2 発症機序
クリオグロブリンの構成成分に基づいて
3
型に分類さ れる272(表30).単一性(Ⅰ型)クリオグロブリンは単) ク ロ ー ン 性 免 疫 グ ロ ブ リ ン( 通 常IgM
あ る い はIgG
.IgA
,light chain
は低頻度)で構成され,およそ25
%を 占める.多発性骨髄腫やマクログロブリン血症でみられ る.一方,混合性(Ⅱ型,Ⅲ型)クリオグロブリンは,IgM
リウマトイド因子(稀にIgG
あるいはIgA
)と,多 クローン性IgG
とが複合体を形成したものである.この うちⅡ型のリウマトイド因子は単クローン性,Ⅲ型では 多クローン性である.頻度はそれぞれ25
%,50
%程度 であり,種々の感染症,結合組織疾患,その他の炎症性 疾患,稀にリンパ増殖性疾患でみられる.近年,HCV
抗体陽性例が多く集積され273),特にⅡ型に多い.
3 臨床症状と検査所見
Ⅰ型では血液粘度亢進による血栓形成が主体であり,
Raynaud
症状,四肢のチアノーゼ,網状皮斑,潰瘍,壊疽が出現し,心筋梗塞,脳梗塞,眼底出血などを伴う.
Ⅱ型,Ⅲ型では免疫複合体による血管炎が病態形成に 関与し,多彩な臨床症状を呈する272).発熱,全身倦怠感,
筋・関節症状を生じ,皮膚症状はほぼ全例に出現する.
下肢を中心とする斑状ないし丘疹状の紫斑,褐色色素沈 着,血疱,網状皮斑,潰瘍,寒冷蕁麻疹がみられる(図 35).
腎病変は
5
〜60
%にみられ,血尿,蛋白尿をしばしば 認め,ときにネフローゼ症候群,急性腎不全をきたし,表 30 クリオグロブリン血症の分類
Ⅰ型 Ⅱ型 Ⅲ型
構成分
単一性 混合性 混合性
単クローン性IgMまたはIgG ときにIgA, light chain
単クローン性IgM(RF)と 多クローン性Igとの混成
多クローン性IgM(RF)と 多クローン性Igの混成
病態 微小血栓 免疫複合体性血管炎 免疫複合体性血管炎
関連疾患
●リンパ増殖性疾患 多発性骨髄腫 マクログロブリン血症 その他
●本態性
●感染性
ウイルス性:A,B,C型肝炎,伝染性単核球症
溶連性連鎖球菌性糸球体腎炎,ハンセン病,梅毒,ライム病 日本住血吸虫,トキソプラズマ,マラリアなど
●膠原病 SLE,RA,PN,Sjögren症候群など
●リンパ増殖性疾患 マクログロブリン血症,慢性リンパ性白血病,悪性リ ンパ腫など
●その他 膜性増殖性糸球体腎炎,サルコイドーシスなど
頻度 25% 25% 50%
図 35 混合性クリオグロブリン血症の皮膚症状と病理組織像 足背の紫斑と下腿の潰瘍.
紫斑部位の病理組織学的所見はフィブリン様物質の顕著な沈着を伴う壊死性血管炎である.
本症の予後を左右する.末梢神経障害(知覚・運動神経)
は
70
〜80
%にみられる,知覚神経がより侵されやすい.肺症状(呼吸困難,咳嗽,胸部痛)は
40
〜50
%にみら れる.腹痛は2
〜22
%に出現する.4 診断法および診断基準
寒冷曝露との関連性のある血管性病変をみた時,血清 クリオグロブリンの検査,原因疾患の検索を行う.
クリオグロブリンの証明には,温めた注射シリンジで 採血,
37
℃下で血清を分離し,4
℃に冷却し5
〜7
日間 放置した後,遠沈して沈殿物の存在を確認し,クリオス タットや分光光度計によって定量する.さらに,その組 成を免疫学的に分析する.Ⅰ型では単クローン性蛋白血症,
X
線所見など,Ⅱ型 ではリウマトイド因子,低補体血症,自己抗体,HCV
抗体価やRNA
量が診断の参考になる.皮膚や腎臓の病 理組織所見では,Ⅰ型では非炎症性の好酸性無構造物質 による微小血栓を示す.Ⅱ,Ⅲ型では真皮上層〜中層の 細小血管に壊死性血管炎を認め,腎では膜性増殖性糸球 体腎炎の組織像が特徴的である.5 治療指針および治療法ガイドライン
寒冷曝露を避け,保温を第一とする.
