司会 本日の講演会の司会・進行を務めます法学部の山本です。まずは講師のご紹介か らいたします。本日,法学会講演会の講師としてお越し下さったのは,大阪女学院大学教 授,大阪大学名誉教授の黒澤満先生です。黒澤先生は大阪大学法学部をご卒業後,大阪大 学大学院法学研究科博士課程を出られて新潟大学に着任し,新潟大学法学部教授を経て, 大阪大学法学部の教授を務められ,大阪大学大学院国際公共政策研究科教授,同研究科長 を経て, 年から大阪女学院大学の教授をされています。その間,ヴァージニア大学 やモントレー国際大学で客員研究員を務められたほか,核不拡散条約再検討会議の日本 政府代表団顧問,長崎市平和推進専門委員会委員,核物質管理センター理事,日本軍縮学 会初代会長,そして核不拡散・核軍縮に関する有識者懇談会の座長などを歴任されてお られます。お手元の略歴にも記載させていただきましたが,ご著書として『軍縮国際法』 (信山社, 年),『核軍縮と世界平和』(信山社, 年),『軍縮問題入門』(編著, 東信堂,第 版, 年)など非常にたくさんのご著書がございます。最近でも『核兵 器のない世界へ−理想への現実的アプローチ』(東信堂, 年)の刊行や,日本軍縮 学会編『軍縮辞典』(信山社, 年)の編纂委員長も務めておられます。実は私の学部, そして大学院時代の恩師でもありますが,本日は恩師をこのような形でお迎えできたこ とは私もうれしく思っております。本日のテーマは「核軍縮の現状と日本の取り組み」 ということで,「武力紛争と法」の講義の最終回として軍縮国際法の分野を扱うにあた り,黒澤満先生という日本の軍縮研究の第一人者の先生をお招きすることができ,大変 光栄に思います。皆さんにとっても貴重な機会になりますので,しっかりとお話を聞い てもらいたいと思います。黒澤先生によるご講演の後,質疑応答の時間も設けますので, ぜひ質問も積極的にしてください。それでは黒澤先生,よろしくお願いいたします。
核軍縮の現状と日本の取り組み
黒
澤
満
黒澤 皆さんこんにちは。今紹介していただいた黒澤です。資料がいろいろ手元にあり ますので資料を見ながら,そしてレジュメを見ながら話をさせていただきます。今,山本 先生から紹介がありましたように,阪大を定年になって今は女子大で教えていますが, 核軍縮の問題に 年くらい取り組んできました。それで日本軍縮学会というのを 年に設立しまして,初代の会長をしました。それで 年終わった時に,『軍縮辞典』を 作ろうということで,私が編纂委員長になりまして,これが今年の 月にできました。 私の一番最近の仕事です。新聞記事を見てください。この辞書を作るというのは非常に 大変で, , 年かかったのですが 人の執筆者で, 項目です。 それで去年はご存知の通り被爆 周年ということと,NPT という言葉を知っていま すか。核不拡散条約ですね。それが 年ごとに大きな会議をするんですが,それを 月 から 月にニューヨークで 週間やりまして,日本政府の代表団の顧問で僕も 週間 ニューヨークにいたんです。それで毎日会議をやるわけです。朝の 時から 時, 時から 時という会議で,国連は全部そうなんですけど,月曜日から金曜日は全部会 議漬けというのを 週間やって,それで外務省といろいろ帰ってきてから分析をし,と いうことをしました。この 年といいますか,去年を含めて非常に忙しかったんですが, そういうような話をしながら少しずつ話をしていきます。 今,辞典の記事を見てもらったけど,次に①と書いている記事を見てください。被爆 年でNPT 会議の焦点というものです。会議が 月の終わりから始まったわけです。 月の終わりから 月の終わりまで,ニューヨークの国連本部でやるわけです。これが 始まる前に,「先生,会議をどんなふうに思われますか」と質問されて,毎日新聞に書 いたのですが,最後の 行だけ読みますね。「今回のNPT 再検討会議で,核軍縮が大き く進むことはないだろうが, 週間の議論で核の非人道性や人間の安全保障という考え 方がどれだけ広がりを見せるかという点に注目したい」ということを会議の前に言って 週間会議に参加したわけです。 次に②の記事を見てください。この時は新聞はかなり会議を大きく取り上げたんだけ ども,そこで会議が終わって,こういう会議はコンセンサスなので, カ国くらいが 参加していて,全員賛成しないと最終文書というのは採択されない。最後の日が,だい たい 時から 時で終わるのを待っていたんだけれども, 時に終わらなくて,もう 一回 時に集まって下さいとなり, 時に集まって,アメリカとカナダとイギリスが 反対を表明しまして,会議はコンセンサスを得られないということで最終文書の採択に 失敗するわけです。それで 時に終わって,朝日新聞と話したことがコメントとして 載っているわけです。今回会議が失敗しましたけど,どうですかと聞かれ,人道的なイ ニシアティブが進んでいますよと答え,それで今後どうすべきか,ということで,日本
はちゃんとした役割を果たすつもりだったというコメントをしました。 次は毎日新聞のもので,③です。この頃に新聞が,たとえば一番上に「NPT 会議決 裂」と書いていますよね。この時の新聞は全部会議が決裂したと出ているわけです。結 果はそうなんですが,それでも中身のある議論はありましたよと,僕が左の真ん中あた りでコメントしているわけです。最終文書は採択されなかったけれども,非常に重要な 議論がいろいろ行われましたよというコメントを出しています。 次の④というのは,中国新聞ですが広島平和研究所がシンポジウムを開きまして,基 調講演として,この会議の内容を分かるように話してほしいと頼まれました。そこで, つ大きな進展があったと述べ, つは人道的なイニシアティブで, 番目は核兵器禁 止条約を交渉しろという話であり, 番目は被爆体験の継承だという話をしました。こ れは半日くらい広島の国際会議場でやりました。 それで次に⑤の新聞を見てください。これは朝日新聞の全面を使って 人で対談して います。ゲストは元国際司法裁判所裁判長です。ICJ というのを習っていると思うけど 世界で唯一の全体的な国際裁判所ということで,オランダのハーグにあります。そこで 年に核兵器の使用は違法かということを国連総会が聞いたのですが,これは判決 ではなくて勧告的意見なのですが,その時の裁判長です。 国際司法裁判所には裁判官は 人います。日本からは誰が出ているか知っています か。この時は違う人が出ているけども,今は日本から, 人の判事のうち 人出てい ますが誰か知っていますか。その人の娘さんは,あなた方がよく知っている皇太子殿下 の奥さんです。雅子さんのお父さんで,小和田恒といって元外務省の役人ですが今は裁 判官をしています。勧告的意見は 年なので,日本からは小田さんという人がいたん だけども,そこでの裁判所の話です。裁判官というのは自分の意見をストレートにいう わけです。しかし裁判長というのは自分の意見はあるのですが,多数意見をうまく作ら ないといけないのです。その場合に,核兵器国と非同盟諸国と両端に分かれて,真ん中 で多数決を集めるという行動をこの人は取ったわけです。そういうのは最終的な意見に 出てこないわけで,裏でどういうことがいろいろあったんですか,ということをここで 聞いたわけです。だから学問的にも非常に面白かった話で,非常にユニークな人でいろ いろな事を話してくれたという紙面です。 左の上に「核と命を考える」と書いていますよね。朝日新聞でこれを見た人はいます か。「核と命を考える」。しょっちゅう出てくるんだけどね。これは 年前,朝日新聞が 立ち上げた大型企画で,私が核軍縮の方で京大の植田さんというのが原発反対の方で立 ち上げたものです。先ほど辞典の話があったでしょう。辞典のニュースもこれの一環で ど真ん中に「核と命を考える」と書いていますよね。朝日新聞は「核と命を考える被爆
