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日本 の花 梅岩 と鉱床 との関係
東京大学理学 部地質学教室渡
辺
近年鉱 床成因論上の興味あ る研究課塩 とし て, しば しば各国の学者によって花 尚岩類 と 鉱 床 との関係が論議 されて きた. この間題の 中には地質 学上の広汎 な問題が含 まれてい る がその中で興味あ る問題 として次 の如 きもの を挙 げ ることがで きる. (1) 造 山帯 にお ける花 尚岩 と鉱 床の地質学 的関係 (2)岩 渠起源の花 嵐岩 と花 尚岩化作用によ って生成 され た花 岡岩 との区別 , と く に鉱 床 との成因的関係 について (3)花 岡岩 の岩石学的性質 と鉱床型 との関 係 (4)花 絹岩 体を中心 とす る鉱 床の帯状分布 (5)花 尚岩 と鉱床の生成期 (6)花 尚岩周辺 の熱変成 と既存鉱床 との関 係 著者 の研究 はこれ らの諸問題 に関 して 日本 の諸鉱床を正確 に見 なおす段階には到底至っ ていないが, しか しここでは一応 日本 の重要 鉱床の鉱床の型 と多 くの花 嵐岩体 と鉱床 との 関係 を分布の上か ら見 て,相関関係 を綜 合的 に しらべ てみ よ うと試 みた. もとよ り本邦の 花 尚岩 については末だ充分 な研究が行 われて いない もの も少 くない.又鉱床について も研 究で きた ものはその うちの僅かに す ぎ な い が , ここに本邦 の花 梅岩地域 に存在す る鉱床 と花 尚岩体 の関係 を予察 した.記載 の都合上 北部 よ り南部 に向 って各地 区別に説 明す る.武
男
a)北海道 日高 山地 : 日高青陵 山地 には ミグマ タイ ト と若干の コンコ- ダ ン ト型の花 尚岩類が知 ら れてい るが, これ らと直接成因的関係が深い と思 われ る重要鉱床 は知 られていない. 西南部 :この地区は地質学的には後述の東 北 日本 内帯 の北延長部にあた る.新第三紀 層 の基盤 には古生層を貫 く花 街岩 類が各所 に露 出 してい る. これ らの花 尚岩 の性質 は東北 日 本 のそれ らに相当す る もので あ るが,第三紀 層に大部分おおわれ てい るので これ らと直接 成因的に関係 あ る鉱床は余 り数 多 くしられ て いない.奥尻 島 ・久遠方面 にあ る花 梅岩規に は北上山地東部の花 尚岩 の如 くモ リブデン鉱 床 を伴 う.渡 島南部の桂岡鉄鉱床は この地方 にあ る中生代末菜 の花 尚岩数 と成因的に関係 のあ る接触交代鉱床 といわれてい る.又 この 地方 の古生層中のマ ンガン鉱層のあ る ものに は接触熱変 成 を蒙 ってい るものが あ る. b)乗北 日本 北 上山地 :この地方の花 梅岩数は岩石 学的 性質 と貫入時代か ら三種 に大別 されてい る. 古生代末葉 (二壁 紀かそれ以前)に貫入 し た と考 え られ る氷上 山型 の花 尚岩類 は多少片 麻状で コンコーダン ト貫入 を示 してい るが , その熱変成帯 は顕著でない. この中には小含 金石英脈が存在す るが その他 には重要 な金 属 鉱床が知 られていない. 中生代中葉 (?,下部 ジュ ラ紀前か)に貫日本の花尚岩と鉱床との関係 入 した と考 え られ る花 尚岩類は,遠野花 南岩 を始 めとしてNNW -SSEの方向にな らんで 露出 し,多 くは不整合的貫入岩 体 となって古 生層を貫 き,一部 は三畳紀層を貫 き,上部 白 亜紀屑におおわれてい る. これ らの時代の花 開岩類はこの地方の重要 な鉄 ・モ リブデン ・ 銅 などの鉱床 と成因的に関係がある.遠野花 尚岩又は岩泉附近の花 尚岩体 内部にはペグマ タイ トが知 られ これに若干の稀元素鉱物を産 す る.