈弁輪拡大 に続発する大動脈弁閉鎖不全に基づく心不全が主たるも のである.大動脈弁閉鎖不全症は約30%に認められる. これらの血管病変は多発する傾向があり,無症状で経過 する例から早期に種々の症状を合併する症例まで多彩で ある.上肢乏血症状を訴える症例が最も多く,左右上肢 の血圧差は約46%,また上肢の脈拍が触知しないのは 約31%で,これが脈なし病といわれる所以である.つ いで頭部乏血症状である.めまいは約33%,頭痛は約 20%の症例で認められる.視力障害を持つ患者は約10 %,また失明例は全体の約1.7%である.約40%の症例 で高血圧を認める(表 5)34),48),49).

5

診断法および診断基準

1

診断基準

 若い女性で発熱や倦怠感を訴え 1)脈拍,血圧の左 右差,2)血管雑音の有無 3)心雑音,特に大動脈弁 閉鎖不全による雑音の有無,4)頭部乏血症状を認める かが診断のポイントとなる(表 6).

2

診断法

①血管造影所見 

 Digital Subtraction Angiography(DSA)で,大動脈の 壁の不整や狭窄,閉塞,びまん性の拡張病変を認める(図 10).単純のcomputed tomography(CT)では,大動脈 壁の石灰化や瘤を認めることがある.大動脈弁閉鎖不全 表 5 高安動脈炎の臨床症状 (厚生省難治性血管炎研究班平成 10 年度報告書) 頭部乏血症状 眩暈 33.0% 頭痛 20.4% 失神発作 2.9% 片麻痺 2.1% 咬筋疲労 0.4% 眼症状 失明 1.7% 一過性視力障害 4.8% 持続性視力障害 5.0% 眼前暗黒感 5.9% 上肢症状 脈なし 31.2% 血圧左右差 46.4% 易疲労感 24.9% 冷感 11.3% しびれ感 12.3% 心症状 息切れ 19.3% 動悸 20.0% 胸部圧迫感 14.8% 呼吸器症状 血痰 1.6% 息切れ 7.4% 高血圧 41.1% 全身症状 発熱 7.9% 全身倦怠感 16.5% 易疲労感 22.9%

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表 6 高安動脈炎の診断基準 1.疾患概念と特徴 大動脈とその主要分枝及び肺動脈,冠動脈に狭窄,閉塞又は拡張病変をきたす原因不明の非特異性炎症性疾患.狭窄ないし閉塞を きたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害,あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす.病変の生じた血管 領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する.若い女性に好発する. 2.症  状 (1) 頭 部 虚 血 症 状 :めまい,頭痛,失神発作,片麻痺など (2) 上 肢 虚 血 症 状 :脈拍欠損,上肢易疲労感,指のしびれ感,冷感,上肢痛 (3) 心 症 状 :息切れ,動悸,胸部圧迫感,狭心症状,不整脈 (4) 呼 吸 器 症 状 :呼吸困難,血痰 (5) 高 血 圧 (6) 眼 症 状 :一過性又は持続性の視力障害,失明 (7) 下 肢 症 状 :間欠跛行,脱力,下肢易疲労感 (8) 疼 痛 :頸部痛,背部痛,腰痛 (9) 全 身 症 状 :発熱,全身倦怠感,易疲労感,リンパ節腫脹(頸部) (10) 皮 膚 症 状 :結節性紅班 3.診断上重要な身体所見 (1) 上肢の脈拍ならびに血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱,消失,著明な血圧左右差) (2) 下肢の脈拍ならびに血圧異常(大腿動脈の拍動亢進あるいは減弱,血圧低下,上下肢血圧差) (3) 頸部,背部,腹部での血管雑音 (4) 心雑音(大動脈弁閉鎖不全症が主) (5) 若年者の高血圧 (6) 眼底変化(低血圧眼底,高血圧眼底,視力低下) (7) 顔面萎縮,鼻中隔穿孔(特に重症例) (8) 炎 症 所 見 :微熱,頸部痛,全身倦怠感 4.診断上参考となる検査所見 (1) 炎 症 反 応 :赤沈亢進,CRP 促進,白血球増加,γグロブリン増加 (2) 貧     血 (3) 免 疫 異 常 :免疫グロブリン増加(IgG,IgA),補体増加(C3,C4) (4) 凝 固 線 溶 系 :凝固亢進(線溶異常),血小板活性化亢進 (5) H L A :HLA-B52,B39 5.画像診断による特徴 (1) 大 動 脈 石 灰 化 像 :胸部単純写真,CT (2) 胸 部 大 動 脈 壁 肥 厚 :胸部単純写真,CT,MRA (3) 動脈閉塞,狭窄病変 :DSA,CT,MRA 弓 部 大 動 脈 分 枝 :限局性狭窄からびまん性狭窄まで 下 行 大 動 脈 :びまん性狭窄(異型大動脈縮窄) 腹 部 大 動 脈 :びまん性狭窄(異型大動脈縮窄) しばしば下行大動脈,上腹部大動脈狭窄は連続 腹 部 大 動 脈 分 枝 :起始部狭窄 (4) 拡 張 病 変 :DSA,超音波検査,CT,MRA 上 行 大 動 脈 :びまん性拡張,大動脈弁閉鎖不全の合併 腕 頭 動 脈 :びまん性拡張から限局拡張まで 下 行 大 動 脈 :粗大な凹凸を示すびまん性拡張,拡張の中に狭窄を伴う念珠状拡張から限局性拡張まで (5) 肺 動 脈 病 変 :肺シンチ,DSA,CT,MRA (6) 冠 動 脈 病 変 :冠動脈造影 (7) 多 発 病 変 :DSA 6.診  断 (1) 確定診断は画像診断(DSA,CT,MRA)によって行う. (2) 若年者で血管造影によって大動脈とその第一次分枝に閉塞性あるいは拡張性病変を多発性に認めた場合は,炎症反応が 陰性でも高安動脈炎(大動脈炎症候群)を第 1 に疑う. (3) これに炎症反応が陽性ならば,高安動脈炎(大動脈炎症候群)と診断する. (4) 上記の自覚症状,検査所見を有し,下記の鑑別疾患を否定できるもの. 7.鑑別疾患 ①動脈硬化症      ②炎症性腹部大動脈瘤 ③血管性ベーチェット病       ④梅毒性中膜炎 ⑤側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)          ⑥先天性血管異常 ⑦細菌性動脈瘤