年」ということで,いろいろな問題を取り上げているわけです。核軍縮だけでなく て原発も取り上げている。私はどっちかというと核軍縮の方でやっています。 次に⑥を見てください。これは 月 日の読売新聞ですが, 月に行われたNPT 再 検討会議が失敗したので,これからどうしましょうかということで,国連が会議を開催 しました。そのNPT 会議の議長とか政府の代表とかが半分くらいと,我々専門家が半 分くらいで開催されました。政府の人と専門家の人が広島で 日間議論をしました。そ れでどうするかということですが,一番最後を見てくれますか。「試される日本。いろ んな議論があった。それで安全保障が重要なのか非人道性が重要なのか,そこでどうす べきなのかが議論された。問題は複雑で難しいが軍縮国際法の権威の黒澤満は人道的な 要請と安全保障の問題をどう調和させていくかが今後の課題であると語っている。」つ まり,「人道と安全保障は対立する概念と見るのではなく,双方を考慮に入れた政策を 作り上げていく必要があり,その役割を果たすのに日本は適任の立場にある」という話 をした。この解説のまとめに私の見解を使ってくれているわけです。 外務省にも月に一回くらい行って,いろいろ議論しています。日本は,最初の朝日新 聞のところにも書きましたように,「日本はつなぐ役割を果たせ」と主張し,ここでも その役割を果たすということで,いま日本政府ともいろいろ話をしています。日本政府 も今大変で,日米同盟を優先させるか,唯一の被爆国としての立場を優先させるか,そ れをどう調和させるかというところで悩んでいます。
以上が新聞記事に関するもので,ここからレジュメに沿って本論に入ります。 第Ⅰ章は「核軍縮の歴史的発展」で,バックグラウンドの話をします。 Ⅰ− は,核兵器を保有する国とその保有数で,アメリカが 年に最初に核実験を行 い,ロシアが 年,イギリスが 年,フランスが 年,中国が 年です。今,大体 何発持っているかで,去年の初めの数字と今年の 月の数字ですが,アメリカは , から , に減っています,ロシアは , から , に減っています,イギリスは から ,フランスは から に減っています。しかし中国は から に なっている。ということで全体的に減っているんだけども,中国は,現状維持から少し 増えているというのが 年間に起きています。これらはNPT で核兵器を持つことが認 められている国です。他の国は持ったらいけませんよというのが核不拡散条約です。核 不拡散条約に入っていない国でインドがだいたい ,イスラエルが ,パキスタンが ,北朝鮮が という数字が並んでいる,という現状です。 今年の 月で , ,これでどれくらいの人が死ぬと思いますか。これだけ核兵器 を使ったら地球の人口はどうなると思いますか。これも実際にやってみないと分からな いですけれども,いろいろなシミュレーションがあります。今約 , ですよね。ピ ーク時にどれだけあったかというと, , あったのです。冷戦が終わる頃の 年 代の後半のピーク時には , ありました。 , ある時にいろいろな学者が計算し まして,これを全部使ったら何人死ぬかと数字が出ました。それでオーバーキルという 言葉を知っていますか。地球の人口全体を何回殺せますかという計算をする。その時に 回となっている。ピーク時には 回殺せますと考えられていた。今その , か ら , だから / か / になっているわけです。だから − 回か 回か殺せると いうことになります。そういう意味では非常に無意味な話なんですけども,とりあえず 減っているということは評価をして,さらに減らさないとだめですよという話です。と いうことを先に押さえて下さい。日本にとっては北朝鮮がミサイルの実験をやるという ことが問題になっています。フィリピン方面に飛んでいきますが,途中で失敗するかも 分からないし,どこかに落ちるかもしれないという状況です。冷戦時よりは / くら いに減っていて非常にいいんだけれども,まだまだたくさん,まだまだオーバーキルの 状態なのです。というある意味ではおかしな状況になっているというのが 番目の話で す。 Ⅰ− は,核軍縮関連条約を取り上げます。まず米ソ,米ロの二国間条約ですが,こ こで一番多く減らされているわけです。ピーク時には , のうち %は米ロが持っ ていましたから, , , , へと減っていたわけです。 , に下がっています から,かなり減っています。新START 条約というのがオバマ大統領の 年目にできま
して,これは 年までに弾頭を , に削減するというものです。アメリカとロシ アは今, , , , となっていますが,これは全体で,条約は戦略兵器のみを取り 扱っています。核兵器というのは戦略と戦術に分かれるのですが,戦略というのはアメ リカとロシアで直接打ち合うもので,たとえばアメリカが飛ばしてロシアまで届くミサ イルを言います。それ以外に短いのがいろいろあって,それは戦術兵器でロシアの西部 からヨーロッパに届くものや,アメリカの核兵器が今,西ドイツ,オランダ,ベルギー, イタリアに配備されてモスクワまで届くもの,それらが戦術兵器です。 , , , のうち, , くらいだった戦略兵器を , に下げるというのが新戦略兵器削減条約 です。戦術兵器については交渉が行われていないから,こういう数字の違いが出ている わけです。 次に核不拡散条約,NPT というのがあって, 年に発効して 年ごとに再検討会 議が開かれています。それで去年がちょうど 年ごとの第 回目の会議が開催されまし た。それで私は 年前, 年前, 年前, 年前と 回続けてこの会議に出ています。 年から毎回,連休の前後に カ月休講にして行っています。 番目が核実験の禁止に関する包括的な条約です。これはまだ発効していません。そ れはアメリカと中国が批准していないというのが主な理由で,イギリス,フランス,ロ シアは批准しています。アメリカが上院の方で反対が起きて批准していないし,中国は アメリカが署名しないと,自分もしないと言っています。その他にもまだいくつか条件 がありますが,それが基本的な条件です。 番目として世界に非核兵器地帯というのがあって,そこでは核兵器を作らないし配 備もさせない,日本の非核三原則みたいなものですが,これが今ラテンアメリカ,南太 平洋,アフリカ,東南アジア,中央アジアにあり約 カ国が参加しています。そこで は核兵器は作らないし,もちろん持っている国は配備もしないという形で条約で決めら れています。というのが現状です。 第Ⅱ章は,「核兵器廃絶への人道的アプローチ」の話をします。 Ⅱ− は,オーストリアによる カ国共同声明です。核兵器廃絶への人道的アプロ ーチは 年前の 年再検討会議頃から出てきたのですが,そこで今,中心になって いるのがオーストリアで, の国が共同声明に賛同しています。 割くらいの国が賛 同しているわけです。それはどういうものかというと,人道的なアプローチで,核兵器 の壊滅的な結果を知ることが核軍縮の基礎となるべきであるというもので,安全保障の 問題よりも,人類が生存できるかどうかが重要で,核兵器がいかなる場合にも使用され ないことが人類の生存そのものの利益であるということです。これは人道的な立場です。