ペグマ タイ ト質モ リブデン鉱床 も存在 す る.古生層 との接触帯では石灰岩中に釜石 型の金 ・銅 ・鉄のスカルン型鉱床や大川 目の 如 きモ リブテン鉱床な どが存在す る. ス トック状の花 田岩体の周辺部の古生層に は金 ・銅 ・タングステン ・ウランの鉱脈 も数 多 く,鉱物共生関係 よ り局所的帯状分布 をな す ものが知 られてい る.田老鉱床は北上東列 花 岡岩の近傍にあるが,その成因的関係 は未 だ明かでない.釜石 よ り北部の北上地方 に南 北 に貫 らなる古生層中のチャー ト帯 には多数 のマンガン層が存在 してい るが,花 嵐岩休の 近傍の鉱床は野田玉川鉱山の場合の如 く著 し く熱変成作用を蒙 ってい る. 阿武隈山地 :北上山地に較べて基盤岩 はか な り深部迄削刺 され,地殻の深部にあった と 思 はれ るコンコーダン ト型の片麻花 置岩類が 広 く露 出 してい る. これ らの中には重要 な金 属鉱床は少いが,西部に南北 に貫 らなるペグ マ タイ ト鉱 床が多数知 られてい る. この地方 には上部白雲紀以前の中生代花 尚岩類 も各所 に分布 してい るが,とくに,阿武隈山地の周辺 部の古生層地域には,ディスコーダン ト貫入 の小岩株状岩 棒があ り,その附近の石灰岩中 には高倉 ・八茎の如 き釜石型のスカルン型の 銅 ・鉄鉱床や若干のモ リブデン鉱脈な どが知 53 られてい る.又山地の南部の 日立 ・諏訪等のキ -ス ラーガ-型鉱床は, コンコ-ダン ト的入 四間花 尚岩類 と成因的に密接な関係がある も の と考 え られ, これまでに多 くの人々によっ て種 々論議 されて きたが,筆者 は 日立鉱床は, 鉱昧の生成后に動力変成 と熱変成 などを繰返 し うけた複雑 な鉱床であると考 えてい る. 東北 日本 内碍 :北 上 ・阿武隈山地のそれぞ れの北北西延長部には,新第三紀層の下部に それぞれ類似 した花 尚岩鞍が露出 してい る. しか し断片的な露 出があるのみで これ らと成 因的に直接関係 のある鉱床 として重要 な もの は余 り知 られていない.青森県のスカルン型 鋼鉱床や,新潟県のスカル ン型鉄 ・銅鉱床, モ リブデン鉱脈,足尾山地の タング ステン鉱 床等が存在が知 られてい るが,大 部 分 は 中 生代に貫入 した花 掃岩顎に伴 うものである. しか し,グ リーンタフ地域 と呼ばれ るこの地 方の重要 な金属鉱床 は主に新 第三紀中新世時 代 に生成 された浅成鉱床が大 部分である.最 近の研究によって新第三紀層を貫 く小規模の 深成岩体が発見 されつ ゝあ るが, これ らと直 接成因的に関係があると考 え られ る鉱床の実 体 についてはまだよ く知 られていない. この 地方D浅熱水性鉱床 と呼ばれている ものゝ 中 に,高温型の鉱物共生関係 を示す ものが存在 す ることが最近問題になってい るが,それ ら の鉱床 と新 しい深成岩 との地質学的関係 は今 后特に注意 して研究す る必要があろ う. 又関東 山地や丹沢 山塊 には御坂層 を貫 く花 尚岩類 (石英閃緑岩) とそれ と同時 代の花 嵩 岩類が存在す る.丹沢の石英閃緑岩の周辺に は結晶片岩が存在す るが, この岩体 と成因的 に関係のある重要鉱床 はない. しか し,これ らと同時代の石英閃緑岩質の岩体に伴 う鉱床