NSAIDs
は,全 身倦怠,関節痛に用いられる.副腎皮質ステロイド薬(パ ルス療法を含む),他の免疫抑制薬(シクロフォスファ ミド,アザチオプリンなど),抗凝固薬の併用投与は,腎症状,進行性神経症状,重篤な皮膚症状に用いられる.
血漿交換療法(+副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬に よる後療法)は,生命を脅かす重症合併症に適応になる
274),275)
.
続発性クリオグロブリン血症では原疾患の治療が必要 である.
HCV
肝炎ではinterferon-
α,ribavirin
(guanosine nucleoside analog
)の単独ないし併用投与が,血管炎症 状および血液検査異常(肝機能,クリオグロブリン値,HCV RNA
量など)を改善したとの報告がある276)−279). その他,難治例にrituximab
(抗CD20
単クローン抗体)の有効性が報告されている280),281).
[クリオグロブリン血症における治療法とその適応評価]
クラスⅠ (レベル
C
)
NSAIDs
,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬,抗凝固薬
クラスⅡ
a
(レベルC
) 血漿交換療法,クラスⅡ
b
interferon-
α,ribavirin
,rituximab
クラスⅢ 該当なし
6 予後
混合性クリオグロブリン血症による血管炎の予後は
50
%においては良好な経過をとる.しかし,全症例の1/3
においは,肝不全や腎不全に至るような重篤な経過 をとる場合もある282).6 悪性関節リウマチ
1 疾患概念・定義・疫学
関節リウマチ(
RA
)は,20
〜50
歳の女性に好発し,多関節炎と関節破壊により関節機能障害をきたす原因不 明の全身性炎症性疾患である.その臨床像は多彩で,し ばしば血管炎をはじめとする関節外症状をきたし,難治 性もしくは生命予後の不良な臨床病態がみられる.
1954
年,Bevans
らはこのような症例を2
例報告し,悪性関節 リウマチ(malignant RA
,MRA
)と称した12).MRA
の 特徴を要約すると,(1
)明らかなRA
が存在する,(2
)心,肺,消化管,神経などの内臓病変が同時に存在する,(
3
) これらの内臓病変は難治性で,時に生命予後を左右する.したがって,
RA
の関節病変が進行し,関節の機能不 全により身体障害に至る場合には,内臓障害がなければMRA
には含まれない.日本における
MRA
の症例数は,RA
の約0.6
%とされ,約
4,200
人と推定されている.MRA
の発症年齢は50
歳 代にピークをもち,RA
よりやや高齢である.性別では より男性の占める割合が大きく,男女比は1
:2
である.2 発症機序
RA
と同様に原因不明であるが,その病因に遺伝・素 因と環境因子,自己免疫機序の関与が示唆されている.MRA
患者におけるRA
家族内発症は14
%にみられ,体 質・遺伝性が示唆される.HLA
抗原ではRA
と同様にDR4
と相関するが,その相関性はRA
よりも強いことが 指摘されている.3 病理所見
MRA
では,RA
にみられる多彩な免疫異常をかねそ なえている.リウマトイド因子は高値陽性を示し,IgG
リウマトイド因子,7SIgM
リウマトイド因子が効率に認 められ,これらのリウマトイド因子を含む免疫複合体が 血管炎に関与していることが示唆されている.