日米同盟の核は使うかも分からないもので,核兵器というのは使うぞと脅しをかけて相 手を押さえているわけです。だから使用の可能性を残しているわけです。だけどここで はいかなる場合にも決して使用されてはならず,そのための唯一の保証が核兵器の廃絶 であると主張しています。そういうことで核兵器を廃絶しなさいと の国が共同の宣 言を出しているわけです。 Ⅱ− は豪州による カ国共同提案で,特にこれはアメリカの拡大核抑止,あるいは 核の傘の下にある国ですが,核兵器の壊滅的結果を知ることが核軍縮の基礎となるべき である,ここは上のものと一緒です。そして核兵器が使用されないことが人類の生存そ のものの利益であるというのも一緒です。上と何が違うかというと,「いかなる場合に も」というのに日本は反対なのです。「いかなる場合にも」と言うと絶対使えないので, いざという時には使うと言わないと核抑止は働かないわけです。だから一般的には使わ ない方がいいので,核兵器の廃絶は人道の側面だけでなく,安全保障の側面も考慮すべ きだと主張しています。抑止力として今重要なんだから,それを考えて削減していかな いとダメだというのが 番目の立場です。 Ⅱ− は,核兵器国の立場です。核兵器国がどう考えているか。核軍縮は,国際の平 和,安定性,安全保障を促進する方法で行われるべきであると考えているので,人道的 におかしいから削減するというのはあり得ないわけで,安全保障のことから考えてやら ないとダメだという立場です。一般的に米ソ,米ロの核軍縮条約は戦略的安定性を強化 すると言われています。Strategic Stability,アメリカとロシアの間のスタビリティーを 強化するために減らしているんだという話をします。だからゼロにするとはすぐになら ないわけで,スタビリティーを維持するためにある程度持っていないとダメだという論 理になります。 そして核兵器の使用の厳格な結果は認識しているが,事態発生防止のため,核兵器に 対する安全性,確実性,効果的な管理を確保するように努力していると主張します。核 兵器に対する安全性というのは,爆発したらダメなときに爆発しないようにすることで, 確実性というのは爆発すべき時に爆発するようにするということです。そして効果的に 管理する。ここで言っているのは,核兵器はずっと持ち続けます,それで廃絶はしませ んということです。だけども間違って使われるのは,起こらないように努力していると 言っているわけです。だから管理を強化するということはするけれども,なくすという ことは全然考えていない。安全保障に役立つ限りは持つ。こういう考え方です。 Ⅱ− は NPT 再検討会議の最終文書についてですが,こういうことが再検討会議で議 論されたが,最終文書というのは採択されなかったのです。どうして採択されなかった かというと,中東問題で採択されなかった。イスラエルが核を持っていて,そして他の
アラブ諸国がイスラエルに対して核兵器を放棄しろとか,あるいは中東に核兵器のない 地帯を設置しろとか言っています。それをどう進めるかというところでアラブ提案が 出て,議長提案はそのアラブ提案を採用しました。それに対してアメリカとカナダとイ ギリスは,それは受け入れられないと述べました。これら 国はイスラエル寄りのとこ ろもあって,それで全部がご破算になったわけです。他のところはある意味合意されて いるわけです。こういう会議は項目が くらいあって, 項目に対して 国が反対す ると潰れる会議なんです。今回の会議は他のところでは大体合意があったわけです。 中東のところで対立して潰れたけれども,核軍縮に対しては大体合意があって,その最 終文書の最初はどうなっていたかというと,「会議は核兵器のあらゆる使用による壊滅 的な人道的結果に関する深刻な懸念が,核軍縮の分野における努力の基礎となり続ける べき重要な要素であること,及びこれらの結果を知ることが核兵器のない世界に導く すべての国の努力に緊急性を与えられるべきことを強調する」というものです。前半は 核兵器の人道的アプローチをとっており,使用されたら壊滅的な結果が起こりますよ, だからそれをベースに核軍縮を考えなさいということを言っています。後半は,「会議 はこの目標の実現までの間,核兵器が二度と,決して使用されないことが人類(人道性) の利益である」と言っています。Humanity という言葉を使っているわけで,Humanity という言葉は,人類とも人道性とも訳せるし,文脈で分かる時もあるけれども,ここ では両方の意味で使っているわけです。人道的アプローチを入れています。もう つ はすべての人民の安全保障の利益であると述べています。安全保障というのがここで 入ってくる。ということで前半では人道的アプローチをとっている。後半では使用され ないことが人道性の利益ということもあるけれども,安全保障の利益でもあると述べ, そっちの意見も入れられています。これが カ国の提案です。質問があればお願いし ます。 学生 法学部 年の小林と申します。核兵器国の立場なんですが,「核兵器の使用の厳 格な結果は認識しているが,事態発生防止のための,核兵器に対する安全性,確実性, 効果的な管理を確保するように努力している」とあるんですけど,具体的にどのような 努力がされているんでしょうか。アメリカだと厳格な,もし発射とかの事態になると大 変なプロセスを踏まないと核兵器は発射されないとなっていたのですが,他の国とかは きちんとそのような事がされているのかなと思いましたので,教えていただければ。 学生 法学部 年の山口と申します。核兵器国の立場なんですが,「安全保障を促進す る方法で行われるべきである」とあるんですが,核兵器は他の兵器では代替が不可能な んでしょうか。根本的な事ですがよろしくお願いします。