54 渡 辺 として秩父 山地の古生層を貫 く花 岡岩体附近 には秩父鉱山やその他の鉄 ・亜鉛 ・鉛等の鉱 床が若干存在す る. これ らは高温-中温移化 型の鉱床で,いわゆる接触交代鉱床型 と呼ば れ るものであるが,鉱床の上下の鉱物組成の 変化が特に著 しく鉱物生成傾序 も非常に複雑 なのが特長である. C)西南 日本内帯 この地域 を一括 して述べ ることは困難であ るが全般的にみると花 掃岩 と鉱床 との関係 は 東北 日本 の場合に萩似 してい る. 飛弾 山地:西南 日本 内帯の最 も古 い花 尚岩 類 としてこの地域の花 尚片麻岩類をあげ るこ とがで きる. これ らに伴 う鉱床 としては,秤 岡亜鉛 ・鉛鉱床 と成因約に密接な関係がある もの と考え られていた. しか し最近の研究に よると神岡鉱床群の生成 は片麻岩数の形成 と は直接関係 な く,中竜鉱 床 と同様 に,中生代 の ジュ ラ紀后
,
口重紀のある時期の火成活動 の時代に生成 されたスカ ,i/ン型鉛 ・亜鉛の鉱 床であろ うと推定 されてい る.一般 に飛弾片 麻岩又はこれ らに相当す る岩石の存在す る地 方 には,花 尚片麻岩体 と虐接成因的関係のあ る金属鉱 床は殆 ど認 め られない. 円背 の中央地域 :この地域 には新 しい火山 岩数が分布 してい るところ もあるが,それ ら の地域 を除 くと,広 く古生層が発達 しこれ ら は各所で中生代おそ らく白壁紀の花 褐岩数に よってディスコ-ダン トに貢かれてい る. こ のよ うな花 尚岩体中又はその周辺の古生層, 中生層中には多数の鉱床が存在 してい る.珪 岩 ・砂岩,粘板岩中には鉱泳型鉱床が多 く, 石灰岩 中にはスカルン型交代鉱床が生成 され ている.又鉱石の帯状分布 も花 尚岩体の周辺 に局部的に見出 され る.鏡打 ・和知地方の如 武 男 く,地下に潜在す る花 開碧体の項部のホルン フェ ル ス帯に タングステン鉱膝群が多数に存 在す るところ もあ る. 一方,中国地方中央部岡山 ・広島地方では 花 尚岩買入后の削剥が比較的深部にまで進んだ
ため,花 尚岩 体は底盤状 に広 く露出 してい る. これ らの花 園岩体中にはモ リブデン ・タ ングステン鉱床がある.か って木野崎教授の 指摘 され7こ如 く,山陰型花 嵐岩中にはグ ライ ゼンを伴わぬモ リブデン鉱床があ り, これに 対 して広島花 市岩地域には多少気成鉱物を伴 うモ リブデン ・タングステン鉱床 が 存 在 す ら. この よ うに各花 尚岩体には,それぞれ特 有の タイプの鉱床が存在す る傾向 が あ る か ら,花 置岩体の生成時代や岩石学的性質を考 究す る場合に,それ らに伴 う鉱 床の性質 に も 注意す る必要が ある. この地域の古生層中には土倉の含鋼硫化鉄 鉱鉱床明延鉱 山南谷硫 化鉄鉱鉱床や,柵原鉱 山の硫化鉄鉱鉱床の如 き キ-ス ラ-ガ一に 類縁 した鉱床が存在す る. これ らは中生代末 菜の花 尚岩貫入時代に生成 されたと考 え られ て釆たが, これ らの鉱床のある ものは,花 尚 岩貫入前に存在 していた と推定 され るもの も ある. 又,乗北 日本 の場合に述べたよ うに, この 地方の二塁石炭紀 酉中にある層状 または レン ズ状マ ンガン鉱床 は,各所で ディスコーダ ン トに買入 した白雪紀花 尚岩 によって熟変成 を うけてい る. このため花 尚岩体 の 周 辺 に は,京都府南部や岩国地方で見 られ るよ うに 種 々のマ ンガン珪酸塩鉱物を含むスカルン型 鉱床が形成 されてい る. 領家帯 :西南 日本 内帯の中央構造線の北側 に 東か ら西 に向 って,領家変成帯が あるが, こ日本の花 尚岩 と鉱床 との関係 の地域 には コンコーダン ト貫入 を した告期 花 掃岩 と, これ を切 るディス コ- ダン ト型の 後期花 尚岩類があ る. コンコ- ダン ト型 の花 尚片麻岩質の岩体 には,若干のペグマ タイ ト 型鉱床が存在す るが,重要 な金 属鉱床 は殆ん ど存在 しない.