MPA
を対象としたランダム化比較対照試験は皆無で あるため,質の高い治療のエビデンスはない.最近になり,欧米で行われたランダム化比較対照試験の成績が相 次いで報告され,
ANCA
関連血管炎に対する質の高い エビデンスが提示された.これらは欧米で頻度の多いウ ェゲナー肉芽腫症を主体とした成績であり,顕微鏡的多 発血管炎の治療に応用する場合は慎重な吟味を必要とす る.我が国においても,質の高いエビデンスを確立する 必要がある.2004
年,難治性血管炎に関する調査研究 班(主任研究者尾崎承一)並びに進行性腎障害に関す る調査研究班(主任研究者富野康日巳)による共同研 究として,MPO-ANCA
関連血管炎に対する重症度別治 療プロトコールが作成され,その検証のための前向き臨 床試験が開始された.血管炎は,血管壁の破綻出血また は虚血・梗塞により環流組織や臓器に進行性かつ非可逆 的障害をきたす.したがって,可及的早期に確定診断を つけ,迅速に治療を開始して血管炎を寛解させること(寛 解導入療法)が第1
に重要である.寛解とは,血管炎に よる活動性病変(後遺症ではない)が認められない状態を さ し, 国 際 的 に は,
Birmingham vasculitis activity score
(BVAS
)<1
という定義が客観的指標として用い られている.次に寛解状態を維持して再燃を防ぐ寛解維 持療法が重要である.①寛解導入療法
シクロホスファミドとステロイドの併用療法が推奨さ れる240(クラスⅠ).シクロホスファミドと併用するス) テロイドの投与量は,初期にはプレドニソロン換算
1mg/kg
が用いられるが,2
ヶ月以内に20mg/
日ないし3
ヶ月以内に15mg/
日以下まで早期に減量して副作用を軽 減させることが推奨される(クラスⅠ).シクロホスフ ァミドの投与量は,年齢と腎機能によって減量調節し,過剰投与(による日和見感染や骨髄抑制)を回避する(ク ラスⅡ
a
).びまん性肺胞出血を来した症例に対しては,標準的寛解導入療法に血漿交換療法を併用することが推 奨される254(クラスⅡ)
b
).シクロホスファミドは2mg/
kg
の経口連日投与法または15mg/kg
の間歇静注投与法 が推奨される(推奨度A
).経口連日投与法と間歇静注 投与法を比較したメタ解析によると,前者に比べて後者 において寛解導入率が有意に高く,感染症併発率が有意 に低かった.再燃率は後者の方が高い傾向がみられた254)
.日和見感染症,特にニューモシスティス肺炎予防 に
ST
合剤(Ⅰ.総論2
− を参照)の予防投与が推奨 される(クラスⅠ).シクロホスファミドと併用するス テロイドの投与量は,初期にはプレドニソロン換算1mg/kg
が用いられるが,2
ヶ月以内に20mg/
日ないし3
ヶ月以内に15mg/
日以下まで早期に減量して副作用を軽 減させることが推奨される(レベルA
).血清クレアチニン
5.7mg/dl
以上の重度腎障害例やびまん性肺胞出血をきたした症例に対しては上記寛解導入療法に加え血漿交 換療法の併用が推奨される255),256(レベル)
B
).重要臓器 障害がないか軽度の症例の治療法に関しては,前向き臨 床試験がない.ウェゲナー肉芽腫症を主体としたRCT
において,MTX15
〜25mg/
週はシクロホスファミドに 劣らない寛解導入率が得られた.シクロホスファミド以 外の毒性の弱い免疫抑制薬の併用や,ステロイド単独投 与が推奨される(レベルB
).②寛解維持療法
一旦,寛解導入されたら,シクロホスファミドよりも 毒性の弱い免疫抑制薬の使用が推奨される.寛解導入後 から
12
ヶ月後までシクロホスファミドを継続する群(
n=79
)とアザチオプリンに切り替えた群(n=76
)とを 比較するランダム化比較対照試験が行われ,対象は39
表 25 顕微鏡的多発血管炎 (MPA)の診断基準主要症候
1.急速進行性糸球体腎炎 2.肺出血または間質性肺炎 3.腎・肺以外の臓器症状
紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など 主要検査所見
1.MPO-ANCA陽性 2.CRP陽性
3.蛋白尿・血尿・BUN・血清クレアチニン値の上昇
4.胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性陰影
組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲 の炎症性細胞浸潤
判定
1.確実(definite)
a)主要症候の2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例
b) 主要症候の1および2を含め2項目以上を満たし,
MPO-ANCAが陽性の例 2.疑い(probable)
a)主要症候の3項目を満たす例
b)主要症候の1項目とMPO-ANCAが陽性の例 鑑別診断
1.古典的PN
2.ウェゲナー肉芽腫症
3.アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)
4.Goodpasture症候群 参考事項
1. 主要症候の出現する1〜2週間前に先行感染(多く は上気道感染)を認める例が多い
2. 主要症候1,2は約半数で同時に,その他の例ではい ずれか一方が先行する
3. 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と並行し て変動する
4.治療を早く中止すると,再発する例がある
5.古典的PNと顕微鏡的PNの相違を表23に示す
(厚生省特定疾患難治性血管炎分科会平成10 年度研究報告書.
