著者連絡先 吉田敬之 〒 573-1191 大阪府枚方市新町 2-3-1 関西医科大学附属病院麻酔科 *関西医科大学附属病院麻酔科 年に出身大学の麻酔科に入局した.そこから市中病 院出向期間を含む 3 年間で,多くの手術麻酔管理を 経験し,麻酔科標榜医,日本麻酔科学会認定医,日 本周術期経食道心エコー委員会(Japanese Board of Perioperative Transesophageal Echocardiography: JB-POT)認定医の資格を得た.一通りの麻酔管理 や一人での拘束番を経験した結果,不遜にも日々の 麻酔管理に退屈を感じることが増えていき,自分の 麻酔技能や生活環境に何かしらのブレークスルーを もたらしたいと考えるようになっていった.そのこ ろ,私は名古屋大学附属病院麻酔科の柴田康之氏が, 他施設の麻酔科医に対して超音波ガイド下末梢神経 ブロックの教育を行うプログラムを実施しているこ とを,同氏のブログで知った.私は天啓を得たとば かりに,すぐに柴田氏にメールで問い合わせ,2011 年の 4 月から 3 カ月間,名古屋大学附属病院麻酔科 で超音波ガイド下末梢神経ブロックの研修を受ける はじめに 私は同僚から,「臨床医なのになぜ研究をやる必 要があるの?」,「臨床を頑張るので,研究はやらな いことに決めたんです」と言われたことがある.確 かに基礎研究にせよ臨床研究にせよ, 研究 は本 来その内容に興味がある人が主体的に取り組むべき であり,人から命じられて嫌々やるものではない. 一方で, 臨床医 は臨床業務に従事することが仕 事であり, 臨床を頑張る のは当然で,特段に宣 言するようなことではないとも私は考える.私自身 もこれまで麻酔科の臨床医として臨床を頑張ってき たと自認している.ではなぜ私は臨床研究を始め, 続けているのか. Ⅰ 臨床研究を始めたきっかけ 私は 2 年間の初期臨床研修期間を終えた後,2008 日本臨床麻酔学会第 37 回大会特別企画 日臨麻会誌 Vol.38 No.7, 831 〜 835, 2018 本邦における臨床研究
臨床研究を通じて麻酔を愉しむ
吉田敬之
* [要旨]臨床医学は臨床研究の結果を根拠に実践されている.臨床研究の実施を通じ,自らの手に よって臨床医学の世界をわずかでも変容させることで得られる興奮や喜びは大きい.“研究”とい うと壮大なテーマを想像する向きがあるかもしれないが,当該分野に熱心な臨床医が抱く疑問に関 する研究であれば,さまつに思えるテーマであっても,その答えを求める臨床医は相当数いるはず であり,意義のあるものになるだろう.また,日頃から研究の種になり得る疑問や工夫の余地を探 しながら麻酔を行うと,より深い観察眼と興味を発揮して症例を管理できる.臨床研究をやらされ るのではなく,自発的に愉しんで行えるマインドセットを身に付けたい. キーワード:臨床研究,クリニカルクエスチョン,区域麻酔,末梢神経ブロックことができた.この期間に,柴田氏のマンツーマン 指導のもと,400 例以上の末梢神経ブロック(うち 胸部傍脊椎ブロックが約 100 例)を経験できた. 同年 7 月に元の施設に戻り,日々の麻酔管理に末 梢神経ブロックを存分に活用していた.さらに,せ っかく身に付けた技術を使って自分にとって新しい 何かをできないかと考え,区域麻酔に関連した臨床 研究を実施することを思い立った.周囲に臨床研究 を行って英文論文を刊行した経験がある者はほとん どいなかったので,まずは臨床研究の概念や勘所に ついて解説した書籍で方法論を独習した1)∼ 3).そし て,臨床研究を行うにあたっては,臨床的に意味の ある疑問(クリニカルクエスチョン)を決めることが 何よりも重要だということを知った. 区域麻酔に関連する疑問はたくさんあったが,そ の中でも持続胸部傍脊椎ブロックの感覚遮断範囲を 規定する要因について調べた報告がまったくなかっ たことに着目した.名古屋大学から帰ってまもなく, 所属施設における肺外科手術の標準的術後鎮痛法 を,持続胸部硬膜外麻酔から持続胸部傍脊椎ブロッ クに変更した.持続胸部硬膜外麻酔では単位時間当 たりに注入される局所麻酔薬量(mg 量)が感覚遮断 範囲を規定することが,複数の報告で明らかになっ ていた4)∼ 6)のに対し,持続胸部傍脊椎ブロックでは 得られる感覚遮断範囲の推移についてすら報告がな かった.すなわち,持続胸部傍脊椎ブロックは,ど のくらいの大きさの創に対応できるか? 遮断範囲 を調節するためにはどうすればよいか? といった ことがわからない状態で,世界中で臨床に用いられ ていたわけである.私が持続胸部傍脊椎ブロックの 遮断範囲に影響すると予測した項目には,局所麻酔 薬の流量,局所麻酔薬の濃度,カテーテル先端の位 置,カテーテルの排出孔の位置,カテーテル挿入前 の傍脊椎腔の液性剥離の程度,硬膜外腔への薬液拡 散の程度があった.