黒澤 ありがとうございます。順番に答えていきますね。最初のは,核兵器が誤って使 われることを防止するのに努力します。だから意図的に使うことは排除しないけれど も,何かのミス・カリキュレーション,ミス・コミュニケーションで発射されるのは防 ぎますという意味なのです。アメリカの場合はいろんな措置が取られて,誤って発射さ れる可能性は非常に少ないと言っているんだけども,今まで歴史的に,危機一髪の事例 というのがかなりあるんです。それはアメリカの場合もあるんですが,ロシアの場合に は,一時,ソ連が崩壊してロシアになった時に,核物質の管理が非常に不完全で,盗ま れる可能性もあるということで,国際社会全体が危機になって,ロシアの核兵器の管理 場所をみんなで強化したりしています。 それは Nuclear Security という形で言われます。 セキュリティというのは盗まれないとか意図的に取られないという意味合いです。 Nuclear Security Summit がこの 月にワシントンで開かれます。オバマ大統領が就任後 すぐに Nuclear Security と言い出しました。ロシアとアメリカの場合は即時発射できる 状態になっているわけです。それでボタンを押せば飛んでいくという即時発射体制にあ ります。だから今,多くの国の主張は De-alert しなさい,警戒態勢を低下させなさい, 警戒態勢を解除しなさいという形で出ています。ロシアやアメリカがボタンを押したら , 発ずつくらいすぐに飛んでいく状態にあるわけです。誰か間違って押すと飛んで くるかもわからない,そういう状態です。そういう High Alert ではなくて,たとえばイ ギリスだったら発射を決めてから 日くらい発射できない,中国がミサイルと弾頭を別 のところに置いている,という形で,De-alert をもっとすべきだという話になっていま す。それからさらに恐ろしいのは,たとえばパキスタンとかインドはどうなっているん ですか,テロに盗まれるんじゃないですかということで,これもさっきの核セキュリ ティの話で,高濃縮ウランとかプルトニウムの厳格な管理や,高濃縮ウランはアメリカ やロシアに戻すようにということです。日本にも研究用で東大とか京大に高濃縮ウラン があって,それは爆発に使えるわけです。だけどもここ , 年の間にアメリカに全部 引き上げられた,という形で管理は進んでいますが,一般的にはまだ危ないということ です。 番目の問題で,通常兵器で核兵器の役割を果たせないかという質問ですが,通常兵 器に関してもいろいろな規制があるんですが,核兵器とは爆発力が違うし,それから核 兵器の場合には軍事的な価値だけじゃなくて,政治的な価値が与えられているわけで す。核兵器国と呼ばれる つの国は,安全保障理事会の常任理事国になっています。こ れもたまたまなんだけど。核兵器を持つということは,ポリティカルな価値を持つので はないかということです。インドとかパキスタンが核兵器を持つというのはポリティカ ル・プレスティージ(名声)を上げたいからで,北朝鮮もいろいろ脅しでやっています
が,軍事的に使うということプラスアルファ,政治的な兵器として核兵器は非常に広く 考えられているわけです。それが通常兵器とは違う点です。
そういう意味で管理が難しい。けれども我々の考え方では,アメリカは日本に対して 核抑止をやってくれています。それは北朝鮮が通常兵器なり,生物・化学兵器で攻めて きたらアメリカが核兵器を使うという段階なんですが,核兵器が使われたら非常に悲惨 な状態が生じるから,No First Use,第一不使用という考え方があります。No First Use というのは核兵器を先に使わない。先に攻撃するんじゃないですよ。相手が通常兵器, 化学兵器,生物兵器で攻撃した時には核兵器は使わない。相手が核兵器で攻撃した時だ け核兵器を使う。それが No First Use という政策ですが,アメリカはまだそれをとって いないですが,僕の考えでは,北朝鮮が日本に攻めてくる可能性というのは,反撃され るから非常に少ないと思うけど,日本とアメリカの通常兵器で十分反撃できます。だか ら核抑止力じゃなくて通常抑止でいいんじゃないかという考え方です。我々は,日本の 通常兵器もかなりのものですから,アメリカの通常兵器とともに反撃するよというだけ で,それは核なしでもいいのではないかという考え方はあります。今のところ日本政府 は核抑止,核抑止と言っています。すぐにはいかないけれども,学者の考え方として 我々も通常抑止を主張しています。 第Ⅲ章は,核兵器廃絶の法的枠組みの話をします。条約を作って核兵器を禁止するの がいいんじゃないかという考え方で以前からあるんだけれども,ここ 年あたり,また 多く主張されています。それはアメリカとロシアが削減しているけれども,全然廃絶の 方にいっていないからということもあります。 Ⅲ− は, そこでオーストリアが人道の誓約, Humanitarian Pledge というのを出して, すべての人の「人間の安全保障」という要請にしたがって市民の保護を促進する。その ために核兵器の禁止と廃絶のための法的ギャップを埋める。法的ギャップを埋めるとい うのは,生物兵器は禁止条約があり,化学兵器も禁止条約がある,だけど核兵器は禁止 条約がないわけです。そこにギャップがあるから核兵器も禁止条約を作ろうという意味 なんです。だからオーストリアが中心になって核兵器禁止条約を作りましょうという話 が進んでいるので,具体的にどういう話が行われているかを説明します。 Ⅲ− として, 番目は「包括的な核兵器禁止条約」,これは非同盟諸国がずっと言っ ていまして,去年の会議で出された提案は, 年までに, 年ごとに つの段階に 分けて具体的措置を取っていって核兵器を廃絶するというものです。核兵器国が中心と なって交渉するもので,生物兵器禁止条約,化学兵器禁止条約と同じようなものを作り ましょうという考え方です。
Ⅲ− として, 番目は最近 NGO から出てきた提案で,「核兵器使用・保有禁止条約」, Treaty Banning Nuclear Weapons という言い方をするんですが,まず核兵器の使用と保有 を禁止する条約を作る。その場合核兵器国の参加がなくてもいいんだというものです。 ある兵器を禁止する場合に,それをたくさん持っている国が入らなくてもいいというの が,対人地雷禁止条約,クラスター弾禁止条約で作られているわけです。対人地雷禁止 条約はカナダが中心になって対人地雷を禁止するもので,アメリカもロシアも中国もイ ンドも入ってないんです。いっぱい持っているのに。条約が発効して,日本も入ってい ますので,対人地雷 万個を廃棄しました。クラスター弾もそういう形です。核兵器 も 大国が動かないから,核兵器を持っていない国だけで条約を作る。それは対人地雷 とかクラスター弾でできているではないかというのが 番目の問題です。 Ⅲ− として, 番目は「核兵器禁止枠組条約」を作りましょうというもので,核兵 器廃絶をまず約束して,基本原則と今後の交渉を決めていく。具体的な義務は議定書で 決めていく。たとえば , か月前に気候変動で合意されたパリ協定というのをご存じ でしょうか。京都議定書というのが 年にありますが,その前に気候変動枠組条約 というのができているわけです。 年です。それはみんなで温室効果ガスを減らし ましょうという条約による約束と,具体的義務を議定書で決めましょうという枠組みだ けを作ったわけです。 