p.241, 1999 より改変)
%の
MPA
を含む全身型ANCA
関連血管炎患者で,観察 期間は計18
ヶ月,再燃率はアザチオプリン群で15.5
%,シクロホスファミド群で
13.7
%と差がなかった.重要臓 器の血管炎再燃は両群とも5
例であった.ウェゲナー肉 芽腫症の再燃率18
%に比べ,MPA
の再燃率は8
%と有 意に少なかった254).寛解維持療法薬として,アザチオ プリンの他にメトトレキサートやミコフェノール酸モフ ェチルも推奨される(クラスⅢ).7 予後
我が国の
MPA
の症例は発症後6
ヶ月以内に30
%が死 亡し,1
年以内の死亡率は全体では35
%,全身型では45
%,腎限局型では
10
%である.1
年目以降の死亡率は低 下する.主な死因は感染症,肺胞出血,腎不全である.2 ウェゲナー肉芽腫症
1 疾患概念・定義・疫学
ウェゲナー肉芽腫症(
Wegener
’s granulomatosis: WG
) は,①鼻,眼,耳,上気道(E
)および肺(L
)の壊死 性肉芽腫性炎,②腎(K
)の巣状分節性壊死性糸球体腎炎,③全身の中・小型動脈の壊死性血管炎の
3
つを臨床病理 学的な特徴とする難治性血管炎で,1939
年にドイツの 病理学者Wegener
により報告された疾患である15).本症 は30
〜50
歳台に多く発症し,明らかな性差はない257). 自己免疫機序が疑われているが,詳細は不明である.2 発症機序
1985
年Woude
ら は 抗 好 中 球 細 胞 質 抗 体(Anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA
) の う ちcytoplasmic
(C
)-ANCA
がWG
に高率に陽性を呈する ことを発見した258).C-ANCA
の対応抗原は好中球細胞 質 の 一 次 顆 粒 に 含 ま れ る29kDa
のproteinase 3
(PR3
) で あ る.WG
の 未 治 療 活 動 期 で80
〜96
% にC-ANCA
(
PR-3 ANCA
)が陽性を示し,免疫抑制療法の導入により
ANCA
力価は低下し,疾患活動性とANCA
値が相関 する傾向を示す259).一方,PR3-ANCA
とWG
の成因に 関しては,現在,ANCA
と炎症性サイトカイン(TNF-
α など)が同時に作用してPR3
などのプロテアーゼを放 出し組織障害に働き,PR3
の持つ蛋白分解機能,白血球 の分化・増殖促進作用によりWG
の壊死性血管炎,肉芽 腫,壊死性半月体形成性腎炎を呈するとのANCA-
サイ トカインsequence
説が有力である3).3 病理所見
上気道(
E
)や肺(L
)では,実質の壊死像や肉芽腫 性炎症所見(図30)が認められる260).もうひとつの特 徴的所見である壊死性血管炎は,中型から小型の動静脈 および毛細血管に認め,EVG
染色では,炎症の強い部 位で部分的な弾性線維の消失を認める(図31)260).腎(K
) の特徴的な組織所見は,巣状分節状または半月体形成性 腎炎の所見であり(図32),免疫グロブリンや補体の有 意な沈着は認めないpauci-immune
型の腎炎である260). 腎においてはおよそ50
%以下の症例でフィブリノイド 壊死型血管炎の所見を認める.フィブリノイド型血管炎 は,腎以外の全身の諸臓器にも広範に分布する.脾臓に おいてはフィブリノイド型血管炎とともに不規則な地図 状の梗塞像を認める.消化管においては肉眼的にびらん や潰瘍を認め,組織学的には小動脈の壁のフィブリノイ ド壊死を認める.皮膚においては肉眼的に紫斑を呈し,組織学的に白血球破砕性血管炎の所見を呈する.
図 30 肺の壊死性肉芽腫.多核巨細胞が認められる
図 31 肺の肉芽腫内の壊死性血管炎(EVG 染色)