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症を多く合併するため,上行大動脈造影を行い逆流の程 度をみる.しかし今では大動脈弁閉鎖不全に関しては, 心エコー図の方がより情報が得られる.  肺動脈病変の合併は,約15%の症例に認められる. 初発症状における肺症状の訴えは少ないが,本症の診断 が 疑 わ れ た 場 合 は 積 極 的 に 肺 血 流 シ ン チ,IV-DSA, MRAを用いて肺動脈の評価が必要である.また冠動脈 病変は約8%の例に認められる. ②眼底所見  慢性に進行する血圧低下に伴う血流の緩徐化により, 網膜血管が拡張する.この時期には毛細血管瘤が耳側周 辺部眼底にみられる.進行すると毛細血管瘤は眼底全体 に多発し,一方,周辺部で血管閉塞が進行し動静脈吻合 を生じる.後極部で形成され,ついには視神経乳頭を取 り巻いて馬蹄形または花冠状となる(図 11).さらに網 膜虚血が高度となり,乳頭や虹彩に新生血管が現れる. 毛様体の機能も低下し,極端な低眼圧となり,併発白内 障も生じ視力は低下する.低血圧による網膜中心動脈の 非可逆性閉塞や網膜剥離で失明する. ③検査所見  本症に特異的な血液,生化学検査はない.本症の活動 性を知るためにCRPや血沈,白血球数,ガンマグロブ リン,貧血の有無から高安動脈炎の活動性の評価を行う. 炎症所見と並行して易血栓性の検討すなわち血栓準備状 態(血小板凝集能,フィブリノーゲン値,PT,APTT, ATⅢ)の評価を行う.  免疫学的検査では,免疫グロブリン(IgG,IgA)の 増 加, 補 体(C3,C4) の 増 加 も 認 め る こ と が あ る.

HLA B52,HLA B39が有意に頻度が高い.特にHLA

B52陽性例は,陰性例に比べて病変の程度が強いといわ れている. ④その他  非侵襲的検査としてMRA(図 12)も有用である.最 近,癌の検診に用いられている18F-FDG-PET が補助診 断として有用なことがある(図 13).

3

鑑別診断

 鑑別すべき疾患として①動脈硬化症,②炎症性腹部大 動脈瘤,③血管ベーチェット病,④梅毒性中膜炎,⑤側 頭動脈炎,⑥先天性血管異常,⑦細菌性動脈瘤があげら れる.動脈硬化症とは,年齢である程度鑑別可能である. 炎症性腹部大動脈瘤は炎症を認め,水腎症を伴い,CT でMantle signが特徴である.血管ベーチェットは,嚢 状の動脈瘤をきたすことがあるが,その他の所見を参考 にすれば鑑別は可能である.梅毒性中膜炎は,最近では 経験することはない.側頭動脈炎は高齢者に好発し,筋 痛(リウマチ性多発筋痛症)を高率に合併する.先天性 血管異常としてはmid-aortic syndromeがあるが,大動脈 の縮窄を認めるも壁は平滑である点から,また細菌性動 脈瘤とは嚢状の動脈瘤を呈するが,それ以外に病変がな 図 11 高安動脈炎症例の眼底所見 図 12 高安動脈炎の 3D-CT 所見 両側内頸動脈の著しい口径不正を認める.