年に京都で日本は何パーセント減らしますよ,どこの国は何 パーセント減らしますよというのを決めたわけです。COP(Conference of Parties),締 約国会議を毎年やるわけです。それでこの前のパリ協定にも,一応これだけ減らすとい う約束があります。そういう形で核兵器禁止の枠組み条約を作る。まず,廃絶すること を法的に約束しましょう。具体的には議定書を交渉して,これだけずつ減らしていく, あるいは,こういう措置を取っていきましょうということです。これは通常兵器に関し て,特定通常兵器使用禁止制限条約でもそういう枠組み条約によって,議定書が個々の 兵器について作られているという例があります。 Ⅲ− は, 番目に核兵器国および拡大核抑止の下にある国の立場ですが,彼らは上 述の案のすべてに反対で,Step by Step 方式を主張しています。核軍縮は可能な所から 一歩ずつやるべきで,NPT ができたから CTBT,次は核分裂性物質生産禁止条約をやり ましょう,できるところから一歩ずつやろうというが Step by Step です。 つずつじゃ なくて,できる措置をいくつか一緒にやってもいいのではないかというのが,ブロック 積み上げ方式で,いろいろなブロックを積み上げていってゼロにしようという考えで す。これは日本なんかが提案しています。 Ⅲ− は,再検討会議の最終文書草案ですが,ここでは国連総会が NPT 第 条の履行 のための効果的な措置を識別し,詳細に作成するための作業部会を設置することを勧告
する,ということになっていました。その考えは秋の国連総会に引き継がれますので, 先にⅣ− を見ておきましょう。「多国間核軍縮交渉への前進」というメキシコ提案で, 核廃絶の効果的な措置に取り組む作業部会を 年にジュネーブで開催する,という 内容です。ここ , 日前の新聞を見てみてもらうと分かるのですが, 月 日に日 本政府はこの核軍縮会議に参加しますと発表しました。ちなみに日本はこの決議に棄権 しており, 月 日の前に打ち合わせがあって,その時に日本の佐野大使がまだ参加 するか決めてないと違うことを言っていました。この国連総会決議についてはこの後で 話をしますが,とりあえず法的枠組みをどうするか,何か質問あったらして下さい。 学生 法学部 年の若狭と申します。世界の風潮としまして,核兵器をどんどん減らし ていく傾向にあると思うんですが,公に核兵器を持っている国というのは,核爆弾は新 設はされていないということですよね。今も作られているんですか。 黒澤 作っているというのはどういう意味かな。 学生 新しく,年に何個作っているとか,あるいは減らしている傾向にあるかとか。 黒澤 やっぱり核兵器にも賞味期限があるわけです。だから作って 年くらいたった ら新しいのと取り換えないとダメで,そういう意味では作っている。だけど数は中国以 外は増やしていない。だから作っているというのは初めて作るというんじゃないんだけ ども,数は維持しながら新しいのに更新しているということです。 学生 それで年々核爆弾が劣化していくと,核兵器を持つ立場として,核兵器の使用の 厳格な結果は認識しているが,事態発生防止のため,核兵器に対する安全性,確実性, 効果的な管理を確保はしていると思うんですが,劣化した爆弾,核兵器を維持するのに 莫大なコストというか手間がかかると思うんですが,それがきちんとできているのか, その点どう思われますか。 黒澤 それは悩ましい問題で,今核兵器の数は減っていますと言いましたが,すべての 国は Modernization,核兵器の近代化という努力というのをものすごくしているし,も のすごくお金を使っています。だからそういう意味では常に新しいものができていて, それも核兵器だけじゃなくてミサイルも新型が出てきている。ということで常に最新の 技術を追いかけている。そういう意味では軍備競争は続いている。だから弾頭のところ で数は一定,あるいは若干減っている,だけどもその中は常に新しいのに変えられてい く。そして飛ばす方,ミサイル,あるいは爆撃機,あるいは潜水艦も,これもすべて賞 味期限がありますから,常に Modernize されているということで,あなたのおっしゃる ことはものすごくマイナス要因なんだけども,現状ではすべての国がモダナイゼーショ ンをやっているということです。
学生 法学部 年の松村です。先ほどの核兵器使用禁止条約についてですが,核兵器の 使用と保有を禁止する条約は核兵器国の参加がなくても作成できるということですが, 対人地雷禁止条約のように実際に履行が完徹される状況にあるのか,実現可能性という のはどのようにお考えですか。 黒澤 非常に面白い質問だと思いますが,それに賛成している人はあまりいないでしょ う。対人地雷条約ができまして,アメリカもロシアも中国も入っていません。そして今, カ国くらい入っています。日本も入って 万個減らしました。 万というのは ものすごく少ないんですよ。大国はその何万倍と持っているんです。こういう形で条約 ができて一定の国が履行していると,それが段々規範として広がっていく,だから条約 に入らなければ法的には拘束されないけれども,Norm(規範)と言いますが,全体の 考え方がそちらに向いていく。たとえばアメリカは条約に入っていないんだけれども, 条約ができてから地雷は作っていないし,地雷の輸出もやめたし,地雷も減らすと言っ ています。だから最初は入らない国がいても,多くの国が入って国際的にみんながそう いう方向に行けば,入っていない国もだんだんプレッシャーを受けて,入るようになる のではないかという考え方なんですね。だから対人地雷はそれでよかった。対人地雷は 子供が爆発で足がなくなったとか,そういう兵器でしょ。それが核兵器に当てはまるか どうか。対人地雷というのは政治的な意味合いはほとんどないわけです。だけど核兵器 というのは政治的な意味合いもある。だから対人地雷とかクラスター弾というかなりレ
ベルの低い通常兵器で通用したことが,核兵器で通用するかというのは僕もかなり疑問 がある。核兵器を持っている国が入らない条約を作るなら,それは今すぐにでもできる わけです。彼らは持ってないから使用できないし,それがプレッシャーになるかどうか というのは,やってみないと分からない。僕は若干懐疑的ですね。 学生 法学部 年の山下と申します。もし将来的に核兵器がゼロになった時に,先ほど 先生が,核兵器には政治的な価値もあるとおっしゃっていましたが,政治的な価値と軍 事的な抑止力が低下すると思われますが,そのあたりの事は核兵器廃絶に揺れている国 はどう考えられているのでしょうか。 黒澤 これも非常に悩ましい問題でね,核兵器を禁止する条約を作成して各国を強引に 加入させることでなくなるかというと,僕はなくならないと思うわけです。そして兵器 というのは禁止したからなくなるのではなくて,みんながあんまり役に立たないし, 持っていることに正当性がなくなるということを考えていかないとダメで,核兵器は役 に立たないという考え方を広めていかないといけない。