所属施設における二重盲検化の 容易さや,持続胸部傍脊椎ブロックでは使用する局 所麻酔薬量が多い方が開胸術後の鎮痛効果が高いと するメタ解析7),持続硬膜外麻酔では局所麻酔薬量 が感覚遮断範囲を規定することを踏まえ,上記項目 の中から局所麻酔薬濃度を介入対象に選び,前向き 二重盲検無作為化比較試験を計画した.対象患者 (patient),介入(intervention),対照(control),転 帰(outcome)の頭文字である PICO を用いて表現す ると,P:持続胸部傍脊椎ブロックで術後鎮痛を行 う肺切除術患者に対して,I:0.5%ロピバカインで 持続胸部傍脊椎ブロックを行うと,C:0.2%ロピバ カインで行った場合に比べて,O:感覚遮断範囲が 広くなる,という仮説を検証する研究である.本研 究では,術後 1,6,24,48 時間のいずれにおいても, 感覚遮断範囲に関して両群間に統計学的有意差は検 出されなかった.一次評価項目である 24 時間後の 感覚遮断皮膚分節数は,両群とも中央値で 4 分節で あった.本研究はいわゆる negative study であった が,下記の点で臨床的意義があると考えている.ま ず,持続胸部傍脊椎ブロックでは 4 分節程度の感覚 遮断範囲を持続的に得られることがわかった.これ は肺外科手術後の鎮痛範囲として必要十分であり, 肺外科手術後の鎮痛手法として持続胸部傍脊椎ブロ ックが適切であることが証明された.次に,局所麻 酔薬濃度は持続胸部傍脊椎ブロックの遮断範囲や鎮 痛効果にあまり影響しない(影響があったとしても 臨床的にはわずかな差にとどまる)ことがわかった. 局所麻酔薬中毒のリスク上昇や薬剤コスト増加を負 ってまで,高濃度の局所麻酔薬を用いる必要はない といえる. 研究の結果を得たら,それを英文論文にまとめて 刊行し,世界中の医療者がその成果にアクセスでき るようにしなければならない.初めての英文論文作 成は些か苦労を伴うものであったが,近年は多くの 論文執筆ハウツー本が出版されており,本稿では詳 細には触れない.論文を書き上げ,まずは Regional Anesthesia and Pain Medicine 誌に投稿したが,結 果はリジェクトであった.続いて投稿した British Journal of Anaesthesia 誌にもリジェクトされた.
そこで,これら 2 誌で査読者から指摘された点につ いて対策を施し,さらに,SNS 上の末梢神経ブロ ック関連グループを介して懇意になった他施設医師 からのアドバイスを参考にして原稿を修正し,An-aesthesia 誌に投稿した.ほどなくして修正なしア クセプトの連絡を受け,晴れて処女論文を刊行する ことができた8). Ⅱ なぜ臨床研究を行うのか 1. 内的要因─疑問を解決する喜び われわれが実践する臨床医学は,臨床研究の結果 を根拠として行われている.臨床業務に従事してい れば誰でもおのずと,まだ答えが定まっていない臨 床上の疑問に遭遇する.そうした疑問に関して臨床 研究を立案し,自ら実行してその果実を得ることが できるのは臨床医だけである.われわれの疑問の解 決,創意工夫を受けて,臨床の判断基準や手法は変 遷するのである.自分自身の手によって臨床医学の 世界をわずかでも変容させることで得られる興奮や 喜びは大きい. 研究 というと壮大なテーマを想像する向きが あるかもしれない.しかし,臨床研究の進め方に関 する書籍を読み解くと,「臨床研究の構成は,単純 であった方が特に臨床研究初心者には実施しやす く,単純であっても臨床的に意味のある研究であれ ば,名の知れた雑誌に載せることができるはずであ る」とある9).実際,私は臨床研究を始める前にイ ンパクトファクターが上位の麻酔科学雑誌における 区域麻酔関連論文を渉猟したが,多くの前向き無作 為化比較試験が単純な仮説について行われているこ とに気づいた.例えば,「腹横筋膜面ブロックは帝 王切開の鎮痛に有効と思われるので,局所麻酔薬を 使って腹横筋膜面ブロックをした群と生理食塩液を 腹横筋膜面に注入した群とで術後の麻薬使用量を比 較した結果,腹横筋膜面ブロックが術後麻薬使用量 を減らすことがわかった」10)といった具合である. こ んな単純な研究でも有名な雑誌に載るのならば,自 分にもできそう と思ったのである.裏を返せば, やはりクリニカルクエスチョンの設定が肝なのだ が,当該分野の臨床にどっぷり漬かっている医師が 抱く疑問に関する研究であれば,一見さまつに思え るテーマであっても,その結果を求める臨床医は相 当数いるはずであり,意味のあるものになるだろう. 私がこれまでに行った研究を例に挙げる.経尿道 的膀胱腫瘍切除術の際にしばしば行われる閉鎖神経 ブロックを超音波ガイド下法でやる場合,遠位アプ ローチでは閉鎖神経の前枝後枝を別々にブロックす る手間がある.一方で,一箇所の局所麻酔薬注入で 閉鎖神経の前枝後枝を同時にブロックできる近位ア プローチでは,超音波ガイド下平行法で針を描出し づらい問題があった11).そこで,近位アプローチで ありながら超音波ガイド下平行法で針を観察しやす い新手法を考案し,評価した12).