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いことから鑑別可能である.

4

合併症

 合併症として,大動脈弁閉鎖不全症,大動脈瘤,大動 脈解離,脳虚血発作,肺梗塞,狭心症,鎖骨下動脈盗流 症候群,異型大動脈縮窄症,腎血管高血圧症があげられ る.なかでも本疾患の約3分の1を合併する大動脈弁閉 鎖不全症は,予後に与える重要な合併症である(表 7).

6

治療指針および

治療法ガイドライン

1

内科的治療

①内科的治療の現状  高安動脈炎は,大動脈およびその分枝である総頸動脈・ 鎖骨下動脈・冠動脈・肺動脈・腎動脈などを炎症の主座 とする慢性血管炎である.炎症性の血管炎症性の血管狭 窄や拡張,および血栓形成を生じることによりさまざま な臓器障害を生じる50).かつては,鎖骨下動脈閉塞によ る橈骨動脈拍動触知不良により診断され,脈なし病と呼 ばれていたが,近年画像診断法の進歩により,発熱・全 身倦怠感と血沈亢進,CRP上昇といった非特異的炎症 所見のみ認められる早期の段階で診断できるようになっ てきた.そのため早期の副腎皮質ステロイド薬(以下ス テロイド)投与開始により,臓器障害を生じることなく 疾患のコントロールが可能となってきたが,時折ステロ イド療法に抵抗性を示す例を経験することがある.その ようなステロイド抵抗例に対する新規治療法も試みられ ているが,確固たるエビデンスはない.現時点での内科 的治療法の流れを図 14 に示す. ②ステロイド療法(レベル A,クラスⅠ)  高安動脈炎の内科的治療においては,ステロイド療法 がゴールデンスタンダードとされている.活動性の血管 炎の存在を示唆する発熱,全身倦怠感,頸部・背部・腰 部の疼痛などの自覚症状と,赤沈亢進やCRP上昇など の炎症反応がみられた場合,ステロイド療法の開始を検 討する. 1)初期投与量  一般に高安動脈炎はステロイド治療の反応性が良好と されている.用量反応試験のエビデンスはないが,プレ ドニゾロン20∼30mg/日程度が一般的であり,年齢・ 体格・重症度・検査値を考慮し増減する51) .1975年に 行われた本邦の高安動脈炎150例を対象とするステロイ 表 7 高安動脈炎の合併症 合併症(心臓弁) 大動脈弁閉鎖不全 33.8% 大動脈弁変化 7.1% 大動脈弁逆流評価 Ⅰ 10.8% Ⅱ 7.6% Ⅲ 10.1% Ⅳ 21.7% 合併症(心臓) 虚血性心疾患 10.7% 合併症(心臓外) 眼症状 16.4% 白内障 4.0% 眼底所見 8.9% 腹部大動脈瘤 5.0% 解離性動脈瘤 0.9% 腎障害 10.9% 蛋白尿 8.7% 腎動脈狭窄 14.7% 高血圧合併症 46.8% 脳虚血発作 14.9% 脳血栓 5.5% 脳出血 0.7% 一過性脳虚血発作 5.7% (厚生省難治性血管炎研究班平成10 年度報告書) 図 13 高安動脈炎の18 F-FDG-PET 所見 PET 所見では,上行大動脈から大動脈弓部にかけて強い集積を 認める.PET-CT 画像では大動脈壁に一致してリング状集積を 示し血管壁への集積と判断可能で活動性の高安動脈炎に特徴 的な所見である.