領 家帯の段戸 田口地方 には変 成作用 を著 しく蒙 ったマ ンガン鉱 床が存在す る. d)西南 日本外帯 この地方 には余 り広 く花 園岩海用言露 出 して いないが,中生層や新第三紀 回を貫 く,若い 花 尚岩質岩石が各所に露 出 してい る.一般 に 比較的浅処で団結 した岩休が多 く,熊野酸性 岩 のよ うに地表部で固結 した もの も存 在 す る.その よ うな浅処で団結 した岩 体 附 近 に は,紀州 ・妙法 の如 き浅熱水性型の銅鉱膝が 存在す る.四国の足摺崎や宇和 島の花 尚岩林 附近 には重要 な鉱床が ないが,九州 の第三紀 花 置岩顎 (大崩 山,大 隅 半 島,錫 山,屋 久 良)の周辺 には錫 ・タングステン ・銅 ・鉛 ・ 亜鉛 な どの鉱 床が多数存在 し,鉱 床の帯状分 布 も見 られ る. この地方の花 嵐岩類 は比較的 新 しい時 代 (中新 Lu-) に貫入 した と云 われて い るが, これ らに伴 う鉱床 の型 は,深成型の 気成乃至深中熱水性の鉱床が存在す る.特 に 大崩 山山塊 を中心 とす る尾平 ・木浦鉱床区に は,尾乎 ・見立 ・木浦 ・土 呂久 等 の 多 数 の 錫 ・銅 ・硫批鉄鉱 な どの鉱床が あ り,断層や 55 割 日に沿 うて鉱泳型の鉱 床が生成 され,石灰 岩 中にはス カル ン型鉱 床が存在す る. また, 東北地方 の氷上花 尚岩 の如 く低温貫入 と考 え られてい る黒赫川構造帯の花 園岩 類には重要 な鉱 床 は伴われていない. 横峯鉱床の如 く,辛-ス ラーガ - 型 鉱 床 が,新期花 崩岩類の近傍 で接触熱変成作用 を 蒙 ってい ると見倣 されてい る もの もあ る. 以上の説明の よ うに,わが国の花 置岩類の うちで,片麻状構造の著 しい ものは, コンコ ー ダン ト貫入 した ものが 多い. しか し, これ らには一般 に重要 な金 属鉱床 は伴 われていな い.多数の金属鉱 床は,ス トック状又はキュ ポ ラ状 に露 出 してい るディス コ-ダン ト貫入 を した花 尚岩体 の周辺 に群ってい る. この よ うなわが国の 花 尚 岩 と鉱 床 と の 関 係 は,LINDGREN,EMMONS,NIGGL王, ScHNEIDERH.:'IiN等が
,
世界の各地 で研 究 した両者の関係 とよ く一致 してい る.わが国 で は花 尚岩化作用 と鉱 床の生成等の関係 を論 ずべ きよい フィール ドは末だ見 出 されていな い. しか し花 尚岩 の貫入 に よる現在の各種鉱 床 の熱変成の例 は多い.例 えばマン ガ ン 鉱 床 や,硫化鉄鉱鉱床 の中には,熱変成作用 によ って変成前の状態 か ら著 しく鉱物組成が変 っ た ものが あ り,その場合累進変成の状態 を も よ くた ど り得 るのであ る. 質 疑 応 答 小 島 (広大)広 島の西 に行 くにつれて山陰 と広 島の花 崩岩 D差 がはっ きりせ ぬのは ど うい うことだ ろ うか・ 渡 辺 母岩 の影 響が大 であ るため と考 え る・我 国のよ うに白亜紀以後の花 尚岩で基 盤 も複 雑 な ところでは zone の関 係は明瞭ではない・56 日本 の花 岡岩 と鉱床 との関係 :渡辺武男
岩 壁 (東大)領 家地帯 にmetalが少い ことは,時代 のためかmechamism によ るのか・
渡 辺 metalはbatholithの胴商いこはな く岩株 に多い.metalは凸 った頚 に表 われ るよ うだ. pegmatiticな phaseが主体 をなす ところには主要 なmetalは少 い・
岩 生 scheeiteはveinか.
渡 辺 一般 には,石灰岩のない ところはWolframiteであ る・scheeliteはveinに もあ るが 主 に交代鉱床 に出 る.