たとえば,いまだにタバコを 吸っている人が何人かいるかもしれませんが,タバコを吸っている人はだんだん肩身が 狭くなっている。僕らが学生の頃はタバコを吸っているとものすごくかっこよかった し, 歳前から吸ってという感じで。タバコというのは非常にいいんだという話が あったんだけど,今ではタバコはマイナスです,そんなのを吸っているやつは馬鹿だと いう話が出てきたわけですね。吸える場所も減ってきている。これが Delegitimization, 非正当化,正当なものじゃないという作業です。タバコというのは非常に正当なもの で,今日も元気だタバコがうまいとか,非常にかっこいい時代があったんだけども,今 吸っているとお前は馬鹿だよと言われる。それを非正当化という。Legitimize の反対。 正当性を問う価値もないし,持っていることはマイナスですよ,だから核兵器も同じよ うに,これを使うと非常に危険だし,持っていても役に立ちませんよということです。 政治的な価値のために持っているというけれども,北朝鮮も持っているし,なにも Prestige にならないし,というような考え方をタバコみたいに広げていく必要が,私は あると思います。 核兵器というのは非常に危険だし,それから核抑止がいろいろ効いたと言われている けれども,実際に調べたらほとんど効いていない。たとえば朝鮮戦争でアメリカが核兵 器を使うことを考えたけれども,抑止が効かなくて北朝鮮が攻めたし,中国も入ってき た。ベトナム戦争でもアメリカは負けているわけです。核兵器を持っていたけれども。 それでイギリスもフォークランド紛争をして負けているし。イスラエルも核兵器を持っ ているけれども,アラブの国が攻めている。だから実際は核抑止力が効いていないとい うことです。
それからもう つ言われるのが,日本が第 次世界大戦で降伏したのは核兵器のおか げだというのが一般的に信じられているんだけれども,時系列でちゃんと調べていく と,日本がどうして降伏したかという一番大きな問題は,ソ連の参戦なのです。ソ連が 戦争に参加するというのが決まったら,北と南と二正面で日本は叩かれるんです。もう それは絶対だめだ,そこで降伏を決めた。それがいろんな歴史的な事実から分かってき て,核兵器はそのための役割を果たしていない,それは神話であって本当の話ではない ということです。それは日本政府とアメリカ政府にとっては非常にいい言い訳だったわ けです。日本政府は,負けたのは,僕は軍部とか政府が悪いと思っているけれども,核 兵器が悪い,だから我々は悪くなくて科学の力で負けたんだと言っておけば,責任から 逃れることができたわけです。アメリカもすごい兵器を使ったんだけれども,あれで戦 争を終わらせて,戦争が続いていたら死んでいただろう何万というアメリカの青年の命 を救ったんだと主張し,非常に非人道的な兵器を使ったんだけれども,アメリカ政府も それで正当化を図ったのです。 そのような考えが広まっていって核兵器とはすごい兵器で,戦争を終わらせるもので あり,通常兵器では何度爆撃をしても日本は敗北を認めなかったのに,広島で使ったら 降伏をしたという風になりました。だけども原爆が 日に落ちて降伏を決めたのは 日 後の 日です。その 日の朝にソ連が対日参戦をすると言った。そこで会議が開かれ, 記録が全部残っているんだけど,敗北を認めた。そういう形で神話をなくしていって, 核兵器は非常に役に立った,第 次世界大戦を終わらせたということは間違いだったと いうのを広げていくことが必要です。核抑止は,本当は今まで効いていないというふう なことをいろいろ考えていって,非正当化するということが私は必要だと思います。 第Ⅳ章は,国連総会における決議をめぐる議論について話します。国連総会がだいた い 月の半ばから開かれて 月までやるわけで, 月にNPT 再検討会議で議論された ことはここでもう一度出てきます。みんなが投票するからどこの国がどう考えていると いうのがものすごく分かるわけです。それで主な決議を取り上げます。 Ⅳ− は「核兵器の人道的結果」で,オーストリアが提案した カ国提案で,「いか なる場合にも核兵器を使わないことが人類の生存そのものの利益である。そのための絶 対的な保証は核兵器の廃絶である」というものです。これは賛成 ,反対 ,棄権 という形で採択されました。賛成が から減っております。反対にアメリカ,イ ギリス,ロシア,フランスが入っており,棄権に中国が入って,そしてオーストラリア とかドイツが棄権しました。日本は賛成しているわけで,アメリカの核抑止の下にある 国の中で賛成しているのは日本だけです。他の国,ドイツとかオランダとかベルギーと
かNATO の国,カナダなどは全部棄権しています。そういう意味では日本は核の傘の 下にあって,これに賛成している唯一の国です。 Ⅳ− は,「核兵器の禁止と廃絶に関する人道の誓約」で,内容は核兵器禁止条約を作 りなさいという先ほどの提案で,オーストリアが中心です。これは賛成 ,反対 , 棄権 ,それで 大国を見ると米,英,仏,ロは反対をしているわけです。中国は棄 権しており,さきほどと同じようにオーストラリアとかドイツ,NATO 諸国はほとん ど反対していますが,日本は棄権です。 Ⅳ− は,「核兵器のない世界のための道義的緊急命題」という南アフリカの提案です が,核兵器は本質的に不道徳なもので,核兵器を廃絶する道義的な義務があるという一 番リベラルなものです。賛成 ,反対 ,これも上と同じで 大国は反対して中国は 棄権して,日本も棄権しています。日本の立場はNATO 諸国,オーストラリア,カナ ダなんかと少しずれているわけですね。そういう形でリベラルの方にいっています。 Ⅳ− は,先ほど読みました「多国間核軍縮交渉への前進」で,作業部会を開くとい う提案ですが,これには 大国すべてが反対しましたので,会議を開くけれど 大国が 来ないという状況になっています。核軍縮の議論をすると,それが法的な条約を作るの にどうすべきかと議論になるので, 大国が反対しているわけです。日本はこの時は棄 権をし,NATO 諸国も棄権に回っています。それで参加するかどうかということです が,僕は参加しないというオプションはないと思っていました。日本はいろいろアメリ カの顔色もうかがわないといけないし,すぐ参加するよというとアメリカににらまれる し,それで最後まで参加しなかったら,その他の カ国以上の国からにらまれるしと いうことで,最近やっと参加を決めました。 Ⅳ− は,「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」という日本の決議案です。日本は 毎年決議案を出しています。そして日本提案には一番多くの国が賛成しています。核兵 器国も賛成しています。日本が核兵器国と非核兵器国の架け橋の役割と果たすというの が,日本政府の立場です。それで今年出した決議ですが,中身を読んでいきますね。 「すべての国が核兵器の全面的廃絶への共同行動をとる決意を新たにする。」そして「核 兵器使用の人道的結果への懸念が核兵器のない世界の努力の基礎となる」というもので, これはオーストリア提案にも入っています。「核兵器の全面的廃絶に向けた一層の実際 的で効果的な措置をとる。」この実際的というのがStep by Step というのに非常に近く なるわけです。それで「核兵器の役割の一層の低減のため,軍事・安全保障政策を見直 す」といい,それからもう つは,「指導者や若者などの被爆地訪問,被爆者の証言な どを通じて,核兵器使用の人道的影響の認識を高める」というものです。 これが内容で,それは去年とほぼ同じなのですが,各国の投票行動が変化しています。