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ド治療に関する調査では,初期投与量は27.4±11.6mg/ 日であった.しかし,欧米における初期投与量は30mg/ 日以上の中等量から1mg/kgの大量投与が行われる52)− 55) .改善率については本邦で51.3%であり,米国で60% とステロイド療法の有効性に明らかな差はなく,この初 期投与量の差異が示すところは不明である51),53) .初期 投与量の継続期間について,本邦では症状や検査所見の 改善が2週間以上観察される時点までとしているが,欧 米では1ヶ月から3ヶ月と比較的長期に初期投与量が継 続される.その後のステロイド投与量は20mg/日まで 5mg/週の割合で本邦の標準的な治療法より速く減量す る56) .なお,HLA-B52陽性患者においては,陰性患者 と比較し炎症所見が強く,陰性患者平均14.6±1.2mg/ 日に対し陽性患者平均20.0±1.3mg/日とより多くのス テロイド初期投与量を必要とする.また,維持量に到達 する期間についても,陰性患者平均3.7±1.5年に対し 陽性患者平均5.7±0.9年と長く,HLA-B52陽性患者は ステロイド抵抗性を示すとされている57).可能であれば 治療開始前にHLAタイピングを行うことが望ましい. 2)減量方法  上記に従い初期投与量から減量開始後,プレドニゾロ ン10mg/日までは,5mg/2週間の割合で減量し,10mg/ 日以下では2.5mg/2週間の割合で減量する51).ただし, 臨床症状および各種検査所見から,厚生省研究班の示す 表 8 の重症度分類や表 9 の分類基準に基づき減量の可否 を常に判断することが必要であり,10mg/日以下の減量 無効 無効 減量困難 有効 改善 有効 有効 減量 困難 減量 困難 ※ ※ ※ プレドニゾロン 20∼30mg/日 (症例により 60mg/ 日まで増量) 1)MTX 6∼15mg/週 2)CPA 50∼100mg/日内服   または 300∼750mg/m2点滴投与 3)CsA 3mg/kg/日 4)AZP 2mg/kg/日 のいずれか MMF1.5∼3g/日 1)インフリキシマブ 3mg/kg または 2)エタネルセプト 25mg 週 2 回 プレドニゾロン漸減 高安動脈炎の診断 ※本邦では保険適応がないためその使用に おいては、十分なインフォームドコンセ ントを得る必要がある。 図 14 高安動脈炎の内科的治療プロトコール 表 8 高安動脈炎の重症度分類 Ⅰ度:大動脈炎症候群(高安動脈炎)と診断しうる自覚的(脈 なし,頸部痛,微熱,めまい,失神発作など),他覚的(炎 症反応陽性,γグロブリン上昇,上肢血圧左右差,血管雑音, 高血圧など)所見が認められ,かつ血管造影(CT,MRI, MRA を含む)にても病変の存在が認められる.ただし,特 に治療を加える必要もなく経過観察するかあるいはステロ イド剤を除く治療を短期間加える程度. Ⅱ度:上記症状,所見が確認され,ステロイド剤を含む内 科療法にて軽快あるいは経過観察が可能. Ⅲ度:ステロイド剤を含む内科療法,あるいはインターベ ンション(PTA),外科的療法にもかかわらず,しばしば再 発を繰り返し,病変の進行,あるいは遷延が認められる. Ⅳ度:患者の予後を決定する重大な合併症(大動脈弁閉鎖 不全症,動脈瘤形成,腎動脈,虚血性心疾患,肺梗塞が認 められ,強力な内科的,外科的治療を必要とする. Ⅴ度:重篤な臓器機能不全(うっ血性心不全,心筋梗塞, 呼吸機能不全を伴う肺梗塞,脳血管障害(脳出血,脳梗塞), 白内障,腎不全,精神障害)を伴う合併症を有し,厳重な 治療,観察を必要とする. (1999 年厚生省難治性血管炎研究班) 表 9 高安動脈炎の疾患活動性評価 1.発熱・筋骨格症状などの全身症状 2.赤沈亢進 3. 跛行,脈拍減弱・消失,血管雑音,血管痛,上肢または 下肢(あるいは双方)の血圧左右差などの虚血または血 管炎による症状 4.典型的血管造影所見  以上のうち 2 項目以上を満たす場合,活動性が高いと判 断する.  「寛解」は,1,2,3 の改善と画像上の新規病変の未検出 をもって定義される(文献 33,36 より改変).

図 10 高安動脈炎症例の Digital Subtraction Angiography(DSA)
表 6 高安動脈炎の診断基準 1.疾患概念と特徴 大動脈とその主要分枝及び肺動脈,冠動脈に狭窄,閉塞又は拡張病変をきたす原因不明の非特異性炎症性疾患.狭窄ないし閉塞を きたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害,あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす.病変の生じた血管 領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する.若い女性に好発する. 2.症  状 (1) 頭 部 虚 血 症 状 :めまい,頭痛,失神発作,片麻痺など (2) 上 肢 虚 血 症 状 :脈拍欠損,上肢易疲労感,指のしび
図 29a 腸間膜・腸管壁の動脈瘤 図 29b 腎内の葉間動脈の動脈瘤

参照

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