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震災復興コミュニティービジネスの実践教育

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに

 本稿では,産学連携での「震災復興コミュニティー ビジネスの実践教育」による,われわれ(水野勝之・ 井草剛)の被災地への震災復興活動を紹介する。具体 的には,東日本大震災後,千葉県の浦安市で,もう一 つは千代田区の神田,この二ヶ所での活動を通しての コミュニティービジネスの実践教育を紹介する。本稿 は,かつて経済教育学会で発表した,千代田区で空き 店舗事業を群馬県嬬恋村と連携した経済モデルの理論 を応用し,震災復興に当てはめたものである。  さらに,本稿の目的はもう一つある。木村(2009) は,産学連携が盛んなドイツにおける「産学連携の活 性化」を,その産学連携組織の制度設計の特徴を洗い 出すことで試みた。事例としては,ドイツ人工知能研 究所とフラウンホーファー協会という組織の分析であ る。その結果,1)組織への大学教授の深い関与とそ れを支える制度,2)学生のキャリアアップの場とし て魅力ある教育システムと研究システムの確立,3) 財政面で競争と支援が融和,4)知財戦略などの要因 が抽出された。これらの要因をわれわれの産学連携で の「震災復興コミュニティービジネスの実践教育」に 導入し,今後の我が国の経済教育に具体的に導入が可 能かどうか,検討していく。

Ⅱ.「東日本大震災に伴うボランティア実

習」の設置

 浦安では,明治大学でボランティアの活動拠点を設 け,震災復興を支援しようということになった。浦安 では震災の影響を受け,大きな液状化が起こり多くの 市民が被災した。東日本大震災で最も大きな被害を受 けたのは,岩手県,宮城県,福島県の東北 3 県である。 そのため,千葉県浦安市の被災状況について報じられ ることはほとんどない。しかし,これは震災被害の規 模を意味しているわけではない。東京湾岸でもっとも 大きな被害を受けた地域は,コスモ石油の石油精製コ ンビナートが炎上した市原市と浦安市である。元町地 区(内陸部・東京メトロ東西線浦安駅周辺)を除く埋 立地域のいたるところが液状化し,水分を含んだ大量 の土砂が地表に噴出し,多くの道路に亀裂が走ったほ か,木造住宅が傾くなど大きな被害が発生している。1) そこにボランティアの活動拠点を設け,被災からの復 興をサポートしようということになった。活動時間は, 毎週,月・木・金・土・日の 10 時から 17 時まで。 2011 年 6 月 5 日にオープンして,常駐スタッフは 1 名 (明治大学から NPO 法人に委託をした)。この活動拠 点の機能は,学生ボランティア活動の実践,浦安や東 北被災地の情報収集および共同活動の企画検討を行う ことであり,さらに全国各地からの東北支援のハブ機 能を持たせる。ここに,ボランティアの学生を集めて 活動し,ここを 1 つの校舎とみなし,授業の受け皿と して,「講義活動」ができるようにした。これには, 2011 年 4 月 1 日付で文部科学省から東北や被災地を支 援するボランティアに関し,単位を学生に付与するよ う通知が来た経過がある。明治大学の場合,4 月から の授業を 5 月から開始することに決まっていたので, 1 ヵ月の間に諸手続きを済ませ,新たに学部間共通科 目に「東日本大震災に伴うボランティア実習」という ものを設けた。もちろん教務部委員会,教授会と,新 規講座設置の諸手続きを本来ならば順番にやらないと いけないところだったが,「被災地を救う」という使 命のもと,事後報告・事後了承という形で,この科目 を設置した。また,商学部ではフィールドワークに対 し,単位を与える専門科目があり,その分類に位置づ けられた。単位認定は,60 時間以上の座学と実習を 条件とした。まず,単にボランティア活動をするので はなくて,ボランティア活動のあり方,ボランティア 活動の注意点を座学で学ぶ。そして,実習活動,実習 活動の報告,実習活動のレポートを提出する。また,

震災復興コミュニティー

ビジネスの実践教育

The Journal of Economic Education No.32, September, 2013

Practical Education in Community Business for Earthquake Disaster Recovery

Mizuno, Katsushi Igusa, Go

水野 勝之(明治大学)

井草 剛(明治大学)

The Japan Society for Economic Education

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82 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 ボランティア実践活動に関しても 2 つのステップを設 け,第 1 ステップで 16 時間,第 2 ステップで 24 時間 ということにした。