MRA
にみられる血管病変は組織学的に次の3
型に分 類される.(1
)RA
型(32
%);血管壁にリウマトイド 結節様病変を示す壊死性血管炎で,亜型として巨細胞出 現を伴った汎動脈炎が含まれる.(2
)壊死性血管炎型(PN
型)(56
%);多発性動脈炎様のフィブリノイド血管炎 を示すもので,亜型として内膜のみ,また血管炎の一部 にフィブリノイド変性を伴った血管炎が含まれる.(3
) 閉塞性動脈内膜炎型(EA
型)(12
%);閉塞性動脈内膜 炎で,亜型として内膜の増殖のみのものも含まれる.4 臨床症状と検査所見
RA
の経過中に,発熱,体重減少,筋痛・筋力低下,皮下結節,上強膜炎など血管病変を反映する症状をみる.
皮膚症状も皮膚の小血管病変によるところが大きく,梗 塞,潰瘍,壊疽の他,爪床や爪縁の出血,紫斑,足背・
下腿の浮腫などがみられる.内臓病変では図36に示す ような間質性肺炎・肺線維症,胸膜炎,肉芽腫性肺病変 などの肺病変,心外膜炎,心筋炎,時に冠動脈炎による 狭心症ないし心筋梗塞などの心病変をみる.神経症状で は,脳実質障害は稀で,よくみられるのは多発性単神経 炎である.運動,知覚いずれの障害もみられ,時に下垂 手,尖足がみられる.腸間膜動脈の血管病変により腸梗 塞,イレウス症状を呈することがあり,腹痛,下血など
をみる.
RA
における腎病変は,アミロイドーシスをは じめ,治療薬剤の影響(特に金剤,D-
ペニシラミン,非ステロイド抗炎症剤),腎病変をきたす他の膠原病と
の
overlap
,クリオグロブリン血症などの関与が考えられるが,
MRA
においては,クリオグロブリン血症に伴 う腎病変と間質性腎炎,抗好中球細胞質抗体(ANCA
) 陽性をみる半月体形成性糸球体腎炎に留意する.
CRP
は強陽性を示し,赤沈も亢進する.白血球,血 小板の増加をみ,貧血や低蛋白血症,抗γ−グロブリン 血症も認められる.関節のX
線所見ではStage
Ⅲ以上の 症例(86
%)が多い.リウマトイド因子は高値陽性を 示す.しかし,陰性の症例もみられ,これはリウマトイ ド因子の質的な変化によると考えられ,IgG
リウマトイ ド因子陽性率も高い.血清低補体価や血中免疫複合体も 多く,ANCA
も少なからず認められる.皮膚,筋,末 梢神経などの組織生検により血管病変をみる.5 診断法および診断基準
RA
と診断され,上記の臨床症状と検査所見が認めら れればMRA
が強く疑われる.厚生労働省調査研究班よ り提唱されているMRA
診断基準を表に示す(表31)283)
.この基準では,判定(
1
)の場合に感度88.7
%,特 異 度93.8
%, 判 定(2
) の 場 合 に 感 度95.7
%, 特 異 度100
%を示す.鑑別すべき疾患として,感染症,アミロ イドーシス,フェルティ症候群,全身性エリテマトーデ スなどがあげられる.6 治療指針および治療法ガイドライン
治療法として,ステロイド薬,免疫抑制薬,
D-
ペニ シラミン,血漿交換療法,抗凝固療法などが治療法とし て用いられるが,その適応は臨床病態により異なる.厚 生労働省調査研究班よりMRA
の病態による治療指針が 提唱されている284).すなわち,基本方針として,(1
) それまでの抗リウマチ剤によるRA
寛解導入の為の治療 は継続して行うことを原則とする,(2
)関節機能保全に 留意し治療を行う,(3
)MRA
の臨床病態が寛解するま で入院治療を原則とする,(4
)MRA
の病態に応じ,以 下の治療法を加える.病態として,血管炎による臓器虚 血,間質性肺炎,心筋炎,運動障害を伴う多発性単神経 炎などでは,プレドニゾロン(PSL
)1
日40
〜80mg
よ り治療開始する(クラスⅡa
).ステロイド薬に十分反 応しない場合には,パルス療法ないしは免疫抑制剤が併 用され,また,免疫複合体高値,クリオグロブリン血症,過粘稠度が認められる場合には,血漿交換が適用される
(クラスⅡ
b
).図 36b 悪性関節リウマチ 肺リウマチ結節組織像 図 36a 悪性関節リウマチ 胸部 CT 所見