去年は賛成 で,アメリカとイギリスは共同提案国だったわけで,フランスも賛成, 反対は北朝鮮だけで,棄権 でロシアと中国は棄権しました。 カ国もが賛成して いる決議案はほかにありません。日本は勝利だという形でものすごく喜んだわけです。 今年を見ると,賛成 で,反対は北朝鮮だけでなく,ロシア,中国が棄権から反対に 回っています。それでアメリカ,イギリス,フランスは,賛成から棄権に回ったわけで す。ということは 大国がすべて 段階落ちたわけです。これは日本政府にとってもの すごいショックでして,一時大変でした。アメリカとちゃんと話し合いをしたのかとい う話になって,課長や部長と話をしましたし,根回しちゃんとしたのかという話もしま した。これで日本政府がショックを受けて,両方の架け橋をやろうとしていたのに核兵 器国が全部引きあげた。そしてどうするかという話が今進んでいるわけです。 それでもう つ言っておきますと,第Ⅱ章の人道的アプローチの に カ国の共同 声明, に カ国の共同声明と書いていますよね。これらは内容がかなり違うんだけ ども,日本は両方に賛成しているわけです。先ほど別の文脈で言いましたけども,両方 賛成しているのは日本とフィンランドだけです。だからNATO の立場をとるか,リベ ラルな非核兵器国の立場をとるか, と に分かれたわけです。だけど日本は両方 に賛成しますという立場だったわけです。そういう意味でその立場をこれからどう生か していくかという話で,僕はこの と の調和を図る提案をしていたわけです。日 本とフィンランドがイニシアティブをとって両者の調整を図る役割を日本が果たすべき だと言っているのだけど,外務省はそれは難しいですねと言って動きそうにないんで す。というのが今の状況です。 学生 法学部 年の黒川です。 のところの決議の議論のところで,タイトルを つず つ見ていくと, , , , , を見ると日本が棄権した理由として核の廃絶という のが つキーワードになるから,棄権したのかなと考えられるんですけども, 番のと ころを見ると日本は逆に全面的な廃絶を提案しているんですけども,これは日本がどう いう立場というか,被爆国として少し焦っているのかなと考えるんですけどもこれはど ういうことなんでしょうか。 黒澤 上の方の決議は核兵器廃絶に向けてすぐに動くようにという形になっているんだ けども,日本提案は核兵器の全面的廃絶への共同行動をとるということで,全面的廃絶 に向けた一層の実際的で効果的な措置をとるといっています。だから一気に核兵器を廃 絶するのではなくて,実際的というか,できるところからやると言っているんです。日 本はPractical としばしば言っているんだけども,ある意味では Step by Step と同じよう に可能なところから,実際的にという意味で,核兵器国の立場も入れているわけです。
核兵器国も非核兵器国も両方賛成できるような決議案をずっと出してきたわけです。こ こで上の決議と同じように一発でやれというと,核兵器国は反対するわけです。そうい うふうに一生懸命に考えて両方が入れるようにして,去年まではうまくいっていたのに 今年はダメになったという話です。だから言葉だけでちょっと難しいんだけども,日本 の立場はそういう意味では非常に微妙なところにあるわけです。いいか悪いかは別にし て。だから唯一の被爆国の立場を常に強調して核廃絶は重要だと言いながら,核兵器国 も乗れるような提案をするという立場です。 それを出したんだけども今年は反対された。どうして反対されたかというと,内容自 体はそんなにおかしくないんだけれども,人道的なアプローチが非常に多数の賛成を得 るようになっていたので,核兵器国が若干驚いているわけですよ。このまま放っておい たらだめで巻き返しがいるだろうということです。それは僕の意見もそうなんだけれど も,人道的なアプローチがだんだん大きな力を得てきたことに,核兵器国が若干の危惧 を抱き始めた。だからここで日本提案を止めておかないと,更に人道的アプローチが進 んで,核保有国が追い込まれる状況になるのではないかというふうな分析が一応,我々 と外務省の分析なんです。だからそれだけ勢いがある。だけど核兵器を持っているのは 彼らだから,持っている国々に捨てろというのはなかなか難しいから,減らせというこ とでこういう形になっているということですよ。もう つは,被爆地訪問とか被爆者の 証言については,中国が非常に嫌っています。中国はこれらの言葉が入ったら絶対に反 対するし,ロシアも反対しているという感じです。 学生 法学部 年の森岡といいます。核保有国内の世論というのは,安全保障に寄って いるんですか。人道派よりも。 黒澤 難しい質問ですよね。世論がどうなっているかというのは,アメリカの中にもも ちろん反核の運動をやっている人はいっぱいいるし,学者もいるし。だけどもそれが多 数になっているかというと,必ずしもそうでもないし。ロシアなんかではほとんどない という感じですよね。中国でも軍縮専門家というのは,会議で一緒になるんだけれども, 皆政府の言うとおり同じことを言います。だから政府に反対する人は中国にはいないわ けです。そういう意味で 大国のうちで,イギリスにはかなりいますが,フランスは皆 ナショナリストですね。フランスは経済でもドイツに負けているので,核兵器がなく なったらフランスは三流国になるから,ものすごく批判的なんです。フランスとロシア が今一番強硬なんです。ロシアもだんだん国力が衰えているし,それで核兵器に依存し ないとやってられないと考えています。だから会議に出たら,フランスとロシアが一番 強硬ですね。という感じで核軍縮賛成の世論はアメリカである程度あり,イギリスにも あるけれども他はないという答えになります。