また,腹横筋膜面 ブロックが下腹部手術の鎮痛に有効なことは知られ ていたが,単回投与では鎮痛効果の持続時間が短い ことや広範囲の鎮痛領域を得るのが難しいことが課 題であった.そこで,腹横筋膜面ブロックで長時間 かつ広範囲の鎮痛を得るために,さまざまな方法を 試行錯誤し,その結果を報告してきた13), 14).最近は, これまで側臥位ないし腹臥位で行うことが一般的で あった近位レベルの超音波ガイド下坐骨神経ブロッ クを仰臥位で行う新手法を考案し,既存法に対する 利点を無作為化比較試験で明らかにした15).これら の臨床研究の結果を学会発表する機会や論文を読ん だ医師とのやり取りは,私と国内外の麻酔科医との つながりを深めるきっかけにもなった. 2. 外的要因─麻酔科医が医師であるための条件 Hirota の報告16)によると,近年,主要英文麻酔科 学雑誌において,日本人麻酔科医が著者である論文 の数が激減している.また,主要英文医学雑誌にお ける日本人著者の割合を,1993 ∼ 1997 年と 2008 ∼ 2011 年とで比較した検討によると,基礎研究分野 においては二つの期間の間に大きな差はなかった が,臨床研究の論文は著しく減少していた.Hirota
おわりに 日頃から研究の種になりそうな疑問や工夫の余地 を探しながら麻酔を行うと,より深い観察眼をもっ て管理に当たれる上,ありふれた症例であっても興 味が尽きることはない.臨床医として臨床を頑張る からこそ,臨床研究を通じて麻酔を一段と愉しむこ とができると筆者は考えている. 参考文献 1) 名郷直樹:クリニカルクエスチョン,臨床研究の ABC. メディカルサイエンス,東京,2009,239-248 2) 上松正朗:英語抄録・口頭発表・論文作成虎の巻─忙 しい若手ドクターのために─.南江堂,東京,2006 3) Körner AM:日本人研究者が間違えやすい英語科学論 文の正しい書き方.瀬野悍二訳編.羊土社,東京,2005 4) Visser WA, Lee RA, Gielen MJ:Factors affecting the distribution of neural blockade by local anesthetics in epidural anesthesia and a comparison of lumbar ver-sus thoracic epidural anesthesia. Anesth Analg 107: 708-721, 2008 5) Dernedde M, Stadler M, Bardiau F, et al.:Continuous epidural infusion of large concentration/small volume versus small concentration/large volume of levobupi-vacaine for postoperative analgesia. Anesth Analg 96: 796-801, 2003 6) Scott DA, Chamley DM, Mooney PH, et al.:Epidural ropivacaine infusion for postoperative analgesia after major lower abdominal surgery - a dose finding study. Anesth Analg 81:982-986, 1995 7) Kotzé A, Scally A, Howell S:Efficacy and safety of different techniques of paravertebral block for analge-sia after thoracotomy:a systematic review and metaregression. Br J Anaesth 103:626-636, 2009 8) Yoshida T, Fujiwara T, Furutani K, et al.:Effects of ropivacaine concentration on the spread of sensory block produced by continuous thoracic paravertebral block:a prospective, randomised, controlled, double-blind study. Anaesthesia 69:231-239, 2014 9) 浅井隆:“よい科学”をしよう!,雑誌編集長が欲しが る !! 医学論文の書き方:どう研究して,どう書くのか?. アトムス,東京,2016,48-53 10) McDonnell JG, Curley G, Carney J, et al.:The analge-sic efficacy of transversus abdominis plane block after cesarean delivery:a randomized controlled trial.