Ⅲ.第 1 ステップ・第 2 ステップ

 まず,第 1 ステップで浦安の被災調査を行った。な ぜ,浦安の住人を対象とした調査を行ったかというと, 突然,東北の被災地に行っても,ボランティアとして 足手まといになってしまう可能性があったからである。 実際,授業外で明治大学の学生も東北の被災地に行き, 「よく来てくれたね。でも,まだやることがわからな いから,気持ちだけ受け取っておくよ」と言われて 帰ってきた学生も多くいた。やはり,東北の被災地の 事情,人の気持ちが分かるボランティアを育成して, 明治大学としては活動してもらう必要がある。そのた めにはまず,被災地のことを理解できる学生を育てな ければいけない。よって,始めに被災地である「浦 安」の調査をさせた。  調査後に,「販売ボランティア」という活動を設け, 先ほどの拠点および,隣接するスーパーの空きスペー スを借りこの活動を行った(第 1 ステップ:16 時間)。 その上位に位置する第 2 ステップでは,浦安での活動 を継続もしくは,東北の被災地での救援ボランティア 活動を行うことと定め,第 2 ステップ終了後,活動の プレゼン及びレポートの提出を求めた。  具体的に言えば,この一連の活動は,われわれ(専 門,水野:計量経済学,井草:労働経済学)がこの拠 点の担当ということがあり,経済に関連した活動が中 心となった。「被災地サポートマルシェ」と称し,毎 週,土・日に拠点の隣接するスーパーの入り口脇で東 北被災地の物品を販売した。浦安も被災地だが,住民 一人当たりの所得は日本の 1,2 位を争うような街で ある。よって,お金を豊かなところから,被災し昏迷 したところにまわす仕組みを作るということを学生に 学ばせたく,東北被災地の物品を販売した(当然,店 舗賃料収入など,被災地浦安にもお金はおちる)。

Ⅳ.売り上げ

 「被災地サポートマルシェ」は,学部間共通科目 「東日本大震災に伴うボランティア実習」での実践の 場としていたが,ゼミ活動の一環として参加する学生 もいれば,明治大学のボランティアセンターを通して 参加する学生もいた。さらに,地元の中学校から,協 力の申し出を受け,中学生も参加して,まさに中学生 の経済教育という意味合いも持つことができた。また, 大学の父母会(父母の数は,明治大学の場合 3 万人) の後援も得ることができ,被災地の物品購入に尽力し てくれた。  「サポートマルシェ」の売り上げの推移を見ると, 浦安の人たちの被災に対する心の動きが見えてきた。 まず,オープンしたての 2011 年 6 月には,20 日強で 35 万 4 千円の売り上げがあり,7 月から 10 月も売り上 げは約 30 万円を超えていた。しかし,11 月から売り 上げが減少し,12 月は土・日を加えて販売活動を 行っても,6 万 3 千円の売り上げになった。それでも, 2012 年 2 月・3 月は持ち直し,4 月から 6 月は 10 万円 を超える売り上げだったが,7 月以降にまた売り上げ が落ち込んだ。7 月には 7 万円。そして,8 月には 4 万 4 千円ということになった。2011 年 6 月には一日に 3 万円から 4 万円の売り上げがあったものが,1 ヵ月の 売り上げと同じということになってしまった。これは まさに人の気持ちが現れているということである。つ まり,「風化」が進んでいるということである。学生 たちは,販売ボランティア活動をしながら,それを肌 で感じる。現実に分かる。理論ではなく,社会情勢と いうものを自分の肌で感じて,自分の商学の理論を構 築し,それで現状を改善していくためにはどうしたら よいのか,自分が東北をサポートするためにはどうす れば良いか,実践するサービス・ラーニングの場に なったと思う。なお,これまでの利益はトータルで純 利益は 30 万円,ここから寄付を行ったり,その後の 活動に利用している。  ちなみに,2012 年度は「サポートマルシェ」の販 売額が 340 万円で,さらに福島大学および福島県の大 学と連携し,八重洲の地下街で販売活動を行っている。 そして,売り上げが 1 年間で 500 数万円,そして 2013 年度は売り上げを 500 万円と目標を立て,新しい商学 の理論の構築に苦戦している最中である。しかし,わ れわれの数多くの補助金の獲得や新聞の取材などから も分かるように,経済教育の発展と被災地支援に大き な成果をもたらしている。

Ⅴ.結論

 木村(2009)の仮説を「震災復興コミュニティービ ジネスの実践教育」に大いに導入できたと思われる。 具体的には,「1)組織への大学教授の深い関与とそれ を支える制度」に関しては,学部間共通科目「東日本

The Japan Society for Economic Education

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83 大震災に伴うボランティア実習」の設置により,活動 拠点に大学教授の深い関与を可能にさせた。「2)学生 のキャリアアップの場として魅力ある教育システムと 研究システムの確立」に関しては,「販売ボランティ ア」という活動を通して,人材育成及び,商学理論の 構築という研究的側面も垣間見られる。「3)財政面で 競争と支援が融和」に関しては,補助金という競争的 資金の獲得,活用から達成している。最後に,「4)知 財戦略」では「明治大学浦安拠点」を戦略的に活用す ることで達成できたと思う。これにより,上述したよ うな大きな成果を収めることができた。  つまり,明治大学が日本の大学の代表性を規模・知 名度などから有していることから,今後の我が国の経 済教育に木村(2009)仮説が導入可能なことがわかる。 他の大学が続いて導入することにより,より一層サー ビス・ラーニングの発展に期待したいと思う。 註 1) 東洋経済オンライン『東京からもっとも近い被災地・浦 安  現 地 ル ポ【 上 】  産 業 編 』( ホ ー ム ペ ー ジ http:// toyokeizai.net/articles/-/6196,2013 年 3 月 12 日 ア ク セ ス) 参考文献 [1] 木村千恵子 2009「ドイツスタイルの産学連携に関する 考察」『産学連携学』6(2),15-24,産学連携学会

The Japan Society for Economic Education

参照

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