最後に第Ⅴ章として今後の課題の話をします。 Ⅴ− では,今後の課題の つは米ロ関係が非常に悪いということです。クリミア半 島の侵略とかがあって,アメリカとロシアが今非常に対立していて,話し合いもあまり しないし,これを早く改善しないと事態はよくならない。だから近い将来に米ロの間で 条約ができることはあり得ない。ロシアとアメリカというのは何回か仲良くなったり喧 嘩をしたり,しょっちゅうやっているわけです。オバマが大統領になった時にリセット したわけです。それまで喧嘩していたのに和解したわけです。リセットというのがあり 得るかもしれないけど,それまではだめですよね。 Ⅴ− として, 番目に核兵器を持っている国と持っていない国の間で対立が今非常 に鋭くなっているということです。それで僕なんかは, の国と の国で両方の共 同声明に賛成しているのは日本とフィンランドだから,日本とフィンランドがその間に 入って調整役を果たせと言っていますし,その後,非核兵器国が全部集まって核兵器国 と交渉しろという話をしているんだけれども,日本政府はそんな難しいことはできませ んと言っています。 Ⅴ− では,人道的アプローチがどうなるかということで,これは勢いが増していく でしょう。特に広島・長崎でどういうことがあって何人死んでいるか。たとえば,温暖 化防止の条約ができたのもその前に科学者の会議が開かれ,科学者のパネラーが事実に 基づいて温暖化によってこういう影響が出ているし,将来こういう影響が出ますよとい う判断に基づいて政治的な判断がなされた。だから核兵器も同じで核兵器が使われたら こんな事が起こりますよ,壊滅的な状態になりますよとそういう科学に基づいた,事実 に基づいた会議がいくつか開かれているわけです。だからそれらの科学や事実を基礎に 政治的に動かすという方向に持って行くべきだと思います。 Ⅴ− として,法的枠組みの議論では,包括的な核兵器禁止条約,それから核兵器の 使用と保有を禁止する条約がありますが,これらは,僕は当分無理だと思いますね。 Step by Step じゃ物足りないから,その 番目の枠組条約あたりを求めるのがいいので はないかというのが個人的な意見です。核兵器廃絶の明確な約束というのは,政治的に は 大国がすでにしているんですよ。 年のNPT の再検討会議で。だからそれを条 約のレベルに上げて,それはいつまでに全廃しろというのはないわけですが,核兵器廃 絶を法的義務にする。そのために毎年締約国会議を開いてCOP ですよね,Conference of Parties を開いて具体的に何をするか。それは日本なんかが言っているブロック積み上げ 方式で言われているものでもいいということを考えています。 学生 法学部 年の香川といいます。仮定の話になるんですけども,今後,核兵器に変
わるような兵器が開発されたとか,開発される可能性があるのが発見された場合に,核 保有国とそうじゃない国,それと日本ができる行動とは何でしょうか。今後科学技術が 発展して考えられることだと思うんで。 黒澤 そういう議論はしばしば行われており,核兵器の廃絶というのは,それに代わる, それよりもレベルの高い兵器が発見されないとだめですよという話があるわけです。 だけども我々が核兵器を廃絶しろと言っているのは,核兵器を廃絶すればいいというん じゃなくて,武力によって物事を判断することをやめようということです。だから核兵 器に変わる兵器ができたら今と同じような事が起こるわけで,それは全然進展にならな いわけです。だからそういう方向を求めるんじゃなくて,核兵器がなくてもすべての国 が平和に暮らせることを目標にする。だから核兵器廃絶というのは,今の国際社会のま までは絶対に無理です。国際社会の組織化,国連をもっと強化するとか,国家主権をあ る程度委譲するとか,そういうことと並行してやらないとだめで,今の国際社会のまま で核兵器がすぐになくなることはあり得ないと思います。 学生 法学部の宮澤といいます。先ほど核抑止の失敗の例をいくつか挙げて,そもそも 核兵器を非正当化してという話だったんですけども,そもそも核抑止の定義は何か教え ていただきたいんですが。 黒澤 核抑止というのはNuclear Deterrence。Deterrence というのは相手がある事をする ことを前もって止めるということですね。日本語で抑止と言います。あなたがこういう ことをしたら,私は核兵器を使いますよと前もって宣言するわけです。あなたがアメリ カを攻撃したらアメリカは核兵器であなたに反撃しますよというのが核抑止です。核の 威嚇すなわち脅しによって相手の行動を止めさせるというのが核抑止です。日本は核の 傘の下にあり,日本は核を持っていないけれども,北朝鮮,中国,ロシアが日本に攻撃 をしてきたら,アメリカが核兵器をロシアや中国なり,北朝鮮に使いますよと言うのが 拡大核抑止です。 学生 法学部 年の藤田と申します。近年,北朝鮮では核開発が盛んになっており,も しかしたら今後,潜水艦からの核攻撃があるかも知れません。そこで日本はどうしたら いいんでしょうか。 黒澤 北朝鮮からの潜水艦による核攻撃,どうしてその地上発射じゃなくて潜水艦とい うわけ? 学生 地上にある場合,比較的発見されやすいんですが,潜水艦だとどうしても発見さ れにくいというのがありまして。 黒澤 それはそれとして,核兵器を使ったら核兵器で反撃しますよという今の政策がい いと考えるのか,そうじゃなくてもう少しいろんな友好関係を進めるのがいいと考える
のか。キューバの例を考えたら,キューバというのはアメリカと 年くらい対立して いて,昨年国交を回復しましたよね。だから敵対国じゃなくなったんですよ。それで昔 キューバにソ連の核兵器が配備されて,キューバ危機というのが起こりましたが,ああ いうのはなくなったわけね。それでイランの問題ですが,イランも核兵器を開発するか もわからない状況でしたが,EU + との間でイランとも協定が成立して,そしてイ ランはいろんな条件を受け入れて制裁が解除されて,といういい方向に向かっているわ けです。だから僕らも北朝鮮にそれをやらないとダメで,対立を続けていたらお互いに 損をするし,お金がいっぱいかかるばっかりで,攻撃のためにお金をかけて,防御のた めにお金をかけてとなります。だから最終的にはそれにいかないとダメだと思います。 というのが私の意見で,甘っちょろいと言われれば甘っちょろいですが,キューバもイ ランもそれで成功しているわけです。ということを学習しないとダメかなと思います。 鐘がなりましたので,これで終わります。どうもありがとうございました。 司会 黒澤先生,ありがとうございました。ちょうど 年にNPT 再検討会議があり, 会議の後に最新の核軍縮に関するお話をいただけて非常に良いタイミングだったと思い ますし,私自身も学生時代に教えを受けていた先生の授業を思い出しながら聞いていま した。学生時代に教わったことで,国益と国際公益,国際公共利益という考え方があり ましたが,質問するというのは知的な面で公共利益に繫がるという意味で,自分の疑問 を解消する私的な利益だけじゃなくて,質問の回答をその場にいる全員で共有して知識 を深められる公共の利益にも繫がるので,疑問があれば積極的に質問をしたほうが良い という話がありました。今回,多くの学生が質問をして,その つ つに先生が丁寧に 回答してくださったことで,質問者自身にとっても疑問が解消されたと思いますし,こ の場にいる皆さんにとっても,大いに学ぶところがあったのではないかなと思います。 そういう意味では,大勢の受講者の前で積極的に質問をしてくれた学生には,感謝した いと思います。それでは最後に拍手で先生をお送りしたいと思います。ありがとうござ いました。 (くろさわ・みつる 大阪女学院大学教授,大阪大学名誉教授)