は,「もしわれわれ麻酔科医が研究に取り組まなく なってしまったら,われわれは他科の医師やコメデ ィカル,患者から単なるテクニシャンと見なされ, 究極的には麻酔従事者は医師免許を要さない職業に 成り下がってしまうかもしれない」と警鐘を鳴らし ている.研究マインドを持たない麻酔科医はただの 麻酔屋になってしまうかもしれない,と言い換える こともできるだろう.臨床研究を行って成果を刊行 する経験があってはじめて,麻酔科医が麻酔科医た り, 臨床を頑張っている と認められる時代が来 るのかもしれない. Ⅲ 臨床研究の時間を確保するためには 私は大学院に在籍していたときですら,「臨床研 究をするのに研究日は要らないだろう」と言われた ことがある.理解ある同僚の助けもあり,何とか週 1 回程度の研究日を約 1 年間分確保してもらったが, 学費を納める立場として釈然としない部分があった ことは否めない.また,大学院を卒業した後は研究 日を得たことがない.確かに臨床研究の中で患者に 対して何かしらの介入・評価を行うタイミングは, 通常の診療時間内である場合が多い.しかし,臨床 研究計画書の作成,同意書取得のための詳細な説明, データの解析,論文執筆などのためには,通常診療 のほかに多くの労力を割く必要があり,勤務時間帯 に研究のための時間がなければ,余暇を犠牲にして それに充てざるを得ない.自分の趣味として臨床研 究をやる分には気にならなくても,業務の一環とし ての研究成果を求められるならば 時間外労働 は 耐えられないという向きもあるだろう.研究施設た る大学病院であっても研究日を確保できない原因 が,昨今上昇の一途にある手術室の麻酔科医需要に あることは言うまでもない.常勤医の研究時間捻出 のための方策としては,諸外国や国内一部施設のよ うに麻酔看護師制度を導入すること17),フリーラン ス麻酔科医に業務の一部を外注することを,私案と して挙げる.
Anesth Analg 106:186-191, 2008 11) Yoshida T, Nakamoto T, Kamibayashi T:Ultrasound-Guided Obturator Nerve Block:A Focused Review on Anatomy and Updated Techniques. Biomed Res Int 2017:7023750, 2017 12) Yoshida T, Onishi T, Furutani K, et al.:A new ultra-sound-guided pubic approach for proximal obturator nerve block:clinical study and cadaver evaluation. Anaesthesia 71:291-297, 2016 13) Yoshida T, Furutani K, Watanabe Y, et al.:Analgesic efficacy of bilateral continuous transversus abdominis plane blocks using an oblique subcostal approach in patients undergoing laparotomy for gynaecological cancer:a prospective, randomized, triple-blind, place-bo-controlled study. Br J Anaesth 117:812-820, 2016 14) Yoshida T, Nakamoto T:Practical tips for placement of transversus abdominis plane catheter using oblique subcostal approach. Asian J Anesthesiol 55:50-51, 2017
15) Yoshida T, Nakamoto T, Hashimoto C, et al.:An Ultrasound-Guided Lateral Approach for Proximal Sciatic Nerve Block:A Randomized Comparison With the Anterior Approach and a Cadaveric Evaluation. Reg Anesth Pain Med 43:712-719, 2018 16) Hirota K:A worrying decline in anesthesia journal publications from Japan. J Anesth 27:323-324, 2013 17) 藤原祥裕:愛知医科大学病院における周術期診療看護 師の現状と問題点.日本臨床麻酔学会誌 37:844-851, 2017
Clinical Research Makes Anesthesia More Fun! Takayuki YOSHIDA Department of Anesthesiology, Kansai Medical University Hospital The practice of clinical medicine is based on the results of clinical trials. The ability to alter clinical practice based on our own clinical research is quite exciting. Clinical research themes need not be “epic”, but instead can be simple. A clinical question raised by an industrious clinician should also be of importance to other clinicians, even if the question of significance seems trifling. In addition, ap-proaching the day-to-day performance of anesthesia with the aim of finding a clinical question that is worthy of investigation for superior patient management can make usual anesthesia management more interesting and fascinating. I believe it is important to be of a mind-set to conduct clinical trials voluntarily and willingly, and not just on orders from others. Key Words : Clinical research, Clinical question, Regional anesthesia, Peripheral nerve block The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia Vol.38 No.7, 2018